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036 修行の成果②

おはようございます。

先日、親友の結婚式に出席してきました。

親友の為に初めてイラストを描き、色紙にして渡しました。へたくそな絵だったので、喜んでもらえるか不安だったのですが、如何やら喜んでもらえたみたいで良かったです。

さて、執筆の方も時間が取れれば随時ストックを作成しております。

出来るだけ期間が空かない様に頑張りますので、読んで下さいね。


 技と技、力と力がぶつかり合う、アルデレール王国の目玉行事、武術大会。


 その大会が始まって既に二日経過している。


 レオンハルトたちは順調に予選の試合を勝ち進んでいた。残り六十四人となった今日は、全部で四十八試合行われる。最初の試合で六十四人から三十二人。勝ち残った者同士で予選最終試合を十六試合して、ブロック優勝・・・すなわち本選出場者が決まる。


 そして、本日から会場は一箇所で行われ、選手控室も皆まとめて大きな部屋となっている。当然、レオンハルト、ダーヴィト、リーゼロッテ、エッダ、クルト、ユリアーヌの六人は控室に待機しており、それ以外だと前回優勝者のティアナ、準優勝者のリリー、前回本選出場者の狐の獣人族でカタナ使いのルシアノ。一般の部に出場している勇者の仲間で未成年の人族の少年、どこかの貴族の御子息、御令嬢。冒険者でランクを既に上げている者たち、身体能力が優れた幾つかの種族が居る獣人族、魔法と弓に長けたエルフやパワーと鍛冶に優れたドワーフ、魔物に近いとされる竜人族(ドラゴンニュート)、その他多種多様な亜人族。


 レオンハルト自身、残りの二試合の対戦相手は要注意が居る相手だろう。一人は得体のしれないフードを被った少年っぽい人物。それに勝てば間違いなく勝ち上がってくる猪の獣人の少年との戦い。


 リーゼロッテの最終試合になる予定の人物もそこそこ実力はありそうだし、ユリアーヌの本日二試合目の対戦者も王都の冒険者ギルドで期待の新人として有名な選手だ。


 他の仲間たちもそこまで目立ったほどの実力を持った人物はいないが、勝ち上がってくるだけあって、少し手こずりそうな連中ばかりだ。


「アカツキ流大剣術、『(よい)斬り』」


「ヴァイザー流槍術、『スピニングスピア』」


 現在、優勝候補筆頭のティアナと槍術の名門にして槍術の指南役をしているヴァイザー流槍術の新人。その二人が激突していた。横一閃の『(よい)斬り』に対して、回転と遠心力を使った広範囲攻撃の『スピニングスピア』。広範囲と言っても正確には全方位に対する技なので、一人対多数戦闘では役に立つが、一対一となれば隙が出やすく。ティアナに二撃目、三撃目で技が破られ、四撃目に大剣で殴られて気絶し試合が終わる。


 その試合を貴族用の個室席から見ていた彼女の父親エトヴィン・ライムント・フォン・フォルマー公爵と夫人のマルティナ、長男に次男、次女も見に来ていた。隣の個室席にはリリーの父親であるリーンハルト・ツキシマ・フォン・ラインフェルト侯爵と夫人のエターリエ、長男に次男、三男、次女が見に来ている。


「中々、様になっているな」


 その言葉に家族ではなく御付きの執事が返答していた。


「続きまして第二ブロックの試合に移りたいと思います。まずは、盾職でありながら驚異の体術と盾を巧みに使った戦術を行うダーヴィト選手、対するは全てを切り裂く獅子の獣人フーゴ選手。獣人の特徴とも言える爪撃と身体能力の高さから、ダーヴィト選手を倒せるのでしょうか・・・・」


 司会者の意味で試合が始まり、二人とも一度接近してぶつかり合ったが、それ以降は様子見の姿勢に変更、相手の出方を伺う。


 沈黙を先に破ったのは獅子の獣人フーゴ。彼は、体術それも拳を主体・・・なのか若干微妙ではある攻撃で、ダーヴィトを襲う。


 そう。戦うと言うよりも襲うと言う表現に近い。攻撃も飛び掛ったり、しがみついた状態で乱暴に拳を振るっていた。戦士や剣士と違って野生的な攻撃が多く。身体能力に救われてかこの場まで上り詰めた選手の様だ。


 ダーヴィトも最初こそ一撃の鋭さに警戒したが、それ以降は戦い方が雑だったので、すべての攻撃を盾で防ぎ、隙を見せた瞬間に小手先程度の攻撃を相手に与える。


「ちょこまかと攻撃してきやがる癖に・・・これならどうだ『獅子黄天(ししこうてん)』」


 フーゴの持つ体術の技なのだろう一撃を繰り出してくるが、その攻撃でさえダーヴィトの盾を破る事が出来ず終わる。


 技が通らない事にショックを受けて、動きが止まった所を盾で殴り場外へ吹き飛ばす。そのまま吹き飛ばされたフーゴは、闘技場外の芝生でニ、三回バウンドして地面に横たわる。


「・・・た、只今の勝負、フーゴ選手の場外につきダーヴィト選手の勝ち。素晴らしい戦いでした。フーゴ選手は獣人と言う自身の長所を・・・・・・―――――」


 司会進行が何やら解説を続けていたが、ダーヴィトは一早く皆の元へ戻る。そして仲間たちから声を掛けられたり、ハイタッチをしたりして輪の中へ加わる。


 第二ブロックのもう一試合も呆気なく終了。勝ち残ったのは人族の女の子、戦闘スタイルは短剣を使うだけで、それ以外の特徴らしい特徴が見当たらない感じの子だった。


 続く第三ブロックは、(サイ)の獣人とエルフの少年。第四ブロックはドワーフの少年と同じくドワーフの少年、司会者の話ではこの二人は同じ鍛冶師の元で修行を積んでいる兄弟弟子との事。実力があれば必ずどこかで身内と当たるものだ。


 第五ブロックは、前回大会ベスト四のユリアーヌ。彼もまた、相手が弱すぎて話にならず秒殺して闘技場を後にしていた。彼もと言う言葉でわかるかと思うが、もう一人の勝者も先程のユリアーヌと同じように対戦者を秒殺して闘技場を去っている。


 第六ブロックは今大会のダークホースにして優勝候補の一人、現勇者ノアベルトと共に活動をしている剣士見習いのロアン選手が勝ち残った。残りのもう一試合と第七ブロックは大して強い人物は現れず、第八ブロックへと進む。


「さて、次の選手は今年最後の出場となるマルク選手。これまで四回もこの大会に出場してきましたが、不運にも毎回上位者と早いうちに当たり、目ぼしい活躍をしてこれませんでした。しかし、今回の彼は一味違う。何せ予選最終試合を目前にしているのです。皆さま是非彼の応援をお願いします。対する対戦者は、今大会初出場にして、華麗な剣捌きで対戦者をあっと言う間に倒している実力派の女剣士リーゼロッテ選手――――・・・・」


 司会者は試合を終えるごとに熱がこもっているのか選手の紹介も大きく飛躍していた。


 リーゼロッテの実力を知る者たちは、司会者に紹介を聞いて相手の幸運がここで終わったと居た堪れない気持ちになる。なぜかと言えば勝負は既に決まっているからだ。


 対戦相手のマルクは、上位者と早くに当たって負けていると報告されているも、上位者では無い選手と当たっても辛うじて勝てたという程度の実力。特出する様な強さは一切感じられない。それに対して、リーゼロッテの方はまだ半分以下の実力でスマートに勝ち残っている。誰が見ても分かる程の力の差が出た試合。


 試合開始の合図と共にマルクは、リーゼロッテの元へ走り攻撃を繰り出そうとする。


「がはッ!!」


 攻撃をしようとしていたマルクは、武器を振り下ろす前に腹部を抑え、膝をついた。額からは脂汗の様なものがにじみ出ており、結局そのまま絶える事なく地面に倒れる。


 何が起こったのかと言うとリーゼロッテのカウンター攻撃が見事にマルクの腹部を捉え、戦闘不能のダメージ与えた。ただそれだけの事、決して早い攻撃でもなければ、威力の高い攻撃でも無い。自然な動きで、相手の攻撃の力を利用しただけ。


 彼女の動きを解説するように考えていると司会者の判定がなかなか出ない事に疑問を感じ始める。それと同時に周囲の雰囲気も少し変化していた。


(あれ?周りの様子がおかしいぞ?)


 司会者を見ると何故か戸惑い始めていた。


「何があったんだ?」


 レオンハルトの問いかけにユリアーヌが答える。何でも、リーゼロッテの試合開始直後から一際豪華な観戦席に人が現れたとの事。その現れた人物がこの場の空気を作り出しているのだそうだ。


 誰が現れたのか尋ねるとそれを答えたのは、後ろからやって来たリリーともう一人の女の子。リリーの時も感じたがそれに劣らないレベルの美少女。しかも、リリーの銀髪に対してその美少女は綺麗な金髪。


 一人でもかなり目立つ存在が二人もいるのだから、周囲の視線だけは此方に釘付けだ。


「あそこにおりますのは、このアルデレール王国の現国王、アウグスト陛下よ。本来ですと本戦に入ってからお見えになるのですが・・・何かあったのかしら?」


「第二王女のレーア様もいらっしゃるみたいね。妃様達や王太子様は来ていないみたいですけど」


 成る程、王族が観戦に来られたら、運営側が慌てているのも無理はない。それも例年よりも早い登場なだけに余計に慌てているのだろう。


「教えてくれてありがとう、ところで君は?」


 銀髪の美少女リリーとも自己紹介していなかったが、彼女についてはクルトから聞いて知っている。そしてこの子も恐らくユリアーヌを倒した女の子だろうが、直接聞いたわけでもないし、仲間から紹介されたわけでもない。


「申し遅れました。私はティアナ。選手として参加していますので家名は省かせていただきます」


「同じくリリーと申します。私も家名を省かせていただきます」


 ユリアーヌやクルトから聞いていた人物で間違えはなかった様だ。相手だけに自己紹介させるわけにもいかないにで、此方もレオンハルトを筆頭にそれぞれ自己紹介をする。


 自己紹介を始めた頃には、運営側も落ち着きを取り戻して来ており、司会者が試合終了の合図を出していた。


 それで全員の自己紹介が終わる頃にリーゼロッテが闘技場から戻ってきて、再びティアナとリリーはリーゼロッテに対し自己紹介を行う。


 それから簡単に雑談を行うが、ティアナとリリーから得られた情報の中で気になる内容も含まれていた。


 今回、対戦する相手の中で一番注目されているのが、レオンハルトだという事。理由を思い返しても検討がつかないレオンハルトたち一行。それに比べて思い当たる節が分かるユリアーヌたち。


 特に初戦の圧倒的なまでの強さを見せつけた試合。それが最も注目を引きつける結果となってしまっているとの事。対戦者が全員弱かった場合もあり、その場合は今回のレオンハルトの様な試合の流れも発生する。しかし、今回はそこそこ実力を持ったものも混ざっており、結局、それですら意図も簡単にあしらっていた。


 だから注目されているのだとか。全く持って迷惑な話だ。


 それと話をしている最中に試合も順調に進んでおり、リリー、エッダと共に勝ち進んだ。


「さて、第十三ブロックに移ります。前大会で本選出場を果たした狐の獣人でカタナ使いのルシアノ選手。対するは今大会初出場、狸の獣人で槌使いのドルチュ選手。勝ち残るのは、経験のあるルシアノ選手かそれとも武器で有利なドルチェ選手か。それでは試合開始ッ!!」


 開始の合図と共にお互い距離を詰めるため疾駆する。種族としてそれぞれの個性が異なり、狐の獣人は速度(スピード)重視。狸の獣人は筋力(パワー)重視の傾向になりやすい。


「セイッ!!」


「ウラッ!!」


 刀と槌が激しく衝突。刀でまともに槌を受ければ力負けしてしまう事は理解しているのだろう。衝突直後に刀の軌道を変え槌の攻撃を受け流した。


 その直後、斬り返すように二撃目、三撃目を連続して行うが、これを器用に槌の柄の部分で受け止めた。


 両者とも本戦に出場できるだけの実力を備えている事もあって、かなり良い勝負をしていたが、本選出場経験者ともあってか若干ルシアノの方が優位に立っていた。


 最終的に、ルシアノがドルチェの攻撃を躱し反撃して、場外へ追いやった。


「勝者ルシアノ選手。両者とも素晴らしい試合を見せていただきました。特にドルチェ選手は本戦に勝ち残れるだけの技量を持っていましたが、勝負は時の運と言いますから残念でなりません」


 本当に残念そうに話す司会者。先の戦いは予選準決勝の試合内容にしてはかなり良い試合と言えるそんなレベルの試合だったのだ。逆にこの次に行われた試合はかなりレベルが低い試合となってしまっていた。


「さー皆様。第十四ブロックの試合を開始します。この次の戦いも目を離す事は難しいでしょう。今大会もう一人のダークホース。武器を全く使用せずに体術のみで此処まで勝ち残り、しかも苦戦する事なくほぼ一瞬で倒してきた未知の実力者レオンハルト選手。対する選手は、此方も今大会初出場の選手です。えーっと、これまでの試合は危なげなく勝ち進んでいるが毎回戦闘スタイルが異なり、試合中フードを脱ぐ事もない正体不明のフェリクス選手です」


 この武術大会は替え玉選手禁止なので、試合前に運営側が本人かどうか確認は行っている。しかし、司会者や観客たち、対戦者はその素顔を見る事が出来ないので、正体不明と称しているのだ。その方が盛り上がると言う事も含まれている。


 レオンハルトからして正体が分かろうが分からなかろうが大したことではない。魔法が一切使えないこの場において相手が仮に魔族だとしても条件は一緒なのだから。それよりも気になるのは、毎回戦闘スタイルが違うと言う点。


 司会者の話に耳を傾けて分かっただけでも、槍、剣、鈍器と使用しているらしい。


 槍使いが矛や槍斧(ハルバード)等の長物を使用するなら話が分かるし、剣にしても剣のみか盾持ち、両手剣、双剣等戦闘スタイルが変化する事は珍しくない。しかし、槍、剣、鈍器では、根本的に戦い方が異なるため、使い分けようとする者は同年代では、まずいない。


 現在、彼が身に着けている武器は篭手(ガントレット)。槍術や剣術ではなくこの試合では、体術を使うと言う事なのだろう。


(彼は対戦相手の使用する武器と同じ物を使用する傾向になるのか)


 レオンハルトはフェリクスの戦闘スタイルについて、仮説を立てる。しかし、その仮説が正しい場合、彼自身刀を所持していなければならないし、初日に関して言えば複数人との戦闘になるので、彼のスタイルでは難しく、次の試合の対戦者の情報も得て準備していては間に合わないと考えた所で、司会者から試合開始の合図を言われる。


 お互いに一気に攻め込むわけでもなく、その場で様子を見る。


(何かあるのかもしれないが、武術は一朝一夕で身に付くものでもない)


 覚悟を決めたレオンハルトは、構えを解き一直線に走り始める。


 レオンハルトの行動に合わせる様にフェリクスも走り始めた。しかし、此方は構えた状態での移動なので速度はそこまで早くはない。


 互いが衝突する瞬間、フェリクスが宙を舞う。そして、そのまま地面に落下して動かなくなった。


 審判がすぐさま駆け寄りフェリクスの様子を確認。顔を隠していたフードを取るとそこから現れたのは・・・・。


土竜(モグラ)の獣人?・・ハッ、フェリクス選手気絶を確認」


 審判が確認した後、司会者が勝者宣言を行った。


 何故、正体不明だったのか司会者がその場で理由を述べる。と言うよりも、彼が土竜(モグラ)の獣人の段階で此処に居る者の半分は理解してしまった。土竜(モグラ)の獣人は、生活環境が基本、地下洞窟で生活しているため、日の光に弱い。フードを深くかぶり、全身覆い隠していたのには、日の光を極力浴びない様にするためだったのだろう。


 戦闘スタイルを変更していた理由は、本人が起きた時に聞かなければ分からないとの事だった。


 因みに、レオンハルトが何をしたかと言うと、単純にフェリクスの放った拳を受け止めた後、素早く(ふところ)に入り腹部に掌打を一撃打ち込んだだけ。


 何か技を使ったわけでもない、単純な攻撃。レオンハルトはこの攻撃を敢えて行い。相手の実力を見定めようとしたのだが、その前に決着がついてしまい。拍子抜け状態になってしまった。


 呆気なく試合が終わり、控室に戻り仲間たちと残りの試合を見学しつつ、雑談した。その後の試合で見所の在りそうな選手としては細剣(レイピア)使いエルフのエレオノーラと言う少女が本選出場の見込みがあったぐらいだ。


 最後の試合はクルトが出場し、対戦相手のドワーフの少年を秒殺して前半戦が終わった。


 この後、いったん休憩を挟んだ後、各ブロックの予選最終試合が始まり、そこで勝ち残ればブロック優勝、そして本選出場が叶うと言う事になる。


 休憩が空けて試合が開始される。


 最初の試合は第一ブロックの枠を決める最後の試合。対戦するのは今日知り合った金髪の美少女ティアナと熊の獣人の女の子、特徴的なのは茶色い毛ではなく真っ赤に燃える様な赤色をしていた。


 熊の獣人の中でも毛の色で種族が異なるらしい。一般的な茶色い毛並みの熊の獣人は、森などで生活をするのに対し、赤い毛並みの熊の獣人は砂漠で生活をする種族の様だ。森で暮らせない事もないが、砂漠で生活していた分過ごしやすいそうだ。


 試合が始まるとティアナの大剣と赤熊の獣人の戦斧(バトルアックス)が打ち合う。


(獣人の方は力がある分腕のみで武器を扱っている感じだな・・・・それに引き換えティアナは全身で打ち込んでいる。これは獣人の方が、直ぐに腕が上がらなくなるかな)


 戦いの先を見据え勝者を予想する。腕のみで打ち合えば、必ずその反動が腕へ来るが、その反動の威力が腕のみと全身とでは、大きく違ってくる。そして、当然腕のみの方が反動は大きく軽度の麻痺の様に痺れてしまう。


「勝者ティアナ選手ッ!!」


 どうやら試合は、レオンハルトの予想したような結末を迎えていた。攻めていた赤熊の獣人が突如持っていた戦斧(バトルアックス)を落としてしまい、その隙を待っていたように重い一撃を打ち込んで勝利していた。


 それから、第二ブロックはダーヴィト。第三ブロックは(サイ)の獣人ライナー。第四ブロックはドワーフのヴィムがそれぞれ勝利を収めた。


 第五ブロックはユリアーヌと王都の冒険者ギルド期待の新人との戦闘だが、これは結局ユリアーヌが圧勝した。当初では、苦戦するかもと言う話だったが、去年大会で負けた事が良い刺激になったようで、相当鍛錬を積み重ねたのだろう。


(やはり、実力はかなり上がっているようだな)


 レオンハルトは再会した時のユリアーヌと今現在のユリアーヌとでもそれなりに実力が向上していると判断した。


 第六ブロックは、優勝候補として名が知れ渡っていた勇者の仲間で剣士見習いのロアン。第七ブロックは、ドミニクと言う人族の少年が勝ち上がる。


「此処まで怒涛の強さを見せてきたリーゼロッテ選手。何故か試合開始の合図直後から全く動かない。どうしたのでしょう」


 これまでの試合とは異なり、守り手に転じていた。対戦相手のアポロニアと言う人族の少女も同様に動かず身構えている。これは、対戦相手がリーゼロッテの今までの攻撃時の動きを観察して、反撃(カウンター)一本に戦い方を絞ったのだろう。


反撃(カウンター)を狙っているみたいね・・・となれば、フェイントを混ぜれば対処が出来なくなるはず)


 静止の時が終わり、リーゼロッテは右手に愛剣を持ち仕掛ける。対するアポロニアは未だに構えた状態で動かない。彼女はその場でリーゼロッテを迎え撃つつもりなのだろう。


 お互いに攻撃圏内に入るとリーゼロッテが先に剣を振るう。


 しかし、その剣は途中で軌道を変更、リーゼロッテ自身もサイドステップで攻撃位置から別の位置へ即座に移動。剣の軌道をそのまま生かしつつ、再攻撃を繰り出す。


 突然フェイントを入れられたアポロニアは、持っていた短剣を素早く逆手に持ち替えて再攻撃に対して迎撃に移る。


「えっ!?嘘ッ」


 アポロニアの攻撃は、見事に空気を切り裂くだけで終わる。本来であればその場所にいるはずのリーゼロッテがおらず、あるはずの斬撃もそこにはなかった。


「惜しいですが、もう少し相手の動きを見た方が良いかと思います」


 アポロニアの後方からリーゼロッテの声が聞こえると同時に首筋へ剣を突きつけられる。本人にしてみれば何が起こったのか分からないだろうが、観客席にいた者は皆何が起こったのか理解出来た。


 リーゼロッテが使用したのは、フェイントの二段構え。アポロニアが動かない段階で反撃(カウンター)を仕掛けてくる事は、容易に想像が出来た彼女は、相手に分かりやすいフェイントを一回、その直後に少しばかり本気のフェイントを一回行い背後に回った。アポロニアは、最初のフェイントに対処するため、相手に背を向けた状態で死角からの反撃(カウンター)を行ったのが今回の敗因とも言える。


 冷静に、対処していれば二回目のフェイントに気づく事は出来ただろう。ただし、反応は出来なかったと予想は出来た。


「こ・・・降参」


「アポロニア選手、降参宣言により勝者リーゼロッテ選手。これで第八ブロックの代表はリーゼロッテ選手となりました」


 その後も第九ブロックから第十六ブロックまでそれぞれの代表者を決める予選最終試合を行った。第九ブロックの勝者はアレックスと言うエルフの少年、使用する武器は長槍と短槍の二本を巧みに操る。


 第十ブロックは、前回準優勝を果たしたリリー。彼女の持ち味は細剣(レイピア)による連続攻撃の手数と速さ。第十一ブロックは、エッダが華麗に勝ちを決めた。


 第十二ブロックは、今大会が初出場の黒豹の獣人ギード。持ち前の身体能力で素早く相手を倒していた。使用する武器は短剣を使っていた。これは一般的な剣や槍、斧では彼の速さを殺してしまいかねないと言う判断から短剣を選んだのだろう。鉄爪でも良い気がするが、それは本人が選択するべき事。


 第十三ブロックは、レオンハルトと同じく刀を使う狐の獣人ルシアノ。前回も本選へ出場するだけの実力がある分今回も参加権を得たようだ。第十四ブロックは、レオンハルトだ。ルシアノ同様に刀を一応装備しているが、予選ではすべて素手で倒しているため、まだ一度も抜いてはいない。


 第十五ブロックは、エルフのエレオノーラが勝ち進み、第十六ブロックはクルトが本選出場を勝ち取った。


 レオンハルトたちは誰も苦戦らしい苦戦をすることなく本選に出場権を得る事が出来。その日の試合が終わってから一同は飲食店で打ち上げを行った。


「「「かんぱーい」」」


 明日からは一般の部の予選が開始される事になっている。一般の部は未成年の部に比べて参加者が多く、予選の試合数もそれだけ回数が多くなっている。


 実際に、メインは一般の部の試合なのだが、観戦者たちはどちらかと言うと未成年の部を見たがる傾向にある。兵士や騎士団への勧誘(スカウト)も早い段階から行えると言う点で、軍関係者や私兵として見定めようと貴族たちも多く見に来る。また、親として子供の試合を見に来たいと言うのも大いにある。


「明日から少し暇になるな。皆はどうする?」


 レオンハルトの質問にそれぞれが考え込む。


「俺は一般の部の試合を見てみようと思う」


 ユリアーヌの発言に、ダーヴィトとクルトが賛成して三人は明日から試合観戦を主に活動する事にした。


「私たちは、図書館へ行ってみるつもり」


 シャルロットは、リーゼロッテと一緒に既に予定を決めていた様で、二人に合わせてヨハンも同様に調べ事があるとかで図書館へ行く事が決定した。


 後、決まっていないのは自分とエッダ、アニータの三人。これはこれで珍しい組み合わせだが、エッダはアニータと王都観光の続きをするらしい。それに時間があれば大会で賑わっている広場や通りの出店に立ち寄ったりするとの事だ。結局予定が決まっていないのは自分だけなのだと認識し、折角できた時間を有効活用しようと考えを切り替えた。


 やりたい事、やらなければならない事。考えるだけで数多くの案件がある。特に現在一番優先して行いたい事が銃の改良、未だに実弾を撃つまでに至っていない。銃自体は概ね完成しているが、問題は火薬となる材料がない事。


 前世では火薬は早い段階で見つかり、使用用途も殺傷から娯楽まで様々な物が存在していた。しかし、此方の世界では、魔法と言う代物があるため、あまり科学に対する考えが低い傾向にある。


 王都滞在中に王都の図書館へ足を運び、調べたりもしたが中々それらしいもの見つける事が出来なかった。これは最悪、詳しい人に尋ねた方が良いかも入れないが、そんな人物に心当たりは無く。また、変な人物であれば、悪用されかねないので慎重に行きたい。


 銃以外だと早急に考えなくてはならないのが、移動手段だろう。


 現在六人で移動するのも割と大変な為、そろそろ自分たちも馬車か何かしらの移動手段を獲得しなければならないと考えている。しかし、此方の世界の馬車は乗り心地が悪い為、馬車本体にも手を入れる必要が出てくる。


 馬車を手に入れれば、町から街へと移動する際にオスカーやフランクの様に行商をするのも良いかもしれない。彼らは雇われ商人だったりしたが、こっちはフリーで動く行商人ってところだろう。


 売る物も自分たちで入手したり加工したりできる上、薬の制作も問題なく行える。拠点を一応ナルキーソにしているが、別にどこでも構わないとさえ思っている。いざとなれば『転移(テレポート)』で自由に街から街へと移動できるのだから。


「レオンくんはどうするの?」


 一人になってしまった彼の事を心配したシャルロットは、予定がないなら一緒に来るか誘う。最初はそれでも良いかもしれないと考えるが、やはり時間を有効利用しなければならないと判断して、お誘いを丁重に断る。


「ありがとう。でも、ちょっとやりたい事があるから、俺はそっちを先に済ませるよ。早く終われば合流させてもらうかもしれない」


 正直、終わらないだろうなと心の中で思うが、行き詰るともしかしたら息抜きがてらに一緒する可能性も十分考えられた。


 その日は、夜遅くまで皆で騒いで過ごした。











 レオンハルトたちが打ち上げを始めた少し後ぐらいまで話は遡る。


「お父様、今宜しいでしょうか」


 王城にある一室、国王が仕事に使う執務室に大慌てで来たやって来た第二王女レーア・エル・フォン・アルデレール。普段此処まで取り乱す事のない娘を目の当たりにして何かあったのかと慌てる現国王アウグスト・ウォルフガング・フォン・アルデレール。


「ど、どうした!?」


 息を切らせながら、やって来たこともあり少しばかり息が整うのを待つ。


「お父様、あのお方が、あのお方が大会に出場しておりましたわ」


「あ、あのお方??」


 突然何のことを言い始めたのかよく分からないアウグスト陛下は、誰が大会に出場していたのか考え始める。しかし、目ぼしい人物として家臣の娘のティアナとリリーしか思い出せなかった。と言うのも今日大会を見学する予定はなかったのだが、都合よく時間が空いた事もあり、娘たちを連れて少し様子を見に行っただけだったのだ。


 彼からしたら、今回は王族としてではなく、家族サービスの一環だった。


「はい。(わたくし)がワイバーンに襲われ川へ落ちた時に助けてくださいました。あのお方です」


「ん?たしかその人物は薬師ではなかったのか?見間違えではなかったのか?」


 アウグスト陛下からして(レーア)から聞いていた内容は、薬師の少年が助けてくれた。腰に剣と背中に弓を身に着けていたと言う事から、少しは戦闘も出来るだろうが、本職が薬師若しくは薬師見習いであるならば、大会に出場している事はまずありえない。仮に参加していたとしてもそれは、運営側で治癒士と共に薬師として活躍していたのではないかと言う点だ。


「確かにあれはレオンハルト様でした。(わたくし)を助けてくださいました時と武器や服装が違っていましたけど、あれは間違えなくレオンハルト様です」


 レオンハルト・・・・今大会に初出場した少年。カタナと呼ばれる武器を身に着け、武器を使用せずに全てを素手で対処したと言うかなりの実力者ではないかと兵士から聞いたその人物が助けてくれた薬師レオンハルトだと言う。


 未知の薬で娘の傷を癒した人物が果たして、兵士が言うような実力を身に着ける事が可能なのか。


「レーアよ。明日運営側に問い合わせて確認をしてみる。もしそれが本当であれば、娘を助けてくれた恩があるからな。一度王城へ来てもらうようになる。其方はその時にお礼を彼に伝えればよい」


 そして、レーアを下がらせたアウグスト陛下は、宰相を執務室へ呼び、レオンハルトについて調べる様に伝える。


「陛下、レオンハルトと言う人物の情報でしたら、所用で必要でしたので集めております。今すぐお持ちしましょうか?」


現宰相にして王都アルデレール西区を統括するエトヴィン・ライムント・フォン・フォルマー公爵。彼は娘、ティアナ・カロリーネ・フォン・フォルマーが(くだん)の人物に過去助けられた経験を持っている。


 貴族として、また一人の父親として彼に何らかの報酬をと考えているのだが、報酬を渡すにしてもまずは身辺調査を行う必要があった。彼の人間性、環境などを調べ犯罪などに手を染めていないか、娘と接触させて問題ないか、徹底的に調べたのだ。


「此方が彼に対する調査結果です」


 宰相より受け取った書類にアウグスト陛下は直ぐに目を通した。


 ナルキーソと言う辺鄙の地で孤児院として育った。幼少期より戦闘、魔法共に秀でる物があり、また指導力にも長けた人物でもある。五歳児の時にはギガントボア討伐の経験があり、これは未確認情報だが、単独撃破したと言う話も浮上。


 十歳になると孤児院の仲間と共に冒険者として活動をする。海隣都市ナルキーソを拠点に活動しているが、イリードやプリモーロでも活動している事から南東部が主な活動エリアと推測。それに加え冒険者になった直後にマウントゴリラと遭遇し、仲間と共に各個撃破している。これは、目撃情報が多数あり、またナルキーソの領主もその事は確認済み。


 マウント山脈での活動歴もある上帝国から来ていた商人の一行を襲うワイバーンの討伐も単独で行っている。


 性格は、温厚で人から頼られる存在。仲間からの信頼も厚く、現在は六人でチームを結成し、そのリーダーとして活動中。


 それ以外にも記載はあったが、アウグスト陛下自身が知りたい情報も含まれており報告書を机の上に置いて溜息をついた。


 此処に書かれている情報がどれだけ信憑性があるのか分からない。正直、普通の子供では成しえない功績を幾つも残している。


「良く此処まで調べた物だな」


「はい。うちの娘ティアナが昔助けられた経験がありまして、大会中に一度彼とお会いしようと思っておりましたので」


 その答えを聞いて、確信に変わる。


(レーアの言うように、彼が娘を助けてくれた人物なのだろう。しかしそれならなぜ名乗り出ない?報奨金を貰えるのだから普通は名乗り出るものだろう?)


「そうか、そうしたら彼に一度王城に来てもらいなさい。如何やらレーアの恩人でもあるみたいだからの」


「レーア様の恩人ですか・・・まさか、あの件の?」


 事情を察した宰相は、何やら考え込み始める。


「でしたら、オルトヴィーン・ベルント・フォン・エクスナー枢機卿、リーンハルト・ツキシマ・フォン・ラインフェルト侯爵、ハイネス・クレマー・フォン・シュヴァイガート伯爵、それと、リリー・アストリット・ツキシマ・フォン・ラインフェルト、エルフィー・マリア・シュヴァイガートの五名も参加していただくのが得策かと思います」


 オルトヴィーン枢機卿はエルフィーの祖父でハイネス伯爵は父親に当たる。因みにエルフィーの母方の祖父がオルトヴィーン枢機卿の為、ハイネス伯爵とオルトヴィーン枢機卿は、義理の父、息子と言う関係になる。


「一応、テオ・トーマス・フォン・エーデルシュタイン伯爵へも声をかけるべきかもしれません」


 テオ・トーマス・フォン・エーデルシュタイン伯爵、四十歳後半の赤髪の短髪。武闘派として知られている他、王都の北地区を統括している実力派の貴族だ。貴族としての規模は、フォルマー公爵家やラインフェルト侯爵家に比べれば一枚落ちるがそれでも伯爵家の中でかなり上位に位置する家柄だ。それはシュヴァイガート伯爵家も同様である、(むし)ろそれより後ろ盾にエクスナー家が居る分、シュヴァイガート伯爵家の方が、規模が大きいかもしれない。


王都を統括する四大貴族のうち三大貴族が集まるのだから呼ぶべきかもしれないが、そこは本人に任せるほかない。


「ラインフェルト侯は分かるが、何故シュヴァイガート伯も招くのだ?」


 「調べたところ、エルフィー嬢がレオンハルトに助けられ、面識もお持ちとの事。現に彼らが王都に訪れた際にエルフィー嬢のもとを尋ねています」


「なるほどの、分かった。では、明日にでも王城に来れるかどうか手配してくれ。頼むぞ」


 アウグスト陛下の指示で、明日、殿下に宰相兼当主フォルマー公爵、当主ラインフェルト侯爵、当主シュヴァイガート伯爵、当主エーデルシュタイン伯爵、その他数人を交えて会議を行う事となった。


次回は、五月末ごろに投稿しようかと考えています。六月は海外予定ですので、もしかしたら六月の投稿は一、二回程度になるかもしれません。その際はご了承ください。

誤字脱字等ありましたら、教えていただけると嬉しいです。


あっ!!因みに今日は自分の誕生日です。主人公たちの誕生日はまだ設定していないので、決めたら誕生日をモチーフにした話も作ってみたいですねー(笑)

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