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037 出会い

もう五月が終わりますね。


梅雨の時期かと思うとうんざりしますが、割と家にいる事が多い事を考えると然程変わらないのかなって思います。


さて、まだまだ大会について投稿していくと思いますので。良かったら読んでやってください。

 アルデレール王国で年一回の武術大会に参加したレオンハルト一行は、未成年の部の予選を見事勝ち残り、本選出場を決めた。今日からは一般の部の予選が開催される事になり、手が空いた彼らは、図書館、試合会場、広場や大通りなどへそれぞれ繰り出す事になった。


「では、行ってきまーす」


「ああ、気を付けていってらっしゃい。さて、リーゼちゃん私たちも」


 シャルロットの妹アニータを見送ったシャルロット、リーゼロッテ、ヨハン、レオンハルトの四人は、それぞれの用事を済ませるために出発の準備をした。


 ユリアーヌやクルト、ダーヴィトは既にコロッセオに向けて外出しているし、今しがたエッダとアニータが広場での催し物を見に出かけた所だ。シャルロットたち三人は図書館へ行く予定で、レオンハルトは昨晩気が付いた事の確認とそれに伴い情報収集に出かける。


 情報収集と言っても冒険者ギルドと魔道具店を幾つかの予定だ。冒険者ギルドではスクリームのその後の動きや最近の身近な様子、変わり種の話。恐らく変わり種の話は、あまり期待できない。理由は簡単で、普段は賑わう冒険者ギルドも武術大会が始まると利用する人たちが激減する。中にはレオンハルトの様に時間の有効活用で来る人が十数人いる程度。魔道具店では昨晩気が付いた事を試す材料の調達や情報収集。


 この世界は、科学の代わりに魔法が発展している。であれば、前世で使用していた物ではなく此方の世界にしかない物で代用する事も可能ではないかと推測した。


 火薬の代わりとなる物・・・・今の所候補として魔法(マジック)(パウダー)、魔石、火属性の魔石、何らかの効果を持つ鉱石があげられるが、魔石以外手元にある物はないし、もしかしたら何か見落としている事があるのかもしれないと踏んだからである。


 余り周囲の人間に与えて良い内容ではない為、これまで頼ろうとはしなかったが、どのみち幾つか別件で訪ねないといけない事もあるので、そのついでにサラッと聞いてしまう事にした。


「レオンくんいってらっしゃーい」


「ああ、シャルたちも気を付けるんだぞ。では、行ってくる」


 シャルロットに見送られて、宿屋を出た。


 まずは冒険者ギルドへ向かう。道中、朝食を買い適当な場所で食べる。今日は宿屋で朝食を取る事はしなかった。何せ、エッダとアニータは、出店で色々食べてみたいと言って朝食を抜き、ユリアーヌたちは朝食を食べる前に出かけてしまった。四人で食べるかどうか悩んだ結果、彼らも目的地の道中にある出店で何か食べると言う結論に至った。


「これは山羊の肉を使っているのか?ちょっとクセがあるが中々美味しいな」


 レオンハルトが購入した山羊肉の香草串焼きとリンゴの様な果物で作ったパイ、俗に言うリンゴパイだ。砂糖が貴重な為、リンゴ本来の素材の味を生かした味付けだった。


(前世で似た様なものが幾つか出ているんだなーそう言えばドネルケバブはこっちまでまだ浸透していないのか?ナルキーソでヒットしたから此方にもお店が出店していると思ったんだけどなー)


 串とパイを食べ終え、そのまま冒険者ギルドへ向かった。


 冒険者ギルドアルデレート支部、王都に構えるだけあり規模は他の街の冒険者ギルドよりも数段大きい。その一角にある受付へ足を運んだ。


「いらっしゃいー今日は何か御用?」


 初めて見る受付のお姉さんが対応してくれたが、どうにも依頼する側と思っているのかもしれない様なそんな話し方だった。


「すみません。統括責任者のマティーアス氏は居ますか?」


「ええっと、依頼の事でしたら此方でお伺いしますよ」


 このお姉さんはやはり新人なのだろう。王都へは三ヶ月前から来ており、その間に何度か統括責任者にして支部長のマティーアスと面会を行っているし、依頼も定期的に行って来ている。冒険者ランクも此処の受付の人であれば彼が(ディー)ランクであることは承知しているはずだったからだ。


「いえ、依頼を申請に来たわけではないのですが・・・」


 どうせ説明したら良いか悩んでいると、見知った受付のお姉さんが大慌てで現れた。


「レオンハルト様、申し訳ございません。この子は先日受付に転属したばかりですので」


 状況が呑み込めないお姉さんに後から来たもう一人のお姉さんが説明する。


「クリスタ、貴方も早く謝罪しないさい。あの方は、この年齢で既に(ディー)ランクに上り詰めているのよ。それに実力だけなら(ビー)ランク以上と各支部長が太鼓判を押す実力者なのだから」


 クリスタと呼ばれた受付のお姉さんはすぐさま、謝罪をしてくる。別に彼女に悪気があったわけでもないし、今に始まった事でもないのでレオンハルト自身気にしてはいない。それよりも早速、例の件を確認するため、再度統括責任者へ取次ぎをお願いした。


 クリスタが慌てて対応し、その間に顔見知りの受付のお姉さんと軽く世間話をした。と言っても此方からではなく向こうから話題を振って来ていた。仲間と共に武術大会本選出場したことなどが殆どではあったが。


 暫くするとクリスタが戻って来て、マティーアスと面会出来るそうなので、案内されるまま支部長室へ行く。


「今日は何の用だ?」


 書類の山に埋もれるマティーアス。武術大会中はいつもこんな感じらしく、少し疲れた様子も伺えた。


「スクリームの件です。あれ以降出現報告はどうなっているのですか」


 数ヶ月前に二度スクリームと戦闘を行いしかも魔族との戦闘も繰り広げたレオンハルト。たまたま遭遇し、襲ってきたから反撃したのだが、それで終わりと言うわけにはいかない。戦闘をしてみて分かった事は、スクリームはかなり手強い上に糸を引いているのが魔族とあっては、見過ごす事は出来ない。


 これが他の国の出来事であれば警戒しておこうで済むのだが、今回出現、遭遇、戦闘まで至ったのは、シャルロットが暮らすこの国、アルデレール王国なのだから。


「その後の魔族の動きは報告されていない。先の騒ぎがまるで嘘のようにな」


 あの事件は、多くの冒険者を始め、国民への被害が出てしまっている。魔族による人体実験、その過程で生まれ出たスクリームと言う新種の魔物。一応、魔物と言う扱いにしたようだが、魔物の強さを示すランクは、(シー)から(ビー)とされる。魔物の分類はアンデット系だが、聖魔法や火属性魔法が弱点と言うわけでもない事。


 このスクリームが厄介なのは、個体によって若干性能が違うと言う点と単独で行動していないと言う点。更に付け加えるなら俊敏性が高く、僅かに自己回復を備えている事だろう。後は痛覚系がなく、腕や足を斬り落としても(ひる)むことなく襲い掛かってくる。


「そう言えば、魔族やスクリームではないが、各地で新種の魔物が目撃されていると言うのが情報として上がっていたな」


 支部長曰く、黒いスライム状の魔物やオーガの変異種の更に変異した魔物など挙げられている物が多数寄せられているとの事。中でも骨だけのドラゴンが数種類現れたそうだが、それは偶然居合わせた勇者の手によって討取られた。


 魔物の死体が腐敗して稀に生まれるゾンビ、ドラゴンの場合はドラゴンゾンビが存在しているが、それは飽く迄半数以上の肉体が残っている時に起こりえるもの。今回の様な全くの骨状のドラゴンは出現した記録は一切なかったのだ。


「魔物名は、空を飛べない竜、つまり地竜の類だがこれはボーンドラゴンと名付けられたそうだ。それで飛竜の類がスカルドラゴン、上位竜の類、今回は古竜が一体おりそれをスケルトンドラゴンと名付けられたそうだ」


(ボーンにスカルにスケルトンねー。漢字で書けば骨竜(ボーンドラゴン)骸骨竜(スカルドラゴン)骨格竜(スケルトンドラゴン)と言うわけか。漢字だと骸骨竜が一番強そうな感じがするけど飛竜に付けたとなると(スカイ)と連想してからかな?)


 実際、漢字などはこの世界には存在しないので、そこまで意味があるものではない。付けた人物が転生者や転移者ではない限り。ただ今回に関しては全く関係なく。単純にアンデット系の魔物にボーンソルジャーやスカルナイト、スケルトンジェネラルと上位種に習って付けている。


「わかりました。此方も武術大会に参加しているので、大会中は冒険者として活動できませんが、大会後は注意しておきます」


(ふん。この少年なら優勝しかありえぬだろうな。何せギルド支部長クラスでしか公表されていないが、彼は上位魔族数体と渡り合えるだけの実力者。大会がお遊びに思えるだろう)


「期待している」


 冒険者ギルドである程度情報を入手したレオンハルトは、支部長室を出る前に赤っぽい橙色の体力回復水薬(スタミナポーション)を二本渡し、一本は直ぐ飲むように伝えた。部屋を出てからは、受付にいたお姉さんたちに挨拶をして、一応目ぼしい依頼がないか確認した後に外へ出た。


「お待ちしておりましたレオンハルト殿」


 外へ出た途端、数名の騎士が待機していた。街を見回りする兵士では無く王城及び上級貴族たちが生活する一角を守護する騎士。


「国王陛下がお待ちしております。どうかご同行をお願いします」










 武術大会一般の部の予選が行われる本日未明。


「こんな朝早くに召集とは何事ですかな、陛下」


 呼び出されたのは王都の東西南北を管轄する四大貴族とアルデレール王国の国教にして、王国宗教内最大の権力者が集められている。それ以外に財務大臣、内務大臣、外務大臣など王国を支える主要メンバーたち


「皆の者すまない。今日集まってもらったのには、先日我が娘レーアが行方不明になった際、娘を助けてくれた人物が今王都におる」


 アウグスト陛下の言葉で、周囲の人たちは騒めき始める。未だにあの絶望的な状況から王女を救い出した人物が誰なのか分からなかったからだ。


「皆静かにせよ。昨日陛下と話をしてその人物と引見(いんけん)しようと考えているのだが、そこでだ。その際に、エクスナー枢機卿、ラインフェルト侯、シュヴァイガート伯は参加してもらおうと思う。この者たちは別件でその人物と繋がりがある事が分かった」


 宰相の言葉にそんな人物と面識などない三人は何の事か分からずにいた。そこで宰相は繋がりの部分を説明する。三者ともその人物とは面識がない。しかし、僅かではあるが細い糸の様な繋がりを持っていると。


「それは本当ですか陛下」


 ラインフェルト侯の言葉にエクスナー枢機卿とシュヴァイガート伯が頷く。


 ラインフェルト侯爵家の娘が六、七年前に森で魔物に襲われた件、宰相であるフォルマー公爵の娘も一緒にいる時に起きた事件だ。当時は、そこまで大きな事件として取り扱われてはいなかったが、娘たちを救った人物が現れたら、二人は最大限誠意を尽くそうと考えていた。


 それにエクスナー枢機卿の孫にして、シュヴァイガート伯爵の娘もかの者に救われている事を聞いていたが、娘より王都に来た時に立ち寄る約束をしていると聞いて、王都に来たらもてなすつもりでいた。


(確かに大会初日の夜、ティアナ嬢やリリーから話を聞いてはいた。しかし、確証がなかったために動けずにいたのだが、なるほどエトヴィン殿が裏を取ったと言う事か)


(そう言えば、エルフィーを尋ねに来た少年たちが居たと執事から聞いてはいたが、まさかまだ王都に居たとは・・・)


「リーンハルトにオルトヴィーン、ハイネスよ。この情報はエトヴィンが調べ擦り合わせをした結果、確実なものとなっている」


 アウグスト陛下の発言で、三人は引見時の同行を了承した。


「して、テオ其方はどうする?今はお主との縁がないがこれを機に縁を作っておくか」


 流石に王都を管理する四大貴族のうち三大貴族が引見に出席し、その人物との縁を作ろうとしているのだ。今後自分が縁を作る機会があるか分からない以上、今皆と作っておくのも得策か。そう判断したエーデルシュタイン伯も引見に参加する事となった。


 そして話を次々に詰めて行く。まず、引見にはアウグスト陛下並びに王族一同が参加。次に宰相の地位としてフォルマー公が参加、国教の責任者としてエクスナー枢機卿、四大貴族の三家当主としてラインフェルト侯、シュヴァイガート伯、エーデルシュタイン伯、内務大臣と財務大臣が参加する。その他の貴族には申し訳ないが、引見を遠慮してもらった。あまり人数が多いと相手を威圧しかねない。今回の目的はお礼と何らかの報奨を渡すためだ。


 警護には、騎士団団長率いる各騎士団の隊長及び副隊長に当たらせる。


 次に決行日であるが、この後何かと忙しくなる陛下を考慮し、本日の正午前後か、大会終了後となったが、大会終了後となると他の街へ移動する恐れがあるため、本日決行する事となった。


 また、時間的に昼食の頃と言う事もあり、引見後は数名を残し食事へ招待すると言う事で話がまとまった。


「すまないがアレクシス、騎士を数名迎えに出してくれるか」


「了解です。強面ですとその少年に逃げられてしまうかもしれませんので、適任者を向かわせます。アメリア直ぐに手配を」


 宰相の言葉ですぐさま部下に指示を出すアレクシス。好青年の金髪オールバックのアレクシスは、王国騎士団一番隊隊長にして、騎士団長の地位についている人物だ。


 細身の身体とは思えない様な鋭く力強い攻撃を仕掛け、騎士団の中では最強とまで言われる存在だ。冒険者ランクで強さを示すなら、(エー)若しくは(エス)ランク相当の実力を兼ね備えている。実際は(エー)ランクの上位と言ったレベルだが、それでもかなりの手練れだ。


 その指示を出したのが、一番隊副隊長のアメリア。彼女は剣の腕も騎士団で上位に入る腕前を持ち、その真価が問われるのは、指揮能力の高さにある。戦術も知識にある上、騎士団全体の管理をしている優れた人物だ。


 アメリアは、手早く今動ける騎士団員で、相手に威圧感を与えないメンバーを選定する。今回は、一番隊の中からモニカ、メラニー、ユリアの女性陣に加え、ハンス、イザーク、ランドルフの男性陣合計六名で事に当たらせることとした。










 現在、レオンハルトは王城へ向かう馬車の中にいる。


 それもこれも、冒険者ギルドを出た直後、騎士団と名乗る六名の騎士に遭遇。この国の国王陛下がお会いしたいと言う事で、同行を強いられてしまった。


 拒否権もあったのだろうが、流石にそれを今使用するのは此方としても分が悪い。


 仲間たちと共に居た場合は問答無用で拒否権を使用していたが、誰も居ない以上、下手に逆らうのも得策ではないと判断したからだ。それにそもそも何故、国王陛下から呼び出しを受けたのかそこを知らない事には、手を出せない。


「心配しないでくださいレオンハルト殿。我々は貴方を捕まえよとの御命令は受けておりません。それよりも丁重に御連れする様にと言われてますので、あっ。申し遅れました。私王国騎士団一番隊に所属していますユリアと言います。こっちはモニカとメラニー」


 ユリアと言う名前の二十歳前後の青髪のボブの女の子。見た目通り明るい性格をしていて、この中では一番話しかけてくる。モニカは、ユリアと同じぐらいの年齢でクリーム色の長い髪に天然なのか若干髪の先端がはねている。二人とも整った顔つきをしており、十人中七人が可愛いと言ってくれるレベルだ。


 メラニーは逆に整ってはいるが、全体的に言うと普通のレベル。年齢は二十代半ばと言った感じで、二人より落ち着きがある。深緑の髪を三つ編みにしておさげ風な髪型をしていた。しかも、彼女は騎士と言うより魔法士として騎士団にいるらしい。


 これは、道中の会話で教えてもらえた。


「こっちにいるのがハンス。こう見えて実は私の義兄(あに)にあたる人なのよ。それでもって今馬車を操作しているのが、右側がランドルフ、左側がイザークね」


 同行する騎士たちから情報を得ていると、気が付けば王城へ到着した。


 騎士から得た情報をまとめると、元々予定になかった陛下との謁見と言う事で城の中では、数人の騎士たちが慌ただしく動いていた。また、騎士が使用する食堂でも料理人が数人、ヘルプの為に別の厨房へ向かっていたとの事など。


 しかし、肝心の呼ばれた理由については聞かされていないのだとか、ただ一番隊副隊長の表情から悪い事ではないと推測できると教えてもらえた。


(悪い事・・・・(むし)ろ秘密にしている事の方が多いので、それが理由なのではないか。思い当たる節が多いな)


 一番懸念している事は、アニータの魔導銃の制作者、次が年齢にそぐわない技術と知識、隠しておいた『転移(テレポート)』の漏洩(ろうえい)等がすぐさま浮かんだ。


「ハンス以下五名、無事レオンハルト殿をお連れしました」


 王城入り口に控えていた騎士へ車内で一緒だったハンスが報告していた。如何やらここでこの六人と別行動になるみたいだ。引継ぎを受けた騎士が、それに返答して王城内へ誘導する。


「これから、陛下と謁見するのですよね。急に連れてこられたので、服も用意していませんし、何より礼儀作法を知りません」


 実は嘘である。服に関して言えば、貴族たちと会う際用の服は用意していないが、そこそこ良い物は魔法の袋に入れているし、現在着ている服もシンプルなデザインではあるが、素材はスパイダーシルクなどの高級品を用いている。まあ素材は此方で用意して、それをハンナに仕立ててもらっただけだ。


 礼儀作法についても実演した事はないが、知識としてはヴァーリの恩恵で得た知識に含まれていた。後は実際と知識の違いがどの程度あるかであるが、それは臨機応変な対応でどうとでもなる。


「服装に関しては、そのままで良いとの通達がありました。作法についてはこれから最低限の注意事項をお伝えします。元々作法を身に着けていないからなどの理由で(とが)められる事はありませんので、ご安心ください」


 成程、この国の国王陛下は随分と優しいのだなと感心していると案内してくれていた騎士が拝謁(はいえつ)する際のレクチャーを受ける。発言は国王陛下が許可を出してからだとか、座るのは国王陛下が座った後に座るだとか。


「え?座るですか・・・・今向かっているのは王座(ぎょくざ)の間ですよね?」


 普通、国王陛下が低級貴族や平民の有力者などと会う際は、王座(ぎょくざ)の間で行う事が通例。しかし、王座(ぎょくざ)の間には本来椅子などは国王陛下や王族用のものしか存在していない。にも拘わらず、案内してくれる騎士からは座る際の手順を教えられた。


(この世界には椅子が主流なのか、それとも座ると言うのは(ひざまず)く行為の事か?でもそれだと国王が入室する前にする行為のはず・・・どういうことだ?)


「いえ今回、王座(ぎょくざ)の間はご利用しません。これから案内する場所は、国王陛下が私的にお会いする場合のみに使用される場所です。」


 それから少し王座(ぎょくざ)の間についてなどの説明を受けた。王座(ぎょくざ)の間は本来、叙勲式などを行ったり、陞爵(しょうしゃく)の儀に使用したりする。また、反対に爵位の降格や剥奪など貴族が何らかの犯罪行為を行った場合に国王陛下より判決を言い渡される場所でもあるとの事。あとは、各国の使者や貴族、王族との対面時に用いられたり、勇者や各ギルドの有力者などが国王陛下に合う際に用いたりする。低級貴族や平民が国王陛下と直に合う事が出来るのもこの場所になる。一言で(まと)めてしまうと来訪者が来た折に使用する場所と言う事だ。


 因みに謁見(えっけん)の間とも呼ばれている場所で、利用する人によって言い方が違う。騎士曰く、この国では利用する頻度で呼び方を変えている人が多いとの事。殆ど使用しない人は玉座(ぎょくざ)の間と呼び、定期的に利用する人は謁見(えっけん)の間と呼んでいる。


 そして、現在案内されている場所、国王陛下と面会し話をする場所の一つで、中でも陛下の私的な事で使用される部屋だと言う事だ。私的とはどのような事か尋ねたが、そこは案内する騎士も知らないとの事。


 国王陛下の私的利用とはどう言った内容なのだろうか考えていると、目的の場所に到着した。


 入室前に身に着けている武器を預ける事と念入りなボディチェックが必要との事を言われ、俺は愛刀雪風と幾つかの投げナイフを部屋の入口に待機している騎士に預けた。


「失礼します。レオンハルト殿をお連れ致しました」


 ノックをした後、案内してくれた騎士がドア越しで用件を伝え、入室許可を待つ。すると内側からドアが開口され、中には既に幾人かの人が席に着いていた。


「どうぞ、中へお入りください」


 内側から開けた人物は、執事服を身に纏った御老人。しかもその洗礼された動きはプロ中のプロと言えるレベルの物だと一発で分かってしまう程だ。身に着けている執事服一つとっても一般貴族が身に着けている執事服とはレベルが違っていた。


 執事に案内されるがまま末席へ案内される。


 席に居る者は、一番上座にアウグスト陛下だと言う事、それと見知った顔が数名居たが半数以上は初対面の方々だ。


「急な呼び出しに応えてくれて感謝する。儂はこの国の国王、アウグスト・ウォルフガング・フォン・アルデレールだ。こっちは妃の」


「第一王妃のアマーリエ・リーゼル・フォン・アルデレールです」


「第二王妃のフローラ・マルレーネ・フォン・アルデレールです。もう一人第三王妃のマルグリットが居るのですけれど、現在妊娠していて此方に御顔を足す事が出来ないのごめんなさいね」


 それから、それぞれが自己紹介をしてくれた。


 第一王妃の子供で、王太子のコンラーディン・ブルーノ・フォン・アルデレール。第二王子のテオドール・アルトゥル・フォン・アルデレール。第二王女のレーア・エル・フォン・アルデレール。第五王女クリスティアーネ・クラーラ・フォン・アルデレールと第六王子のクリストハルト・カール・フォン・アルデレールは今回不在。因みに第五王女と第六王子は二卵性の双子との事。


 第二王妃の子供で、第一王女は既に他国へ嫁いでいるためおらず、第三王子のディートヘルム・クルト・フォン・アルデレールは他国の魔法学校に留学中に着き不在、第三王女のローザリンデ・リタ・フォン・アルデレール及び第五王子のヨハネス・アーレ・フォン・アルデレールも今回の席には参加していない。第七王子はまだ幼児の為お披露目自体していないとの事で不参加。名前すら国民にまだ伝えておらず、五歳の誕生日に名前を国民に伝えるのだそうだ。


 第三王妃の子供は第四王子のカールハインス・ルッツ・フォン・アルデレール及び第四王女のマルティナ・ニーナ・フォン・アルデレールも今回の席には参加しない。第六王女も第七王子と同様で名前の公表を行っていないが、数ヶ月後にお披露目を予定しているらしい。


 結局、この場に参加している王族はアウグスト陛下、アマーリエ第一王妃とフローラ第二王妃、アマーリエ王妃の子でコンラーディン王太子殿下、テオドール王子、レーア王女のみだ。


(参加していない王族の紹介までされても困るのだが・・・)


 それに続く様に、宰相兼王都アルデレール西地区を統括するエトヴィン・ライムント・フォン・フォルマー公爵に娘のティアナ・カロリーネ・フォン・フォルマー。


 南地区を統括するリーンハルト・ツキシマ・フォン・ラインフェルト侯爵と娘のリリー・アストリット・ツキシマ・フォン・ラインフェルト。


 東地区を統括するハイネス・クレマー・フォン・シュヴァイガート伯爵と娘のエルフィー・マリア・シュヴァイガート


 北地区を統括するテオ・トーマス・フォン・エーデルシュタイン伯爵の四大貴族と娘たちが参加。エーデルシュタイン伯爵家の娘は今回の呼び出しとは関係が無い為不参加。


 アルデレール王国の国教にして王国の責任者であり、エルフィーの祖父オルトヴィーン・ベルント・フォン・エクスナー枢機卿。内務大臣のヴァルター・ニクラス・フォン・タルナート子爵、財務大臣のヘルムート・フォン・ルートヴィヒ・ヒルデスハイマー男爵、王国騎士団団長アレクシス・フォン・グロスマン、二番隊隊長サラ・ローゼ・フォン・クルーガー、三番隊隊長ジークフリート・ヴィーゲルト、一番隊副隊長アメリア・クロイツが参加している。サラ隊長とジークフリート隊長、アメリア副隊長は席に座らずに立って待機していた。


 他の隊長、副隊長は部屋の周囲を警戒しているとの事。


(厳重にしていると言う事は、やはり・・・・)


「この様な場に呼んで頂きありがとうございます。自分は冒険者として活動をしておりますレオンハルトと申します」


 全員の自己紹介が終わったタイミングで、此方も自己紹介を行う。


「気にする事は無い。(むし)ろ急に呼んだのは此方なのだ、緊張しなくて良いと言ってもするだろうから、気楽にしてくれれば良い。では早速、君を呼んだ理由だが・・・・」


(いよいよ本題と言う事か、貴族の娘が居るのが気になるところだが、何を言われる事か、魔導銃の事か、『転移(テレポート)』の事か、まさか前世の記憶が・・・それはないか。ティアナやリリーが居ると言う事は大会の件って事もありそうだな)


「此処に居るティアナ嬢、リリー嬢、エルフィー嬢、そして我が娘レーアを救ってくれた事への感謝を伝えたくて来てもらったんだ」


・・・


・・


 ん?


 命を救った?誰が誰を?確かにエルフィーは冒険者になるためナルキーソへ向かっている道中に魔物に襲われていた所を助けた事はあるが、それ以外はあまり記憶に・・・レーア?


「レーア・・・様って、川辺で救ったあの?」


 確かにレーアと言う名前に記憶はあったし、割と最近の出来事でもあったので彼女を見た際、何処かで見たなって言う程度には覚えていた。しかし、救出した時の印象は中級から上級貴族に掛けての娘だろうな程度の印象なので、まさか王女だとは想像もしていなかった。


「おお。やはり君が我が娘を救ってくれたのか。ありがとう」


 アウグスト陛下は、前のめりになる勢いで興奮し、話しかけてきた。


「い、いえ。当然の事をしただけです。それに、エルフィー様の件も偶然居合わせたからって言う理由だけです。お礼を言われる事の程では。ただ、其方のティアナ様、リリー様に関しては、すみません覚えていないのですが、何時頃私とお会いされましたか」


 レオンハルトの言葉に全員が驚く。王族及びエクスナー枢機卿、シュヴァイガート伯爵、騎士団たちは、見返りを求めても良い程の出来事を助けるのは当然と言わんばかりの発言に、そして大臣やエーデルシュタイン伯爵以外の人は、記憶にない事に驚いている。ティアナやリリー以外はやはり間違えだったのかと考える程に。


「今から約六年前、(わたくし)たちがイリードの街から南に広がる森で、魔物に襲われている時に、刀を持った同年代ぐらいの少年に助けていただきました。覚えておいでですか?」


 ティアナの発言に(しば)し考え込むレオンハルト。確かに言われてみたら六年ぐらい前は、最初の刀をトルベンと作成し持ち始めた頃、今でこそ分からないが当時五歳ぐらいの子供が刀を持つことは、まずあり得ない。


 それにイリードの南下した森はレカンテート村へ続く森を指している。時期的な事に加え場所も(かんが)みると、彼女たちを救った少年は自分である事はほぼ間違えが無い。


 しかし、何時だ?何時彼女たちに出会った?


 森で大人と遭遇する事はあったが、姿を現したことは殆どなく。子供と遭遇したとなると更に条件が絞られる。


(そう言えば、一度だけ刀が完成した日にその足で、森の中を踏破したな。その時に女の子二人を見つけて森の外へ誘導した気がするが・・・そうか、その時の女の子がティアナとリリーなのか)


 当時の彼女たちは虫も殺せなさそうなほど、御淑(おしと)やかな女の子だったが、今では武術大会に参加し優勝争いが出来る腕前にまで成長している。気が付かなくても可笑しくはないし、それにその後の色々とあった事もありほとんど忘れていたのだ。


「もしかして・・・森で遭難している所に魔物に襲われていましたか?それで、そのまま森の出口まで一緒に歩いた・・・件で合っていますか?」


 少しの情報で、此処まで思い出せるものなのだなと感心しつつ、相手の反応を確認した。結局レオンハルトの発言通り、彼女たちがそれを証明。結果的にアウグスト陛下の言うように此処に居る四人の命を救っていた事となった。


「レオンハルト君その節は本当にありがとう。君には感謝してもしきれないぐらいだよ」


「ええ。ラインフェルト候の言う通り、本当にありがとう。君にはどう感謝をしたらいいか」


 ラインフェルト侯爵、フォルマー公爵がそれぞれ感謝の意を伝え、それに続く様にエクスナー枢機卿、シュヴァイガート伯爵も感謝の意を伝えてきた。


 想像していた呼び出し理由とは異なったが、これはこれで面倒だなと内心思いつつ話を合わせる。


 前世での営業経験を今こそ活用する絶好のチャンス。


「頭を上げていただけますか。自分は先程もお伝えしましたが、人として当然の事をしたまでです。この先、誰が救いを求めて来たにしても自分は仲間の命が脅かされない限り、その手を掴むつもりでいます」


 これは、営業で培ってきたトークで少し大げさに言っているが、この言葉自体に偽りはない。俺にとって第一に守らなければならない人物は、シャルロットである。そして、その次に仲間たちやこれまで関わってきた親しい人たちである。


 安全に安心して暮らせる。それが今世での目標であり、レオンハルトの戦う理由となっている。


「・・・そ、そうか。それは良い心がけだ。それで、君に娘たちを救ってくれた感謝の(しるし)として、何か褒美を取らせようと思うのだが、何か希望の物でもあるか?」


 アウグスト陛下の申し出に、これと言って必要な物が無い。(しば)し黙っていると。


「お金や地位など色々あるだろう?」


 大方の者たちが欲しがりそうな物を提示してきたが、正直言ってあまり魅力的に感じなかった。お金は冒険者として活動している限りは、かなり高収入で入って来るし、マヨネーズやドネルケバブなど売れた金額の幾らかは、此方に回ってくるようになっている。そして、それらのほとんどは、大ヒット商品として常に在庫切れに陥っている。


 地位に関しては、要するに貴族の仲間入りをしないかと言う事だろう。それはむしろ、熨斗(のし)を付けて返却したいレベルでいらない。貴族は貴族同士の派閥(はばつ)や面倒事がかなり増えてくる。メリットとしては、国からお金を支給してくれることだろうが、デメリットの方がどう考えても大きい。


「いえ、この程度の事は地位を頂くような事ではありません。それに自分は未成年で、親もいない孤児です。孤児院の院長が親代わりをしてくれていますが、其方に御迷惑をおかけするかもしれないので、辞退させていただきます」


 これで、更に追及してくることはないだろう。しかし、何も受け取らないと言うのも王族や上級貴族の顔に泥を塗って仕舞いかねないので、何かないか考える。


「できれば、自分を此処まで育ててくれた孤児院に恩返しがしたいのですが、場所が田舎で金銭的にギリギリでした。何かしらの援助をしていただく事は可能でしょうか」


 実際には、定期的に魔物の肉などを持って行っているが、金銭的な事は一切受け取らないアンネローゼなので、王族からの支援とすれば受け取ってくれるはず。


 支援としているので、金銭的なものではないかもしれない。俺たちの様な、物かも知れないし、人材と言う可能性もあり得る。まあ、金銭的にもそこまで困ってもいなかったはずなので、どの支援でも子供たちにとっては助かる事だろう。


 出来れば、戦い方などを教えてくれる先生を派遣してくれるのも良いかもしれない。ああ、後は司祭様の代わりの人材と言うのもありだが、其れだと孤児院の支援とはならないので、対象外だと後で気が付いた。


 予想外の提示に一瞬考えこんだアウグスト陛下だったが、すぐさま同伴していたヴァルター内務大臣とヘルムート財務大臣に声をかける。


 内務大臣は、国内の治安や行政を担当しており、レカンテート村周辺の治安等を調べる様に言われ、財務大臣は、言葉通り資金の調達や調達した資金の適正な運用を行っている。レカンテート村の税の軽減及び支援金や支援にかかる費用の打ち出しを命じられていた。


 意外と大事になってしまった事に、二人の大臣に申し訳なく思った。しかし、これで問題が無ければレカンテート村の皆が喜んでくれるだろう。


「君自身の事は何かないのか?」


 流石に何度もアウグスト陛下が聞くわけにも行かないと判断した宰相、フォルマー公爵が口を開いた。


「いえ、先程の報酬で十分です」


 これで、彼女たちを助けた件を終える事が出来たし、何か言って来る事もないないだろう。そう考えてるとアウグスト陛下が、別の話を持ち出してきた。


「それと、レオンハルト君。娘から君は優れた薬師と聞いていたのだが、昨日の試合を見させてもらった。君は、薬学だけでなく武術にも秀でた才能があるようだね。それも幾つもの武器を使用した武術が。後、気になるのは娘が見た事もない魔道具を所持していた事、それに魔法もかなりの腕前と聞いている。君は一体何者なのかね」


 おう。此処でまさかの確信めいた質問をしてくる。流石に、神様の手違いで死んでしまい。代わりに前世の記憶と新たな知識、そして、この世界の知識や能力向上などの恩恵を頂いているとは言えない。しかし、この質問は容易に想像が出来ており、王城に来る時の馬車で既に答える内容を決めていた。


「自分にとって今ある最高の物が今後も最高の物だと思っていません。それで、現存ある薬に対し、もっと効果のある薬の生成ができないか色々な本を読んで知識を取得してきました。武術に関しては、幼少期から色々な武器を使って狩りをしたりして身に着けた事ですので今ある強さは、努力してきた成果だと思います。そして、魔導具ですがこれは簡単な事です。魔道具は本来生活を豊かにする物、では日常で困っている部分を魔道具で代用すればよいと言う考えから色々なアイディアを考えてきました。魔法に関しては武術と同じく幼少期から練習してきた結果だと思います」


 事前に考えていた答えをまるで自分の信念だと言わんばかりに熱弁した。これが、『転移(テレポート)』だった場合は完全にお手上げである。


 使用できるのですか?はい使用できます。の一言で終了してしまう。


「なるほどの良い指導者に合えたと言う事だな。どうかな貴族は断られたが、騎士団へ入団すると言うのは?剣術や魔法など多くの事を学べるし、共に学ぶ事で新たな発見もあるかもしれんぞ?」


 アウグスト陛下のお誘いを再度お断りした。これも理由は簡単だ。騎士団と言うのは組織の一団になれと言う事。それは言わば拒否権がなく。自分自身がやりたくない仕事もやらなければならないからだ。


 だから、今の冒険者としての活動があっていると説明した。色々な所へ行きいろいろな知識を習得、見聞きし感じ取る事で新しい発想が生まれる。そう説明した。


 アウグスト陛下や他の貴族もそれに納得し、勧誘をしてくることは無くなった。最後は、質問と言うよりも昼食を一緒に食べないかと言うお誘いだった。


 自分の馬車があり、その馬車で此処まで来ているのであればお断りしただろうが、騎士たちに連れてきてもらっているので、帰るに帰れずそのまま昼食をご馳走になった。


 流石に王城で食事を提供してくれるだけあって、食べた事が無いぐらい豪華な者だった。気に入ったメニューを宰相経由で料理長に尋ね。レシピを教えてもらった。もらうばかりだと悪いので、幾つかの調味料のレシピを教えてあげた。


 ケチャップソースやタルタルソース、それに出汁と言う料理に置いて要になる調理方法だ。タルタルソースは、マヨネーズを使用するため、マヨネーズのレシピは既に教えてしまっているので教えられない為、商業ギルドのナルキーソ支部で直接お買い上げくださいと伝えておいた。


 ヴィーラント支配人ならうまく対応してくれるだろう。タルタルソースに関しても既に商業ギルドへレシピを提供しているが、材料にマヨネーズがあるため、ナルキーソ支部でマヨネーズを購入する必要がある。


 この件で功績を上げる事が出来れば、今度はドネルケバブ用のソースの作り方を教えるかと考える。現在ドネルケバブ用のソースは此方で作成した物を商業ギルドへ降ろしている状態だ。そして、製作元はアシュテル孤児院の子供たち。材料は此方が定期的に持って行っている。


 そして、子供たちには新しい仕事として、農園に手を出してもらおうと計画している。何故この様な回りくどい方法を用いているのか。


 それは、ソースで得た金銭を今度は使用しなければならないからだ。お金は貯めていても意味がない。しかし、レカンテート村では、商人が来る頻度が少なく買い物をする者もあまりない。そこでレカンテート村で特産物を作れば、商人の往復が多くなると言う考えだ。


 それに先程、アシュテル孤児院への支援も検討された事もあって、次のステップへ進んでも良い頃だと思ったからだ。


「ところで、レオンハルト君は大会が終わればまた、ナルキーソへ帰るのかね」


 食事後のお茶まで招かれてしまい。そこでシュヴァイガート伯爵から今後について質問を受けた。この問いに他の者たちも興味津々と行った所で皆耳を傾ける。因みにテオドール王子、エーデルシュタイン伯爵、エクスナー枢機卿、ヴァルター内務大臣、ヘルムート財務大臣、サラ隊長とアメリア副隊長以外の騎士は皆、帰宅や己の持ち場へ戻った。


「大会後はナルキーソに一度戻ると思いますが、仲間と相談してからになると思います。仮にも冒険者ですので、依頼によっては他所へ行ってからナルキーソに行くかもしれませんし、その逆の可能性もあります」


 王都へ来た際のメンバーのみであれば恐らくナルキーソに行くだろうが、ユリアーヌたちと合流した以上、彼らがどうするかで行動が異なってくる。


 これは、本選が始まる前に話し合う必要が出来たな。


「レオンハルト様にお会いできる日にちが後、僅かなのですね」


「レーア様、出来れば様付けではなく普通にレオンハルトと呼んでいただけませんか?」


 レーアに限らず、ティアナ、リリーまでも様付けで呼んでくる。エルフィーは前から様付けで呼ばれ、その時に同じように伝えたのだが、修道女(シスター)見習いと言う立場上、目上の方に敬意を払うのだとかなんとか言われて、諦めている。


 ただ、王女である彼女から様付けされるのは、周りの者からやっかみを受けかねえない。だから、遠慮してもらおうとしているのだが、此方は此方で折れずそのまま延長している。


 まあ、今だけと思うようにして諦め、話に花を咲かせた後にお茶会はお開きになった。


 帰宅時の送りも迎えに来た六名が担当してくれるようで、そのまま魔道具店まで送ってもらった。










「エトヴィン、彼の事どう思った?」


 お茶会を終えた後、アウグスト陛下、フォルマー公爵、ラインフェルト侯爵、シュヴァイガート伯爵が集まり、そこに王国騎士団団長アレクシスを呼んで話し合いを始める。


「率直な意見を述べて良いでしょうか?」


 アウグスト陛下がそれを了承し、フォルマー公爵は先程の引見(いんけん)時の彼に対する考察を話し始める。


「彼は孤児とは思えない程の学力を有しております。此方に対する質問を予め分かっていたのかと言うような様子を感じ取りました。そして、彼は何かを隠しているそんな風に思います。飽く迄私の直感ですが」


 確かに孤児として育ったにしては、考えられない程の知識を有していたし、大人顔負けの思想も持っていた。彼ほどの逸材ならどこへ行っても引く手あまたであろう。


 しかも、きちんとリスクの部分も兼ね備えていた事にも称賛したい。あそこで、爵位を求めてきたら、何か理由を付けて断っていたが、それを向こうから断ってきた。


 恐らく、他の者たちも何かを感じ取ったのだろう。


「確かに儂も同じように感じたわ。因みに騎士団長として彼はどう見えた?」


「彼はこの王城に入ってきた時から警戒心を分からない様に出していました。恐らく騎士ユリアたちが声を掛けた段階から警戒していたのでしょう。結局王城を出るまで彼の警戒心は一切変わりませんでした」


 アレクシスの意見に皆が驚きを示す。緊張しているように見えたが実は演技で、本当は警戒していたのだと教えられたから。引見時は誰が見ても緊張していると分かったが、お茶の時はそんな様子を全く見せていなかった。だから慣れてきたのかなとさえ感じてしまったからだ。


「それに加えて、武術に関してはお話以上の実力を持っていますね。主要武器はドアの前に居た騎士に預けておりましたが、足の運びや僅かな視線の動き、あの場で暴れた場合、サラやジークフリート、アメリアだけでは抑えきれないでしょう」


 王国騎士団の中でも一、二を争える実力者だと伝えた。それは単純にこのアルデレール王国でトップ集団に入れる実力者だと言う事だ。


 ただ、実際に手合わせをしたわけではないので、正確な実力は分からないが、アレクシスはそう判断した。


 やはり、この国に留めておく手段を講じた方が良いのか?アウグスト陛下は今でも彼の処遇について悩んでいる。


 陛下にとって一番手っ取り早いのが、爵位を与えそこそこの家の者を嫁に取らせれば良いだけの事。しかし、事はそう単純ではなくなった。彼ほどの実力者が貴族の仲間入りをした場合、果たして止められる者が居るのか。また、貴族間のパワーバランスが一気に崩壊しかねない為、(とつ)がせる嫁にも選定が必要となった。


 それに今日の様子を見る限り、レーアを含めた四人は、彼に対して好意を持っている様に見えた。そしてこれは此処に居る者たちも理解している。


(彼に爵位を授ける方法を模索しなければいけないか、もしくは・・・)


次回は、海外出張に行く前に投稿したいと思います。


そう考えると六月の上旬ぐらいですかね。

気ままに執筆しますので、お時間があればまた読んで下さい。

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