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044 招かれざる者

七月も残す所あとわずか。

来月も忙しい月になりそうです。


さて、本編の方ですが、魔族が王都を襲撃しました。以前張っていたフラグを一つ使っておこうと判断したのですが、どれ使おうか悩んだ挙句、手頃なものにしました。

これが終わったらまったりしたものを執筆したいです(笑)

 俺たちは今、王都上空に突如出現した魔族と魔族が連れてきた魔獣を相手に苦戦を強いられていた。


「敵を穿て『ミラージュレイ』」


 光魔剣アリュアンデスの持つ能力の一つ。剣先から放たれた光属性魔法『光線(レイ)』を応用した魔法で『光線(レイ)』を放つとその先に湾曲した円形の透明な何かが出現。例えて言えばレオンハルトたちの前世にあったコンタクトレンズの巨大版みたいなものだろう。


 そこに当てる事で『光線(レイ)』を拡散させて無数の『光線(レイ)』を発生させる。しかも、ご丁寧な事に相手への追尾機能付き。


 嵌合体魔獣(キメラ)は、アレクシス騎士団長の攻撃を察知して、回避行動をとるも追尾してきた攻撃からは逃れられず、前足により半分近くは切り裂かれてしまったが、残りは嵌合体魔獣(キメラ)の身体を貫いた。


 そのうち数発は急所である頭部や心臓部などへ攻撃が通る悲痛な叫びも上げる事無く。全身の力が抜けたように空中を漂っている。


「奏でろジョワユーズ『音鎖爆撃(おんさばくげき)』」


 空中に漂う嵌合体魔獣(キメラ)に対し、勇者コウジ・シノモリは追い打ちをかける様に自身が所有する聖剣ジョワユーズの音撃を使用した。


「はぁはぁ、これでどうだ・・・・ッ!?」


 勇者は攻撃の後、嵌合体魔獣(キメラ)へと視線を向けながら、倒したかどうかの確認をする。嵌合体魔獣(キメラ)の身体は中心部から爆発した様に四肢や胴体、頭部など周囲に散らばっていたが、その部位毎から先程同様の触手が生え、散らばる身体の修復に移っていた。


 勇者コウジ・シノモリとアレクシス騎士団長は、先程から何度もこの様な場面に遭遇し、嵌合体魔獣(キメラ)を倒す手段を見つけられずに、只々魔力と体力を無暗に消費しているのだった。


「これは・・・どうやって倒せばいいんだ?」


「早く倒さなければ、魔族三体を相手に一人奮闘している彼がもたない」


 勇者コウジ・シノモリとアレクシス騎士団長は、少し離れた場所で上級魔族三体と戦闘しているレオンハルトの事を気にかける。


 各々と互角か格上の存在三体を相手にこれまで持ちこたえているのだ。二人とも何時彼が倒されるのか心配でならない。


「心臓部も頭部も破壊しても効果は無かった。それに爆発で身体を吹き飛ばしたり、斬撃で胴体や首を両断したりしても再生する。羽や尾の蛇モドキも同様に意味がなかった。これは本当に倒せる生物なのか?」


 それに加え、魔法で焼いたり、感電させたり、水の牢獄に閉じ込めたりもしたが、効果は無かった。もしかしたら再生の回数制限があるのかと二人がかりで、攻めに攻めたが、再生速度が落ちた感じも見られず、お手上げ状態。


 魔族は、これを何処で見つけた・・・いや作ったのかと怒りより呆れてしまう感情が強いが、今はそんな事を言って居る場合ではない。


 嵌合体魔獣(キメラ)の再生が終わったのか、鋭い眼光で二人を見つめる。これだけで一般の兵士や低レベルの冒険者は恐怖により即死していただろう眼光。


 そして、獲物を見定め直した嵌合体魔獣(キメラ)は、たてがみの触手を槍の様に突き刺しにかかる。しかも触手なので鞭の様に使って来たり、簡単に軌道を変えてきたりするので、対処するだけで精一杯だ。


「「―――ッ!?」」


 二人は、襲い掛かる触手を剣で対処し、隙を見つけては魔法を放って交戦した。


 斬り落とした触手も直ぐに細い糸の様な触手が無数に生えて、斬り落とされた部分とくっついて攻撃を続行してくる。はっきり言って勇者クラスの実力があって如何にか対処できるレベルだ。


「くっ」


 勇者から漏れる声。触手の攻撃を捌ききれず、腹部を貫かれてしまった。


 彼も『魔法鎧(マジックアーマー)』や補助魔法で防御力の底上げをしていたが、それでも貫かれてしまう程、嵌合体魔獣(キメラ)の攻撃力の高さは異常と言わざる負えない。まあ王都を守る積層魔法結界の三層を一度の攻撃で破壊しているのだから、改めて確認しなくても分かってはいた。


 聖剣を持っている手とは反対の手で、腰に装備している一級品の短剣を取り出して腹部を貫いている触手を素早く斬り落とす。


 腹部に残る触手の残骸を身体から引き抜き、その場で魔法を使って燃やし尽くし、水薬(ポーション)を傷口に掛けた。


(どうしたら・・・どうしたら、こいつを倒せる?考えろ。考えるんだ・・・・・ッ!!)


 アレクシス騎士団長が奮闘している中で、一人倒せる可能性を模索する。高度な戦闘のやり取りでは、相手をじっくり観察する暇などない。一時とはいえ、その時間が出来た事を勇者は今できる最大限のチャンスとして見極めようとする。


 そんな時、後方から数十人の気配を感じ取った。


「<・・・・・・敵を撃ち貫け>『(サンダー)(ランス)』」


「<猛火の炎よ。今ひとたび・・・・・・>『火炎(フレイム)爆発(バースト)』」


「切り裂け風刃『ムーアスクワイヤー』」


 雷属性、火属性魔法に加え、援軍に来た王国騎士団の精鋭たちが、各々魔法を繰り出し嵌合体魔獣(キメラ)に攻撃を始めた。


「勇者様、大丈夫ですか!?」


「騎士団長、遅くなって済まない」


 アレクシス騎士団長の様に他の騎士団とは、違う鎧に身を包んだ数人の騎士が、二人に駆け寄り話をする。


 二番隊隊長ウルリヒに、三番隊隊長マリアン、六番隊隊長ベアトリクス。七番隊隊長ロイスに二番隊、四番隊、六番隊の副隊長が参戦。他にも風属性魔法『飛行(フライ)』が使用できる騎士が数名に加え、王宮魔法士も参加している模様。


「ウルリヒにマリオン・・・。任せた任務はどうした?」


 嵌合体魔獣(キメラ)と戦う前にアレクシス騎士団長は、各部隊に王族の警護、住民の避難誘導など指示していたが、それらを終えずに此方に援軍に来たのか確認する。だが、援軍に来た隊長達は、それぞれの持ち場の進行具合を説明。王族は皆無事に王城へ避難する事ができ、今は一番隊副隊長が全部隊への指揮を取っているとの事。上級貴族たちもまた避難はほぼ終わっている様で、数人は騎士団の避難誘導を無視し、自分の屋敷へと戻り私兵で守りを固めたそうだ。住民たちも冒険者たちの協力を得て、ほぼ終わるらしいが武術大会付近は既にいない分。離れた地域に住民たちが避難して、冒険者たちの殆どは其方で動けないか、守りを固めており援軍は望めないとの事。


 (エー)ランクや(ビー)ランクの冒険者たちは、闘技場周辺に居るようだが、空中戦が出来ないものばかりとの事で、待機していると言う事も聞いた。


「ベアトリクスにロイス。数人の騎士を連れて(レオンハルト)の元へ行け。他の者は此処でアレの対処に当たる」


 素早く指示を出しレオンハルトの元へも増援を送る事にした。しかし、事はそう簡単ではなく。嵌合体魔獣(キメラ)の攻撃が隊長、副隊長を含めた騎士全てに攻撃をし始める。


「っち。舐めるなーッ!!」


 騎士たちは、迫り来る触手を剣や槍などの武器で応戦するも、勇者たちでも苦戦を強いられるような攻撃。精鋭とは言っても勇者クラスでも隊長クラスでもないのだから、攻撃を捌ききるのは難しい。


 現に、数人の騎士は身体の一部を触手で貫かれており、その中でも二名は対処しきれず刺殺・・・いや触手による串刺しの滅多刺しにされ絶命。一名は、鞭の様に振るわれた攻撃が元で身体が百八十度回転、上半身と下半身の向きが真逆になっていた。


 三番隊隊長マリアンは、すかさず魔装武器の能力を使い、傷を受けた騎士たちの治療を開始する。彼のもつ魔装武器、聖属性の魔棍セイントスタッドは、周囲に居る者へ治療と防御系の魔法付与が行える。


 本来は後方支援で前衛を支えそうなものだが、彼はこれでも棍術の達人でもあるため、今の地位で前衛兼仲間の回復役として動いている。


「ぐっ・・・これ、魔物の強さと比べ物に・・・しまっ」


 騎士の一人が、触手の攻撃を防戦一方で対処し、しながら目の前にいる嵌合体魔獣(キメラ)の強さについて異常性を口にしていると、それが災いしたのか、死角から突如として現れた別の触手を捕えると、死を覚悟して身体を強張らせる。


 ――――もうだめだ・・・。


 何かが貫かれる様な生々しい音が聞こえてくるが、騎士は激痛を伴うはずの感覚が未だに来ない事を不審に思い閉じた目を開ける。


「あきらめるなッ!!」


 そこには勇者コウジ・シノモリが、自身の持つ聖装武器である聖剣ジョワユーズで、騎士を貫こうとしていた触手を逆に貫き攻撃の軌道をずらしていた。その後、素早い剣捌きにより幾つかに両断される触手。


「このままでは・・・ハッ」


 直ぐ近くでは隊長たちが奮闘し、如何にか耐えているようだが、それもいつまで持つ事か・・・。そう言えば、周囲を見渡せばそこそこの騎士が援軍に来ていたが、今は隊長クラスを除いて残っているのは三人だけとなっていた。精鋭と言われる騎士団員ですらこの惨状。この魔獣の脅威を改めて理解できる。


 魔物や魔獣は、体内の何処かに核となる魔石がある。それを破壊すれば、活動を停止させられるのに・・・・ん?魔石?・・・・魔石だッ!?


「騎士団長、あの魔獣の弱点は魔石です」


 普段、魔物や魔獣を倒す時、魔石を破壊すると言う事はしない。魔石は素材としてかなり重宝される代物なので、一般的には魔石を壊さずに魔物や魔獣を倒す事が一般常識となっている。


 今回のような場合は、魔石の破壊を当然せずに倒し、素材として活用すると言う事がどうしても頭の中で常に無意識に働きかけられていて、破壊して倒そうと言う発想自体無かった。


「魔石かッ!!・・・しかし、目ぼしい所はかなり攻撃したが、魔石らしいものは見つかっていないぞ」


 一般的に魔石は心臓部の近くにある。この巨体で、これだけの能力と力があるのだから、魔石自体も相当大きいと推測できるが、今の所魔石の魔の字ですら触れた感じは無かった。


 一箇所にない・・・・となれば、移動している可能性を考える。


「コウジ殿、あの魔獣の全身全てにダメージを与えられることは可能か?」










 勇者コウジ・シノモリやアレクシス騎士団長たちが嵌合体魔獣(キメラ)と激しい戦闘を繰り広げている中、レオンハルトは魔族三体を相手に何とか持ちこたえていた。


「ヒト族も此処まで戦える奴が居るとは楽しませてくれる・・・・だが、俺たちが優位にいるのは変わりないがなーッ!!」


 バルラハの攻撃がレオンハルトの右脇腹を直撃する。剣で斬られれば、それで終わりなのだが、『魔法鎧(マジックアーマー)』と咄嗟に使用した『魔法障壁(プロテクション)』、後はブラックワイバーンを素材にしたブラックレザーコートのおかげで、斬られることは無かった。しかし、その衝撃までは殺す事が出来ず、斬撃ではなく打撃として衝撃が走った。


 ――ッ!!


 レオンハルトも只斬られたわけではない。バルラハの仲間の魔族二人の攻撃を受け止めている最中に攻撃をされてしまった為、無防備な脇腹に強烈な一撃を受けてしまったというわけだ。


 口から滴る血が、その攻撃力の高さを物語る。


 このままでは・・・・・負ける。


 そう判断したレオンハルトは、魔族と少し距離をとるため、神明紅焔流の技を連続で使用した後『駿天(しゅんてん)』で一気に後ろへ後退した。


「あれを使うしかないのか・・・・」


 一瞬迷ったが、此処を切り抜けられるのであれば、多少代償が大きい切り札を使うしかない。決心したら後は簡単だ。切り札を使うための準備をするだけ。


 愛刀雪風を帯刀すると目を閉じ、正面に構えると両手を突き出した。某アニメのドラ○○ボールで有名なか○は○波の様な手の位置。ただ、指は少し曲がっているのではなくどちらかと言うと真っ直ぐに近い。それに手の平の付け根の部分・・・手根(しゅこん)は、割と離れておりその間隔は、ボール一つ分はあると思われる。


 その間に何か魔法的なものを発動する訳もなく、ただ突き出して・・・・・そして、胸元へ引き寄せる。その時の手は両手とも指先を地面に向け何かを抱えている感じ。一拍した後、一度上へ少し動かし両手とも手の向きを翻し、下・・・鳩尾の辺りで止めた。


 一連の動作の中で、洗礼されたよう動きは、何かを溜めていると思えなくもない。


「ハッ!!」


 気合と共に目を力強く見開く。


 外見は今までと何も変わった様子はない。変わった様子はないのだが、雰囲気は今までのものとは大きく異なっている。


 神明紅焔流口伝『心武統一(しんぶとういつ)』。神明紅焔流を使える者の中で、口伝の域に達しているものは、そう多くはない。前世で使用できたのは、レオンハルト・・・いや、伏見優雨(ふしみゆう)を除いて二人のみ。一人は当時、師範として神明紅焔流の頂点に立っていた祖父。もう一人は、その直弟子にして自身の伯父に当たる次期後継者それだけだ。


 祖父が使用していたのは神明紅焔流口伝『未来感知(みらいかんち)』と呼ばれる技で、戦っている相手の癖から筋肉の動き、目線などの要素から、次の行動を先に知る事が出来る人間離れした技。これは、経験と鋭い観察力があって初めて使えるが、それらを身に付ければ使えるものでもないらしい。


 そして、もう一人。伯父が使う神明紅焔流口伝『絶対領域(ぜったいりょういき)』と呼ばれ、叔父が示す領域(エリア)内では、いかなる攻撃もすべて無効化にする最強の守り技。(ひとえ)に伯父の空間認識の能力がずば抜けて高かったことに加え、天賦の才を持っていたからこそできる事だ。しかもこの口伝は、ただ守るのではなく。それを攻撃に転じる事も出来るので、祖父とは別の意味で最強の人と言える存在だ。


 それで、肝心の俺が使用した神明紅焔流口伝『心武統一(しんぶとういつ)』。先の二つの口伝に比べると凄みは無いと思う。ただ、祖父や伯父と比べると、反応速度がずば抜けて高い。人間は行動を起こす時、考えて行動する事と考えずに身体が先に動く事がある。考えて行動すれば行動に移すまで僅かに時間が必要なり、それは脳が判断し、そこから全身に信号を送って漸く身体が動くからである。対する身体が先に動くと言うのは、反射的な事が大きいが、恐ろしい程の天才でもない限り、その行動が最善かどうか判断できないまま行動している。


 『心武統一(しんぶとういつ)』はそのタイムタグを完全になくし、しかも常時考えながら反応できるため、常に最善の行動を自分自身で選び取れるのだ。六代ぐらい前の師範が使用した口伝『思考加速(しこうかそく)』の上位に当たると祖父から教えてもらった。口伝でも上位とか下位なんてものがあるのかと思ったが、まったくの上位と言うわけでもなかった事は覚えている。


まあ、今はそんな説明はどうでも良いだろう。


 口伝『心武統一(しんぶとういつ)』と使った事で、これまでとは明らかに違う。


 それは魔族も理解したようで、一方的に攻めていたのが、ぱたりと止まった。



「来ないのか?なら此方から攻める」


「「ガハッ」」


 バルラハ以外の魔族二人が同時に攻撃を受ける。別に直ぐ近く二体・・・ゾーンとデトマンが居たわけではない。いやむしろそこそこ離れていた。それを一瞬で同時に攻撃を入れた。


 バルラハは、レオンハルトの攻めるのせの言葉の始まりを聞いた時には、既に姿を消し、せの発音がめに変わる時には既にゾーンとデトマンの腹部にはそれぞれ拳を打ち込まれていた。


 早い・・・早すぎる。それがバルラハと地上でその戦いを見ていたシャルロットやリーゼロッテ、それに他の冒険者たちも同じ感想を心に思っている。何人かは小声で言葉にしていたが。


 バルラハは反射的に剣をそこにいた人物めがけて振るうが既にその場所には誰もいない。そう認識した瞬間、今度は背中から重い一撃を受ける。


「ガハッ」


 先の二体の魔族同様に殴り飛ばされる。その姿を見て地上の冒険者たちは大喜びの様子だが、一人険しい表情で彼を見つめている人物がいた。


「レオンくん・・・・」


 それは、彼の事を誰よりも理解している人物・・・シャルロット。


 彼は、魔族三体を相手に苦戦を知られていたが、今は三体を相手に圧倒している。それが何を示すのか、何となく理解していたからこそ、そんな表情を浮かべていた。


 バルラハは吹き飛ばされながらも直ぐに体勢を戻し、攻撃に構えを取る。それに加わる様にゾーンとデトマンも構え突撃し、再び激しい戦闘が繰り広げられた。。


 目前に迫る剣先を右手に持つ刀で右方向へ弾く。そのまま左手で殴ろうと構えたが、ゾーンと呼ばれる魔族の死角にデトマンが襲い掛かってくるのが、確認できた。


(一撃を打ち込んだ後に、後ろにいる魔族へ攻撃するには、振りが少なすぎる・・・)


 考えた事が既に身体と連動しているレオンハルトは、右手持つ刀を背中越しに手放し、右手をそのまま握りしめるとゾーンの顔面に『轟雷(ごうらい)』を打ち込んだ。


 殴りつけた事でレオンハルトの身体の向きは先程と真逆・・・つまり左手を少し背中側へ回せば、吸い寄せられているかのように先程手放した刀が手に馴染む位置に落ちてくる。


 左手でそのまま刀を振り抜く。死角から襲ったはずのデトマンの剣は、レオンハルトの身体を貫く前、見事に刀で防がれてしまった。


(――――ッ!!)


 完全に受け止めたはずのレオンハルトの表情が痛みにより歪む。痛みと言っても魔族から攻撃を受けた痛みではなく、自身の攻撃の反動とでも呼べばいいのか。その痛みは雷に打たれた様な強いもので、一瞬で全身を巡る。


(もう反動が・・・)


 口伝『心武統一(しんぶとういつ)』は、まだ彼の今の状態では引き出す事が出来ない。それを無理やり使っているため、あっと言う間に身体への負荷が限界値を越えた。


 痛みに耐えるレオンハルトの後ろをバルラハが捉える。振り下ろされる刀に対処するため、目の前で鍔迫り合いをしていたデトマンの手首を掴むと自分へと引き寄せ、鳩尾に膝蹴りを入れ、刀を素早く帯刀する。


 神明紅焔流抜刀術奥義壱ノ型『伐折羅(バサラ)』でバルラハの剣の根元から綺麗に切断した。突然、剣の重みが軽くなった事にバルラハは驚き、手元に視線を向けると次の瞬間。強烈な左アッパーを顎に受けてしまう。


 三体の魔族の同時攻撃に瞬殺するレオンハルト。しかし、彼も限界を既に超えた状態。肉体への負荷だけに留まらず、両目は真っ赤に充血・・・いや流血までしていた。


 それは、目だけではなく、耳や鼻、至る皮膚から出血し始めていた。


 吹き飛ばされたゾーンは起きる気配を見せず、空中を浮かんでいたが、デトマンとバルラハは、すぐさま痛みに耐えながら起き上がる。


「テメェ・・・ブッコロスッ」


 汚い言葉を発し始めたデトマン。対照的に戦闘開始時には高いプライドからか怒り狂う様に戦闘をしていたバルラハは、斬られた剣を眺めて、そして・・・・何処か嬉しそうな表情でニヤついていた。


「フフッ。フハハハハ。やればできるじゃないか人族。お前になら、これを使う価値ありだな」


 今まで使用していなかったもう一本の剣を抜く。片刃の真っ黒い刀身に亀裂の様な深紅の模様がこれまで使用していた武器よりさらに禍々しさを放つ。


「ッチ。もう限界が・・・」


 すると、地上から雷の矢に水の槍、炎の斬撃など様々な攻撃が魔族たちを襲う。


「ック・・・・ナ、ナンダッ!?」


 地上からの攻撃、攻撃により煙が立ち込めていたが、次第に晴れていき攻撃した者たちの姿が見えるようになった。


「シャルにリーゼ・・・・みんなも」


 魔法で作ったと思われる雷の弓を構えたシャルロットに、炎の灯す剣を構えるリーゼロッテ、水を纏う十字の槍を持つ騎士団の女性。他にもアニータやヨハン、騎士団や冒険者に魔法使いと皆が攻撃に加わっていた。


「第二射放てッ―――――!!」


 騎士団の人の合図で、魔法攻撃や魔装武器による攻撃、それに弓矢や投槍などの中距離攻撃を再度行われる。


 魔族は人族にとって脅威である。それが上級魔族ともなれば尚の事。質で勝てるのは勇者クラスの実力者だけなので、それ以外で勝とうとするなら質ではなく数で攻める他ない。


 二対一から一対一に変わった事で、レオンハルトは好機と判断し、口伝である『心武統一(しんぶとういつ)』を解除した。既に限界であった身体に鞭を打つように気合を入れ、抜刀術の構えをする。


 一方、気を失っていたゾーンは、最初の攻撃を受けた段階で目を覚ましたが、全身に魔法などの攻撃を受け瀕死の状態で動けない状態に陥る。仲間の状態に気が付いたデトマンは、先程レオンハルトに対して怒りを表していたが、今は地上にいる連中に意識を向けており、一気に今いる場所から急降下した。


「雑魚風情が調子に乗るなッ!!」


 地上へ降り立ったデトマンは、真っ先に脅威と成りえる人物。強烈な一撃を放ってきたシャルロットへ間合いを詰めるため、一気に加速し急接近。そのまま剣を振るう。


 直撃かと思われる中、三本の槍がその行く手を阻む。


「シャル。油断するなッ!!相手は魔族だ」


「シャルさんに攻撃は通さない」


「真っ先に子供を狙うなんて下賤な」


 ユリアーヌ、エッダ、そして騎士団の女性騎士にして二番隊の隊長補佐であるサラが、それぞれ全力で魔族の攻撃を受け止める。


「魔族如き引くわけには・・・くらえ『バスタースラッシュ』」


 大男の冒険者が背後から両手剣を振り下ろす。その男に合わせて別の冒険者と騎士数名も攻撃を繰り出した。


 甲高い音が鳴り響く。そして直後に金属が砕ける音と共に何か生々しい音が聞こえる。人肉を貫いた様な鈍い音や何かが折れる音・・・・血が噴き出す音も聞こえる。


 デトマンは自身から生える鱗で守られた尾で騎士や冒険者を攻撃した。その結果背後にいた冒険者は、身体を貫かれそのまま息絶え、騎士たちも数名が貫かれたり、首や背骨の骨を折られたりしていた。


 生々しい光景に眉を(ひそ)めるシャルロットたち。彼女たちもこれまで人の死などを見てきた事があるし、これよりも酷い現場にも直面した事もある。それでも流石に人が死んでしまう場面は慣れる事ではない。


「二人とも離れて<変幻自在の水流よ。激流となりて敵を穿(うが)て>『ストライクゲイザー』」


 ユリアーヌとエッダはサラの指示で素早く後方へ退避。直後サラの魔装武器、水の魔槍クルートヴェルトの能力を使った攻撃。更にシャルロットがその攻撃に合わせる様に雷属性魔法『稲妻(チェーン)連鎖(ライトニング)』を使用。『ストライクゲイザー』に雷を纏わせた様な合わせ技。


「クッ!」


 跳躍で躱すデトマンだったが、その先にはクルトやダーヴィトを含め数人の冒険者が待機していた。


「逃がしはしない。ハッ」


 『ストライクゲイザー』に纏わせた『稲妻(チェーン)連鎖(ライトニング)』を追尾させる様に軌道を変え、デトマンの後を追う。


「消え去れ『ルィンクロス』」


「『シールドストライク』」


「『アサルトブレイブ』」


 皆の攻撃が退路を断ち、後方からのシャルロットの稲妻が直撃する。激しい音と共に爆煙で視界を遮られたが、魔族とはいえこれだけの者が一気に攻めたのだから無傷で済むとは思っていない。


「油断してはだめっ」


 シャルロットの言葉で、近くに居た者は危機感を覚え、全力で周囲を警戒する。すると煙の中から金属と金属がぶつかり合う衝突音と苦痛やら悲鳴やらの声が聞こえ始めた。


「<風よ。吹き荒れる大地にその脅威を示せ>『空気砲(エアロカノン)』」


 ヨハンは、状況を確認するため魔法でその煙を吹き飛ばす。


 煙が消えそこには、魔族と懸命に戦うダーヴィトとクルト、それに何時の間にか参戦していたリーゼロッテにユリアーヌの姿もあった。騎士団や冒険者たちも懸命に戦っていたが、十数名が既に地面に横たわっている。


「こっちは視界不良の状態で、あれと訓練してきたんだ。これしきの事で」


 ダーヴィトは懸命に魔族の攻撃を受け流しながら接近戦に持ち込み、彼を軸にリーゼロッテとクルト、エッダがカバーに入る。隙が出来ればユリアーヌが強烈な一撃を入れたり、場合によってはダーヴィトと二枚攻めで押し切っていた。


「ヨハンはみんなの補助に回って。アニータ私と一緒に援護入るよ『(サンダー)(アロー)』」


「わかった、お姉ちゃん。『クロスファイヤー』シュートッ!!」


「ええ。了解しました」


 此処の実力もさることながら、その高い連携によって魔族を翻弄するシャルロットたち。騎士団第二部隊の隊長補佐であるサラやトビアス、イーヴォたちに冒険者の実力者たちもその連携の高さに舌を巻くほど。


 魔法石から大量に魔力を抜き出し、連発するアニータに電光の様な高速の魔法の矢を撃つシャルロットのコンビネーションで、姿勢を崩した所を前衛陣がすかさず追撃をする激しい攻防戦が行われる。


「サラ。此方の事は気にするな。アーベルそこに倒れている兵士を直ぐに救護所へ。クラウディアは俺と来い」


 二番隊副隊長のマリオンが、後方で負傷兵や瀕死の冒険者たちの救護に当たる騎士たちの指示を行い速やかに戦場から退避させている。


 退避させた後は、そのまま教会の近くの広場へ移動。普段は国民の憩いの場として提供されている公園の様な場所であるが、今は避難所となり怪我人も此処へ運ばれる。


 そこでは、教会に勤める司祭や司教、修道女(シスター)たちが懸命に治癒魔法で手当てをしたり、症状が酷くない者は薬草などで応急処置などをしたりしていた。それだけでは当然、人数が足りないため、怪我の具合を医者が確認、薬師に薬の調合をお願いして事に当たったり、冒険者の中で応急処置が行える者は積極的に手伝いに駆り出されたりしている状況だ。


 上位魔族であるデトマンを相手に仲間たちが全力で押さえてくれているこの好機を逃すわけにはいかない。


 レオンハルトは、魔力を使って再度自分自身を強化し、目の前の魔族・・・・バルラハへ攻撃を仕掛ける。


(今のあいつの武器は根元から先はない。腰に予備の剣を持っているが、所詮折れた剣ほどの力は無いはず、決めるなら今しかないッ!!)


「フッ」


 不吉な笑みを浮かべるバルラハ。レオンハルトの攻撃を見切った上で、先が無い剣をレオンハルトに向けて投擲、その後腰に差していたもう一本の剣を手に取った。


 投擲を弾き、追撃を仕掛けたレオンハルト。魔族の手に予備の剣、真っ黒い刀身に不気味な模様を走らせて異様な剣を見て「しまった」と判断する。


 予備だと思っていた武器が、先程まで使っていた方と遜色ない程の異質・・・いや今の方が確実に何かを秘めていると判断できるほどの剣。


 レオンハルトの攻撃を簡単に受け止めたバルラハ。そのまま反撃されると思っていたレオンハルトは彼が動かない事に少しだけ安心する。


 ズシャ。


 ――――ッ!!


 突然、左鎖骨から右腹部にかけて何かが通り過ぎ、それが何なのか判断する前に通過した場所から熱く激しい痛みと共に血が噴き出る。


(き・・・・斬られた・・・・!?)


 ブラックワイバーンを素材にした防御力に優れ魔法付与で強化したブラックレザーコートに加え、自身でも『魔法鎧(マジックアーマー)』を展開していた厚い防御陣を容易く切り裂いた事に驚きを隠せないが、それよりも驚いたのは、バルラハは一切動いていないと言う事だ。


 バルラハが動いていないとすると、考えられるのは二つ。一つは魔法的な攻撃を別の場所に仕掛け、遅延させて発動するように準備していた事。しかし、今回魔法が発動された兆候は一切感じられなかった。


 もう一つは、先程まで再起不能と思われていたゾーンが、戻って来て攻撃してきた場合だが、此方も復活していたのなら、その殺気や気配を感じ取る事が出来ていたはず。しかし、此方も一切感じる事は無かった。


(だ・・・・誰に・・斬られた!?)


 バルラハがいる方へ視線を向ける。


 バルラハは何処か悪魔的な笑みで此方を見ていた。魔族なので、悪魔と言えば悪魔なのだろうが。その手に持つ異質な武器に目を向ける。


 ――――ッ!?


 そこには、先程の剣の形状とは異なった異様な状態の剣。あれはそもそも剣と呼んでいいのか分からない様な代物がバルラハの手に握られていた。


 剣の柄と根本は、鞘から抜いて、攻撃を受けた時と変わらない・・・だが、刀身部分は完全に別物。刀身は伸びていてしかも生きている様に自由自在に曲がっていた。


 それは、無機質と言うより有機質、つまり生き物の様な動きをする剣がそこにはあったのだ。


「驚いたか?これは、使用者が限られる武器ではあるが、使いこなせば・・・・一歩も動かずにこの街の住人をすべて斬殺できる代物なんですよ」


「ふざけやがって、切り札温存ってか」


 レオンハルトは、言葉で時間を稼ぎながら、瞬時に『中級治癒(ハイヒール)』で胸の傷を癒した。服は付与してある自動修復が機能し、徐々に切り裂かれた箇所が修繕された。


「まだ、楽しめそうだな。では・・・・行くぞ」


 バルラハは徹底してその場を動かず、剣だけを振るう。そして、振るわれた剣は剣先を伸ばしつつ形を変えたり、折れたりして此方を翻弄する。折れると言う表現は言葉通りの意味で、本当にあらゆる場所が折れている。


 ありとあらゆる方角から剣が攻撃してくるため、防御に徹するのが精一杯。刀で襲い来る剣を受け流したり、止めたりするが、次第に逃げ道が少なくなっている事に気が付く。


 周囲を刃で覆われている感じだ。


「チッ!!伸ばしているだけだから、剣はその場に残ると言う事かッ!!」


 しかも、気配が一切無いので、何処から来るか分からず、すべてを防ぐ事も出来ない。次第に深い傷まで負ってしまい、治癒をする暇も与えられず、体力と魔力、精神力だけでなく出血が多い事から失った血も多く、身体が思う様に動かなくなる。


「レオンくんッ!!」


 地上からシャルロットが、心配した声で此方を見ていたが、彼女も今、魔族の一人デトマンと戦闘中、レオンハルトと違って仲間や騎士たちが共に戦ってくれているので、上空の様子を見る事は出来るが、援護をする事は出来ない。少しでも援護の手を止めると、仲間たちが一気に形勢逆転されてしまいかねないからだ。


「少年ッ!!持ちこたえろッ!!」


 勇者コウジ・シノモリもレオンハルトを気にかけるが、自分たちの方もアレクシス騎士団長や各騎士団の隊長たちと共に嵌合体魔獣(キメラ)と激しい戦闘を繰り広げており援護に向かうのには嵌合体魔獣(キメラ)を倒さないと助けに行けない状況にあった。


(シャル・・・それに、皆も・・・・くそっ、みんな頑張っているんだ。此処で俺が負けるわけにはいかない。皆の命を守るためにも、シャル・・・・琴莉(ことり)との約束を守るためにも)


「俺に残された力・・・何でも良い。俺に、俺に奴と渡り合うだけの力を、はあああああああ」


 意識が朦朧(もうろう)と仕掛けている中で、レオンハルトは限界の身体に最後の力を振り絞り、意識を保った。


 初めて聞くレオンハルトの雄叫びにも聞こえる気合を入れる声。


 それに引っ張られるように地上のメンバーや嵌合体魔獣(キメラ)を相手にしていたメンバーにも力が入る。


「行くぞッ!!『駿雷(しゅんらい)』セィッ!ハッ!!ヤッ!!」


 『駿雷(しゅんらい)』は『駿天(しゅんてん)』と同じ神明紅焔流の移動系の技の一つで、軽やかに高速で移動する『駿天(しゅんてん)』と異なり、『駿雷(しゅんらい)』は一気に間合いを詰めよる。武術でいう所の『縮地(しゅくち)』に似た技だ。異なるのは爆発的な脚力で地面を蹴るため、一直線にしか移動できない突進系とも呼べる代物。


 今回は『飛行(フライ)』で空中に居る事から足場が無いので、同系統の魔法『天駆(フラッシュジャンプ)』も併用し、超高速移動による高速戦闘を仕掛ける。


「ほー、まだそんな力を残しているのか」


 斬撃は(ことごと)く、あの剣に阻まれ一切バルラハにダメージを与えられなかった。それどころか剣で防ぎ反撃まで狙ってくるため、躱すのも一苦労の状態。


 隙を作らなければ此方が負ける。


 すかさず火属性魔法『火球(ファイヤーボール)』を無詠唱で三十近くの数の火の玉を瞬時に作り、魔族に向けて撃つ。『火球(ファイヤーボール)』だけではなく『風球(ウィンドボール)』や『真空斬閃(エアースラッシュ)』、『水球(アクアボール)』など色々な属性魔法も使いこなして撃ち込む。


 魔法と剣術、体術などを駆使して戦闘を行う。しかし、斬撃は愚か魔法攻撃もすべてあの、変幻自在に動く生きた武器によって防がれてしまった。


 魔法による直接的な攻撃が通らない相手には、範囲型の魔法で敵を封じ込めるのがオススメよ。


 ふと、頭の中に過ったある人からの教え。魔法と言うものを教えてくれた恩師であり、母親的存在のアンネローゼの言葉。それを思い出すと直ぐに攻撃パターンを切り替える。


(あの剣を封じる必要がある・・・・拘束(バインド)系・・・いや、ここは大技で)


 あの人が教えてくれた魔法、それを再現するために、そしてより効果を高めるための準備に入る。だが、相手も何か仕掛けてくると察知している様に剣で襲い掛かってくる。


 幾つもの水属性魔法で牽制し、土属性魔法の上位魔法である重力属性魔法で周囲の重力力場を変更。無重力に近い重力にして、水滴を下に落とさない様にする。


「何する気だ!?」


 バルラハの言葉に反応せずに魔法を構築(イメージ)しながら魔力を練り上げる。詠唱は必要ない。それが引き起こす現象の原理を構築(イメージ)しているため、発動する事は不可能ではない。


 ただ、発動させるためのタイミングや布石が少ない。それにあの剣が厄介なので、隙を作る必要もある。


(なッ!!殺気ッ!!)


 急に感じた気配に慌てて『周囲探索(エリアサーチ)』を発動させる。そして、反応はすぐ後ろからあり、これから何が起こるのか理解したと同時にそれが起こる。


 背中から腹部にかけて先程まで気を失っていた魔族ゾーンの剣がレオンハルトを貫いていた。刃からはレオンハルトの血が滴っている。ただでさえ血液が不足している中で、これはかなり状況的に良くない。素早く刀を逆手に持ち背後にいるゾーンの頭部に刃を突き刺した。


 ゾーンの接近に反応が遅れたのは、彼が既に虫の息の状態にあったことが原因。まあそのおかげで、レオンハルトの攻撃は防がれる事無くゾーンの頭部を貫き、絶命させた。


 ゾーンが殺された事で、僅かにバルラハの動きが一瞬止まる。


(今だッ!!)


「うおおおお凍てつけぇええ」


 氷属性魔法『細氷(ダイヤモンドダスト)』。師であり義理母でもあるアンネローゼの得意な魔法の一つ。周囲を小さな粒子が氷、幻想的な空間を作り出すが、段々と凍てつき速度が上がり、周囲は氷で煙に包まれる。


 事前に水属性魔法で周囲に水を散りばめていた事も凍てつく速度を速める要因の一つとなっている。


 重力属性魔法で、地上部隊に被害が出ない様に配慮されているが、大規模魔法を行使した事で勇者コウジ・シノモリたちやシャルロットたちの方にも気温が低下するなどのちょっとした作用があったらしいが、この時のレオンハルトは知らず、後で報告して分かった。


「な、なる程、氷漬けにしてこの攻撃を防ごうというわけか・・・だが、あまいッ」


 低体温で動きが鈍くなり、バルラハ自身も少しずつ身体に霜が付いている中、闘志をむき出しにする。縦横無尽にかける刃も彼の周囲に円を描く様に纏わりつき、そして回転させ始めた。


 高速回転による斬撃で周囲の冷気を吹き飛ばす様だ。


(だが、高速回転する事で、その剣は更に凍り付く・・・・・あとは)


 防がれることは百も承知。レオンハルトは更に別の魔法を発動させた。


 火属性魔法『火炎地獄(インフェルノ)』。火属性魔法の中でも上級魔法に分類される魔法で、言葉通り自分を中心に周囲のものをすべて灼熱の炎で焼き払う魔法だ。


「な、氷属性だけでなく火属性の上級魔法まで・・・」


 マイナスの気温から一気に高熱の温度へ変化させ、再度、氷属性魔法『細氷(ダイヤモンドダスト)』を使用する。急激な温度変化で、バルラハは身体の変化を感じ取った。


 急激に冷やされた後の高熱で熱し、再び冷やす事で、殆どの金属は脆くなってしまい。超が付く一流品でない限り、武器は大体砕け散る。それが人体であれば尚の事、身体の細胞組織が破壊され、身体自身にもひび割れが生じていた。


 如何にか身体のひび割れを魔力で保護する事で進行を遅らせる事に成功するが、バルラハの武器の方は対処が遅れる。彼が手にする武器は、一流に分類される品だったのか、砕ける事は無かったが、幾つものひびが入り剣自体の耐久力がかなり低下した。


 同じ現象がレオンハルトの武器にも表れるかと思うかもしれないが、そこは魔法で保護しており、それ程刀にダメージは入っていない。


 魔力が心許ない状況での上級魔法三連発。魔力がほぼ底をつきかけて、レオンハルトの顔色はかなり悪い状態にあった。魔力(マナ)欠乏症と呼ばれる症状が明確に表れているし、血液不足で顔色が血の気が引いたように真っ白となっていた。そんな状態でも彼は気絶していられないと、自身の大腿部に短剣を突き刺す。


 痛みによる強制覚醒。映画やドラマでお馴染みの行為。大体は気絶防止の為ではなく。睡魔や幻惑を強制的に排除するために用いる事が多い行為ではあるが、(あなが)ち気絶に対しても有効である。


「クソが・・・・小僧、お前の事は忘れねぇー。絶対にな」


 バルラハは、当初此処に現れた時の様に怒りを表しているが、現れた時の様な荒れ狂う怒りではなく、静かな怒りと言い表せるようなそんな怒りだ。だが、彼の瞳は火山が噴火している様な熱い怒りの炎を灯した瞳。


「悪いが、俺はお前のことなど覚えるつもりはない・・・・消えろッ」


 最後の言葉を言い放つとそのまま横一閃して、バルラハの首を刎ねる。胴体と別れた首は何処かしてやったと言う笑みを浮かべており、それを確認した直後、今にも壊れそうなバルラハが持っていた剣が、背中からレオンハルトの胸を貫いた。


「・・・・・っち、最後の最後にこれかよ・・・・俺もまだ修行が足りないな――――」


 胸を貫いた剣を確認し、それに触れるとまるで顕微鏡で使うカバーガラスを強く振れた時の様に静かに砕ける。胸からの血が夥しく、口の中も鉄の味で良く分からない状態の中、彼は静かに地面へ落ちて行った。


此処まで読んでいただき、ありがとうございます。

誤字脱字が多く読んで下さっている皆様には、ご不便おかけして申し訳ありません。


今後も読んでいただけると嬉しいです。

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