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034 旧友との再会

今日で平成が終わってしまいますね。


皆さんはどんな平成だったのでしょうか。自分は、ライトノベルと言う物に出会い、読み手から何時の間にか書き手の方になっていました。


本職で中々執筆する時間が取れず、更新できなかった事を呼んでくださった方にはご迷惑をおかけしました。GWは10連休と言う快挙を得たので如何にか投稿できるだけのストックを作る事が出来ました。

 レオンハルトたちが王都アルデレートに訪れて三ヶ月半経過する。その間、基本的には冒険者としての活動、お店巡り、エルフィーが御勤めをしている教会にも足を運んだりした。残念ながらエルフィーは、別の地方にある教会にお手伝いに行かれ、戻ってくるのは武術大会が始まる前に戻ってくると言う事だったので、近々には王都へ帰ってくる。


 それと、スクリームの件に王都の冒険者ギルドから招聘(しょうへい)があり、当時の事を説明した。呼ばれたのは自分たちだけではなく。目撃した、迎撃した、何とか逃げ延びたなどスクリームに携わった冒険者たちが一同に集められていた。


 その中でも、自分たちともう一つのチームのみが魔族との接触及び目撃をしていたとの事。そして、迎撃に至った冒険者たちも極僅かでしかも(エー)ランクなどの高ランク冒険者たちしか討伐できていない状況。辛うじて低いランクながらでも迎撃出来たのは、自分たちのみで、その時はギルベルトがきちんと自分たちの実力を答弁していた。


 半信半疑の冒険者も多かったが、ギルベルトの言葉と彼のこれまでの積み重ねてきた冒険者としての功績、それに高ランクの冒険者たちが何も反論しなかった事から自分の事をきちんと評価してくれたようだ。


 その点については、ギルベルトに感謝している。まあ、冒険者ギルドに評価されても良い事ばかりではないので、実際はどちらでも良かったと言うのが本音ではあるが、それでも疑われるのはあまり好ましくない。


 それからは、チームへ情報量として対価が支払われ、公表するまでは内密にしておくように釘を刺された。後討伐したチームには、追加で弱点が無かったのかどうかなど、詳しく尋ねられたりもした。


 弱点らしき弱点は無く。攻撃を受けても痛みや怯んだ様子もなく襲い掛かってくるため、遭遇した場合は逃げる方が良いと伝えておいた。


「はい。依頼完了の報酬になります」


 今は、近々行われる武術大会の為に王都に残っており、まだ少し開催期間があるため簡単な依頼を熟していた。スクリームの件はそれ以来進展が無く。各地方の冒険者ギルドの支部長たちも再び自分たちのギルドへ戻り通常の業務を開始した。


 ギルベルトからも大会が終われば、またイリードへ戻って来てほしいと言われているし、ナルキーソの支部長にも偶然再会した。その時もギルベルトと同じような事を言ってナルキーソへ戻って帰られていた。


 だが、今回の件で初顔合わせとなった王都アルデレートの冒険者支部の支部長にして、アルデレール王国の冒険者ギルド統括責任者もしているマティーアス・フランク・ブリューゲル。今年で五十歳半ばと言う年齢にも拘らず、鍛え上げられた肉体や下位の者が震えあがる様な眼光、そして物事を素早く理解する状況判断能力に優れた人でもある。彼もまた元冒険者として名を連ねた人物で、冒険者時代の最高は(エス)ランクとして活躍していた。とある依頼がきっかけで片足を失い冒険者としての活動を引退されたが、それでも当初の面影は残っている。


 アルデレール王国の王都アルデレートであれば冒険者ギルドは普通本部ではないかと思うかもしれないが、冒険者ギルドの本部は別の国にある。その国が冒険者ギルド発祥の地とされているため、他の国々の首都にある冒険者ギルドはすべて支部とされている。正し、その国の中では一番権力がある事を示すために、その支部長に選ばれるものは、同時に統括責任者と言う役職も得る事になっている。


 そのアルデレート支部支部長のマティーアスにここ暫く、直々に鍛えてあげようなどと言う勧誘が後を絶たない。


 一度、模擬戦闘を行ってみたのだが、今の彼ではマティーアスに勝つどころか、引き分けにするのも難しいほどの経験の差があった。まあ彼も神明紅焔流で応戦したため、無様な負け方はしていないが、それでもこの世界に来て初めて負けらしい負けを味わう事になった。全力ではないにしろ本気で戦ったのは事実だ。魔法を使えばもう少し戦えたかもしれないが相手も同じ条件なので、あまり変わらなかった可能性も十分ある。


 その模擬戦で何かを見つけたマティーアスは、特に何もしていない時はしつこく声をかけてくる。


 だったら、冒険者ギルドに近づかなければ良いと言う事になるが、流石に王都に来て何一つ依頼を受けないのは余り宜しくない。それならば逆に依頼を沢山熟していれば「この後依頼主と打ち合わせが・・・」と言って断る事が出来るし、調べられてもそれが事実であることは直ぐに分かるため、依頼を多く請け負っている。


 今朝も魔物の討伐依頼を受け持ち、規定以上の魔物を狩って戻ってきたばかりなのである。


 依頼内容は、王都の地下にある迷路の様な地下水路。そこに生息しているグレイラットマンと言う魔物の討伐。討伐数四十匹とあり、依頼主はその地下水道を管理する団体から。まあ、この依頼はかなり定期的に張り出される物で、グレイラットマンと言う魔物はゴブリンの性質に似た特徴がある。それが繫殖力だ。ゴブリンは人などの女性をも子孫を残す道具として使うが、グレイラットマンは、基本的に同種の魔物としか子を成せない。その代わりに大量の子を作る事が出来るのと、成長が恐ろしく速い。


 定期的に依頼が出るのは、繁殖しすぎたグレイラットマンの数を減らす必要がある。その依頼を受けて合計二百を超える討伐を僅か六人の子供が行う。当初はギルド職員からも驚く事が多かったが、それもこの数ヶ月で慣れたのだろう。特に驚く様子はない。依頼自体も低ランク冒険者が受ける様な依頼なのでレオンハルトたちのランクが上がる様な事もなかった。正し、アニータだけはランクが一つ上がったが。


 報酬を受けとり、冒険者ギルドを出る前に依頼が張り出されている掲示板へ足を運ぶ。


「んー今日は依頼をしないにしても、残っている物は余り手を出さないほうが良い物ばかりだな」


 これで再びグレイラットマンの討伐依頼や王都周辺に出没する魔物討伐であれば受けていたかもしれないが、生憎残されているのは、数ヶ月の護送依頼に隣町への配達。王都内ではあるが配達数件もあった。この辺りは新人冒険者が行うものなので新人を終えた冒険者は手を出さないのが暗黙の了解となっている。まあそもそもうまみが無いので受ける冒険者も居ないが。それ以外は店の改修の手伝い、溝掃除、子供の子守りまであるが、これらは果たして冒険者の仕事なのだろうか。


 イリードやナルキーソにはあまり見かけない都市内での依頼も多くあるが、流石に手を出すつもりはない。これも新人向けの依頼であるからだ。


 それに護衛や護送などは、三日後に武術大会の受付開始を考えると手を出す者は殆どいないであろう。


 レオンハルトたちは、そのまま宿屋へ戻る事にした。因みに王都に来て以来ずっと同じ宿屋を利用している。流石に食事は王都商業区画にある飲食店で済ませる方が多くはなった。


 今回も同様に最近見つけた飲食店へ夕食を食べに行く事になったが、その前に宿屋へ戻り着替えを済ませる事にする。


 レオンハルトとダーヴィトは、今の服装でも構わないが、女性陣は冒険者として活動する時と普段とでは服装を変えたいらしい。エッダも何方かと言うとレオンハルトたちよりではあったが、皆に釣られて着替え分ける様にしたら今では完全にシャルロットたちよりの思考になっている。


 そのせいもあって、レオンハルトとダーヴィトも自室に戻り着替えを済ませて宿屋の入口で待つ事にした。まあ殆ど変わらないタイミングで女性陣も降りてきたのでそのまま外へ食べに出た。


「それで、大会に出るのは俺とリーゼ、ダーヴィト、エッダの四人で良いんだな?」


 近場のお店で注文を終えた一行は、料理が運ばれてくる間に大会について再確認していた。所有する武器毎に分けた大会ではなく言うなれば総合武術とも言えるこの大会。魔法は禁止の為、アニータの所有する武器は使用できないが、ごく一般的な弓を使用する者は参加する事が出来る。正し、大会の性質上かなり不利であることに変わりないが・・・。


 それに、近接武器が有利かと言われれば、その限りでもない。短剣と槍であれば、優位なのは槍と言えるしかしそれは懐に入り込まれなければと言う条件付き、槍術の技量が高ければ懐に入る事が出来ず防戦一方になってしまい結果短剣の所有者は負ける事になる。


 あとは、勝ち進む事で、試合回数が増え自身の試合感覚も狭くなる。最終的に残る場合、体力や精神力も求められる。武器も同様と言える。試合中の命の奪い合いは許されないが、武器同士で戦うため、互いの武器が衝突することはあり得るため、安い剣と頑丈な剣で打ち合えば安い剣は数撃で折れてしまう。それらの総合的な部分も大会に勝ち進む上で必要になってくるのだ。


「ええ。私とアニータは、観戦席から応援していますね。場合によってはユリアーヌさんたちと合流したらヨハンさんと三人で応援する事になると思いますが・・・」


 前回大会では、同郷で俺と特に親しい三人組のうち二人が大会に出場していた。槍を巧みに操り当時から俺と同等の実力を持ったユリアーヌと俺やユリアーヌより少し劣るが、素早さと反射神経を武器にトリッキーな攻撃を得意とするお調子者のクルト。この二人が前回大会でどちらもベスト四入りしていた。もう一人のヨハンに関しては、魔法を主として仲間の補助や援護などをするため大会には参加していない。


 この三人が今回も大会に来ると踏んでレオンハルトたちはこの大会に参加することにした。仲間のダーヴィトとエッダはそれに付き合うと同時に、自分たちの力試しに来ているが、それ以外に観光も兼ねていると言っていたので、今回は有意義に王都を満喫するつもりのようだ。


 まあ、観光はほとんど見て回ったので、これと言って行く場所もないのだけれど、それでもお店が多いためすべてを回ったわけでもないから、まだまだ観光と言えるかもしれない。


 それから、受付の開始日まで簡単な依頼のみを受け、当日は朝早く冒険者ギルドの近くにある仮設の大会運営所へ参加申し込みを行いに足を運ぶ。


 朝早くに出たと言うのに、既に冒険者ギルド周辺は大会参加者で溢れかえっていた。結局運営所に参加申し込みを済ませたのは昼間際と言う時間。普段からこんなにも人で溢れかえっているのか尋ねた所。今年は一般の部の方にかなり有名な人が参加すると言う噂が流れ、その選手と一戦交えたいと言う人物が多いそうだ。未成年の部は例年道理問題無いそうだが、一般の部は参加者が多いと少しスケジュールを見直す必要があるとも言っていた。


 誰が参加するのか非常に興味があるものの人の多さに流石にこれ以上聞けないという雰囲気になったため、断念してその場を離れた。


 申し込み時に色々とルールや仕組みを説明されたが、ある程度は予習していたので、変更点がないかだけ確認し他は聞き流していた。後は、予習では分からない細かい所は質問して聞いていた。主に前大会のユリアーヌたちがしていた内容を。


 人垣を如何にか抜けるとそこに見知った人物を目にした。


「ああ。すまない――――ってレオンか?」


「ん?ユリアーヌか?それにクルトにヨハンも」


 たった今申し込みを済ませたレオンハルト一行に、これから申し込みを行おうとするユリアーヌ一行。最悪大会時に合えるかなと思っていたらまさかの受付初日に遭遇する事が出来た。


 これには流石のレオンハルトも驚いてしまう。最近は常時『周囲探索(エリアサーチ)』を発動させているが、これだけ人数が多いと把握しきれない。万が一を考えて、悪意や敵意など此方に害をなそうとする者を把握する程度に抑えているぐらいだ。


「あー皆久しぶりです。元気にしてましたか?」


「お久しぶりです。皆さんの体調管理はしっかり管理していましたから大丈夫ですよ。ヨハンさんたちもお元気そうで良かったです」


 ヨハンとシャルロットがそれぞれ挨拶をする。その横では、クルトとリーゼロッテも同じように挨拶していたが、此方は少し砕けた感じの口調だ。リーゼロッテはまだ様になっていると思うが、クルトは完全に砕けすぎた口調。


 相変わらずと言ったところで、苦笑しているとユリアーヌから声を掛けられる。


 彼らはこれから申し込みを済ませてくるとの事で、良かったらその後にでも会って話をしようとのお誘いだ。それ対、此方もこの後の用事もないため、ユリアーヌのお誘いを受け入れ、ついでに話をするならどこか良い場所をと言う事で、待ち合わせ場所を決め別れた。


 それから待ち合わせ場所で待つ事半刻。思いのほか早かったことを三人に伝えた所。昼からは少し受付に行く人たちが減るらしい。


 前回はそれを知らなかったが、申し込み後に他の参加者と軽く雑談した折に教えてもらっていた内容だ。それを元にして今回昼頃に申請を済ませに来ていた。


 近くにある喫茶店入って飲み物と軽食を注文した。


「それにしてもアニータまで合流していたんだな。あとそっちは初めましてだな。俺はレオンハルトたちと同じ孤児院で育ったユリアーヌと言う。こっちは仲間のクルトとヨハンだ」


「クルトって呼んでくれていいからな」


「全く相手は僕たちよりも年上なんだから、もう少し言葉に気を付けないと・・・僕は、ヨハンと言います。主に補助と魔法による援護を担当しています」


「三人ともよろしく。俺はダーヴィトだ。レオンハルトとはある魔物の討伐の折にチームを組ませてもらって以来ずっとお世話になっている。年齢はユリアーヌとほとんど変わらないから、言葉使いも気にしなくていいぞ」


「ユリアーヌさんとクルトさん、ヨハンさんですね。私は彼とパートナーを組んでいるエッダって言うの。私の方も言葉使いは気にしなくていいわよ。これからよろしくね」


 ユリアーヌたち三人とダーヴィトとエッダがそれぞれ自己紹介を済ませる。エッダがさん付けをしていた事にユリアーヌたちは呼び捨てにしてくれて構わないと言ってくれたため、呼び捨てにする事になる。


「それにしても、レオンは仲間が多いな。こっちは三人だっていうのにさー」


 クルトたちは相変わらず三人で行動しているようだった。まあ、その後話を聞いていくと固定しているのは三人で場合によっては、一時的に他の冒険者と一緒に行動したりするらしい。ただし、ユリアーヌたちも年齢的に言えば若く、成人していない冒険者は基本、新人冒険者同士で組むか大きなチームを組んでいる所へ入って下働きが関の山。


 彼らも新人冒険者と組んだりするが、実力が違いすぎて付いて来れず、結果一時的に参加と言う形になってしまっていた。ならば大人たちと組めばいいと言う風になるが、そこは冒険者と言え一枚岩ではない。寧ろ、瓦礫と表現できるだろう。何せ自分よりも年下で実力があると足を引っ張ろうとする者や脅して扱き使おうと目論む輩も少なからず居る。


 その結果、彼らは三人で基本行動しているのだそうだ。レオンハルトは、権力のある者と少なからず繋がりを築けた上に、実力もずば抜けている事から手を出そうとする輩は殆ど現れなかったが、ユリアーヌたちの実力だと逆に寄ってきやすいのかもしれない。


「そう言えば、アニータは何時レオンたちと合流したんだ?一緒に行動するとは思っていなかったからさー」


 確かにと言いたそうにユリアーヌやヨハンもアニータへ視線を向ける。


 急に自分へと話題が降られた事で、焦っていた所姉であるシャルロットが助け舟を出す。


「孤児院に用事があって行った時に、アニータの進路について相談されて、色々と将来の事を迷っていたから、色々見て回る事も含めて一緒に同行する事にしたの」


 シャルロットの言葉に頷いて意思を示す。


 それから暫くは、アニータやダーヴィト、エッダたちの話。お互い孤児院を出てからどうしていたのか等話していると気が付けば辺りが薄暗くなり始めていた。


 飲み物も何度かおかわりをしたが、流石にこれ以上長居をするのはお店に申し訳ないので、此処でお開きにする事にした。


 レオンハルトがこの場の会計を一括で支払うと共に、店員にこっそり長居してしまった事へ謝罪も含めて少し多めに支払った。


 ユリアーヌたちは、自分たちの分は自分たちで払おうとするも此方の方が、明らかに人数が多くその分飲食代高い。誰がどれだけ食べたか分からないので、此方で受け持つようにした。


「すまない。ご馳走になった」


 ユリアーヌたちから礼を言われ、宿泊場所が何処なのか聞いた所、自分たちが泊まろうとした二つの宿屋のうちの一つ、赤いサンダルと言う宿屋に宿泊しているとの事。


 大会が始まるのは七日後、締め切りが今日から六日間ですでに此処に居る参加希望のメンバーは申し込みを済ませている。後は、基本的に体調管理や武器のメンテナンス程度だが、それらも普通にしていれば気にする事は無いので、明日も会う約束をしてそれぞれの宿屋に帰った。


 夕食は、中途半端に軽食を挟んだためかお腹がすく事は無かったので、買い置きしていた屋台の物で簡単に済ませた。


 自室に戻ったレオンハルトは、ベッドに横になると徐に先程聞いた話を考える。


 それは、ユリアーヌたちが二ヶ月前に遭遇した謎の生物。それは生物と言えるのかさえ怪しい何かだと話していた。冒険者ギルドにも報告をしているらしいが、それ以降目撃情報がない事から単なる見間違えと言う結果に終わったらしい。


 だが、魔族やスクリームなる人を変質させた生き物を見てしまったレオンハルトからしたら、何か嫌な予感を覚えた。


(黒く粘着性の生き物・・・・・オーガ並みの脅威を持つスライムの類か?だが、魔物図鑑で調べたスライムと類似している部分が殆ど見られない。新種若しくは変異種・・・いずれにせよ注意しておくに越した事はないな)


 俺自身は、ユリアーヌたちが見間違えるとは思っていない。それに彼らも一応、魔物図鑑で調べたようだが、それらしい魔物は見つからなかったと言っていた。恐らくアルドレール王国周辺にいない魔物のであればよいのだが、魔族が絡んでいた場合非常に厄介だ。


 後、スライムは一般的にゴブリン同様に下級の魔物として有名だが、この世界のスライムは、オーガと同等に位置する非常に手強い魔物だ。


 特に物理攻撃に対してはかなり有利で、殆どの攻撃は意味をなさない。それどころか悪化させる事にもなりえる。


 剣で一刀両断するとスライムが分裂して二匹になる。それをまたそれぞれ斬ると二匹が四匹に、六匹、八匹と分裂していき、細切れなんかにした時は一気に数十匹から百匹近くに増殖する。スライムの持つ無限増殖と言う固有能力が冒険者たちを苦しめるのだ。


 対処法は、魔法で分裂スライムを焼き払いつつ、核を所有するスライムの核を破壊する必要があるが、核を破壊するのにも表面を覆うスライムのジェル部分を剥がし、核を攻撃しなければいけない。また、核も核でかなり固く。破壊するのに苦労する。


 攻撃も中々の物で、物理攻撃は強くはないが弱くもないが個体によって大きく異なるらしく、強い個体であれば、自身の身体を鞭の様に伸ばし槍の様についてくる。そして、強固な鎧ごと貫いて来るそうだ。また動きが鞭以上に変則的の様で防ぐのはかなり経験を積んでいないと対処できない。


 その観点からスライムはかなり脅威とされている。まあ、性格は割と温厚なので、余程の事でもない限りはスライムから攻撃してくることは無い。


 まあ、そのスライムでもないとするとユリアーヌたちが目撃した黒く粘着性の生き物が何なのかと言う所に戻る。


 実際に目撃しただけで戦っていないので、どれぐらいの脅威かまでは分からないとの事だが、動いていたので襲ってくる可能性も十分にあり得ると話していた。


 魔族にスクリーム、黒く粘着性の謎の生物、どうも今後の行動に大きく関わってくるのではないかと思えてならないが、考えても判断するだけの情報も材料もないので、気に留めておくだけにした。


 それと、今回の大会で一般の部の参加者が多い理由も分かった。


 元々参加できない事もありそれ程興味がなかったので調べていなかったが、どうやら参加者に勇者一行が紛れ込む噂があるそうだ。どの勇者かまでは分からないし、実際に参加するのかも不明。この噂も何処まで信じていいのか分からない。


 自分が仕入れた時は、かなり有名な人が参加すると言う事。その人が相当な腕の持ち主と言う事だろう。有名の人が勇者と言う線もあるかもしれないし、ないかもしれない。実力も確かに勇者であれば相当な力を持っているが、数少ない(エス)ランク冒険者も相当な実力者と言えるだろう。


 結局は、誰か有名な強い人が参加する可能性があると言う事だろう。


 考えていたらそこそこ遅い時間になっていたので、この辺りで休む事にした。











 レオンハルトたちとユリアーヌたちが出くわして数日。今日は、アルドレール王国の中でも大々的な行事の一つ、武術大会の開催日。例年変わらずコロッセオ周辺は、色々な屋台に武器防具、薬屋などが道の両脇に入る隙間が無いぐらいの間隔で出ていた。


「よっ!!そこの兄ちゃん。良い武器があるぞ。見て行ったらどうだ?」


「さー買った買った。この果物は、かの有名な剣士ローデンヴァルトが試合前に必ず食べていたと言われる素晴らしい果物だぜー。試合に参加する人は是非買ったほうが良い」


「この腕輪は――――――」


 賑わいが凄すぎて圧倒されてしまう程の人混みに熱気が込められた商売声。中でも目を引いたのが・・・。


「さー槍使いは、この武器が良いと思うぜ。前回大会の未成年の部で惜しくもベスト四で終わってしまったが、あの優勝者と渡り合ったユリアーヌ選手と同じモデルの槍だよー。これを使えば君も彼並みに強くなれるぞー」


 ああ。まるで詐欺だな。親友の名前が出たからどんな物を売っているのかと思えば、ただ単にユリアーヌの持つ槍に似せて作った贋作。それも武器を持つだけで強くなれるとか、あまりにも馬鹿々々しくて逆に面白くある。


 当の本人は、特に気にした様子もない。恐らく前回も似た様な感じで誰々の武器と同じとか言って売っていたんだろうから。


 これだけを見ると上位に入りたくはないな。そもそもユリアーヌたちと出会えるようにするために参加しているのだから、既に目的もたってしている。


 後は試合で、皆がどれだけ強くなったのか実際に戦う程度だ。早めに当たれば後は棄権か何かして終われば良いかな・・・。


 コロッセオの所にたどり着くと、参加者と観戦者に分かれる様で、俺たちはシャルロットたちと別れ控室に向かう。


 まずは、予選がそれぞれブロック毎に行われ、そこで勝ち抜いた十六名が本選に出場できる。本選に勝ち残るだけでも相当の実力と運が無ければ勝ち上がれない。何せ未成年の部だけでも参加者は五千人超えをする大規模な大会だ。予選の上位に入り込めるだけでも、周囲の人たちからは称賛を浴び、兵士などへの入団もしやすいのだ。


 だから、そんな中でベスト四に入り込んだユリアーヌとクルトの人気は高評価と言える。


 実際に、前回大会優勝者の少女や準優勝した少女の商品は飛ぶ様に売れているし、先程のユリアーヌの武器に模した槍はそうでもないが、他の商品は割と売れている感じだ。クルトの商品もあり見つけた時は、笑いをこらえる事が出来ず、盛大に噴いてしまった程だ。


 まあ、お前も同じような事になるぞと言われた時には、参加を棄権しようかと本気で考えてしまうが、ユリアーヌたちと戦う楽しみともう一つ別の目的もあり、棄権する事はしなかった。


 と言うよりも目的と言って良いのか悩ましい。何せ大会前日にシャルロットから余り負けた姿を見たくないと言う風な言葉を掛けられてしまった。そんな事を言われてしまったら、ある程度は成績を残さないと不味い。それこそ手を抜いて負けましたと言った日には、どう会えばいいのか分からなくなる。


 ユリアーヌたちがベスト四に入れる程度なので、逆に手を抜きつつも醜態を曝さない様にする微妙な力加減が一番大変なのかもしれない。


 列に並んで自分たちの番が来たところで、抽選を行う。これで自分がどのブロックで戦うのかを分けていた。


 ダーヴィトは第二ブロックでエッダが第十一ブロック、レオンハルトは第十四ブロック、リーゼロッテは第八ブロックとなっている。ユリアーヌは第五ブロックでクルトが第十六ブロックなので、仲間同士で当たるとすれば本選まで勝ち残る必要があった。


「ものの見事に分かれてしまったな」


 五千人いる参加者の中で十六分割して此処まできっちり分かれるとは誰も思っていなかった。二、三人は同じブロックになると考えていたのだが、どうやらこの中に引きの強い者が居るのだろう。


 控室は第一ブロックから第八ブロック、第九ブロックから第十六ブロックに分かれているため、ダーヴィトとユリアーヌ、リーゼロッテとは違う控え室となった。


「また、後で」


 互いの健闘を祈りそれぞれ分かれて指定された控室に向かう。健闘するレベルの対戦者が身内に居るのかはさておき、俺は前回参加した時に強かったと思われる人物が居ないかクルトへ尋ねると、此方側の控室には前回準優勝をした選手が別ブロックではあるものの参加しているとの事。それと、本選出場した顔ぶれも居るようだが、本選初戦負けなどでそれもクルトやユリアーヌが倒した相手との事なので、脅威になりえない。


 それでも、一般参加者に比べればそこそこ実力はあるのだろう。若しくは運が良かったのか、当たればそのあたりも分かるであろう。


「なるほどねー注意しなければならないのは、あの準優勝者のリリーって選手だな。クルトに勝利したんだからそれなりの強さは持ち合わせているのだろう」


 前の時の話では、上位四人の力は殆ど差が無かったと聞く。実際はクルトとユリアーヌでは、ユリアーヌの方が強いのだが、そのあたりは本人の調子や相手の状態によって変わってくるので、その時は皆同じレベルだったのであろう。


 それにしても控室にはかなりの人で溢れかえっている。それも人族だけではなく獣人族、亜人族もかなり参加しているようだ。人族でも肌が白っぽい白人の様な人から褐色の者までいるし、獣人族はそれぞれの獣人によって姿かたちが異なる上に、人よりの獣人なのか、獣よりの獣人なのかでもかなりの者が参加していた。


 パッと見ただけでも二十を超える獣の種類があるようだ。基本的には犬、猫、狐、虎、羊と言った獣人だが、変わった種族だと河馬(カバ)馴鹿(トナカイ)の獣人が目に入る程度、此方でこうなのだから、ユリアーヌたちも同じような感じなのだろう。


 亜人族はドワーフやエルフと言った種族も見かける。子供のドワーフは大人のドワーフと体格が大して変わらない。どこで判断するのだろうか。違いをあげるとしたら、少しばかり幼く見えるのと髭が薄っすらとしか生えていない事だろう。この年齢で逆に髭があると違和感しかないなと思いつつドワーフの事から違うものへと思考を切り替える。


 エルフはドワーフとは別の意味で異質。長命種としても知られるその存在は、人との時間の感覚が違う、人が成人するのは十五歳だが、エルフたちの成人は五十歳からだ。だから未成年の部に参加してくるエルフは、彼らからしたら赤子のような存在。


 身体の作りは人と同じなのだが、異なるのは精神年齢が幼い。まあここで言う幼いとは幼稚という意味ではなく。恐れを知らず好奇心旺盛で、いろいろな事に新鮮という事。無鉄砲な部分も多少あるから少しは幼稚な部分もあるかもしれないが。


 開会式を終え、早速それぞれのブロックで試合の準備を始めた。


「さあー今回もこの時期がやってまいりましたー。皆さーん楽しんでいますかー」


 とても元気な女の子と呼べばいいのか女性と呼べばいいのかわからない位置の彼女が、とても眼を輝かせながら、熱の籠もった実況を開始する。


「さて、今回はどの様な試合をみんなに見せてくれるのだろうか、注目はもちろん前回大会優勝者のティアナ選手。彼女がこの大会に今回も参加している事は、先程トーナメント表を確認して来ました。今回優勝候補筆頭としてこの大会を盛り上げ、二連覇を成し遂げるのでしょうか。はたまた、前回準優勝で終わってしまったリリー選手が、優勝をするのか。僅差で負けてしまったユリアーヌ選手やクルト選手がそれを阻むのでしょうか。今回は前回以上に期待をしております」


 一人だけ可燃物でも着込んでいるのかの如く燃え上がるが、その熱意は見物に来ていた観客たちにも飛び火して一気に会場内が盛り上がった。


 司会進行役としては打って付けなのだろうが、まだ一試合も始まっていない段階から全試合までこのテンションで進むのはかなりしんどいのではないだろうか。


「それにしても、自分の試合が来るまでずいぶんと時間があるな」


 多くの参加者が試合に出れると言うメリットがある反面、その分試合回数が多くなり自分の番まで回ってくるまでかなり時間を有する。戦い前に精神統一何かをする者にしてみたら試合の流れで時間が変動するので、難しいのではないかとさえ思う。


 そういう意味では、レオンハルトを始め、彼らの仲間たちは試合前に精神統一をしたりはしない。まあ、あくまでこの大会に限る。流石に強者相手であれば、時と場合によって行うかもしれないが。この場で脅威と成りそうなのは殆どいないからだ。


 それに、彼らからしたら、半分本気だが残りは、ちょっとした実力試しみたいな部分もある。日頃から、魔道具や支援魔法、魔法などで自身の力を強化している者は、それらが無い状態で何処まで通じるのかそれを知るには打って付けの舞台。


 幾つか試合を眺め、気が付けばエッダの試合となっていた。


 最初の一回戦はどの試合もバトルロイヤル。エッダを含め十名で試合を行いその中の勝者一人が二回戦に進む事が出来る。気を失わせるか、降参させるか、リングアウトつまり闘技場となる場所から出ても負けとなる。


 バトルロイヤルは、自分が戦わなくても敵同士で相打ちになる事もあり運でのし上がる人もいる中で、強者と分かって居る場合は、最悪自分以外の者が全員で挑みに来ると言う事もある。エッダがどの様な策で戦うのか少し楽しみでもあった。



明日から令和ですので、明日も朝から更新するようにセットしておきました。

今後とも宜しお願いします。

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