表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/165

053 連携ミス

だんだん寒くなってまいりましたねー。

ただ連日の雨の為か余計に寒く感じますよー。


いよいよ今年も残りわずかとなってきました。

出来れば、季節に合わせた内容を書きたいなーって思います。

 アルデレール王国の王都アルデレートを出発して早一週間。後三日程進んだところに最初の目的地、商業都市オルキデオの街が見えてくる。


 この一週間道中にある町や村に立ち寄り、行商人として活動を始めた。最初の村では、行商での商売を行ってもらう為、奴隷を購入し、彼女たちに手本を見せながら行った。


 算術が出来る者がごく一部だったため、会計は主に俺とシャルロットと今回の旅から仲間になったティアナ、リリー、エルフィーの五人で行う。ティアナたちは、上級貴族の令嬢と言う事もあり算術は勿論、作法や歴史学、地学に至るまで幅広い分野の学問を収めていた。


 何でも、貴族は王都にある王立学院に入学して、色々な知識を学ぶらしく、三人は既に中等レベルの過程を身につけているらしい。


 最初にその話を聞いた時、三人は王立学院の中等部に入学している状態だったらしいが、既に全課程を終えているので、出席を免除されていると教えられた。


 その上の高等部への編入も話に上がっていたそうだが、丁度タイミング的に武術大会もあると言う事で話を保留にしていた所、俺たちに出会い旅に出る事が決まった瞬間に編入の話を蹴ったそうだ。


 十五歳・・・いわば成人してから高等部に入学できるそうで、その時になったら王立学院に再度入り直すか検討するらしい。


 となれば、俺は本来、入学しなければいけないのではと思ったが、それ程重要にも感じられなかったので考えるのを辞めた。もし本当に入らなければいけない場合、周りの者が教えてくれていたはずだし・・・。


 話を戻すが、奴隷たちの中で算術が出来ない事は知っていたが、それが余りにもできない事がその時に発覚したので、旅の間に算術をしっかり教え込む事にした。


 一週間と言う短い期間で如何にか足し算と引き算は出来るようになったが、数が大きくなると計算に時間がかかるうえ、お釣りの間違えもあり、これからこの辺りが最初の課題かなと考えていた。


 後は、魔物や獣と遭遇しては、ユリアーヌやダーヴィトたちが手早く仕留めていたので、それ程困らなかった。寧ろ、戦闘が出来るものが多すぎて、取り合いになりかけるシーンも多々あった。


 ただ、魔物以外にも盗賊に二度襲われたが、此方は俺とヨハンの魔法で動けなくした後、近くの町に居る駐屯兵に引き渡した。殺して賞金だけ貰うのも一つの手ではあるが、子供の方が多いので、余り残酷な場面を見せたくなかったから捕まえる事にした。此方の方が貰える金額が大きくなるし・・。


 そして今、最も難題に直面している。


「左からゴブリンソルジャー五体ッ」


「右翼側、ゴブリン一、オーク二」


 俺たちの馬車が魔物の群れと遭遇し、馬車の周りを囲まれて襲われている。草原などであれば、苦戦する事もないのだろうが、今いる場所は森の中、一幅も狭く蛇行した道となっているので、逃げ切る事も難しい。


 俺とシャルロットで馬車の上にあがり、襲って来る敵の位置を皆に伝える。


 対人戦闘の得意な二人に、新たに加わった戦力、それらをどう連携させるのか試しにこの魔物の群れにぶつけてみたら、案の定状況が悪くなり、苦戦を強いられる形となった。


「<かの者を守りたまえ>『(ホーリー)なる(シールド)』」


 エルフィーの魔法で、魔物の攻撃を如何にか食い止め、前衛を支える。


 元々の仲間以外だと当然ユリアーヌたちは連携がうまく取れている。しかし、問題はティアナたち三人だ。エルフィーは元々治癒と補助を担当しているし、教会の仕事で王都の外へも度々出かけていた。冒険者や兵士と共に魔物の対処もしていたので、問題は余りないが。


 ティアナとリリーは、対人戦闘にやや特化している分、魔物との戦闘にはかなり難がある様子。


 ティアナの問題は、周りの環境に合わせた戦闘が不慣れで、大剣をよく木の幹や枝にぶつけて思う様に振れていない。対するリリーは細剣(レイピア)なので、環境にそれほど影響を受けていないが、かわりに威力不足が出てしまっている。対人戦闘では相手を殺さない様に且つ致命的なダメージを与える戦闘を行ってきたが、命の奪い合いになると躊躇った方がたとえ相手より強くても負けてしまう事がざらに起こる。


 今もオークの方に二発の刺突を繰り出しダメージを与えたが、オークは耐久力が高く痛みに鈍い傾向にあるため、彼女の攻撃がそれ程致命傷になっていない。寧ろ攻撃された事で怒っているようにも見える。


「リリーちゃん。魔物相手に躊躇したら駄目だよ?」


 大きな棍棒を振りかざそうとしたオークの目の前を一人の少女が通り過ぎる。


「あ、ありがとう・・・リーゼさん」


 武術大会の時とは違い魔物相手に戦いなれているリーゼの方が数倍もその強さを発揮していた。


 それと二人とは別にクルトが調子に乗って戦場を駆け巡るため、フォローに入っているアニータがかなり大変そうにしていた。


「楽勝―ッ楽勝―ッ!!」


「ちょっとクルト(にぃ)、突然現れないでよっ!!」


 別に魔物に苦戦しているわけではない。個々のスペックが高すぎて連携がうまくかみ合っていないのだ。それを如何にか指示して戦闘を維持している状況に過ぎない。


 もう少し早くこの情報を知りたかったよッ!!まったくッ!!


「前方、敵増援数八。ウルフ系だ」


「前は任せろッ!!『シールドタックル』」


「ちょっと討ち漏らしてるでしょ!?セイッ!!」


 普段ならこんなミスを犯さないダーヴィトですら、変な空気に当てられて、攻撃が雑になっている。そこをきっちり仕留めるのがエッダらしいが。根本的に駄目な気がしてならない。


 遠くから弓で攻撃してくるゴブリンアーチャーや近接戦闘をしている魔物に牽制をしているシャルロットに、皆の戦いについて改善点が分かるか尋ねると、それぞれの致命的な部分を話す。まあ、レオンハルトが考えている事と概ね一致しているので、そろそろ戦いを終わらせる事にした。


「もう終わらせるよ。――――ハッ!!」


 無属性魔法『無差別魔弾(ランダムショット)』。ただの『魔法弾(マジックショット)』を全方位に展開して『周囲探索(エリアサーチ)』で見つけた魔物を全て標的に設定。仲間に当たらない軌道ですべての標的を一度で射抜いただけの事。


 簡単そうに言っているが、かなりの魔力と魔力操作(マナコントロール)を要求される難しい魔法である。


 彼の実力を知る者は「あーあ、終わらせちゃった」と嘆くが、実力を知らないローレたちはその攻撃を見て驚きを隠せずにいた。


 これまでの戦闘も基本、レオンハルトは加わらず、ただ見守っているだけだったから此処に来て初めて戦闘らしい戦闘を行った。


 魔物の死骸を回収し、ついでに草や地面、木々についた魔物の血も片付ける。そうしておかなければ血の匂いに釣られて周囲の魔物や獣がその一帯に集まり、それにばったり出くわした冒険者や商人たちが魔物に襲われる危険性があるからだ。


 専用の道具で臭いを消すのだが、面倒なので魔法できれいさっぱり消し去った。


 他の冒険者と一緒に居た場合、間違いなく魔法の無駄使いだと怒られる事ではあるが、一般の冒険者に比べてレオンハルトの魔力は数十倍あり、上級魔法使いの魔力量ですら圧倒する量を所有している。


 反省会は開けた場所で行う為、今は森を出る事を優先させた。


 半日経過して、漸く森を抜ける。


 日が傾き始めている事もあり、野宿をするのかと考えたが、少し行った所に村が見えたので、そこへ向かう事にした。


 到着したのは、日が沈み切った頃だったが、村の入口を守る駐屯兵に身分証として冒険者カードを提示し、簡単な検査を終えて村に入った。


 村と言う事だけあって栄えてはおらず、宿屋も一箇所しかないと言う事でそこに向かう。村の規模としては、レカンテート村と同等か少し下回る程度で、主に畑や果樹園で生計を立てているらしい。


 宿屋は、個室作っていないと言う事で、あるのは三人部屋か四人部屋しかない。男は三人部屋を二つとり、レオンハルトとダーヴィト、黒猫の獣人の兄ランでもう一つはユリアーヌたち三人が使用する。女性陣は、シャルロットとリーゼロッテ、アニータ、エッダの四人部屋にティアナとリリー、エルフィーの三人部屋、ローレと銀狐の獣人ルナーリアに黒猫の獣人の妹リンの三人部屋とエリーゼ、ラウラ、ソフィアの三人部屋をお願いした。


 宿屋だけでも部屋割りを決めるのがかなり面倒だが、空いている部屋の状況を見ながら変えなければ、人数が多い為トラブルになりやすい。相変わらずランは主人であるレオンハルトと同室なのが納得できず、一人馬車の中で寝ると言い出すので、命令で言う事をきかせた。


 食堂は宿屋には付いていないと言う事だったので、近くの飲食店に向かいそこで反省会を行う。


「さて、今日の戦いは俺としてはかなり評価しにくい・・・・」


 飲み物と料理が届くとまずは、今日の駄目だった箇所をそれぞれに指摘、それを正しくするための課題を伝える。


「ティアナとリリーは、まず魔物との戦闘になれるところからだ。今後魔物との戦闘には二人で対処してもらう。次にダーヴィト、お前らしくないミスが多かったが、何を焦っていた?」


「皆強いから、俺も何かしないとって焦っていたかもな・・・」


 レオンハルトは、ただ指摘するだけではなく。何を失敗してその時どうして失敗したのかを自己解析させるようにしている。これはダーヴィトたちレオンハルトの指導を直々に受けて実力をつけた者にだけ行うアドバイス方法だ。


 ダーヴィトも今回の失敗の原因をよく理解していたので、次からは気を付けながら戦うだろう。


「クルトは、調子に乗りすぎだ。ヨハン、クルトに補助魔法は暫く掛けなくていいぞっ」


「えぇーそんなー」


 うなだれるクルトに、ヨハンが慰める。ユリアーヌは普段から仲間の中では年長者と言う事で冷静だが、こういう時は良く鼻で笑ったりする。


「エッダとユリアーヌは、同じ槍を使うが戦い方が根本的に異なる。リーゼは、両方との連携が取れるから、三人で連携を図るようにしてくれ、それとアニータはもう少し自信を持とうか、撃つ時に仲間に当たらないか心配になって引き金を引くタイミングがずれていたぞ。射撃練習をシャルとやろうか」


 的確な指示やアドバイスは、奴隷の皆もそうだが、ティアナたち三人も初めて聞いたので「そんな事までしているの?」と言う顔で驚くがこれがレオンハルトの本領なのだよと何故かそれを知っている者たちはドヤ顔をしていた。


「ヨハンは、戦術のおさらいをしようか」


 王都に居る時にヨハンから直々に戦術や調合などのやり方を教えてほしいと訪ねて来ていたので、調合は簡単な水薬(ポーション)の作り方を教え、戦術は図面上で基本的な戦い方や配置などを教えた。


 実際に指示を出せるまでには至っていないが、今後指示を出せるようになれば、かなり戦闘に余裕が生まれる。反省会の後はいつも通り、雑談を交えながら食事をして、お店が閉まる少し前に宿屋に戻る。


「シャル、すまないが少し出る。後を任せる」


 帰り際にこっそりシャルロットへ伝言を残し、レオンハルトは皆に気が付かれないまま『転移(テレポート)』で、商業都市プリモーロの近くのある場所へ移動した。


「さて、そろそろハンナの所の糸が少なくなる頃だろうし、集めてお店に置いておくかな」


 定期的にハンナの所に高品質糸や高級な糸を卸している。当然集めるのはレオンハルトたちだが、今は仲間が増えた事もあり、一人で夜回収に動いているのだ。


 蜘蛛系の魔物から芋虫系の魔物まで幅広く魔物の巣を巡っては、糸を回収する。普通の冒険者ではこれだけ糸を回収するのに一月以上かかるが、レオンハルトは魔物を動けなくしたり、わざと糸を出すように仕向けてたりして大量に回収する。


 暫くは大丈夫であろう糸を手製の魔法鞄(マジックバック)に収納して、ハンナのお店に置いておいた。


 ついでに水を生成する魔道具のメンテナンスや魔石の交換も行う。


「手紙も置いてきたし、そろそろ戻るかな」


 月明かりが照らす夜空の下でレオンハルトは一人、闇に紛れる様に消えた。


 翌朝、ハンナがレオンハルトの置き土産を確認すると、いつもの様にその場でお辞儀をして、中身をチェックした。これでまた、ハンナのお店は飛躍的に発展し、有名になっていくのであった。


 レオンハルトは『転移(テレポート)』で戻ると皆静かに寝ていたので、起こさない様に床に就いた。日の出前なので寝れても一刻ぐらいしか寝れないが、一日程度なら全然支障をきたさない。


 一番遅くに寝たのに一番早くに目が覚める。眠りが浅いから当然と言えば当然だが、そのまま馬小屋に向かい。馬の手入れを始めた。


 この時間、馬たちは既に起きて各々に過ごしている。レオンハルトが主だと言う事は何となく理解しているのだろう。彼が現れた途端に馬たちは彼の元に向かった。


「順番にブラッシングしてやるから、並んだ並んだ」


 馬に話しかけても言葉を理解しないはずだが、レオンハルトが所有する馬は、ある程度のジャスチャーで主が何を伝えているのか察する事が出来るらしい。これは馬たちが優秀だったのは勿論、育てていた王都の飼育員の腕によるところが大きい。


馬たちの身体をブラッシングしていると、不意に足音が聞こえ、其方に顔を向けると眠たそうにしながら歩いてくるソフィアとラン、リンの黒猫兄妹だった。


「ご、ご主人様ッ!!馬のお世話はわたしたちが・・・」


 自分たちのご主人様が居た事に気が付いたソフィアが慌ててやってくる。


「おはよう。ブラッシングはやっておくから、それ以外のお世話を頼めるかな?俺も偶には馬たちの世話をしたいからね」


 今、四頭目の馬のブラッシングが終わった所、残り四頭いるためその四頭は自分たちがやりますと準備を始めていたので、それを止めて別の仕事をお願いした。


 ブラッシング以外に馬たちの朝食の準備や、蹄の掃除、飲み水の交換、体調確認などだ。馬小屋の掃除は宿屋の娘さんたちがするそうなので、後でお小遣いか果物でも渡す事にした。


「さて、これで終わりかな?」


 最後の一頭のブラッシングを終えたレオンハルトは、普段やり慣れない事をしたため、軽く背伸びをしたり、腰を捻ったりして身体をほぐす。ただ、こうして偶にブラッシングをしてみるのも悪くない感じがした。


「ありがとう・・ございます。ご主人様」


 リンは少し眠気が取れていないのか、瞼を重そうにしていた。それでも、しっかりと自分の仕事をしていたので、大目に見てやる事にする。兄のランにリンが眠たそうにしているので、フォローに入るよう伝えておいた。


 完全に太陽が姿を見せ、輝く光が村を照らし出す時間。ローレたちはそれぞれ他の仲間たちの起床を促しに各部屋を訪れていた。


「ご主人様、おはようございます」


「おはようエリーゼ。今日は君が此処の当番?」


 奴隷たちの朝の仕事は、仲間たちの起床の促しと馬のお世話だ。起床の促しでも着替えを手伝ったりはしていない。奴隷たちはそこも手伝いたいらしいが、それは話し合いでしない事に決めていた。なので、部屋を訪れて寝ている者が居れば起こし、起きている者が居ればその手伝いをする。主に女性陣の方。例えば脱いだ服を綺麗に畳んだり、着替え終わった後にカーテンらしき布と窓を開けたりだ。


 男性陣の方は、脱いだものをそのままベッドに置いていたりするので、後で畳に来ている。現状自分で畳むのは男性陣では俺とヨハンぐらいだろう。綺麗ではないが何となく畳んでいるのはユリアーヌで、そのままなのがダーヴィトとクルトだ。


 エリーゼが今回、俺たちの部屋を担当したのだろう。起こすと言ってもダーヴィト一人なので、早く作業が終わり宿屋の入口で他の者を待ち案内するために立っている。


 基本的に、起こすのは奴隷たちに任せている。


「はい。まだ、あまり来ていませんが・・・」


「そうか、俺も準備したら降りてくるよ」


 ブラッシングしていたので、少し汗をかいてしまった。魔法で綺麗にも出来るが、服は着替えた方が良いだろう。なので、自室に着替えに戻る。


 それから暫くして全員が宿屋の入口に集合し、朝食を食べに出かけた。朝食後は行商人として品を売ったり、特産と言う果実を沢山購入したりした。鮮度が落ちやすい果実をそんなに買って大丈夫かと心配されるが、魔法の袋に入れれば鮮度をそのまま維持できるのでと説明した。


 林檎モドキや梨モドキ、葡萄モドキに良く分からない果実が数種類。良く分からないのは前世にはなかった果物だったからだ。


 そのうち二種類を口にした。一つは青色の洋梨の形をした果物で食べ方はキュウイの様に中をスプーンなので掬って食べる。一口食べるとほんのり甘みが広がる・・・が、何と言ってもそのみずみずしさ。果汁が口の中いっぱいに広がった。


 もう一つはヒョウタンベリーと言う名前らしく、その名前通りヒョウタンの形をしていた。大きさは苺と変わらないが、色は黄色で下側は少し色が濃くなっていた。此方も甘みがあるがベリー系の甘味よりも桃に近い甘さ。ただ、クセも若干あり、好んで食べるかと言われると悩むだろう。ヒョウタンベリーか桃かと言われたら間違いなく桃を選ぶ。生食よりも火を通して食べるのが普通らしい。加熱する事でクセのあった部分が無くなるのだそうだ。


 良い買い物が出来て喜ばしい一行は、村を出るとそのまま商業都市オルキデオへと向かう。


 先日・・・特に昨日の戦闘で大きな課題も分かり、まず一番に行わなければならないのが、ティアナとリリーの二人の魔物に対する戦闘経験不足。これを解決させるため、十五人乗りの馬車につないでいた馬二頭をハーネスから放し、先頭で二人に乗馬してもらう。


 四頭で引いていた馬車は牽引力が落ちた為、荷台の荷物を魔法の袋へ収納。また、乗っていた人も最小限にして、二頭に掛かる負担を減らした。


 最前列に乗馬したティアナとリリー。その後ろの馬車にレオンハルト、エルフィー、ヨハン、ダーヴィト、エッダ、御者台にラウラとソフィア。それに続く十五人乗りの馬車にはシャルロットとアニータ、ローレ、御者台にランとリン。最後の馬車にリーゼロッテにユリアーヌ、クルト、御者台にエリーゼとルナーリア後は行商らしく樽やら木箱の中に売る物で日持ちをする物や毛皮などをそれぞれの馬車に乗せている。


 途中、ゴブリンやキラーマンティス、スターベアなどの魔物と遭遇し戦闘になったが、集団ではなく個体での戦闘ばかりだった事もあり、二人で連携して戦闘していた。


(ん?―――この反応は・・・)


 『周囲探索(エリアサーチ)』で周囲を警戒していると、予定の進路から少し外れた所で、魔物・・・ゴブリンの集団を見つけた。


 ゴブリンたちの集落(コロニー)も近くにあるのか、集団から少し離れた位置に数百の魔物も感知した。


 今の二人には荷が重いと考えるレオンハルト。それと同時にこのまま放っておけば、ゴブリンたちが村や町を襲う可能性も強い。この国の民として、冒険者として、そして、彼女を守ると言う自分自身に与えた使命の為に・・・。選択肢は一択しかないッ!!


(うまく行けば、色々な事も解消されるかもな――――)


「馬車を止めてくれ。この先に魔物の集団が居る。ローレたちは馬車と共に待機。それ以外は俺と共に行くぞッ!!」


――――ッ!!


 急に馬車を止める指示を出したレオンハルト。森の中を指さして、状況を簡潔に説明した。ローレたちが魔物に襲われない様に魔法で強力な防御結界を作り、外敵からの攻撃に対策しておいた。


 それと、ローレたちにも武器を所持させているので自衛は可能だろうし、万が一の事を考えて笛を渡した。これは彼女たち奴隷を購入した時に、こういった不測の事態に備えて用意していた道具の一つだ。


 結界が破られそうだったり、緊急事態が発生したりしたら知らせる様に伝え、レオンハルトたちは徒歩で森の中へ進んでいった。


 森の中に消える主を不安そうな表情で見守るリンたち年少組。ローレたちも不安な気持ちは一緒だが、レオンハルトの姿が見えなくなるとすぐさま、馬車を集め馬たちに休息を取らせた。


 こういう時はやはり自分がしっかりしないといけないと言う年上の立場と言う物だろう。


「ティアナとリリーは、先行してゴブリンの群れから離れた個体を各個撃破。ダーヴィト、ヨハン二人のフォロー頼むぞッ!!」


 指示を出すとレオンハルトたちは、ゴブリンの群れへと向かう。


「・・・・フォローか、この場合手を出さずに見守れ―――って意味かな?」


「たぶんそうだと思います。レオくんは、二人に連携の大切さと言う物を教えようとしているのだと思います」


 実際にはシャルロットの安全を優先させるための行動ではあるが、この戦闘は人型に似た魔物であるゴブリン。対人戦闘に強いが魔物や獣との戦闘には力を発揮できずにいる。それは、経験や相手の思考が読めないと言う部分があるだろうが、原則大会の様な個々の実力での戦闘ではないと言う事。


 必ずと言って良い程、助け合う事が集団戦闘には重要になってくるのだ。レオンハルトや勇者コウジ・シノモリの様な個々の実力で如何にかなる様な強者でもない限り。


「ティアナさん。向こうの茂みにいます。手前にいるゴブリンを倒してください。リリーさんは、その奥にゴブリンの相手です。行けますか?」


「「はいッ」」


 ヨハンは、手早く指示を出す。大きな声で返事をすると相手に気づかれる恐れがあるため、小声で返事をし、二人は己の武器を準備し、低い姿勢から奇襲をかける準備をする。


 大剣を使うティアナにとって、低い姿勢はかなりしんどい姿勢とも言える。重心が本来であれば安定するのだが、今回は剣先を寝かせているので、やや前側に重心が移動している。


「ティアナ・・・この密林の中、大剣を大振りは出来ない。戦闘時にはそこをしっかり念頭に入れるんだぞ?それと、大剣をこう構えてみろ」


 ダーヴィトは難しそうに大剣を持つティアナに助言とアドバイスを送る。彼自身は大剣を持って戦闘した事は無いが、重い武器は大剣だろうと盾だろうと変わらない。それなりにレオンハルトに鍛えられた分、実力は彼女たちの方が上でも、戦闘では彼らの経験の方が上なのだ。


「こうですか?・・・あっ少し楽になりました」


「そうか。なら気を付けろ。そろそろ仕掛けないと他の個体と合流されるからな」


 ゴブリンまでの距離は、約二十メートル先。息を殺し相手が、此方に背を向けた瞬間に二人は動き出した。


 間合いを一気に詰めるティアナとリリー。その奇襲攻撃に反応が遅れたゴブリンは、瞬く間に詰め寄られた事で凶器の顔から恐怖の顔へと変化させていた。


「ハッ!!」


 ティアナは、手前にいたゴブリン目掛けて大剣を振るう。大剣はそのままゴブリンの首へと吸い込まれるように通過し、見事に首を刎ねた。声を上げる事すらできないゴブリンは、首から上を欠落させたまま、身体を痙攣させて地面へと倒れる。


 ティアナが無事にゴブリンを倒した時、リリーの方は更に奥にいたゴブリンへと目掛けて疾駆していた。


 リリーは、ティアナの様に一撃で仕留める様な重い一撃を行えるわけではない。彼女の武器は細剣(レイピア)。重い一撃よりも軽い一撃を数回行うタイプ。


 間合いを後五メートルにまで詰めるとゴブリンも反撃を行う為、錆びた剣を構え迎え撃つ姿勢を取った。


 お互いの剣が衝突すると誰もが思った矢先。リリーは身体を捻って錆びた剣を躱し、一撃目を錆びた剣を持つ手首に、二撃目に喉を切り裂き、声を発せなくし、通り過ぎる間際に背後から心臓を一突きさせた。


 鮮やかな一連の動きにダーヴィトとヨハンは、関心をした目でその戦いを観戦していた。


 剣同士の衝突を避けたのは、衝突時に発する金属音を出来るだけ鳴らさないようにするためだ。もし衝突による金属音が密林に鳴り響いた場合、集落(コロニー)にまでは聞こえなくとも、ゴブリンの集団には間違いなく耳に入る。そして、喉を切り裂いたのも声を発して仲間に知らせない為の策あっての事。


 だが、全くの無音と言うわけでもないので他に魔物が近くに居た場合は、ばれていた可能性もあったが、そこは事前に確認しているので問題は無かった。


「ご苦労さん。二人とも見事な動きだったよ。一対一のゴブリン戦は問題なさそうだね?」


 そう。一対一の状況で人型の魔物であれば、それは単純に対人戦闘の予選二回戦と同じ状況。一回戦は一対複数と言う状況だったが、これも言い換えれば一対一と言えなくもない。


 この状況で苦戦する様であれば、大会上位に食い込めない。もし苦戦する要因があるとすればそれは地形や環境だろう。密林地帯で大剣や槍などを上手く扱えないのと同じ。


「さて、この先にもはぐれたゴブリンが居るみたいだ。それを倒してレオくんたちに追いつこう」


 ゴブリンの死骸を回収し、血の臭いなども消して次の標的を倒しに移動した。


誤字脱字のご指摘いつもありがとうございます。

これからもご指摘いただければ助かります。


感想やブクマ、評価などもお待ちしております。

これあるととても書き手側の力になるのだと最近つくづく思う様になりました。


上記が無くてもこのまま読んでいただけるだけでも、書く者として力になりますので、今後とも宜しくお願い致します。

因みにキャラデザってどうやって載せるんだろう?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ