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035 修行の成果

さてさて、皆さまおはようございます。


今日から令和ですねー。自分としては昭和、平成、令和と三つ時代を生きてしまうそんな気分です。

年齢から言うともう一つ経験しそうな感じですが。


では、記念すべき令和の始まりです。ごゆっくりどうぞ。

 金属と金属が激しくぶつかり合い、彼方此方で火花を散らす。それぞれが持つ武器を最大限に生かし、己の鍛え上げた技と技が激しく戦慄する。


 ・・・・


 ・・・


 かと思いきやそんな事は微塵もあり得なかった。


 現在、アルデレール王国の首都、王都アルデレートで行われる魔法や武器以外の道具を使用しない純粋な技術で競い合う武術大会。年に一度行われるその大会で今レオンハルトたちは未成年の部に出場していた。


 これが一般の部であれば、もしかすればこの様な戦闘が行えていたかもしれないが、未成年の部ではこのレベルの試合は出来ない。現にこれから戦おうとするエッダの相手は、どれも実力は一般的な子供のそれと同じだ。まあ軽く稽古した程度はあるが、大して変わりはしない。


 ハイテンションな司会進行役が試合合図を出す前に軽く有名な選手や貴族の子たちの紹介をしていた。エッダがこれから行う試合にも有名選手はいない様だが、代わりに男爵家の兄弟が参加。兄弟が同じブロックでしかも一回戦目のバトルロイヤル戦に当たるのはどんな確率なのだろうかと少しだけ苦笑いしてしまう。


「では、これから試合を開始いたします。皆さん準備はよろしいですかー?それでは、第十一ブロック予選第一戦第三試合、試合開始―ッ!!」


 エッダは素早く槍を構える。左右からは先程紹介があった兄弟が彼女をターゲットに襲い掛かってくる。一人で挑むよりも二人で挑む方が有利になる。どちらかが倒れてももう片方が残れば結果的に良いのだろう。二人残った際は、どちらが残るか決めているのだろうし・・・。


 しかし、この試合にはエッダが参戦している。寧ろやりすぎに注意が必要なぐらいであろう。


 エッダはまず、左から来る少年に対し、サイドステップで距離を縮め持っている槍で相手の剣の軌道を逸らす。そして、流れる様な槍を操り相手の足を薙ぎ払いバランスを崩させる。そこへ追い打ちをかける様に横一閃で刃先の部分ではなく刃の手前の棒の位置で少年の腹部を攻撃。そのまま場外へ吹き飛ばした。一瞬の出来事に反対側から来るもう一人の少年は、一瞬だけ攻撃に迷いを生み出す。だが、エッダはそこを素早く槍を一回転させながら反対の少年の腹部目掛けて先程同様に攻撃した。


 兄弟共々は敢え無く場外に出てしまい失格。まだ、お互いが持っている武器でせめぎ合い始めたばかりのタイミングで早くも失格者が二名も出た事に司会者も熱の入った実況を忘れ、ただただ見ているだけだった。


「・・・・そこそこ力加減はしたのですが・・・死んでないですよね?」


 エッダ自身思っていたよりも強い一撃になってしまい。思いっきり吹き飛ばされた哀れな兄弟へ視線を向ける。


 急ぎ治療班が兄弟を回収していたので、場外に加え気絶と言う姿を大勢の者たちの前で(さら)してしまった。


 哀れだな・・・。


 レオンハルトは素直に早々と負けた兄弟に同情した。


 エッダも彼らが死んでいない事を確認したら、次の相手を見つけては槍で薙ぎ払い意識を刈り取ったり場外へ吹き飛ばしたりする。


 結果、開始し数分で全員を倒した。当然、相手同士で戦い勝ち負けもあったのでエッダが九人すべてを倒したわけではない。最初の兄弟を含めて五人倒したぐらいだ。


「エッダお疲れッ!!」


 控室で試合を観戦していたレオンハルトとクルトがエッダの勝利を嬉しそうに祝う。


 まあ勝って当然の試合なのだが、それでも嬉しくない事は無い。


 そうして、三人が騒いでいるのを少し離れた位置にいる者たちが驚きだったり、生暖かい目で見ていたりしたが、あまり気にしないでおこう。


 驚きは、試合が早く済んだこと、エッダの実力が予想以上に高かったことだろう。生暖かい目線は、何が原因か分からない。それ以外に向けてくる目線もあった。


(クルト選手と親しくしているあの人・・・・どこかで・・・・)


 壁際にある椅子に腰かけていた選手が、彼らを見ながら考え込んでいたりした。


「次はレオンの出番だな。って言ってもまだ先だがな」


 クルトの言うようにまだまだレオンハルトの番が来るまで時間がある。何せ現在十一ブロックの第一戦第七試合を開始するところ。レオンハルトは十四ブロックでクルトは十六ブロック。どちらもまだまだ此処で待機しておかなくてはいけない。


 エッダは、本日の試合が終わっているので、シャルロットたちと一緒に観客席へ行っても良いのだが、此方の方が見やすいと言う理由で、控室で待機する事にした。


 談笑しながら試合を観戦する事約一刻。レオンハルトの出番がやって来たため身体をほぐしながら闘技場へ向かう。


 闘技場を出入りするためのやや薄暗い通路を出れば、燦々と照り付ける太陽の光によって観戦席からでは見えなかった景色が広がった。


 他の選手たちも数名はその圧巻差に少々委縮している者も居るようだが、中にはそれを全く気にしない人も居た。


「さて、選手の皆さまは闘技場へお上がり下さい」


 司会役が選手たちを誘導し闘技場に上がらせると、そこから数人の選手説明が行われる。エッダの時は貴族の兄弟のみ紹介していたが、此処には貴族が居ないようなので、司会役が注目している選手の紹介のみで終わる。


「個人的に注目している選手は三人。前々回大会優勝者の弟が今大会に出場しています。前回は予選敗退した兄を今回はその弟がリベンジを果たす。とても見どころがある試合になりそうです。そして次は、前回の本選大会でも盛り上げてくれたルシアノ選手。その選手と同じ武器を携えた彼にもルシアノ選手同様に高い評価をたたき出してくれるのか、それとも彼に憧れてあの武器を選択しているのか、大変見ものであります。残る注目選手は、十四歳にしてあの肉体。見た目からは想像できない年齢ではありますが、運営側も確認しましたところ彼は間違いなく十四歳との事でした。その鋼の様な鍛え抜かれた筋肉は、他の選手とどの様に蹴散らしていくのでしょうか」


 司会に紹介されたのは、小柄で強気な視線をする青髪の少年と十四歳にしては高身長な上にかなり鍛え抜かれた肉体を持つ少年。ボディビルダーみたいな身体をしていながら持っている武器が片手剣と盾、ちょっとおもしろい組み合わせだが、恐らく大剣や戦斧を今後装備するつもりなのだろうと推測した。最後、刀を腰に身に着けたレオンハルトだった。


 レオンハルトの実力よりも刀を装備しているから注目している様な節でもあるが・・・。


「さて、皆さん準備は・・あれ?レオンハルト選手、準備をお願いします」


試合開始の合図を出そうとした司会者は、一人だけ武器を所持しているのにそれを手に持っていない事を知り速やかに武器を構える様に伝えた。一般の部ではここまで確認する事はないが、未成年の部ではその場の空気に飲まれ準備を忘れる子も中にはいる。


 体術を主とする者も中に入るが、その人たちは初めから剣や槍などを所持する事はない。なので、刀を所持して抜いていないのは準備ができていないという事に繋がる。


「刀を使うまでも無いので始めてください」


 レオンハルトは、驚くほど冷静に答える。


 会場内は、驚く者が何割かいたが、殆どは所詮子供の自信から来る無謀として捉え、非難する者、煽る者たちで賑わう。だが、見ている側はそれでもいいかもしれない。しかし、闘技場に立つ他の選手たちはどうだろう。


 武器を使うまでも無いと言われれば、普通馬鹿にしていると捉えられる。現に選手の半分が馬鹿にされたと感情を表に出して、レオンハルトを睨みつけていた。


「調子に乗るなッ。ならば貴様から先に倒してやる」


 両隣からは怒りの声も発せられた。


(思いのほか、釣れたな。釣れなかった者は・・・乗っかる者もいそうだな)


 レオンハルトが選手たちを怒らせたのには、理由がある。敢えて挑発することで、一対一対一対一・・・と言う環境ではなく。一対九という環境を作るためである。それぞれが皆敵、所謂乱戦は、慣れている者ならば事故は少ないが、初心者だらけの場合は事故が起こることもある。一応その辺りは細心の注意がなされているので大丈夫だろうが、それでもリスクは減らしておきたい。


 それに、これぐらいしなければ、レオンハルト自身楽しめないというのもある。折角、これほど大きな大会に出場するのだ。本戦に上がる者が注目されてしまうのであれば、そこは諦めて楽しむと決めた。だから少しでも多く手合わせをしなければ意味がない。


 後は、単純に同年代の実力がどの程度のものなのか知るにはちょうど良い機会でもあった。


「わ、分かりました。それでは、十四ブロック第一戦第四試合、試合開始ッ!!」


 司会の合図と共に六人の選手が一斉に一人の選手に挑みに出る。残りの三人は六人に遅れてそれに続いた。


 当然と言えば当然だが、最初に接触して来たのは両サイドに居る選手。一人は短めの両刃剣と銅製で少し大きめの盾を装備しており、もう一人は攻撃力重視なのか片手斧を両手で持つスタイルの人族たち、それに遅れる形で真正面にいた豹の獣人がチラニュムと呼ばれる短剣を両手に装備していた。短剣の二刀流、豹という自信の身体能力を活かす武器を選択している様だった。


 まずは、向かってくる両サイドの選手の攻撃を最小限の動きだけで躱し、片手斧の少年を足払いする。盾の方は、避けられたことでバランスを崩し転倒しかけているのでそのまま放置。豹の獣人の攻撃を跳躍してそのまま空中で無防備となった背中を蹴りつける。


 蹴りつけた後着地地点に数人待機していたため、着地と同時に流れるように蹴り倒す。回し蹴りなどの基本的な物からアクロバティックな動きからの蹴り技まで幅広く使用する。


 四人を倒すとそこで鋭い斬撃がレオンハルトを襲う。しかし、すでにその辺りも確認済み。斬撃を躱しそのまま持っている武器の柄の部分を手からすり抜けるように蹴る。当然武器は直線上へ飛んでいき、慌てた選手は空いている手で殴りかかろうとする。


(ん?ああ、こいつは確か紹介されていた子か?確かに他に比べると出来るようだが、それでもどんぐりの背比べってところか・・・)


 青髪の少年の拳を掻い潜りそのままゼロ距離からの膝蹴りを相手の腹部に入れる。相当なダメージ入ったようで、少年はそのまま意識を手放す。


 若干可哀想な感じではあるが、この程度の痛みは覚悟の上だろう。それに相当なダメージと言っているが、所詮十一歳が出せる力などたかが知れている。しかも加えるならダーヴィトたちと模擬戦をする時の三割程度しか出していない。これより威力を落とす方が難しいとも言える。


 残る選手を見渡す。ボディビルダーの様な選手と最初に相手した二人の少年。


(ああ、この選手無駄に筋肉をつけているせいで動きが遅いな・・・。それにあの二人、最初の攻撃で更に怒っている様だが、冷静さを失った段階で勝てる戦いも勝てなくなってしまうというのに・・・はあ)


「テメェ。許さねーからなー」


 かなりお怒り状態のご様子。もう片方も何か怒鳴り散らしていたので、手早く黙らせた。何、それぞれ側頭部や腹部に少し強めの蹴りを入れて意識を刈り取っただけ。あまりにも呆気なく終わったので、そのまま最後の一人も顎に飛び膝蹴りを入れて終わらせた。


 長い様な感じかも知れないが、殆ど時間はかかっていない。寧ろ今までの試合の中で最速で終わらせたと言っても良いレベルだ。


「・・・ハッ!!勝者レオンハルト選手。あまりに・・・あまりに早い決着になんて感想して良いのか、ただ分かる事は―――彼は今までに無い実力の選手と言えるでしょう。この後の彼の活躍に私、非常に興味が湧いて来ました」


 取り敢えず、試合は終わったと言う事で闘技場を後にする。気絶した選手たちを運営側が素早く回収して医務室へ運び込んでいたが、殆どは大きな損傷を受けていない。きちんと力加減も考えての攻撃だ。三人程その力加減を誤ったり、クリーンヒットさせたりしたのも中にはいるが、それでも内臓破裂や骨折などは一切していない。良くて打撲程度に抑えている。


「お疲れッ!やっぱ流石だな。鮮やかすぎるだろう」


 控室に戻るとクルトが早速声をかけてきた。それにしても試合前と後では少しばかりテンションが高くなっている。聞けばレオンハルトの試合を見て、自分も早く戦いたいと言う衝動に駆られてしまったらしい。


 クルトは、人の試合を見て自分も戦いたい。強い相手との戦闘を楽しみたいなどと言う戦闘狂染みた考えは割と少ない方だが、今回はレオンハルトの戦闘をみて、自分の今の実力を彼に見せたいと言う気持ちになってしまったようだ。


 師匠と言えるほど密接に教えてきたわけではないが、孤児院時代は共に特訓したりした仲なので、レオンハルトの実力を見せつけられて自分もお返しにと言う感じに近いらしい。


「期待してな。俺も前回の大会で味わった屈辱を糧に腕を磨いたからな」


 クルトが自慢げに伝えてくる。前回の実力がどの程度だったのかは、今のレオンハルトには分からない。しかし、孤児院を出る時に比べれば明らかに強くなっているのは、身体の動きを見れば理解できる


 だからか、クルトが戦う所を見るのは非常に楽しみでもあったし、同様に早くて合わせをしてみたいとさえ感じる。共に鍛え、技を追求した友の実力を。


 その後、レオンハルトの試合で会場の熱気が最高潮まで高まり、それからの試合はと言えば、その熱気に当てられ余裕をもって戦おうとしていた者たちの心に火をつけたようで、激しい戦闘が繰り広げられた。


 そうこうしているうちにクルトがいる十六ブロックの試合が始まる。


「うおおおおおおおおおおおおお」


 まだ、熱気は納まっていないようで、会場内が非常に盛り上がっていた。


「レオン。今度は俺が実力を見せる番だからしっかり見てろよ」


 自分試合が始まる少し前から身体をほぐしていたクルトが、此方に向いて、宣戦布告とも取れそうな言葉を残し、闘技場へ向かった。


 クルトが姿を現した会場は、更に盛り上がりを見せる。前回大会ベスト四と言う成績を収めた実力者が現れれば、当然会場は盛り上がらないはずがない。


 それにクルトも今は真面目な表情で闘技場に上るが、元はかなりお調子者。何時まで持つのか分からないが、いずれその本性が表に出てくるだろう。


 司会者がいつも通り有名な選手や期待している選手、貴族の子供など紹介する。当然クルトも前回の成績からして紹介される側の人物。


「よーっし。全員まとめてかかってこい。そうでないとお前たちに生き残るすべはないぞ」


 試合開始の合図が始まる前にクルトが闘技場に立つ他の選手たちを挑発した。戦っている最中に徐々に調子に乗るだろうと考えていたのだが、開口一番に調子に乗りやがった。だが、逆にこれぐらいのハンデを上げなければ、クルトからしたら全く楽しめない試合を少しは楽しめるようにした。


 クルトが戦う選手ははっきり言って低レベルの者たちばかりだ。これで良く試合に出ようと思った程でもある。良くて冒険者登録をしたばかりの初心者・・・・以前、レオンハルトがナルキーソで出会った新人冒険者よりも更に弱い雰囲気の者。悪い奴は、武器を持ったことがあまりないのか体が震えている子もいる。


 なぜ参加しているのだろうと悩んだが、その疑問はあっさり分かった。


「弱そう・・・って思いますか?この試合に参加している者は、騎士の柄ではなく文官を希望した子供たちなのでしょう」


 エッダと観戦していると隣に銀髪の綺麗なストレート。顔立ちがまるで人形の様に整っている女の子が立っていた。


(・・・確か。去年クルトと対戦したって言う子だよな?名前は・・・リリーと言ったか)


「文官希望者がどうして武術大会に?」


 文官・・・確か国家機関に勤める者で軍部に就かない者たちの事だったはずだが、此処でも同じ意味なのだろうか、言葉が同じでも意味合いが前世と少し異なる場合もあるので、此処で言われる文官が同じかどうかは分からない。


 それに折角、教えてくれたのだから何かしらの反応をしなければ相手に失礼だろうと言う事で、無難な内容を尋ねる事にした。


「文官も国に仕える騎士同様の扱いになります。軍部とは異なり政治的なお仕事が主体となりますが、騎士になる際に大会での成績が優位になるのであれば、同じく文官にも参加したと言う事実があれば目を付けられる事が始まりです」


 おお。同じ年の子なのに内政についてしっかり理解している様子だ。


 確かに、兵士や騎士と言った者はこの大会で好成績を残せばかなり近道になると言う事は知られているし、知らなくても予想が出来る。どの国にも言えるが魔物や魔族などが人々を襲う世界であれば、国を守る者たちはいくらいても良い。


 更に付け加えれば、実力者ならなお嬉しいと言うものだろう。冒険者の方も初心者や中堅と言った冒険者は多いが、高ランクの冒険者は常に人手不足と言える。依頼書が張り出される場所にも低ランクの依頼と高ランクの依頼が常にあるのが現状だ。


 彼女の説明を聞き終える頃には、クルトの試合は終わりを迎えていた。


 クルトは試合開始の合図と共に一直線に正面にいた選手を体当たりで場外へ押し出す。そして左回りから次々に双剣で相手を攻撃して倒していた。まだ、加減の問題があるのかそれともハンデのつもりか分からないが双剣は共に鞘付きでの攻撃。


 鞘を付けている分剣速が遅いのにも拘らず一人でほぼ全員を倒すほどの力量は備わっている。と言うよりも相手が弱いのも原因の一つではあるが。


 最後の一人に向かって突撃するクルト。相手の目の前までたどり着くと、そこから一気に横へ跳び視界から姿をくらませる。慌てた選手もクルトを追いかける様に身体を捻るが、既に背中を取ったクルトは、双剣をクロスするように相手目掛けて振り抜く。


 鈍い音と共に最後の選手が地面に倒れた。


 その瞬間、観戦席から盛大な叫び声が会場内に響く中、クルトはそのまま闘技場を後にした。


 クルトが戻ってくると、手を上げてスタンバイしていたので、それに合わせる様にレオンハルトも手を上げてハイタッチをする。


「お疲れッ!!」


「おう・・・・って、どうしてあんたが此処にいるんだ?」


 レオンハルトの横にエッダ、その反対側には先程まで文官希望者が参加している理由を教えてくれたリリーの姿があったのだ。クルトは彼女の事をよく知っており、また彼女も同様にクルトの事を覚えている。


「お久しぶりです、クルトさん。前回の大会以来ですが、また一段と強くなったようですね」


 上から目線なのか、貴族だからこの様な話し方か分からないが、若干見えない壁がある様な距離感。お互いにライバル視している所があるため(あなが)ち間違えではないかもしれない。前回の時は実力に関して言えばほぼ同じ、偶々リリーの方へ勝利の女神がほほ笑んだそれぐらいの差でしかなかった。今はお互いに全力を出していないのでどちらが強いか分からないが、クルトが強くなった分間違いなくリリーも成長していると言う可能性が非常に強い。


 それにしてもクルトの奴。間違いなく彼女の事を敵視している節がある。まあ前回負けている分思う所が無いわけではないのだろう。


 クルトとリリーが途切れた話を再開し、リリーは特に苦にしている様子はなさそうだが、クルトの声はいつもより低く聞こえる。


 そこで、クルトが戻ってきた事で話の続きだった事を思い出したのだろう。文官が大会に参加するようになった理由の続きを話し始める。正直、この年齢でここまでの内容を聞けるとは思っても見なかった。


 内容としては、諸説あるのかの一つだそうで、元々文官に就く者はある程度の力も必要とされていた。文官に力とも思えるかもしれないが、各国が戦争を行っていた際は、文官よりも軍部に長けた者が出征をする。そして出征すればするほど政治的な事へも深く関わって来ていたし、何よりも経験や知識が無ければ話にもならない。


 しかし、戦争から徐々に魔物、魔族へと相手が変わるようになったことで、これまで同様に戦いはするが、これまで争ってきた者たちとの和解も進められ、貿易等でいつしか互いの国を支え合うようになったのだとか・・・・。


 これが事実かどうかは実際には分からない。同じような書類が存在しているし、同時に全く見当違いの書類も残されている。


 まあ、それが巡り巡って今の様な感じになっているのだから、結果的には良かったのだろう。


「話が変わるのですけれど、レオンハルトさんはその・・・腰から下げているカタナ・・・は、使用しないのですか?今日の試合は素手でお相手されていたものでしたから」


 リリーは、突然話をがらりと変えて俺が持つ刀を指さし訪ねてくる。純粋な疑問なのか何か裏があるのかまでは分からない。しかし、普通はそう言う言い方で訪ねてはこない。


 普通話の入りとしては、全員を相手に武器を使用しないとか、体術の方が得意なんですねなんて聞いてくるものだが、彼女は明らかに刀を使用しなかった事を疑問視しているかのように感じ取れてしまう。


「ええ。これを使う機会があるかもしれません。それに時と場合によって戦い方を変えますので、使わせて見せたければ本選まで来てください」


 彼女の実力なら間違いなく本選に出場できるだろう。そして、ほぼ仲間たちと同じレベルであるならば、愛刀の出番を当然視野に入れる。


 レオンハルトの言葉にこれまで凛々しい雰囲気を出していたリリーは、一瞬驚く表情をだし、すぐさま元に戻す。


「私もそのつもりでいます。では、改めて本選でお会いしましょう。・・・・それと、試合とは関係ないのですが、貴方は幼少期・・・・五歳前後の年齢の時は何処にお住まいでしたか?」


 質問の意図が分からないレオンハルト。リリー自身も何故この様な事を今聞いたのか内心焦っているが、聞いてしまった以上仕方がないので、彼の回答を待つ。


・・・・・


 しかし、レオンハルトは答えようとはせずに沈黙だけがその場の空気を支配した。普通の十一歳の子供であれば、何の疑問も持たずに返答していた恐れがあるが、精神年齢が前世と合わせれば四十歳代前後の彼からすれば、その質問の意図は何なのか、無意識に試行してしまう。それが沈黙と言う形になってしまった。だが、リリーはその沈黙に耐えられずに更に幾つか質問を加えた。


 森で魔物に襲われそうになった子供を助けた事があるか。その強さは何時からか等々。まるで何かを確かめようと言う感じの質問が多く。レオンハルトはその質問に曖昧な返答で対応した。


 実際、此方の世界に来てからの記憶はほぼほぼ覚えているが、細かい部分になるとちょっと怪しい部分がある。当時の事を言われれば鮮明に思い出すが、抽象的な事だと直ぐには思い出せないからだ。


 そして、強さが何時からかは最初から強いとは実感していないので、その系統の質問は無言だ。あとは、森で助けたとあるが、これが誰を指しているのか。


 あるとすれば、刀作成時イリード周辺で獣や魔物を狩ったり、アシュテル孤児院の子供たちがギガントボアに襲われた時、レカンテート村からイリードの街への行き来の道中ぐらいだろう。


 思い当たる節が多すぎるため、曖昧と言う形を取った。


「女の子二人を・・・」


 リリーの言葉を遮るように武術大会の司会役が全試合の終了を告げる。それは当然九ブロックから十六ブロックの試合ではなく、文字通り一ブロックからと言う意味だ。そして、後は各々解散するだけなので、俺たちも待ち人と合流するのでと言ってその場を立ち去る。


 彼女は少し残念そうだったが、まだ機会はあると皆に聞こえない様に小声で呟き、レオンハルトたちと別れた。


(何が知りたかったんだろうな?)


 レオンハルトは、仲間たちと合流するまで終始その事を考えていた。


「かんぱーい」


 ユリアーヌたち大会参加メンバーに観戦していたシャルロットたちと順に合流し、そのまま夕食を食べるため、リーゼロッテお勧めのお店に足を運んだ。


 仲間は全員初戦を突破。それも苦戦する様子もない圧勝を収めた者たちばかり、試合前から分かり切っていた事ではあるが、今は兎に角初戦突破の祝杯。各々、飲み物をオーダーして届くなり乾杯したのだ。


 リーゼロッテがお勧めするだけあって此処の料理も格別に美味しい。特にお勧めしたいのが、地鶏の香草焼きと小麦粉を練って平たく伸ばし、具材を載せて焼くピッツァに似た料理のピクツァーと呼ばれる物だ。特に地鶏の炭火のせが人気商品だ。


 飲んで騒いで楽しむレオンハルトたち。お店には似た様な連中も多く、この時期は何処のお店もこの様な感じに賑わう。大人たちもまだ戦っていないが、うずうずしている者も入る様で、別の店ではお酒で酔っぱらった参加者が興奮して暴れる事件も後に知った。











 レオンハルトが仲間と祝杯を挙げている頃、王都でも貴族しか入れない高級なレストラン、その一角で食事をする者たち。


「初戦突破おめでとうティアナ」


「リリーお前も、突破おめでとう」


 テーブルの上座に座る二人の男性。一人はティアナと呼ばれた女の子と同じ金色で、何処かのスポーツマンの様な短髪の彫りの深い顔立ち。王都の西地区を運営するフォルマー公爵家の現当主にして、アルデレール王国の現宰相をも務めるエトヴィン・ライムント・フォン・フォルマー公爵。そしてもう一人は、同席しているリリーと同じ銀髪の長髪で日本人と外国人のハーフ顔をした気品あふれる中年男性。彼もまた、フォルマー公爵家同様に王都の南地区を運営する貴族の一人で、勇者の子供としてその名を轟かせている。爵位は侯爵で名をリーンハルト・ツキシマ・フォン・ラインフェルト、ラインフェルト侯爵家の現当主。ラインフェルト家は代々内務的な役職に就く者が多かったが、現当主の父親、当時勇者として活躍された月島(つきしま)(はやて)と当時ラインフェルト家当主の娘が婚約して頭脳のみならず武術も嗜む貴族になった。現当主であるリーンハルトは、武術はそこそこ出来るが内務的な事の方が得意で、現在は財務大臣と務めている。


 そんな、国の重要人物が、自身の娘と食事に来て、今日の試合の結果を聞き祝杯を開いたのだ。


「お二人ともよく頑張りましたわ」


「ええ。自慢の娘たちです」


 上座の近くに座っているそれぞれの奥方、フォルマー公爵家とラインフェルト侯爵家は家族同士の仲が良く、昔から交流があった。それ故に、相手の娘も我が子の様に考える事がある。


「ありがとうございます。お母様、それにナターリエ様」


「はい、嬉しいですお母様。ありがとうございますマルティナ様」


 マルティナがティアナの母親にしてエトヴィン公爵の奥方、ナターリエがリリーの母親にしてリーンハルト侯爵の奥方だ。


 どちらも超が付く美人で、年齢もまだ二十代。年の離れたお姉さんでも通じるレベルの見た目だ。


 そして、大会での様子をそれぞれの親に報告。ついでにリリーは六年前の魔物襲撃事件の折に助けてくれたであろう少年を見つけたとの報告もする。しかし、飽く迄可能性があると言う事だけ伝える。決定的な証拠もなければ、彼だと断定できるだけの材料もない。唯一そう感じ取れるのは、髪の色が似ていると言う所と当初は、全く出回っていない刀と言う武器を持っていたと言う事だけ。


 前回大会にも刀を使う選手は居たし、今回も出場していた。それも以前よりほんの少し多くなっている。だからそれだけでは判断できない。彼自身が刀を使って戦えば多少実力も分かり、当時の剣筋と比較する事も出来るのだ。


 その件を聞いたフォルマー公爵とラインフェルト侯爵は、近いうちに時間を作り、その少年の試合を見る事に決まる。


(魔物に襲われたと聞いた時は肝を冷やしたが、それからか・・・・娘たちが剣術を習いたいと言ってきたのは。あれから必死に鍛え今では大会でも上位になれるほどの実力。その少年は当時から実力を備えていたとすれば、今の娘たちでも勝てない強さであろうな)


 親としては、どこの馬の骨とも知れない男ではあるが、助けてもらった事に対しての礼儀もしなくてはなるまいと考え、その晩フォルマー公爵とラインフェルト侯爵は、内々で謝礼に何をするか検討する事となった。


ここまで読んでいただきありがとうございました。


GWも半ば問う事で、休みの間にもう少しストックを貯めておきたいところです。

いかし、来週は親友の結婚式に呼ばれ、且つ初めての友人代表スピーチ・・・今から何は話すか文章を考えないと、それにサプライズプレゼントのイラストを描き上げないといけないので、忙しいです。

出来れば五月中に2話投稿できればと思っていますが、出来なかったらすみません。


今後も読んでいただければ嬉しいです。

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