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045 嵌合体魔獣の脅威

おはようございます。

台風十号は言われていた程強くなかったと感じたのは、自分だけでしょうか?

15日にほぼ直撃コースの経路だったため、14日は物が飛ばされないよう。家の周辺の物を倉庫に入れたり紐で固定したりして、忙しかった。雨風があまり来なかったので、そこまでする必要があったのかと疑問も思いましたが、何かあってからでは遅いですからね。


と言う事で、遅くなりましたが、続きを読んでいただけると嬉しいです。

 王都にある武術大会の闘技場上空付近でレオンハルトや勇者コウジ・シノモリ、アレクシス騎士団長たちが魔族や魔獣と戦闘を繰り広げている中、王都の中心部にそびえ立つ王城近くの教会では、今も怪我人が多く運び込まれていた。


 魔族が現れた当初、避難をしている際に後ろから追突されたり、魔族や魔物の攻撃の余波で吹き飛ばされたりして怪我を負う者が多かったが、騎士団や兵士たちが態勢を整え挑みに行ってからは、瀕死の深手を負った兵士や騎士、冒険者たちが運び込まれるようになる。


 教会で治癒魔法に当たっていた司祭や司教、修道女(シスター)たちだけでは、対処できないと言う事で、応急処置に心得のある冒険者や医師、薬師なども協力して事に当たる。


「今、治しますね」


 エルフィー・マリア・シュヴァイガートは、祖父であり教会の責任者でもあるオルトヴィーン・ベルント・フォン・エクスナー枢機卿と共に教会へ訪れて、兵士たちの治療に当たっていた。


 次々に運び込まれる騎士や兵士たちは、苦痛の声を漏らしていて、酷い場合は運ばれてきた時には既に息絶えている事もあった。


「エルフィー。こっちの方もお願いできますか?私は、あの人を診ますので」


 司祭の一人が、エルフィーに声をかける。彼女はそれに対して嫌な顔一つせず、了承の返事をした後、治療を再開した。だが、司祭以外からも次々と治療のお願いを頼まれるエルフィー。


 何故これほどまでに彼女に集中するのかと言えば、治癒魔法が使える者で、まだ魔法が使える者はエルフィーを含めて三人しか残っていない。治癒魔法は一般的な魔法に比べて使用できる人が少なく。保有する魔力量や制度で治癒魔法が行える回数も異なる。


 エルフィーは今いる教会では、かなり上位に入る程の魔力量を有している事からまだ活動出来ていたのだ。他の二名の内一名は、先程声をかけてきた司祭で、魔力量はエルフィーに劣るが魔力制御が上手く使用する魔力を押さえて治癒魔法が出来るため、今も活動を続けていた。もう一人は、エルフィー同様に魔力量が高い事で、未だに動けていると言うだけの事。


 ちなみに、エルフィーの祖父エクスナー枢機卿は、瀕死の重体だった騎士を数十名『中級治癒(ハイヒール)』で治した後、魔力欠乏症で今は仮眠室にて休んでいた。


「こっちに包帯をくれるかしら?後できれば清潔な水に取り換えて」


 エルフィーや教会の人が治癒魔法で騎士たちを助けている片隅で、エトヴィン・ライムント・フォン・フォルマー公爵にしてこの国の宰相の娘、ティアナ・カロリーネ・フォン・フォルマーとリーンハルト・ツキシマ・フォン・ラインフェルト侯爵の娘、リリー・アストリット・ツキシマ・フォン・ラインフェルトの二名が修道女(シスター)数名と共に怪我人の治療に当たっていた。


 彼女たちがこの場に居るのは、曲がりなりにもアカツキ流や元ツキシマ流の技を教わる時、一緒に簡単な怪我に対する応急処置を身に着けていたからである。


 流石に、フォルマー公爵やラインフェルト侯爵が怪我人の治療をするわけにもいかないので、彼女たちがこの場でお手伝いをする事になった。フォルマー公爵たちは、混乱する官僚や上級貴族、王族たちをまとめ、どう対処するのか話し合いを行っていた。


 攻められているのに、話し合いと思うかもしれないが、偉い人物が先頭に立って戦いをするわけではない。そんな場所に上級貴族や王族が立たれていては、守る事も視野に入れなければならないので、来ない方が騎士たちとしては対処しやすい。


 これが、戦争で直接拠点を責められていなければ、表立って先頭に立ち激励を述べたりすれば兵士や騎士たちの士気が高まるが、今はその場面ではない。


 今やらなければならない事は、住民の避難及び戦闘となっている場所に人員を配置したり、エルフィーたちが治癒している様な場所に人員を手配したりする事だ。


 まあ、それ以外にもやらなければならない事は山のようにあるが、今はエルフィーやティアナ、リリーが活動している教会についてだ。


「ティアナ様、新しいお水をお持ちしました。それと此方が包帯になります。これが最後になりますので、至急誰かに物資の依頼をして持ってきてもらいます」


 修道女(シスター)から清潔な水と最後の包帯を受け取ると、水は隣で治療しているリリーに渡し、ティアナは目の前の患者の骨折部分を正常な位置に戻した後、添え木を這わせて包帯で巻いた。


「ティアナ様、すみませんがこの子の対応もお願いできますか?」


 別の修道女(シスター)がやってくる。先程からお手伝いしている修道女(シスター)は、ティアナやリリーと同年代ぐらいの未成年の子たちばかり、彼女たちは治癒魔法を使えるわけでも応急処置が出来るわけでもないので、この様に怪我をした人の振り分けを行っていた。


 ティアナの元に来た一人の男性。抱えているのは娘だろうか六歳ぐらいの女の子。


「ドリスが・・ドリスが・・・・」


 父親らしきその男性は、娘の容態を説明しようとするが、取り乱していて娘の名前しか伝えてこなかった。


「・・・・パパ、・・・わたし、だいじょうぶ・・・だから」


 娘は懸命に父親へ心配しないよう訴えかけているが、その父親は聞こえていないのかかなりパニック状態なっていた。


 父親がパニックになっていたら症状を聞く事も出来ないし、幼女の治療を行う事もかなわない。見た感じは、頭部を打ち付けたことで額が切れて大量出血している程度だ。それに出血のわりに傷が浅いようにも感じ取り、父親が落ち着けばすぐに治療できる。


「うん。見た目ほど傷は深くないみたいですね」


「エルフィー・・・さま?」


 ティアナとリリーの前に治癒魔法で多くの負傷者を癒してきたエルフィーがやって来た。二人にとって年下ではあるが、同じ貴族として、また同じ王都の一角を管理する家の娘として、幼少期から交流があり、幼馴染と呼べる存在の女の子。


 公の場以外では、ちゃん付けで呼んでいるが、基本この様な場では貴族として様付けで呼んでおり、年下のエルフィーに対してもその対応は覆らない。


 エルフィーは治癒魔法で、頭部から出血していた女の子を治すとその父親にお礼を言われ、無事帰って行ったタイミングを見計らい、ティアナとリリーの元へ向かった。


「ティアナ様、リリー様、お手伝いありがとうございます」


 レオンハルトと出会って一年半ほどの月日しか経過していないが、随分と落ち着いた対応が出来る様になっていた。


「エルフィー様もご苦労様です。治癒魔法を沢山使用されていましたが、魔力の方は大丈夫ですか?」


 魔力が残り僅かなのか、エルフィーの顔色はあまり良くなかった。それでも平気を装っている辺り、無理してでも治癒を行う覚悟が見てとれる。


 そして、三人は一番近くにあり、この惨劇の現状を作り出した方へ視線を向ける。


 距離があるため、その場所がどうなっているのかは分からないものの、その場所から運ばれてくる負傷した騎士や兵士、巻き込まれ怪我を負った住民たちから見て相当激しい戦闘を繰り広げているのだと認識させられる。


「あ・・・光った」


 薄暗い空が時折、魔法と思われる光で一瞬だけ王都を明るくする。


(・・・・・あの方は・・・・大丈夫でしょうか・・・・?)


 ティアナとリリー、そしてエルフィーの三人の共有の人物で、魔族が現れた時に勇者に続いて戦闘の矢面に立った人物、その人物の安否を祈る様に願っていた。


「いててて、ん?ああ。地上に降り立った魔族に腕を持って行かれてな。あそこの中心はかなりの激戦区となっていたな・・・・それにしても、勇者や騎士団の団長が凄いの分かるが、未成年部の優勝したあの少年。あれはやばいな。勇者たちと同じレベルで魔族と一対一(サシ)で勝負していたからな」


 治療されていた冒険者が、戦場の様子を修道女(シスター)に説明していた。


 ティアナたちは、具体的な状況を聞くために彼に話を聞きに行き、治療にあたっていた修道女(シスター)もそれに同意してくれる。


この冒険者は、最前線で戦っていた訳ではなく、住民避難を戦闘が行われている場所から少し離れた場所で、瓦礫に埋もれた住民の救助をメインで動いており、地上に降りてきた魔族の攻撃の余波を受け、負傷したそうだ。


 そんな冒険者たちが何故最前線の戦闘を見ていたかと言うと、高レベルの戦闘に巻き込まれないようにするのと、邪魔にならない様に立ち回るため、常に魔族と戦闘している場所を確認して、被害があった場所が戦闘から離れると直ぐに駆け付けるなどしていた。


「それに、あの少年と一緒にいた少年少女も彼ほどではないが、魔族と渡り合える実力を備えている感じだった。俺たちにはとても無理な戦いだな」


 その話を聞いたティアナとリリーは、参戦していた人物がユリアーヌやクルトだと判断し、エルフィーはシャルロットやリーゼロッテを思い浮かべていた。


 同年代の少年少女が、魔族と戦っている最中、自分たちは此処で怪我人たちの治療にあたっている。治療行為を見下しているわけではないが、それでもティアナとリリーはこの場所で治療に当たっている事に思う所がある。


 そしては、エルフィーは安全圏で治療行為を行っているだけでは、救える命が少ない事に胸を痛めていた。戦闘近くで応急処置が行えれば、教会などに運び込まれても救える可能性が増える。しかし、現状は瀕死の重傷で手が付けられなかったり、時すでに遅かったりして救える人が減ってしまう。減ったと言っても一割から二割程度だろう。


「国王陛下の命により手伝いに参りました」


 暗い気持ちになっていた三人にも聞こえる程の大きな声で、数十名の騎士がそこに立っていた。


 彼らは騎士の格好をしていたが、他の騎士とは少し異なる鎧を身に着けていた。軽装と呼ばれる格好に近く鎧も胸以外では手足を守る程度の少ない面積の鎧であった。そして、一番はっきり違うのが、腕に付けた腕章だ。


 盾のマークに丸い容器の瓶が描かれている。この国の衛生兵と言える戦場での治療を専門にしている支援騎士たち。騎士団全体でも百数十名しか在籍していないが有事の際は、かなりの期待を得ている。


 治癒魔法を使える者も十数名いると噂されており、今来た騎士たちの何人かも実際に治癒魔法が使える。


 エルフィーは、彼らに治癒を交代して魔力回復に努め、ティアナとリリーも応急手当の手伝いから少し休憩を貰う事が出来た。


 奥の部屋でお茶をしながら休む。離れた場所で魔族と戦闘している様な緊迫した中でのお茶と聞くと可笑しく聞こえるかもしれないが、実際はまったりしたお茶会ではない、疲労回復や魔力回復があると言われているハーブを使用したお茶。それでもって、先程まで忙しく動いていた事もあり、水分補給もしていなかったからと言う理由もあっての事。


 お互い思う所はあるが、今は出来る事をと考え、お茶を飲んでいた時に外から大きな爆発音が聞こえる。音と共に衝撃波の様なものが周囲を襲い、窓ガラスがガタガタと音を立てていた。


「ッ!!な・・・なに!?」


 慌てた三人は、外が見える窓へとやってくる。そこで、見た光景に驚き慌てて教会を飛び出した。











 彼女たちが爆発で驚く少し前。


 上空で戦闘を続ける勇者コウジ・シノモリとアレクシス騎士団長たちが嵌合体魔獣(キメラ)と激しい戦闘を繰り広げていた。


(くっ彼が・・・・だが、)


 この時すでにレオンハルトは、バルラハを倒す寸前の状態。それを知りえていながらも現状、手助けに行けず若干焦りすら感じ取れる表情をしていた。


「団長、下がってください。<汝、かのモノを縛れ>『円輪(サークル)拘束(バインド)』」


 無属性魔法の一つで、魔力で作られた円形の輪が敵を縛り拘束するもので、割と使いやすい魔法ではあるが、その分魔法の技量が無ければ、あっと言う間に拘束を破られてしまう魔法でもある。


 今使用している人物は、騎士団の中でも上位の分類に入る程魔法の能力が高いため、容易に敗れる代物でもない。


「まだだッ!!<汝、かのモノの動きを封じろ>『(チェーン)拘束(バインド)』」


 間髪入れず、追加で相手の動きを封じに掛かった。これも先程と同じく無属性魔法に分類され、以前レオンハルトがマウントゴリラと遭遇した際に用いた魔法と同じ物である。その時は地面から延びる様に拘束用の魔法の鎖が出てきたが、今は上空にいるためそんな事は出来ない。だから、魔法陣を上空に展開してそこから魔法の鎖を出し、拘束を行った。


 『(チェーン)拘束(バインド)』は、嵌合体魔獣(キメラ)の身体に幾重にも巻き付き動きをより出来なくしていた。触手や尻尾の蛇も鎖を逃れようと動くが、尻尾の蛇は鎖により絡まり、そこへ『円輪(サークル)拘束(バインド)』で固定した。


 触手は、伸ばす事が出来るため、鎖や円輪で幾ら動きを封じても進行は止められず、攻撃は継続して行って来るもその数や動きはかなり制限されていた。


「だ・・・団長・・・今です」


 きっかけは誰でも良かった。ただ一瞬動きを封じる事が出来れば、そこから一気に皆、持ちうる力で封じ込めに移る事が出来る。


「押しつぶせッ『グラビティフィールド』」


「絡めろッ『鋼糸・封操縛』」


 隊長の二人が、自身の持つ魔装武器の力で追い打ちをかける様に更に動きを封殺した。


 六番隊隊長の所有する重力の魔大槌グラントハンマーと七番隊隊長の所有する風の手袋(グローブ)フローティア。重々しい大槌から重力の結界の様なものを展開し、触手の動きを鈍らせつつ。シンプルなデザインの手袋(グローブ)の指先から出ている無数の頑丈な糸が相手の身体や触手、尻尾の蛇等をうまい具合に絡めとっていた。


 風の手袋(グローブ)なのに何故糸なのかと言うと、実は別の魔道具が関係していた。七番隊隊長の指に装備している十の指輪だ。エルフが作った魔道具で、名前を○○糸の指輪と呼ばれている。


 ○○の中に鋼や粘液、反発等がある。割と出回っている魔道具もあればそこそこ珍しい種類もあったりする。この指輪から生成される糸は使用者の魔力で作られているため、魔力を失うと自然に消えてしまう。風でこの糸を自由自在に操る事で、多種多様な攻撃を行えると言う事だ。


 まあ、魔力で糸を作る段階でわざわざ魔装武器を使用する必要もないのだが、糸の生成に魔力を使った上に風で操ると魔力消費量も大きい為、補助として用いている部分が強いと言うのが実際の所だろう。


 此処までして漸く、溜め技を使用する事が出来る。そう判断したアレクシス騎士団長と勇者コウジ・シノモリは、迷うことなく武器を構えた。寧ろ、急がなければと言う気持ちの方が強かったと言えるだろう。


 (レオンハルト)に直ぐ戻ると言う様な発言をしてかなり時間が立ち、彼自身かなり不味い状況にあるのだから。


(魔獣であれば魔石は必ずある。急所となる場所は一通り攻撃してなかった・・・となれば、体内で移動していると言う事)


「奏で、そして響けジョワユーズ『高音破砕振(サウンドクラッシュ)』」


 嵌合体魔獣(キメラ)の周囲に無数の見えない力場が発生。そこを中心として音の波を形成する。幾つかの波が重なった部分に強い衝撃が生まれ嵌合体魔獣(キメラ)の身体を襲う。


 突如襲う衝撃波を浴びた嵌合体魔獣(キメラ)は、苦しそうに叫ぶ。見た目は強力なように見えないかもしれないが、技自体はかなり強力なもの。見える傷・・・表面的なダメージよりも内部を破壊する方に優れている事もあり、大ダメージを与えていた。


 全身を庇う動作の中で、最も守りを固めそうな場所。その一点に全てを賭けるため、アレクシス騎士団長は注意深く観察する。内部全体を攻撃した場合、移動していると思われる魔石は最も硬い場所へと追いやられる。


 この場合、考えられる場所は頭部か胸部。


 どちらも触手の直ぐ近くにある事から、直ぐに防御態勢が取れる位置。ほとんどは魔法で動きを封じているが、それでも数本は自在に操れる状況。こんな状況下で、命とも言える魔石を尻尾の先にある蛇の頭や両手足の先に持って行く事は考えられない。


「これで最後だッ!!『セントアーク』」


 縦斬りの一閃が嵌合体魔獣(キメラ)を襲う。狙うは、頭部と胸部、脳と心臓の二箇所を同時に切断するどちらに魔石が移動していたとしても、破壊できると言う事だ。


 アレクシス騎士団長の攻撃は、そのまま嵌合体魔獣(キメラ)を両断した。周りからは歓声を発していたが、斬った本人はなぜか浮かない表情をしていた。


 手応えは確かにあったが、何故かその手応えが二つ。それは、彼からしたらあまりにも例外的な出来事に他ならない。


 二つあったと言う事は、頭部の脳に位置する場所と胸部の心臓にあたる部分両方。二つあった事に驚くと同時に果たして本当に二つだけなのかと言う疑念も同時に産まれる。これが複数ある場合は、全てを破壊しなければすぐに復活してしまう。


 ――――ッ!!


 アレクシス騎士団長の予想は彼の想像をするより遥かに悪い方角へと進んだ。


 目の前の半分に分断された嵌合体魔獣(キメラ)の魔石は、本来あり得ない形で修復され始める。斬れた箇所が再びくっつくではなく、何と言えば良いのか言葉に詰まるが、表現するなら増殖や分裂と言う言葉になるだろう。斬られた断面から新しい魔石が増殖した。即ち二つあった魔石が四つになったと言う事。


 本来弱点とされる魔石が何事もなかったかのように活動し始め、しかも増殖する事態にその場にいた者は、絶望に近い表情をしていた。


 更に、嵌合体魔獣(キメラ)を拘束していた魔法は倒したと思いすでに解除していた。


「全員、総攻撃を継続しろッ!!あれは魔石を複数所有している上に数を増やす能力まで持ち合わせている。恐らく全ての魔石を破壊しなければ倒すことができないが、これまでの攻撃でいくつ増えたのかも定かではない。全力で対処しろッ!!――――ハッ!」


 勇者コウジ・シノモリの掛け声で、その場にいた者はすぐに気持ちを切り替え、攻撃を再開した。


 嵌合体魔獣(キメラ)の身体もかなりの部分が修復されてしまっていたが、総攻撃を受けて身体の彼方此方に深手を負わせた。


 幾つかの部位は本体と切断されてバラバラになっているが、そんなパーツ一つ一つも更に攻撃をして、みじん切りにして行く。


 もし、この行為で魔石を破壊してしまった場合、増殖してしまうが、それでも攻める他ない勇者たちは攻撃の手を休める事はしなかった。


(このまま攻撃を続けていても此方の体力や魔力が尽きるのが早いだろうな・・・どうすれば・・・)


 戦闘の状況を鑑みて、この先の作戦をどう組み込んで行くのか。また、先程の決定打が決まらなかった以上次の手を考えなければならない。しかし、その手段が一向に思いつかない。


 苛立ちと焦りで、聖剣ジョワユーズの攻撃のキレが落ちた瞬間。浅い傷を負った触手が勇者コウジ・シノモリの頬を掠める。


 ッ!!


 だが、流石勇者と行った所であろう。頬を掠めた触手を素早く斬り落とし、両サイドから攻めてくる別の触手も一瞬でバラバラに斬り落とした。バラバラになった触手の中で何かを見つけ素早く手を伸ばし、掴み取る。


「・・・これは、魔石・・・なのか?」


 魔物から取る事が出来る魔石とは、少し異なった魔石。普通であれば澄んだ透明感のある色をした魔石が、今手にしている魔石には一切感じ取れない。禍々しいとさえ感じてしまう魔石だった。


「・・・・・」


 それを手に入れた瞬間、今まで手を出していなかったシュラ族が、腰に隠していた短剣を取り出し、勇者目掛けて一気に間合いを詰めた。


 ――――ッ!!


 咄嗟に攻撃を仕掛けられた為、防御出来たが姿勢を崩されてしまう。空中で半回転しながらそのまま襲ってきたシュラ族に攻撃を繰り出したが、あっさり躱されてしまった。態勢を整え、聖剣を構え直す。


(危なかった・・・にしても、今まで攻撃してこなかった者が何故攻撃してきた・・ッ!?)


 再度シュラ族の猛攻が始まる。全身黒ずくめで覆われており、フードと外套で口を覆った隙間から見える眼に殺意の様なものは感じ取れないが、何か強いものを感じ取れる。


 外見が分からない格好で、シュラ族と判断したのかと言うと、シュラ族特有である瞳に炎を灯していたからだ。色は黒に誓い灰色の色だったが、一目見て判断できる。


 シュラ族が更に攻撃を仕掛けてきたため、それに対抗すべく剣を振るう。


 金属音が何度も激しく響き、勇者コウジ・シノモリはシュラ族の振り下ろした一撃で地面に叩きつけられた。


「ガハッ・・・」


 肺の空気が一気に吐き出される。この攻撃で内臓の一部を負傷したのか、かなり激しい痛みが襲って来る。


「く・・・た、短剣で此処まで押されるとは――――」


 地面から立ち上がり、即座に携帯していた水薬(ポーション)を飲むが、半分ほど飲んだところでシュラ族の追撃を受け、水薬を地面に落としてしまう。そのまま、再度激しい攻防を繰り広げる勇者コウジ・シノモリと魔族に従うシュラ族。


 何度目かの攻撃を凌いだところで、ある事に気が付いた。


(さっきから、この謎の魔石を狙っている・・・・まさかッ)


 シュラ族から一気に間合いを離して上空を確認する。上空で激しく戦闘をしている嵌合体魔獣(キメラ)と騎士団たち。しかし、よく見るとあれ程苦戦していた戦闘が自分一人抜けても維持できていたのだ。その理由は最も苦戦させられていた触手の動きがかなり制限されている。魔法や能力で抑えているのではなく、単純に触手の本数が少なく、動きが遅い。


 考えられる原因は、先程触手から出てきた謎の魔石。


 現に、手に持つ魔石が増殖する様子は無く。向こうも魔石が元も戻った様子はない。


(まさか・・・これが、魔獣の弱点ッ!?)


 嵌合体魔獣(キメラ)は、触手の動きは制限されていたが、それ以外の身体、尻尾、羽、前後の足などの攻撃は今まで通りだった。


「そいつの弱点は、各部位の異なる魔物に黒い魔石がある。それを全ては破壊する事だッ!!」


 勇者コウジ・シノモリの言葉を聞き、上空にいたアレクシス騎士団長はすぐさま、残っている騎士たちに残りの部位を全力で破壊し、黒い魔石を見つけ出すように指示する。


 此処に来て漸く弱点を見つけれた事に騎士たちの士気は更に高まりを見せた。


「秘密が分かってしまいましたか・・・・そろそろ潮時でしょう。向こうの少年も・・・ん?バルラハ様とゾーン様は倒されてしまったか、デトマン様ももう無理だな。であれば・・・主の命によりそろそろ終わらせる・・・がその前に」


 今まで一度も声を発していなかったシュラ族が此処に来て初めて口にした。全身を黒い外套などで覆っているため性別が分からなかったが、声はかなり低くすこし枯れた様な声質をしていた。体格で大まかな性別は分かっていたが、胸が無く鍛えている者も入るため、確実性が無い情報はあまり使用しない方が良い考えていたためで、性別が分からなかったのだ。


「少年ッ!!くそ、何をしようとしているのか分からないが、これ以上何もさせない」


 魔族三体を相手に激闘を繰り広げていたレオンハルトが、魔族と相打ちになり地面へ落下していった。慌てて駆け寄ろうと考えるも今は目の前の敵を如何にかするしかないと覚悟を決めて、剣を構える。先程から先手を取られていた勇者コウジ・シノモリはその決意から、今度は此方から攻め始めるため、シュラ族の男との間合いを詰めた。


 連続で繰り出される剣技にシュラ族の男は持っている短剣で捌く。剣で攻めていた勇者コウジに対し、シュラ族の男は短剣術だけでなく体術を織り交ぜながら攻撃をしていた。


 横薙ぎの剣閃から上段から振り下ろす。シュラ族の男は横薙ぎを躱し、振り下ろしは短剣で軌道をずらした。そのまま回転蹴りで魔石を狙う。


「くっ!!」


 まともに蹴りを受けた左手は、そのまま持っていた黒い魔石を手放してしまう。宙を舞う黒い魔石を再度掴もうと手を伸ばそうとするが、嫌な予感がし素早く手を引っ込める。すると先程まで手があった場所に銀閃が通り過ぎた。


 シュラ族の男の短剣による斬撃。しかもそれだけに留まらず、拳が顔目掛けて打ち出してきた。すかさず体勢を崩し、拳を避ける。黒い魔石をみすみす取られるわけにはいかないと、聖剣で黒い魔石を正面にあった家の窓目掛けて打ち込んだ。


 だが、予想していたのかと言う様な動きで、その軌道を体術で強引に変えた。魔石はそのまま家の壁に衝突して、地面に転がる。


 隙を見つけ、聖剣を振るうもその姿は一瞬で消えてしまった。


「あまい・・・『シャドーアサシング』」


 短剣の技の一つ。『バックスタブ』の上位に当たる技の一つではあるが、一般的な短剣術をそれぞれの流派で派生させ強化している技と異なり、誰でも使える様な上位技である。ただし、扱いが難しい為真の実力を発揮できる者は少ないが、今の技は実力を十分に発揮していた。


 背中に激しい痛みを感じた勇者コウジ。まるで熱した鉄を当てられたような痛みが襲う。そんな痛みに耐え、振り向きざまに一閃するも既にその場所にシュラ族の男は立っておらず、背後の地面に転がっていた黒い魔石を回収していた。


「これは修復不可能だな・・・・それに」


 シュラ族の男が上空を見上げるとアレクシス騎士団長が嵌合体魔獣(キメラ)の最後の黒い魔石と思われる魔石を破壊し終えていた。増殖する魔石と異なり、黒い魔石は破壊されると同一の魔石と合わせなければ元には戻らないのだろう。


 嵌合体魔獣(キメラ)は、生命活動を終えたように動かなくなり、地面へ落下していく。戦っていた騎士たちは、ついに倒せたと喜んでおり、勇者コウジは目の前の敵を倒せば終わりだと確信する。


 地上で上級魔族デトマンと戦っていた(レオンハルト)の仲間や冒険者たち、それに応援に向かった騎士たちも既に戦闘終えているのか。歓喜の声が聞こえていた。


「終わった・・・・では、これで引かせていただきます」


 上空へ飛び立つと何やら魔道具の様な謎の塊を取り出す。そして、魔道具を高らかに上げると何やら呪文の様な詠唱を口にした。


 肌でも感じ取れる程の嫌な予感。上空にいた者はアレクシス騎士団長の指示ですぐさま地上へ降り立つ。攻撃を仕掛けなかったのは、近寄ると間違いなくアレの餌食になると考えたからだ。


 上空には、幾つもの禍々しい漆黒の球が広がり、その場で溶け込む様に空中に消え、次の瞬間・・・・漆黒の球が消えた場所に紫色の魔法陣の様なものが描かれる。


「な・・・何だ・・・あれは!?」


「証拠は全て消滅・・・『(デス)極砲(バースト)』発射」


 紫色の魔法陣から黒い煙の様なものを纏わせたかと思うと、強大な魔力を撃ち出した。標的は、騎士団や勇者、冒険者たちではなく、嵌合体魔獣(キメラ)の死骸や上級魔族の死体だ。


 しかしその撃ち出された魔法は、その標的となったモノの周囲を巻き込むレベルの代物で、騎士や兵士、冒険者たちは急いでその場を離れる。


 そんな中、一人の少年が魔族の近くで横たわっていた。


(ハァハァ・・・・くっそ、まだ動けねー)


 上級魔族バルラハと相打ちとなったレオンハルトは、最後の一撃を胸に受け瀕死の重傷を負っていた。貫かれた剣の破片は取り除いているが、出血が止まらない。魔法の袋に入れていた水薬(ポーション)を胸にかけて、止血だけでも終わらせ地面に激突したのだ。


 魔力はほぼ消費しつくしており、出血が多く深手を負っている事から身動きが取れずにいた。


「レオンくんッ!!」


 上級魔族デトマンを倒したシャルロットたちが、慌てて助けようと駆け寄るが、それを手だけで阻止する。その後、笑顔で何かを言うと、黒い光に飲み込まれた。強烈な音と共に爆風で地面の砂は舞い上がり、周囲にあった建物は爆風で半壊状態になる。


 舞い上がった砂煙が晴れる頃には、シュラ族の男は既に撤退しており、標的となった場所は、死体は愚か何も残っていない。文字通り跡形もなく吹き飛んでいた。地面に残るクレータがその威力を物語っており、巻き込まれた騎士や兵士、冒険者は、その威力に青褪めていた。


 何かには、仲間や友人が巻き込まれ、悲しみのあまりに涙を流す人も居た。


 レオンハルトの仲間もそんな人と同様に目の前の状況について行けず、唖然と立ち尽くしていた。

此処まで読んでいただきありがとうございます。

戦闘シーンばかり続いたので、そろそろほのぼのとした生活の話などを織り込んでいこうと思います。


それと、皆さんは天気の子見ましたか?

私はお盆休みの間に見に行きましたよ。いやー自分的には中々楽しかったです。ひなちゃん可愛いですしね(笑)


では、来週も投稿を予定していますので、お時間があれば是非読んでやってください。

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