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024 ソニアの依頼

おはようございます。こんにちわ。こんばんわ!

平成三十年七月豪雨は、各地でかなり大きな被害を与えましたね。

自分は海外出張から帰ってビックリ!!

関西空港でいきなり命の危険ですって警報来て・・・

ん!?

ってなったよー。

しかも高速道路、一般道、新幹線に電車、何もかも動かず、帰宅できないまま一夜過ごす事に・・・。

翌日は如何にか新幹線が動いていたので帰ってたけど、岡山、倉敷とかなり水没していて、家大丈夫かな?って心配したけど、何も被害が無くて良かったです。

先日は広島へ出張へ行ったけど、土砂崩れが凄いね。普段の四倍近く時間がかかってしまった。皆さんも災害にはご注意ください。


「この先にいるみたいだ」


 まだ、肉眼では見えないがレオンハルトの視線の先に、ソニアが自分自身を差し出してまで助けを求めた彼女の両親やその仲間たちがいる。


 そしてそんな思いをしていた彼女の行動も容易に予想できた。


「待て、まだ魔物はいるし、この先にはワイバーンもいるんだ」


 そう。彼女は、彼が見つめた先に向かって走り出そうとしていたのだ。それも酷く焦った表情をして。


 両親が命を懸けてソニアたちを逃がし、ソニア自身も両親が助からないと悟りつつも、今こうして近くに居る。もう少し・・・もう少し、進めばもう会えないかもしれないと思った両親に会えるのだと知れば、現状を鑑みずに会いに行こうとする。これが、もう少し大人であったなら・・・もし、血のつながらない人たちだったら、冷静に慣れていたのだろうが、彼女はレオンハルトと差ほど変わらない子供で、レオンハルトと違って中身も子供だ。しかも、危機に立たされているのは彼女の両親。冷静でいられるはずもない。


「はなしてッ!!この先に・・・・この先に、おとーさんとおかーさんが居るんだからッ!!」


 興奮した彼女を抑え込む。予想はしていたが、どうすれば取り乱した彼女を冷静にする事が出来るのかまでは考えていなかった。と言うよりも現実を教えれば落ち着くと考えていたからだ。こういう所は男性よりも女性の方がうまいのだろうが、此処にシャルロットやリーゼロッテは居ない。


 だからレオンハルトは、別の視点から言葉を伝える。


「君の御両親は、君をこんな所で死なせるためにあの場に残ったのか?違うだろう?君に生きてほしいから残ったんだろう?それを無駄にするのか」


 それを聞いたソニアは少しずつ冷静さを取り戻した・・・と言うよりも泣き崩れそうになっていた。


 今の言い回しは、ソニアの両親がまるでもう死んでいるかのような。そんな言い方だったのだ。レオンハルトも余り言いたい言葉ではなかったが、今は冷静さを取り戻す方を優先させる。それに、数十人の反応は捕らえているのだ。


 こういっては何だが、生きている可能性も十分あり得る。そして生きてさえいれば助け出す事も出来るのだ。


 暫く壊れた馬車を陰に身を潜めつつ、ソニアが落ち着くのを待つ。


「あ、あのごめんなさい」


 冷静さを取り戻したソニアは、先程までとっていた行動に対して謝罪する。彼としては、別に彼女の立場になれば普通の事とも思っているので、謝罪をされる程の事でもないが、受けておかなければ話が進みそうにもないので、謝罪を受け取る。


 それで、この後の行動をお互いに話し合う事にした。今一番問題しなければならない事は、時間だ。何せ、日が傾き既に太陽は赤く燃える様な夕日になっている。それ程時間を空けず、真っ暗になる事は目に見えている。


 このまま、救出に向かっても良いが、流石に真っ暗の中の戦闘は骨が折れる。かといって、此処で野宿をする訳にも行かない。何せ、この場所は、壊れた馬車の残骸と死体。殺人犯も真っ青になる様な血痕の数。臭いも酷い。


 結果、一度来た道を戻る事にする。近くに居る両親から再び遠くなってしまうのは、思う所があるのだろう。悲しい表情をしていたが、必ず助け出すと約束する事で、納得してくれた。


 森まで戻り一晩夜を明かす事にした。ただ、明かすのは時間の浪費と言う事で、夜の間に、作戦を決めておく。


 ギリギリまで二人で近寄り、一旦その場にソニアを残してレオンハルトは別の場所へ移動。機会を見つけてワイバーンに戦闘を挑み、ワイバーンの注意がすべてレオンハルトに向いた所で、ソニアは洞窟へ駆け込む。予め渡しておいた魔法の袋の中から食事や飲み物を皆に配るとともに怪我人や病人の治療に当たる。


 魔法の袋は、レオンハルトが試作で作ったうちの一つで、使い道がなかった汎用型の魔法の袋。汎用は普通使い道がない事はないのだが、これはあくまで試作の為、容量が非常に少ない。具体的に言えば一般的な馬車の量ぐらいしか入らない。


 これだけ入れば普通問題ないが、あくまで作った本人としては容量が少なすぎると言う事でお蔵入りしていた物だ。その中に、先程回収した商人たちが持っていた物で使えそうなものは収めているし、洞窟内にいる人数分の食料と飲み物も詰め込んでいる。薬草や水薬(ポーション)も十分すぎるほど入れ、清潔な包帯や布なども入れている。


 これだけの物資をソニアが洞窟内に持ち運び、治療等をしている間にレオンハルトがワイバーンの討伐、討伐が難しい場合はせめて追い返すぐらいの事はするつもり。


 此処までが、作戦の内容だ。


 作戦が決まれば、後は体を休める事にするが、一応レオンハルトが夜通し周囲を警戒するために夜番を行う。ソニアも行うと言っていたが、魔物が出てきても対応できないと言う事からぐっすり眠ってもらう事にした。と言うよりもこれまでの疲労から、一度寝てしまったら全く起きる気配がなかった。


 翌朝、激しい運動をすると言う点もあり、軽く食事を済ませて作戦通り、魔物に注意しつつ洞窟の近辺まで移動した。


「ソニアは此処で待機してて、俺は少しワイバーンの背後に回るから、くれぐれも先走らない様にね」


 昨日の事もあり、一応注意するが彼女の今の表情を見れば、問題ない事一目瞭然。気配を消し、その場から素早く立ち去る。


 ソニアにしてみれば長い、長い時間に感じただろうが、実際には四半刻も経ってはいない。そしてついにその瞬間が来る。


 完全装備のレオンハルトが、無詠唱で火属性魔法『(フレイム)魔弾(ショット)』を数十個作り出し、撃つ。『(フレイム)魔弾(ショット)』は『火球(ファイターボール)』の上位にあたる魔法。炎の威力や大きさが違うだけでなく、撃ち出される速さも格段に上がるのだ。


 撃ち出された『(フレイム)魔弾(ショット)』は吸い込まれるようにワイバーンに直撃するが、殺気か魔力にでも反応したのか、白いワイバーンと黒いワイバーン二匹は、自身の翼で防いでいた。しかし、残りの緑色のくすんだ様な色の二匹は、『(フレイム)魔弾(ショット)』をまともに受けていた。


 だが、ワイバーンの皮膚は鉄よりも固く、魔法に対しても抵抗できるのか、凄まじい威力の『(フレイム)魔弾(ショット)』でもほんの少し、皮膚を焦がす程度にしか至らなかった。


 その結果に悪態を吐きたくなるが、そんな事をしている余裕はない。魔法で身体強化を施し、素早くその場から離れる。間髪入れずワイバーンが二匹捕食しようと襲い掛かる。


 ―――――ッ!!


 逃げた先に白いワイバーン、実際の名前は不明だが、取り敢えず、黒いワイバーンはブラックワイバーンと呼称し、白いワイバーンは、ホワイトワイバーンと呼称する事にした。緑色は、そのままワイバーンと呼ぶ。


 そのホワイトワイバーンが、何か口に溜めた魔力の塊を放出してきた。


 素人でも理解できる。それは魔法だ。


 これまで出会って来た魔物で魔法を使って来た種は、ゴブリンぐらいだ。しかも、ゴブリンはゴブリンでも、魔法を使う事ができるゴブリンメイジだ。今回はワイバーンだが、もしかしたら、魔法が使える種なのかもしれない。その威力は、ゴブリンメイジのしょぼい魔法とは、天と地ほどの差がある威力。


 ホワイトワイバーンの放つ吐息(ブレス)が、レオンハルト目掛け襲ってくる。まだ、直撃していないのに、放たれた瞬間に発生した余波が、空気を振動させているかのように震える。これで、竜種に入っていないのだから、上に君臨する魔物たちは、一体どれだけ強いのだろう疑いたくなる。


 通常の者ならこの余波だけで戦意喪失し、後から押し寄せる吐息(ブレス)でその命を無残に散らしてしまうだろうが、現在対峙しているのは、彼だ。


 直感的に危険と判断し、その場に魔法で足場を作り空中で更に跳躍する。


 風属性魔法『飛行(フライ)』と同系統の魔法『天駆(フラッシュジャンプ)』、ダーヴィトに渡した天馬の靴と同様の効果を持つ魔法。正確には『天駆(フラッシュジャンプ)』を魔道具化したのが天馬の靴になるのだが、それは、今は置いておこう。因みに『天駆(フラッシュジャンプ)』に似たようで少し異なる魔法に『空歩(スカイウォーク)』と言う魔法もある。『天駆(フラッシュジャンプ)』の様に跳躍する為の小さな足場を作るのではなく、歩くための道を作るのだ。正直、『飛行(フライ)』『天駆(フラッシュジャンプ)』に比べると劣化版としか思えない魔法ではある。これの魔道具も存在している。


 『天駆(フラッシュジャンプ)』でその場を離れたレオンハルトは、放たれた吐息の威力に驚かされる。大地を穿ち地表にその跡を刻み込んでいた。


 すると、またもレオンハルトの直感が嫌なものを感じ取る。


 ブラックワイバーンとワイバーンの四匹が、下や背後からと捕食しようと襲いかかってくる。


 愛刀による斬撃と魔法で応戦、戦闘は激しさを増し始めた。










 一方、洞窟近くに隠れていたソニアの方はというと。


 レオンハルトがワイバーンの、注意を十分惹きつけたと判断し、洞窟の入り口に向かって全力で走る。洞窟内に入ると数人の冒険者が、剣や槍、盾等構えて待ち構えていた。


 突如始まった戦闘音で、洞窟内は混乱と不安で警戒を強めていた様だ。


「お父さんッ!!お母さんッ!!」


「――ッ!!ソ、ソニア!?どうしてーー」


 突然現れた娘を見て、ソニアの両親は驚きを隠せない。それどころか、他の大人たちも数日前に逃がしたはずの子供の一人が、ワイバーンが居る洞窟の入り口の方から来た事に驚く。


 取り敢えず、侵入して来たのが、ソニアだと知ると、警戒していた大人たちは、直ぐに彼女を洞窟の奥へ誘導する。未だ外で何が起こっているのか分からない程の凄まじい戦闘音が、聞こえるため、数人の冒険者を入り口付近で警戒に当たらせる。


「どうして、どうして戻って来たんだ。それより外で何が」


 聞きたい事が山の様にあるが、父親の言葉を遮る様に母親がソニアを強く抱きしめる。父親もそうだが母親ももう会えないと諦めていた娘との再会。嬉しさのあまり泣きながら抱きしめてくるのは仕方ないと言える。


 だが、時間はあまり無い。


「お母さんごめん。でも今は余り時間がないんだ」


 ソニアは、少しの間抱きしめられていたが、外の戦闘音を聞き、急ぎ自分の役目を果たそうと母親を振り解く。


 そして、手短に今の状況を伝え、食料や飲み物、薬などを出す。


 子供たち同様、ワイバーンに襲われてから何も食べていない大人たちは、ソニアの出した食料を慌ただしく食べる。子供たちに食べさせた物よりももう少しきちんとした食事。子供と違い大人たちであれば、この二、三日食料を取らなかったからといって、胃が弱くなる事はあっても、少し消化の良いものであれば普通に食事も出来る。


 モチモチ、フワフワな白パンを始め、野菜や柔らかく煮込んだ肉、身体を温めるスープなど、色々出て来たものを全て平らげていった。流石に胃が弱くなった状態で、大量に食べるのは危険なので、魔法の袋に入っていた料理全てを出したわけでは無いが。


「助けてくれている人たちに感謝しないとな。ワイバーンを相手に出来るほどの高ランクの冒険者たちに」


 食事を終え、ソニアとソニアの父親を始め、数人の大人たちで話し合いを行う。その間にソニアの母親は、他の者たちと一緒に怪我人の治療に当たっていた。


「外で戦っているのは、一人だよ。他は子供たちの捜索と保護をしてくれているから」


 その言葉を聞き、大人たちは言葉を失う。


 五匹のワイバーン相手にたった一人。逆ならまだ理解できるが、単騎となると最低でも王国騎士団の精鋭、その隊長や副隊長クラスに匹敵する強さだという事だ。


 見張りをしていた冒険者たちは、その話を聞き直ぐさま外の様子を確認するため最大限に気配を消して見に行った。


 その視線の先に四匹のワイバーンと激戦を繰り広げる、ソニアと大して変わらない年齢の少年がいた。空を縦横無尽に飛び回り、複数の魔法を同時に発動させながら、凄まじい剣技で戦っている。


 既に一匹倒したのだろう、胴体と頭部が分かれてあるワイバーンが地面に転がっていた。


 その光景を眺めていると、洞窟の入り口近くに魔法が着弾。戦闘をしている彼から、隠れていろと言われ、大急ぎで戻った。


「加勢しないのか?」


 商人の一団も、数少ない武器を持ち訪ねてくるが、加勢する状況では無い事を伝える。仮に加勢したならば、逆に足を引っ張る。そう言う戦いだ。


 冒険者や商人たち、ソニアにソニアの両親は、攻撃が自分たちに及ばない範囲で、外を観察し始めた。










 既にワイバーンの一匹を屠ったレオンハルトは、残りのワイバーンに苦戦する。


 先程、加勢のつもりか洞窟内から出てきた数人の冒険者が、流れ弾に当たりそうになっていた。取り敢えず、隠れる様に指示したが、今は、他の者たちと一緒戦いの行方を見守っていたのだ。見られる事はもう構わない。寧ろ出し惜しみしていたら此方が殺される、そう言う緊迫した戦いなのだから。ただ、出来れば洞窟内にいてくれた方が、先程の様に流れ弾が向かっても少し安心できるのだが。


「いい加減落ちろッ!」


 向かってくるワイバーンの噛み付く攻撃を躱し、手と一体化になっている翼の片方の根元を一刀両断する。刀の切れ味に風属性を付与し、切れ味を更に強化している状態。そんな状態でどうにか一閃を振り下ろすことが出来る。


 片翼を切り落とされたワイバーンは、バランスを崩し飛ぶことが維持出来ずに墜落する。だが、ワイバーンもただ墜落するのではなく、残されている攻撃手段でレオンハルトを襲う。


 殺気に気が付き振り返るが、その時には身体全体で、強い衝撃を受けた。


 ワイバーンの尻尾による攻撃。レオンハルトも『魔法鎧(マジックアーマー)』で防御力を高めていたが、その魔法ごと吹き飛ばされる。進行方向にある崖に身体を強く打ち付けて止まるが、そのダメージは、思いのほか大きかった。


 『魔法鎧(マジックアーマー)』は二度の衝撃で粉砕され、身体を強く打ち付けた際に全身打撲と内臓の一部損傷、後頭部強打による軽い脳震盪(のうしんとう)と裂傷による出血だ。


「くっ―――」


 身体を動かそうとすると全身に痛みが走る。手足が折れている様子はないが、若しかしたらひび程度はあるかもしれない。ひびも一応骨折と言われるが、今はそんな事を言っていられる状況では無い。


 動けないレオンハルトに追い打ちをかける様攻撃を仕掛けるブラックワイバーン。レオンハルトも左手を突き出し防御魔法『魔法障壁(プロテクション)』で、防ごうとするが、ブラックワイバーンは鋭い爪を剥き出し、崖を蹴る様に踏みつける攻撃をする。


 鋭い爪付きの踏みつけは防いだが、その衝撃は相殺できず、更に崖へ押し込まれる。押し込まれ崖の一部が砕けた。


 そのままブラックワイバーンは、上空へ上がり、追撃の様にもう一匹のブラックワイバーンが攻撃を仕掛ける。


「舐めるなよッ」


 先の攻撃で、砕けた一部と一緒に落下していたレオンハルトは、どうにか空中で大勢を立て直し、右手を強く握りしめる。


 その手には、先程まで持っていた刀は無い。崖が砕けた際に衝撃で刀を手放してしまったのだ。だが、刀を探してとりに行く時間などない。


 強く握りしめた拳はそのまま向かってくるブラックワイバーンの左の頬に吸い寄せられるように打ち込まれる。


 ブラックワイバーンは、そのまま殴られた方向へ顔を向けるとそこから凄まじい体術による連打が開始された。既に身体強化に加えて、各種付与魔法で能力を底上げし、防御魔法『魔法鎧(マジックアーマー)』も張り直している。


 ――ピシッ。


 左拳からの右拳。


 ―――ビキッ。


 拳の時々に回し蹴りや上段蹴りなども加わる。


 ――――ピシッ。


 一打一打、打ち込むたびに骨から変な音が鳴り、それと同時に全身へ激痛が走る。『治癒(ヒール)』をかけて今は誤魔化しながら戦闘を続けているが、若干回復が追い付いていない様子。


 自身の状態も考え、これ以上長引くのは不味いし、ホワイトワイバーンは此方へ向かって吐息(ブレス)を放とうとしている。もう一匹のブラックワイバーンも旋回して、再攻撃を仕掛けようとしていた。


 『天駆(フラッシュジャンプ)』で滅多打ちにしていたブラックワイバーンの上空へ移動し、再度空中に足場を作るとそこを思いっきり両足で蹴り勢いをつけて落下する。身体を回転させながら、ブラックワイバーンの後頭部に強烈なかかと落としを決め、ブラックワイバーンはそのまま地面へ落下してゆく。


 『短距離転移(ショートテレポート)』で落下地点に移動し、落ちてくるブラックワイバーンの頸椎目掛けて、掌打した。


 先程までは、骨の軋む様な、ひびが入った様なそんな音を立てていたが、掌打を当てた時は完全に右腕から右足にかけて一直線に骨が粉砕されていくような音が鳴る。それと同時にブラックワイバーンの脛骨も大きくズレ、人ほどある骨はその衝撃を受けきれず盛大な音を立てて折れた。


(これで三匹―――ッ!!)


 ブラックワイバーンのうち一匹を倒したが、その直後ホワイトワイバーンによる魔法攻撃がレオンハルトの直ぐ傍で着弾し、レオンハルトはその爆風によって吹き飛ばされ地面を転がる。


「おうりゃ」


 転がりながらも反撃の糸口にと右手は魔法の袋から、修行用に改良した木刀改を持ち、左手は、魔法を発動させようと手を伸ばす。


 一瞬。・・・ほんの一瞬の出来事でホワイトワイバーンは中央から真っ二つに寸断される。


 そして、寸断される中で、レオンハルトの方では骨が折れる様な鈍い大きな音が聞こえる。伸ばした手が、地面に接触して無理やり変な方向に曲げられたことで、肘の関節可動域を大幅に超え、明後日の方向へ折れ曲がってしまった。そして、その反動は肩の方へ伝わり、肩の関節が外れてしまった音だ。


 そんな状態になりながらでも、ホワイトワイバーンを仕留める事に成功した。勿論、普通に魔法をぶつけてもその硬い皮膚に防がれてしまっていたのだが、硬い皮膚をも分断する事の出来る魔法を用いた。


 水属性魔法『超圧水噴射(ハイドロレーザー)』。高圧の水を噴射させ、物を断ち切る魔法『水刃斬破(ウォータースライサー)』その魔法を更に改良した魔法で、その威力は『水刃斬破(ウォータースライサー)』とは比べ物にならない程高い。


 『水刃斬破(ウォータースライサー)』は目に見える水の高圧噴射に対し、『超圧水噴射(ハイドロレーザー)』はほぼ目に見えぬ細さの水を噴射させている。鋼鉄で斬れる剣とピアノ線よりも細い線状の刃どちらが鋭利か直に分かるであろう。


 当然、魔力制御(マナコントロール)も消費魔力量も跳ね上がってしまうが、それだけの結果をもたらしてくれる。レオンハルトとシャルロットのみが今の所使えるぐらいで他の者は、未だ成功した例を知らない。と言うよりも、この魔法が存在しているのかさえ知らない。そんな魔法だ。


 ホワイトワイバーンは、自分が既に真っ二つに斬られているのにも拘らず、その事に気が付いた様子はない。次第に視界のズレを認識した時には、絶命している。


 痛みに耐えながら起き上がるが、今まで養ってきた勘が危険と言う事を知らせる。


 背後から地面を這う様に襲い掛かるワイバーン。片翼がない所を見ると、先程斬り落とし地面に墜落した個体なのだと認識できたが、あの高さを頭から落ちて行ったのにも拘らず、生存している事に少し驚く。


 左手と左足は既に使い物にならない。左手は肘の骨折、上腕骨顆上骨折(じょうわんこつかじょうこっせつ)に加え、手首のヒビ・・・所謂、橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)と肩の脱臼・・・肩関節脱臼(けんかんせつだっきゅう)の状態。他にも骨の所々にヒビが入っているが、重症箇所はその三箇所だ。左足は下腿解放骨折(かたいかいほうこっせつ)をしており、骨が一部内側から肉を突き破って外へ出てしまっている。


 普通であれば、痛みに耐えれる状況ではないのだが、そこは異常に分必されるアドレナリンで如何にか我慢できる状態にあるのだ。


 右足でバックステップし、片翼のワイバーンの噛みつく攻撃を回避、そのまま首筋を狙って木刀改を振り下ろす。


 渾身の打撃は、ワイバーンの首の骨を粉砕し、死を与えたが、同時に木刀改もその衝撃をすべて受け流せずに稲妻が走ったように亀裂が入る。


「いッ・・・」


 木刀改のみならず、その衝撃はレオンハルトにも伝わった。そして、身体中に強烈な痛みが走る。


 衝撃が骨折箇所にまで到達し、その痛みを数十倍にして全身に返したのだ。レオンハルトはその痛みから表情が激しく歪む。


 手早く無詠唱による『治癒(ヒール)』で、痛みを和らげ最後に残るブラックワイバーンを睨みつける。『中級治癒(ハイヒール)』ではなく『治癒(ヒール)』を使用したのには、そこまで治癒魔法に集中する暇がなかったのだ。


 そして、亀裂の入った木刀改を構え、ブラックワイバーン目掛けて跳躍する。対するブラックワイバーンもレオンハルトを捕食しようと真っ向から突撃してくる。


 その瞬間はやってきた。


 すべてを噛み砕こうとする鋭利な牙とその顎を砕こうと振るう一筋の一閃。


 ミシッ・・バキッ!!


 レオンハルトの振るう木刀改がその牙により砕かれる。木刀改が砕かれる時にはすでにレオンハルトはブラックワイバーンの口の中。


 成すすべもなくレオンハルトは、ブラックワイバーンによって捕食される。


 そして、獲物を確実に喰い殺すために、再度豪快に噛み締める事によってその口から夥しい量の血が飛び散った。


「え・・・・・う、うそ」


 その光景を見ていたソニアやソニアの両親、冒険者に商人たちはその無残に飛び散る血と主人と共に砕けてしまった木刀の破片を見ながら、恐怖に襲われる。


 何と言ってもこの光景は、次の自分たちの姿なのだと認識させられてしまったからだ。あまりに無残に残酷なその光景に只々、恐怖に襲われ立ち尽くすしかできなかった。


「もう・・・・おわり、だ」


 冒険者の一人が、崩れる様に座り込んだその瞬間、まるで神の怒りでも買ったのかと言うような轟音と強烈な閃光がブラックワイバーンを襲う。


「うおおおおおりゃあああああああ」


 閃光が収まるのを確認し、ブラックワイバーンを見ると、捕食されたはずのレオンハルトが全身全霊の力を出した様な感じで手刀を振り下ろしていた。


 レオンハルトにしては珍しく叫んだその手刀からは、荒れ狂うような電撃が身体中を駆け巡っていた。


 そもそも、レオンハルトがなぜ生きているのか。ソニアたちからは若干見えづらい位置にいたが、それでも夥しい量の血が飛び散っていた。だが、そんな様子は今の彼からは見られない。もちろん身体中血みどろ状態ではあるが、それは突撃する前と同じと言う事であって新たに大量出血するような傷は確認できなかった。


 その事答えは簡単で、只捕食されなかったというだけの事だ。どういうことかと言うと、完全に閉じる瞬間、咄嗟に右手で魔法の袋に仕舞っているゴブリンの死体を取り出し、それを身代わりにレオンハルトは『短距離転移(ショートテレポート)』でブラックワイバーンの側面へ転移し、誰にも気が付かれない様にブラックワイバーンの懐に隠れ油断するのを待った。


 そうとは知らずブラックワイバーンは、レオンハルトを捕食したと勘違いし、脅威が去りそして勝利の雄叫びを上げようとした瞬間、レオンハルトの雷の手刀が振り下ろされたと言う事だ。


 風属性魔法の上位にあたる雷属性魔法。レオンハルトが使用したのは『(ライトニング)一撃(スマッシャー)』の応用だ。本来は砲撃として使用する魔法を敢えて手刀と言う形で手に纏い激しい雷鳴と共に手刀による強烈な斬撃を行った結果だ。


 幾重(いくえ)にも重ねた魔法とまだ不安定な雷属性魔法の使用により、レオンハルトの魔力は既に一割を切っていた。


 全てのワイバーンを倒し疲れ切った身体に鞭を打つように最後の力を振り絞る。


 何と言っても滅多に手に入らない極上の素材の回収と満身創痍の状態にある自身の身体の治癒を行わなくてはならない。ゆっくりと地上に降り立つとまずは、脱臼している肩を元に戻す。魔法で戻しても良いが、敢えて普通に嵌め直す方が魔力消費量は少なくて済む。ただし、その分痛みは尋常ではない。


 続いて、変な方向に曲がっている腕を元に位置に戻し、手首も同様に元に戻す。菌が入らない様に水薬(ポーション)を取り出し、患部に掛けた後は、『中級治癒(ハイヒール)』で左手の骨折を治す。ついでにその流れで、左足以外の骨折箇所も治しておいた。主に肋骨や鎖骨、右手の小さなヒビ等だ。


 左足は、左手同様にまずは、痛みに耐えながら元の位置に戻し、水薬(ポーション)を掛けその上で『中級治癒(ハイヒール)』を使用。左手や左足に関してはそのままだと『中級治癒(ハイヒール)』を数回使用しなくてはならなかったが、この様にある程度自身の力で形を整えておくと『中級治癒(ハイヒール)』の使用は少なくて済む。


 普段は気にしないだろうが、今回は既に一割を切っている状態で、痛みから魔力制御(マナコントロール)をうまく調整できない。消費が多くなることはできるだけ避けたいので、この様な手段を取ったのだ。


 だが、それでも普段よりは少し多めに消費した分、魔力が心許なくなり、魔力欠乏症になりかける。


(あーあ、意識が・・・・飛びそうだ・・・な)


 朦朧(もうろう)としながら、自身の治療を終えるとワイバーンの回収のため、フラフラしながらブラックワイバーン、ホワイトワイバーン、ワイバーンの死骸を回収し、その途中で愛刀も回収した。


 そのまま、ソニアのいる洞窟へ向かう途中、力尽きる様に倒れそうになるが、そこは駆けつけたソニアの父親に支えられ、地面に激突だけは避けられた。


「・・・あ、あ。すみません。ちょ・・・っと、魔力が・・・足りなくて・・・あとは、おね・・・・・・がい・・・します」


 そこまで言うと俺は意識を完全に手放してしまった。


「ああ、任せろ」


 ソニアの父親と冒険者たちはレオンハルトを丁寧に洞窟まで運び、奥の平らな地面へ降ろした。


「あなた、彼は・・・」


 気を失ったレオンハルトを見て心配になったのか、ソニアの母親が心配そうにレオンハルトの容態を自分の夫に尋ねる。


 ソニアの父親は、只疲労で休んでいる為少し安静にしていたら問題ない事を告げ、彼が目覚めるまで洞窟内で待機する事になった。


 その間に、ソニアからもう少し具体的な内容を聞きつつ、疲労が激しい者から順に休むようにした。ワイバーンに襲われてからずっと気を張り詰めながら生活していたのだ。中には不眠不休でいた者もいるぐらいの緊張の場が、今はその脅威もなく。緊張の糸が切れたかのように休んでいる。


 レオンハルトが気絶してから一刻半程して、(ようや)く目を覚ます。


 そんな短時間の休息では、レオンハルトの魔力は全快には程遠いが、活動に支障がない程度には回復していた。


(久しぶりに欠乏症になったな。魔力は・・・・二割弱ぐらいかな?)


 自分自身の残りの魔力量を感覚的に感じながら推測する。ゲームや小説とかに良く登場するステータスなどがあれば、もっと正確な数値が分かるのだろうが、この世界にはそのようなものは存在しない。


 スタミナも生命力も魔力量も全て自身の感覚に委ねられている。


 取りあえず、気を失う前に大まかな治療を自身に施した記憶はあるが、何処まで回復させたのかは曖昧だったため、損傷の激しかった左腕や左足を重点的に動かし、特に問題がない事が分かると他の場所も確認した。


「気を失っている時に大まかに怪我の状態を確認しましたが、殆ど傷は見当たりませんでしたよ」


 冒険者と思われる男性に声を掛けられ、お礼を言う。助けたのは此方にしても結果的に自分も彼らに一時的とはいえ世話になったのだから当然の事だろう。しかし、お礼を言われた冒険者は、酷く慌てた様子で対応してきた。


 彼らからすれば、お礼を言われるようなことは殆どしていない。寧ろ助けてもらったのは此方なのだから当然の事ですとまで言われる始末。


 他の人も数名まだ目を覚ましていないようなので、もう暫く洞窟内にとどまる事にした。


 この後どう行動するのかを伝える必要もあったからだ。


「と言う事で、この後皆さんを連れて一度自分たちの拠点へと移動します」


 ある程度はソニアが事前に説明していてくれたようだが、やはり助けた本人から話を聞くと衝撃的だったのかもしれない。何せ冒険者ギルドに話を通さずに依頼を受諾している件、自分たちがまだ低ランクから抜け出したばかりの冒険者ランクであること。依頼の報酬がソニア自身だと言う事。特に最後の内容は、ソニアから伝えられていなかった様で、彼女の両親は酷く衝撃を受けた様子だった。


「レオンハルト殿、その直ぐには無理だが、必ず助けていただいた対価は払う。だから、娘を・・、娘を報酬にするのはよしてくれないか。頼む」


 ソニアの父親・・・オットマーがレオンハルトに頼み込む。まあ、彼の言い分も理解できる。何せ仲間たちも同じように勘違いしたのだから、と言うよりも自身の身体を差し出す事が、奴隷や肉体的な目的しかない様に思われるこの世界の方がどうかと思う。とは言っても肉体的と言う意味では強ち間違ってもいないが。


 誤解がある様なので、そこはきちんと説明する。それと、ソニアに身体を差し出す事がどういう意味を示すのかきちんと教える様に助言も加えておいた。


 オットマーとソニアの母親エルケは、ワイバーンに助けてもらった時以上に強くお礼を述べていたし、周りも一瞬彼の回答を聞き驚いたがすぐさま、二人同様にお礼を言ってきた。


 流石に、自分たちが助かり、その代償に自分の娘程差がある少女が身代わりになるは、居心地が悪かったのだろう。


「取りあえず、お礼はもう十分です。報酬である彼女には、皆さんを送り届けるまでは、此方の指示に従い働いてもらいます。それで、話が途切れてしまったのですが、今日は出発しても良いですけど、どうしますか?」


 現在の時刻は、日が傾くにしては早くかと言って出発するには遅い時間である。時刻で示すなら昼の三時前ぐらいだろうか。


 今出発してもしなくても一度は野営をしなければならないので、レオンハルトにとってどっちでも良かった。


「出来ればもう少し休んでいたいが、他の子供たちも心配だから、申し訳ないがこれから出発でも構わないだろうか?」


 四十代前半の少し細身の男性が、声をかけてくる。彼は、道中に助けた少女スサナの父親だそうだ。母親はワイバーン襲撃の被害に遭ったそうで、既に亡くなっている。


「わかりました。では、皆さんの準備が出来次第出発いたしましょう」


 そこからは、手早く行動する。


 通ってきた山道を下り、森が見えてくると、そのまま簡単に整備された道を進んだ。


 このまま、進めば海隣都市ナルキーソと王都アルデレートの中間に位置する街にたどり着くが、目的地がそこではないので、途中から森の中へ進んだ。


 流石に一人で全員をフォローするのは出来ない事はないが大変なので、生き残った冒険者数人にも護衛を手伝ってもらう事にした。


 ただ、魔物や獣が出てきてもレオンハルトがアッと言う間に撃退していたので、出番はないのだが、それでも商人たちがパニックを起こさない様に誘導する事は出来るし、実際にそれをしていた。


 日が傾き始めた事と森に入った事で、周囲が一層暗くなり始める。流石に夜の森を進むのは、危険と判断し、そこそこ広い場所を探して野営の準備に取り掛かる。


 魔法の袋から適当に完成した料理を取り出し、温めが必要な物は即席の(かまど)を作り温める。テーブルもあるにはあるが、人数的に考えて足りない為出さずに、地面に置くような形で皿を準備した。


 このあたりの事は、ソニアが率先して働く。


 俺はその間に休めるスペースを作り、料理が足りなくなる可能性を考量して、道中で捉えた獣を解体する。解体作業には他の冒険者も手伝ってくれたため、直ぐに解体が終わってしまった。


「これは、美味しそうだな」


 商人や冒険者たちが各々受け取ったお皿を見てそう呟く。昼に食べたのは、胃に優しいものだったため、薄めの味付けだったりししたが、夜は問題ないだろうと言う判断から普通の食事を提供している。


 レオンハルトたちが普段食べている白パンより少し硬めのパン。黒パンよりも柔らかい為他の者たちからしたら、良いパンだろう。それと、解体した兎や狼の肉。これは、時間に少し余裕が出来たのでただ焼くだけではなく。手持ちのスパイスなどで臭みを消し、肉質を柔らかくなるように手を加えて焼いている。スープは野菜多めにして、少し薄味に調え、ついでとばかりに以前作りすぎた炒め物類も幾つか出す。


「これは・・・・絶品ですなーレオンハルト殿。もし宜しければ飲食店でも開いてみませんか?我々が是非仕入れ等で協力させてもらいますぞ?」


 まさかの勧誘!?


 勧誘と言うには若干語弊がありそうだが、まさか料理人を進められるとは思っても見なかった。まあ、この世界の料理は結構単純な味付けだったり大味だったりするから無理もない。きちんとした料理店であれば、美味しくアレンジが施されているが、その分値が張る。


「料理は趣味の様なものですので、これで商売するつもりは今のところないですね」


 そんな他愛ない会話をしながら、野営を過ごし、俺と他の冒険者たちで交代しながら夜番を熟した。


 翌朝、簡単に朝食を済ませ、拠点であるログハウスへ向けて出発する。向かっている最中、ゴブリンやオークなどの魔物も遭遇したが、普通なら障害になる処、レオンハルトの迅速な対応で障害すら成りえず、進む事が出来た。


 気が付けば、夕方になるであろう時間帯。目的の場所が近いのか、彼の口からこの先に拠点があると伝えられ、これまで歩き通しだった者たちの表情が一気に変わる。


 魔物が跋扈(ばっこ)する森の中を・・・それもマウント山脈付近の森となれば、それなりに危険度が高い。そんな中を一日中歩いたのだから、皆の表情が明るくなるのも理解できるという者だ。中には、それよりも我が子に会いたいという気持ちの者もいるだろう。


 ログハウスが見えると、此方を察知したのか勢い良く玄関の扉が開く。


「レオンー」


 普段ならそんな仕草をしないシャルロットが、俺目掛けて抱き着いてくる。


 過去に何回か同じような事があったなとその時は考えられなかったが、実はレオンハルトが何か皆を心配させるようなことをした場合は、高確率でシャルロットが抱き着いて来ているのだ。


 ギガントボアの時とか。


 今回もシャルロットにかなり心配をかけたのだろう。ただ、それに続く様に保護していた子供たちもログハウスから出てきて、今生の別れになりかけた親子の絆を確かめるかのように抱き着いていた。


「なかなか戻ってこないから心配したぞ」


 さも当然の様に声をかけてくるダーヴィト。それに続く様にリーゼロッテとエッダも頷く。


「ああ、すまない。少し手間取ってな」


 実際、戦闘による怪我や傷はないが、着ていた服や軽装の防具なんかはかなりダメージを受けていた。と言うより防具は殆ど破損が酷く外しているし、服も新調してそれ程経っていないのにかなりボロボロだ。


 破れている個所は沢山あるし、穴まで開いている。それだけで、相当無茶をしたのが伺えた。案の定・・・・。


「ッ!!どうしてこんなになるまで無茶したのッ!!」


 先程まで心配して抱き着いて来ていたシャルロットが、レオンハルトの状態を確認すると非常に険しい表情で怒り始める。


 まあ、これは仕方がないにしても怒られない様に普段着に着替えて置くべきだったか?それはそれで、何故普段着なのか追及されて、結果的にバレる。それだけでなく、普段着で森の中を護衛していた事も加えてシャルロットの注意が更に増えていた可能性すらあり得る。結局は、戦闘をしてボロボロになってしまった段階で説教は確定だったのかもしれない。


 少しの間、説教を真面目に聞いているとふとある事に気が付いた。


 子供の数が誰一人としてかけていないのだ。あの状況下では、間違いなく二、三人は亡くなっていても可笑しくはない。それなのにも拘らず、全員が助かっているのだ。余程運が良いのだろう。


「・・・子供たち、皆見つかったんだな」


「かなり危ない状況でしたけどね」


 説教モードと化していたシャルロットが、普段の優しいシャルロットに戻る。彼女が居たからこそ他の子供たちも生存できたのだと言う事は、先程の言葉御聞いただけで理解した。


 そんなレオンハルトたち仲間内の様子を観察していた少年が少し睨むように此方を見ていた。仲間内と言うよりも、主にシャルロットと仲睦まじく話すレオンハルトに対して。


 そんな事は、どうでも良いと言う感じにレオンハルトが連れてきた人たちをまとめて、ログハウス周辺で食事をする様声をかける。


 此処から街までは、まだかなり距離がある。大人の足で歩いても一日程度なのだが、子供たちが居るとなれば更に時間がかかってしまう。


 ついでに言えば、子供たちは此処に来てから多少休んでいるから問題ないかもしれないが、大人たちは今日一日歩きっぱなしな上、昨日までは碌に休めない環境にいたのだ。ここであまり無理をさせるのもどうかとの判断で、早めの休息にした。


 流石にこの人数をログハウス内で面倒見るのは不可能なので、子供や女性を優先してログハウス内で休んでもらう事にし、男たちは外で昨日同様に野営を行う。


 ただ、昨日と比べ、安全度的に言えば天と地ほど違うので、夜番をしなくても良い。それだけでも精神的疲労はかなり減少されるし、肉体的疲労もぐっすり寝る事が出来れば回復する。


 翌朝、普段より少し遅めの朝食を済ませ、レオンハルトたちのみの話し合いを行う。遅めの昼食の理由は、保護した者たちが思いのほかぐっすり眠っていて、数名しか起きてこなかったのが原因だ。


「昼から出発する?恐らくナルキーソまで二日はかかると思うけど」


「エッダの言うプランも悪くはないけど、二日の道のりは私たちなら問題ないけど、他の子供たちには結構大変よ」


「だったら、誰かが先にナルキーソへ行って馬車を手配するのはどうだ?」


 エッダ、リーゼロッテ、ダーヴィトがそれぞれ意見を出す。


「ダーヴィトさん。馬車の手配は良いと思うけど、森の中を進むのは逆に遅くなるわ。エッダさんの案もあまりお勧めはしないわね」


 皆の意見を否定するシャルロット。基本、こういう頭脳系は、シャルロットとレオンハルトが担当している。無駄に前世と合わせればそこそこいい年齢をした二人なのだから、そこいらの未成年組とは、考えるレベルが違う。


「シャルちゃんは、何か考えている事があるの?」


 リーゼロッテが何時もの様に尋ねる。そして、他の皆もシャルロットの方を見て彼女の発言を静かに待った。


「んー私としては、二つのグループに編制して、片方は子供や女性を主体とした者と商人が数人ってところで、もう片方は護衛として依頼を受けた生き残りの冒険者と他の男性陣。女性陣のグループは森の中を進むのは危険だから別のルートを進む」


 店で販売されている地図を取り出し、説明する。


 大きめの羊皮紙で、しかも手書きによる物なので距離や道の位置などかなりズレはあるが、冒険者にとっては必須な道具でもある。正確な物ではないのに値段はそこそこ高かったりする。この羊皮紙の地図よりもっと高性能な地図は持っているが、今はそこまで重要ではないので、使い捨て感覚で購入した地図の方を使用している。


 シャルロットの案は、基本的に安全性を重視しつつ、皆に負担があまりかからない作戦と言うわけだ。勿論、ログハウスの場所を公にされたくないという部分もあるため、ログハウスに留まり、救助を待つというのは最初から誰も考えていない。


 まず、子供や女性たちのグループは、ログハウスを出発しナルキーソへ一直線に進むのではなく。ナルキーソへ行くより少し外れた位置にある馬車が通れる程度に道が作られた場所へ向かう。これには、護衛としてシャルロット、リーゼロッテ、エッダの女性陣が担当。道に出れば、そこから先は道なりに沿って歩くのみ。


 もう一方、男性陣や冒険者のグループは、ナルキーソに早めに到着してもらうため、真っ直ぐナルキーソに向かって歩み森の中を突っ切っていくそうだ。ナルキーソに到着後、別の護衛を雇い馬車に乗って道を進み、シャルロットたちと合流するというプランだ。男性陣の方の護衛として俺とダーヴィトが担当する事になった。


 これでは、エッダとダーヴィトの意見を混ぜたように感じるだろうが、大きく異なるのは、混ぜたプランをより現実に可能にした内容に変更した事と他の冒険者を雇う事で、冒険者ギルドへも顔を立てる事になると言う事。


 男性陣のグループは何も男性全員と言うわけではない。冒険者はもちろん、他にはタフそうな商人や若い男性陣を中心とした少数にまとめている。選抜次第では一日でナルキーソに到着できるだろうし、明日中には馬車の手配と出発も可能だろう。


 ナルキーソで追加の冒険者の依頼料や馬車の手配にかかるお金は、何故か俺たちが出す事になっていた。まあ金銭面に置いて、彼らにそれ程の余裕はない事は知っている。荷台に残されたもので回収できる物は回収したが、損失の方が明らかに大きい。


 そして、自分たちが住んでいる場所に行く為の運賃も必要なのだから、冒険者を雇ったりするお金はないと言えるだろう。


 ではなぜ自分たちが代わりに支払うのか、答えは簡単だ。


 ワイバーンと言う素材を手に入れたからである。しかもワイバーンよりも厄介なブラックワイバーンとホワイトワイバーンだ。


 ブラックワイバーンとホワイトワイバーンは、此方で素材として使うが、残りのワイバーンに関して一匹は、冒険者ギルドに卸して金銭を得る。もう一匹はソニアの魔法の袋に入れる事が決まった。売って金銭を得ても良いし、そのまま持ち帰って、自分たちの街で捌いてもいい。


 恐らく、受け取りを拒否される可能性も十分あり得るが、そこは如何にか言い含めて渡すつもりとの事。自分たちだけでなく他の者たちへも配慮するあたりは流石シャルロットと言いたいところだ。


 結局出発は、明日の明朝という事になったので、全体的な予定は一日ずつずれる事になった。出発が遅れた理由は、子供たちが親たちとの再会が夢ではなかったと喜びそして疲れてしまった事と、回収していた亡骸をこの近くにある花畑が一望できる場所に埋め供養する事になったからだ。この辺りは、俺たちが話し合っている時に向こうは向こうで話し合っていたそうで、その話し合いで決まった内容なのだそうだ。


 この程度の誤差は、気にする事でもないだろう。


 そして翌日、俺とダーヴィトは他の者たちと共にログハウスを後にし、先頭をダーヴィトが、殿を俺が務め進む。速度としては、割と走っていた傾向にあるが、一刻から一刻半程度進めば休憩し再び走る、を繰り返し、どうにかその日のうちにナルキーソに到着できた。道中の魔物をダーヴィトだけで如何にかできたが、何故か何もしていない者たちの方が酷く疲労していた。


「ん?レオン殿かー今日はやけに遅い戻りだな」


 門番をしていた兵士と軽く挨拶をかわしながら入る手続きを済ます。


「ああ。魔物に襲われていた人を保護してな。先に何人か連れて戻ったというわけだ」


 門番の兵士に簡単に同行者の経緯を説明した。何人かは身分証となる物を所持していないからだ。取りあえず、仮の滞在許可書を発行してもらい。普段より幾分ランクの低い宿屋へ連れて行く。


 空が薄暗くなっている時間帯に良い所は満員状態の可能性が高い。あるとすれば雑魚寝当然の所か、高級と頭に付くような高い宿屋ぐらいしかない。


 宿屋を確保したら、ダーヴィトと商人たちは馬車の手配に向かい。俺と護衛をしていた冒険者は、追加の人員募集及び報告を行うため冒険者ギルドへ足を運んだ。


 説明を済ませた冒険者たちは、依頼失敗の扱いになり少なくない罰金を支払う事になったが、これは仕方がない部分でもあるため、多少は緩和されているらしい。


 冒険者を数名依頼する様、手続きを済ませて俺はそのまま冒険者ギルドを後にした。依頼は、朝ダーヴィトが受け継ぐようにしているので、こっそり街を抜け出し、シャルロットたちが野営している場所へ移動した。


 一人での移動なら、半刻もかからずに合流できるし、実際日付が変わるよりも早く合流する事が出来た。


 翌朝は、普通に朝食を済まし、昼前に馬車を率いるダーヴィトたちと合流。そのまま馬車移動となり、夕方には無事ナルキーソへ到着した。


「さて、これで俺の依頼も無事に終わったな」


 レオンハルトが受け持った依頼、ソニアから彼女の両親やその仲間たちの救出だ。街まで無事に送り届けた事で、その依頼も無事に終了した事になる。とは言っても、冒険者ギルドが絡んでいるわけではないので、俺たちの成果としては、一切記録されない。


 ただ、記録されないだけであって、周囲からの認知はされるので、レオンハルトたちも全然気にした様子はなかった。普通の冒険者と違い彼らは、目立つつもりがなくてもかなり目立ってしまっている上、実力も認められているのだ。だから急いで、周囲の評価を上げる必要がないのだ。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

頑張って書いていきますので、この暑い時期の様に温かく見守ってください(笑)

次回は7月末から8月初旬に行います。

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