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057 ガバリアマルス王国の最期

おはようございます。(+予約日時を間違えて1/1になっていました(汗))

今日から12月ですね。今年もあと少しかー早いものですねー。


今回は、主人公ストーリーから離れていますが、宜しければ読んで下さい。

 魔龍帝ヴァルグドレッドの襲撃により、ガバリアマルス王国の兵士はほぼ全滅させられてしまった。


 最前線で使用された闇魔法『混沌次元(カオス・ディメンション)』から如何にか逃げ延びる事に成功した勇者ナオヒト・アリマと勇者ショウタ・ツヅラ、それに剣聖ローザリンデ、聖騎士イグナーツの四人は、本陣に貼られているテントを幾つかクッション代わりに倒壊させながら、着地する事に成功した。


 本陣で待機していたガリス将軍は、四人から事情を聞き、速やかに残存勢力を束ね、魔族迎撃の準備に動いた。


「これを、陛下に。必ず届けるのだぞっ」


 宮廷魔法士の一人に使い魔を召喚させて、状況が書かれた文を授ける。鳥型の使い魔は、すぐさま飛び立ち、高速で王都に向かった。


「どのくらいで届く?」


 陛下に知らせるのにどれだけ有するのか確認する。なぜそれが必要なのかと言うと、使い魔は召喚した主人が死亡した場合、使い魔は消えてしまう。つまり重要の情報が届かなくなると言う事だ。


「手持ちで最も早い使い魔を出しました。恐らく一刻あれば辿り着くかと・・・」


 馬の脚・・・馬車を牽いての速度にはなるが、それでも十日掛かるところを二時間で到着するのだから、どれだけ早いか理解できるだろう。ただ、今回に限って言えば、二時間は非常に長い。


 何せ、前線が壊滅するのに要した時間よりも長いのだ。今回はその一割にも満たない人数で相手をしなければならない。勝てる見込みが無くなった。


 こんな時は勇者たちが・・・と言いたいところだが、彼らもかなり疲弊している上に、目の前で共に戦ってきた仲間を全て失ったのだ。他人を慰めている余裕すらない。


「お前は馬を使って、王都に向かえ」


 使い魔を召喚した魔法士は驚愕の表情を示す。それはつまり仲間を見捨てて逃げろと言われている様な物だ。だが、自分が生き残らなければ、文が王都に届かなくなる事も事実。


 悔しい気持ちを面に出さない様に頷く魔法士だったが、そんな事はガリス将軍も分かっているので、最後に小声で「すまない」と一言だけ言って、テントを出た。


「皆ッ!!聞いてくれ。本隊が全滅した以上、我々に残された時間は少ない。この場で逃げてくれても文句は言わない。だが、だがなッ!!お前たちが此処で魔族の進行を足止めできればその分王都にいる人間が避難できる。家族や恋人、子供たちの命が救われる時間が少しでも稼げるのだッ!!だからどうか、皆最後まで共に戦ってくれ」


 ガリス将軍の演説に残る兵士たちの士気は一気に高まった。演説前は絶望に染まっていた表情が・・・嘘のように。この場に居る者にも愛する者たちがおり、自分の命でその者が生き残れる可能性が僅かでも残っているのであれば、それに掛けない人物はいない。


「ガリス将軍。例の武器を」


 勇者ナオヒト・アリマは、ガリス将軍が保管している亡き戦友、勇者タスク・ホンジョウが所持していた聖剣クリスタルライザーを受け取りに来た。ガリス将軍では使用する事は出来ず、また、彼の功績を称えるために保管していた物だが、出し惜しみをしていられない状況の為、借りる事にした。きっと返す事は出来ないだろうが・・・と胸の中で、勇者タスクに詫びを入れる。


 力強い瞳に静かに闘志の炎を燃やし、本陣の外へ向かう。既に魔族の軍勢がすぐそこまで差し迫っていたのだ。


 最前衛には、先の戦いで生き残った勇者ショウタと剣聖ローザリンデ、聖騎士イグナーツが待機していた。身につける装備は、かなりボロボロになっている上、本人たちも頭部や手首などに布でグルグル巻きにして処置をした後があった。


 距離は僅か百メートルの距離になると魔物や魔族が此方に向けて走り始めた。


 此方も剣などを抜き構える。目の前にするとその数の差に絶望しかないが、彼らは命を犠牲にしても王国に残す愛する者を守るために戦おうとしている。


(タスク)・・・すまない、力を貸してくれッ)


 勇者ナオヒトは、右手に炎の特性を持つ聖剣シャインハート、左手には氷の特性を持つ聖剣クリスタルライザーを構えた。


「此処から先、一歩も通すなーッ!!我に続け―ッ!!」


 ガリス将軍の言葉で士気は高かったが、最後の彼の指示で最高潮にまで達した。


 やはり突出した力を持つ勇者二人が、迫り来る敵に一目散に攻撃した。


「『レイクスター』」


 刺突剣の突進系の技の一つで、風の如く駆け抜け、敵の急所を一突きする。代表的な技でもあるが、それに加えて使用するのは、勇者ショウタ。並外れた身体能力は風ではなく雷の如くと称した方が良いかもしれない速さで敵陣を貫いた。


「はああ、『ヴォルカニックブレイド』『アイシクルブレイド』」


 勇者ナオヒトも二つの聖剣を巧みに使い、それぞれ五連撃の攻撃を繰り出す。炎と氷の舞踏は、魅了されるように舞いリザードマンや下級魔族を斬り伏せた。


 先行する勇者二人に続く剣聖と聖騎士、将軍に兵士、騎士たち。激しく飛び散る火花に血飛沫、声にならない叫びや雄叫びを上げながら激戦は繰り広げられるが、魔龍帝ヴァルグドレッドを前にした兵士や騎士は、瞬殺されていた。


「怯むなーーーッ!!いけぇー」


 仲間の屍を越え、次々に攻める兵士たち。鋭い爪で攻撃すれば数人の兵士がバラバラになるが、それでも突撃の手を緩めない。


「ウォルターッ!!」


「おぅ。くたばりやがれーッ!!」


 数少ない冒険者も背後から切り込む。・・・・だが、魔龍帝の竜鱗を突破できず、止まっている敵など雑魚以下と言わんばかりに、尾でなぎ倒した。


 ウォルターと呼ばれた冒険者は、全身の骨が砕け遥か後方に吹き飛ばされる。辛うじて絶命は免れたが、虫の息となった彼は、そのまま魔物の集団の中に放り込まれた事で、集中攻撃を受けて結局の所、苦痛を味わいながら絶命した。


 勇者たちが奮闘したおかげもあり、本陣襲撃から約一刻以上持ちこたえる事が出来た。だが、本陣への被害は甚大で、残存兵力は三十人を切っている。


 ガリス将軍及び聖騎士イグナーツは戦死。剣聖ローザリンデは深手の傷を負い騎士たちに守られながら戦っている。勇者ナオヒトと勇者ショウタは、身体中傷だらけになりながらも四肢は健在しており、戦意も残って今も戦っている。


 ガリス将軍の指示で戦線を離脱した宮廷魔法士は、残りの力を全て駆ける馬に付与したり、風属性魔法で追い風を作ったり、正面から吹く風の抵抗を無くしたりして、走っていた。


 召喚された使い魔も最短距離を最高速で飛行しているため、王都まであと四半刻と言う所に来ていた。


「はぁはぁ、祥太?最後の悪あがきをしないか?」


「・・・ぅん、そう・・・だね・・・」


 息を整える事も出来ず、体力も限界に近づいているのが分かる二人。最後の悪あがきと称しているが、これまでの戦いも全力で行っていた。余力なんてものは一切ない。


 つまり・・・百パーセントの力を百四十パーセントにするだけの事。


 数字上ではたかが四十上がっただけだが、十から五十に上げるのとは訳が違う。


 最大限出している力を、限界を超えて出すと言う事だ。まあ付け加えるなら、二人は既に何度か限界突破をしていて、限界突破も打ち止め状態なのだ。だから、数字上で示すなら、百ではなく三百ぐらいの力で戦っている。


(タスク)だけが唯一使えた技・・・俺たちも今使わなくて何時使うんだッ!!)


 二人の勇者は、その場で最大にまで高めている気迫や集中力を更に高め始める。大気は振動し、大地は(うごめ)き始め、勇者たちを中心にひび割れ始めた。


「「はああああああああああ」」


 二人の勇者が大声で気合を入れ始めて、暫くすると彼らの放つ雰囲気(オーラ)に変化が現れる。


 最高潮になった瞬間、その身に纏う雰囲気(オーラ)は、全くの別物となった。


 勇者の中でも限られた者が使用できる極意。勇者でなくとも使用できるが、その場合勇者よりも使用できる人物は限定されてしまう。神に愛された人物か恩恵を授かっている者、若しくは勇者の血を引いているなどの条件が加わる。


 そして、勇者ナオヒトと勇者ショウタが使用した極意『神衣(かむい)(まと)い』。読んで字の如く、神の(ころも)を纏う様なその技は、身体強化だけでなく、反応速度や防御力、魔法の威力など様々な力を爆発的に上げる力を有している。身体強化魔法系統の最上級魔法と呼んでも良い技だ。


 まあ、魔法なのか技なのかと言われれば、魔法に近いが魔法ではない力だ。


 『神衣(かむい)(まと)い』を身に纏った事で、二人の持つ聖剣にも変化がみられる。言葉で言い表すのであれば、聖剣の持つ力が溢れている・・・暴走状態に近い現象だろう。感覚的、視覚的にだが一回りも二回りも大きく感じさせられる。実際には前と大きさは変わらないのだが、聖剣の発する存在感がそう認識させたのだ。


「ぐっ・・・・ま、纏えた・・・」


「はぁはぁ・・・長くは・・・保てない・・か」


 『神衣(かむい)(まと)い』は、膨大な力を得る代償に、異常なまでの体力と精神力を消耗する。勇者タスク・ホンジョウは、この極意を使用できていたが、それでも一刻も持たない。それに対して二人は、極意を使用したのは今回が初めて、ぶっつけ本番も良い所ではあるが、万全の状態でも四半刻は持たなかっただろうものを、激戦を続けてきた身体だ。どれだけの時間纏っていられるのか分からない。


 変な汗が頬を伝って流れているのが分かる。これは、纏う前からなのか纏ってからなのか判断できないが、どの道それ程時間が残されていないのは明白。


「いくぞッ!!―――セイッ!――――ハッ!」


 これまでとは全く別次元の速さで、間合いを詰め聖剣シャインハートと聖剣クリスタルライザーを振るう。検圧に耐えきれない魔物は離れていたのにも拘らず、後方へ吹き飛び耐えれた魔物は防御の姿勢でその場から少し後方へ移動させられた。


 最初は受け止めようとした魔龍帝ヴァルグドレッドも、野性的勘から危機感を覚え、繰り出す斬撃を寸前で躱す。


 此処に来て初めて見せる行動に、攻めきれると判断した勇者ナオヒトは、聖剣シャインハートの暴走気味の力を解放する。


「目覚めろッ!!シャインハートッ!!『(しん)紅蓮剣(ぐれんけん)』」


 深紅に燃え上がる聖剣シャインハートを全力で兜割りの要領で振るった。剣先から燃え出る炎は、周囲を焼き尽くしそうな熱を帯びており、近くに居る魔物を寄せ付けなかった。


 剣技を自慢の強固な竜鱗に守られた腕で防ごうとするが、剣に触れた瞬間嫌な感じを捕え、本能のまま腕で剣の軌道を変える弾き返す。


 軌道を逸らされた事で、空を切る形になるが、放たれた炎の斬撃がその軌道の先にいた魔物を焼き尽くす。


(僅カデモ反応ガ遅レテイタラ、腕ガ吹キ飛ンデイタカッ!!)


 自慢の竜鱗が熱で溶かされ、僅かに切られた傷もあった。赤い血が、腕から滴るのを見て魔龍帝ヴァルグドレッドは、強者との戦闘に心を躍らせる。


「力を示せッ!!クリスタルライザーッ!!『(しん)凍月斬(とうげつざん)』」


 勇者タスクが使用していた聖剣。そして、これまで彼のみが使用していた『神衣(かむい)(まと)い』からの『(しん)凍月斬(とうげつざん)』・・・それを勇者ナオヒトが代わりに使う。シャインハートとは対照的の氷の能力。


 先程までの灼熱の温度が、今度は絶対零度の温度にまで急激に差がった。周辺に立ち込める冷気が、周囲の魔物たちの動きを鈍らせる。


 横二連撃の技『(しん)凍月斬(とうげつざん)』で、再度攻撃を繰り出す。


 上空に飛び上がった魔龍帝ヴァルグドレッド。大きく翼を広げると周囲の魔力を根こそぎ自身に取り込む。


 竜人族が使うとされる種族の固有魔法『(ドラゴン)咆哮(ロア)』。その発展型にして最終形態の一つ『魔龍帝(カオスエンペラー)咆哮(ロア)』。使用者を中心に球体状へと強い波動と衝撃波を生む。波動と衝撃波が同じように思うかもしれないが、此処で言う波動は精神的なダメージ、衝撃波は肉体的ダメージを示す。


 波動で、敵の戦意喪失や気絶などをさせる。これが弱い相手・・・冒険者ランクで示すなら(ディー)ランク冒険者であれば、そのまま絶命させてしまう様な強力な物。衝撃波も全身の骨が砕ける様な威力を誇っており、一説には城も壊滅させるほどの衝撃波だとか・・・。それはもう衝撃波と呼んで良いのか、分からないが・・・。


 絶対零度の斬撃が魔龍帝の放つ衝撃波とぶつかり、激しい技と技の衝突を(もたら)す。


「くっ!!」


 やや、勇者ナオヒトが押され気味ではあった。でも如何にか耐えきっている。逆サイドから好機(チャンス)と判断した勇者ショウタは、聖騎士イグナーツが使用していた光魔剣ルインを拾い二本の剣を構える。


「突風よ、吹き荒れろッ!!『(しん)風穿孔(ふうせんこう)』」


 聖剣フロッティの剣先から渦を巻く様に放たれた技、その姿はさながら巨大な竜巻の様に感じる。


 『(しん)風穿孔(ふうせんこう)』もまた、魔龍帝の放つ『魔龍帝(カオスエンペラー)咆哮(ロア)』の衝撃波と正面衝突した。


 全てを切り刻む竜巻と絶対零度の斬撃、双方の攻撃と真っ向勝負する超広範囲技。


 他者がこの姿を目撃したらこの世の終わりとも思えるその光景に遂に力の均衡が崩れる。


「舐メルナッ!!」


 第二波の衝撃波を放ったことで、勇者たちの技が押し負け砕け散る。


「なッ!!」


「クソッ!!」


 勇者二人は、その卓越した身体能力ですぐさま後方へと下がるが、衝撃波の方が早く。勇者たちは、その衝撃波に飲まれて吹き飛ばされた。


 かなり後方まで吹き飛ばされた勇者たちだが、如何にか態勢を維持したまま地面に着地出来た。飲まれた瞬間に、ナオヒトは聖剣シャインハートを、ショウタは光魔剣ルインで身を守り、最小限のダメージで事なきを得ていた。











 勇者たちが激闘を繰り広げている間、撤退した宮廷魔法士は、全力で馬を走らせていた。道中何度もツインテールウルフなどの獣に襲われたが、如何にか掻い潜り、遠く離れた使い魔に魔法を使用する。使い魔に魔法を掛けられる種類は決まっているが、熟練の者であればその種類も増える。今は速度増強(スピードブースト)の付与魔法を掛けた。


 度々重ね掛けする事で、速度は徐々にではあるが上がり、王都の直ぐ近くまで辿り着いていた。


 ガバリアマルス王国の王都にある王城でも、動きはあった。


 魔族と戦闘を行っている東の空の雲行きが悪くなっており、時折感じ取れる威圧が何かが起きていると察知させたのだ。


 国王陛下は直ぐに、王城を守る兵士たちを集めて守りを固める指示を出す。それと同時に自身の家族を玉座に呼んだ。


 現れたのは、二人の妻、第一王妃と第二王妃。そして、第一王妃との間に生まれた第二王子。第二王妃との間に生まれた第一王女と第二王妃に抱きかかえられている第二王女の姿。


 第一王子は、指揮能力が高く、剣の才もあり前線に出て皆をまとめていたが、半年前の戦闘で命を落としている。第二王子も今年、成人したばかりで国が国の為、婚約者もいない。兄とは違い頭脳面は秀でていたが、剣などの武術には縁がなかった。


 第一王女は今年十一歳になり、隣国の王子と婚約していたが、その国も先の戦いで滅んでしまっている。婚約者だった王子も国と共に亡くなった。第二王女は去年の冬に生まれたばかりで、まだ首が如何にか座ったばかりの状態。


 呼び出された家族は、何かあったのかと不安になっている。


「前線の雲行きが怪しい。そして、これは直観であるが嫌な予感がする」


 国王陛下の予感は、高確率で当たる事は皆周知している事で、その言葉を聞きどよめきが走る。当然、この場には家族以外に大臣や宮廷魔法士、兵士をまとめる隊長格が居るが、皆同じ様な表情を示していた。


「陛下ッ!!勇者様たちが負けるとッ!!」


 兵士の一人が声を荒げる。それもそのはず、彼は聖騎士イグナーツの息子。最強の騎士の称号を持つ父親が負けるなど考えたくないのだ。


 だが、発言の許可を得ていない一兵士の行いに対し、内務大臣は叱責を飛ばす。幾ら聖騎士の息子とはいえ彼は、ただの兵士。発言の許可を得て話さなければならない立ち位置にいながらそれを行わなかったのだから。無礼者として、牢に閉じ込められても文句は言えない。


 しかし、国王陛下はそれをしない。それが、今最優先に行わなければならない事ではないのだから・・・。


「構わぬ。今は・・・・ん?」


 話をしている最中に玉座の間が許可なく開かれた。


「し、失礼しますッ!!最前線にいる本隊から文が・・・」


 素早く、兵士から文を受け取った宰相が、内容を確認する。読み続ける宰相の顔が青白くなっていく。文を持つ手も震え始めていた。


「へ、陛下」


 内容は決して口にしないが、その態度を見て良い報告ではない事を理解した国王陛下は、覚悟を決めてその文を受け取り、読み始める。


「なっ!!・・・よもや此処までとは・・・」


 読み終えた国王陛下も宰相同様の顔色をしていた。ただし、宰相とは違い、何処か悲しい表情も表している。重苦しい空気の中、宰相ではなく国王陛下自らが、文に書かれた内容を簡潔に説明し始めた。


「皆の者、心して聞いてくれ・・・最前線の部隊及び本隊が壊滅。生き残りは僅か・・・生き残った者で時間を稼ぐそうじゃ・・・」


 騒めき始める玉座の間。それを咎める者は誰もいない。更に国王陛下の話は続く。


「前線に十二魔将が一人、魔龍帝ヴァルグドレッドの姿も確認されたとある。敵の数は数十万以上・・・如何やらこの戦は人族の敗北・・・だな」


 重い空気がより一層重くなる。


「陛下如何なさいますか?」


 宰相の言葉に騒めいていた者が静かになる。敗北が決まった戦争。後は最後の一人になるまで戦って蹂躙されるか。武器を捨て降参するか。逃げるかの選択肢しかない。恐らくどの選択肢を選んでも死を免れられない。辛うじて逃げた場合は、何割かの生存率が上がるだけだが、降参は間違いなく蹂躙される。


 暫く考え込む国王陛下。その時、此処まで感じられるほどの強い存在感と共に微弱ではあるが衝撃波が王都を襲う。二度に渡る衝撃波。植木鉢がガタガタと揺れる程度ではあるが・・・それが何を示すのか玉座の間に居る者は直ぐに理解した。


 生き残りの者が命を掛けて戦っている。その事が分かると、国王陛下は覚悟を決めた。


「国民の避難を呼びかけるのだ。王城に残る兵士や騎士は全て、王城前広場にて待機。敵を迎え撃つ。指揮は儂自ら取る。皆の者、準備せいッ!!」


「「「「ハッ」」」」


 その場にいた上級貴族や大臣、兵士たちは慌ただしく行動を開始する。


 その頃、文を届けた使い魔が忽然と姿を消していた事に誰も気が付かず、戦闘の準備を着々と進めていた。


「悪いが、イスティとアルマリーアを呼んでくれるか?」


 玉座に座る国王陛下が、近くで準備をしていた宰相に声を掛ける。イスティとアルマリーアは、ガバリアマルス王国が誇る転移魔法が使える宮廷魔法士だ。彼女たちは、切り札とも呼ばれる存在で、主に王族を緊急避難させるのが仕事。


「あなた・・・もしかして・・・・ッ!!わかりました」


 第一王妃は、何かを思う所があった様だが、その眼差しを見て、決心した。第二王妃も声は出さずとも第一王妃と同じ思いを感じ取った。


 イスティとアルマリーアが、転移魔法を使える事を知らない第二王子と第一王女は、何のことか分からず不思議そうに見ていた。


 暫くすると、イスティとアルマリーアが玉座の間にやってくる。


「陛下、私たちに御用との事で、何なりと」


 何故、自分たちが呼ばれたのか理解している二人の宮廷魔法士。分かっていたからこそ、フル装備で玉座の間にやって来たのだ。


「二人に尋ねるが、あの魔法でどこまで飛べる?」


 国王陛下の考えは予想通り転移魔法についてだ。そして、それは今置かれている現状を考えると最小限の者たちを転移させるという意味。数名を近くに転移させるではなく、二人程の人を長距離転移させると事だろう。


「人数によりますが、魔法使用者が飛ばない強制執行を使えば、隣国の都心部ぐらいであれば行けるかと、ただしそれぞれ一人が限度です」


「加えて、魔力量が不足し何処に行くか分かりませんので、ありったけの魔石があるのでしたら、座標を大まかに決め、更に遠くへ行く事も可能かと思います」


 アルマリーアの言う強制執行は、相手のみを転移させる魔法で、使用者と共に転移する魔法と異なりかなり精密な魔力制御(マナコントロール)が必要となる。しかも通常よりも魔力消費量が激しい。


 単独での転移で行ける先を仮に十キロメートルとすると、二人ならば五キロメートルになる。しかし、同行者だけを転移させるとなれば七キロメートルを少し超えるぐらいだ。ランダムで良いなら八キロメートルはギリギリ行けるかどうか。


 飛距離を簡単に示したから距離が少ないと感じるかもしれないが、これが百倍の数字の差になれば差も良く理解できるだろう。


 まあ、そんな長距離を転移できるわけでもないが、出来て精々五十倍程度だろう。


「そうか、三人の場合は何処まで行けそうだ?魔石をすべて使って構わない」


 流石に此処までの会話を聞いて第二王子と第一王女は、国王陛下と宮廷魔法士の会話の意味を理解していた。即ち、第二王子、第一王女、第二王女を国外へ逃がす算段だと言う事に。


「三人ですか・・・そうですね・・・魔石の量にもよりますが、座標を多少定めなければ、エクシエント共和国・・・いえ、ぎりぎりクアント小国とエクシエント共和国の境目ぐらいかと」


 エクシエント共和国は、ローア大陸の中では中間ぐらいに国力と領土を保有する国。ガバリアマルス王国の南に位置するクアント小国、その南にエクシエント共和国があり、さらに南下すればアバルトリア帝国とアルデレール王国がある。


 しかし、距離で示すなら数千キロメートル以上離れている上、アバルトリア帝国とエクシエント共和国の国境付近には死の森と呼ばれる食虫植物の巣窟になっている場所がある。加えてアバルトリア帝国とアルデレール王国の境目にもマウント山脈があったりする。


 国と国の境目は大体、そう言った特殊な危険地帯が存在していたりする。中には国内の土地に存在するケースもあるが・・・。


 クアント小国の端までしか飛べない事に落胆する。クアント小国は文字通り、領土が少ない小国。しかも横に細長い国でもあるため、北から南までの距離は僅か二百キロメートルあるかどうかだ。


 すなわち、逃がすにしては些か不安が残る距離でもあった。


 高望みをするのならば、勇者を保有するアルデレール王国やローア大陸における大国と呼ばれる国の近くに逃げ延びてほしいと考えていた。


「父上ッ!!私はこの場に残ります。兄上の仇を私が・・・」


 第二王子は、逃げの選択を選ぼうとはしなかった。既に成人しているため、逃げるか残るかは本人が決める事。しかし、王太子であった第一王子は亡くなり、此処で第二王子も命を失えば、国王陛下と第一王妃の血筋が途絶えてしまう。


「ならぬ。お前は生きよっ!!生きて、この国を必ず再建するのだッ!!」


 怒鳴る国王陛下。これ程までに感情的になる事など少ない陛下が、こうなるのも無理はないと理解する宰相たち。第二王子もその意図を理解したのか素直に頷くだけだった。


 ッ!!


 魔力を持つ者や外に警備で出ている兵士にのみ感知で来たそれが、ガバリアマルス王国の王都ガバリスに猛威を振るう。


 突如として襲った禍々しい黒みがかった紫色の極光。遥か東の大地から王都に目掛けてやって来て王都ガバリスを一直線上に焼き尽くすとそのまま紫色の光は空に向かって消えた。


「なッ・・・何が起こったッ!!」


 謎の極光は、辛うじて王城を直撃はしなかったが、その威力による余波だけでかなりの被害を被った。


「て、敵の攻撃ですッ!!」


「ッ!!イスティ、アルマリーア直ぐに準備をッ!!」


 三人の支度も一切できていない上に家族と最後の時すら与えられなかった王族たち。王妃たちは我が子を抱きしめ、これ以上ないという程愛情を注いだ。


 その間に、二人は転移魔法の準備に入る。言うなればこの間が唯一別れの言葉を言える時間かも知れない。国王陛下も家族の元に向かい抱きしめた後、幾ばくかの金銭とガバリアマルス王国の国紋が入った短剣を三本、第二王子に渡す。


「陛下ッ!!東の空より飛翔してくる何かがッ!!」


 空間そのものを侵食している様な禍々しい雰囲気(オーラ)を発しながら飛んでくる黒い物体。極光で生き残った者は、パニック状態に陥っていた。


「後は任せるぞ―――敵が来るぞっ。直ぐに迎撃態勢を整えろッ!!イスティ、アルマリーア準備は?」


「出来ております。しかし、今ある魔石を使っても安全圏とは言えません・・・・ですので最後の手段を取ります」


「陛下、御使い出来た事心より感謝しております。それでは、彼方でお待ちしております」


 国王陛下に何処か安心した表情で語り掛ける二人。こんな状況でそんな表情が出る事は普通ではありえないが、彼女たちは魔石などでも足りない不足分は全魔力と生命力を糧に強制発動を試みたのだ。


「「強制転移魔法ッ!!発動ッ!!『強制転移(リモートテレポート)』」


 転移魔法が発動すると第二王子と第一王女、王女に抱えられた第二王女がその場から姿を消した。


 我が子の成長を見れないと認識するや否や王妃たちはその場で泣き崩れる。これが、三人とって最後のお別れと言う意味でもあった。


 転移をさせたイスティとアルマリーアは、その場で倒れ、命を落とした。


「何ダ?大将ガ逃ゲタノカト思ッタノガ、違ウタヨウダナ」


 極光で玉座の間の外壁の一部が崩壊し、その大きな崩壊した穴から飛来してきた者が姿を現した。


 飛来してきたのは、巨大な邪竜に乗る魔龍帝ヴァルグドレッドであった。巨大な邪竜はこれまで誰も目撃した事が無いので、名前は知らなかったが、間違いなく近くに居るだけで畏怖する様な特別な存在だと言う事は、直感的に理解できた。


 恐怖とはこの事だろうかと言うぐらい身体が恐怖で震える国王陛下や王妃たち、それに貴族連中に騎士や兵士も同じく震えていた。人によっては口から泡を吹いて気絶したり、絶望感を味わったような顔を表したりしていた。


 実際、魔龍帝ヴァルグドレッドよりもその下にいる邪竜の方が危険度は高い。邪竜の正体は破壊竜ジェノサイドドラゴンと言う。(エス)ランクかSS(ダブルエス)ランクに相当する魔獣。魔龍帝ヴァルグドレッドは、ランク自体は無いが、それでももしランクを付けるとするなら(エス)ランクに値する。まあ、全力の戦闘時はSS(ダブルエス)ランク相当なので、破壊竜ジェノサイドドラゴンと差ほど変わりはしない。


 ただ、殲滅力や破壊力の手数なら、明らかに破壊竜ジェノサイドドラゴンの方が圧倒している。


「こ、降参する」


 国王陛下は床に平伏すように姿勢を落とす。だが、その姿を見たからと言って魔龍帝ヴァルグドレッドの考えは変わらない。この国を滅ぼすと決めているのだ。


「降参トハ情ケナイ。マダ、コヤツ等ノ方ガ勇敢ダッタゾ?」


 国王陛下の目の前にあるものを投げつける。床を転がる二つの頭。勇者ショウタと勇者ナオヒトの頭部だ。ついでとばかりに魔族との戦闘で大将の座に君臨していたガリス将軍の上半身や聖騎士イグナーツの上半身も玉座の間に放り投げる。


「ヒッ!?」


 声にもならない声を出す王妃たち。あまりのグロさに第二王妃は気を失ってしまった。切断された首の断面からは、まだ血が滲み出ている所を見ると切断されて間もない事が分かった。ガリス将軍や聖騎士イグナーツの傷口は、凝固し始めていたので、そこそこ時間が経過し始めていた。


「安心シロ?オ前タチモ直グニ後ヲ追ウ事ニナル・・・ヤレ、ジェノサイドドラゴン」


 魔龍帝ヴァルグドレッドの言葉通り、破壊竜ジェノサイドドラゴンは全身に埋め込まれている無数の赤い宝石の様な部分が光り始める。


 破壊竜ジェノサイドドラゴンの無差別攻撃の一つ『拡散破壊光線(ジェノサイドデストロイヤー)』。宝石の様な赤い部分から高出力の光線(レイ)の様な物が全方位に発射する。王都を襲った極光の細いタイプの様な攻撃。


 先の極光は、ジェノサイドドラゴンの口から放たれた超高圧縮した魔力砲撃で、差ながら前世の某ロボットアニメに出て来る様な○○○○レーザーみたいな魔法『破壊竜(ドラゴニカルデス)息吹(ブレス)』。高威力な反面、連発が難しく。破壊竜と名の付く竜ならどの竜でも使用できる固有魔法の一つだ。効果や範囲に関しては、個々の能力に依存する。


 破壊竜ジェノサイドドラゴンは、直線上を一掃するだけの範囲だが、間接的に被害も起こるため、極めて厄介な相手だろう。


 全方位に放たれた『拡散破壊光線(ジェノサイドデストロイヤー)』は、人や建物等全てを無座別に破壊する。


 兵士や宮廷魔法士の中には、破壊竜ジェノサイドドラゴンに挑もうと試みるが、辿り着く前に消し炭にされていた。


 国王陛下は、成すすべもなく王妃と共に『拡散破壊光線(ジェノサイドデストロイヤー)』の餌食となり、この世から姿を消した。立派な王城も跡形もなく瓦礫と化して、街は人住む事が出来るような状態ではなくなっていた。


「コレデ、コノ国ハ滅ンダ・・・・魔王様ノ為、魔神様ノ為ニ」


 この場にいるのは魔龍帝ヴァルグドレッドと破壊竜ジェノサイドドラゴンのみ。誰に言うでもないが、勝利を収めた事で十二魔将とは言え、少しばかり感情が高ぶってしまっていた。


 ただ気掛かりなのは、勇者ナオヒトと勇者ショウタを手に掛けた時、彼らが持っていた聖剣は何処かに飛び去って消えてしまった。


 勇者タスクが命を落とした時、聖剣クリスタルライザーは、何処かへ飛び去る事は無かったが、今回それが発生したのは、事前に自分の死後、次の持ち主を探し、力を受け渡すように聖剣に指示を出していたからだ。


 その為、三本もの聖剣はこの場には一本も残されることはなかった。唯一地面に転がっていたのは聖騎士イグナーツの光魔剣ルインだけだった。


明日から再び海外出張となります。

恐らく来週投稿できると思いますが、出来なかったらすみません。


それと、お伝えしていた通り、クリスマス用と正月用の執筆も開始しています。良かったら楽しみにお待ちください。

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