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003 二度目の人生

 暖かい日差しが大地を照らし、吹き抜ける風が心地良い涼しさと草花の揺れる音が周囲を囁くように奏でている。 


 そして、僅かに香る爽やかな草の匂いや甘い蜜の様な匂いが風に乗って鼻腔を刺激する。


 その香りでその場に気持ちよさそうに寝ころんでいた男の子が目を覚ます。


「こ・・・ここは?」


 男の子は周囲を見渡しながら呟いた。


 目の前に広がる光景がつい先程までいた白い部屋ではなく。広大な大地があったからだ。


 芝生ぐらいの長さの黄緑色の草に色とりどりの花々、見た事のない小動物が走っていたり、空を飛んでいたりする。そんな長閑な草原に伏見優雨(ふしみゆう)は居たのだ。


 ただ草原が一面見えるのではない。少し先のほうを歩けば小川が流れており、その向こうには深い森や富士山クラスの山が多数存在する山脈が僅かに確認することができた。


 自分が措かれている状況を理解しようとするのでいっぱいだった俺は、隣で寝ている女の子に気が付かなかった。


 その事に気が付いたのは、寝ていた女の子が不意に寝返りをした時のような甘い声が聞こえたからだ。


 そして、隣で寝ていた女の子は、自分の声で目が覚めてしまったのか、ゆっくりと目を開けて身体を起こした。


 状況が呑み込めない俺は、色んな意味でショックを受けてしまった。


 一つは、仮にも武術を極めた自分が女の子の存在に一切気が付かなかった事。もう一つは、気が付いてからの行動が何もできなかった事だ。襲うとか身構えるとかではないが、その場で女の子を見つめてしまっていたのだ。


 好意で見つめていたのではなく、見知らぬはずの女の子に何故か見覚えがあるそんな感覚があったからだ。


 そんな目線に気が付いたように女の子は此方に顔を向けた。  


「あなたは・・・・だれ?ここは、どこなの?」


 透き通るような感じだが幼さも感じるそんな声をしていた。


(やはり勘違いか?見た事がある気がするんだけど、そもそも紫色の髪をした女の子なんて知り合いにいないぞ。なら、どこで見た事があるんだ?)


 女の子を見ながら深く考える。 


 外見は五歳ぐらいだろうか?腰まである明るい紫色の髪を一部後ろで纏めている。ハーフアップさせたところに可愛らしい黄色いリボンが結ばれていた。瞳の色も日本人特有の黒系ではなく、カラーコンタクトでもしない限り難しいピンク色の瞳をしている。


 幼い子供ではあるが、恐らく大人になればかなりの美人になる事がわかるぐらい、今の段階で可愛い子供だった。


 しばらく見つめていると、何処となく窪塚さんの幼い頃が丁度この子の様なのだろうと考えてしまう。


 取りあえず、女の子の問いかけに答えることにした。


「お・・・・俺は、ふし・・・いや、俺はレオンハルト。君は?」


 前世の名前である伏見(ふしみ)優雨(ゆう)と言う名前を口にしようとしたが、一瞬今の名前が別の名前であると脳裏に浮かび言い直した。


 新しく生まれ変わった俺の名前は、レオンハルト。 


 脳裏に浮かんだ名前以外にも、レオンハルトとして生まれてきたこれまでの人生が徐々に脳内で整理されるかのように思い出す。


 前世の記憶と現世の記憶が徐々に思い出されている中で、目の前の女の子の事も思い出した。


「わ・・・私は、・・・シャル、シャルロット。ってあれ?何で私、レオンくんに名前聞いたのかな?」


 思い出すと同時に女の子は名前を名乗ったが、お互いに知っている間柄なのに自己紹介をしたことを疑問に思っている様子だった。


 お互いに知っているのは、同じ屋根の下で生活しているからだろう。


 アシュテル孤児院。それが、二人が暮らしている家の名前だ。


 名前の通りアシュテル孤児院は、身寄りのない子供が集まり一緒に生活する養護施設だ。


 孤児院に行く経緯は様々あるが、多くは親が死んでしまい身寄りがなくなってしまうケースと俺のように捨てられるケースである。   


 俺は、生まれてすぐ実親に捨てられた。山や森に捨てられたわけではなく、アシュテル孤児院の玄関前で捨てられていたようだから、実親に経済力がなかったなど育てられない理由で捨てられたようだ。レオンハルトと言う名前とこの子の事をお願いしますと書かれた手紙も添えていたと聞いたことがあった。


 シャルロットは、二歳ぐらいの頃に両親とシャルロット、それに一歳になっていない妹の四人が魔物に襲われたそうだ。警備隊が駆けつけ討伐した時には既に両親の息絶えていたそうだ。シャルロットと妹のアニータを守るように二人の子供に覆いかぶさっていたのだそうだ。その後の経緯は、親の親戚に見てもらえず、一番近くにあったアシュテル孤児院に預けられたのだ。


 そんな経緯で一緒の孤児院で生活しているのだが、そこで一つ重大な事を見逃していた事に気が付いた。


 重大な事・・・・それは、俺とシャルロットの身長差がほぼ同じ事である。


 これまでは、あまりにも自然で当たり前だったから意識していなかったのだが、冷静に考えてみると目の前にいるシャルロットと言う幼馴染の女の子の年齢は、五歳ぐらい。その女の子と同じ身長と言う事は、自分も子供の姿なのだと現実を突きつけられる。


 シャルロットは、未だに何で自己紹介したのか悩んでいるのだろう、腕を組んで考えている。と言うよりは少し混乱しているようにも見受けられるが、俺の驚く声に驚き我に返った。


「ど、どうしたの?何かあった?」  


 突然俺が大きな声を出した事で、シャルロットの身体が反射的に飛び上がるように動いたが、その後何事かと心配した様子で訪ねてきた。


「いや。え?どうなっているんだ?まさか・・・・でも・・・・ありえるのか?子供とか・・・若返り?ハッ!!」


 シャルロットの声が聞こえておらず、レオンハルトは自分自身の身体を触ったり、独り言を呟いていたりする。そんな事をしていると十五メートル程先に細い小川があったためそこに急いで向かう。


 十五メートル―――。普通に考えれば大した距離ではないが、この身体では恐ろしいぐらい遠くに感じた。


 やっとの思いで小川まで着くと、その水面を覗き込むようにして見る。


 映し出される顔は伏見優雨の顔ではなく、幼い顔が映し出されていた。

 

 シャルロットと同じぐらいの年齢なのだろう。顔は子供特有のやや丸っこい顔つきをしていた。髪は長すぎず短すぎない程度の長さで、驚くべき事に髪の色が灰色だった。白よりか黒よりかって言われるとやや黒よりの様な感じがする程度の灰色だ。そして、瞳の色も朱色をしており髪の色以上に驚いてしまった。


「ねえ。大丈夫?」


 シャルロットが後ろから追いかけてきたのであろう。水面にもう一つの顔、シャルロットの顔が映し出された。


「・・・前世の記憶・・・・今置かれている環境・・・・やはり、・・・これがヴァーリの言っていた事か?」


 独り言をつぶやく様に今の状況を整理し始める。


「っ!!ヴァーリってさっきの神様!?ひょっとして、伏見くん?」


 シャルロットがなぜ、俺の前世の名前を知っているのか。ヴァーリの事もそうだ。名前は今独り言の時に聞いて知った可能性はあるが、ヴァーリが神様と言う結びつきにはならない。それを知っているのは、あの場にいた者だけである。


 あの場にいて、俺の前世を知る者。目を覚ました時にひょっとしたら隣に窪塚が居ると思ったが、確認した時隣にいたのは別の女の子だった。確かに窪塚の面影はあったが、ただ似ている人と思ってしまった。だから、別々の場所に転生させられたのだとばかり思っていたのだ。


 それが、事もあろうに別人だと思っていた女の子がまさか窪塚だとは思いもしなかった。 


「く、窪塚さん?窪塚さんなッ!!」


 立ち上がり、シャルロットの方を向きながら俺の前世の名前を知る者の名前を口にすると、突然胸に強い衝撃を受けた。


 衝撃の正体は、シャルロットが抱き着いてきたからである。


「ふしみくん、ふしみくん、ふしみくん。よかった。よかったよ・・・」


 恐らく彼女も俺と同じように目を覚ませば、すぐ近くに俺がいると思っていたが、実際は違っていた。


 知らない世界で、一人ぼっちで生きていくには、ある意味前世の記憶がない方がよいのではと思えるほど心細いものがある。


 男である彼ですらそう感じてしまったのだ。ましてや彼女は彼以上に心細く、そして不安を感じていたのだと思う。だから、すぐ近くに彼がいた事への嬉しい気持ちが抑えられなくなり、今の行動に至るのだ。


 抱き着かれた優雨は、彼女の気持ちを汲み取りそっと抱きしめ返した。


「大丈夫だよ」


 そう彼女に伝えると顔を少し離し、今までで一番の笑顔を向けてくれた。その笑顔はまるで、一際(ひときわ)輝く太陽の様なそんな笑顔であった。


 そんな笑顔を見せられた優雨ことレオンハルトは、彼女のことを今度こそ守ってみせると心の中で誓ったのだ。


 それから暫く、窪塚ことシャルロットはレオンハルトを抱きしめたままだったが、安堵と興奮が落ち着いてくると自身のとった行動を思い返し、顔を真っ赤にして離れた。 


「えぇっと。伏見く・・・んじゃないか。レオンハルトくんでいいのかな?」


「俺たちはもう生まれ変わって新しい人生をスタートしているからレオンハルトの名前の方が良いかと思う。だから、今まで通りの呼び方で良いよ」


「うん。わかった。私の事も今まで通りシャルって呼んでいいから。それでねレオンくんさっきは、その・・・なんかごめんね」


 シャルロットは顔を赤く染めながら、先程抱き着いてしまったことを謝罪してくる。


 別に抱き着かれたことに対して本人が悪いわけではないし、俺もどちらかと言うと役得だったので、謝罪は必要ないのだけれど受けなければどうにも話が進まない気がするのでシャルロットの謝罪を素直に受けることにした。


「それにしても、同じ場所にこうやって転生できた事はヴァーリの計らいなのかな?」


 まあそのぐらいはしてくれても当然かとも思ったが、それは此方の意見であって自称神であるヴァーリは、そこまでの配慮を当然の事だと思っているかどうかは不明だ。


「それにしても色々な記憶が蘇ってくるな。あと何か前世の知識量も多い気がするな」


「うん。ビックリするね。私前世でも知らなかった知識まであるから、正直どうしたらいいのか。それに、この世界の私には妹がいるのね。前世では弟がいたから、下に姉妹がいても困らないと思うけど・・・」


 シャルロットの言うように、知らない前世の知識が目まぐるしくわかるようになるのは、正直怖いものがある。


 恐らく、生活するうえで困らないようにとの配慮だとは思うのだが、木や葉などの種類や特性はわかるが、栽培方法や木々の健康状態の把握の仕方などまで知識として覚えてしまっている。


 農家などの人から見れば、さぞうらやましく思うかもしれない。


 同時に非常に役に立つ知識もあった。味噌や醤油などの調味料の制作方法と道具の作り方の知識。料理のジャンルの知識。薬学についてなどの知識。酒や加工食品、その他の知識がいっぺんに覚えさせられているのだ。


 ただし、知識として覚えているので、実際ものにできるかは、本人の才能と努力次第だと思う。この世界に適していないものまであるからだ。


 例えば、電気製品の知識は確実に使い道がわからない。辛うじて電子レンジや冷蔵庫と言ったものはどうにかなるかもしれないが、PC(パソコン)の組み立て知識は正直使う場面があるのかさえ分からない。


 そういった知識を覚えていると同時にこの世界の知識も習得していった。


 いや、正確には自称神が少し教えてくれた内容の延長線上が少しと前世の記憶が蘇る前のレオンハルトが身に着けた知識のみだが、それでも基本的知識は多かった。


 ヴァーリからの知識ではアルゴリオトと言う星についてだ。俺たちが地球とは別次元の宇宙にある星のため、○○銀河の×××系第△惑星アルゴリオトと言う正式名称で覚えた知識だが、正直全然わからない。これがアンドロメダ銀河など言われる方がまだ分かったと思う。


 そしてこの星には、多種多様の種族が存在しているようだ。人族はもちろん、ファンタジー世界では有名な獣人族や亜人族もいるようだ。


 獣人族は、人と獣が一体化したような種族だと考えるとわかりやすい。例えば虎人族や鳥人族、犬人族などがある。ただ、その人と獣との割合は個々によって異なるようで、獣の耳が出るだけで後は人に見える獣人から獣の体毛で身体を覆われた獣が二足歩行している様な獣人まで幅が広い。極め付けが、獣人と魔物や魔獣との区別の難しさだ。獣の比率が多い獣人は、魔物や魔獣との差がわかり難い。よく見ればわかるのだが、一瞬だけなら間違えてしまう可能性もないことはないのだ。


 それほど見た目だけでの判断はわかり難いのだと、ヴァーリから与えられた知識で教えられた。他にも言葉を話すなど高度な知的能力と理性、それに高い身体能力と戦闘能力を兼ね備えているらしい。特殊な技・・・・必殺技の様なものまで存在するようだ。


 亜人族は、人に似て非なる者の事を指す。代表的な種族で、エルフ族やドワーフ族を始め、竜人族、フェアリー族、小人族と存在している。これら以外にも多くの種族があるようだ。戦闘能力は個人によって大きく異なり、魔力の使用が秀でている種族でもある。


 最悪なのは、魔物や魔獣と言った人族や他の種族に害をなす生物がおり、魔族と言った種族も存在している。しかも厄介な事として、魔族は戦闘能力も魔力の扱いも何方(どちら)も非常に高く、争いの好きな種族である。人族や獣人族などを食餌(エサ)にしたり、虐殺したりする多くの種族の敵でもある存在のようだ。


 そんな俺たちは、人族と言う種族で他種族に比べれば何かに秀でている訳でもなく。ただ単純に人口が多い事と、何でも中途半端にこなせる器用貧乏みたいな位置にいるのだ。


 ヴァーリからの知識を思い出していると、冷たい風がレオンハルトたちの素肌に触れ、二人とも思考の世界から現実の世界に引き戻された。


「ちょっと肌寒いな」


「うん、季節は春でも時々寒く感じるからね。それにしても・・・・・私たちの格好・・・」


「ああ、すごい格好だな」


 中世のヨーロッパの時代の服装であるトゥニカと呼ばれる服装に近い。映画でも何度か目にしたことがあったから、恐らく年代はそのくらいだろうとあたりをつけるレオンハルト。


 一方、シャルロットは少し恥ずかしそうな表情をしていた。


 トゥニカに似た上着は、肘ぐらいの(そで)に裾は膝より上のあたりまでの長さしかなく。下には七分のズボンを着用、それぞれ使い古されているのか、(えり)(すそ)のところがだいぶ傷んでいるように見える。


 前世の記憶が蘇る前のレオンハルトの記憶から得た知識、その中の気候について確認する。


 今は春の中月(なかつき)と言う暦のようで、別の言い方としては四の月とも呼ばれている。その春の中月の半ばぐらいで、丁度春の折り返し地点ぐらいの気温である。日によって肌寒かったり、暖かったりするので服装にも少し困る季節と言えよう。


 この世界の気候は、前世の気候に類似するものがあるが、すべてが同じと言う事もなさそうだ。


 一日の時間は概ね二十四時間だが、此方の世界では二十四時間と言う時間の単位は存在しない。勿論、分や秒と言った物も存在しない。


 こちらの世界では、一日を一二に分割されており、時間を示す単位は(こく)と言うようだ。一二分割されていることから、一刻(いっこく)は二時間程度だと予想される。


 程度や概ねと言う言葉を使用しているのにも理由があり、この世界には時計と言う物がない。大都市やそれなりに大きな都市なんかには、時計に似た特別な道具が使用されているが、小規模の街や村には存在せず皆、太陽(ゾンネ)の位置やそれと照らし合わせて体内時計によるアバウトな時間管理のもと生活しているのだ。


 前世と大きく異なるのが、年単位と季節の区分けであった。


 一年が二十ヶ月もあり、一ヶ月が二十八日と決められている。二十八日と言う日数が算出されたのは、太古の昔に存在した学者が(モーント)の状態を細かく計算して出来たからだそうだ。このあたりの知識はヴァーリから得た知識によるものだ。


 季節の区分けに関しては、春夏秋冬の四季に加え霜季(しもき)雨季(うき)靄季(もやき)颪季(おろしき)の准四季が含まれて計八季に分けられている。期間は四季が三か月で准四季は二ヶ月の間で、一の月と二の月を霜季、三の月と四の月と五の月を春季、六の月と七の月を雨季と続き、夏季、靄季、秋季、颪季、冬季と交互に四季と准四季が来るのだ。


 呼び方も一の月から二十の月と呼ぶ人もいれば、春の中月が四の月と言ったように何の何月と言う言い方も存在する。ちなみに三の月では春の上月(かみづき)、七の月は()下月(しもつき)と呼ぶ。


 基本は、上月か下月で呼ばれ、四季の時期のみ中月と言い表すようだ。


 年間日数が多い分成長速度も速いかと思われるが、そのあたりは前世との時間の流れ方や成長の仕方が違うため、前世と同じように成長する。此方で八年経過しても前世の八歳児と同じような状態になるのだそうだ。


 正直、その事については大変助かっている。時間の流れが前世と同じで此方の世界で年間日数が長い場合だと同じ八年でも身体は十二歳ぐらいに成長して言うことになる。今はそれほど脅威に思えないかもしれないが、四十年経つと身体は六十歳になりましたと言うのは頂けない出来事だ。


 多少考えさせられる知識を再確認していると後ろの方から声が聞こえてくる。


「――ン、――ル。―――だ?」


 どうやら声の主は、俺とシャルロットを探しているようだった。


 探している理由は、恐らく薬草採取の時間が終わったのだろう。


 前世の記憶が覚醒する前の俺たちは、前世の記憶が目覚めた今の地点の周辺で傷薬の元になる葉っぱや疲労回復の効果を持つ花を摘んでいた。


 主に薬草採取だが、時々食用として食べることができる野草も集めていたようだ。集めた薬草や野草は、(カゴ)の中に入れていたのだが。


 覚醒してからは、現状把握や状況整理などの時間に追われてしまっていて、採取が思いのほか採れていないのだ。


 野草は、孤児院で使用する様なので集まらなければ集まらなかったで構わないのだけれど、薬草に関しては別だ。


 薬草は、アシュテル孤児院が村の人から受けた依頼の仕事の一つだからだ。そのため、ある程度、集めて納品しないといけない。


「ここにいるよー」


 レオンハルトは、探しに来た者に自分たちの居場所を伝え、すぐさま籠の近くまで駆け寄り、薬草を慌てて集める。


 最悪、他の子供たちが採取しているだろうから今の籠に入っている分の薬草を持って行っても良いのだろうが、実はこの仕事は孤児院の子供たちの小遣い稼ぎでもあるため、レオンハルトもシャルロットも慌てて採取していたのだ。


 ヴァーリから与えられた知識と覚醒前の自分たちの知識を元に二人は、物凄い速さで薬草を採取していった。


「そろそろ集まる時間だぞ」


 探しに来た少年は、子供たちをまとめる係をしていて皆に声をかけて回っていたようだった。


 呼ばれていることに気が付いてから今の僅かな時間に、それなりの量を採取することができた。そして、何が面白かったのか二人の表情には笑顔が見られた。


「くっはははっ。皆の所に、行こうかシャル」


 レオンハルトは、(かが)んでいた姿勢から立ち上がり、籠を持つと開いていた方の手をシャルロットに差し出す。


「んふふ。そうね」 


 五歳児にしては、大人びた反応を見せるシャルロットだが、レオンハルトは気にすることはなかった。他の人が聞いたら恐らく違和感ぐらいはあるだろうが、そこはお互いに前世の事を知っているからだろう。


 レオンハルトの手を借りて、ゆっくりと立ち上がる。


 二人は皆の待つ場所へ向けて、歩き始める。


 その際、二人は「これからもよろしく(ね)」と言って進んでいった。


 そこには、前世とは違った二人の距離感が見受けられる。前世では年齢的にも職場での立場的にも先輩後輩の関係であったが、これからの二人の人生は幼馴染というある意味特別な関係と元日本人という共通の立場から強い絆が生まれたのは言うまでもない。


予定投稿日より遅れてしまってすみません。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

また、よろしければ読んでいってください。

次回は来週の金曜日あたりに投稿します。

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