047 大人買い?・・・いや○○買いです
おはようございます。
前回は、投稿できずに申し訳なかったです。
それと今回は、のんびりした?話になると思います。
暫くは日常的な話を書いていきますので、よろしくお願いします。
玉座の間から出たレオンハルトたちは、時間が遅かったこともあり王城にある客室へ泊るよう案内されるが、あまり窮屈なものを好まない上、仲間たちも緊張で疲れているように感じた為、丁重にお断りして王城を後にした。流石に徒歩で帰るわけにはいかないと言う事で馬車を来る時同様に出してもらい。シャルロットたちが泊まっていた宿へ向かう。
白兎亭と言う名前の宿。大会時に利用していた宿と同レベルの宿屋だが、魔族襲撃の折に被害に遭い現在は修復に勤しんでいる。まあ爆風で壁に亀裂が入ったり、窓が全て破損したりしているぐらいなのだが、手伝いをお願いしようにも人手不足の為、亭主と奥さんと看板娘の三人で片付けている。
白兎亭は、魔族襲撃時の被害を受けたが、損傷が少なく割と早い段階で営業を開始していたのだそうだ。
宿にあるレストランで食事を済ませて、個々に休んだ。
翌朝、ユリアーヌやクルトたちが拠点として使用していた商業都市オルキデオへ向かうため準備を開始する。馬車の定期便で行くのも良かったのだが、これだけの人数が居る上、商業都市オルキデオで用事を済ませると、商業都市プリモーロや交易都市イリードにもよって帰りたいし、そのまま一度レカンテート村に立ち寄っても良いかもしれない。
南下しても良いが、ある程度行くと海にぶつかってしまうので、北上する事を事前に決めていたレオンハルトは、イリードを過ぎた後、恐らく海隣都市ナルキーソで最後の準備をした後、マウント山脈を越え、他国へ足を踏み入れようと算段する。
行商を行うにしてもまずは商業ギルドで正式な手続きを行う必要があるため、宿を後にした。
「行商をするとして、誰が主となるんだ?」
「それは、レオンくんの集める奴隷でしょ?私たちがしてもいいけど、メインは冒険者だから、空いている時間にしかできない」
「それと、馬車を購入する必要があるか、俺とレオンが得た賞金でそこそこの物が買えるしな」
ダーヴィトにエッダ、ユリアーヌたち年長者が、商業ギルドへ行く前に何をすべきか話し合う。その中にはレオンハルトとシャルロット、リーゼロッテにヨハンも加わっており、クルトとアニータは蚊帳の外。
結果、商業ギルドへ行く前に馬車の購入とそれを牽く馬の購入、それに世話の仕方について学ぶ必要がある。あとは、奴隷の手配だろう。馬の世話や馬車の扱いについてレクチャーしてもらうつもりでいるため、奴隷の購入が先かもしれない。
そうなってくると、奴隷の為の服や小物、生活必需品で一日が終わる事も考えられなくはないが・・・。
取り敢えず、先に奴隷商へ向かうことにしたが、道中に全員が向かわなくても良いかと判断して、奴隷商にはレオンハルトとシャルロット、リーゼロッテの三人が行く事になり、ヨハン、クルト、アニータの三人が馬車の購入へ、ユリアーヌとダーヴィト、エッダの三人が食材の買い出しに行く。
「購入する物は、食料などを多めに買えば良いんだな?」
「それで、良い。購入した物は、宿屋に届けてもらうようにしてくれ。亭主には話をつけておく。それと、綺麗な布もある程度必要になるから購入出来たらしておいてくれ」
それぞれに指示を出し、金貨や銀貨の入った袋を二つ、ヨハンとエッダに渡す。
六人は先に出発し、レオンハルトは白兎亭の亭主に荷物の受け取りのお願いをし、亭主の手に銀貨一枚を握らせた。賄賂ではなくチップだ。こうする事で、頼まれた相手はお願いされた内容を気にかけるようになるのだ。
とはいえ、心づかいの様なものの為、チップを渡さない人たちも居たり、渡しても極僅かの金額を握らせたりと言う事も良くある。まあ、金額がピンキリなので大体の目安は頼んだ内容に合わせて渡したりする。レオンハルトが渡した銀貨一枚は、受けたお願いからすると破格の金額だ。普通は銅貨一枚か二枚程度のもの。
銀貨を見た亭主が、快く引き受けてくれ、しかも届いた荷物を部屋まで運んでくれる事になった。
「さて、二人とも行こうか」
レオンハルトたちは、そのまま奴隷商のもとに向かう。
宿屋からそこそこの距離がある為、王都内を走行する乗合馬車で移動。暫くしてから、目的の場所に到着する。そこから徒歩で向かった。
大通りとはまた違った雰囲気の通りを歩いて数分、奴隷たちを扱っているお店に到着する。お店の周囲からも感じたが、人の行き来が少ない。だからといって治安が悪いようにも見えなかった。行き来する人が少ないのは、現在いる場所の周囲のお店による問題で、奴隷商が数件あるため、食材や日用品を買う感覚で人が来たりしないためだろう。
その中の一角に大きなお店があり、そこがこれから行くお店になる。奴隷を扱うお店の中でも大手のお店で、一見さんお断りという普通では中々入れないお店だ。
奴隷を扱うお店もピンキリで、お店なのかと疑問に思うような場所で、格安に取り扱っているお店もあれば、今回のような格式が高いお店もある。格安で奴隷を購入するお店の奴隷は、殆どが衰弱しきっているか、部位欠損、重度の病気を持っていたりする。後は違法な方法で仕入れた奴隷たちだ。
こう言った者を救ってあげたいと言う思いも元日本人として、持ち合わせているが、全てに手を差し伸べることは難しいので、こう言った奴隷は、今はどうすることも出来ない。
それに、今回初めてこのような場所にくるので、ハードルが高いとも言える。
加えて一見さんお断りのような格式のあるお店でも、衰弱しているものがいないわけではないし、病気持ちの子も当然いる。そういった奴隷たちへきちんと対応しているため、死に至るような状況にはない。目が見えない奴隷だからと使えない対応をするのではなく。目が見えなくても行える仕事の教育を施している。
質の良い奴隷と言えるだろう。
「キミたち、此処は子供だけで来る所ではないし、うちは普通の人は入ることができないお店なんだよ?だから早くお戻り」
店の入り口に立つ警備をしている熊の獣人に追い返されそうになる。
「いえ、自分たちは許可証を持っているので、入れると思いますよ。これが許可証です」
許可証を見せると熊の獣人は、それをまじまじと見て驚く。そして失礼をした事を謝り入口の扉を開けた。
中の見た目は、思いのほか狭かったが、奥に幾つか部屋があり、契約をしたりする場所らしい。入口から入ると直ぐに係の者が現れ、挨拶を始めた。
「私は此処の支配人をしております。ベルネットと申します。以後お見知り置きを」
身なりの整った中年の人族の男性が現れた。此方が子供であったとしても丁寧な対応に流石、普通の人は入れない格式の高いお店だと思えた。
「はて?お客様は此方を利用するのは初めてですよね?御顔を拝見したことがないと記憶しているのですが?」
許可がないと警備が入れることはないが、再度此処でも確認を求められる。許可証を同じように見せると、流石に驚く表情はせず、どこか納得したように頷いた。
「ありがとうございます。貴方様がレオンハルト様でしたか。この王都をお救い頂き誠にありがとうございました」
名前を名乗っていないのに此方の事を知る支配人。不思議に思っていると向こうからその訳を話してくれた。なぜ知っていたのか、それは事前にアウグスト陛下の指示で許可証を取り寄せる際、渡す相手の情報を少しだけ説明していたからだと。
まあ、大体は事後報告だったり、推薦者と同行して許可証を入手したりするらしいが。
その後、どの様な条件の者を探しているのか問われる。
今必要としているのは、馬車を扱える者、商売の経験やお金の計算が出来る者、行商を行うため馬の世話など雑事が出来る者、それらの条件に合わせて旅を兼ねるため、それを行なっても良い者と条件を提示した。
「そうですか。・・・予算はどの位で何人ぐらいでしょうか?」
更に細かい事を確認する。レオンハルトとしては、馬車を二台若しくは三台は必要と考えており、それを操る者に一台二人と考えると四人から六人は必要となる。また、行商時の者を兼務させるか個別に配置するかで、人数が少なからず変わってくる。
「予算は金貨五枚ぐらいで、人数は実際に見て判断したいけれど可能か?」
「良い奴隷が居たら複数人購入していただけると言う事ですかな?」
ベルネットの質問に頷くと、神妙な顔つきで検討し始めた。ベルネットは、即座に奴隷の情報とレオンハルトの提示する情報を照らし合わせ、候補者を見繕った。
「では、契約奴隷は避けた方が良いでしょうな」
契約奴隷は、借金などで売られてしまった、または借金を抱え返済するまでの間を奴隷として働くと言った奴隷たちの事で、借金などが無くなれば雇用解除しなければならない。
それと、あまり地域を離れられない制限もある。奴隷が拠点としていた地域を離れる場合は、契約後にその拠点に戻るための運賃を雇用側が見ないといけないので、だいたいの人はお店の手伝いや屋敷の給仕などが殆どだ。
そして、程無くしてベルネットは、何人かの候補者が居る場所へと移動するため案内を始めた。
壁際にある階段から上層へと上がった。
「まずは、二階にあるこのフロアになりますが、此処は当奴隷商のおすすめの奴隷が居るフロアになります」
条件とは異なる奴隷を紹介されて、レオンハルトたちの警戒が少しだけ上がったが、これは初めて訪れるお客に対して毎回行っているとの事。最も質の良い奴隷及び金額を知りその上で、これから見る奴隷と比較してもらう為だそうだ。
檻ではなく、一つの部屋に数人が暮らすスタイルの様だ。中に居た奴隷もとても質の良い事が見てとれるレベルの奴隷たちであった。
「あの者は、某国の元上級貴族の娘でございますし、そこに座っている者たちは没落した貴族の娘たちでございます」
購入するつもりもない奴隷の説明を始めるベルネット。他にも元大商人で没落した跡取り息子や娘、戦闘能力が高い者、魔法に優れている者、かなりの美少女や美女もこのフロアに居た。
人族以外にもエルフ族やドワーフ族、獣人族なども居た。エルフは一人しかいないが、獣人族は色々な種族が奴隷として存在していた。このお店で最も高い奴隷が亜人族の竜人種だと言う。価格は金貨五百枚以上と破格の金額だった。次の奴隷でも獣人族の銀狼種で戦闘奴隷としても優秀な奴隷だろう。正確な実力は分からないが、マウンテンゴリラを三体程度なら苦戦しつつも相手にできる程との事。その人物でも金貨二百八十枚近くはするらしいが、竜人種とはかなり差が出来てしまっている。
おすすめと称していたが、高額の奴隷のフロアであった。そこから三階へ上がり、階が上がるにつれて能力も価格も下がってくる。
良い奴隷商は上へと昇るシステムらしいが、普通は前世のサーカスの様なテントの中で、動物を飼育するような檻に入れていたり、地下へ降りて行くシステムで、牢屋の様に閉じ込めていたりする。
三階に上がったレオンハルトたち三人は、奴隷たちを観察する。
「此方に居る奴隷は、元下級貴族の家系や商家の者です。学力的にも申し分ない教育を受けていますので、行商などの算術にはさぞお役に立てるかと・・・」
人族が主となっているようだが、獣人族の子も何人かいた。能力的に良くても元貴族出の者を奴隷として雑務をさせるのは些か気が引ける。それに、馬などの世話を考えると平民の方がそれ程気にせずに世話をしてくれるだろう。
「算術は、此方でおいおい教えます。出来れば馬のお世話などの雑務が出来たり、馬車の操縦が出来る者が良いのですが・・・」
「なるほど。・・・・であれば、彼女はどうでしょうか?この階ではあまり人気が無いのですが、とても気が利く娘でございますよ」
紹介されたのは、十七、八歳ぐらいの人族の女性。出自は元騎士爵家の五女。貴族であったが、彼女が幼い頃に没落。かなりの田舎でひっそり暮らしていたそうだが、盗賊に襲われ村はほぼ全滅。生き残った複数の者は辛うじて離れた村に逃げ込み助かったが生活する事が出来ない為、奴隷商に身売りしたと言う事だ。
王都や周辺の街よりも貧しい生活を送っていたと言う事で、買い手が付かず中々売れずにいるらしい。性格は穏やかで、嗜み程度の算術が可能。加えて文字の読み書きも出来るそうだ。
これまで貰い手が無かったのは、彼女の左足であろう。盗賊から逃げる際中に凶暴な魔物に襲われ、片足を骨折。肉から骨が突き出す解放骨折で、それを治療できる者も居ない為、かなり歪な形で治癒されていた。そのせいもあって歩く事がままならない。
(これは、・・・・・完全に奴隷としての価値を失っているから、これまで残っているのではないか?)
支配人も売れないとは分かっていても不憫な彼女を事ある毎に御客に勧めていた。確かに店先に座っていれば歩く必要は無いので、算術に読み書きも多少役に立つかもしれないが、生活を支える事が困難だろう。
現在もこの階の上にいる奴隷や同じ階の奴隷たちがお世話をしてくれているので今を生きてこれていた。
悩むレオンハルトに、シャルロットが口を開く。
「彼女は幾らですか?」
レオンハルトとリーゼロッテ以外に支配人も少し驚いた表情を示す。これまで、皆「必要ない」「次を紹介せよ」「手がかかる」など否定的な言葉で話をしてきていたのに、優しい表情での問いかけもそうだが、彼女の価格を聞いてきたのは始めてであった。
「か、彼女は見ての通り、足が動かせませんので、価格は大銀貨七枚の所、五枚でどうでしょう?」
価格は、平均より安いぐらいだろう。それを更に値引く当たり支配人も彼女の事を如何にかしたいと考えているのか。そう感じ取れるが、実際は彼女を気にかけるお客が居るならば出来るだけ引き取ってもらい少しでも生きる活力となってほしいという考えがあった。
確かにずっと奴隷商で養うわけにはいかないと言う思いもなくは無かったが。
「シャル?彼女をどうするつもりだ?」
レオンハルトも出来るなら彼女の様な人物を優遇してあげたい。しかし、今必要としているのは馬車を扱えるか行商人として働ける人物だ。彼女はそのどちらにも属さないどころか、かえって手を取られる可能性も十分考えられた。
だが、シャルロットはその先を見据えていた。
レオンハルトの耳元で「自分たちの知識と新たに得た知識で救う事が出来るかもしれない。彼女は足が不自由だが、それを魔法で治せるとしたら?」と問う。そして、彼女の問いに考え込むレオンハルト。
確かに治せない事は無いだろう。聖魔法『治癒』系だけでは治らないだろうが、そこに聖属性『再生』『細胞活性化』などの中級から上級魔法を使用すれば治る可能性はある。
その前にどう治療するのか方向を定める必要はあるが。
暫く考え込んだ結果、シャルロットの数少ないお願いと言う事もあり、それを受け入れる事にした。
「では、彼女をお願いします。それと、彼女のお世話も出来る方も一緒に購入しますので、案内をお願いします」
支配人はこれまで見た事が無いほどの笑顔を見せ、心から喜んでいた。それは周囲の奴隷たちも同様で一番喜びそうな彼女は驚きすぎていて表情が止まっていた。
まあ自分が購入されるなんて夢にも思っていなかっただろうに。そう考えながら、その場を後にする。支配人が手早く彼女の身支度と奴隷契約の為の場所へと誘導し始めていた。
「ありがとうございます。レオンハルト様。彼女は我々としても良い主の元で幸せに暮らしてほしいと願っておりましたので」
本音半分、経営的に助かったと言う想いが半分ってところだろうかと推測しながら話を聞いた。
そして、次の階に上がると、先程とは少し雰囲気の違った場所に出た。死臭とまでは行かないが、病気の者や何かしらのハンデを負った者。教育がまだ済んでいない者。あとはスラムの子供なのか、みすぼらしい格好の人族の子供や獣人、亜人の子供たちが居た。
「此方は、平民や病気持ちの者が多くいます。基本的には教育をしたり治療をしたりした後、奴隷として提供していますが、中には腕や足を欠損した者も居ますし、病気が治らない者も中には居ます」
先程の階も病気持ちや購入を決めた彼女の様な者も居たのは、持っている能力や教育が済んでいたからだ。
取り敢えず、此処に居る奴隷も見せてもらう事にした。数はそれ程いないが深刻な病を持っていそうな者が数名、獣人特有の耳や尻尾が片方とか半分または根元近くで失われている者も居た。
こういうのを見ると自分の不甲斐なさを痛感させられる。隣でシャルロットも同様の表情を浮かべている所から同じ気持ちなのだろう。
そんな中で、気になる人物を見つけた。普通の人から見ればそれは何の変哲もない奴隷の一人なのだろうが、俺・・・いや俺と彼女から見たらそれは何か分からないが、輝く原石を見抜いたかのように感じるものだった。
一通り見終えたら、また下の階へ戻り一周してから一階へと戻る。
「どうでしたか?良い奴隷は居りましたかな?」
支配人の言葉を聞いて、購入を決めた者を伝える。
「例の足が変形してしまった女性。それと、同じ階に居た赤髪の女の子と銀髪の女の子」
赤髪の女の子と銀髪の女の子は、実は姉妹だと言う事が分かった。彼女たちも元は両親の元で幸せに暮らして居たのだが、村に魔物が押し寄せ、彼女たちだけが生き残ってしまったそうだ。赤髪の子は、戦闘も少しなら出来ると言う事と馬車を操れるとの事で、銀髪の子は算術が多少であれば可能との事だった。馬車は姉同様に扱えると言う事で候補者として決めていた。
「後は・・・・上の階に居た布に包まっていた少女と銀狐の獣人の子、黒猫の獣人の兄妹を頼む」
「え・・・・最上階から選ばれるのですか?言っては何ですが、寝ていた子は重度の病に侵されていますし、銀狐の子も目が見えにくい病気と狐獣人の象徴とも言える尻尾の欠落、片耳の損傷、背中に消えない獣の傷跡が残っています。・・・・黒猫の兄妹も兄は片腕を無くしていますし、妹も顔に消えない傷が残っていますが・・・・よろしいので?」
シャルロットもそれで良いと頷くが、リーゼロッテだけは不思議そうに眺めていた。普通奴隷を購入する場合、目的にもよるが今回選んだ重度の病気持ちを選んだりはしない。
「では、奴隷たちが七人で・・・・・十三万九千ユルド。それに、奴隷契約の手数料として、一人五千ユルド。合計が十七万四千ユルドですが、十七万ユルドで結構です」
お金を支払い、レオンハルトは支配人と共に奥の部屋に行く。此処で奴隷たちと奴隷契約を結ぶのだ。
中は薄暗く、窓のない四畳半ほどの広さ。床の中央に魔法陣が刻まれており、壁際には契約に用いる道具や羊皮紙が無造作に置いてあった。その場所で全身外套に包まれた背の低い人物が立っており、その者からこれから行う契約の方法の説明を受けた。
契約専用のインクにお互いの血を混ぜ、それを一つは羊皮紙に、もう一つは本人に刻むとの事。本人の方は身体に溶け込む為、後が残らない。羊皮紙の方は、契約書の様なものとの事だ。契約者自らの意思で破るか破棄しなければ効力は失われない。また、奴隷が亡くなった場合は自然に燃え尽きると言う仕様らしい。
そうこうしていると自分たちとは反対側の入口から、選んだ奴隷たちが入ってくる。先程とは違う服装になっていた。かなり着尽くした感じの物から少し綺麗な物に着替えていた。
これも基本的には奴隷を購入した際にされるサービスの一つだ。流石にボロ雑巾の様な服で外を連れまわすわけにも行かない。何かに服を幾つか持参させる者も居ると言う。奴隷に手を出すのは金銭的に裕福か貴族ぐらいなので、そう言った配慮も必要との事。
ナイフを取り出し、奴隷たちの数だけ用意されたインク入りの小瓶に血を一滴ずつ入れる。その後奴隷たちも各小瓶に血を一滴ずつ入れた。奴隷契約は言わば血の契約、国同士でのやりとりもこの血の契約で取り決めたりする。まあその場合と今回の奴隷契約は違うが。要は血を使った契約が似ていると言うだけの事。
羊皮紙で作られた契約書にまずはレオンハルトがサインを行い。そして、奴隷たちの鎖骨の中心の辺りにサインを刻む。黒いインクは忽ち彼女たちの身体の中に溶け込み、書いた場所には何も残ってはいなかった。
「これで契約は完了となります。奴隷たちに名前をお与えください」
・・・・ん?
支配人の言葉を聞き間違えたのか、不思議そうな顔をしていると、再度同じことを言われる。奴隷たちは基本、名前が無かったり、あるけれど使用しなかったりするとの事で、奴隷商に居る時は番号で呼ばれたりする。
それを聞いた時、此処は刑務所かっ!?と心の中でツッコミを入れてしまった。その表情が余りに可笑しかったのだろう。支配人から大丈夫かと尋ねられる程だ。
「・・・・・名前・・・ですか。君たち元の名前はあるのか?」
名前まで付ける事になるとは聞いていなかったレオンハルトは、彼女たちに名前を持っていてそのまま使用したい子がいればそのまま採用しようと思っていた。
「・・・・ご、ご主人様・・・わ、わたしの以前の名前は、ローレと申しますが、ご主人様のお好きな名前をお付けください」
最初に選んだ女性がそう発言する。それを皮切りに皆名前を教えてくれた。赤髪の子はエリーゼ、銀髪の子はラウラ、病弱の子は名前が分からず、銀狐の獣人はルナーリア、黒猫の獣人の兄がラン、妹がリンと言うらしい。
元々ある名前でも良い者はそのまま使用するようにして変更したいものは名乗り出る様にするが、ご主人様に手間を取らせたくないと言う考えなのか、誰も意見を述べる者はいなかった。
病弱の子だけは名前が無いので此方で付ける事にする。
「んーそうだな・・・・ソ、ソフィアとか良いかもしれない。意味も確か聡明とかそう言ったものだったはず。よし君は今日からソフィアだ」
レオンハルトは何処の国かは覚えていないが、ソフィアと言う名前はギリシャ語から由来した名前で、古くから使われており、聖書にもその名前がある程有名な名前だ。意味も彼が述べた通り聡明と言う意味がある。
病弱の子は、表情は辛そうだが、新しい名前に少し満足している様子だった。
初回の奴隷商利用で七人も購入してしまうとは、何処の大人買いなのだろうかと思うが、見たまんま言うと大人買いよりも少女買いにしか見えない。
この世界に前世の記憶を持つ彼らとは別の人物が居たら、「おまわりさーん、こっちです」と通報されるネタをされていたかもしれない。
契約を行った小部屋から出るとシャルロットが、あるものを準備していた。
足の不自由なローレの移動用の荷車と大きめの布。大きめな布は簡単に切り、今着ている服から羽織る物で、人数分とれるだけの枚数もあった。
「皆さんはこれに乗ってください」
リーゼロッテの指示でローレたち動けない者を乗せて、動けるエリーゼとライラは荷車を押す係、レオンハルトとリーゼロッテが引く係で、シャルロットが荷車に乗ってローレたちの状態を詳しく調べていた。
「・・・・うん。これなら今すぐでなくてもいいわね。少しつらいかもしれないから、この薬を飲んでおいて」
今最も状態が芳しくないのが病弱の子で名前をソフィアと言う女の子だ。この子の状態次第では、先に宿屋へ戻って処理する必要があったが、今確認したら薬で対応できると判断しそれを飲ませる。
「では、ありがとう。ベルネット支配人また寄らせてもらうよ」
「はい。我々一同心よりお待ちしております」
支配人と従業員数名が深々と頭を下げるとレオンハルトたちは、取り敢えず市場へと向かって進んだ。
此処まで読んで下さりありがとうございます。
インドネシアへ先々週行ってまいりました。そして、今週もまたインドネシアへ行ってまいります。
本業が忙しくて執筆の時間があまりとれず、思う様に進んでおりません。
話自体の道筋はあるので、海外出張中に時間があれば執筆したいと思います。
今回は、お客さんの都合で観光も幾つか回る予定ですので、写真などいっぱい撮って生かしたいと思います。
それと、すみませんが、次の日も投稿が出来ないと思います。22日の日曜日に投稿するか、それよりも早く出来れば、平日にアップすると思いますので、是非気長に待ってやってください。