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029 報・連・相は基本中の基本

最近、急に寒くなりました。

でも昼間は暖かかったりもしますので、寒暖の差が激しく体調管理に気を付けてください。


本業が今月も忙しく中々、書けない上に来月もハードスケジュールになりそう。

ストックを貯めておきたかったのですが、ぼちぼち書いては投稿するスタイルで暫く行こうかと思っております。


文章中の言葉が若干異なっているかもしれません。

もし、変なところがありましたら、教えていただければありがたいです。

 魔族との戦闘から数日。


 現在は、集めた素材をトルベンの所に持ってきて、防具作成をお願いしていた。既にハンナの所へ材料を渡し終えているので、其方は出来るまでもう暫くかかるそうだ。


 魔族との戦闘からこれまで日数が経過してしまったのは、その後の後処理に時間を費やす羽目になってしまったから。


 魔族が姿を消したその後、その場にいた五人は一先ず疲労した身体を休めるため、戦闘を行った近くで、野営をする事にした。


 魔族との戦闘は非常に密度の濃い戦闘だったのだろう。全員が全員。ぐったりしてしまう程だったのだから、それに加え俺とシャルロット、リーゼロッテの三人は魔力欠乏症になりかかっていた。


 ダーヴィトとエッダに持たせていた魔道具の魔力もなくなっているし、エッダの武器も魔力を失っている状態で今はただの槍とかしている。


 そんな五人が森で魔物や猛獣が居る森の中で野営をしても大丈夫なのだろうかと思うかもしれないが、この森の生物は今かなりの数を魔族の実験によって駆逐されている。それにその駆逐から逃れたものも先の戦闘でこの一帯には暫く近寄っては来ないと言う事もあり、見張りも立てずに深い眠りについた。


 翌日、昨日の戦闘を詳しく話し合いをした。魔族との戦闘、その能力。特に白髪の老人の魔族は皆戦闘に加わったためにどれほどの強さかその身を持って体験しているが、残りの二人は全く分からないからだ。


 加えて、スクリームと言う個体名の人型の生物について、これは多くの個体と戦闘をしたダーヴィトとエッダから詳しい話を聞きつつ、それを捕捉するようにレオンハルトが、個体名や倒し方を伝える。


「レオンは、あれと何処かで戦ったのか?と言うよりも何故スクリーム・・だったか?その名前を知っているのだ」


 倒し方は今の所、この四人は知るよしもなかった。それをスクリームと戦闘をしていた時にいなかったレオンハルトが倒し方を伝えた事に皆疑問を浮かべたようだ。


「俺もあの人型の生物とは戦闘をしたんだ。それもお前たちが戦闘をする数時間前にな」


 そして、昨日・・・と言うよりは、皆と別行動をした頃からの話を説明した。川から人が流れてきて酷い怪我と衰弱から治療と看病を行い。動けるようなってから街まで誘導した事。その道中に今回と同じように人が襲われていて、助けに向かうが間に合わず、その場にいたのが魔族とスクリームと言う生物。それらを撃退した事も伝える。


「死骸も俺の方で確保している。これがそうだ」


 と言って、魔法の袋に仕舞いこんでいた魔族の死体とスクリームをそれぞれ一体ずつ取り出す。


「私たちが戦った魔族とは違うようですね」


 シャルロットは、取り出した魔族を見ながらそう尋ねてくる。レオンハルトが単体で倒した魔族は鬼人。シャルロットたちが戦った魔族は悪魔。魔族でも異なる種族が共同で何かしている事は容易に理解できた。


 その後、死骸を回収したのち、何か手掛かりになりそうなものを物色。茂みに残された魔族の血液や地面に落ちていた血液の後を見つけ採取。切り付けた際の服などの切れ端は、最後の攻撃により吹き飛ばされたのだろう。数枚程度しか見つける事が出来なかった。


 イリード支部へ報告に行き、ギルベルト支部長と面談。事のあらましを説明した。


「何ッ!!魔族だと!!それは本当か!?」


 応接室の様な場所で、話をしていると急に机と叩き立ち上がった。そして身を乗り出すように聞いてきたのだ。これには正直、怖いものを感じた。ギルベルト自身、見た目が厳つい上体格も良い。子供である俺たちの大きさからすれば、熊に襲われていると錯覚してしまう。


 これは、あくまでその後シャルロットが教えてくれた事なのだが、それを聞いたレオンハルトも確かにと頷いてしまう程だ。


 シャルロットたちに行ったように魔族の死骸とスクリームの死骸を取り出した。


「こ、これは、鬼人族か・・・・それにこっちが話で聞いたスクリーム」


 ギルベルトは、出された死骸を念入りに観察。そして、スクリームの胸の一部に注目した。


「これは、タグの様に見えるが・・・」


 その事に気が付いたレオンハルトは、直ぐに場所を変え取り出してみる事を提案。その提案をギルベルトも承諾し、一行は魔物解体場所へと移動した。あのまま応接室で死骸を出していれば臭いしみついてしまう上、解体なんてしてしまえば、殺人現場に見えてしまうからだ。


 解体用ナイフで先程の場所を(えぐ)り、タグの様なものを取り出す。正確にはタグの様な物ではなくタグそのものだった。ベテランにもなればタグを所持している冒険者も多い。死んだ後の身元が分かるように名前や遺言みたいなことも記載したりしているからだ。


(ディー)ランクの・・・・名前はギュンター・・・ここら辺では聞かない名前だな。この者の身元は、他の支部へ問い合わせてみるとして、それよりも問題なのは、(ディー)ランク冒険者が、この様な無残に負けてしまうと言う事だ」


 実際、イリード支部からも新人捜索にベテラン冒険者を派遣し帰ってこなかった。この事と無関係とは思えない事から、新人冒険及び捜索に当たったベテラン冒険者は、実験材料になったか実験成果の為の犠牲になったかのどちらかの可能性が非常に強くなってきた。


 今はまだこの事態を公にしない事になり、依頼達成料と追加報酬、それに口止め料までいただく事になった。魔族の死骸とスクリームの死骸はすべてギルド側へ提出。色々調べてみると言われ、俺たちは後にした。


 ギルベルトに聞いたが、如何やらギルド本部へ赴き事の説明を行うと言う事で、その結果次第では、君たちを呼ぶ可能性もあると告げられる。


 報告に丸一日費やし、翌日は商業都市プリモーロのハンナの元へ向かい。素材を提出、その場でまさかの追加素材を言い渡されるのと、人手不足で手が回らないとの事で、一時的にお店の販売係やデザインなどをさせられることになった。


 役割としては、俺とダーヴィトが素材確保に向かい。リーゼロッテとエッダが売り子。シャルロットがデザイン担当をする事になった。


 普段、雇っていた子が疲労で倒れた親の手伝いに駆り出されてしまい。ハンナの店側が人手不足に陥ったようだ。


 それに、俺にデザインのセンスを求められても困るし、それはダーヴィトも同様の様だった。それに比べシャルロットは、前世の記憶もある上に恩恵もあり、知識、センス共に群を抜いているだろうと思い推薦した。


(彼女は、前世の私服のセンスもすごく良かったから大丈夫だろうね)


 そんな日が数日続いて、漸く雇っていた子が現場復帰し、お手伝いも問題なさそうと言う事で、イリードの街に戻りトルベンに合いに来たと言う事だ。


 だが・・・・。


 防具を作ってもらう予定が、それぞれ俺が所持する武器の消耗が激しいと言う事で、先に武器の手入れから入る事になり、それが済んでから防具の作成に当たるとの事で、すべてが終わるまで約二十日かかると言われる。


 武器の手入れに大方七日程、防具の作成に十日程、残りの三日は防具の最終調整だ。


 ハンナに頼んだ服も防具と大して変わらない日数を要するので、結局の所暫く活動する事が出来ない。魔法と予備武器でも狩りに行くことは可能だが、そこまで急いで収入を得る必要もない。寧ろ、手持ちはかなり裕福な状態になっている。


 正確に枚数を数えたわけではないが、狩りで得た魔物の食材や素材、依頼による報酬、その他多方面に渡り収入を得ている状態だ。お金は貯めるだけではなく、消費させないと経済が回らない。そんな事もあり、五人はイリードの街でウインドーショッピングやちょっと高めの宿、美味しい食事処、孤児院へのお土産などを楽しむ事にしたのだ。


「一人当たり、金貨五枚ぐらいあれば良いか?」


 日本円にして五百万円。五人だと総額二千五百万円になる。高いか低いか問われれば、多少腕に自信がある冒険者であればある程度持っている者も多い程度の金額。武器や防具の消耗が激しい冒険者たちは、新しい武器を購入するだけで高額のお金があっと言う間に無くなってしまう。


 そう考えれば、レオンハルトの提示する金額がどれ程のものか分かるだろう。そう決して高いわけではない。だが、娯楽で使用する金額で考えれば些か高い方でもあるのだ。


「多い気もするが、まあ全部使わないといけないと言う事もないのだろう?今回は、共有費から出るわけだし、余ったらどうすればいい?」


 ダーヴィトの言う様に今回の資金は、皆が共有して溜めている生活費とでも言えばよいのか。兎に角、共有財産から提供するのだ。


 因みに、依頼などの報酬の内訳は、主に半分を共有として残りの半分をそれぞれで分割。個々で受けた依頼などは、約二割強を共有費に入れ残りを自分の物にしている。


 まあ、誰が決めたわけではないが、気が付けばそのような体制を仲間の中で決められていたのだ。


「んー余れば共有費に戻してくれてもいいぞ。足りない場合は各自で出すように」


 各自の手持ちも他の冒険者からであれば考えられない程貯め込んでいる。


 レオンハルトも金貨五十枚近く持っていて、日本円にすると五千万円。次に多いシャルロットが四十枚前後、リーゼロッテはそれより少ない程度で、ダーヴィトとエッダでも金貨二十枚近く所持しているのだ。


 冒険者は命の危険が高い分、実力があれば一攫千金も夢ではない職業なのだ。


 一行は、宿屋に戻り私服に着替えるとダーヴィトとエッダは、そのまま街の中を散策へ。レオンハルトたち三人は、宿屋の中にある食堂で待ち合わせをした後に、孤児院へ持って行くお土産を探しに行く事にした。


 街の中を散策して暫くすると、顔見知りが前方から歩いてきた。


「おー。君らか。今日は活動しないのだな」


 数名の部下と馬を引き連れたギルベルトと遭遇。


「ギルベルト支部長は何処かへお出かけですか?」


 十中八九あの件だとは分かるが、只報告するだけならば手紙でも良いのではないかどうかとも思う。直接会う方が良いと判断したのだろうかと思っていたら、ギルベルトがその問いに対して答える。


「君たちが倒したアレの事でな。如何(どう)やら他でも同じような事が、起きていた事が分かり王都にあるギルド本部で、各ギルド支部長も交えて緊急会議が開かれる事になったのだよ」


「他でもですか?」


 レオンハルトには身に覚えがある事だ。だがそれを知られると此処に居る事に対する辻褄が合わないのがばれてしまう。


「ああ。(エー)ランク冒険者や(ビー)ランク冒険者十数名で対処に当たったとの事で、数か所からそのような報告を受けているのだよ」


 レオンハルトは、単独での撃破を行っているので、話に上がった報告が自分でない事に少し安心する。


「ついでにあのタグの持ち主が消息を絶った場所も分かったぞ。彼は、王国の北部にある鉱山都市ラヴェンドそこで活躍していた冒険者の様だぞ。行方不明になって十日程の様だ」


 鉱山都市ラヴェンド。レーア姫を送り届けたセーモの街より更に北北東へ進んだところにある街で、セーモからの距離は馬車で十五日以上離れた場所にある。と言うのもラヴェンドの街は大きな山の中腹辺りに作られた町で、都市の名前通り鉱山で賑わう街だ。山にたどり着いてから街までが三日かかると言うわりと不便な街とも言えるが、鋼鉄などの採掘量は国で一番であるため、不便にも拘らず、人の行き来は多い。


 そして、ギルベルトの話は続き、冒険者以外にも商人や一般人。獣人族や亜人族も数名行方不明になっているとの事。


 レオンハルトがセーモの道中に遭遇した集団、イリードの近くの森にいた集団も人族だったため、獣人族や亜人族は他の場所へ行ったのであろう。


 人族であれだけ面倒なのだ。人族よりも優れた力を持つ獣人族や亜人族がスクリームと化したらどれほど手におえないのか想像も付かない。


 ギルベルトは、必要な情報をレオンハルトたちに伝えた後、出発の準備がある様で部下を連れてその場を立ち去る。


 大事になっている現状を聞き、もしかしたらとレカンテート村にも被害が出ているかもしれないと思った三人は、買い物を手早く済ませて、その日のうちにレカンテート村へ移動した。










「普段とあまり変わらないな」


 レカンテート村近くの森へ『短距離転移(ショートテレポート)』で移動した三人は、移動したところを襲われても良いように最低限の装備を身に武器を構えた状態で移動した。普段使う武器ではなく予備武器なので若干心許ない気がする三人であったが、移動先の様子を見ると普段となにも変わらない現状にほっと胸をなでおろした。


 そのままレカンテート村まで徒歩で移動。周囲の気配も今まで過ごしてきた時と変わらず、そこら辺に小動物の反応が見られた。中にはゴブリンもいる様だったので、害がありそうな集団のみを倒し、ついでに日頃からお世話になっているランドバードやフェザーラビットも幾つか仕留め魔法の袋に放り込んでおいた。


「おや?リーゼちゃんにレオンくん、それにシャルちゃんじゃない。また帰ってきたんねー。おかえり」


 村人たちが歓迎してくれる。レオンハルトたちがこの街へ来たのは、生誕祭の後にもう一度訪れて以来だ。その時は、ちょっと珍しい食材を入手したのでそのお裾分けに戻って来て、アンネローゼに少しだけ呆れられたのを覚えている。


 孤児院を出た人で、音信不通になる者が三割強、手紙などで連絡をしてくる者も同じく三割強、残りはレオンハルトたちの様に稀に食料などを提供してくれたり、会いに来てくれたりしてくれる。だが、その中でもレオンハルトたち三人は、会いに来る頻度や物資の量が他の者よりも多いのだ。


 一つは、アンネローゼはリーゼロッテの実の母親だからであろう。もう一つはまだ、シャルロットの実の妹アニータがこの孤児院にいるからである。それに、精神的に大人であるレオンハルトとシャルロットにしてみては、守るべき対象に位置しているからとも言えなくもなかった。


「お姉ちゃん!?それにレオンお兄ちゃんたちもどうしたの!?」


 アシュテル孤児院へ入ろうとすると、急に玄関が開いた。そして一人の女の子が現れて、いきなり目の前にいる人物に驚く。


 シャルロットと同じ髪の色に瞳の色。そして、数年前のシャルロットの様に少し幼く見える容姿のアニータ。確実に姉のシャルロットに負けず劣らずと言った姿に驚きを隠せない。


 何と言っても今の彼女は弓矢を持って狩りの準備をしていたのだ。


「うお!!・・・アニータかッ!?その恰好は・・・孤児院時代のシャルにそっくりだな」


 それには姉のシャルロットとリーゼロッテも同意見だったのだろう。玄関先でいきなりお話タイムになるあたり流石は女子と感心してしまう。


 そう言えば、今の狩猟メンバーはアニータが筆頭となって行われている事を思い出す。この事は前回来た時に聞いてはいたのだが、その際にアニータと会う事がなく。狩猟時の姿も見てはいなかった。なので、今回初めてアニータの狩猟の姿を目にした。


「アニータちゃん?狩りに行くのは待って・・・あれ?三人ともまた帰ってきたの?」


 姿を見せたのは、リーゼロッテの母親にして、俺たちの母親でもある存在アンネローゼだ。アニータと違って全く驚いていない様子。


「何かあったの?」


 流石は元一流の冒険者だっただけの事はある。普段と変わらない様にしていたつもりだったが、何処で判断されたのかあっさりと見破られたのだ。


 そこで、魔族と遭遇し戦闘に至り、何かを企んでいる事を説明。流石にアニータを含む子供たちには余計な不安を与えるのは不味いと判断し、この場所にいるのは、レオンハルトたち三人とアンネローゼ、修道女(シスター)シーダの五人だ。ミュラーは子供の世話をしている際中だ。


「・・・・・・それで、この辺りにも魔族が・・・」


 修道女(シスター)シーダが恐る恐る訪ねてくる。このあたりに魔族が居た場合抗う事も出来ずに蹂躙されるからだ。だが、その不安を取り除くためにレオンハルトが口を開く。


 森の中の捜索を終えている事。今現在不穏な点がない事を説明した。


 険しい表情を示すアンネローゼ。その真剣さからどうするのか対策を考えているのだろう。


「それで、その新種の魔物・・・になるのかしら?倒せる手段はあるのね」


「はい。ただ痛覚が無く、急所以外を攻撃しても意味がない。狙うのは心臓と頭部の二箇所を破壊する必要がある。仲間の話では火の効果もあまりないとの事だ。上級までの威力があれば倒せるようだけど」


 火属性上級魔法は、アンネローゼには使用できない。火属性の適正が彼女にはなかったからだ。仮に在ったとしても使えるのは精々二、三発ぐらいだろう。適性のある水属性の上級魔法でも二発撃つと魔力欠乏症の症状が現れ始める程なのだから。そもそもこの域に達するのはほんの一握りしか使用できない事を考えれば、アンネローゼの実力の凄さが分かる。


 その後、お土産の品と獲物をアンネローゼに渡し、夕方にはイリードの街へ帰ろうとした時にアンネローゼから別件で話しかけられる。内容は、俺たち冒険者に依頼をしたいとの事で、内容は孤児院にいる子供たちに狩りの方法、戦い方、採取方法などの指導をお願いしたいとの事。


 冒険者としてではなく、身内として手助けすると申し出るが、却下された。何でも、冒険者は実力だけではなく功績も必要になってくる事があるから、その功績の一環にしてほしいとの事だ。


「それと・・・良かったら、アニータをイリードに連れて行ってもらえるかしら?」


 アニータをイリードの冒険者ギルドで依頼を出し、レオンハルトたちが受けられるようにする目的と久々の姉妹で過ごせるよう配慮してくれたようだ。


 だが、ここにきてまさかの問題が発生する。アンネローゼやアニータに『短距離転移(ショートテレポート)』の件を教えていない。アンネローゼは近くに馬車を待たせていると思っているからそう言う発言をしたようだが、残念ながら馬車などどこにもない。


 此処は、アンネローゼやアニータに本当の事を言うか、若しくはアニータだけに伝えると言う手もあるし、最悪はアニータの同行自体を断ると言う選択肢もあった。


 三人はどうするのか決めあぐねていたが、寂しそうな表情をするアニータを見てシャルロットが決心し、同行を承諾した。シャルロットの発言を聞いたレオンハルトとリーゼロッテも決意を固めたのか、表情に迷いがなくなり、アンネローゼに本当の事を打ち明ける。


 『短距離転移(ショートテレポート)』をレオンハルトとシャルロットが使用できること。また、『転移(テレポート)』も使用でき、十数回なら問題ない事を明かす。実際は、十数回ではなく数十回は使用できるのだが、そこはあえて伏せておく。行った所で証拠もなければ、使用するのも無意味なので説明しなかった。


 だが、その事実を知ったアンネローゼは、驚いた表情を見せる事はしなかった。普通であれば、『転移(テレポート)』の使用できる人物は、国や貴族に専属として迎え入れてもらえるだけでなく高額で雇ってもらえる程、すごい事だ。


 なら・・・・なぜ驚かなかったのか。


 聞けば、アンネローゼは二人のうちのどちらかは『転移(テレポート)』が使えると知っていたそうだ。流石に二人とも使えるとは思っていなかった様だが、使える事を知った理由は、三人の行動に矛盾する事が良く合ったのだと言う。


 それが確信に変わったのは、三人が此処を旅立った時に渡された魔法の袋に入っていたロック鳥の肉が入っていた時だと言う。


 ロック鳥は、この近辺には生息していない。一番近くに居る場所まで馬車で二日の距離だ。その距離を子供がニ刻から三刻で行き来するのはまずありえないし、逆にレカンテート村近辺に現れたと言われてもその際は必ずアンネローゼ自身が察知する事が出来る。


 その他にもレオンハルトたちをイリードの街へ連れて行っていないのに、アンネローゼがイリードに来るとレオンハルトたちの話を冒険者ギルドや普通のお店で聞く事があった。これもまた子供が歩いて行ける距離にはなく。馬車でも数刻では辿り着かない。


 そう考えると、イリードの街に頻繁に行ける手段。そして、そこそこ遠い場所にいる魔物を狩れる移動力の総合的な事を鑑みて、何らかの魔法を使用しているのだと推測できた。その中で最も知れ渡っているのが『転移(テレポート)』だったというわけだ。


 冷静なアンネローゼとは逆にこれまた想像と違う反応を見せるアニータ。彼女の眼差しは昔から真っ直ぐ尊敬の眼差しで三人を見ていたが、その尊敬の眼差しをより強めてみてきた。


「す・・・・すごい」


 二人には聞こえていなかったかもしれないが、レオンハルトはアニータが小さくつぶやいた言葉を辛うじて拾った。


 ただ、他の人には知られないようにするため、レカンテート村から外れた場所までアニータを含めた四人で向かい、イリードの街の近くへと『転移(テレポート)』で戻った。


 その日は、アニータの分の宿屋を追加して、他の仲間と合流。夕食を取りながら、今日の出来事を報告し合う。レオンハルトはレカンテート村で起こった事を説明し、主で使用する武器の手入れが終わるまでの少しの期間、狩りの手ほどきや戦いの指導をする事になった事を伝えた。


「なら、俺たちも手伝うぜ」


 ダーヴィトの言葉に他の者も頷き、結局全員で行くことが決まった。明日は、アニータが指南の依頼をレオンハルトたちに指名依頼し、それをその場で受諾して必要な物などを調達。明後日の朝にレカンテート村へ行く事にした。


 なぜか、ダーヴィトが嬉しそうにしていたので、個別で話を聞いてみたところ。


「いやー誰か一人でも盾の魅力に気が付いてくれたら良いなって思ってさー。盾の攻撃は中々威力があるから好んでくれる子もいるかもしれないし、今からワクワクするだろ?」


 実にどうでも良い事で浮かれているようだった。だが、楽しみにしている彼を前にそんな事は口にできないので、当たり障りのない内容で返答する。


「まあ、攻撃は最大の防御と言うからな」


 実際ダーヴィトは、純粋な攻撃力や防御力は五人の中では高い方だろう。盾を主にしている割に攻撃を受けない様に立ち回るし、攻撃を受けても盾で防ぐ手腕だ。普通の盾を主にする者とは少し異なる戦い方をしている。


 盾を主とする者は、頑丈な大盾や全身鎧(フルプレートアーマー)に身を包み、強敵の攻撃をその身に受け続け、仲間を守るのが一般的なのに、目の前の人物は、軽装に盾も一般的に比べて少し小さい物。守ると言うよりも武器として考えている人物だ。


「ん?それはどういう意味だ?」


 この世界にない言葉の様で、その意味を聞きに来るダーヴィト。盾を使うが故に防御と言う言葉に反応したのか分からないが、何か感じる所でもあったのだろう。


 レオンハルトは、その言葉の意味を説明する。それを聞いていたダーヴィトは、次第に目を輝かせ始める。


「それは、いい言葉だな!!攻撃は最大の防御・・・よし、これからはその言葉を信念にしよう」


 何故かわからないが、ダーヴィトの心に響いたのだろう。ただ、この言葉は一つの過程に過ぎない。そもそも攻撃は、行う側と受ける側の技量が対等か、行う側の方が高くなければ成立しない。受ける側の方が実力者であれば、攻撃を容易く躱し反撃を繰り出し相手を倒す事も出来るからである。


 まあ、実力差があってもその時の戦況によって勝敗は異なってくるし、ダーヴィトも戦いの中でそのあたりの事を理解してくれるだろうと判断し、否定するのを辞めた。


 翌朝は、此処に用事を済ませる。アニータは、姉のシャルロットと共に冒険者ギルドへ。リーゼロッテは、エッダと共に消耗品の買い付け、レオンハルトとダーヴィトは、トルベンの元へ向かい。数日街を離れる事と子供たちが使用できる武器の調達だ。


 とは言うが、子供用の武器等普通は存在しない。なので、購入するのは短剣や短い槍、小型で木製の円盾。一応、円の周囲は鉄で補強されている言わば、冒険者に成りたてが使用するような装備を幾つか購入した。


「あとは、杖系とメイスなどの鈍器も欲しい所だけど・・・・防具もどうするかな」


 トルベンの店内を見て他に必要そうな物をピックアップするが、流石に子供用の鈍器や防具は置いていない。


 杖は、少し長い感じもするが使えなくはないが、教える子供たちの中にヨハンや自分たちの様に魔法を得意とした子供が何人いるかもわからないので、此方も少し考えものであった。


 それに、魔法を発動させやすくする杖などは、他の武器に比べて値段も高いので、扱いをどうするかという所も実際、悩んでしまう。


値段が高い事自体は、彼らにとって全く問題にはならないが、アンネローゼがそこまでの事を望んでいるのか、ほかの子供たちと差別扱いにならないかと言う点では、悩むに値する問題であったからだ。


「お?なんだーそんな真剣に悩んでからに?」


 声をかけてきたのは店の主でもあるトルベンだった。どうやら彼は、店内で真剣に悩んでいた俺たちの事に気を使い、店番をしていた奥さんのペートラが見かねて、亭主であり店の主でもあるトルベンを作業場から引っ張ってきたのだ。


 そこで、子供たちに狩りのやり方や戦い方を教える事になって、その武器と防具を探していたところだと説明する。剣や槍は購入したが、魔法を使うための物や鈍器系、防具系をどうするか考えている事を説明した。


「ああ。なら明日の朝にもう一度ここを訪ねてきな。それまでに用意しておいてやるからよ」


 気前よく作ってくれるというトルベンに、感謝を述べ。ほしい武器を幾つかリストアップして伝えた。その作成に時間を取られると言う事で、俺たちの武器の調整が一日か二日遅れると言われるが、そこまで急いでもいないので、構わなかった。


 そして、約束通りレカンテート村へ行く前にトルベンの店に寄り、注文していた武器や防具、また注文していない武器、道具まで揃えてくれていた。


 何でも注文していない武器や道具に関して、試験的に作成した物で、作成者もトルベンではなくその弟子たちが、練習ついでに用意した物らしい。


 練習と言う事で商品として扱うつもりがないトルベンは、代金の代わりに使用時の感想を教えてほしいとの事。幾ら弟子の作品で商品として扱うつもりがなくても量が量だけにただでは受け取れず、代わりに魔物の食材を渡し弟子たちに労ってもらう様にした。


 何せ、注文の二倍近くの量の武器に道具だ。材料だけでもどれだけのものを使用したのか想像がつかない。まあ、殆どが鉄か魔物の鞣した革だが、それでも立派な資源だ。五人で手分けして魔法の袋に武器や防具を入れて行く。


 アニータは魔法の袋を所持していないので、その様子を観察していたら、何か気になる物を見つけたのか、ある物を真剣に眺める。


「アニータ?どうかしたのか・・・ああ、短刀か、これがどうかしたのか?」


 商品の陳列棚に並ぶ日本刀シリーズ、その一角に小刀や短刀も幾つか展示されていて、そのうちの一つを物欲しそうに眺めていた。


 トルベンに短刀の存在を教えて、それも商品化しており、このお店の目玉商品の一つでもあった。


 眺めている短刀は、刀身の長さが一寸よりも少し短い物で、作業工程に何か別の事を加えたのか刀身の色が銀と青の二色のグラデーションに色づけられていた。それでいて柄と鞘の部分を真っ白に淡い青色をアクセントに装飾していた。


 値段を見てみると四十万ユルド・・・金貨四枚の値段が付けられている。


「結構高い値段だなー。素材は何を使用している?」


 レオンハルトは、トルベンに問いかける。


「ん?ああ、それかーミスリルを混ぜ込んどるんじゃ。色合いが何故かそれだけ良いように出てのー。値段が高くなっているんじゃよ」


 他の短刀と見比べても出来具合は、良く。それに加えて、色が美しく表れている為、値段が他よりも二倍近く高くなっている。


「なら、これも購入するから出してくれるか?」


 レオンハルトの言葉にアニータが驚く。


「レ、レオンお兄ちゃん!?買わなくても良いよ。私はただ綺麗だなって思っていただけだから」


 金額が金額だけに慌てて拒否するアニータ。孤児院にいる子供は基本お金を貯めても銀貨にも届かない程度だ。それを銀貨どころか金貨数枚する代物を購入した彼に対し、今まで見た事がないぐらいの慌てようのアニータ。


「これは、義兄から義妹へのプレゼントだ。遠慮しなくても良い。それにこの武器の作り方を教えたのは自分だから多少は融通してくれているから大丈夫」


「アニータちゃん良かったねー。レオンくんは、こう見えてお金持ちだからいっぱい買ってもらうと良いよ」


 シャルロットの言葉は、別に裏があるように聞こえるかもしれないが、実際は言葉通り純粋に発言している。傍から見れば、妹に嫉妬する姉と言う構図なのかもしれないが、レオンハルトもシャルロットも精神年齢が実年齢の倍以上あり、アニータは妹と言うよりも娘に近い感覚だから、アニータを可愛がる事は別に可笑しい事でもなんでもない。


 それに、レオンハルトだけでなくシャルロットもアニータには甘い部分がたくさんある。現に、レオンハルトが短刀を買っている最中に彼女は彼女で、昨日購入しておいたアニータへのプレゼントを出し始めた。



「これは、お姉ちゃんからねー。ちょっと腕出してみて?」


 ブレスレット型の魔道具、少量の魔力しか持たないアニータでも使える様な代物で、魔道具の効果は『治癒(ヒール)』が使用できる。ただし、使用回数は魔力を最大に補充している状態で二回と言う。若干、使い勝手が悪いものだ。


 だが、これでもかなり高価な装備で、購入するとなるとレオンハルトが購入した短刀と同額の金額になる代物。コストの悪さが目立つ一方、いざと言う時の保険として譲歩されるため、人気が高く。魔道具店でもあまり見かけない事が多い。


「え?お、お姉ちゃん!?ええええッ!!」


 何度目になるだろうアニータの驚きが店内に響き渡る。シャルロットは渡す際にきちんと説明していた。


 独り立ちをすれば、否応でも魔物や獣との戦闘は避けられない。場合によっては同じ人間同士でも殺し合いをする可能性があるのだ。その時の為の準備と言う事で渡しているのだと言う事。


 アニータは既に十歳。もう何時独り立ちをしても可笑しくない年齢なのだ。レオンハルトやシャルロットたちがアシュテル孤児院を旅立ったのも一年ほど前になる。だから、会える内に渡しておくことが必要だった。


 リーゼロッテも何かしら用意しているそうだが、レオンハルトとシャルロットの高額の贈り物の後に出しにくいと言う事で、後日改めて渡すようだ。


 一行は、トルベンの店を後にして、イリードの街を出てから人気のない場所へ移動し、そこからいつもの様に『短距離転移(ショートテレポート)』でレカンテート村近くの森へ移動した。


 そこから徒歩で四半刻もしないうちにレカンテート村にあるアシュテル孤児院へ到着し、依頼を引き受けた事の報告と子供たちに教える内容の再確認を行った。


 依頼の期間は三日間。その間の寝泊まりはアシュテル孤児院の近くにある空き家を借り受ける事に決まった。


 三日間のスケジュールとして、初日は・・・つまり今日は、持ってきた武器や防具を見せて装着の仕方、武器の使用方法、武器の適正等を行っていく他、狩りでの注意点をおさらいして行く事にした。


「みなさーん。今日は、冒険者の人にお願いをして狩りの方法や魔物との戦い方を教わっていきたいと思いまーす」


 アンネローゼの言葉を聞いた子供たちは、全員元気よく返事を行う。


「アンネせんせい。レオン兄が居るのは何でー?」


 赤毛の男の子、ライナー。彼は今年八歳になる元気で明るく、孤児院のムードメーカーの様な存在だ。因みにライナーは、レオンハルトたちがたまに面倒を見ていた子供の一人でもある。


 アンネローゼから狩りの講師として招かれた事を説明。他にもシャルロットやリーゼロッテの顔なじみから、ダーヴィトとエッダの新顔まで紹介した。


 アンネローゼに断りを入れてから、武器の一部を幾つか取り出し、説明する。


 槍、剣、弓は、基本的にアシュテル孤児院でも教えている。そこで、ダーヴィトが進める盾やクルトが得意としていた短剣、トルベン作のメイス、槍斧(ハルバード)に弟子作の細剣(レイピア)等を取り出しては説明する。


 盾にはやはりと言うべきか子供たちは余り食いついてこず、逆に槍斧(ハルバート)細剣(レイピア)の食いつきは良かった。


「さて、一通り説明をしたが、聞くより実際の戦い方を見てもらう方が良いだろう。まずは、槍対剣の戦闘をエッダとリーゼで行ってもらう。その後は・・・」


 盾対メイスでダーヴィトとレオンハルトが模擬戦。短剣対細剣(レイピア)でシャルロットとリーゼロッテ、槍斧(ハルバート)対日本刀でエッダとレオンハルトが担当する事になる。


 それ以外に体術対短剣をダーヴィトとレオンハルトが行う予定だ。


 これで、接近戦の大まかな戦闘スタイルを見る事が出来るだろう。実際には、他にも多くの種類の武器がるがすべてを説明するには時間が余りにも足りない上に、必要のない事まで教えて必要な事が覚えきれないのでは意味がない。


 初めの模擬戦から子供たちは食い入るようにその戦いを見る。それもそのはずで、孤児院の子供たちが武器を持った状態で戦闘を見る機会などあまりない。アンネローゼが木剣で子供たちの武器を軽く弾く程度で、後は過去のレオンハルトやユリアーヌの戦闘を観察するぐらいしかなかったが、今いる子供のほとんどは、その頃余りそう言った場面に触れる様な年齢でもなかったから、実質初めての経験でもあった。


 剣と槍の激しい攻防が繰り広げられる。これは子供たちから見た目線で、戦い慣れした者は、軽い打ち稽古みたいな感じだ。


 とは言っても、同年代で言えば群を抜いて実力をつけている二人だ。一般人が見てもすごいとさえ感じてしまうだろう。


「アンネ先生から教わっていると思うけど、槍の間合いで剣を使うのはかなり不利だけれど、剣の間合いに持ち込めれば、逆に槍が不利になる。武器の善し悪しはそれぞれ違うから、自分の適した戦い方で武器を選ぶのも一つだよ」


 模擬試合を行っている二人の戦い方を丁寧に解説していくレオンハルト。子供たちの大半は解説よりも魅入っているが、残りの半分はきちんと学ぼうと解説にも耳を傾けていたので、レオンハルトもそのまま解説を続ける。


「エッダ、リーゼ。もう少し早さを押さえてくれるか?それと互いにフェイントと決めれると思った時は、打ち込んでみてくれ・・・ただし、寸止めで頼むぞ」


 レオンハルトの指示で、戦い方が少し変わり、お互い距離を開ける。


 構えも少し異なり、ジリジリとお互いが距離を詰めると、再び槍と剣が衝突する。しかし、先程の攻めの攻撃から、お互いにフェイントを入れ始めた事で、防御から回避、また身体捌きや足捌きなど巧みに使い分け攻撃し始めていた。


 リーゼロッテの上段を横一閃するかと思いきや、剣閃の軌道が突然変わり下段から斜め上に切り上げたり、身体を回転させることで、剣捌きを巧みに操る。一方、エッダも槍術と棍術、体術で槍を自由自在に扱い中距離と近距離の攻撃を素早く切り替えていた。


 結局、結果は引き分け・・・・そもそも勝敗を付ける試合ではない。戦い方を見てもらうのが目的だ。そしてそちらの結果は、かなり上々と言ったところ。子供たちは既に木剣でリーゼロッテの真似をしたり、エッダの真似をしたりしている子まで現れるほど。


 まだ、他にもあるから、しっかり観察するように伝えた後、残りの模擬戦を行う。


「オレは、あの大きな武器を使えるようになりたい」


「うちは細い剣がいいー。何かかっこいいもん」


「僕は、怖いから盾と剣で・・・」


「わたし、アニータちゃんと同じ弓にする」


 子供たちはそれぞれ自分がなりたい、若しく出来そうな武器を選ぶ。当然、この段階ではトルベンにお願いした孤児院の子供たち用の武器は出してはいない。今各々が手に取る物は、レオンハルトが孤児院時代に作っていた木製の武器だ。片刃な両刃の剣や短剣、短槍、槍、棍棒、木槌、盾、弓矢等だ。すべて作ってあったわけではなく、盾はトルベンの所で売っていた木製の円盾を取り出しているし、木槌や棍棒は前の日に急遽作った代物。


 子供たちが各々手にした武器で、先程の演武を真似るが、誰一人として盾を武器にする者はいなかった。そのため若干ダーヴィトの元気が始める時よりも数段落ちているのが目に見えた。


 参加している子供は十人。一人あたり二人の子供を指導できるというわけで、それぞれ選んだ武器が、指導者が持つ武器に近い様に振り分ける。


 シャルロットには、妹のアニータともう一人、女の子が指導。エッダは、短槍を選んだ女の子と槍斧(ハルバード)を希望していた男の子だ。流石に槍斧(ハルバード)の木製は用意していないので彼は渋々槍を選択していた。


 リーゼロッテの所に細剣(レイピア)希望の女の子と盾と剣の王道を選択した男の子。ダーヴィトには、棍棒を持った参加者で一番体格の良い男の子に木槌を持った華奢な女の子。


 選択肢として、どうなのだろうと疑問を覚えつつも、実際に使用しあっていなければ他に変えれば良いのだから、今は何も言わず見守る事にした。


 そして、レオンハルトは短剣選んだ小柄な男の子と、何も選択しなかった女の子を受け持つ。


「カミラちゃんは体術を学びたいのかな?」


 何も選択しない。それはつまり武器を使用しない体術つまり格闘技を選択すると言う意味。そして、純粋な格闘技はかなり使い手が少ない。前世であれば空手、詠春拳や太極拳などの拳法、柔道にボクシング、截拳道(ジークンドー)、システマなど多種多様に存在し、その存在意義も明確にして確実な物だ。


 だが、この世界では生身の技で全身鎧(フルプレートアーマー)の重武装に挑むのだ。しかも、そんな敵はまだよい方で、悪ければ前世で言うところのティラノサウルスやサルコスクス、カルカロクレスメガロドン、通称メガロドンの様な生物を生身で挑まなければならない。普通に考えたら勝ち味がないと言うよりも勝てる想像すらできない。


 まだ、ライオンや虎、熊と遭遇して挑む方が幾分マシに思えるが、結局同じ結果になるだろう。


要は、体術は何らかの補助があって初めてこの世界で成り立つものだ。


「ああ、レオンくん。カミラちゃんはその点問題ないわ」


 考えていたのが分かっていたかのような絶妙なタイミングで答えをくれるアンネローゼ。彼女の説明では、カミラは魔力をそこそこ持っているようで、ただ身体強化の類しか適性がないと言うちょっと残念な仕様の子供らしい。


 逆を言えば、体術系は彼女にとって有利に働く可能性を秘めているとも言える。


 レオンハルトが彼女を知らなかったのは、彼女がこの孤児院に来て日が浅いと言う事が理由だ。何せここにきてまだ二月ほどしか経っていないとの事で、孤児院に来るきっかけは、両親が魔物に殺され、両親の親戚筋に当たる人物がイリードにいたため引き取られるも、直ぐに面倒が見切れないと理由からレカンテート村のアシュテル孤児院に来る事になった様だ。


 カミラがどれ程戦えるのか、魔法がどの程度使用できるのか分からないが、彼女の魔法の特性を生かせば、魔法で身体強化を高め、打ち出す拳は鋼並みの威力にもなる。


 その事を理解したレオンハルトは、すぐさま二人に戦い方を教え始めた。


 カミラも短剣を選んだ少年ティモも近距離戦を主体にした上、動きや反射神経など様々な技術が要求される。


 教える事が出来る期間は三日間。しかも、その三日のうちに狩りの方法や実践も含まれるし、二人が他の子供との動きを合わせたり、リーゼロッテなど他の指導者に教えてもらう事もある。そう考えれば、猶予は殆どない。


「まずは・・・基礎体力作りや基本的な動きの反復練習をするところだが、それはやり方だけ教えるから、毎日続けることが重要だぞ。それでは、二人には初めにそれぞれの武器の特使を生かした技を二つ教える」


 短剣も体術もこの世界にあるどの流派も最初に覚える技を今回教える。


 短剣なら『ダブルスタブ』。逆手に持った短剣を素早く相手に斬り付け、その後手首を返しもう一度斬り付ける。言うなれば二連続斬りと言われるものだ。それともう一つが『バックスタブ』この技は、相手の攻撃を躱し瞬時に後方へ移動、そのまま敵の背後から一刺しする反撃技(カウンター技)だ。『ダブルスタブ』に比べて足捌き等が重要になるため、使えるようになるまでかなりの練習が必要になるだろう。


 体術の方は、拳を捻るように突き出す『スクリューフィスト』。此方は、見た目は普通のパンチ攻撃だが、手首を回転させることで拳の力を倍増、そして捻るタイミングがうまく行けば更に威力が増す技だ。基本的な技だけにこの技を基準に幾つかの派生技も使用する事ができる。そして、二つ目の技が一つ目の単発の攻撃ではなく、四連続攻撃の『アークティア』と言う技で、異なる急所を四連続で打ち抜く事で、強烈な痛みがまるで雷が走る様な痛みと言う所から名を付けられている。


 本来の急所攻撃を行う事が少なくなり、今では四連撃の技名として残っているが、体術を極める者たちはきちんと技の意味を理解して使用している。


「二人に教えた技は、見よう見まねで使える物ではない。しっかり鍛錬が必要になる・・・」


 レオンハルトは半刻の間、二人にゆっくり動作を行い技のポイントをしっかり教えていった。一方で、弓術を教えるシャルロットや剣術等を教えるリーゼロッテや他の仲間たちもそれぞれの子供たちに技を教えていた。


 槍術『ブラストスピア』、弓術『縫撃ち』、鎚術『インパクトハンマー』、細剣術『フラッシングレイト』など、一般的に知れ渡っている技などを最終的に教えていた。


 槍を使えるエッダは、『ブラストスピア』を使用する事があるが、鎚術『インパクトハンマー』を教えたダーヴィトは、鎚術を使えるわけではない。ただ基本的な技で、過去に冒険者と打ち合いした際に使用していたのを見よう見まねで教えたのだ。だから『インパクトハンマー』本来の物とは少し違うかもしれないが、まあそこまで大差はない。


「よし、こんな感じかな。他の者も集めて合同で練習するか」


 二人の動きを確認しながら、次の練習を行う様に一度二人を集める。


 その後は、他の子供と共に軽く体を動かし、日が暮れてくる前に訓練を終えると、そのままいつもの様に夕食の準備に取り掛かる。


 レオンハルトたちは、久々にアシュテル孤児院の台所で夕食作りを手伝い、ダーヴィトとエッダは、薪割りや幼児の面倒をみていた。


 夕食中にアンネローゼから依頼や指導の件のお礼を言われるが、元々教える事を苦に思っていないレオンハルトとシャルロットに、教える事を新鮮に感じる他の三人は些か対応に困ってしまったが、素直にその俺を受け取る。


「明日は、森の入口で移動の方法や近くにゴブリンが居たら実際に戦闘も行うつもりです」


 翌日からの行動を伝えるとアンネローゼから無理はしない様にと忠告を受け取り、その後簡単な打ち合わせをして、明日に備える事にしただった。

11月中に二回、12月中に三回投稿できるように頑張っていきたいですね。

目標として頑張ろうッ!!


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