033 王都アルデレート
あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
早速ですが、先月のクリスマス及び大晦日用の出来なかったので、今年は出来るだけ、それぞれの祝日に合わせた内容を盛り込んで投稿出来たらなっと思います。
とは言っても、今回は正月用ではないので、いきなり発言と違いますが、大目に見ていただければ幸いです(苦笑)
王都アルデレートまで残り僅かと言う距離で、休息をとるために立ち寄った集落。
そこでは、魔物の大群が集落を襲っていたため、同行していた冒険者たちは集落に住む人々の救出と魔物の駆逐の為、各々武器を手に突撃を仕掛けた。
如何にか集落に住む人々を救出する事が出来たが、救出に間に合わず命を落とした者もかなりいた。そんな中、集落で暴れる魔物をシャルロットとアニータが討伐に、襲撃してくる森の辺りにいた、この集団の主力とも言えるレッドオーガ、イエローオーガ、ブラックオーガの三体をギルベルト、レオンハルトがそれぞれ個々に戦闘を始め、ブラックオーガをリーゼロッテ、ダーヴィト、エッダの三人で対処する。
レッドオーガの猛攻に如何にかこれまでの経験と技術、勘で対処していたギルベルトとイエローオーガの攻撃を意図もたやすく捌き、高い防御力をどう攻めるか考えながら相手の情報取集をするレオンハルトの二人。
お互いに相手との差は大きくないどころか、レオンハルトに関して言えば、明らかに余裕すらある状況だが、一方でブラックオーガを相手にしていた三人は、エッダの強烈な一撃を与えた事が引き金になったのか、ブラックオーガの得意な速度を生かした戦い方に、建物などを使用した立体的な高速移動と連続攻撃の猛威に晒されてしまった。
防戦一方となっている三人の上空を一人の人物が助太刀に入り、ブラックオーガの行く先を予測し、先にその場所に攻撃を仕掛ける。
「これ以上好きにはさせない」
アニータの魔導銃による連続攻撃は、ブラックオーガの動きを封じ、数発ではあるが魔弾を直撃させる。
『フライングアサルト』と言う立体的な動きを行う高速連続攻撃の連続攻撃を封じられたブラックオーガは、封じた人物を建物から建物へ移動しつつ観察した。
アニータは、移動を優先させるブラックオーガの速度について行くのがやっとの状態になるが、その分リーゼロッテたちへの攻撃が止んでいる事を理解し、もう少し自分に引き付けるため攻撃を続ける。
(早くて一発一発を当てることができない・・・それに、私では今ので精一杯だし、そもそも、出し惜しみして勝てる相手でもない。だったら・・・・)
両手に持つ魔導銃の残りの魔力を確認して、そのまま一気に畳みかける。数発ずつだった攻撃が、魔力を惜しみなく使用する事で、数十発連続で撃ち続ける事が出来、アニータはその手段に切り替える。
――――ッ!!
まるで止まる事のない連続攻撃。ブラックオーガもそれをいっそう警戒してか、回避に専念し始める。大抵の魔物であればこのあたりで引いたりもするだろうが、ブラックオーガは魔物の中でも脅威の分類に入る。そんな魔物が、小娘一人に尻尾を巻いて逃げるわけにはいかないと本能的に察していた。
オーガに尻尾はないが・・・。
格下に追い詰められるのが特に嫌う傾向があるのは、間違いではない。
その証拠に、弾倉を交換するタイミングで、一気に上空にいたアニータ目掛けて跳躍した。
それを確認したアニータは、不味いと判断し咄嗟に乗っていた飛行する板を盾の様に自分自身とブラックオーガとの間に割り込ませる。
本来であれば、ブラックオーガの攻撃力が幾ら低くともその程度の魔道具は粉砕した挙句相手を殺せるだけの力は持ち合わせている。しかし、その魔道具の制作者はレオンハルトだ。当然、そんな軟な魔道具は作らない。
飛行する板は、見事にブラックオーガの攻撃を防ぐ。しかも絶妙な角度を付けていた事で、ブラックオーガの突進してくる方向を少し上へ受け流した。
結果どうなるかと言うと、アニータの上を通り過ぎる様になる。突進の攻撃の半分近くの勢いを殺した挙句、空中と言う逃げ場のない状態に、互いの位置関係。これは攻撃をしてくださいと言っている様なもの。
アニータの両手に持つ魔導銃が、それぞれ火を噴いた。弾倉の交換は既に終了している。よって遠慮なしに撃ちまくる事が出来るのだ。
命中した割合は五割から六割程度だったが、それでも十数発は腹部や胸部、顔面等を中心に攻撃を当てた。だが、あくまでも低級レベルの魔物を一撃で倒せる程度の威力。オーガのそれも亜種となると、その攻撃力では軽く殴られた程度にしかならない。
(やっぱり、威力不足になる・・・・・だったら、これで)
交換したばかりの弾倉の魔力量を一気に消費させて、強烈な技を繰り出そうとする。
姉であるシャルロットも使用している魔法で標的目掛けて追尾する魔弾。それを魔導銃で再現させる。
この半年でシャルロットからかなり教え込まれた魔法の使用法でもあり、今のアニータにとってはここぞという場面で使用する必殺技でもある。
何せこの魔法は、魔力消費が非常に高く。おいそれと使用できない。しかし、それを承知の上、決断し素早く行動を起こした。
ブラックオーガが空中にいる数秒間で魔法完成させ、半壊仕掛けている民家に着地すると同時に魔法を発動する。
追跡する無数の魔法の弾は、ブラックオーガ目掛けて撃ちだされるが、それを察知していたかのようにブラックオーガも着地と同時に上空へ逃げる様に跳躍する。
普通の魔法であれば、先程までブラックオーガが居た場所に命中して終わりだが、これは追跡型。標的が逃げればそれを追うようにイメージされている。
ただ、即席のイメージでもあったため、制御が甘く二発ほどは建物に衝突してしまい消失してしまったが、残りはきちんとブラックオーガへ向かうよう軌道修正していた。
「ギギッ!!ギギギッ!!」
まさか自分に向かって来ると予想していなかったのだろう。ブラックオーガは、残りの弾全てをその身に受けてしまう。直撃と共に辺り一面を爆音が響き渡り、視界は煙に覆われた。先程までとは威力が段違いの魔法弾を十数発直撃させたのだから、ブラックオーガも多少なりとダメージを受けている。そう判断したのだったが、それは考えが甘かった。
幾ら、攻撃力や防御力が他の亜種と異なっていたとしてもオーガの亜種であることには変わりはない。そして、アニータの攻撃は確かに傷付ける事には成功したが、致命傷になりそうな傷は無かった。
「・・・・え?」
アニータは、未だ空中で姿勢を崩した状態。辛うじてブラックオーガが攻撃を受けた場所を正面から見える位置に居るが、それが余計に彼女を絶望へと誘う。
ブラックオーガはアニータの攻撃で傷付きはしたもののそれを利用する形で自身へ軌道修正して襲ってきたのだ。
――――ッ!!
誰もが間に合わないと判断したその瞬間。
ブラックオーガの背後から奇襲を仕掛ける様に燃える剣を上段構えから垂直に一閃する。その攻撃によりブラックオーガの真ん中を境に左右へ分断される。
「間に合ってよかった。大丈夫?」
ブラックオーガを一閃した後すぐさま空中でアニータを捕まえて着地する。
「うん。大丈夫・・・ありがとうリーゼ姉」
アニータを助けたのは、リーゼロッテだった。彼女は、ブラックオーガの注意がアニータへ向かった瞬間にダーヴィトへ指示を出し、自分を打ち上げる様言った後、彼女の持つ剣に炎を纏わせた。
そして、彼女の魔法が直撃し煙で視界が失われたタイミングに合わせて上空へ打ち上げてもらった。此方から視界で捉える事が出来ないと言う事は、向こうから此方を捕える事も難しい。視覚以外で感知する者には効かないが、ゴブリンやオーガなどは視覚や聴覚で判断するため、煙で死角が失われれば、奇襲も仕掛けやすい。
なら、視覚を失った状態で、ブラックオーガはアニータ目掛けて軌道修正が出来たのか。それは単純に魔法が直撃する前に目視にて確認していたからだ。逆に言ってしまえば、あの場面でアニータが追撃してくるブラックオーガに対し、次の一手を打っていれば、普通にカウンターとして更にダメージを与えられたが、それだけの経験を彼女はまだ積んでいない。
何はともあれ、リーゼロッテ、ダーヴィト、エッダ、アニータの四人でブラックオーガを討ち取る事に成功した。
一方、イエローオーガとレッドオーガを相手にするギルベルトとレオンハルトは、彼女たちがブラックオーガを討伐した事を一瞬視線で認識し、すぐさま目の前の強敵を相手に剣や刀を振るった。
攻撃に特化したレッドオーガに、防御に特化したイエローオーガ。
ギルベルトは、一撃でも貰えば致命傷は避けられない為、攻撃を避けながら反撃するため、此方も致命傷になる攻撃を与えられずにいた。
レオンハルトもまた、相手の硬さに余り刀での攻撃が通じない事を実感する。
「お前も凄いが、仲間もかなりの腕だな」
回避に専念しながら、レオンハルトに声をかけてくるギルベルト。レオンハルトはそれに答える。
「ええ。皆で強くなるために鍛えましたから」
言葉からも伺えるが、レオンハルトは余裕とすら感じられる。それに内心驚くギルベルトだが、目の前の敵に集中し直した。
(そろそろ、片づけたほうが良いかな。倒すなら一度に済ませた方が良いな)
斬撃が効かないイエローオーガに対して有効な打撃。防御力の低いレッドオーガは斬撃でも十分に倒せる。そう判断した瞬間に右手に斬撃用の愛刀雪風。左手に練習用の打撃に特化した刀を持つ。練習用と言っても刃を潰し、強度に特化した切れない刀。
本来の使い方は、強度を重視した分重さがあり素振りには最適な事と模擬練習の時などに使用する事が多いが、打撃系が有効な場合は、武器として使う事もある。
「ギルベルトさん。レッドオーガをイエローオーガの近くへ誘導してください。二体が横並びになったら、すぐさまその場を離れて」
そうして、レオンハルトはイエローオーガをその場に留めるために連続で攻撃を繰り出す。
繰り出す斬撃と打撃による攻撃でイエローオーガは、成すすべもなくその場にとどまる事になり、それに合わせるかのようにギルベルトがレオンハルトの指示通り、レッドオーガと自身の傍へと誘導した。
「此処からどうするつもりだ!?」
ギリギリの所で避けていたギルベルトから声がかかり、その場を離れる様に伝えた後、レッドオーガの意識を此方に向けるため数発の魔法の弾を放った。魔法はレッドオーガの顔面に直撃し、それで更に怒りを爆発させたのか、その場で大暴れし始める。
頃合いを見計らったように一旦二体のオーガと距離を取り、二本の刀を構える。
そして、次の瞬間・・・レオンハルトの姿が一瞬で消える。
正確に言えば消えたのではなく、脱力状態からのノーモーションに加え超加速にて移動しただけの事だが、それを知らない者にとっては消えたようにしか見えない。現にこの速さを追う事の出来る者はシャルロットのみで、リーゼロッテとダーヴィトが辛うじて見えるか見えないかと言うレベル。エッダは、見えないが、推測する事が出来る域に居て、アニータに関しては理解すらできていない。
ギルベルトも初見の為エッダと同じレベルだが、理屈と慣れがあればリーゼロッテ程度には直ぐに理解できるだろう。
そんな一瞬で消えたかのような動きで、二体のオーガの元へ向かうとすぐさま、両手に持つ刀を渾身の一撃の如く一刀両断する。それぞれの攻撃ポイントは首で、雪風によって首を跳ね飛ばされたレッドオーガ。切れない刀で首に向かって入れた一撃はイエローオーガの首をへし折る事に成功し、一瞬で二体のオーガ亜種を討伐する。
そして、何食わぬ顔で二本の刀を帯刀した。
「・・・・・・」
ギルベルトは、これまでレオンハルトの実力について驚きばかりだったが、今日ほど驚いたのは初めて出会った時以来である。
ベテランの冒険者でも数人がかりで倒すような魔物を一人で二体を秒殺したのだ。秒殺と言うのは言い過ぎかもしれないが、それまでの戦闘は全力でなかった事は、承知していた。しかし、これほどまでの実力者だとは想定していなかったのだ。
とは言っても、レオンハルトにしてはまだ序の口レベルではあるので、驚くような事でも気にする様な事でもなかった。
「後は回収して・・・・壊れた家はどうするかな」
レッドオーガとイエローオーガの死骸をそのままにしておくと傷んでしまう為、取り敢えず魔法の袋に収納。王都の冒険者ギルドで参加者たちと分配する予定だ。リーゼロッテもブラックオーガを回収、シャルロットやダーヴィトたちは、ゴブリンなど街中至る所に転がっている魔物の死骸を回収していった。住民の死体は、広場の様な所に移して、布で覆う。
アニータには、避難している住民たちやその護衛している冒険者に戦闘が終了した事を伝えに行ってもらう。
壊れた家もそうだが、これ以上魔物が周囲に居ないか確認する必要もあり、レオンハルトは、常時探索魔法を発動させた。
今は居なくとも、この周辺は魔物や人の血の臭いで充満している。その血の臭いを嗅ぎ付けた獣や他の魔物が襲ってくる可能性は十分にあり得る。
「今日は此処へ一日泊めさせてもらう予定だったが、最悪もう一泊して方が良いかもしれんな」
俺はギルベルトの言葉に同意する。
町と呼べるほど、住民はおらず、面積も狭い。レカンテート村と同等かそれより少し広い程度。そんな場所が、住民の多くを魔物に殺され、建物は殆どが半壊かそれより軽いぐらいだが、魔物が最初に攻めてきた場所の建物は、全壊している家もあった。
復興には人手と時間がかかる上、金銭的にもかなり厳しい状態になっている。
「此処の住民が戻ってきたら、まずは亡くなった人たちの確認からだな」
「なら俺たちは、その間に他の冒険者と共に周囲の警戒、他に亡くなった方が居ないかの捜索、炊き出しの準備あたりに分かれて行うようにする」
レオンハルトが、敢えて生存者の捜索と言わず亡くなった方の捜索と言ったのか。それは、既に魔法で探して生存者が居ない事を把握していたからだ。後は全壊か半壊して埋まっている可能性がある死体を探していない程度なので、そこまで人数を割く必要もない。
炊き出しの方も経験があるので、段取り良く行えば暗くならないうちに全員分用意できると考えている。メニューに至っては、悲しみのあまり食べられない、食べる意欲がない、などを考慮し、スープをベースに消化の良い品にするつもりだ。
「ああ。すまんな。王都に着いたら今回の依頼とは別に色を付けてもらえるように王都支部の支部長に伝えておく」
ギルベルトとの簡単な打ち合わせを行い終えた所で、避難していた住民や護衛していた冒険者が到着。冒険者にはそのまま完全に死体を移動できていない事を伝え、其方の応援に行ってもらう。魔物の死骸は、九割近く回収していたので、残りをダーヴィトに任せて、シャルロットとアニータには炊き出しを、リーゼロッテとエッダには、周囲の警戒に当たってもらう。
(・・・・・さて、俺は・・・・)
仲間に指示を出して亡くなった人たちの元へ向かう。
冒険者たちだけではなく、住民の男衆が手伝ってくれたこともあり、死体を集め終わるのが予定よりも早く終わった。冒険者はそのままギルベルトが指示を出し、死体捜索に数人、後はシャルロット、リーゼロッテの元へ行って炊き出しや警戒に当たる。
「レオン。回収終えたが俺はどうしたらいい?」
残りの一割の魔物の死骸を回収し終えたダーヴィトがそのまま俺の元へやって来た。
「悪いが、俺と一緒に広場で住民たちの対応だ。後でギルベルトさんも合流する予定になっている」
広場に到着した俺とダーヴィトは、身内の死体を見て泣き崩れる住民たち頭を下げた。これは決して謝罪ではない。死者に対する礼儀として。
そして、避難中に簡単に治療してもらっていた怪我人へ『治癒』を掛けたり、身内が死体となっている場所に赴いては、死体にも『治癒』や生活魔法『清潔』を掛けたりして回る。この後に火葬する事にはなるが、出来れば最後は綺麗な状態で送り出してあげたい。最後の別れにしてあげたいと言う気持ちからだ。流石に前世での死化粧程ではないが、血や泥だらけ、抉れていたり切り裂かれたりしているよりはいいだろう。
死体を綺麗にしてくれた身内たちも泣きながら感謝を伝えてきたので、その感謝の言葉を受け取った。
ギルベルトが合流してからは、此処のまとめ役と話をし、二泊させてもらう事になる。他の冒険者たちから到着が遅れる事に不満の声は上がらず、率先して翌日から作業をしてくれた。ただし、そこはきちんと報酬が出ると聞かされたからで、無償と伝えていたら、話は変わっていたかもしれない。
兎にも角にも冒険者のほとんどは、現金な奴なのだろう。まあ、彼らにも生活が懸かっているのだから、分からない訳ではないが。
二泊した間に、魔物が数匹襲ってきたりしたが被害が出る前に討伐し、その日の食事に出されたり、後は死体の火葬の準備や壊れた建物の修復作業にあてたりした。
流石に全壊している家は直す事が出来ないし、半壊している家も幾つかは修復できない状態だったので、取りつぶす事になった。
中には、家は少し直せば暮らせるが、そこの住民が全員亡くなっているケースもあり、そう言った家は、全壊したり取り壊しが決まったりした人たちが共有で使用する事になった。
「それでは我々は、これで失礼する。もし、お困り事があるなら王都の冒険者ギルドを尋ねると良い。報酬が必要になるが、冒険者が手伝いに来てくれる」
別れの挨拶をギルベルトが代表で行い、住民に見送られながら王都を目指して出発した。
朝早くに出発した事もあり、その日のうちに王都アルデレートに辿り着く事が出来た。丘から見た時の王都は、余りの大きさに初めて見た者たちは、言葉を失い。王都に来た事がある者は、もう少しかと気楽に過ごすが、王都を覆う外壁を目にすると流石に馬車から身を乗り出していた。
これまで見たどの街よりも立派な外壁。高さも他余の所より高いが、材質も違うように感じられる。これだけの規模を建設しようとなると一体何年かかるのか想像がつかない。
何せ、高さは五階建て建物以上。街の広さはイリードの街が軽く七つは納まる程の広大な面積。それを囲うのだから立派と言うよりも異常と言う表現の方が正しい。
「驚いたか?だが、これは第三防壁だからな。中に入れば後二つ防壁があるぞ」
ギルベルトの発言を聞き、人生初と言って良いほど間抜けな反応をしてしまう。
こんな外壁が後二つもある。なぜそんな事になっているのかと思っているとそのあたりの事を同行していた他のギルドの職員が説明してくれた。
何でも、建国当初は王都も此処まで大きくはなかったとの事。しかし、人口が増えるにつれて王都の拡大が行われ始めた。この世界は基本的に魔物に襲われる以外にも人間同士の争いも大昔から起こっていて、町や村でも簡単な防壁は作られていたらしい。
王都も当然、頑丈な防壁があったが、拡張する時に防壁を壊すか防壁の外に新しい街を作りそれを囲うように防壁を作る二択に分かれ、結果後者を選択。壊すのが手間と言うのもあるが、攻められた時に幾つか防壁があれば、侵入されるのに時間を費やす事が出来ると言う理由が強かった。
そして、王都の拡張が二度行われ現在の様に防壁が三枚と言う大都市の構成になった様だ。
更に街の防壁事で、地位がはっきり分かれているとの事。一番外側、三枚目と二枚目の防壁の間を平民区画と呼ばれ王都に住む住民の家や安い宿屋、それに普通の武器防具屋の工房なんかがあるとの事。
次が商業区画と呼ばれており、文字通りやや高いお店から安いお店まで幅広く各種商店が軒並み並んでいる。また、冒険者ギルド、商業ギルドなどもこの区画にあり、平民区画に住む者も商業区画には入る事が出来る。
最後は中央のお城の近くにある区画。この区画を貴族区画と呼ばれており、上級貴族の屋敷や大商家、高級店などがある。三枚目の防壁と比べれば一枚目の防壁は塀と言えるほどの高さしかないが、見回りの兵士が多く、通行許可書のない者は侵入する事が出来ないとの事だ。
そこまでの情報を聞き終えたあたりで、目的の壁門が見えてきた。
夕刻と言う時間もあってか並んでいる者が多く。此処で更に時間を費やすのかと思ったが、如何やらその列に並ばなくても済むと教えられた。
「仮にもギルドの支部長だからな。そのあたりは配慮されている。とは言っても身元確認等は行うが」
なるほど、如何やら一般的な者たちと役職がある者たちでは列が異なるのだろう。
感心していたら、門の内側ではなく外側にも古びた家やテントの様なものがたくさんある場所を見つけた。
「あそこには何が?」
「ん?ああ・・・あそこはスラム街だな。王都に入れないような輩が暮らす場所だよ。何処の街でも見られるが、王都の場合はそれが外にあるってだけの事」
それならせめて中に入れてあげればいいのにと思ってしまうが、恐らくそれも出来ないのだろう。スラム街に住む者の多くは働く場がなく生きて行く上で盗みなどを働いてしまうなどと言う話はよく聞く。そう言った者たちを王都内に入れてしまえば、忽ち犯罪率が増加してしまうから、ああして王都の外へ暮らしているのだろう。
ただ、王都に入る列の人から盗みをしないのかと言われれば、それは殆どない様だ。盗みを働けばすぐさま兵士に連行されてしまうようで、であれば何故違う所に行かないのかと言われれば、王都の外でも後ろに王都があるだけで、魔物が襲って来る事がほとんどないからである。それに、極まれに王族や貴族、教会などから炊き出しをしてくれたり、上級貴族から施しを貰えたりする。
冒険者の中には、王都に入るのが夜中になってしまい。仕方なくスラム街で夜が明けるのを待つ場としても使用されている。その時に謝礼金や物をくれるので、スラム街とはいえ比較的に犯罪を行うものが少ない。
(そう言えば、彼女の実家も王都にあるって言っていたな)
それは、海隣都市ナルキーソへ向かう道中に助けた一行。そこで知り合ったエルフィー・マリア・シュヴァイガートとローザ・フロシャウアーの二人。確か貴族だと言っていたのを覚えている。
「シャル。王都って確かエルたちの実家があったよな」
「そうよ。確かエルちゃんの方が伯爵家でローザさんが男爵家のはず。王都に来たら是非訪ねてほしいって言っていたわね」
「なら、近いうちに訪れるとしよう」
二人で話をしていると、ギルベルトからの冒険者カードの提示を言われる。
ギルド職員及び同行者の身元チェックが行われ、全員がそれぞれ身元となる物を提示していた。
冒険者たちは全員冒険者カードだったが、ギルド職員は別の証明書を提出していたようだ。
一通りチェックを終えて、一行はそのまま第二の門がある場所へ向かう。大通りは馬車を走らせる事が出来るため、このまま進めば半刻程度で着くらしい。
かなり遠いなと考えていたが、外の街道に比べて速度が遅い為、それだけ時間がかかってしまうらしい。まあそれでも徒歩で行くとしたら一刻半近くかかってしまうとの事。やはり広いと言える。
民家が多く立ち並んでいるが、幾つかお店もあった。宿屋もあったが、余りよい宿屋ではないとの事でスルーする事にした。激安だが、サービスが悪く。基本十人ぐらいで雑魚寝。防犯面も良くないとの事。泊まるのは金銭的に貧しい冒険者や旅人ぐらいらしい。
ギルド職員から街の中の基本的な事を聞きながら、第二の門へ到着。
そこでも簡単に身元チェックが行われて、問題なくは居る事が出来た。まあ殆ど形式的にチェックするだけの様だ。平民区画の者でも入れるのだから、厳しくする必要があまりない。
商業区画は、平民区画よりも賑わっていた。仕事を終えた冒険者や傭兵たちが飲み屋でどんちゃん騒ぎをしていたり、魔物などの素材を売りに店に向かう者、防具の修理を頼む者も居たりする。
平民区画からも買い出しに来ていたりしているようで、一番賑わっている区画なのは間違いないだろう。
「悪いが先に冒険者ギルドへ向かって報告等を行ってもらう。代表者一人いれば大丈夫だ。他の者は同行するか宿屋の確保に向かってくれて構わない」
ギルベルトの言葉に剣の集いのメンバーの一人が、馬車から降りて宿屋の確保に向かった。その際に冒険者カードをリーダーに渡していたから、更新してもらうのだろう。
後日更新に来ても良いのだが、彼らには彼らのやり方があるのだろう。
他にも疾風の矛のメンバーもリーダーを残して全員が下りて行った。此方は、報酬を後日受け取りに来るのだろう。忽ち報告だけ済ませる様だ。
それ以外は、王都が初めてな様で、どうするか相談していた。結果、雑用で依頼を受けた新人たちと俺たちは全員残り、それ以外は別行動をするようにしたらしい。
まあ、荷物持ちもさせられている新人は、宿屋を探しに行くと言う選択肢はないので、実質俺たちだけが全員残ると言うよう形だ。
出来れば、良い宿屋に泊りたいが情報がないので、冒険者ギルドで情報収集をしてから決める。金銭的にも余裕があるので、特に問題はないし、皆が居ないうちにオーガの亜種の件も片付けておきたかったからだ。
(長引くようなら、最悪この新人たちに頼んで宿屋を確保してきてもらおう。報酬はその宿屋の代金をうちが持つって事なら快く引き受けてくれるだろうし)
冒険者ギルドにたどり着くと今までの冒険者ギルドとは規模が異なっていた。他の街の冒険者ギルドの一.五倍から二倍近く大きいのだから。
ギルベルトに案内され、中に入ると此方も他とは大違い。受付も多くあるだけでなく、飲食店も広いスペースを設けていた。
「あっギルベルト支部長。こんばんは。アイヒマン様に御用でしょうか?」
「いや、アイヒマン支部長へは明日再度訪問させていただく。今日は彼らに此処までの護衛をしてもらったからその報告を此方で済ませようと思ってな、それに魔物も倒したからそれの報告も兼ねている。報酬は此処のチームで行ってくれ。直ぐに受け取るかは彼らに聞いてくれた方が助かる」
そこまで説明すると受付を担当してくれた美人の受付のお姉さんは、同僚に声をかけて数人で報告の処理に当たる。
俺たちは、そのままギルベルトと話をしていた女性に報告するが、如何せん途中で襲われていた集落の救出及び討伐した魔物の説明が必要な為、ギルベルトと共にそのまま話始める。
「・・・・って事で、彼らがオーガの亜種三体を討伐した、ゴブリンなどの魔物の多くも彼らが討伐している。更新すればわかる事だが、彼らの年齢が年齢だけに俺が付き添って説明した方が早いと思ってな」
「ああ。他の者たちにも加勢してもらっている。また、復興の支援なども少ししてもらったから悪いがそれも査定に入れてやってくれるか」
すべて説明し終えると信じられないと言うような表情で見ていたが、他の者たちの報酬にも関わるので、他の職員に簡潔に説明し報酬の上乗せを伝えた。
「それでは・・・ええっと。レオンハルト様。魔物討伐部位の提出をお願いします。数が多いようでしたら、素材買取りカウンターの方で行いますが」
「数は百を超えるので買取りカウンターの方が良いですね」
基本的にはそれぞれ討伐した者は自分たちで確保していて、集落が襲われている時の魔物は殆ど彼らが所持していたが、集落を出る際にそれぞれに分けて配っている。ただ、乱戦と言う事もあって数が正確ではないが、極力冒険者カードに記された討伐数を見て配っている。
それでも、レオンハルトたちの討伐数は優に百を超えている。正確に言ってしまえば二百三十七体分の魔物の部位だ。
買取りカウンターへ受付の女性と行きそこで、討伐証明部位を数えてもらう。また、その間に魔物の素材の買取りも行ってもらった。
今回は、討伐報酬と護衛依頼の報酬、追加報酬の幾つかを受け取り、買取りの素材は後日受け取りに来る事にした。
そして、宿屋に向かう。案の定討伐証明部位を数えるのに時間を費やす感じがしたため、既に依頼報告を終えた新人たちに頼んで宿屋の予約に向かってもらう事にし、報酬は同じ宿屋の代金で、滞在期間を何日するのか聞いてそれぞれ二泊分の報酬で受けてもらえた。と言うより、二泊分はかなり美味しい報酬と思う。何か特別な事をする訳ではなく、宿屋の確保をしてくるだけなのだから。
ただ新人たちも何処の宿屋が良いのか分からない為、そのあたりはギルドの受付におすすめを紹介してもらう。
「このあたりで良い宿屋となりますとその道をまっすぐ進んで左手側に赤色の看板があります。そこの宿屋が値段も良心的ですし、お食事も美味しいと言われています。名前は赤いサンダルと言う名前です。それ以外になりますと、金額的に少し高くなりますが、防犯がしっかりしていて、食事の種類は少ないですが美味しいと評判の宿屋があります。場所は赤のサンダルを少し進んだところの右手側にあります。名前は星降り亭と看板にはありますが皆さまが呼ばれるのは金星亭と言っています。看板に乗っている記号が一つの黄色い星だから何時しかそう言われるようになったみたいですが・・・」
受付の女性から聞いた話を元にまずは星降り亭で宿を取れるか確認。人数は此処に居る六人で、部屋割りは個室若しくは二人部屋を三つあたりでお願いした。部屋の空きがなければ赤いサンダルの方で宿を取るように指示。依頼報酬の宿は同じ場所で部屋は男女別に分けた方が良いなら分けるように伝えた。
空いているようであれば、宿屋の前で待機している様に伝える。宿代は自分たちが払うが、前払いのお金を渡す事はしない。宿代が分からないのと、一応数週間一緒に旅をしたが、そのまま持ち逃げされても困るので、宿屋が空いているか、空いていたら予約の様な感じが出来る確認してもらう所まで依頼としている。
そして、赤いサンダルの宿屋の所には新人冒険者たちが立っていないので、そのまま先を目指して歩く。星の記号が記された看板を見つけ、その看板の下に冒険者も待機していた。
「あっ!!お疲れ様です。言われた通り宿屋の部屋を仮抑えしました。後は支払いだけなのですが良かったのですか?此処の宿屋そこそこお値段しますよ?」
「ご苦労様。気にしなくていいよ。ただ二日分しか出せないけど、それで大丈夫?」
「はい。自分たちは一泊でもこの様な宿屋に止めさせていただけるだけでもありがたいです」
素直な子たちだ。と言っても年齢は自分たちと差ほど変わらない。アニータと同じ年なので同年代と言えるが、実力はかなり離れているので、向こうは此方をかなり尊敬している風ではある。
「そうか、なら中へ入ろうか」
レオンハルトを先頭に仲間たち、新人冒険者と続けて宿屋へ入ると受付に残りの新人たちが待機していた。
中はギルドの受付職員が教えてくれた通り、良さそうな感じの宿屋だと分かる。何せ内装が少し豪華に見せているだけでなく清潔感もしっかりしている。こういった部分は、かなり高評価の部分であった。ただ、新人冒険者からすると手が出せそうにない感じではある。
「すまないが、部屋を頼む。彼らが色々条件を出していたと思うが・・・」
「いらっしゃいませ。はい、お伺いしております。二人部屋を三つと四人部屋を一つと伺っております。お間違えは無いでしょうか?」
新人たちは、如何やら全員で一つの部屋に泊る事にしたらしい。男女別々に分けても良いとは言ったのだが、流石に金額的な事で遠慮したのであろう。再度彼らに聞いてみたが、それで良いとの事だったので、自分たちが泊まる部屋を忽ち十日。新人たちの部屋を二日宿泊するように手配した。
「わかりました。二人部屋の三部屋は十日、四人部屋は二日ですね。二人部屋の方が一人当たり五百五十ユルド。四人部屋の方は一人当たり三百ユルドになります。食事は付いていませんが、一階の食堂で召し上がる事が出来ます。此方は別途費用が掛かります。大丈夫でしょうか?」
恐らく見た目が子供であるため、一、二泊程度なら問題なかっただろうが十日となると話は変わってくる。何せ五百五十ユルドが六人分、それでいて十日となれば、三万三千ユルド。日本円にして約三十三万円だ。それに加えて四人部屋の方も合計額で言えば二千四百ユルド、日本円で約二万四千円になる。食事等は別料金だが、軽く見積もっても四万ユルドは必要になるからだ。
「大丈夫ですよ。ええっと全部で・・・三万五千四百ユルドですね」
瞬時に計算したレオンハルトに受付の人は慌てて計算する。計算が終わる頃には受付カウンターに先程述べた金額と同等額の硬貨を出して待っていた。
「・・・け、計算がお早いのですね。確かに三万五千四百ユルド承りました。此方がお部屋の鍵になります。鍵に記しております番号が部屋番号で、四人部屋はそこの階段を上った二階、二人部屋は四階になります。それではごゆっくりおくつろぎください」
受付で鍵を受け取りそれぞれ部屋へ向かった。夕食は、宿舎の一階食堂で食べる事にして、部屋を確認したら一階食堂入り口で待ち合わせをする。
新人冒険者たちは、外へ食べに出ると言っていたので、夕食はいつもの六人で食べる事になる。
(セキュリティもしっかりしているし、部屋も悪くはないな・・・トイレもあるのか、流石に浴室は無いな)
部屋の中を確認してまわり、一通り見終えると集合場所に向かうためダーヴィトと共に部屋を出る。そして、タイミングがあったのか他の四人と一階ではなく四階の階段出入口で合流し、そのまま食堂へ向かった。
食事の種類は事前に聞いていた通り少ないが、どれも味付けは申し分なかった。食後は今後どうするのか簡単に打ち合わせをしておく。
取り敢えず明日は、冒険者ギルドへ足を運び報酬の受け取りをするが、これは昼以降に向かうので、午前中をどうするか。また冒険者ギルドでの用事が済んでから何をするのか決める。
「午前中は出来れば朝市へ行ってみたいかな」
「俺はトレーニングかな、最近出来ていなかったから・・・やっておかないと」
「私は冒険者ギルドで簡単な依頼をしておきたいかな。私だけランクが低いから早く同じぐらいのランクにしたいし」
シャルロットは如何やら、朝市でこの地域ならではの食材や調味料を探してみたい様子で、ダーヴィトはこの旅で日課の訓練の幾つかが行えていないから、時間がある時にやっておきたいとの事。アニータは、メンバーで一人ランクが低い為それを気にしてるようで、少しでも早く追いつきたいからとの事だ。
アニータを一人で行かすにはと思っていたところにリーゼロッテとエッダも一緒にすると言い始めたので、お任せする事にした。
俺は、シャルロットに同伴する。
彼の対応に他意は無く、純粋に女の子一人は何かあった時の事を考えての保険として、それに彼自身も調理をよくするため、食材や調味料には興味があった。
午後からの予定やそれ以降の計画も大方決めていく。
冒険者なのだから依頼をしながら、図書館で調べ事や王都の街中の散策、見つけた調味料で新しい料理の開発に魔道具の作成、それと大事なのは、魔族の動き特にスクリームの対策も含まれる。あとは四ヶ月後に行われる武術大会の参加。エルフィーの実家の訪問等上げればキリが無いほどあった。
エルフィーの件は主にレオンハルトとシャルロット、リーゼロッテの三人の用事だが、他の仲間も同行したければして良いと伝えている。正し行った際に先方に確認する必要はあるが。
そんなこんなで、今後の計画を話し合ったのち、時間も遅くなってきたので各自部屋に戻って身体を休めた。
ここまで呼んで下さりありがとうございます。
去年の冬コミに行った相方へ頼んでいた物が元日に届いて、今年は何か良い事があると予感しています。
今年は相方と共に冬コミへ出店(自分は手伝いかな?)出来たらいいかなと思います。
まだ、始まったばかりですが、どうぞよろしくお願い致します。