048 治療と支度
おはようございます。こんにちは。こんばんは。
さて、海外出張も無事に帰ってまいりました。出張中ホテルで時間があれば執筆活動を進められたので、割と早い段階で今回の投稿内容を書き上げる事が出来ました。
今回は、奴隷たちの事がメインとなっております。
奴隷商で奴隷七人と契約を結んだレオンハルトは、彼女たちを連れて市場へと向かった。当初の予定は、馬や馬車を購入する仲間や日用品や食材などを買い足しに出ている仲間と合流する事だったが、予定とは異なる者たちと契約してしまったので、急遽予定を変更したのだ。
「先に皆の服を買おう。それからエリーゼとラウラをヨハンたちと合流させて馬車の扱い方の指導を再確認してもらう」
ヨハンとクルト、アニータの三人が馬車の購入に行っている。最寄りの市場からも乗り合い馬車が出ているので、クルトたちが居る場所まで乗り換えなしで行けるはずだ。
赤髪の女の子エリーゼと銀髪の女の子ラウラは、人族の奴隷で、二人は姉妹で髪の色は違うが、顔立ちはそっくりだ。エリーゼが姉で、年齢は十歳。アニータと同じ年齢である。一見さんお断りの奴隷商でも流石に髪の手入れまで力を入れていない為、髪は腰の辺りまで伸びてしかもぼさぼさだ。赤髪と言ってはいるが、汚れも多少あり少し濁った感じの赤色をしている。瞳も髪の色と同じで赤い目をしていた。
妹のラウラは、今年で八歳と言う事で姉とは二歳違う。ただ、まだ誕生日を迎えていない為現段階では七歳だそうだ。此方も姉同様に髪は無造作に伸び姉の方がストレートの髪だったのに対し、妹は弱めのウェーブが掛かった感じだ。手入れしたらストレートな髪に近づける事が出来そうなので、両親のどちらかの遺伝を受け継いだのかもしれない。瞳の色は、姉同様に赤い目をしていた。
二人とも馬車を扱う事が出来ると奴隷商で聞いていたため選んだが、出来なければ出来ないで覚えれば良いと言う思いもある。
二人以外の契約した奴隷は、最初に決めた人族の女性ローレ。元下級貴族ではあるが、しっかり勉学を行っていた様で、算術等は商売ができなくはなさそうなレベルで身に着けていた。年齢は十九歳と成人しているが、未婚である。それも彼女の今の状況を考えると出来ないと言わざる負えない。昔、解放骨折をした治療がお粗末だったために足が動かない状態に陥っている。しかもお粗末さが災いして折れた足が変形した状態で固まっている。
容姿は、悪くは無いが平たく言えば普通。髪は淡いクリーム色に肩ぐらいの長さがある。同じ奴隷でお世話をしてくれていた一人が、髪を切ってくれたそうだ。貴族時代の性格は分からないが、今はかなり大人しい感じの人。彼女を選んだのはシャルロットで、何でも自分たちの知識と魔法で足は元に戻せる。読み書きと算術が出来る人材を確保しておきたかったと後で教えてもらった。
次は、銀狐の獣人の子で名前はルナーリア。この子が、今回二人が見つけた何か感じる所があった者で、奴隷商のベルネット支配人が言うには、狐獣人の中でも珍しい色をしているそうで、一般的には薄い黄色だったり、白狐と呼ばれる種族や黒狐と呼ばれたりする種類もいるそうだが、銀色は見た事が無いと言っていた。白狐の変異色だろうと言っていたが、実際は天狐と呼ばれる狐獣人の中でもかなり優れた種族だ。エルフ族でいう所のハイエルフと同レベルだ。まあ、ハイエルフは王族やその血筋とされているが、天狐は王族と言う概念は無い。
あまりに知られなさ過ぎて奴隷商でも判別できなかった。それに欠損部位や視力低下があるため高く売れないとも言っていた。年齢は十一歳でレオンハルトたちと同じ年齢になる。
病弱の子は、名前が無いと言う事でソフィアと名付けた。最近奴隷商に引き渡されたらしいが、普段から身体が弱く良く寝込んでしまうと言っていた。奴隷商を出る時にシャルロットが『構造解析』と『分析』を行い、病状を確認した。診断結果は白血病。この世界では治療法がない不治の病だ。
レオンハルトに診断結果をこっそり教えると表情が険しくなったが、それは助けられないと言うわけではなく、ソフィアがこれまで苦しんできた事を思うと、そう言う表情が出てしまった。だが、前世の自分たちも知らない知識を恩恵で知りえた二人ならば、白血病は治せない病ではない。
それに白血病と言っても色々な種類がある。急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病だ。詳しくは説明を省くが簡単に言ってしまえば何らかの異常で血液に異常をきたす癌だ。
ソフィアはその中の急性リンパ性白血病と言う病に侵されていた。今すぐ死んでしまうわけでもないし、鎮痛剤効果もある水薬を飲ませたので、暫くは苦しくないだろう。宿屋に戻って治療すれば大丈夫と判断したのだ。
年齢は九歳なのだが、病からか見た感じは七歳ぐらいに見える。病が治ればもう少し見た目と年齢が近づくだろう。
最後は、黒猫の獣人の兄妹だ。兄の方はランと言い。年齢は十四歳とレオンハルトたちより少し上になる。妹を魔物から庇った時に左腕を食われて右腕にも傷跡が残っている。尻尾も半分噛みちぎられたようになっていた。猫の獣人と言う事もあり目つきはかなりきつめだ。黒猫を人型にした雰囲気のタイプで、人に猫耳が生えた感じの見た目とはかなり異なる。
妹は、リンと言う名前で此方も兄同様の見た目をしている。年齢は十二歳とヨハンやクルトたちと同じ年齢になる。顔に大きな傷があり、兄と一緒に襲われた際に傷つけられたそうだ。
市場に到着するとすぐに古着屋を探す。この世界の服はかなり値段がするしかも、子供の服は成長に合わせて新調していたらそれこそ破産しかねない。その為着れなくなった服を古着屋で売り新しいのを買うと言うスタイルが平民や下級貴族の間では主流となっていた。
流石に下着は新品を皆購入するか、自分で仕立てるらしい。
古着屋を見つけ、服を一人五、六着購入。隣に新品などを扱っているお店がありそこでも同じぐらいの枚数の肌着や下着を購入した。旅をするので外套も合わせて購入すると言い値を支払う事となった。ローレたちは申し訳なさそうに謝って来ていたが、必要経費だと説明して終わる。
それと、布も多めに購入しておいた。割と使う事が多いため、常備しておくに越した事はないし、大量に購入しても魔法の袋に仕舞えば量なんて気にする事は無い。
「ご主人様は、魔法の袋をお持ちなのですか?それも結構な量を入れておりましたが・・・」
エリーゼの質問に優しく答える。奴隷だからと無碍に扱うつもりは全くない。寧ろ、自分たちの奴隷で良かったと思ってもらえるように接するつもりだ。
「そうだよ。他にも幾つか魔道具があるから、また後日説明するね」
買い物を終えると店員に頼んで奴隷たちの更衣させる場所を提供してもらう。要は試着室だ。他の一般客も同じような事をするので別にお店側もその事に対しては何の文句も言ってはこない。ただ、店員に伝える事で自分たちの信頼性を上げる意味がある。
稀にだが、店員に伝えず、こっそり試着室でお店の服を着こみ最後に自分が着ていた服を着てそのまま何食わぬ顔で商品を盗む者が居る。それと一緒にされたくないと言う人たちが申告して利用するのだ。
着替えはシャルロットとリーゼロッテも手伝い行った。ランだけは男なので俺が手伝う事にした。片腕しかなくても器用に今まで着替えていたため、特に手伝う事もなかったが・・・。
その足で、荷車を魔法の袋に仕舞い。乗り合い馬車で、街の端に移動した。
四半刻程すると目的の場所が見えてきたので降り、少し歩いた場所にある建物へ向かう。
「此処は凄くのどかな場所ですね兄さん」
「ああ、気持ちいいな」
黒猫の獣人の兄妹は、陽気な天候と場所で非常に寛いでいる様子だった。街中に居る時は、兄は変わらない様子だったが、妹は何処か怯えた感じがした。
「リンは人が多い所は苦手か?」
奴隷になったばかりなので個々の長所短所がまだ探り探りのレオンハルト。顔色が悪かったのに此処に来て少し明るくなった彼女をみて人混みが苦手なのかと判断した。
「すみませんご主人様。人が余り多い所は苦手です。私の顔を見て皆気持ち悪がるので」
そう答えるリン。その表情は先程の明るさとは裏腹に悲しそうな表情で訴えてきた。レオンハルトはしまったという表情になる。またそれが更に彼女を暗くさせてしまった。
獣人族だからと言うわけではなく、彼女自身のデリケートな部分が原因の様でそこから来る視線や言葉が彼女を人混みから裂ける生活に変えてしまったのだろう。
「すまない。嫌な事を聞いてしまったようだね。後で宿屋に行ったら顔の傷を見せてほしい」
「あ、主ッ!!リンをどうするつもり・・・ですか?」
ランは、ご主人様とは呼ばず主と呼ぶ事にしたらしい。
そんな事はどうでも良いが、今はランが此方を険しい顔つきで睨みつけてくる。別に疚しい気持ちは一切ない。それを説明する。
「リンの顔の傷を治せるかもしれないから見せてほしいんだ。ラン、君も後で腕や尻尾を見せてほしい。他の者も同様にだ。こう見えても俺とシャルロットは、高位の治癒魔法が使えるし、大体の事なら対処できる」
皆その言葉を聞いて何一つ反応が出来なかった。高位の治癒魔法は使用できるだけでかなりの価値があり、国に管理される事もある。それに新しい傷は対処できても古傷や欠損個所を戻す治癒魔法は聞いた事もなかったからだ。
だから、幾ら自分たちのご主人様であろうとそれを鵜呑みには出来なかった。
しかし、こればかりは実際に見てもらった方が良いと判断し、話を切り上げた。
「ん?レオンくん来たんだ。丁度良かった今馬車をどのタイプにするか悩んでいたんだよ・・・ってこれはまた奴隷の人数がかなり多いね」
ヨハンはレオンハルトの後ろに居る奴隷たちを目にしてそう言葉にした。数人は契約してくると思っていたが、まさか七人も契約してくるとは思いもよらなかったのだ。
「これだけ人数が居るんだったら・・・馬車は二台から三台に増やした方がいいなー」
クルトが、馬車と馬車の間から顔を出す。そのすぐあとからアニータも顔をひょっこり出してきた。二人はさっきまで馬車をどれにするか真剣に見定めていた。
「此処にある馬車って何人乗り何ですか?」
馬車に十五人近く乗れるのであれば二台でも良いかもしれないが、少ないようであれば三台は必要になってくる。その為に先にリサーチも兼ねてヨハンたちを此処に向かわせていた。
「馬車の種類にもよりますが、基本的には小さい物で六人ぐらい。少し大きくして十人ぐらいかな」
十人乗りかー。と小声で呟きながら何人乗るのか数える。自分を含めた五人にユリアーヌたち三人、ローレたち七人で十五人十人乗り二台で足りるが、行商を行うのであれば少し余裕を持たせておきたい。
「十人乗り三台は必要かな?」
シャルロットもリーゼロッテもその意見には反対しなかったし、ヨハンもローレたちを見て考えた後、同じような反応を示していた。クルトとアニータは、皆に任せると言うスタイルの様だ。
二人は二台だろうが三台だろうが気にしていない。寧ろどの馬車にするかと言う事のみに集中して見定めていた。
「レオン。これ何てどうだ?箱型の馬車なんだが、屋根にも上がれる優れものだぞ?」
クルトがすすめてきた馬車は、箱馬車と呼ばれるもので、馬車の部分の座席の上に屋根を設置した物。強度的には野晒しや幌馬車に比べて高いが、その分重量が増えてしまう為、車軸が折れやすく。また、退く馬も少し多めに用意しなければ、速度が遅い。
値段も幌馬車に比べてかなり高い為、貴族でもない限りは手を出さない代物だ。
逆に幌馬車は雨風凌げるが、強度は弱い。しかし、その分軽量化されているので速度は出やすい。
「箱馬車は今回買うつもりはない。すみませんが、幌馬車を見させてもらえますか?」
クルトに買わない事をきちんと伝え、また此処のお店の人に幌馬車を見せてもらえるか確認する。既にこの部屋にも幾つかあるが、他にもあるかもしれないので確認も兼ねて尋ねた。
「構いませんよ。ただ十人乗りとなるとあのあたりになると思います。別の場所に十五人用もありますが見られますか?」
十人乗りの幌馬車は、全部で五台置いてあった。良さそうなのはあるが、一応十五人乗りの物も確認させてもらう。
場所を移し、最初に目が入ったのは、鉄製の馬車だった。それも箱馬車の様だが、屋根だけは木造との事。なぜこんな重装備の馬車があるのか尋ねると敵襲から身を守るためにある馬車との事。
まあ、この世界で鉄製の防壁に囲まれた馬車はかなり厄介との事を此処の人に聞いた。まあ、弓矢や投石などは効果が無いし、剣や斧も大して役には立たない。魔法も低レベルの魔法ではへこませるので精一杯だろう。
価格もぶっ飛んだ値段がしたので、候補としてまず間違いなく上がらない代物だった。
その鉄製の馬車の奥に木製の幌馬車があり、其方へ移動する。
デザインはシンプルな作りになっているが、使われている木材はかなり良い物を使用していた。何でもエント系の魔物をベースに頑丈な木材も多く使用しているとの事。また、幌の部分も魔物の革を使用しているとの事で、弓矢程度なら弾くほどの強度も持ち合わせている。
大きさは十人乗りに比べると大きいので、馬も三頭は必要になると教えられる。内装は座る場所以外に少し横になれそうな場所もあった。荷物を置くスペースもゆとりがあり、レオンハルトはすぐさまこれに決める。
値段は六十五万ユルド。日本円にして約六百五十万円になり、この世界の基本的な馬車の価格よりも少し高いレベルだ。
十人乗りの幌馬車で約十五万ユルドだ。しかし、これは六十五万ユルドとしているがレオンハルトはこれまで溜めたお金や賞金を得ているので、懐はかなり温かい。
足りない場合は、魔法の袋から売れる物を出して売ればよいだけ。
それから十人乗りの幌馬車を二台購入した。これは、一つはパッと見た感じ最初に気になった物で、もう一台はクルトとアニータがおすすめした幌馬車だ。箱馬車は断じて購入しない。
馬車を牽く馬だが、馬車一台に二頭付けるようにしたが、十五人乗りの馬車には四頭配置できるようにしてもらい。合計で八頭購入した。種類は全部統一させたが、色は黒色が二頭、白色が一頭、灰色が一頭、薄い茶色が二頭と濃い茶色が二頭だ。なぜこの配色なのかは特に理由は無い。
若くて、気性が荒くない馬を選択したらこの様な選択になった。馬の種類はハクネー種で、馬車を牽く馬の代表的な種の一つだ。前世と同じ名前と目的だが、異なるのが大きさだ。前世のハクネー種よりも一回り大きい。
本当は馬車用の馬とは別に駿馬を二頭ほど購入したかったが、今はいないらしい。と言うかいるが、子供の為、まだ時間がかかると言う事で今回は諦める事にした。
ただ、その仔馬を見てシャルロットがとても興奮して、育てたいと言ってきたのは予想外だった。まあ彼女が絶賛するのも分かるぐらい毛並みが整った可愛らしい顔の仔馬ではあった。
気が付けば太陽が赤く染まり始めて来ていた。この後はユリアーヌたちと合流して買い出しを行う予定だったが、今から合流していたら夕食の時間になってしまう。買い物は明日に変更し、一度戻る事にした。
此処での買い物はざっと百万ユルドを越えるぐらいの金額が掛かった。一括で支払った時はお店の人もかなりの驚きを見せており、慌てて事務手続きをしてくれた。まあ未成年の少年少女が一千万円もの大金を現金で支払えば何事かと思うのも当然の事。貴族のご子息、ご息女であれば、御付きの者がその場で支払うか後で持って来させるという形をとる。
だから余計に驚いてしまったのだ。
馬と馬車を繋ぐ馬具、馬車ハーネスを馬に合わせて微調整をするのと、馬車も点検やメンテナンスをしてくれると言いう事で、受け取りは三日後となった。
レオンハルトは、仲間たちやローレたちと共に市場へ戻る。
皆が市場の辺りにたどり着いたころには、太陽は既に見えないぐらいの位置にまで落ちており、代わりに薄暗い闇が空を覆い始めていた。王都の街中を巡っている大通りは、魔石を用いた夜照柱と呼ばれる・・・前世で言う所の街灯に灯りを発し始めていた。
魔石をただ発行させるだけの魔道具なので、金銭的価値は余りなく、使用される魔石もゴブリンなどの低級の魔物の物を使用しているので、材料費は安い。
魔力を少し補充するだけで十日ぐらいは持つので、金銭的価値よりも需要的価値の方が大きかったりもする。
宿屋の前まで移動したところで、ユリアーヌやダーヴィト、エッダの三人と合流、この時も契約した奴隷の多さに三人が驚いていたが、馬車を三台購入した事を説明するとそちらの方が驚いていた。主に金銭的な事に対して
夕食の時間となり此処に来て初めてローレたち奴隷と自分たちとの明確な差と言うものを感じてしまう。
「あれ?皆は座らないの?」
十人がけのテーブルを二つ用意してもらったレオンハルトは、四隅に立っていたローレたちにそう声をかける。
病弱のソフィアは、簡単な治療で立てる程度には回復しているが、完治しているわけではない。そして、ローレに関しては松葉杖の様な感じで、それでいて作りはかなりお粗末な杖に寄りかかって立っている。此処まで移動するのは奴隷仲間たちの手を借りてどうにか移動してきた。
「ご主人様、私たち奴隷はこの様な場所で、食事をとる事を許されておりません」
奴隷の代表としてローレがレオンハルトの問いに答える。他の奴隷たちもその発言を聞いて頷いているあたりこの世界での奴隷の在り方というものを痛感させられた。
ローレたち奴隷は、しっかりあの場所で奴隷として教育を受けていたとも言えるだろう。
ただ、彼女たちの言っていることは、正確に言えば正しくない。食事をとることは許されているが、主と共に食卓を囲うことは、あまり好まれていないと言うだけの事。
実際に主と奴隷が食事をしているケースもあるし、逆に壁際に立たせている者もいる。
「俺たちは構わないから、席に座って一緒に食事をしよう」
レオンハルトの言葉に半信半疑のローレたちは言われた通りに席に座った。だがそれでも表情は不安なままだった。
これはしばらく時間がかかると判断したレオンハルトだったが、それを察したのだろうシャルロットが、ローレや他の奴隷たちの元へ行きある事を話した。
その話を聞いた彼女たちは驚いた表情で皆を見て、それでようやく納得したのか表情に現れていた不安が少し取り除かれた様な気がした。あとで何を話したのか聞いてみたら、非常に簡単な事だった。俺やシャルロットを始め、此処にいるほとんどの者は、孤児院出身なのだと、そしてエッダたち二人も冒険者として活動してきた者。レオンハルトが多額の資金を所持していたことから貴族の子息がお忍びできているのだと勘違いしていたらしく。余計に身分の差というものを恐れていたという事だ。
「ご主人様、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
ローレに続いてエリーゼがレオンハルトたちにお礼を述べる。
「気にしなくても良いと言っても気にするだろうから、先に言っておくけれど、皆には俺たちがする行商の手伝いをしてほしい。だから、奴隷であっても仲間だと考えているんだよ」
「無理なことは言わないから安心して良いよ」
レオンハルトの言葉に追加説明をするシャルロット。リーゼロッテたちも「大丈夫だよ」とか「皆優しいから」と声を掛けている。まあこういう時に気の利いた声を掛けてあげられるのが女性たちの優しさだろう。ヨハンも女性陣に近い感じに声を掛けていたが、ユリアーヌは「皆強いから大丈夫だ」と少し違うフォローをしていたし、ダーヴィトは頷くだけ、クルトに至っては、調子の良いことばかり口にしていた。
彼らしい明るい部分でもあるが、こんな場面で発揮しなくても良いのでは無いかと考えてしまった。
レオンハルトとシャルロット、ローレたち奴隷のみんなと一緒のテーブルに座り、リーゼロッテやユリアーヌたちがもう一つのテーブルに座った。適当に飲み物を頼み、料理も適当に頼んだ。遠慮しながら飲み食いしていたが、次第に彼女たちの頬が緩み美味しそうに食べる。
同年代ぐらいの者たちなのにその食べっぷりは、子供のように見えてしまい。気が付けば親の様に二人は対応していた。
シャルロットは、空のお皿を渡して新しい食事を手配しそれを取り分け、レオンハルトは飲み物を中心に軽くつまみながら、皆の様子を眺める。
まあ、二人とも精神年齢というか中身が良い大人なので、こういった感じになっても可笑しくは無いが、周囲から見たら、主人と奴隷との関係が逆に見えて、自ずと周囲の目が此方へ集中していた。
「ご主人様、これすごく美味しいです。あっ・・・・」
姉妹奴隷の妹ラウラが嬉しそうに話しかけてきたが、周囲からの視線に気が付き、立場と言う物を再認識した。ラウラが急に元気がなくなってしまった事で、周りに居た奴隷もそれに気が付き同じように大人しくなってしまったが、気にしなくて良いと伝え、食事を再開する。食べるには食べるが、先程までの元気が見られず、それ以降は大人しく食べ進めて行った。
(此れから徐々に慣れていけば良いか)
全員分の会計を済ませると各自自室へと戻った。レオンハルトはこの後、シャルロットと共に奴隷たちの治療を行う為、奴隷たちと残り、リーゼロッテとヨハンもその手伝い兼見学のために残った。
二人とも、治癒魔法の適性があり、簡単な怪我などは魔法で治せる。しかし、病気については一切触れてきていないので、此処である程度知識として認識していると後々、教えるよりもだいぶ楽にできる。
まず手始めに、ローレから治療する事にした。彼女は解放骨折により適切な治療を行わず放置していた事で足が変形してしまっていた。しかも骨も正しい位置にない状態で、治しているので、足に力が入りにくく、体重を乗せたら場合によって激痛を伴うらしい。
奴隷たちの治療をする中では比較的簡単な事例だろう。現地の人間からしたら治療不可能な事例ではあるが、高貴のそれこそ枢機卿クラスの実力者であれば治せる者も居るが、その場合治療費がかなり高く、到底払えるレベルではない。どっちにしても詰みの状態だ。
「ローレ。まずは君から治していく。そこに横になってくれるか?」
彼女たちの部屋を用意しており、その部屋の一角のベッドで仰向けの状態で横になってもらった。三人部屋なので、同室者はエリーゼとラウラの二人だ。もう一つの部屋にはソフィアとルナーリア、リンの三人。ランだけは男なので、一人部屋を用意した。
エリーゼとラウラは健康体の為、治療を行う必要はなく、レオンハルト以外に三人もこの部屋に入ってくるため、申し訳ないが部屋を出てもらった。
「さて、ではローレの様な適切な治療を行ず、放置され変形してしまった骨を治す方法を教える。まずはこれを見てくれ」
レオンハルトは一枚の大きな羊皮紙を取り出す。これは予め書いておいた人間の骨の構造だ。要は人体骨格模型の図面版だ。骨の構造を事細かに記載しており、その骨の部位までも記載したかなりのお宝と言えるだろう。
実際に同じような物はあるが、これほど精密な物ではない。実際に解体して模写しているが、細かな骨やつなぎ目はあやふやで、しかも燃焼により残った骨や土葬で発掘された骨を解析しているので、本来あるはずの骨が無かったり、別の位置についていたりする。
それでもかなりの価値があるのに、それを凌駕するその羊皮紙に描かれた図面に二人は、驚きを通り越して呆れていた。
「一体いつの間にこんなものを作ったんだい?」
ヨハンの問いかけに、「暇な時」と答えるレオンハルト。彼は、最初から購入した物ではなく目の前の人物が自分で書いた物だと確信していた様で、リーゼロッテも「暇な時ってあったっけ?」と考えていた。
そんな高精密な人体骨格図が記載された羊皮紙を使って、今の彼女の現状を説明する。
「解放骨折は、そのままにしておくと傷口から病気の元となる物が入り込んでくる危険性がある。これが入り込んで放置すると最悪、足を切断しなければならないが・・・・今回は、その心配はない」
切断と聞いた時のローレの表情は、顔面蒼白状態になるが、その後の言葉で少しだけ安心する。
「ただ、切断はしないけれど、今のままだと足は動かない。なので、きちんと骨を繋げるためにもう一度その場所の骨を折る必要がある」
この治療法は前世のやり方ではなく、この世界のやり方だ。前世であれば折るのではなく手術で骨の位置を正常に戻し、また余分にできた骨を削ったり、必要な個所に骨が無い場合は、専用の金具やプレートなどで固定したりする。
手術をできる環境ではないし、そんな手術道具も専用の器具もない。しかし、この世界には魔法がある。これは、使い方によっては、かなりの効果を得られるのだ。
前世での手術が必要な処置も魔法で一瞬にして治せてしまう。まさに前世で言う所の奇跡と呼べる神の御業だろう。
「まずは、この個所の骨を折って魔法で治す。その次は足首だ」
「え?足首?そこは、骨は折れていませんが・・・」
ローレは、一瞬レオンハルトが何を言っているのか分からず聞き直した。彼女言う通り、解放骨折をしたのは、足首ではない。寧ろ足首は骨折どころか捻挫もした事が無い。それでもレオンハルトは、その足首を一度折る必要があると言った。
『構造解析』と『分析』を行いその結果から導き出した治療方法。それは、変形した足で生活していった事で足首の骨も歪んでしまい。しかも日頃動かさない事が多い為、固まってしまい、可動範囲が極端に狭くなっている。それを直さない事には、変形した足を治しても歩く事は難しい。そう判断したからである。
そう説明をすると皆納得した様に彼女の足首を見た。足を浮かせている時はそれ程おかしく感じなかったが、足を地面に付ける事で、少しだけ歪んでいる事が分かり、次に足首を動かしてみると動きが非常に悪かった。
「なるほど。身体とは動かさなければ自然に固まって動かしにくくなるのか」
ヨハンは、レオンハルトから簡単な医学を教わり、それを一生懸命自分の羊皮紙に記載していた。
「そう言う事、だから最初は変形した場所を治し、その後で足首の骨の矯正を行う」
リーゼロッテとヨハンは、頷きながらこれから行う治療に集中した。シャルロットは、その間に痛みを感じない為の麻酔効果と同じ効果を持つ魔法でローレの足の感覚を遮断した。
「ではまず、この場所からだ。・・・・・ハッ」
手を当て変形した場所に一気に力を込めた。叩いたり握りつぶしたりしたわけではない。単純に当てていた手に力を込めただけ、たったそれだけで変形した足の骨が折れる。それも痛々しい程の音を立てて。
「――――ッ!!・・・・・あれ?」
折れた音だけで痛みを感じた風になってしまったローレだったが、その後に来る痛みが一切ない事に不思議がる。まあ麻酔を掛けているのと同じ状態なので、痛みは感じないはずだ。まあ痛みは感じなくてもその音と説明から聞いていた治し方で痛みを勝手に脳が認識して反応してしまっただけの事。
「痛みは無いはずだよ?さて、もう少し行った方が良いかな?・・・ハッ」
再度、同じ手順で骨を折った。まるで当たり前の様に骨を折るレオンハルトだが、これは単純に彼の技量と魔法の複合があって出来る代物だ。まあ、技量の方がかなりあるが。
やはり、折れる音に反応するローレ。他の二人も同様の表情をしていた。
「レオン君こっちは押さえておくから」
「頼む。此処の骨は不要だな。新しくできた骨の様だし、それに境目の邪魔にしかなっていない」
レオンハルトとシャルロットは、凄まじい速さでローレの足の変形個所を治していった。歪んでいた足を元の位置に戻し、それに合わせて足自体も少し整えていく。変に伸びてしまっている健や血管は、魔法で治すのでそのままにしているが、逆に縮こまっている方は、徐々に伸ばしていく必要があった。
健を伸ばす時には、少し痛みが感じられたようで、ローレの顔が少し歪む。
「血管や筋を伸ばしておかないと後で、魔法で治した時に切れたりする可能性があるからな」
そうやって二人がかりでローレの治療を行った。足の変形は見事に治り、その流れで足首の関節の矯正も行う。やはり、骨を折る時に聞こえる音が生々しくて、咄嗟にリーゼロッテとヨハンは足首を押さえていたが、そんな事は気にせずに進める二人であった。
「これで、足の感覚が戻ってきたら力を入れてみてくれ。最初は違和感を覚えるだろうが、次第に普通に感じてくるはずだ」
レオンハルトとシャルロットは、その手応えから完治していると分かっている。それでも、今までほとんど使ってこなかった足だけに、感覚的なものを気にかける。
二人の不安とは別にローレは、突然その瞳から涙を流し始めた。これまで動かなかった足を・・・見た目が異質になっていた足を治してくれた。それだけではなく。日常生活を普通に送る事が出来る様にまでしてくれた。
これまでの思いが一気にあふれる形で泣き始める。
「では、麻酔効果が切れるまで、後半刻程でしょうからそれまでの用事はエリーゼとラウラに行ってもらいましょうか。任せても大丈夫?」
数分近く、感激のあまり泣いていたが、それも次第に落ち着き始める。その頃には、エリーゼとラウラも自室に戻ってきており、ローレの足を見て二人も感激のあまりに一緒に泣いていたが、シャルロットの言葉に「わかりました」と答えた。
レオンハルトとシャルロット、リーゼロッテにヨハンの四人は次の場所へ向かう。
後残されているのは、ソフィアの急性リンパ性白血病の治療と欠損部位の修復が必要な銀狐の獣人ルナーリアと黒猫の獣人兄妹、ランとリンの二人だ。
欠損部位は、彼らからしたらお手の物なので、先に此方の治療をする事にした。と言うわけでまず手始めに黒猫の獣人の兄ランからの治療の為、彼の部屋を訪れるが、彼は一人部屋にしている関係上、四人全員が入るのは難しく、レオンハルトとヨハンだけ入室した。
シャルロットはその間に妹の治療へ向かう。
「ヨハン。欠損部位は難しくない治療だけど魔力はかなり消耗すると思う。失ったものを再構築したりするからだ。だから、自身の残りの魔力量はしっかり把握しないといけない」
レオンハルトは、ヨハンに指導し、シャルロットはリーゼロッテに指導する。
「それと、治す形をイメージする事が大切です。これが曖昧になってしまうと形は元通りにはならないから、リーゼちゃん気を付ける様にしてね」
指導の傍らで、手早く二人を治療する、レオンハルトとシャルロット。
ランは、失った腕と尻尾などを治療し、リンもまた尻尾や猫耳などを治療してもらう。ついでに魔物から受けた傷も綺麗さっぱり治療して見せた。
「元あった物を想像で修復させてるのかい?」
リーゼロッテの方は「わぁー凄い」と言う感想だけだったのに対してヨハンは先程レオンハルトが行った欠損部位の復元をきちんと自分の中に落とし込もうとしている。
欠損部位を復元できる魔法は魔力量と精密な魔力制御が出来れば、難しい魔法でない、しかし教えられるものが居ない為、高難易度の魔法の一部となってしまった。
「ああ、因みに詳しい事は後で説明するが、形や色だけを想像してはいけない。それだけは肝に銘じておいてくれ」
「・・・・わかった」
そう、欠損部位の復元で多くの人が挫折するのは、表面のみを気にして治す為、うまくできたとしても動かない、感覚が無いなどの問題が発生してしまう。
これで、三人の治療が終わった。レオンハルトは、残り二人が居る部屋へ移動を始め、シャルロットは銀狐の獣人ルナーリアの欠損部位を復元させるため彼女が居るベッドへと場所を移した。
コンコン。
リーゼロッテは、ノックの音を聞きドアを開けた。
「ルナーリアの治療中か・・・・リンは無事に戻ったみたいだな」
「リンッ!!」
レオンハルトの後ろに立っていた。兄のランが勢いよくドアを開けて中に入ってきた。本来であればご主人であるレオンハルトよりも先に部屋に入ることなどあってはならないが、実の妹の欠如部分や傷が治っていると分かると嬉しくてついそれどころではなくなっていたのだ。
「にいさんっ!?あれ?にいさんも手がある・・・・手があるよ。うぅ、うぇーん」
素晴らしい兄妹愛だなと感心すると共に周囲へ迷惑になるので、慌てて『範囲遮音』で周囲へ音を聞こえない様にした。
だが、外へは聞こえないにしても魔法の効果範囲内に居る者には、普通に聞こえる。
「これ程、喜んでもらえるとはね。シャルそっちは終わったかな?」
ルナーリアの治療を行っていたシャルロットの方へ視線を向けると、丁度最終的な部分が元に戻った所だった。最後にその他に異常がないか魔法で確認をして、実際に動かしてもらう。これで問題が無ければ完治したと言う事。
失ったはずの尻尾は綺麗な毛並みとなりユラユラと揺れる。両耳の半分が欠如していた所も、音に合わせてぴくぴくと動かしており、その動きから問題ない事が伺えた。
彼女もまた、他の者と同様に喜びあっている。ソフィアは皆が順番に回復している事をしり、共に喜びたい気持ちでいっぱいになっているが、彼女が奴隷の中では最も重症な症状。
今までの後天的な外傷により出来た類と後天的な部分を同じでも、身体の異常によって引き起こされた病気とはかなり異なる。
「ソフィアの番だが・・・・・何処をどの様に手を入れれば良いか・・・」
治療方法の道筋は既に決まっているが、それをどの順番で行うのが効率的で効果があるのかは実際に治療をしてみないと分からない。
これまでとは違った深刻そうな表情で見ているとソフィアは不安に陥ったのか表情が暗くなっていく。前世では複数の薬を併用する事で治療可能だが、この世界にはそれが無い。魔法で対処するには、一つ一つ魔法で同じ状況を作り出すしかないのだ。
だから、不可能ではない。単純に難易度が高いだけだ。
「ソフィア。これから君の治療を行う。これは極めて難しい治療になるだろうが、安心してくれ、俺とシャルが必ず君を治して見せる」
「安心してソフィア。持てる力を最大限に発揮して見せるから」
二人は互いにソフィアの身体の胸部と腹部に手を当てる。
(まずは、魔力循環で彼女の血液の状態を掌握)
(うん。これね。うわ・・・此処はかなり不味い状況ね)
無言のまま治療はすすめられた。二人の手からは暖かい光が発せられ、触れている部分はじんわり温かみも感じて来ていた。
それとは反対にレオンハルトたちは額に汗が滲み出始めていた。リーゼロッテは素早く二人の汗を拭きとる。長年共に歩んできただけあって阿吽の呼吸の様に素早く行動を起こすリーゼロッテに奴隷たちは圧巻していた。
気が付けばローレとエリーゼ、ラウラもこの部屋にやって来て、レオンハルトたちの治療を眺める。
「すごぃ」
誰が言ったのか分からないが、その言葉は誰しもが感じ取った言葉だ。
(骨髄内細胞の形成状態・・・だったら、フィラデルフィア染色体は・・・・このタイプか。だったら)
触診から魔法で血液検査を済ませて次々に問題点を洗い出す。
(此処に循環管を増設して、この先の血管を排除する必要もある。だったら、バイパスを通す必要もあるのか)
レオンハルトは治療法を模索し、シャルロットは使用できない血管箇所やその対処法をこと細かく羊皮紙に記載していった。
「リーゼ。点滴を一本準備してくれるか、終わったら声を掛けてくれ。シャルは、すまないが点滴に合わせる薬の配合も頼めるか」
レオンハルトの指示に素早く動くリーゼロッテとシャルロット。点滴を準備したのは、症状を緩和させていた鎮痛剤がそろそろ切れる恐れがあるため。リーゼロッテが点滴の準備を終えるとそのまま点滴針を彼女に刺した。リーゼロッテは、注射などの散々練習をさせられたので刺すことはできる。薬の配合などは知識がないためお預けのままだ。
「リーゼこっちに来て手伝ってくれ。シャル鎮痛剤の用意ができたら教えてくれ。ヨハンは、彼女のバイタルのチェックを頼めるか?」
テキパキと指示を出しながら、ソフィアの治療を行う。何工程かしたら、彼女の表情が良くなり始めた。今行なっているのは、全身に張り巡らされている血液を全て綺麗にしているところだ。血液を作る骨髄はその前に綺麗にしたので、後は血管から伸びる先、所謂人体全体を魔法で治せば完治するところまでに至った。
「ソフィア後少しだ。最後の工程が終われば、君を苦しめてきた病気とおさらば出来るぞ」
まだ、完治には至っていないが、ほぼ完治状態になったことで、他の奴隷たち同様に嬉し涙を流す。
そんな中最後の魔法、聖魔法『抗菌治癒』で、ソフィアの身体の内部を健康体に持って行く。初めに『抗菌治癒』を使用しなかったのは、急性リンパ性白血病の大本には効果が無いと分かっていたためだ。『抗菌治癒』はあくまでも細菌などのウイルスに対して有効であり、今回は使ったとしても、急性リンパ性白血病の効力を弱めれるぐらいだろう。しかも焼け石に水と言うレベルの代物だ。
急性リンパ性白血病の治療も無事に終わり、一行は軽い疲労を感じながらもやり遂げた感に浸る。最後に『抗菌治癒』を使用した事で、レオンハルトはややぐったりしていたが、それ以外の者は、割と気だるそうではあるが普通に会話をしていた。
「ご、ご主人様ッ!!ありがとうございますっ!ありがとうございますっ!!」
「こんな、こんな奇跡の様な事があるのでしょうかっ!?」
「自分、ご主人様に一生ついて行きます」
ルナーリア、ローレ、ランとそれぞれの心境を口に出して喜んでいたが、ランの最後の言葉は「一生、奴隷で傍に置いておく気はないよ」と言いかけた所で、他の奴隷たちも同様の事を言い始める。
不味いと止めに入ろうとするが、奴隷たちのテンションは今、最高潮にあるため、全く聞く耳を持っていなかった。
周囲に迷惑にならない様に魔法で対応済みなので問題ないと言えば問題ないが。
でも、一生残る傷や何時亡くなってもおかしくない病、行動を著しく制限してしまう欠損部位や変形などそれらを一晩で元の健康体に戻したのだから、大はしゃぎをしても仕方がないかと、止めるのをあきらめた。
流石に最後の方で、レオンハルトやシャルロットを何て今後呼ぶかで口論になり止めに入ったりはしたが・・・。
ご主人様は、恥ずかしいがまだ許せる。主様、これもまあ許せるだろう。若様やお館様の候補も出ていたが、これに関しては要件と該当しないのでそれ程問題には感じられない。しかし、最後には神様や賢者様、聖人様と呼ばれるのは、どうかと思う。
シャルロットも聖女様や若奥様など呼ばれた時には、顔を真っ赤にしていた。特に若奥様の時は何やら呟きながら十面相の様に表情がコロコロ変化していた。
結局の所、奴隷たちはレオンハルトの事をご主人様と呼ぶことを決め、シャルロットたちの事は、そのまま様付けで呼ぶ事にしたらしい。
レオンハルトやシャルロットたちが寝るに至ったのは、朝日が昇る一刻程前にやっとベッドの潜り込む事が出来た。
(喜んでもらえたのは、良かったが、疲れたなぁー)
今日の出来事を振り返りながら、そして明日はどうするのか大まかな計画を頭の中で練り上げて、重い瞼を閉じ、意識を手放した。
読んでいただきありがとうございます。
暫くは、のんびりした内容を投稿する予定ですので、戦闘シーンを期待される方はしばしお待ちください(誰も興味ないかもしれませんが^^;)
それはそうと、折角海外出張で、ほんの僅かですが、風景や観光、ホテル、街並みなど撮影しています。
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インスタはしておりません。と言うかやり方が分からないので手を出していません(笑)
いつもの様に誤字脱字等ありましたらご連絡下さると助かります。
次回からは、通常通り毎週日曜日朝7時頃に投稿しますが、本業の国内外の出張が多く投稿が遅れた場合は申し訳ございません。




