051 貴族としてまず初めに・・・
台風19号かなりの被害が出ていますが、皆さんはご無事でしょうか?
私は、災害にあいにくい県ですので、ご無事でいらっしゃいます。
被害に遭われたか方々には、一日でも早い復興を心よりお祈りしています。
「レオンハルト様が王都を離れるのですか・・・・ど、どうしてもっと早く教えてくれなかったのですかっ!?」
「そうですよ。お父様は私たちがあのお方をどの様に思っているのか。ご存じでしょ?」
二人の少女に詰め寄られ、焦りの表情を浮かべる二人の男。大の大人が少女に言い寄られて慌てるなんて恥ずかしいと思うかもしれないが、実の娘・・・それも目に入れても痛くない様な愛娘から攻められれば、こうなってしまうのは父親のさだめだろう。
「いやー。お父さんたちも、彼が王都を離れる事を知ったのは、つい最近なのだよ」
つい最近と言っても彼此、五日前の事。レオンハルトが王都に滞在するのは後二日と言う残り僅かな時間しか残っていないタイミングでの話。
その間、少女たちもレオンハルトに対して何もしなかったのかと言うとそう言うわけではない。彼女たちは武術大会に負けてしまったものの、その類まれなる実力に加え、優れた容姿に、家柄、どれをとっても申し分ない。そこに目を付けた貴族との縁談話の対応に追われていたのだ。
縁談は、拒否する事も出来るが、それは自分だけでなく家柄にも傷を付けかねない相手も中には居た為、顔合わせだけして、丁重に後日お断りすると言った流れを繰り返す。
そんな事を繰り返せば、レオンハルトと会う事は出来ず、また運よく都合が付いたとしてもレオンハルトが不在と言うなどと行き違いも発生していた。
「それは何時でしたの?」
自分の父親に言い寄る少女。彼女の輝く美しい金色の髪が、ふわりと靡く。風が吹いて靡いたのではなく。彼女の発する気迫の様な雰囲気で、髪が靡いたように見えた。
「ティアナ!?どうして、そんな怖い顔でお父さんを睨むのかな!?」
余りの迫力に後ろへ下がるティアナの父親にして王都を統治する四家の一つの当主、そしてアルデレール王国の現宰相のエトヴィン。普段は国の舵取りを巧みにするのだが、そんな彼でも愛娘の感情は思う様に出来ず苦闘中。
それから愛娘ティアナとその親友のリリーにエトヴィンとリリーの父親リーンハルトは、娘たちから詰問され、何時聞いたのか、何処へ行くのか、これから何をするのか等父親たちが知っている情報を洗い浚い答えさせられた。
大声で怒鳴る怖さよりも静かに怒っている怖さの方が、圧倒的に怖さの質が違う。それを愛娘から教わってしまった二人の父親であった。
「リリーよ、彼も貴族だ。王城に赴き陛下に報告する方が良いと助言しておるから、今日明日にでも報告に来ると思うよ?」
「わかりました、お父様。レオンハルト様が来られるまで、王城に滞在させていただきます」
「私も一緒に残らせていただきます」
「お、おいっ、リリー。それは流石にいけないよ。ティアナちゃんも我儘は御父上を困らせるだけだよ?」
凹みまくっているエトヴィンと違い、リーンハルトは愛娘たちの我儘を如何にか阻止しようとする。今日明日来るかもと言ったが、これからリーンハルトは、アウグスト陛下に宰相であるエトヴィンを含めた上級貴族と大事な会議がある。
娘の私事で、何かあるたびに会議を中断できないため、出来る限り屋敷に戻ってほしい。そう考えているのだ。
「よし分かった。では、彼を明日必ず王城に来るように伝えるから、今日のところは二人とも帰るんだ。いいね?」
流石に二人はこれ以上我儘を言ってしまうと困らせるよりも怒られる可能性の方が強くなると感じ、素直に頷く。今日我慢すれば明日彼に会えると言う部分も大きく働いており、エトヴィン、リーンハルトと別れると、二人は幸せそうな表情で、馬車を止めている中庭へと移動した。
その日は一日中上機嫌な二人に、それぞれの家に仕える執事や給仕係たちは、何があったのかすごく気になっていたそうだ。
ティアナとリリーが王城を離れたすぐ後にエトヴィンは、アウグスト陛下へレオンハルトの王城への召集の許可をとり、すぐさま騎士に迎えに行かせる。
向こうも支度があるので、この後の会議が終わったぐらいに登城してくると踏んで、リーンハルト共々会議が行われる部屋へ向かったのであった。
宿屋の自室である物を作成していたら、ドアの向こうから気配を感じ取った、そのすぐ後ぐらいにノックの音が聞こえ、ドアを開ける。
「お休みの頃すみませんレオンハルトさん。今入口に兵士の方がこられていまして・・・・」
宿屋の女将さんが申し訳なさそうに謝り、部屋を訪ねた用件を伝える。
騎士爵としての素性は隠しているが、実力派の冒険者としては、魔族との戦闘の経緯を人伝えに聞いて知っており、だからこそ兵士から訪ねてこられてきた事に、それ程疑問には思っていなかった。
申し訳なさそうと言うのは、休んでいる者を起こしてしまったという部分からきていたのだ。
「ありがとうございます。・・・・これから支度して向かいますね」
女将さんにお礼を述べてそのままドアを閉めたら、すぐさま支度を始める。
(何の用だろう?)
呼び出される理由が分からないレオンハルトは、取り敢えず何があっても良いように、冒険者として活動するいつもの黒いレザーコートに袖を通した。
準備を終えたレオンハルトは、そのまま一階の入り口付近で待機している騎士に声を掛ける。以前にも対面した経験のある騎士だったので、呼び出した理由を尋ねた。
「レオンハルト様、王城への召集です。すみません我々と共にご同行していただけませんか」
召集とは穏やかではない。二日後には王都を出発しようとしていた矢先なので、余計に悪い事へと思考を巡らせた。
どういった内容なのか尋ねても騎士たちは、自分たちも用件までは聞き及んでいないと言って来るだけだったので、王城へ辿り着くまで呼び出された理由を洗い浚い考え出した。
「用件はわかりませんが、呼び出した人物はわかりますよ?宰相のエトヴィン様です」
宰相が自分に対して呼び出してきたと言うことは、用事があるのだろうがそれが何なのか見当がつかない。
上級貴族からの呼び出し、加えてこの国の舵取りをする人でもある。今の彼の立ち位置は、下級貴族ではあるが、騎士爵の当主。この国にいる限りはその呼び出しに答えなければならない。
「わかりました」
騎士が用意した馬車に乗り込み、王城に向けて出発。
暫く王城へと続く道を馬車で揺られながら進み、気が付けば王城の入り口に到着していた。そのまま、騎士に連れられて、応接室に案内される。
「此方で暫くお待ち下さい」
王城に案内されてから半刻ほど待つ。その間に王城に勤める給仕係が、ドアの前で待機し、飲み物や軽食を出したりしてくれていた。途中あまりにも時間を持て余していたので、給仕係と少し会話したり、先程部屋で作っていたものを脳内でシミュレーションしたりして過ごす。
コンコンッ。
ノック音が聞こえたら、給仕係がそのドアを開ける。
「遅くなってしまってすまない。会議が長引いてしまった」
給仕係が空けたドアから宰相であるエトヴィンと侯爵家のリーンハルトがやってくる。
レオンハルトは、その場で立ち上がりお辞儀をした。元社会人として、そして貴族当主としての行動。二人も軽く会釈をして、そのまま彼の対面にある椅子へと腰を掛ける。
その後すぐに俺も腰かけると、困った表情でエトヴィンが話しかけてきた。
「レオンハルトくん・・・・重要な話があるんだ」
彼の言葉からもその雰囲気は感じ取れ、レオンハルトも聞く姿勢を整えた。
「きみ・・・・・・貴族になったから」
重苦しい空気。静まり返る応接室。
「家名と紋章を決めなくてはならなかった」
・・・・・・ん?
家名に・・・紋章・・・?
深刻そうな表情で語られる割には、深刻な内容ではなかった事に動揺するレオンハルト。寧ろ家名や紋章を決めていないから決めなくてはならないと言う理由で、態々(わざわざ)呼び出されたのかと呆れてしまいたいぐらいだった。
しかし、エトヴィンやリーンハルトたちの様に家名は必要である。エトヴィンはフォルマーと言う家名。リーンハルトはラインフェルトと言う家名があるように貴族であれば誰しもが家名とその貴族と言う証の紋章を持っている。
でも、レオンハルトは騎士爵の爵位についていながら紋章は疎か家名もまだ決まっていなかった。
「家名や紋章はどのように決めるのでしょうか?」
家名については、失念していた部分もあり、またどうやって決めるのか知らないので、尋ねる事にする。
「家名は、本来受け継がれたり、新しく貴族当主になったりする場合は、本家の家名を使ったりするのだが、君の場合は全て一から決めなくてはならない」
リーンハルトの言う新しく貴族当主になると言うのは、例えば子爵家の長男がそのまま子爵家の次期当主になるが、次男以降・・・・仮に子爵家の四男は、長男が子爵位を受け継ぐと自動的に出家しなければならない。貴族当主を受け継げない子供は、元貴族として自分で生計を立てなくてはならないのだ。
ただ、平民とは異なりきちんとした教育を受けているので、官僚や騎士として働くケースが多いが、それでも平民と貴族の間と言う何とも中途半端な立場になってしまう。
新しく当主になると言うのは、その出家した四男が何らかの功績で国王陛下から新しい爵位を頂いた場合、長男と同じ家名で騎士爵や準男爵など承った爵位を名乗る事が出来ると言うわけだ。
しかし、今回はそのどちらでもなく。全くの新規参入であるので、家名をどうするのか決める所から入らなければならない。
リーンハルトの説明を捕捉するかのようにエトヴィンが話始める。
「家名の決め方だが、一つは没落した貴族家名を使用する。もう一つは他の貴族と被らない家名を考える。最後は、今回は当てはまらないが、地名を家名として扱うの三択だ」
没落貴族の家名、没落してしまい貴族の爵位を剥奪などされ、家名を名乗れなくなった家名。それを引き継ぐ事はアルデレール王国において最もポピュラーな決め方の一つ。次に多いのがその地域を収める街の名前や地名だろう。例えば、レカンテート村出身と言う事でレカンテート騎士爵と言う家名だが、今回は冒険者と言う事で難しく、また彼自身が領地を得ているわけではないので、この選択肢は使えない。国王陛下より爵位と領地を承った場合に決める事の出来る選択肢の一つ。
後は一から考えると言う選択肢だが、これは今いる貴族たちが使用していない家名を考えなくてはならない事から、かなり決めるのが難しい選択肢で、これを選択する場合は、紋章官へ確認を取りながら執り行われる。
紋章官は言わば、その国や周辺国家の主だった貴族の家名及び紋章を把握する特殊な役職業。各国に数名しかいないとされる、かなり狭き職業の一つだ。その内容に加えて紋章作成などのアドバイスなどもしてくれるので、家名を地域名として使用した時、紋章を考えなければならなければ、その手伝いをしてくれるのだ。
暫く考えた後に一から決める事にした。
「では、後で紋章官を呼んでおくので、共に考えておいてくれ・・・・それと、我が娘ティアナとリーンハルト候の娘リリーが其方に会いたがっているのだ」
そう言えば、あの件以降は一度も顔を合わせていなかった。此方は王都出発の為の準備や奴隷購入などに時間を費やしてしまったりと何かと忙しく、毎日を過ごしていた。
出発前には主だった人には挨拶をするつもりでいたのだが、その中にはティアナやリリーは含まれていない。彼女たちとは武術大会で知り合い、顔見知り程度の仲ではあるが、友達や仲間と呼べるほど親しくもないのだ。
唯一、エルフィーやエクスナー枢機卿には挨拶に行く予定ではいた。
「俺・・・自分にですか?」
「ああ、出来たら明日、王城に来てくれないか?娘たちがお茶会の準備をしていると思うから、それに参加してほしい」
どのみち、家名や紋章の事で明日来なければならないのだから同じことではある。
「ええ。時間を空けておきます。出来ればお茶会に仲間を同行させたいのですが、大丈夫でしょうか?」
出来れば、シャルロットを同行させたい。一人で女性ばかりのお茶会に参加するのは正直しんどい物がある。特に話題ッ!!
これが最大の難関。それと、俺自身が抱く罪悪感だろう。だから、それらを解消するためにも誰か一人同行させてもらえるのであれば、同行してもらう方向で話を進めたかった。
「んー貴族子女であれば問題ないかもしれないけど、平民だとおいそれと王城に入れないからね」
・・・・
この段階でレオンハルトは詰みの状態に陥る。
仲間の中で誰か一人でも貴族の位があればよかったのだが、誰一人として貴族ではない。
帰ってシャルロットと相談だな・・・・たぶん、お茶会も油断すると碌でもない事に巻き込まれそうな感じが犇々(ひしひし)とするし。
取り敢えず、明日のお茶会の話は一段落し、その直後ぐらいに紋章官が姿を現す。
何時呼びに行ったのかと思うかもしれないが、実はお茶会の話が始まった時に既に近くに控えていた執事に声を掛けて呼んできてもらっていたのだ。
「初めましてレオンハルト殿。私は紋章官のテオフィル・フォン・リームと申します。以後お見知りおきを」
三十代前半の様な少し優男な感じの男性が礼儀正しく挨拶をしてきた。彼のお辞儀に対してレオンハルトも自己紹介を行った。
「彼は、リーム男爵家の当主もされています。何か分からない事があれば、何でも聞いてくれて構わないよ」
リーンハルトが、彼の追加情報を話した。話の中で様々な事を知る事が出来、まず三十台で紋章官になれるのはかなり優秀でなければなれないらしい。本来は四十代に入ってからが基本と言う事なので、テオフィルは優秀なのだと言う事が見てとれる。
それに、男爵と言う立場でありながらも、上級貴族から下級貴族に至るまで幅広く信頼されている人物でもあったのだ。
それから暫く、紋章官と共に新しい家名を考える事となった。何時の間にかエトヴィンもリーンハルトも部屋にはおらず、それぞれの屋敷に帰ったと報告を受けた。それ程までに集中して家名をテオフィルと考えていたとも言える。
その日は、日付が変わる半刻程前まで話し合ったというのは、二人だけの秘密。
読んでいただき、ありがとうございました。
今回は、かなり少なめになってしまいました。本当はもう少し長めにしようと思ったのですが、
先週は何かと忙しく余り書けなかったので申し訳ありません。
今週来週は祝日等があるので、もう少しかけると思います。
今後も読んでいただけると、執筆者として非常に喜ばしい限りですので、よろしくお願いします。