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038 武術大会未成年の部 盾術VS大剣術

やっとゴジラを見に行く事が出来ました。

期待していた以上の迫力で久々に興奮しましたねー。

アベンジャーズも良かったし、今年の映画も中々いいですねー。

 王城にてアウグスト陛下との謁見の日から数日が経過し、今日から二日間に渡り本選が開始される。


 謁見の日の夜に皆を集めて話し合いをした。内容は主に王族に呼び出しを受けた事。受けた内容がどういった理由なのかと言う事。それに踏まえ今後どうするのか尋ねられた事。この際だから大会が終わった後の事について尋ねる。


 ダーヴィトとエッダは引き続きレオンハルトと行動を共にする。まあ当然シャルロットとリーゼロッテ、アニータも同じだ。何せチームを組んで活動しているのだから、問題はユリアーヌ、クルト、ヨハンの三人である。彼らは、現在王都アルデレートの西方に位置する商業都市オルキデオを拠点として活動している冒険者だ。東方にある海隣都市ナルキーソで活動しているレオンハルトたちとは真逆の位置にある。


「レオンハルトについて行く予定だが、大丈夫か?」


「そうだね。元々レオくんと会えたら、行動を共にしようって三人で決めていたから、僕たちが加わっても良いかな?」


 ユリアーヌが意思を示し、ヨハンがユリアーヌの不足部分を捕捉して尋ねる。彼らの問いに俺は問題がない事を伝える。


 次に問題になるのが、拠点だ。彼らが拠点にしているオルキデオにするのか、自分たちが拠点としているナルキーソにするのかを決めなくてはならない。または、第三の案として、皆で旅をすると言うのも一つの手だろう。


 冒険者は拠点と作りその周囲で活動する者も居るが、逆に拠点を持たず、街から街へと転々としながら活動する冒険者も少なくはない。


 拠点がある方が、街の人たちと親しみを得て有益な情報も聞き出しやすいが、他の街について(うと)くなる。その点、拠点を持たない冒険者は色々な人と交流が持て、見知らぬ知識や色々な魔物との戦闘が出来るようになると言うメリットがある。まあデメリットとしては、街への貢献度と言えばよいのか、中々信頼を得にくいと言う部分が発生してしまうが。


 正直、俺たちはナルキーソに愛着はあるものの執着する意思はない。そして、それはユリアーヌも同様の様だった。ただ、オルキデオの冒険者ギルドに預けている物があるのでそれの回収の為一度オルキデオに向かいたいとの事。


 レオンハルトはオルキデオにまだ行った事が無いので、彼らが戻る際に一緒について行って『転移(テレポート)』出来るようにしておこうと考える。


 となれば、最終的に残されたのがナルキーソか、旅かと言う選択肢になった。


「ナルキーソを拠点にしても良いけど、私は他の街も見てみたいかな」


 リーゼロッテがそういう風に言ってきたため、他の者へ確認すると全員が問題ないと言う感じに頷いたので、大会終了後は旅に出る事となった。旅に出る前にオルキデオに向かいその後、王都経由で再びナルキーソに、そこで旅の準備をしてからまだ行った事が無い土地へ行く。場所に関してはナルキーソに着く前に決めるぐらいで良い。そして、旅をするならば馬車を手に入れる必要が出てきた。


 全員で話を終えた後は、シャルロットはリーゼロッテと話があると言う事で、その場で少し残ると言う。護衛として誰か残った方が良いと言うとエッダが指名された。そこにアニータも加わった事で、結局女性陣が残り、男性陣が撤退すると言う事となる。


「何の話をするんだろうな」


「さあ、でも大方見当つくけどねーニッシッシ」


 レオンハルトの心配に対し、クルトは何か分かっている様な言い方をする。ヨハンはそれに対して苦笑し、ダーヴィトは何だろうと考え始めた。ユリアーヌに至っては相変わらず興味なしと言った姿勢を貫いている。


 それで、本選開始日までの間に、エルフィーからお茶のお誘いとティアナ、リリー両名からの食事へ誘われた。


 エルフィーの御茶会に俺とシャルロット、リーゼロッテが参加。エルフィー側は、エルフィーと初めて出会った時に一緒にいたローザが同行していた。


 何やら楽しそうに話すシャルロットとリーゼロッテとエルフィー。蚊帳の外となっていた俺はローザと話をして過ごす。そして教えてもらったのだが、ローザはE(イー)ランクへ昇格したそうだ。そして、現在は四人の仲間と共に活動をして、時折こうやってエルフィーの護衛を買って出ているようだ。


 エルフィーたちのお茶を楽しんだ翌日に今度は、ティアナ、リリーからの食事会への参加をした。しかも何故か俺以外にユリアーヌとクルトは参加が決まっていた。後は何人でも構わないと言う事だったので、声を掛けたら全員参加が決まった。対する相手はと言うと、ティアナ、リリー以外に数名の女の子が参加していた。


 ティアナとリリーは、過去に助けてもらったお礼がしたいとお茶会を開こうと計画していたが、それを他の貴族子女たちに伝わり、ユリアーヌやクルト、ダーヴィトにぜひ会いたいとの事。レオンハルトの名前が挙がらなかったのは、お誘いする二人が狙っていると判断しての事だが、お高いの席に同行して名前を憶えてもらおうと言う思いは心に秘めていたりする。


 貴族子女を(ないがし)ろにも出来ない二人は、お茶会から立食パーティーに切り替える事にしたのだそうだ。


 立食パーティーそのものは楽しめたし、仲間たちも満足している様子だった。しかし、何かは余り楽しめていない様子でもあった。特にシャルロットとリーゼロッテは、招待してくれたティアナとリリーに対して、エッダは貴族子女たちに対して若干牽制している風にも取れた。


 そんなこんなで、割と本選まで忙しかったレオンハルトたちである。










「みなさーんお待たせしました。本日も快晴で、実に武術大会日和ですねー。さて本日から予選を勝ち抜いた選手により本選を開始いたします。予定としましては、午前中に未成年の部二回戦まで行いベスト四を決めてもらいまーす。午後は一般の部を未成年の部と同じように進めていきますねー。明日の午前中に準決勝と決勝を行い。午後から表彰式と言う流れになっておりますのでよろしくお願いしますねー」


 元気に話をする司会進行役の女性職員。しかも予選の時には全く顔を見せていなかった新しい人物だった。


 今日、明日ともに彼女が司会する様だ。しかも、今までの人族の人ではなく、猫の半獣人。人族と見た目は変わらないが、猫耳が頭にあり、若干猫っぽい顔つきをしている。


 何故、人族から半獣人に変わったのか、試合の実況を行う上で選手の動きを捕えなければならないが、本選は猛者たちが勝ち残っており、時には早すぎて見えないなんてこともある。そこで、彼女たちの様な半獣人や獣人に司会進行兼実況をお願いしている。特に猫の獣人などは動体視力が高い為、そこそこの動く把握できる。ただ、達人たちの本気の戦いは目で追えないとの事なので、補助として王国騎士団最強の団長に横に立っていざと言う時の解説を手配している。


「それと、本日はアルデレール王国の現国王、アウグスト陛下がお見えになっております。また、王族であらせられるアマーリエ第一王妃様にフローラ第二王妃様、コンラーディン王太子殿下並びにテオドール殿下、レーア殿下、カールハインス殿下、ヨハネス殿下、クリスティアーネ殿下、クリストハルト殿下も既にお席に着かれている様です」


 本選は、王族が武術大会に顔を見せるのが通例だが、今回は例年に比べて王族の参加人が多い。それ程期待をされていると言う事だろう。何せ、前回大会優勝、準優勝、ベスト四の二人に勇者の仲間にして剣士見習い、王女殿下を窮地から救った者とその仲間。


 話題に事欠かない面子ばかりである。


「では早速、武術大会未成年の部本選一回戦第一試合。第一ブロックを勝ち残ったティアナ選手と第二ブロックを勝ち残ったダーヴィト選手闘技場へお上がり下さい」


 司会者に声を掛けられた二名は堂々とした態度で闘技場へ歩く。


「先日は、ありがとうございました。ですが、これは試合ですので全力で行かせていただきますね」


「ええ。此方こそ私の持てる力を出し切ってでも勝たせていただきますわ」


 闘技場へ到着するまでの少しの間、互いに一言会話をする。


「えー皆さまも良くご存じの通り、ティアナ選手は前回大会初出場ながら、その驚異の腕前で優勝を勝ち取りました今大会の優勝候補の一人であります。対するダーヴィト選手は、両手に持つ盾を巧みに使い予選では彼の防御を突破で来た者が居ない程の防御力。また防御技に加え見事な体捌きで対戦者を倒してきた正に鉄壁の城塞の様な方です。一撃の威力を誇るティアナ選手が相手の防御を上回るのかそれとも、その攻撃すら弾き返すのか。非常に見応えのある戦いとなるでしょう。それではお二人とも宜しいですか?―――試合開始ッ!!」


 合図と共にティアナが一気に距離を詰めるため走り始める。対するダーヴィトは相手の攻撃を見極めるため守りの態勢に入る。


「隙だらけよッ!!セィッ」


 横薙ぎに振るわれる大剣をダーヴィトは軽々躱す。彼は、レオンハルトに鍛えられている一人でそう簡単に隙を作らない。先程見せた隙はわざと出し、相手にそこを狙ってくださいと言っている様なもの。


「素直な攻撃では自分に当てる事すらできませんよ」


 ダーヴィトは守りの態勢に入っているのにも関わらず、守らずに回避を選択。それが彼の戦い方でもあるし彼との特訓で教えられた戦い方でもあった。元々は、盾で相手の攻撃を防ぎ、隙を見て反撃をする盾の流派だった。


 剣士が盾を持つ意味と、彼の様な盾で後ろの者を守るでは、戦い方が根本的に異なる。そして、守るに徹する事は悪くはないが、攻撃をする事が出来ない事を考えれば、あまり進められるものでもない。


 戦争の様に盾職を前面に一、二列に配置し相続に長槍兵を置くと言う手段では、効果はあるだろう。しかし、彼と組む仲間は個々の能力を十分に生かした戦いが出来るため、守りは最低限で構わない。そうなれば必然的に盾職であるダーヴィトにも攻撃に参加してもらう事が増える。攻撃に参加すると言う事は基本動作を防御から回避へ変更し、反撃を行うと言うスタイルを取らなくてはいけないと言う事だ。


 予選でも何度も見せた盾を使った戦闘技術。それを頭では理解していても、身体が従来の盾の役割と言う風に反応してしまう。


 ティアナは、避けられ背後を取られそうになるも、持ち前の高い戦闘技術で直ぐに体勢を立て直す。


「そうですわね。貴方相手に真正面からでは此方に分が悪いみたいですわ。だから―――」


 下段から上段への切り上げ、そしてその威力を殺さずに遠心力を使い更に横一閃の二連撃を繰り出した。


 左右にもつ盾で素早く対処し、二連撃目を防ぎ終えた途端。反撃と言わんばかりに盾の淵の部分で相手を突き刺すような打撃攻撃を繰り出す。


 前面に比べ淵などの部分では打撃による威力が段違いに高く。カイトシールドの様な盾だと更に威力が高いが、ダーヴィトが使用するのは円盾なので、カイトシールドに比べて若干威力が弱い。


 打ち出す攻撃を大剣で防ぐ。


 その衝突に金属音が高らかに響き会場内を騒然とさせた。


 理由は、その攻撃を開始の合図と言わんばかりの激しい攻防戦が繰り広げられたからだ。


 金属音は何十となり響き、盾と大剣の衝突で火花を散らす。


「激しい・・・激しい攻防戦が繰り広げられています。これは前回大会の準決勝以来の実力者同士のぶつかり合いです」


 司会者の言葉とは裏腹に、きちんと状況を説明する騎士団長。戦闘に覚えがある者でなければ、彼らの攻防戦の意図を説明できないからである。


「アカツキ流大剣術『(よい)斬り』」


「『シールドストライク』」


ティアナのアカツキ流大剣術の技とダーヴィトのレーヴェン流盾術の技が激しく衝突した。



 互いの一撃を見事に打ち消し、両者ともに距離を取った。連続的に行われた攻防戦は彼らの集中力を一気に高めていた分、息を整える必要もある。そうしなければ、呼吸がままならないと言える程の高い戦闘でもあった。


 再度相手に意識を向ける。


(彼女は間違いなくリーゼロッテと同等かそれ以上の実力者。ならば・・・)


 整えたのも束の間、ダーヴィトが再攻撃に出た。それに合わせる様にティアナも大剣を構え直し、迎撃に当たる。


 突き出される盾。先程の『シールドストライク』とは異なり、全面を押し付ける様に突進された攻撃がティアナを襲う。しかし、それは彼女も把握しており、サイドステップで躱した後、大剣を横薙ぎに振るう。


 ダーヴィトの身体に触れる直前、大剣が大きく軌道を逸らす。


 反対側に持つ盾が、ティアナの攻撃を弾き返したのだ。


「くっ!!」


 体格の差で、ティアナはバランスを崩される。その隙を狙ったようにダーヴィトの体術が彼女を襲った。


「おーっと此処で、ティアナ選手初めて大きなダメージを受けてしまった」


「如何やら戦い方は彼の方が一枚上手の様ですね」


 司会者と解説者である騎士団長が、その戦いぶりを分かりやすく説明していた。多少分かるものであれば、その程度の解説は必要としないが、当然王国の行事ごと。全く分からない国民が観戦に来てもいるので、そう言った人たちにはありがたいものである。


(戦い方はダヴィが上の様だが、ポテンシャルは彼女の方が高いな。あの年でこの域とは・・)


 レオンハルトは、解説者が語らない部分を独自に言い聞かせる。


 多少分かる者は、先程の様にダーヴィトの方が一枚上手と理解する。しかし、低レベルの実力者の評価とは裏腹に、高レベルの実力者はそれが、小手先だけの力量の差だと見抜いていた。


「はぁはぁ、流石あのお方の仲間と言う事はありますね」


 大きく吹き飛ばされたティアナだったが、直ぐに立ち上がり構え直した。ダーヴィトの攻撃は確かに彼女の腹部を捕えていたのだが、吹き飛ばされた割にダメージが少ない。


「直撃の瞬間、後方へ移動して威力を押さえたのか。それにその後もきちんと受け身を取っていたようだな。経験や知識は彼の方が高いが、それと渡り合えるだけの才能か」


 レオンハルトの隣で観戦していたユリアーヌもその戦いを見て分析していた。


 そして、分析通り二人の戦いは、どちらが勝っても可笑しくはない程の激し攻防が繰り広げられた。


「アカツキ流大剣術『砲鎚(ほうつい)』」


 空中へ飛び上がり、真っ直ぐ大剣を振り下ろす。日本刀などでいう所の唐竹に近い技ではあるが、ただこの技は武器の長所である大剣の重みを利用した斬撃のため、斬れ味よりも威力重視の傾向にある技だ。


 『砲鎚(ほうつい)』により、両手の盾で防御態勢を取るダーヴィト。衝撃により膝をついてしまうが如何にか耐えきる事に成功した。


 耐えきれはしたものの、両手へのダメージが残る。特に右腕は衝撃により一時的な麻痺状態になり、腕の感覚も鈍い。


 左手も麻痺状態にまではなっていないが、それでも今後の戦闘を行うには厳しいくらいにはダメージが入っていた。


「このまま一気に決めますッ!!『冴王斬(ごおうざん)』」


 彼女が使える技の中でも一、二を争う高威力の大技。全身で斬り込む二連の斬撃は、相手を畏怖させ動けなくさせる効果もある。だが、そこまでの領域には至っていない彼女だが、それでも相当の威力を秘めていた。


(相手の攻撃を受け流して・・・打ち込む)


「今だッ!!『轟雷(ごうらい)』」


 レオンハルトが習得している神明紅焔流(しんみょうこうえんりゅう)体術の技の一つ、内部破壊を主とした技だが、ダーヴィトは彼から特訓に特訓を重ねて身に着けた技の一つ。彼の様に内部破壊までは至らないが、それでも強烈な一撃となる。


 『冴王斬(ごおうざん)』を左に持っていた盾で滑らせるように軌道をずらし、そのまま盾を手放すと『轟雷(ごうらい)』をティアナ目掛けて突き出す。


 咄嗟の事で対応しきれず、ダーヴィトの拳自体は、大剣を素早く持ち替えて柄の部分で受け止めたが威力までは殺す事が出来ず、後方へ飛ばされる。


 後方へ姿勢が崩れた状態にいる今、更なる追撃の為に痺れて動かせない右腕に装備していた盾を外し、構える。


「うぉりゃー」


ダーヴィトは、その盾を相手に向けて投げる技『シールドブーメラン』で追撃。盾は直線状からの攻撃ではなく、弧を描く様な軌道で最終的に現在ティアナが居る少し後ろ辺り目掛けて放っていた。


 少し後ろなのは、現在も後方へ飛ばされている最中だから、それを予測して当てる様に調整してはなっていた。


 ――――ッ!!


 ティアナは、如何にか大剣を使って飛来する盾に意識を向ける。予選で戦ってきた様な者たちであれば、まず間違えなく飛んできた盾を防ぐ事は出来ない。そのまま攻撃を受け気絶するか、場外へ吹き飛ばされるのどちらかだろう。


 しかし、今回の対戦相手は、仮にも先祖が勇者として活躍してきた歴史ある一族。その血を受け継いだ娘であり、彼女自身の才能も(ダーヴィト)以上の物を持っている。飛来する盾に対して幾ら体勢が崩れていたとしても対処できないことはない。


 大剣を器用に自身の体重とのバランス、遠心力などを用いて回転斬りの容量で叩き落す。


(おおーあの攻撃も防ぐのか。すごいなー)


 関心するレオンハルト。そして、防がれるかもと思っていたダーヴィトは、腰に身に着けていた武器を取り出し身に着けていた。武術大会が行われる数日前に準備していた隠し玉。


 彼の戦闘スタイルからして、両手の盾が紛失する可能性も考慮し、用意していた簡易篭手(かんいガントレット)の試作品。通常の篭手(ガントレット)は、拳や手首、腕までを保護し、攻撃できるようにする。攻防一体の装備品だ。


 その篭手(ガントレット)を常時身に着けるタイプではなく、必要な時に装着できないかと言う風に改良した物。此処での簡易とは着脱がしやすいと言う意味だ。


 ただし、今回の簡易篭手(かんいガントレット)は、篭手(ガントレット)と言うよりも手袋(グローブ)に近く。覆う個所はオークの革で、人差し指から小指までの指の付け根から第一関節までを守る鋼鉄製の板であしらった代物だ。


 イメージとしては、メリケンサックに手袋を付けた感じだろうか。


 それを左手に着用し、再攻撃を仕掛けるため、一気に彼女の元へ駆け寄る。


()らえー『轟雷(ごうらい)』」


 先程の『轟雷(ごうらい)』より簡易篭手(かんいガントレット)を装着した今回の方が威力は増している。これを防ぐだけでは、相手は必ず場外に出てしまう。


 ティアナも同じことを考え、真正面から迎え撃つことを決め、今崩れた姿勢から態勢を直し攻撃できるものを選択し構える。


(私は此処で負けるわけにはいかないのッ!!)


「アカツキ流大剣術『(よい)斬り』」


 両者の技が激しくぶつかる。衝突時は轟音が会場内に鳴り響き、今は互いが一歩も譲らない気迫の様なものを感じ取りながら、互いの武器が擦れるそんな音を醸し出していた。


 そして、永遠に続くわけでもなく衝突したお互いの技は、次第に離れ始める。いや、正確には弾け飛ぶと言う方が正しいだろう。


 お互いの攻撃を相殺できず、それぞれがその衝撃を受ける。互角の威力を誇り、吹き飛ばされる。ダーヴィトは宙を舞い。ティアナもまた武器を手放して宙を舞った。










 そして、ダーヴィトとティアナが激しくぶつかり合う最中、別の場所では不穏の影が動き始める


「おい。コルヴィッツが撤退したって言うのはマジなのか?」


 如何にもガラの悪そうな態度の男。それを座って対応する異質な雰囲気(オーラ)を漂わせる人物。


「ああ。あの生物の実験の最中に出くわした者と交戦したそうだ。スヴァルドとヴァリアンが重傷を負い止む無く撤退したと報告を受けている。それがどうかしたか?」


 太い声でガラの悪い彼に質問する。物言いからするとこの人物の方が、立場が上と言えよう。それを聞き待ってましたと言わんばかりに自分をそいつに宛がわせろと言い出す。


 彼曰く、魔族がこの世界で一番優れた種族なのだ。亜人や獣人、そして下級である人族などに負けると言うのがどうしても我慢できないと。


 その表情からは怒りすら感じられる。魔族の多くは、彼の様に魔族が絶対的優位に立ちどの種族よりも優れていると言う思考の持ち主は多い。しかし、彼ほど優位性を主張するプライドの高い者もまた珍しいと言える。


「・・・・」


 (しばら)く考え込んだ結果。条件を出しそれが飲めるなら許可をすると判断した。彼はそれに承諾した。


「バルラハ。お前に命ずる。近々行われる人工生命魔獣の実験の護衛に就け、それと護衛に就くのは、ゾーンとデトマンそれにあやつだ」


 自身の後ろに控える無口な男を指さして指名する。


――――ッ!!


 これには流石のバルラハも怒りを覚える。魔族の中でも悪魔は種族的に多くいる。下級悪魔から最上級悪魔までそれこそ幅広くだ。それに引き換え指名された無口な男は、魔族でありながら魔族の誇りを一切持たず、従うのはただ己が主と認めた者のみ。言うなれば獣人族や人族の下にも就くような魔族の面汚しとまで言われる種族。


 その名もシュラ族。見た目はほぼ人族と変わりはなく。違うとすれば、鬼人族の様な角が生えていたりするがそれもかなり小さいので割と目立たない。戦闘時になれば驚異的な身体能力で敵を殺し、本気になると片目に殊炎(しゅえん)と呼ばれるさまざまな色の炎を宿らせる。そのさまざまな色とは個々によって異なっており、青白い炎を宿す者が居ればその者は一生青白い炎しか灯せなくなる。


 宿す色によって何が変わるわけでもないと言うのが、現代での結果。何故宿すのかは不明との結論に至っている。


 個体数は魔族の中でも群を抜いて低く。その数は世界中に散らばっている者をかき集めても五百を越えないぐらいしかいない。


 しかし、戦闘能力は魔族の中でもトップクラスとまで言われており、シュラ族を従える者は超が付くほどの実力者とまで噂される程なのだ。


「何故だ。俺がこの裏切り者の種族を嫌いな事を知っているはずだ。それを何故―――ッ」


「静かにしろッ。こやつを連れて行く事が条件。それが嫌なら諦めるんだな」


 バルラハは、苦虫を噛み潰したような顔で頷き、その場を離れる。


「そう言う事だ。イドラお前も同行しろ。それとバルラハの奴を監視もだ。人族との戦闘で奴が引く事はしないだろう。もし負けた時はその亡骸を人族に渡すな。消滅させても構わん魔族の情報は相手に与えず対処しろ。ああ人族を皆殺しにしても構わんからな」


「わかりました」


 そう言って後ろに控えていたイドラがその場から姿を消し、気配も完全に消失させた。


「ふん。バルラハの言う通り、そろそろ魔族の恐ろしさを知らしめても良いかもしれないが、あのお方から指示を受けていない以上。この俺が攻め込む事はできないか・・・」


 一人取り残されたそれは、不敵な笑みを浮かべながら闇の中へ消えて行った。


此処まで読んでいただきありがとうございました。来週から海外出張ですので、予約投稿だけしておきます。

仕事ついでに小説のネタになりそうなものも取材してこよっと。初のインドはどんなところなのかなー。

やっぱりナンとカレーかなー。八月はインドネシアへ出張が決まっているし、ストックたくさん作らないといけないなー。

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