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055 商業都市オルキデオ

皆さん、おはようございます。こんにちわ。こんばんはー。

Twitterを見ていると・・・動物の可愛らしい動画が流れてきて、ついつい魅入っちゃいますね。


今回は、ユリアーヌたちが遂に預けていた物の正体が・・・・ッ!!

 商業都市オルキデオ。人口は約二十万人で、海隣都市ナルキーソとほぼ同じぐらいの規模の街だ。向こうの街は水の都と呼ばれていたが、商業都市オルキデオは、鉄の都と呼ばれている。オルキデオの街の近くは低い山が幾つもあり、そこから鉄鉱石やその他の鉱石が良く取れる場所なのだ。その為か、鉱夫と言う仕事を生業にしている人も置く。武器屋や防具やなども王都並みに栄えていた。


 種族としても人族が主ではあるが、次に多いのがドワーフ族だ。彼らは、その培われた腕で、武器や防具作りに貢献しオルキデオを大きな街へと作り替えた。この街の代名詞とも言える存在。


 王都の武術大会が始まる前は、ユリアーヌたち三人がこの街を拠点として活動していた。


 此処に来た目的は、仲間になったユリアーヌたちが、此処の冒険者ギルドに預けものをしていると言う事で、それを回収しに来た。ついでに今現在、行商人として活動しているので、何か仕入れたり、逆に売ったり出来ればと思っている。


「ご主人様。門が見えてきました」


 王都の奴隷商で購入した七人のうちの一人、一番年上のローレのサポートを行う人族の姉妹の姉、エリーゼ。彼女は今先頭の馬車の手綱を握っていた。


「列が出来ているなー」


 門に近づくにつれて商業都市オルキデオに入ろうと冒険者や商人、周辺の農村たちが入場手続きを行っている。王都襲撃以降大きな街は愚かそこそこの町でもチェックをされる状態にある。


 行商人は荷馬車の確認やそれに掛かる入場税の支払い。冒険者たちも念を押して荒事をしないよう注意しているため、今の様に行列が出来てしまっているのだ。


「ちょっと確認してくるから、一応列に並んでてくれるかな?」


 レオンハルトは一人馬車を降りて、門の方へと歩く。


 それに気が付いた門兵が、神妙な顔で歩いてくる少年を睨みつける。


「そこのお前止まれッ」


 持っている武器を構えそうな勢いでそのうちの一人が強めの口調で停止を促してきた。それに嫌な顔せず従う。


「何しに来た列に戻れ」


「一つ確認ですが、貴族もあの列に並ばないといけないのでしょうか?」


 王都でもそうだが、大体の街の入場審査時、一般人と商人、貴族と別れている事が多い。此処は商人と一般人が同じ列に並んでいたが、貴族はその列にいる様子が無かったので、別の場所で審査するのか、同じ列に並ぶのか分からなかったからだ。


「貴族の方は、直接此方で手続きをするが、君が乗っていた馬車は紋章が無いようだけど?」


 貴族が乗る馬車は基本、自分たちの紋章を側面に描いている。それがある事で、この馬車は何処何処貴族の誰々爵と分かるからだ。しかし、レオンハルトの馬車は紋章を描いてはいない。行商の馬車に紋章があるのは余りにも不自然だからである。


 それに今回の様に、自らの馬車ではなく乗り合い馬車などで移動してくる貴族の子息女もいるので、そう言う場合は貴族の証である身分証を提示する必要があるのだ。


「あれは個人的にしている行商馬車なので、紋章は付けていません。身分証ならここにありますよ?」


 魔法の袋から貴族の証を取り出す。


「こ、これは・・・大変失礼致しました」


 強めの口調で話してきた門兵が受け取った書状を見るとそこには、きちんと貴族の証である国王陛下の印とレオンハルトの貴族としての名前が刻まれている。


 これは、国王陛下直々に頂く書状で、貴族当主にのみ持つことが許される物でもあった。これが貴族の子息女の場合、国王陛下の印ではなく当主の印と紋章が刻まれ、その下には所有者の名前が書かれている。


「馬車を此方まで移動していただけますか?直ぐに手続きを行いますので・・」


 門兵の指示通り、馬車を呼ぶため、手を上げて合図を送る。


「如何やら列に並ばなくてもいいみたいね」


 シャルロットは、それを確認すると手綱を握るエリーゼにレオンハルトが居る場所まで移動するよう伝えた。


「え?列に並ばなくていいのですか?」


 不思議に思った女性が声を掛けてくる。彼女・・・いや、一緒にいる女性たちもだが、先日ゴブリンの集落(コロニー)で救出した人たち、そのうちの最年長の女性が話しかけてきた。


 帝王切開の手術を受けた女性リタ、三十代の女性アーデ、二十代の女性マクシーネ、十代半ばの少女ナディヤ。アーデはこのオルキデオで活動していた冒険者だそうで、行方不明となっていた商隊の捜索に出ていた所をゴブリンの罠にかかり捕まったそうだ。同行していた仲間は、男たちはその場で嬲り殺しにされ、女たちは凌辱され二人があの場で息を引き取ったらしい。


 マクシーネもこの街で生活していた宿屋の娘らしく。オルキデオから馬車で三日程の距離にある村へ買い出しの為、商隊に乗せてもらって移動していた所を襲われた。ナディヤはその時に商隊にいた娘で、その時に居合わせた者は、殆どが殺され、またあの洞窟内で凌辱や暴行で何人も死んだらしい。


 リタに至っては、ゴブリンの集落(コロニー)に最も近かった村から攫われたようで、村の生き残りはいないと言う事。行く当てがない感じだったため、このままオルキデオに同行させている。ただ、手術から目覚め助かったと自覚してからは、いの一番に命を絶とうとしていた。なんでも彼女は結婚したばかりでこれから幸せな家庭を築こうとした矢先に、ゴブリンの襲撃を受け、旦那の目の前で凌辱され、しかもその最中に抵抗する旦那を殺されたそうだ。気が付けばお腹にゴブリンの子供を宿しているとくれば、命を絶とうとする気持ちも分からなくはない。


 シャルロットたちが懸命に付き添い、如何にか今の様に普通に接してくれるようにまで回復はしたが、彼女の心はまだ、悲しみと後悔でいっぱいなのだろう。


「ええ。如何やら貴族特権で並ぶのを免除されたみたいですね」


 四人が落ち着いたのは、救出から二日後でその日の夜に顔合わせと自己紹介をした。その時は、名前だけしか名乗っておらず、家名は省略していた。ただ、ユリアーヌやダーヴィトたちは冒険者として護衛にローレたちが商人だと勘違いしていたようではあったが。


 レオンハルトは、ローレたちからご主人様と呼ばれているので、もしかしたらと感じたが、没落した貴族の子供程度に考えていたのだ。


「貴族・・・ですか・・・え?」


 驚く四人。どう説明しようか悩んでいると同じ馬車に乗っていたエルフィーが代わりに話始めた。


「後ろの馬車に乗っているティアナさん・・・いえ、ティアナ様はフォルマー公爵家の娘、ティアナ・カロリーネ・フォン・フォルマーそれが彼女の名前です。そして同じくリリー様もラインフェルト侯爵家の娘、リリー・アストリット・ツキシマ・フォン・ラインフェルト様です」


 公爵家に侯爵家。貴族の中でも上級貴族に当たる彼女たちの身分に恐れ始める四人。


「それを言うなら貴方も・・でしょう?エルちゃん?」


 自分の事は説明しないのかとツッコミを入れるシャルロット。流石に他の人の素性を曝して自分は曝さないのは、二人に失礼と思い口にした。


「はい、それで私はシュヴァイガート伯爵の娘、エルフィー・マリア・シュヴァイガートです」


 王都の四大貴族のうち三貴族の娘が同席していた事に驚きを通り越して、固まってしまった。まさか他にも何処何処の貴族の娘とか息子と言う人が出て来るのかと身構えるが。


「私は孤児だから、貴族ではないよ。それに他の人たちも同じ孤児院出身だし・・・けど、レオンくんは違うかな?同じ孤児院育ちだけど、今は騎士爵の爵位を承っている(れっき)とした貴族当主よ?」


 ・・・・・・。


 レオンハルトさんが貴族当主?まだ成人にもなっていないのに当主って普通は考えられない。だが、今考えれば皆彼に従っていた気がする。それは従者だから?でも、彼の爵位は下級貴族の騎士爵。公爵令嬢が共にいる事自体考えられない。


 それによくよく考えれば、これまで貴族に対して礼儀正しく接していない。何らかの罰が課せられても文句は言えない状況。


 急に冷汗が出始める。


「あっ。大丈夫よ。彼はその程度の事気にしていないと言うか、貴族として振舞うつもりはないみたいだし、ね?」


「は、はい」


 完全に委縮してしまった。これは失敗したな―と考えるシャルロット。そんな事を考えているとレオンハルトが居る門の入口までやって来た。


「この三台が俺の馬車です。乗っているのは冒険者としてのチームメンバーとサポートメンバー、それからゴブリンの集落(コロニー)から救出した人たちが乗っています」


集落(コロニー)ですか!?それはどの辺りに出来ていましたか?規模は?」


 門兵は、救出したと言う事から集落(コロニー)が健在だと判断した。一度掴まえた獲物を捕られたとあっては復讐に来る可能性も十分考えるため、急ぎ反撃若しくは討伐に出なければならないと判断したからだ。


「規模は三百程度で、上位種も数体いましたが、全て討伐ましたので大丈夫ですよ」


 三百と言う数字を僅か十数名で成し遂げた事に驚きを隠せない。口をパクパクさせて信じていない様子だったので、冒険者カードも一緒に見せる。これにはランクが記載されている。これが(エフ)ランクと記載されていれば信じられないだろうが、今の彼らのランクは中堅の中でも上位のランクと言われるランクにいる。


 このランクでなら、ゴブリン三百体など話にはならない。流石に三百対一だと疑われるだろうが・・・。


 レオンハルトに続く様に馬車から仲間たちが下りてきて冒険者カードを見せる。奴隷たちは登録をしていないので、身分証になる物が無いが、代わりに奴隷と言う証を見せれば済む。


 彼女たちの身分証も行く行く検討しなければならないなー。


 救出した女性たちは身分証が無いので、入場税を支払おうとしたのだが、こういった場合は入場税を取らない決まりらしく、四人とも問題なくはいる事が出来た。


「か、確認が終わりましたッ!!此方をお返しします。どうぞ中へ」


 門兵に案内されるがままオルキデオの門を潜った。


街の中は、これまで行った街とは雰囲気が違っており、建物の殆どは煉瓦作りや粘土の様な土で作った家ばかりが立ち並ぶ。賑わい夕方と言う事もあり活気づいており、飲食店から漏れる笑い声がそれを証明していた。


 取り敢えず、冒険者ギルドへ向かう事にした。本来ならばまず宿を探すのだが、彼女たちをどうして良いのか分からないからそれを確認しに行く為だ。


 それにこの街の事はユリアーヌやクルトたちは勿論、助けた二人・・・マクシーネとアーデもこの街に詳しい。アーデは冒険者として活動していたようだし、マクシーネは宿屋の娘だ。


 ・・・・ん?宿屋の娘?場合によっては彼女の宿屋に行けばそんなに難しくないのかな?


「宿屋の確保と行きたいが、先に冒険者ギルドへ行こう。マクシーネさん、あなたの宿に泊まる事は出来ますか?」


「ッ!!う、家ですかっ!?家は安い宿屋ですので、レオンハルトさ・・様が泊まるには相応しくないですっ」


 全力で拒否するマクシーネ。その意味が分かるアーデや他の者たち。何かあったのだろうかとシャルロットに聞いたら、俺が貴族当主だと言う事、ティアナたちが上級貴族の御令嬢だと言う事を話したらしい。だから、自分の宿屋では満足してもらえないと考え遠慮したのだそうだ。


「そ、そうか。まあ気にしなくても良い。どの道送って、事情を説明する必要があるだろうからな」


 そう言って、ユリアーヌに冒険者ギルドの場所へ案内を頼む。商業都市オルキデオの冒険者ギルドは、正門と呼ばれる俺たちが入って来た門を真っすぐ進み、そこから二度目の大きな十字路で右に曲がる。するとこの街の有名な場所でもある変わった形のモニュメントがあり、そのモニュメントの左側通路の向かい側にあるそうだ。因みに右側の通路の向かい側には商業ギルドがあるそうだ。


 冒険者ギルドまで馬車で向かうが、街中は速度を出せないので到着するのに十分近くかかった。


 赤煉瓦作りの二階建ての建物、高さが無い分横に広がっている様で、敷地面積はかなり広い。扉を開けてローレたちを除いた全員で中に入る。ローレたちには、馬たちのお世話と馬車を邪魔にならない場所へ移動するように伝えたからだ。


「ようこそ冒険者ギルドへ・・・・ってユリアーヌ君じゃない?それにクルト君にヨハン君もッ!!久しぶりだねー」


 気さくに話しかけてくる兎人族の獣人。人に近い容姿をしており、違うとすれば頭からウサ耳が生えているぐらいだろうか。もしかしたら人族がウサ耳のカチューシャをしている可能性もあるが、この世界でそれをする意味が分からない。


 こっそり確認すると兎人族で間違いないそうだ。名前はシンクと言うらしく。この冒険者ギルドの看板受付嬢との事。言われて改めて確認するととても容姿が優れていた。白い毛並みにスラっとした体形。男性の好む事間違いなしの人物。


「シンクさんお久しぶりです」


 三人でいた時はヨハンが司令塔の役割をしていたので、彼が率先して話を始める。


「武術大会今年も惜しかったんだってねー。次はきっと優勝できるよ。頑張ってね」


 なる程、体形や容姿だけでなく中身も良いとくれば、看板娘に相応しいのかもしれない。そんなしょうもない事を考えていたレオンハルトの脇腹を両側から強くひねられる。


 ッ!!


 右側にはシャルロット。左側には何故かティアナが頬を膨らまして怒っていた。その隣にいるリリーも似た様な感じだし、シャルロットの隣にいたリーゼロッテとエルフィーも少し不機嫌な顔をしている。


「所で後ろにいる人たちは・・・・って、え?そこにいるのアーデさん?・・・それに、マクシーネさんもっ!?え?どういう事?」


 女性に囲まれて少し怒られ気味の少年を見て、声を掛けようとしたところその後ろにいたアーデたちを見て、混乱し始める。


「アーデさん無事だったの?捜索隊に出た方々が誰一人として戻ってこなかったので、何かあったのだと」


「シンクさんその事で、ご報告があります。至急支部長と面会できますか?」


 アーデは弱々しく発言する。流石に自分が凌辱されたとか自分以外の生存者はいないとか口にしたくないのだろうが、彼女も冒険者だ。多少なりと覚悟を決めたのだろう。


 弱々しい口調は、彼女の精一杯の勇気なのだと知る。


「此処ではお話しかねる内容もあります。直ぐに手配してもらえますか?」


 レオンハルトも合わせてお願いを申し出る。その時に貴族当主の証の証書を出した。ティアナ、リリー、エルフィーも同様にそれぞれの紋章入りの短剣を見せる。子息女等の家族は当主が用意する証書があるが、それと合わせて紋章入りの短剣も渡す。この何方を見せても貴族であると言う証になる。ただ、短剣の方は名前が記載されていないので、持ち主かどうかの判断が難しいと言えば難しいが、この三人は名前が知れ渡っている紋章。それが分かれば自ずと誰なのかもわかってしまう。


「えぇっと何々・・・・え?騎士爵ッ!?それも当主様ッ!?それに此方はフォルマー公爵家の紋章ッ!!ラインフェルト侯爵家の紋章にシュヴァイガート伯爵家の紋章までッ!!」


 今日一日で二度も同じ反応をされると少し慣れてしまうが、驚く方は今日初めてなので皆目を見開いてみていた。


 どこかのギルドとは違い、室内に響き渡る事は無かったが、両隣にいた名前の知らない冒険者とギルド受付の後方にいた職員たちは、同じように驚く。


「し、失礼しました。直ぐに確認を取ってまいりますッ!!」


 脱兎の如くその場から消えた兎人族の受付職員シンク。ものの数分で戻って来て、支部長がお会いになると言う事で会議室に案内された。応接室を選ばなかったのは、座れる人数が限られていたからである。


 中には居ると、細身の眼鏡をかけた中年の男性が立っていた。


「ギルド支部長は間もなく此方に来られます。シンク、飲み物の用意を」


 その男性に指示され、その場から離れるシンク。入れ替わるように筋肉が程よくついた感じの青年が入ってきた。先程の中年の男性の傍につくと挨拶をしてきた。


「遅くなって済まない、私が此処の支部長をしているディーターだ。こっちは副支部長のロホスだ。よろしく頼む」


 ギルド支部長と副支部長との自己紹介を終えた俺たちは席に座ると早速、事の説明を始めた。


 このオルキデオに向かっている途中に見つけたゴブリンの群れ、それの奥にゴブリンの集落(コロニー)があった事、警戒している場所があり囚われている人を見つけ救出した事を説明した。


 リタたちも自分たちがどの様に捕まったのかを説明していたが、その説明の際に囚われていた四人は涙を流しながら話をしていた。屈辱と悲しみが話をしている時に込み上げてきたためだろう。


 アーデの捜索隊の全滅を聞いた時は、支部長も何やら思う所があったのか、表情が暗くなっていた。それに、マクシーネやナディヤ、リタの話もそうだが、この報告は悲しい報告でしかない。唯一、良い結果と言えるのは生存者がいて助ける事が出来たという事だろう。ゴブリンの討伐もそうだが、今は彼女たちの生存していた事が何より良い報告。


「レオンハルト様、生存者を救出してくださり、ありがとうございます」


「いえ、俺たちも貴族であると同時に冒険者ですから」


 その後、救出した謝礼金とゴブリン討伐のお金を受け取る。謝礼金の方は、依頼を受注したわけではないので、依頼達成料の満額は出せないそうだが、半額は出してくれるそうだ。ゴブリン討伐は受注していなくても随時受け付けているため、かなりの資金を手に入れる事が出来た。まあ、金銭的には困ってはいないが、無いよりはあるほうが良い。宿を取るつもりでいるが、この四人はどうすればいいのかも尋ねる。


「此方で保護いたしましょうか?アーデ、君はこのまま冒険者を続けるのか?」


 続けるつもりでいるなら、支度金を冒険者ギルドが立て替えてくれるらしい。


「私は・・・今は冒険に、出たくない・・・・かな」


 あんな事があった後だ。当然と言えば当然だろう。話の結果、アーデは冒険者ギルドで雇用されることが決まり、マクシーネは宿屋に戻るそうだ。問題のリタとナディヤだが、ナディヤの方はロホスの知り合いに女性の商人が居て其方に話を付けてくれる事になった。恐らく見習いとして活動する事になる。リタは帰る家も村もなく家族もいない状態で、これと言って技能があるわけでもない村人。


 強いて言えば、家事が出来るぐらいだろうか。


「俺たちに雇われるか?そうだな・・・給仕係(メイド)として、給金は出すし、衣食住は保証しよう」


 最終的には働きながら自分の道を見つけて、その道に進みたいと言うならば何時でもその道に進んでいいとも伝えておいた。リタはその言葉に涙を流し、シャルロットがそれをなだめる。


 本当にシャルロットは頼りになると実感しつつ、同時にこう言った場合に負担を掛けてしまって申し訳なく感じる。


 リタは、給仕係(メイド)を了承した。そして、宿を探しに行こうとすると、ヨハンがそれに待ったをかける。


 此処に来た当初の目的を忘れる所だったからだ。ヨハンは、受付に戻っていたシンクに預けていた物を受け取りに来たと伝えると、直ぐにそれは持ってきてくれた。


 得体のしれない鉱石。木箱に入っていて、木箱には取扱注意と記載されている。何でも強い衝撃を与えたり、火を近づけたりすると爆発する鉱石との事で、持ち歩く事が出来なかったそうだ。


 オルキデオは鉱石が取れる山が近くにたくさんあるが、この様な鉱石は初めて見たと言う事で調べてもらうついでに預けていたらしい。


 真っ黒い鉱石を手に取り、魔法で調べる。硝酸カリウム、硫黄、木炭の混合物だと分かった。前世と同じ成分で記されているため、何となくこの代物が何なのか理解した。これが仮に○○酸○○だとか、○○○○ニウム鉄なんて出ていたら何か理解できなかっただろう。


 ん?


 そこで、ある事に気が付いた。火に近づけたら爆発する。強い衝撃で爆発・・・成分が硝酸カリウムに硫黄、木炭――――これって、もしかして。


 黒色火薬の鉱石?


(待て待て、俺・・・火薬ってそもそも鉱石ではないだろう?仮に火薬の鉱石がこの世界にあったとして、これどうやって粉末状にするんだよっ)


「ユーリこれ何処で見つけたんだ?」


「ん?それか?裏門を出て一日ほど進んだところにある村から北へ半日の距離の山だが?それがどうした?」


「これ、俺が今欲しい素材にすごく似ているんだ。出来れば多く採掘して解析してみたい」


 これがもし本当に黒色火薬で粉末状にできれば、これからの戦闘において非常に役に立つ。それにアニータに渡している銃も実弾が使える様に出来るのだ。罠を仕掛けるのにも爆薬として使える。


 この辺りは魔法があるため、そっちに気を持って行かれるが、魔法を使用する場合それを妨害する事も出来るし、優れた者は発動の予兆の様なものも察知できる。それに対して、火薬を用いた爆薬ならそのあたりの予兆を察知されない。


 使い続けると対策されかねないが、初見ではまず成功すると踏んでいる。


「うん、レオくんなら何かに使えるだろうと思っていたから、ちゃんと場所も把握してるよ。っていうよりも、これ案外使い勝手が悪くて、困っていたんだよね。何処も買い取ってくれなかったし・・・」


 まあ、火気厳禁な上に衝撃で爆発するんじゃあ、誰も持ちたがらないだろうし・・・。それにこの街は商業都市ではあるが、商業よりも工房の方が盛んな為、お店も火を使う所が多く鉱石加工場や鍛冶屋、武器防具屋などから酒蔵、飲食店と色々ある。中でも酒蔵はアルコール度数の強い酒も扱っているので、爆発などされたら周囲への被害が更に悪化する。


 魔法の袋などに入れていれば、問題ないが結局使い道が分からない上、危険と言う事で誰も回収してこない。


 まあ新しい鉱石と言う事もあり、研究材料として一部は買い取ってくれたと言う事だが・・・。


 レオンハルトは、これから行っていく膨大な作業を脳内でシュミレーションし、最優先事項を思い出す。


「あっ・・・宿屋・・・」


 火薬になりえる鉱石に夢中になったレオンハルトは、咄嗟に窓から外の様子を見る。


 時刻は既に夜と言っても差し支えない時間帯で、赤い夕陽も山の向こう側へ半分以上沈んでいる状態。何時の間にか暗くなっていた事に気が付き、慌てて宿屋を探す準備をする。


「この近くの宿屋ってどこか空いてるところありますか?」


 シャルロットが受付のシンクに尋ねた。受付嬢であれば、始めてきた冒険者に同じことを尋ねられることは多い。なので、幾つかの宿屋の事は知っていてもおかしくは無い。


 シンクは、宿屋と聞いてマクシーネを見るも、彼女の表情は何処かばつが悪そうな雰囲気を出していたため、彼らを泊めるのは難しいと判断した。この時間でも空いている可能性があり、安全性が高い宿屋を二箇所ほどピックアップして教えた。


「金鶏の宿に・・・風のせせらぎ亭ですか、分かりました」


 金鶏の宿は、割と平均よりも高い値段の宿屋ではあるが、料理は絶品との事。また、此処から徒歩で約五分と立地も良い。逆に風のせせらぎ亭は、値段は平均よりも手頃でリーズナブルらしく、それでいて安全性も高いと言う。冒険者でもそこそこのレベルには重宝されている。ただ、街外れにあるため、向かうには馬車を勧められた。


 徒歩だったら、選択肢は一択だったが、此方は馬車が三台もある。シンクにお礼を伝え、冒険者ギルドを後にした。


「遅くなって済まない。先に宿屋を確保してから二人を送ろう」


 ローレたちに、マクシーネとアーデはこの街に残り、リタとナディヤは我々と共に行動する旨を伝え、時間が遅い事もあり、先に宿確保に向かう事も伝えた。


 まずは近場の金鶏の宿に向かい、部屋が空いているか確認をする。


 残念ながら、二人部屋が二部屋しか空いていないと言う事で断念し、風のせせらぎ亭に行こうとするが、マクシーネの実家である宿屋やアーデがお世話になる冒険者ギルドの単身寮とは、反対方向にあると言う事で、宿屋確保を後回しにする。


 後回しにした理由は、風のせせらぎ亭よりもマクシーネたちの方が近いからと言う理由だ。二手に分かれると言う案もあったが、折角だし全員で行動する。


 物の十五分ほどで、マクシーネの実家の宿屋が見えてきた。外見は少し小さい感じがするが、アットホームな雰囲気を感じさせられた。女性目線なのか店先には花壇があったが、看板娘が行方不明と言う事もあり、手入れはされていない様子だった。


「すみませーん」


「はーい、どちら様で?」


 外から聞こえてくる声に中にいた女性が反応、返事をしながら入り口のドアを開けた。大勢の者たちがその場にいたが、その中に良く知る人物を見つけ、女性は涙を流し歩み寄ってきた。


「シーネ?・・・シーネッ!?」


「お、母さん・・・」


 出てきたのは彼女の母親らしく、お互いに号泣しながら自分たちの店の前で抱き合ったのである。


此処まで読んで頂き、ありがとうございます。

引き続き、感想や評価、誤字脱字等ありましたら、お願いします。


それと、次回は再来週の日曜日に投稿します。

先週と今週は出張ばかりで、殆ど手を付けていませんし、付けられないと思います。

もし、上げれそうでしたら、アップしますが、出来ない可能性もあり先にお知らせしておきます。


今後も読んでいただけると嬉しいです。

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