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046 襲撃後の後処理

おはようございます。

さてさて、八月も残す所あと一週間ですね。


私は、最後の一週間を国内出張と海外出張で潰れてしまします(笑)


取材も出来ればしてきたいですねー。

 アルデレール王国の王都アルデレートが魔族に襲撃を受けて既に七日が過ぎた。襲撃後から戦闘が収まった翌々日にかけて、王都内はかなり慌ただしい日々を送る事となる。しかも襲撃のあった日は、年に一度の武術大会その決勝戦と閉会式典があった日でもあり、普段に比べて多くの人で街は溢れかえっていた。


 混乱が落ち着いてから現在までは、街の復興作業に追われている状況。王都に観光に来ていた者も復興を手伝ったり、拠点としている場所が手薄になると魔物の襲撃もあり得ると言ってそそくさと去ってしまったり色々だ。


「まだ、彼は目が覚めぬのか?」


 玉座の間にて、アルデレール王国の国王アウグスト・ウォルフガング・フォン・アルデレールは神妙な(おもむき)で同席している者たちに尋ねた。


 同席者は現在、宰相であるエトヴィン・ライムント・フォン・フォルマー公爵、教会の責任者オルトヴィーン・ベルント・フォン・エクスナー枢機卿、内務大臣のヴァルター・ニクラス・フォン・タルナート子爵、王都の南地区の統括者であり財務大臣のリーンハルト・ツキシマ・フォン・ラインフェルト侯爵、軍務大臣のアロイジウス・ギュンター・フォン・アスペルマイヤー侯爵、外務大臣のハーラルト・クリストフ・フォン・シュトルツ伯爵等各大臣に加えて、東地区の統括をするハイネス・クレマー・フォン・シュヴァイガート伯爵、北地区を統括するテオ・トーマス・フォン・エーデルシュタイン伯爵に加え上級遺族たちが数名参加していた。


 それ以外に冒険者ギルドのアルデレート支部支部長マティーアスや商業ギルドの代表エドゥアルトに魔道具ギルドの代表ゲレオン等の各ギルドの責任者たち、王国騎士団団長のアレクシス・フォン・グロスマンと二番隊隊長サラ・ローゼ・フォン・クルーガー、勇者コウジ・シノモリとその仲間たち、魔族の襲撃についての話し合いと言う事で魔族研究家のアードラーにも同行してもらっている。


「はい、現在教会にある治療院にて未だ眠ったままでございます」


 エクスナー枢機卿は、アウグスト陛下の問いに答える。


「陛下、彼はもう少し回復が必要かと思います。あの襲撃の折、単独で魔族・・・それも上級魔族を複数相手にしておりました。発見された時はかなりの瀕死状態でした。彼の仲間たちが治療し、後から来られましたエクスナー枢機卿のお孫様も一緒に治療した結果、如何にか一命をとりとめたにすぎません」


 勇者コウジ・シノモリは、その人物を高く評価しており、未だ目が覚めぬ彼を庇う。アウグスト陛下も彼を問い詰めるつもりは一切ない。寧ろかなり評価している。


「目を覚まして、動けそうであれば知らせてくれ」


 アウグスト陛下は再度エクスナー枢機卿へ伝え、エクスナー枢機卿もそれに答えた。


 先程から話に上がっている彼とは、レオンハルトの事である。


 あの日、シュラ族の男が使用した魔道具で放たれた闇魔法『(デス)極砲(バースト)』に飲み込まれたはずのレオンハルトは、直撃地点からかなり離れた場所で発見された。


 運よく直撃を避け、衝撃波で吹き飛ばされたというわけではなく。彼は残っている魔力を使って『転移(テレポート)』を使用しただけだ。しかも、シュラ族の男が証拠を消そうとまでしたそれらを回収までしていた。ただ流石にすべてを回収できたわけではない。バルラハとデトマン、それに嵌合体魔獣(キメラ)の死骸の一部と黒い魔石の一部。バルラハが使用していた剣も回収できていたが、剣自体は落下途中で折れた為、柄の部分と刃の一部しか回収できていない。


 離れた場所にあった物を一瞬で、しかも複数の物を回収できたかと言えば、レオンハルトが最後駆け寄って来ていたシャルロットに『念話(テレパス)』で指示を出したからだ。


 その時の指示はと言うと「証拠を消される前に回収する正確な場所を」である。それを聞いたシャルロットは、すぐさま標的となっている場所の位置を伝え、レオンハルトは魔法でそれらを分からない様に回収した。


 まあ、今も眠っている彼の魔法の袋の中に入っているため、回収した物は取り出せない状況ではあるが。


 その後の事は、勇者コウジ・シノモリの言う通り、シャルロットがすぐさまレオンハルトの位置を見つけ駆けつけた後、治癒魔法や水薬(ポーション)等で治療をし、途中で合流したエルフィーも治療に加わり、如何にか一命をとりとめたのだった。


 ヨハンも治癒魔法は使えるが、他の仲間たちの治療を行っていた。(ヨハン)が使えるレベルだとかえってレオンハルトの治療の邪魔になるからと水薬(ポーション)や止血などを終えると仲間の方へ移ったというわけだ。


「さて、今回の被害について報告の変更はあるか」


 実は、皆が集まって話し合う機会はこれで二回目。一回目の時は分かる範囲での被害状況と支援物資の手配、関係各所への通達で終わっている。残りの報告は書面で送っただけなので、それからの変更があるかの確認を始めた。


「では、私から」


 そう言うと軍務大臣のアスペルマイヤー侯爵が報告書を読み上げる。彼は軍務大臣になってかなりの年月が経過し、一部を除き此処に居る誰よりも軍務については詳しい。今回は襲撃を受けた事で兵士や騎士にどれだけの被害が出たのか。また、基本的な食事や睡眠などの休み以外は復興活動や王都の警備にあたってもらっているため、ローテーション管理なども行っている。実際の所は直属の部下が作っているが、彼自身もそれを把握している。


「戦死者ですが、前回二十八名と報告しましたが、新たに十一名の遺体が瓦礫より発見されました。行方不明者も数十名います。引き続き捜索活動に当たらせます。また、再度魔族の襲撃を警戒して厳戒態勢を敷いておりますが、その兆しが見られない為、明日にでも警戒態勢に移行、その後七日程様子を見た後に準警戒態勢に移行しようと思います」


 軍務大臣が述べた戦死者は、兵士と騎士のみの数で、国民を含めると数はかなり増える。しかもこの戦死者の数は、騎士団の団員である騎士たちが七割近くを占めている。


 多くは、嵌合体魔獣(キメラ)の触手攻撃によって死亡していた。死亡した中には将来部隊長になれそうな人物や補佐役をしていた人物も含まれており、王国としてはかなり痛い被害を受けてしまっていた。


「うむ。警戒態勢への移行を許可する。皆に休息を取らせよ」


 軍務大臣は、アウグスト陛下の言葉に返事をした後に他の報告も済ませて終わる。


「次は(わたくし)が」


 次に名乗り出たのが、エクスナー枢機卿。彼は、怪我人の治療面を一手に引き受けているが、治癒が出来る人間に限りがあるので、治療が追い付いていないとの事。この場で人員補給を行いたいと言いその許可と求めた。人員は当然、冒険者ギルドの支部長へ。アウグスト陛下が了承すると、すぐさま冒険者ギルドへ治療の応援要請の依頼を願い出た。国王陛下の許可が必要だったのは、報酬を国から出してもらう為だ。


 冒険者ギルドの支部長は、報告会が終わり次第、冒険者への報酬額等の打ち合わせを行い、その後ギルドに戻ったら早速依頼を出すとの事で話は終わった。


 その他にも武術大会周辺のお店や住宅の被害報告、武術大会の会場となったコロッセオの修繕、食料や物品の品薄等の問題が挙げられたが、これらは財務大臣と内務大臣、建築ギルドや商業ギルドと話をする様に言われる。


 これについて財務大臣のラインフェルト侯爵は頭を抱えていた。被害額だけを軽く見積もっても二千万ユルドの被害は出ている。日本円にして二億円相当の額だ。


 その大半は、家屋の全壊や半壊等だろう。シュラ族の男が放った『(デス)極砲(バースト)』の爆風で広範囲にわたって破損被害が出ているし、魔族との戦闘でも結構な被害が出ていた。


「陛下、復興にあたっての予算金額の上乗せを行ってもよろしいでしょうか?」


 宰相はラインフェルト侯爵の表情を鑑みて、予算額の上乗せを進言した。今回の復興に当てられる額は、凡そ三千万ユルド。それ以上出すと、他の予算が回らなくなるからだ。それを宰相は理解し、直々にお願いをした。これにはアウグスト陛下も快く了承し、今回の予算額を別枠で出してくれる事になった。


 他にも内務大臣から国民の被害状況の説明があり、魔道具ギルドからは破壊された結界の再起動化の説明があった。冒険者ギルドからも幾つかの報告を行った。


「さて、ではそろそろ今回の襲撃について、報告してもらおうかの」


 そう。これまでの報告はどちらかと言うと被害に遭った後の事後処理的な報告ばかりだった。その報告が一区切りついたので、次の本題に移った。アウグスト陛下の指名によりまずは、アレクシス騎士団長が事の全貌を説明する。


「・・・・と言うわけで、上級魔族が三体。名前はバルラハ、ゾーン、デトマンと呼ばれておりました。それと最後に戦闘に加わってきましたシュラ族が一体。此方は名前が分かりませんでしたが、勇者コウジ・シノモリ様を圧倒するほどの実力者かと思われます。そして、最後は今回かなりの被害を出して倒した謎の魔獣です」


「敵の会話から聞いたところによると嵌合体魔獣(キメラ)呼ばれる生命体の様です」


 アレクシス騎士団長の後に続いて勇者コウジ・シノモリが発言を行った。嵌合体魔獣(キメラ)の言葉を聞き、この場に集まっている誰しもが恐怖の表情を表す。直接戦っていない者でもこれだけの恐怖を植え付けたのだから、その存在的な効果は恐ろしい。


「その・・・嵌合体魔獣(キメラ)と呼ばれる魔獣は、過去にも存在していたのか?」


 アウグスト陛下の発言に冒険者ギルドの支部長は首を横に振った。また、アレクシス騎士団長やサラ隊長、勇者コウジ・シノモリも同様に首を横に振る。魔族研究家のアードラーも知らないようだったが、彼は彼自身の推測を話し始めた。


「あれが何なのか分かりません。ただ、今回の襲撃は計画的な襲撃ではないように思います」


この意見に実際に戦闘を行った三名は同じ意見を述べる。


「これは私個人の意見ですが、あの魔獣・・・嵌合体魔獣(キメラ)の実験のために来たと思っています。何分証明するための材料が何もないので、憶測の域を出ませんが」


 それに嵌合体魔獣(キメラ)の謎の能力についても勇者コウジ・シノモリから説明がなされた。異なる身体の部位、そして無数の魔石と破壊時の複製増殖、未知の黒い魔石等上げればきりが無い。


「実験・・・」


 誰が呟いたのか分からないが、その言葉を真剣に聞く一同。更に彼の推測に耳を傾ける。


「素体が無いので、何とも言えませんが、幾つかの魔物や生物を混ぜて作ったのでないでしょうか?」


「そんな事がありえるのか?」


 アレクシス騎士団長はその推測に疑問を抱いた。確かに戦った魔獣は頭と身体の獅子部分以外は全部違う魔物や生物の物であった。混血した場合、あのようなはっきり部位に現れるのだろうか。それに混血できない生物も中には居た。尾の蛇やたてがみの触手だ。


 どうやってそれらと混血させたのか皆不思議に思っていると。


「これは仮説ですが、血の配合を行ったのではなく・・・・部位を何らかの方法で繋ぎ合わせた、と私は考えております」


 そして、この仮説を証明する手立てはシュラ族の男によって消滅させられているから、これ以上の事は分からないと言っていた。ただ、これが本当にあの魔獣の実験で来ていたのであれば、その技術が完成していた場合、魔族以外の種族はかなりの脅威と言えるし、近いうちに何らかの動きを見せる可能性もあると助言する。










 王城で会議が行われる頃、教会に併設されている治療院の方では・・・。


 穏やかな表情でベッドに寝ている少年がいた。治療院で、重度の怪我を負った者は此処に入院する事になっているが、入院の部屋は基本多床室。流石に男女混合と言うわけではないので、多床室を使っていても女性一人しか入院患者が居ない場合は、一人でその部屋を使う事になる。


 治療院が併設されている教会は数に限りがあり、王都を中心に主要都市にしか存在していない。中核都市レベルになるとあったりなかったりする。教会が運営する治療院以外でも個々が経営する診療所があり、そこで怪我等を治しているそうだ。


 治療院や診療所等が無いような村は小さな教会が、教会兼診療所になっている。レオンハルトの故郷であるレカンテート村がそれに該当する。


 その少年は多床室ではなく、数少ない個室を利用していた。少年の隣には少女が二人椅子に腰を掛け、心配そうに見守っていた。入口から少女が一人、花瓶に花を生けて戻ってくると安心させるように優しく声をかける。


「二人ともお見舞いに来てくれてありがとう」


 花瓶を床頭台に置き、窓を少し開けた。吹き抜けるそよ風が花の香りを部屋中へ包み込み少しだけ暗い空気となっていた病室を爽やかにした。


「いえ・・・私たちは結局何もできませんでしたから」


「そんな事はないです。ティアナ様にリリー様も、お二人とも必死になって助けてくれたではありませんか」


 お見舞いに来ていたのは、武術大会で本選に勝ち残り、好成績を収めた上級貴族の御息女ティアナ・カロリーネ・フォン・フォルマーとリリー・アストリット・ツキシマ・フォン・ラインフェルトの二人だ。彼女たち二人でお見舞いに来たわけではない。それぞれの侍女と執事が待合室にて待機している。


「私たちには、あれくらいしかできませんから。シャルロット様の治癒魔法が無ければレオンハルト様は・・・うぅ」


 ベッドで寝ているのは、魔族襲撃時の撃退に大きく貢献し、瀕死の重傷を負ったレオンハルトで、彼のお世話をしていたのがシャルロットだった。


 それに二人は、魔族襲撃後にレオンハルトたちと合流をし、一緒に同行していた幼馴染のエルフィーはすぐさま治癒魔法のお手伝いに、残された二人は只々慌てただけで何もできなかった。レオンハルトの容態が落ち着いた所でシャルロットが二人に気づき、落ち着かせた。


 普段のシャルロットならパニックになっていたかもしれないが、ギガントボアの時とは違い慌てずに対処できたし、治癒後に他の者がパニックになっていたから大人な対応が出来ていた。彼女もまた大きく成長したと言えるだろう。まあ中身は完全に大人ではあるが。


 シャルロットに落ち着かされた二人は、その後レオンハルトの移送先の手配と環境を整えるため近くに居た騎士に指示を出した。普通は上級貴族の娘とはいえ、騎士に指示が出せる立場にはないが、魔族との戦闘を目にしていた騎士は、彼女たちの指示に従い急いで治療院へ連れて行ったのだ。


 シャルロットは、彼女たちが指示しなくても仲間に頼んで運んでもらうつもりでいたが、彼女たちが復帰してからの段取りを見て任せる事にした。


 その後、治療院でレオンハルトと皆との関係を知り、ティアナとリリーはシャルロットの事をシャルロット様と様付けで呼ぶようになった。貴族の子供は大抵、誰かを呼ぶ時は様付けをしている。しかし、それはあくまでも貴族同士に限っての事。平民に対して様付けで呼ぶことは珍しく、良くてさん付けだ。


 ティアナとリリーは、シャルロットの生い立ちやレオンハルトとの関係などを知り、彼同様に礼儀を尽くす事にした。まあ、パニック状態の自分たちを素早く立ち直らせたし、同年代なのにも拘らずかなり大人びた雰囲気を持っていたのが理由の一つでもあるが。


 そんな感じで部屋一面に香る花の匂いと複数人の女性の声で、レオンハルトの意識が次第に回復し始める。


「うぅ・・・・」


 穏やかに寝ていたレオンハルト終日振りに声を発し、三人は慌てて彼へと視線を向けた。


「レオンくんっ!?――――レオンくんッ!!」


 シャルロットが先程までの余裕の態度から一遍、慌ててレオンハルトの元へ駆け寄り、声をかけた。


「あぁ?シャルか?俺は・・・・あーあの後・・・倒れたのか」


 め、眼を覚ましたーッ!!よかったー!!


 三人はほぼ同じ内容の事を心の中で叫んだ。三人とも此処が個室とは言え、治療院だと言う事は承知しているし、シャルロットは抱き着いてそこまで考えていたか不明。


 他の二人も目を覚ました事に喜びを隠せないが、シャルロットの様に抱きついたりはしない。知り合ったのは幼少期だが、きちんと自己紹介したのは、つい最近の事だし、流石に婚約などをしていない男の人に抱きつくのは、貴族の息女としても不味い。


 痛ッ!


 ふと腕を見ると点滴を受けている最中の様で、血管に針が刺さりそこから管、容器と続いていた。容器の中身は後二割程と言う所だろうか。そして、この点滴は間違えなくシャルロットが施したもの。


「心配かけたな・・・俺はどれくらい寝ていた?」


 出血多量に加え、全身打撲に胸を一突きされ、更には魔力欠乏症と体力と精神力をほぼ使い切った状態だ。魔法で傷は如何にかなったかもしれないが、失った血や全身の倦怠感は、魔法ではどうする事も出来ない。


 この辺りは先程の点滴で補ったのだろうが、今も身体を起こした時に怠さを感じた。経験からすれば二日・・・いや最低でも三日以上は経過しているはずだ。


「魔族襲撃から今日で丁度七日目です。レオンハルト様」


 シャルロットではなく後ろにいたティアナが教えてくれた。その傍にはリリーも居た


ひょっとしたらお見舞いに来てくれたのだろうか?


 予想よりも多く寝ていたようだが、俺が寝ている間の話を三人から聞く。


 一つ目は、最後の一撃を放った魔族の・・・シュラ族の男は、魔道具で魔法を使ってから消息を絶っている。恐らく撤退したのだろうと踏んでいる。


 二つ目は、この襲撃でかなりの被害が出ていると言う事。人は未だ行方不明者が多く死者も増えているので正確な人数は分からないが数十名になるとだけ教えてもらった。また、人だけでなく建物もかなりの被害があるそうで、戦闘が行われた場所の周囲はかなりの建物が全壊や半壊をしているそうだ。現在、街の復興の為、ユリアーヌ、クルト、ダーヴィトの三人がギルドの依頼で駆り出されている。


 三つ目は、今回の戦闘の功績を称えたいとアウグスト陛下から言付かっているとの事。これは正直面倒事にしかならない気もするが・・・。


 四つ目は、此処に居ない他の仲間たちについての居場所も聞いた。ヨハンとリーゼロッテは教会の怪我人の手当てのお手伝いを自主的に、エッダは修道女(シスター)見習いと一緒に家を無くした方への炊き出しを行っているという。エルフィーもこの治療院で、治癒魔法を使って治しているとの事だった。


「ティアナ様にリリー様、態々(わざわざ)来ていただきありがとうございます」


「いえ、私たちは何も出来ませんでしたから、これ位は・・・」


 彼女たちと言葉の違いを感じ取りシャルロットの方へ顔を向ける。シャルロットも困った表情を面に出し、説明してくれた。


 なる程、この場所を用意してくれたのは二人と言う事で、改めて俺を述べるが、それに対して、また同じやりとりを繰り返してしまう。それで、シャルロットが困った表情をしていたのかと納得した。


「あっ!!司祭様に声をかけてこなければいけませんわ」


 リリーが、本当であればレオンハルトが目覚めた時に取らないといけない行動を今思いつき慌てて、併設している教会へ足を運んだ。


 それから暫くして、司祭と数人の修道女(シスター)が治療院に駆け込んできた。その中には騎士の姿もあった。


 あれは・・・・・たしか、王城に招待された時護衛をしてくれていたモニカとユリアだったかな?二人も心配した様子でそこにいた。


「お目覚めになられた様で、何よりです。何処か御身体が痛むところはありませんか?」


 最初に口を開いたのはやはり、今いる中で一番地位が高い司祭だった。しかし、貴族でも何でもないただの孤児の少年に対しては些か丁寧な口調にも感じる。元々誰にでもこの様な口調であれば気にもしないのだろうが、彼のそれは少し違う感じがした。


「レオンハルト様にもしもの事があってはなりませんから」


 やはり、口調が何だか丁寧すぎるし、未成年のましてや孤児だった者に様付けをする事が、異様とも思えた。後で聞いた話だと、街を救った英雄として見られているとか、また俺自身の後ろ盾に王族、王都の東西南北を管理する貴族のうち、西のフォルマー公爵家、南のラインフェルト侯爵家、東のシュヴァイガート伯爵家、ましてや自分の上司に当たるエクスナー枢機卿の存在もあるため下手な事が一切できない訳だ。


 まあ、アウグスト陛下や各貴族当主たちも気にかけているが、やはり決定打となったのはその娘たちの存在であろう。


 それと、シャルロットに対してもかなり気を使った態度と言うか礼儀正しく対応していた。何でも、俺自身を治療した腕前や此処で点滴などの看護を行った実力を見て、尊敬されるようになったらしい。シャルロットの治癒魔法のレベルは司教の上の大司教レベルに達しているそうだ。


 だったら、俺も変わらないレベルだから、治癒魔法の事が知られるのは不味いかな?


 一部の人間は知っている事だが、余り公にしたくはない。そうこうしていると、治療院の入口から慌ただしい足音が聞こえる。


「レオンハルト殿、失礼します」


 病室に入ってきたのは、此処に居るモニカやユリア同様に王城に向かった際に同行していたイザークであった。


「お目覚めになられた事を国王陛下にお伝えしましたところ、動ける様であれば王城に案内するよう言付かってきました・・・・あの、王城へは行かれそうですか?」


 息を整えたイザークは、王城へ同行して欲しいとのお願いだった。しかし、目覚めたばかりの彼をすぐさま王城へ連れて行く発言に誰しもが唖然する。


「レオンくんは、まだ目が覚めたばかりですから、王城へ行くのは・・・ッ!?」


 シャルロットが無理をさせまいとイザークに断りを入れようとするが、それを手で制し中断させる。恐らく今回の魔族の件についてだろう。全ての手札を見せるつもりは一切ないが、全く見せないと言うのも信用が下がるし、一応俺やシャルロット、リーゼロッテたち仲間の母国だから、ある程度は協力をしなければなるまい。それにアンネローゼが管理している孤児院への配慮も頼んでいるので、それを取り消しはしないだろうが、待遇面が変化する可能性は否定できない。


「わかりました。但し、行くのは俺だけでなく仲間も同行しても良いか?」


 此処で、一人で行くと言った時には、後で何を言われるか分かったものではない。


「それは構いません。国王陛下からも仲間の同行の許可は得ております」


 成程な、既に手を回していたと言う事か・・・それとも別に何かあるのだろうか?


 幾ら悩んでも結局の所、全て推測論でしかない。モニカとユリアに仲間を呼んできてもらうように頼み、その間に服装を整える事にした。七日間の湯浴みをしていないので、出来ればしてから向かいたかったが、時間も限られている。寝ている間にシャルロットが世話をしてくれていたようなので、今は『清潔(クリーン)』で全身を綺麗にして終わる。普段使用するブラックワイバーンコートは魔族との戦闘で破れたり、生地が傷んだりもしたが、自動回復と言う付与が掛けてあるので、新品同様まで戻っている。



 袖に手を通し、身嗜みを整え治療院を後にした。因みにシャルロットはレオンハルトの着替えを準備した後、自身も看護しやすい普段着用のラフな格好をしていたため着替えに戻り、二人以外の仲間が集合した時には準備を全て終えている状況だった。仲間たちも依頼などで汗だくになっていたが、ヨハンが気を利かせて全員に『清潔(クリーン)』をかけて汚れや汗を落としていた。


 全員で治療院から教会を通じて外に出ると馬車が四台停まっており、うち一台はティアナとリリー、エルフィーの為の馬車と言う事で、騎士に案内されて馬車に乗り込む。彼女たち三人の父親も上級貴族の当主として、王城でアウグスト陛下と共に居るため呼び出されたと言うわけだ。


 先頭の馬車にティアナたち三人と王国騎士団一番隊の騎士ユリアが同乗。二台目の馬車にレオンハルトとシャルロット、リーゼロッテの三人と一番隊の騎士モニカが同乗。三台目の馬車はダーヴィトとエッダ、アニータの三人。四台目の馬車にユリアーヌとクルト、ヨハンの三人が乗った。一番隊の騎士イザークは馬車の護衛として、軍馬に乗って警護をするみたいだ。


 馬車で三十分ほど経過したところで漸く王城の前にたどり着いた。普段であれば二十分辿り着くのだが、混乱はまだ続いている上に破損した家屋の撤去作業に手が回っておらず、思う様に進まなかったのが原因だが、これは致し方ないだろう。


「皆さま、到着しました。このまま玉座の間へ移動しましょう」


 イザークに連れられて王城内を進む。前回来た時にも思ったが、流石王家と行った所か、至る所に豪華な装飾品が飾られている。初めて来る仲間たちは、緊張でそれどころではないらしい。普段堂々としているユリアーヌですら、表情が硬い。日頃から硬いが、今の硬いは緊張から出る硬さの方だ。


 それに、お調子者のクルトもかなり静かに廊下を歩いていた。


 暫く歩くと、大きな扉の前に到着した。


 扉の前に騎士が四人待機しており、イザークはその騎士に説明した後、大きな扉をノックして中にいる人間に合図を送った。


「では、皆さま私はこれ以上御案内出来ませんが、普段道理にしていただいて結構です」


 一言、言い終えるとイザークは警備していた騎士の隣に移動した。それからすぐに大きな扉がその重圧を感じさせるような音共に開く。


 二度目のレオンハルトと過去に何度か訪れた事があるティアナとリリー、エルフィーは平然と前へ進み、それに釣られるようにシャルロット、リーゼロッテと順番に玉座の間へ足を踏み入れた。


 玉座には既にアウグスト陛下が座っており、その横には当然第一王妃が静かに座って待たれていた。他の重役たちもアウグスト陛下が座っている玉座と扉との間にあるそこそこ距離のある廊下の様な通路の両サイドに立って並んでいた。


 雛壇の様になっている手前で立ち止まり、そのまま膝をついて頭を下げた。流石にこの作法はレオンハルトも初めての事だったので、ティアナたちがしたように動きを合わせて膝をついて頭を下げる。


「ふむ。良く来たなお前たち」


 開口一番に口を開いたのは、ティアナの父親でもあるエトヴィンだ。彼は宰相と言う役割もあるため全体の司会の様な立ち位置も熟す。


「レオンハルトにその仲間たちよ。面を上げよ」


 アウグスト陛下の許可を得て、皆頭を元に戻す。


「レオンハルト。其方身体の方は大丈夫か?目が覚めたばかりと聞いておるからの」


 呼んだのは、確かにアウグスト陛下であるが、それは彼が起きて動ける様ならと言い聞かせて騎士たちを向かわせているが、騎士たちはそれをそのまま受け取らない事も薄々承知している。だからこそ無理してここまで来ていないか確認したかったのだ。


「はい、少し身体に怠さはありますが、問題ありません」


「そうか。なら良いのだが・・・・・それで今回、呼んだのは他でもない。魔族襲撃についてだ」


 アウグスト陛下は、真剣な表情で話し始める。


「このアルデレール王国に魔族が攻めてくる事は、少ないが全くなかったわけではない。だが、王都への襲撃、そしてそれを行ったのが上級魔族とあれば話は別。数体と一体とはいえ、王国にかなりの被害をもたらしおった」


 その言葉を聞き、以前スクリーム戦闘時に魔族と遭遇した事を伝える。アウグスト陛下は勿論の事、この場にいる誰もがその事を把握していた。更にそれからの経緯を宰相から説明を受けた。スクリームの被害は、アルデレール王国だけに留まらず、他国でも同じように被害が出ていた。しかも最悪なのは海隣都市ナルキーソレベルの大きさの街が一つとレカンテート村の様な小さな村が最低でも十以上が壊滅しているそうだ。


 魔族の異様な活動範囲に同行している仲間は当然、周囲にいた貴族たちも騒ぎ始める。


 仲間は、その事実に驚いただけの様だが、貴族たちは自分たちの領地が同じように襲撃されたらと不安を駆り立てられたからだろう。


 実力のある冒険者や私兵を整えておく必要があるが、直ぐに実力が身につくわけでもない。


「勇者コウジ・シノモリ殿は仲間と共にこの異変の調査をお願いしたい」


 宰相の言葉に俺たちとは違い貴族側で待機していた勇者コウジ・シノモリとその仲間たちが堂々とその問いに答える。


「レオンハルトくん。君はまだ、未成年なので王国として何か役割を与えるわけにはいかないが、冒険者として今後も魔族の脅威に対処してもらいたい」


 この国の法律には未成年に何らかの役割を与えてはいけないと言う決まりがあるわけではないが、それでも余り重要な役割を押し付けるのは酷だろうと判断しての対応だ。逆に冒険者としてなら、頼みやすいと言う周囲の眼もあって、遠回しにお願いしてくる。


「出先で遭遇をした場合は、可能な限り対応します」


 ってか、これ以外の返答がこの場であるのだろうか?無いだろうし、仮に在ったとしてもそれを入れる雰囲気ではないな・・・・。


 こうも面倒事に巻き込まれる自分の体質を恨むべきかつくづく悩むレオンハルト。


 それから、魔族襲撃前に行われていた大会の優勝賞品と今回の活躍による報酬の受け取りだった。一般の部は既に受け渡しが終わっており、残るはレオンハルトとユリアーヌの二人だった上、今回活躍した仲間たちにも報酬があると言う事で、ユリアーヌや仲間たちには、今まで渡さずにそのままにしていたのだそうだ。


 打ち合わせをしていたと通り、一般的な奴隷商ではなくワンランク上の奴隷商へ入るための紹介状を受け取り、ユリアーヌは行商を行う上で円滑にできる手形を受け取る。それに加えて優勝賞金も合わせて受け取った。


「陛下、発言をしてもよろしいでしょうか?」


 レオンハルトが、受け取った物を隣にいたシャルロットへ渡し、代わりにあるものを取り出そうとする。それを取り出すにもアウグスト陛下に一言伝えなければならない。まあ陛下ではなく宰相へ話しかけても良かったのだが、此処は陛下の顔を立てると言う事で、そっちを選んだ。


「ん?良い申してみよ」


「魔族襲撃の際の遺体や死骸の幾つかを回収しております。これは、何処かに提出した方がよろしいでしょうか?」


 本来であれば提出する義務はない。だが、今回は魔族と魔獣・・・・魔獣に関しては謎の生物だったと戦った者から報告は受けていたが、それでも実際の緊迫感は陛下には分からないだろう。しかし、それは別の人物の心に深く響いたようだ。


「な・・・な、なな何ぃーーーーーーッ!!サンプルがあるのかね。是非ッ!是非ッ!!売ってくれーッ」


「おまっ!!こいつに売るなら、俺達に売ってくれッ!!」


 興奮したのは、話し合いで来ていた魔族を研究する機関と魔法を検証するギルドからだ。どちらも今後魔族に対して何らかの対策を得るためにも必要だったようで、最終的には王国側が購入し、それぞれ必要とするギルドへ提供すると言う事になった。


 しかもかなり高めの百七十万ユルドで買い取ってくれた。


「さて、思わぬ収穫もあったが、此処に来てもらった者に魔族襲撃の報酬を説明しよう。まずはシャルロット。其方は・・・・・」


 アウグスト陛下は、それぞれの活躍を説明し、報酬を渡す。シャルロットは、その類まれなる洞察力で、仲間へ指示を出しつつ敵を牽制していた事と戦闘技術、魔法能力、治癒の知識など幅広く評価された。リーゼロッテは、魔族との戦闘で怯まずに挑んだと言う事。これはユリアーヌやクルト、ダーヴィト、エッダ、アニータたちも同様に評価されていた。ヨハンは、支援系が多かったのと即座に他の冒険者のフォローもしていたので、気持ち評価が高かった。


「レオンハルト。お主は一人で上級魔族を相手にし、勝利を収めたと言う事で、騎士爵位の階級を言い渡す」


 ・・・・・・


 は?


 アウグスト陛下の言葉を自分なりに理解するのにそこそこ時間を有したが、聞き間違えでなければ騎士爵の称号。つまり貴族の仲間入りをしたと言う事になる。


 拒否をしようとしたが、先に断りを入れられた。宰相が言うには、これだけの功績を上げたのに金銭だけと言う事はあり得ない。ただ、本人があまり欲しがっていない事も知っていたので、騎士爵の位を得ても、領地とかは今の所渡す予定は無いと言われた。


 余りうれしくは無いが、何処かで妥協をしなければならず、レオンハルトは貴族として生きて行く事が決定したのです。


此処まで読んで下さりありがとうございます。


来週の投稿ですが、前書きにもお知らせしましたが、海外出張へ行きますので、お休みにさせてください。

次回投稿予定は、9/8を予定しています。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。

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