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039 武術大会未成年の部 槍術VS剣術

おはようございまーす。

少し前までは暑いなーと感じていたのですが、最近また少し肌寒く感じますね(特に昼と夜の差が激しい)。


私は、現在海外出張中でして、インドにいるのですが、時差が三時間以上あるので、現在真夜中と言う事です。まあ、予約投稿なので関係ありませんが(笑)。


本業の仕事ですが、執筆に生かせそうな事があればどんどん取材していこうかと思います。出来れば、それを生かした内容もいつか作りたいですねー。


それでは続きの方を読んで下さいませ。


 アルデレール王国の一大行事の一つ武術大会。そして今現在、未成年の部で本選に勝ち残った十六名によりトーナメント戦が行われている。


 第一試合から白熱した戦闘が繰り広げられ、会場内はまるで決勝戦を見ている様なそんな熱気に包まれていた。


()らえー『轟雷(ごうらい)』」


「アカツキ流大剣術『(よい)斬り』」


 ダーヴィトとの突き出す拳とティアナの振るう大剣。


 互いの技が衝突し、激しい轟音が鳴り響く。一歩も譲らない両者の攻撃は何時の間にか互いの技を相殺できずそれぞれが技の反動を受けてしまった。


 吹き飛ばされ宙を舞う両者。しかし、致命的な差が此処で起こってしまう。それは武器を手にしていたかどうかだ。


 大剣を所持していたティアナは、衝撃の強さのあまり大剣を手放したまま吹き飛ばされ、闘技場の上へと転げるように落ち、武器はと言うと闘技場外へと地面に突き刺さる形で落ちた。一方ダーヴィトは簡易篭手(かんいガントレット)を装備していた為、衝撃を彼女の様に分散させる事が出来ず、そのまま闘技場外まで吹き飛ばされてしまった。


 静まり返る観客席。そして―――。


「しょ・・勝者ティアナ選手。す、すごい試合を目にしました。長年、司会者としてこの行事に関わらせていただきましたが、此処までの白熱した試合は見た事がありません。戦いについては解説者の騎士団長のアレクシス様にお願いします」


 ここまでのレベルの試合になると司会者の解説ではなく。戦闘のプロにお願いした方が国民の人も理解しやすいからだ。と言うよりも司会者だと凄かった、鋭かったと感想を述べてしまうだけになってしまう。


「ええ。お二人ともとても未成年とは思えないレベルの試合を見せてくれました。特にダーヴィト選手の盾による変則的な攻撃、防御、そして判断力。これはとても素晴らしかったです」


 アレクシスは、敗者であるダーヴィトが如何に凄い選手だったのかを説明していた。その一方で勝者であるティアナの事も十分に褒める。彼女の場合は優れた才能を生かした技の出し方に臨機応変な対応能力、ダーヴィトに比べて一段落ちてしまう物の一般人からすれば遥かに高いと言える。


「今回、勝敗はティアナ選手に傾きましたが、彼にもし手放した盾が近くにあり拾うチャンスがあったのなら恐らく勝者はダーヴィト選手でしたでしょうね。今回の試合はそれ程までに均衡した者同士のハイレベルな試合だったと思います」


 その解説により観客席にいた者たちは両者に対して大きな拍手を行う。


「すごかったぞー」


「良い試合をありがとー」


 拍手と共に様々な声も一緒に届けられ両者は闘技場から控室へと移動した。


 第一回戦第二試合。(サイ)の獣人ライナーとドワーフのヴィムの試合が開始された。(サイ)の獣人と言う事もあって体格が良く重量級の武器、両手槌を持っていたのに対し、小柄だが同じくしっかりした体格のドワーフもまた同じく重量級の片手鈍器ともう片方の手に盾の組合わせで試合に(のぞ)む。


 破壊力に特化した言うなれば(パワー)対決。だが、純粋な(パワー)対決であればライナーの武器の方が有利だが、ヴィムはその攻撃を受け流し、片手鈍器の速さを生かした打撃でライナーを追い詰める。両手と片手では、武器の振るう速度に差が出る。特に今回の様な両手槌と片手鈍器では、明らかな差が出てしまい。一撃が決まれば勝てるライナーでも結局は当てなければ意味がない。


 最終的には盾で受け流され、片手鈍器で足を狙われ戦闘不能になり敗北宣言をしてヴィムが勝利を収めた。


 当然、観客たちからは拍手をされるが、一試合目に比べるとどうしても迫力に欠けてしまい。感動が若干薄れてしまったようではあるが。


 第三試合は、これまた見ごたえのある試合として、司会者に紹介された。


 前回大会でベスト四に入り、一回戦目で試合したティアナと互角に戦った相手。アルデレール王国において強者と呼ばれるルオール一族の出自を持つユリアーヌ。対するは、勇者と共に旅をしてきた剣士見習いロアン。見習いと呼ばれるもそれは勇者から見ての実力で一般的なレベルで言えば同年代でも上位に入れる実力者。その二人が一回戦で激突するのだ。


 司会者の紹介にも熱が入っており、それを聞いてより会場内の期待が上昇。試合開始前だと言うのにも拘らず、既に開始されたかのような白熱な視線が闘技場内へ押し寄せる。


「それでは、只今より第一回戦第三試合を開始します。両者準備は宜しいですか・・・それでは、始めッ!!」


 開始と同時に間合いを詰めるため二人とも走り始める。それぞれの武器はユリアーヌが槍、ロアンが両刃の剣だ。武器のリーチで言えば先に優位に立てるのはユリアーヌの持つ槍だが、間合いに入られればロアンに分がある。


 突進系の三連突『トライデントスピア』でまずはロアンを攻撃した。初手からの技で一瞬だけ(ひる)むが、すぐさま剣で三連突に対処。反撃(カウンター)技『セイントレイカー』を逆に繰り出した。


 反撃は予想していたかのように紙一重で(かわ)し、再攻撃で今度は低い姿勢から四連突と遠心力を使った横薙ぎを繰り出す。


「くッ―――」


 守り切れないと悟り、二連と横薙ぎだけ防ぐ。残りの二連は強引に体をよじり躱すものの躱し切れず僅かに服を切り裂き、その下にある皮膚をも切り裂いた。


 だったら、と言わんばかりにロアンが七連続の攻撃を仕掛けてくる。ユリアーヌはその攻撃を今度は槍捌きで対処し、無傷で終わった。


 その後も両者ともに激しい攻防戦が繰り広げられる。


「貴方は中々にお強い人だ。同年代で此処まで強い人は初めてですね」


 一度距離を取ったロアンがユリアーヌに語り掛ける。試合中の会話は相手に隙を与えてしまいかねないが、それは低レベルの実力者であって、彼らの様な実力者ではそんな隙は殆ど生まれない。


「俺より強い年下もそこそこ居る。今までお前が当たらなかっただけだ」


 その言葉を聞き、一試合目で対戦していたティアナとダーヴィトを思い浮かべるロアン。ティアナに関しては年下だと分かるがダーヴィトは彼と変わらない。しかし、年下に数名居る口振りからして他にも強者が居ると理解した。可能性としては、彼の仲間のクルトと言う人物、それに前回準優勝をしたリリーと言う女の子ぐらいだろう。後は然程変わらないと言うのがロアンの見立てだ。


「なら、貴方を倒してその人たちも倒さなくてはいけませんね」


 剣を構え直し、次の攻撃の手順を考え始める。


(恐らく此方が攻めれば相手は、反撃を仕掛けてくるだろう。その反撃を受け流し懐に入るそして大技を決めてやる)


 組み立て終わり、ロアンはすぐさま剣先を地面につくギリギリまで落とす。


 一呼吸した後、今度はロアンだけがユリアーヌとの間合いを詰めに入った。


「これで終わりだー『ラナークラフト』」


 斬り上げからの斬り落としによる二連続攻撃。そして、ユリアーヌはそれを槍で再度捌く。


(ッ!!今だ―――――ッ!!)


 槍で捌いた動きに合わせる様に反撃(カウンター)技を繰り出した。先程と同じ『セイントレイカー』で、槍を弾き返し、そのまま相手の内側へ入り込む。


「正真正銘これで最後です『アクセルレイド』」


 最大連続攻撃数が九と言うロアンが持つ現行最強の技の一つ。勇者より教えられたその技を血の滲む様な努力により漸く我が物にした言わば十八番(オハコ)と呼んでも差し支えが無いほど使用している技でもある。


「なるほど、この程度の実力か」


 しかし、ロアンの最強にして十八番(オハコ)の『アクセルレイド』を意図も容易く打ち破る。相殺方法は簡単で、相手が放った九連続攻撃をすべて逆方向から打ち込み斬撃の威力を無くした。


 普通は初見の技でなくとも対処が難しい技を(ユリアーヌ)は初見で封殺した。これは幼少期にレオンハルトと幾重もの試合を行い身に着けた彼自身の技術の賜物(たまもの)と言えるだろう。


 全てを封殺されたロアンは、その驚愕(きょうがく)のあまりその場で唖然としてしまい、隙を見せる事になってしまう。ユリアーヌは、その隙を見逃す事はせず、槍を構え今度は自身の十八番(オハコ)である『ゲイルスピア』で相手に一撃を入れた。


 ユリアーヌの攻撃に気づき慌てて防御の構えを取るが、一瞬遅く『ゲイルスピア』を思いっきり受けてしまった。


 防御に間に合わないと踏んでいたためロアンが身に着ける防具の上へ技を当てるが、それでも相当なダメージを相手に与えた事になる。後ずさるロアンに追い打ちをかけるかの如く、槍の柄を回転させる要領で足払いを行い、バランスを崩し転倒させる。


 咄嗟(とっさ)の事で受け身が取れなかったロアンは又しても全身を地面に打ち付け軽くはないダメージを負ってしまった。


「――――くっ・・・・こんな、こんなはずでは――――」


 地面に横たわったまま中々起き上がらないロアン。ユリアーヌは、止めを刺さずに一度距離を取った。横たわった状態でも(ロアン)がまだ武器を握りしめていたからだ。


 その状態だと剣の方が間合い的に優位である。態勢的な事を指せばユリアーヌの方が断然優位に立っているが、これは殺しではなく試合。そして、殺しはこの大会において最も重い罪に問われる。そうなると実はロアンの方が若干優位に立てるのだ。まあその際は彼自身も負傷する覚悟が必要になるが。


 それに、ユリアーヌは(ロアン)から少し嫌な感じを覚え、その場を離れた事も大きい。諦めない気持ちなどではなく、もっと黒い何かを。


「・・・・おれは・・・こんなところで負けては、いけないんだーッ!!」


 立ち上がったと思えば一心不乱に突撃してきた。そして、先程とは打って変わって無作為な斬撃で斬りかかる。


 ロアンが逆上して無茶苦茶な攻撃をしてきて事にユリアーヌは直ぐに理解した。このままだと危険と判断した審査員たちだったが、審査員が止める前にユリアーヌは一瞬で彼を無力化。そして、場外へ吹き飛ばす。


 槍の刃先ではなく柄の部分でロアンに数発強烈なものを打ち込み、彼の意識を刈り取った上で場外に出した。そうする事で、気を失ったロアンの確認を審査員がチェックすることなく勝者の宣言が出来る。ただの気絶だけでは、目を覚ました時にまた無作為に剣を振られて怪我人が出てしまっては元も子もない。


「勝者ユリアーヌ選手。逆上して暴れまわるロアン選手に気絶と場外の両方で仕留める何という強者。負けてしまったロアン選手には後で説教が必要かと思いますが、今は彼の勝利を称えましょう」


 拍手喝采(はくしゅかっさい)の中一人控室に戻るユリアーヌ。当然ロアンは運営職員に担架で運ばれていった。


「お疲れ、中々腕を上げていたようだな。これは試合をするのが楽しみだ」


 ユリアーヌは第五ブロックからで、レオンハルトは第十四ブロック。試合で当たるとしたら決勝戦でしかありえない。と言う事は此処に居る者たちをすべで倒す必要がある。当然それには、仲間や知り合いも含めてだ。


「レオン、その前に俺と当たること忘れるなよ」


 クルトの発言にリーゼロッテとエッダも同意した。リーゼロッテはこの後すぐに試合があり勝てば次はユリアーヌとの試合になる。クルトも一回戦を勝ち上がれば二回戦でレオンハルトと当たる。三回戦まで勝ち上がればエッダとも試合をする事になるが、エッダの場合二回戦で前回大会準優勝のリリーとの戦闘もある。


 ユリアーヌも仮にレオンハルトと試合をしようとするなら二回戦でリーゼロッテを倒した後に前回大会優勝のティアナとの試合を勝ちあがらなければいけなかった。彼の場合、彼女に前回負けているため、勝ち上がろうとするのは決して楽な事ではないのだ。


「レオン様、(わたくし)たちも優勝を狙っていますの。それにレオン様に(わたくし)たちの成長を見ていただきたいですし」


 仲間同士で話をしているとティアナとリリーが会話に入ってくる。


 国王陛下との謁見で、幼い頃のティアナとリリーを救ったのが自分だと分かり、それから彼女たちが自分に対して様付けで呼ぶようになった。


 レーア第二王女は、レオンハルト様。ティアナは、レオン様と呼び、リリーに至ってはレオ様とかなり短縮されてしまっていた。レオンとレオでは、もう別人にしか感じ取れないが孤児院の頃にも同じようにレオン、レオと呼ばれていたので、構わない。


 しかし、平民である自分に対し、上級貴族の二人から様付けで呼ばれる事には違和感しかない。


「様付けは止めてくださいませんか。ティアナ様、リリー様」


「レオ様こそ、私たちに様を付けなくてもよろしいですよ。此処では身分の差は関係ありませんから」


 リリーの言葉をそのまま同じように返すレオンハルト。身分の差が関係ないなら自分に対して様を付けるのも可笑しいと、しかし、それを今度はティアナが言い返してきた。


(わたくし)たちは、貴方様に命を救われました。ですからこれは身分ではなく(わたくし)たちの誠意とお思い下さい」


 ・・・・・重い。


 一度救った命に対してしかも、レオンハルトからすれば(ほぼ)忘れていたに等しい内容に誠意を示される始末。


 更に言い返そうとするが、此処で司会者から次の選手の紹介が始まり、一時休戦とした。知らない者同士の戦いであれば、そのまま話し合っていたかもしれないが、次の試合はリーゼロッテが出番。対戦相手は同じ人族で前回予選落ちの人物。


 見なくても(おおよ)そ見当は付くが、子供の成長は特に早い。前回が弱いからと言って今回も弱いと断言するのは浅はかである。


「さて、第七ブロックを勝ち残ったドミニク選手。彼は今回、初めて本選に出場したとの事です。積み上げてきた経験で何処まで勝ち進む事が出来るのでしょうか。対する第八ブロックの勝者リーゼロッテ選手。今大会初出場にして、その圧倒的な強さを見せつけてきました。一試合目で戦ったダーヴィト選手とは冒険者チームを組んでいるとの事です。彼と同等の実力者なのかもしれません」


 司会者の紹介が終わり、試合の開始の合図が出されると二人ともすぐさま行動を開始した。ドミニクは、二本の片手斧を両手に構え、横へ移動。対するリーゼロッテも同じ方向へ移動。


 闘技場の形が円状なので、それぞれが別の方角へ移動した場合、ただ位置が変わるだけでぐるぐると闘技場の外周を回るだけになってしまうが、お互いが同じ方向へ移動するとなれば戦う範囲が極端に狭くなる。


 しかも、相手を外周側へ追いやった場合、相手は逃げ道すらなくなるのだ。


(斧の形状からしてトマホークか、であれば投擲に注意が必要になるが・・・試合に不向きな武器を何故選択しているのか)


 不思議に思っていると何時の間にかリーゼロッテがドミニクを追い込んでいる形となっていた。その間に何度か互いの刃を交えたようだが、リーゼロッテの方が数段上回る形で終わっている。


「うりゃー」


 追い込まれたドミニクは持っていたトマホークの一つをリーゼロッテに向かって投げる。だが、ただ単純に投げるだけではリーゼロッテに当てることなどできない。しかし、投げられたトマホークには鎖の様なものが付いている。


 鎖の先はドミニクが持っている事を察したレオンハルトはすぐさまその武器がただのトマホークではなく、鎖鎌ならぬ鎖斧でもあったと言うわけだ。


 変則的な動きを攻撃の軌道が読みにくく扱いが難しい武器でもあるが、攪乱(かくらん)させる事が出来、殺傷能力が高く、攻撃範囲が広いと言う利点もある。


 鎖により投げたはずのトマホークが戻ってくる、つまりリーゼロッテの背後を攻撃してきた。


 ―――ッ!!


 何かを感じ取ったリーゼロッテは、寸前の所で躱す。回避に優先した事で、ドミニクへのマークが外れ、彼はすぐさま優位な位置取りの為に走った。


 すかさず、位置取りを妨害するためにリーゼロッテも走るが、その行く手を鎖付きトマホークが襲ってきたため、剣で弾く。


「しまっ―――」


 脚を一瞬止めた事で、先程と位置が逆転。今度はリーゼロッテが追い込まれる状況に陥った。


 ドミニクは、追い詰める事が出来れば、後は場外へ落とすだけ。そう言う作戦の元考えだした技を使用する。鎖を伸ばしまるで投げ縄の様に自身の頭上で回転させる。遠心力により先端にあるトマホークは当たれば痛いでは済まない程の威力を出すほどに。


「おーっとこれは、リーゼロッテ選手大ピンチッ!!ドミニク選手がこのままリーゼロッテ選手に近づけば退路がない彼女は場外へ。果たしてどうするのでしょう」


 司会者の言う通り、このままでは後退せざる負えない。そして自ら場外へ出て負けるか。敗北宣言をするしかない。


 ―――――


 静まり返る観客席、息をのむ音が僅かに聞こえそうなくらいだが、ドミニクの回転させる音でそれをかき消していた。


(退路はないが攻略方法は残されているぞ。どうするリーゼ)


 じわじわと近寄るドミニクに対して、静かに構えるリーゼロッテ。その瞳は諦めた瞳ではなく。まるで機会を(うかが)う様なそんな瞳をしていた。


 そして、その瞬間は訪れる。


 遠心力で威力を高めたトマホークがギリギリ当たらない所へ来た途端、姿勢を低くする。ドミニクもそれが反撃だと言う事を読み取り、すぐさま応戦。回転させていたトマホークの軌道を変えてリーゼロッテが、今いる場所目掛け地面に叩きつける様に攻撃した。そしてもう一本のトマホークもタイミングをずらして同様の攻撃を仕掛ける。


 姿勢を低くしたことで、頭上からの攻撃に晒されそうになり、すぐさま転がるように横へ移動。二本のトマホークが地面に突き刺さり、ドミニクはそれを引っ張る事で自分の元へ戻るようにする。


 この瞬間をまるで狙ったように、リーゼロッテは跳躍した。そして、持っていた剣を逆手に持ちある一点を定める。


 クロスに交わる二本の鎖。その交わる一点へ槍でも投げるかのように自身の剣を投げつけた。剣はそのまま鎖の輪に見事突き刺さり、トマホークの動きを封じ込める。


 急な出来事にドミニクが視線を其方へ向ける。その事により今度はリーゼロッテのマークがドミニクから外れた。着地と同時に間合いを零距離まで縮める。


「なっ!!」


 一瞬の事で驚くドミニク。しかし次の瞬間、鳩尾(みぞおち)に強烈な鈍痛が彼を襲った。リーゼロッテが掌打をその部分に打ち込んだからだ。痛みのあまり両手の武器から手を放す。そこから、更にリーゼロッテが追い打ちをかける。


 まずは、左手で相手の右手を掴み、右手で相手の胸ぐらを掴んだ。そのまま懐に入っている状態で足払いをして背負うように持ち上げる。俗に言う背負投をした。ドミニクは足が地面から離れ、気が付けば地面に背中から叩きつけられた。


 受け身を取れなかったドミニクは、肺の中の空気が一気に外へ吐き出される。そして、一拍を置き状況確認の為に起き上がろうとすると、今度は鮮やかな蹴り技で場外へ突き飛ばされた。


「うおおおおおおお――――――」


 観戦者たちは大盛り上がりをする。あの状況下で逆転するとは九割以上の人間は考えてもいなかったからだ。それが、どうだろう。実際には、まるで狙っていましたと言わんばかりに全てが流れる様に決まった。


「すごい。これは凄い戦いでした。勝者リーゼロッテ選手。私には凄すぎて何が何やら分かりませんでしたので、アレクシス騎士団長に解説をお願いします」


「えー彼女は鎖を動かせなくする事で、相手の意表を突いたのでしょう。そこに体術でまず腹部に一撃を入れる。これは、次に行われた投げの動作をするのに相手を一時的に無力化させる必要があったと思います。そして問題の投げですが、これは体術を習っている者は聞き覚えがあるかもしれません。技の名前は『回転落とし』と呼ばれる投げ技に近いものを感じました。本来は背負うように投げる技ではないのですが、今のは流石の私でも驚きました。『回転落とし』では相手を地面に横たえる事しかできませんが、この投げ技は相手にかなりのダメージを与えたと思います。実に良い試合でした」


 解説を聞いて納得する者も入れば、とにかく凄いと評価する人など様々ではあった。ドミニクも動けない程のダメージでもなかったため、歩いて控室に戻る。リーゼロッテもその後に続いた。


 此処までの試合は四回行われ、第一回戦の半分を終えた事になる。


 現在勝ち残っているのは、第一試合で見事にダーヴィトに勝ったティアナ。それに早さを兼ね備える(パワー)系、ドワーフのヴィム。優勝候補筆頭のロアンに圧勝したユリアーヌ。そして、変則的な攻撃をも打ち破ったリーゼロッテの四人だ。


 残る四人をこの後の試合で決める事になる。司会者の呼ばれる形で次の対戦者が闘技場へ向かって歩いて行った。


 エルフのアレックスと前回準優勝者のリリー。お互いに細剣(レイピア)を使用する様だが、アレックスは聞き手とは反対にポニャードダガー呼ばれる手首から肘より少し短い程度の短剣を装備していた。


「ん?ポニャードダガーか?と言う事は細剣(レイピア)が攻撃で短剣(ダガー)が防御用かー。良いバランスだ」


 勝敗が長引くかとも思えたが、案外呆気なく終わる。アレックスよりもリリーの攻撃の手数、技の組み合わせが上手く。なすすべもなく負けを認めた。


「えーっと。今までの試合でも最も早く勝敗が決まりましたね」


 まあ、あれだけ力量の差が出ていたら態々(わざわざ)解説をする事もないだろう。それ程の差が出ていた。


「それでは、早速第六試合に移りたいと思います。槍術使いのエッダ選手と黒豹の獣人ギード選手です。エッダ選手は華奢な体格なのに槍の使い方が非常に卓越した選手です。一方ギード選手はその脅威の身体能力から繰り出される速さを武器に短剣で相手を斬り付ける選手です。リーチを生かせればエッダ選手の方が有利でしょうが、その速さに何処迄食らいつけるのかそれが勝負の分かれ道になる事でしょう。では両者前へ」


 エッダと黒豹のギードが対面する。こういっては何だが、ギードと言う選手身長がユリアーヌよりも高い。対戦者であるエッダと比べると二回り以上差があるように見えた。


 それに、獣人でも人族よりなのか、獣よりなのかで見た目が大きく変わってくるが、ギードの場合は後者である。全身に真っ黒い光沢のある短毛。相手の喉元を何時でも噛み切れそうな強靭(きょうじん)(あご)に鋭利な牙。ちょっと長めの黒い尻尾は、見た目と違い愛着が沸きそうな感じがする。


 司会者の開始と同時にギードが姿を消す。


「早ッ!!うわっ―――」


 初手から待ったなしの高速連続攻撃。エッダは素早く槍で応戦するも全くその速度について行けていない。


(動きが速すぎて全体をとらえきれない―――けど、致命傷だけは如何にか対処は出来る)


 動きが早く対処に難儀するが、何とか食らいつけて行けるのは、今までの修行と戦闘の賜物だろう。それに、彼から感じる殺気の様なもの。これが次は何処を狙うのか見当がつく為何とか対処できていると言う事だ。


 エッダの防戦一方な状態に観客席に座る国民も勝利はギードにあると思い始める。先の試合同様に対戦者の力量の差が大きく出過ぎたと思い始めた瞬間。


 会場内を大きな衝撃波が通り過ぎる。


 エッダの広範囲斬撃技『サークルウェーブ』槍のギリギリの柄の部分を持ち身体を回転させながら上下に動かす。剣で言う回転斬りの様なものだろう。正し、剣の様な一度の斬撃とは異なり、前世のハンマー投げの様に数回転させる。


 足止め程度にしか使えない技だが、ギードの様な速さを生かした相手には効果抜群。繰り出す風の衝撃波が、僅かに動きを阻害させる。


「居場所が分かれば―――はああ」


 動きが一瞬遅くなったギードに連続攻撃を仕掛ける。ユリアーヌの槍術は、オールラウンダーではあるが得意分野は突き。しかし、エッダの場合同じくオールラウンダーではあるものの得意分野はその槍捌きである。


 シャルロットの矢やリーゼロッテの魔法を幾度となく叩き落としてきたのだから、槍の使い方が下手であるはずがない。


 まるで槍が生き物のようにエッダの腕や全身で踊るように回転する。常に遠心力で速度と威力を高めているため、一度止まってしまった相手では、再度最高速を出すにも隙を作らせてくれず、短剣で防ぐしか手段がない。


 『ダンシング・スラスト』それが現在、彼女(エッダ)が使用する槍術の技。槍がまるで踊る様な動きで相手を斬り付けることから名付けられている。


「ちッ」


 止まない攻撃に攻めても弾かれる防御。細剣(レイピア)短剣(ダガー)等の軽い武器はほぼ無力化されてしまう。弱点が無いわけでもないが、それにギードはその事に気が付く事は無い。


 最終的にギードは、繰り出す攻撃は全て弾かれ、また変則的な軌道による攻撃により成すすべもなく敗北してしてしまった。


「しょ、勝者エッダ選手。何という卓越した槍捌きだったのでしょうか。とても未成年とは思えない程の修練を積まれてきたと思います」


 司会者が盛り立てつつ、アレクシス騎士団長が解説を丁寧に行った。


 会場からは、盛り上がりを見せる声に拍手で包まれていた。


「次はレオンお前の番だな」


「ああ。相手も刀を使うようだから、少し楽しみではある」


 自分の名前が呼ばれるまでユリアーヌと簡単な雑談をして控室で待つレオンハルト。この世界で考案した刀。それを主の武器としている人物を見たのは久しく。どの様に刀を自分の者としているのか期待していた。


「では次の試合で―――――」


 司会者の紹介が始まり、心を躍らせる思いで闘技場へ向かった。











 観戦席の一角にある観客室。


 この国の国王であるアウグストは、未成年の部、それも今回本選に勝ち残った者たちの実力の高さに驚きを隠せずにいた。


 先日、娘である第二王女レーアと共に未成年の部の予選の試合を観察した時には、そこそこの実力者が揃っているなぐらいの事しか思っていなかった。それが、本選になれば明らかに今までの実力を隠していたと言える程の激しい高レベルの試合を繰り広げていた。


「お父様、あの方のお仲間の皆様も騎士団の兵士ぐらいお強いですわよ」


 レーアは、周囲に聞かれる事が無い事は分かっていながらも、普段の言葉使いとは裏腹にこの様な場に合わせた言葉で話しかける。


 実は、王族の中でも別段不思議な事ではない。国王や王妃もそれは同じである。心を許せる人物しかいない場合は、結構砕けた物言いをする事が多い。


 この場は、アウグスト陛下と王妃や王子などの王族。それにティアナの父親にしてこの国の宰相であるエトヴィン・ライムント・フォン・フォルマー公爵、その他複数の大臣が同席している。同席と言っても宰相以下大臣たちは王族とは少し離れた後ろの位置に居るが。


 その他に護衛騎士として、四番隊の隊長並びに五番隊の隊長、その二つの隊の精鋭が更に後ろに控えていた。


 観客室の周囲は、小さな個室が幾つかあり、上級貴族や大商人、教会関係者が確保していたりする。中級下級の貴族となれば、観客室ではなく屋外での観戦となっていた。


 その王族が使用する観客室は、物理・魔法に対する魔法障壁と分厚い壁で、覆われており中の声が外へ漏れる事は無い。この部屋から声をかける場合は、専用の魔道具を用いれば、外に設置した別の魔道具を通して声を伝えられると言う事になっている。まあ、簡単に行ってしまえばマイクとスピーカだ。


「ああ。やはり褒章に爵位を授けるべきだったかもしれんな」


 アウグスト陛下は、レオンハルトが王城を訪れた時の事を思い出す。その時は、本当に爵位を授けられるよう男爵位の準備はしていた。しかし、それは彼自身の口で断られ、恩人でもあるため強く推す事も出来ず、結果彼が育ってきた村の援助という形で話が済んでいる。


(これは、彼の故郷の援助を手厚くして、接点を作っておいた方が良さそうだな)


 まだ、レオンハルトの試合を見たわけではないが、彼の情報を集めている時に彼の仲間たちは彼の指導により数段強くなったと報告を受けている。言うなれば彼はそれ以上の実力であることに間違えはないし、騎士団長であるアレクシスも彼の潜在能力の高さを高く評価していた。


 今回は、彼の試合を近くで見れるように運営に無理を言って解説者の任に就かせている。


「いよいよ。レオンハルト様の出番ですわ」


「どう戦うのか楽しみだの」


 レーアに続きアウグスト陛下もそれに答える。他の王子たちも同じように興味を示しており、前のめりになりそうなぐらい前傾姿勢で観戦し始めた。


(彼の出番か・・・実力次第では今後の事を検討する必要があるな)


 アウグスト陛下の陞爵(しょうしゃく)の意見とは異なり、宰相は今後起こりえそうな事案について考えを改めようとしていた。


 魔族が活発に行動し始めた事。それに伴う未知の魔物の出現。魔物の大量発生。この国だけでも問題は山済みな上に、協力要請を受けている国は、この国よりも悲惨な状況だと言う報告も受けている。


 彼をその一箇所に派遣するだけで、状況を打破してくれそうなそんな期待感をこれまでの仲間の試合を見て思ってしまったのだ。


此処まで読んでいただき、誠にありがとうございます。

最近、投稿していて気が付いたのですが、総合評価が少し上がっていた事に驚いています。

4年近く活動停止していたのに、再び執筆活動を始め、投稿していたら、まさか読んで下さる人が居る事に感謝感激です。


次回は、六月の最終週か、七月の最初の週に投稿できるように頑張ります。

引き続き、皆様に読んでいただけるよう、誠心誠意頑張ります。


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