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023 死人の見つめる先

自分で書いておいてなんですが、この世界の子供はたくましいですね。

それに大人の活躍が少ない様にも感じます。

大人?の活躍もたまには入れないとな(笑)

 レオンハルトたちと別れたシャルロットとダーヴィトの二人は、子供たちの捜索の為森の中をかなりの速さで移動する。


「前方に敵四。接触を避け迂回します」


 シャルロットの指示を受けて、先行するダーヴィトは正面のルートを少し外れる。


 それからもしばらくはその様に戦闘を回避しながら進んでいると今までとは違う反応を捕らえる。しかし、それはお目当ての反応ではなく相手にしたくない・・・と言うよりは、丁度同じぐらいのタイミングでレオンハルトたちも遭遇したクレイジーモンキーの群れだ。


「両サイドから敵多数。種類は・・・・クレイジーモンキーです」


 レオンハルトより若干精度の高い『周囲探索(エリアサーチ)』で、敵を捕捉。一瞬の間に探索魔法の一つ『(ファルコン)(アイ)』を発動させた。この魔法はレオンハルトの『(ホーク)(アイ)』同様の効果があるが、『(ホーク)(アイ)』と違い『(ファルコン)(アイ)』は敵の位置を一瞬で見つけ出す早業を持っている。


 これら以外にも『(イーグル)(アイ)』や『(オウル)(アイ)』など鳥類、それも猛禽類(もうきんるい)に該当する鳥類の眼を元にした探索魔法がある。


 どれも似たように視覚感覚を得るが、それぞれ微妙に異なる効果も持ち合わせている。先程も言ったように『(ファルコン)(アイ)』は素早く敵を見つけ出し、しかも上空から敵の行動をはっきり捉えれるほど近くまで寄る事が出来る・・・が、反面近すぎて全体把握に向かない場面も多くある。『(ホーク)(アイ)』は、常時一定の高さから周囲を見下ろすような感覚を得るので、基本的に標準感覚ともとれる。


 『(イーグル)(アイ)』更に離れた広域を見渡す事が出来るが、欠点は鮮明な部分がわかり難くなると言う事だろう『(ファルコン)(アイ)』と真逆の効果だ。


 『(オウル)(アイ)』は『(ファルコン)(アイ)』と『(ホーク)(アイ)』の境目程度の視野で且つ夜など真っ暗な環境で本領発揮する。付与魔法『夜目(ナイトビジョン)』の『(ホーク)(アイ)』版と思ってもらえれば分かりやすいだろう。その他の物は、今回省くが、魔法は同じような効果でも若干の違いで呼び名が異なったりする。


 『(ファルコン)(アイ)』でより正確に種類と位置を特定したシャルロットは、持っている弓を構え数本の矢を素早く射抜く。


 射抜かれた矢は、まだ魔物も何もいない場所へと向かうが、まるで矢に当たりに来ているかのようにクレイジーモンキーが現れる。威勢よく現れた瞬間には、シャルロットの放った矢が眉間に直撃し、あっと言う間に数匹を倒す。


「うおおおりゃあああ」


 ダーヴィトも持っている盾を使ってクレイジーモンキーを次々に殴り飛ばすが、此方は致死に至るダメージを与えられていない。数で攻められているため、クレイジーモンキーを吹き飛ばすので精一杯だったのだ。


 だが、吹き飛ばされたクレイジーモンキーが再度襲って来る事はほとんどない。何せ吹き飛ばされた先で、シャルロットのよって眉間を射抜かれ絶命しているからだ。


 とどめをシャルロットばかりに任せるわけにはいかないと、ダーヴィトも倒せるタイミングの時に強烈な一撃を放ち始めた。


 ある程度数が減れば後は両サイドの敵をそれぞれが請け負うことができる。そうして気がつけば、クレイジーモンキーの群れは何処にも存在しなくなった。


「お疲れ様です。少し休息にしましょう。ダーヴィトさんの魔道具に魔力を補充しないといけませんし」


「ああ、なら補充をお願いするかな。その間にクレイジーモンキーの死骸の回収をしてくるよ」


と言って、身体強化の腕輪をシャルロットに託し、魔法の袋を持って倒した魔物を回収に向かう。数としては、三十匹程度だったがこの二人に挑むには些か力不足でもあった。


(戦闘時は、レオンハルトが率先しているから分かり難いが、シャルロットも相当実力を秘めているな。このメンバーの中では確実にレオンハルトに匹敵する実力の持ち主だ)


 これまでの経緯と今回の戦闘で、シャルロットの実力の高さに関心を示すダーヴィト。普段、訓練以外の戦闘では大体レオンハルトとリーゼロッテが素早く敵を倒し、シャルロットは他のメンバーのサポートに回ったりする事が多い。訓練の時も全力で戦っている所を見た事がなかったので、彼女の単独に近い戦闘を目の当たりにするのは、今回が初めてかもしれない。とは言っても、先の戦いも彼女は全力を全く見せていない。


 底知れぬ実力にダーヴィトは、何処か情けない自分が居る様に感じる。


 軽く水分補給を行い、再び捜索を開始する。それから暫くは魔物と戦闘を何度か繰り返す。レオンハルトたちと別れてから二刻程経過して漸く、人の反応を捕らえた。森自体広大なのもあるが、子供たちが何処へ逃げたのか分からない為、洞窟を発見したらその中を探したり、小川などの水源を見つけては、痕跡がないか探したりして時間がかかってしまった。


「この先の洞窟に人の反応があるわ。数は三人、周りに魔物はいないみたいだけど、反応が少し弱いから急いだほうが良いかも」


 シャルロットの報告で、ダーヴィトは少し速度を上げて、彼女の示す方角へ走り抜ける。


 見つけたのは、洞窟と言うよりは兎などの巣穴に近いその場所に子供たちが寄り添う様に身を潜めていた。


 身を潜めていると言うよりは、隠れて過ごし疲労と栄養失調、脱水症などで力尽きる手前の様なそんな状態だった。


「見つけたけど・・・やばいな。どうする?」


 三人のうち、六歳ぐらいの女の子は既に意識がない。辛うじて呼吸はしていたが、余り良い状態とは言えない。残りのペドロぐらいの年齢の男の子と同じく六歳ぐらいの女の子も意識が朦朧としていた。


「私は子供たちの確認をします。ダーヴィトさんは、周囲の警戒をしつつ、水の用意をお願いします」


 シャルロットは、ダーヴィトに指示を出すと、自身の持っている魔法の袋から水薬(ポーション)を取り出す。


 意識のない女の子は足を怪我しており、何かに感染したのか傷口を中心に青紫色になっていた。一応、毒の可能性も考慮して聖魔法『解毒治癒(キュアヒール)』をかけ、その上で口から水薬(ポーション)を少しずつ飲ませた。毒ではなく細菌等による病気の場合、『解毒治癒(キュアヒール)』や『治癒(ヒール)』では治す事が出来ない。病気関連は聖魔法だとほとんど効果を示さず進行を遅らせたり和らげたりする程度だ。病気はそれに合わせた調合薬や万能薬と言った薬を使用しなければならない。


 水薬(ポーション)なら病気にも少し効果があるため、保険として飲ませている。


 飲ませ終わると、そのまま横にして残りの二人の手当てをした。この二人も先程の子ほどではないにしろあっちこっち傷だらけになっている為、『治癒(ヒール)』で直し、少しずつ水分を飲ませていく。


「どんな様子だ?」


 ダーヴィトの問いに、まだ動かせそうにない事を伝える。彼の持ってきた水を受け取り、魔法の袋から鍋や具材を取り出し、即席のスープを作る。


 魔法の袋には、食料以外にきちんと料理されたものも入っているのだが、低栄養状態でも急に食べさせるのは危険な為、薄めのスープを少しずつ飲ませる事にしたのだ。


 まだ、日は昇っているが、時期に沈み始める。時間として一刻半ほどの猶予であろう。保護した子供だけを看病し連れて帰るには、時間的余裕はあるが、残りの四人を見つけるとなると、少し厳しい物がある。


 すると、シャルロットの『周囲探索(エリアサーチ)』内に複数の反応を捉えた。


 追う者と追われる者。何者か確かめるため素早く『(ファルコン)(アイ)』を発動させる。


(追っているのは・・・ゴブリン?少し異質な感じがするけど・・・追われているのは・・子供!?)


「ダーヴィトさん、複数のゴブリンが子供を追い回している。至急向かって、後、追っているゴブリンはなんか変な感じがするから注意して」


 ダーヴィトは、慌てて武器兼防具の盾を装備し、洞窟を飛び出す。シャルロットも残された子供たちに、他の魔物や獣に見つからない様に結界を張り、ダーヴィトの後を追う。


「うわあああああああーくるなああああー」


 木々の隙間を縫う様に逃げる少年。他の子供たちの為に食料探しに出たら、不運な事に魔物と遭遇し追われ続けている。しかも、魔物が多く生息する森の深部でそんな声を出せば自ずと他の魔物も声を聞きつけ集まってくる。


 現在、少年を追っているのは、デッドデビルと言うゴブリンの亜種の派生形、見た目はゴブリンに似ているが、禍々しい気配とゴブリン以上の残忍さを持つ魔物だ。しかも、ゴブリンやオークなどの性欲よりも嬲り殺す方を優先するため、女子供でも容赦はしない。


 それに加え、いたって普通のゴブリンや上位種のゴブリン、オークなども追って来ていた。オークは鈍足な事もあって、現在少年との差は開いているが、デッドデビルは少年の直ぐ傍まで追いついている。


 少年も他の子供たち同様に碌に食べていないし、飲んでもいない状態の全力疾走。長い事走れるほど体力も残っておらず、集中力も限界にきている。そうなれば当然、注意力が低下し、足元の確認が疎かになる。


「うわあああーーいてっ」


 走っている場所は森の深部、木々の間を縫う様に走れば当然剥き出しの根っこなんかも生えているし地面も凸凹していて何かに躓き易くなっている。少年も木の根に足を引っかけてしまい盛大に転げる。


 起きようとするが、既に背中から嫌な気配をひしひしと感じ、もうだめだと眼を瞑るが、襲われる衝撃がいくら待っても来ない。


 それどころか、変な音が聞こえたので、恐る恐る目を開けて確認を取るとそこには円形の盾がゴブリンの身体に突き刺さって絶命していた。


「うおりゃーーー」


 自分とは違う別の人の声が聞こえたと思うと、先程と同じ形の盾が自分の頭上を越えて、後続にいた魔物を次々の倒していった。軌道が分かっているのだろうか、勢いの付いた円形の盾は魔物に当たるとその反動で別方向に飛来、更に魔物に直撃し反動で、と繰り返し六匹いたデッドデビルやゴブリンを吹き飛ばしていった。


「大丈夫か?立てるか?」


 冒険者の様な身なりの人に救われ、一瞬何が起こったのか分からず、声を掛けられているのに全く反応が出来なかった。


「ダーヴィトさん。その子を守って」


 その奥から、同年代ぐらいの可愛いと言うか綺麗と言うかその両方を兼ね備えた女の子が弓を構えて指示を出していた。


 紫色の髪が(なび)く中、弓を引き射抜く。


 魔物に吸い込まれるように無数の矢が額に命中し魔物の命を終わらせる。


「そこから動くなよ。うおおおお『シールドストライク』」


 先程投げていた円形の盾がいつの間にか所持者の所に戻ってきており、それを装備しなおしたダーヴィトは、デッドデビルの胴体に盾による渾身の一撃を与える。


 その後は、二人の冒険者によって襲ってくる魔物をすべて蹴散らし、それらを当然の様に回収すると、他の子供たちのいる洞窟へと向かった。


「君のお友達は、此方で保護しているから安心して」


 シャルロットの問いかけと洞窟を出る前は苦しそうにしていた他の子たちが、静かに横になっているのを確認すると、大粒の涙を流し始める。


「よ、よがっだ。よがっだー」


 共に逃げ延びてきた者が今にもこと切れそうな状態にあったのだ。しかも、この三日間碌に食事を食べる所か安心した生活すら出来ない状態だったのだ。不安からの解放でそのまま泣き崩れる。そして、気が付けば彼もまた疲労と安心からそのまま眠りについてしまった。


 取りあえず、全員の安全確保と残りの子供の捜索がある。この子たちをどうするのか、話し合いその結果、全員が意識のない間にシャルロットの『転移(テレポート)』でログハウス近くまで移動し、そこからログハウスへ誘導すると言う事になった。


 直接移動しないのは、ログハウスにはペドロとホセの二人がおり、何処にいるのか見当がつかないからだ。幾ら子供とは言え、あまり知られたくはない故の措置。


 『転移(テレポート)』で全員移動させ、ダーヴィトが泣き崩れた少年を、そして重症だった子と残りの二人をシャルロットが器用に風魔法で運んだ。


「おかえりー。もう戻った・・・って、見つかったの!?ちょっとまって直ぐに場所用意するから」


 リーゼロッテが出迎えとともに、その状況を理解し急いで四人を寝かせられる場所へ誘導した。予め、用意をしていたのであろう。普段食堂として使う場所には、食卓や椅子は存在せず、簡易的な布団が敷かれているだけだった。


 その後の何があったのかをリーゼロッテに伝える。


「大変だ。レオンハルトたちからの救援の煙が上がっている」


 子供たちを運び終えたダーヴィトは、子供たちの血の臭いを嗅ぎ付けて魔物が来ていないか外へ確認がてら出ていたのだが、それを見つけて慌てて戻ってきたのだった。


 救援の煙、アーミーアント討伐時に使用した煙を今回は、何かあった時の救援信号として使うことにしていた。それが今、森の奥で上がっているのだ。間違いなくレオンハルトたちの物だと分かる。










 時は少し遡り、ソニアが蜘蛛の糸に捕まり、アラクネが居る場所へ引きずられていく。


「此処は俺が、君は急いで彼女を追えッ!!」


 命令するように指示を飛ばし、愛刀に手をかける。エッダは、レオンハルトの指示通り、茂みから飛び出し彼女を追う。


 クレイジーモンキーは、逃げた彼女を追いかけようとしたが、それは敵わなかった。


 群れで襲ってきたクレイジーモンキーだったが、レオンハルトの一瞬の攻撃で半数近くが一刀両断されていた。


 神明紅焔流抜刀術奥義陸ノ型『頞儞羅(アニラ)』。レオンハルトの使う抜刀術の中でも一際、抜刀術っぽくない抜刀術。その場から動かないのは、壱ノ型『伐折羅(バサラ)』と同じだが、抜き放つ一振りで、地上から上空にかけて無数の斬撃の軌跡が残される。


 前世にいた時も、此処までの数はなかったが、似たような事は師範代レベルになれば使用できた。


 その無数の斬撃の軌跡の数だけクレイジーモンキーは命を散らす。残ったクレイジーモンキーも逃げようとする前に第二撃目の『頞儞羅(アニラ)』によって全滅した。


 勝利の余韻に浸っている事は出来ず、レオンハルトは、ソニアとエッダの後を追う。クレイジーモンキーの死骸の回収は、勿体ないとは思うが、緊急事態故行えなかった。


 全力で彼女たちを追ったため、ソニアがアラクネたちの所に到着、エッダもまたそれに丁度追いついたと言うタイミングで合流した。


 まずは捕まっている彼女の救出と判断し、彼女を捕えていた糸を斬撃で斬り飛ばす。


 捕らえた獲物を横取りされて怒ったのか、数匹のアラクネがレオンハルトたちの前に姿を見せる。


 下半身は毒々しい色をした蜘蛛で、上半身は女性の人の身体をしていた。ただ、人の形をしていても魔物である以上服などは身に着けていない。上半身裸の状態で、胸などは何故か存在している。正し、先端は何もない。これが健全なのかはさておき、にらみ合いを始める。


 目が何処にあるかって?


 胴体である蜘蛛の部分にも目があるし、当然人型の方にも目がある。どっちの眼が主としては働いているのかは定かではないが、自分たちの体格の事もあり睨めあったのは蜘蛛の身体についている眼の方だ。


 なにせ二メートル半以上高さがある相手のそれも人型の顔にある眼を睨むよりも蜘蛛にある眼を睨む方が必然的に対応しやすい。


 睨み合いも直ぐに終わる。アラクネの一体が痺れを切らし動こうと目線を逸らしたため、その隙を見計らって懐に飛び込み、前脚の二本を斬り落とす。そのまま下をくぐり、後脚も一本斬り落とした。


 他のアラクネがそれに反応する。二体は、ソニアとエッダの元へ向かい。残りはレオンハルトの方へやってくる。


 アラクネは、人型と蜘蛛の両方の口から糸を吐き出し、動きを封じようとする。


 レオンハルトは、それを回避して一番近くに居たアラクネの一体を横に一閃し、人型と蜘蛛の胴体を斬り分ける。緑色の血がまるで噴水の様に血しぶきを上げるが、レオンハルトは既に別の所に退避しており、血しぶきの餌食になったのは、同類のアラクネだけだ。


 エッダの方も自身の持つ槍に氷の刃を纏わせ、放たれた蜘蛛の糸を凍り付かせる。糸を伝って氷が侵食し、切り離すのに遅れた一体は人型の頭部と胴体の口の部分が氷漬けになり、その個所を氷槍で貫き粉砕させた。もう一匹はギリギリの所で自身の糸を切り離し、難を逃れていたが、逃げた先にいたレオンハルトによって一刀両断され絶命する。


 残りの二体も呆気なく屠り、倒した死骸や吐き出された蜘蛛糸を回収しつつ、ソニアの様子を観察する。


 蜘蛛の糸に引っ張られ枝や葉、地面に転がる石などであっちこっち小さな傷が出来ていたが、それ以外に目立った外傷は見られない。


 『治癒(ヒール)』で直した後は、幾つかある繭の中で反応のあった物にナイフを突き立て繭を引き裂いていく。繭の中には五歳ぐらいの女の子が眠るように閉じ込められていた。


「ス、スサナちゃん!?ど、ど、どうしよう、どうしたらいい?」


 繭の中の人物を見るなり慌てふためくソニア。一旦落ち着かせてスサナと呼ばれる女の子の脈拍を調べる。


(辛うじて脈は感じ取れる。バイタルは・・・微弱ってところか)


 著しく弱ってはいるが、命に別状はないだろう。他に反応があった繭もすべて切り開く。反応のあった物のうち、子供が居たのは三人だけで、後はゴブリンやフェザーラビットなどの魔物から獣まで幅広く捕獲していたようだ。生き物の反応がなかった繭も全て調べたが、此方には子供は存在せず、すべて魔物や獣の死骸が入っていた。


 死後どれくらい経つのか分からない為、食料にする事は出来ないが、素材として使える部分をエッダに回収しても居らう。当然、繭もそれを支えていた蜘蛛糸もすべて回収させた。その間レオンハルトはソニアと共に保護した子供たちの状態を確認しつつ、怪我などの治療やバイタルの確認などを行っていた。


「うん。三人とも命の問題はないと思うよ。ただ、何時から捕まっていたのか著しく弱っているから少し休ませてあげる必要があるね」


 症状は、脱水症と栄養失調。脱水はソニアたちも軽くかかっていたし栄養失調も同様だったが、この三人はどれも危険な状態になる一歩手前までの状態に陥っていた。


 考えられるとすれば、あの繭だろう。あの繭によって必要な栄養分を少しずつ奪われていったと推測する。


 この場で脱水症や栄養失調に対する処置、点滴が行えれば良いのだが、これは出来るだけ安静にしておく必要もある。以前、冒険者になるためにナルキーソへ向かっている最中に襲われ重傷を負った冒険者をその場で使用したが、あの時今すぐに処置しなければ命に係わるレベルだったので、安静よりも命を優先させたわけだ。それにあの場所は割と見晴らしが良く。魔物の追撃があっても問題なく対処できた。


 しかし、此処は森の中、幾ら『周囲探索(エリアサーチ)』があると言っても相手をするが少し手間。それにこの程度の脱水症と栄養不足で直ぐに亡くなる事もないと判断し、取りあえず安全な場所へ移動させ、彼女たちの目が覚めるのを待つ事にした。


「このまま様子を見るしかないみたいだけど、救出はどうする?この子たちをこのままには出来ないし」


 エッダは、思わぬ所で子供たちを見つけてしまい。今後の動きをどうするのか悩んでいるようで、それをレオンハルトに相談する。


「救出はこのまま継続するが、エッダすまないが彼女たちが目覚めるまでは、この場所で隠れていてくれないか?目が覚めれば、これを使ってシャルたちを呼んで彼女たちを保護するんだ」


 そういって、ある物を渡す。アーミーアントの際に使用したロケット花火のような形をし、打ち上げれば色付きの煙が発生する代物だ。


「俺はこのまま救助に向かうがソニア、君はどうするんだ?ここで彼女たちと一緒にいても良いし、俺と共に山へ向かっても良い。どちらにするかは君に任せる」


 彼女に決めさせる事にし、どちらになっても良いように準備を始める。とは言っても装備を整え直す程度と愛刀に付着した魔物の血を拭ったりする程度だ。拭うと言う表現は、正確ではないかもしれない。魔法で綺麗にしているのだから、紙や布で直接刀身を綺麗にしている訳ではないのだから。


「スサナたちの事は気になるけど、付いて行く」


 どうするのか決まったようで、早速彼女に外套を被らせる。


 今まではエッダが、彼女を抱えて移動してきたのだがここから先はレオンハルトが抱えて移動する事になる。


 そして、エッダに合わせて移動速度を抑えつつ、しかも木々の隙間を縫うような道だったが、ここから先は森の上を駆ける。その為の外套だ。


 風による風圧や切傷が起こらないようにする為のものだと説明する。


 それと、一応シャルロットの様な『飛行(フライ)』ではなく、今回はあくまで木の上を跳躍すると説明している。別に秘密にしているわけではないが、飛行魔法も出来るだけ知られたくはない。身体強化による長距離の跳躍と思われていた方が後々のことを考えると良いのだ。


 ソニアを抱えると子供達を任せると一言伝えレオンハルトはその場を離れた。


 エッダの時と違い、速さと高さが断然違う。


 跳躍時にソニアの悲鳴が暫く森の中で響き渡った。


 レオンハルトたちが去って二刻ほど経過し、一人目が目を覚ます。そのあとを続く様に残りの二人も目を覚まし、レオンハルトが準備しておいた胃に優しい軽食と飲み物を渡してから煙を打ち上げた。そして、暫くするとシャルロットとダーヴィトが迎えにきて、それぞれが子供たちを抱え、ログハウスに戻ったのだ。


 煙が打ち上がる少し前にレオンハルトとソニアは、山道へ続く林道を見つけその林道を進んでいた。途中にゴブリンが現れたりしたが、全て倒し、討伐証明部位の確保と素材等を剥ぎ取り普通であれば、破棄してしまう死骸も一緒に回収する。


 その行為に不思議に思ったのか、ソニアが訪ねてきたが、何かに役立つかもしれないと一言いって話は終わる。


「この道、この道覚えているっ。ここを進んだんだよ」


 どうやらいくつかある山道のうち正解の道を一度で見つけれた様だ。いくつかあっても最終的には全て同じ道に繋がっているので、そこまで心配はしていなかったのだが、これはこれで良かったのだろう。


「ここから先は歩いてもらうよ。森と違って山の魔物は抱えたままだと少し厄介だからね」


 ソニアを下ろし、普通に歩いて進む。


 なにせこの山道、今いる位置から先は木々が生えていない。石や岩のみの道なのだ。魔物を見つけやすい分向こうからも発見されやすい。魔物以外に他の人の眼もあるかもしれないので、それを見越しての対応。


 それとこう言った場所の魔物は大体硬いのが相場だ。ソニアを抱えたままでは攻撃力が心もとないと言える。


 魔物に注意しつつ先を進む。途中どうしても避けられず、数回戦闘になったが、特に問題なく倒せた。森と違って出てくる魔物も変化し、岩の装甲を持つ六足歩行の蜥蜴、ロックリザードや土の中を移動する蛇、マッドスネークが出てきた。マッドスネークって名前なら泥の中だろうと突っ込みたくなったが、どうやら泥の中も移動するそうだ。


 それと、変化しないものたちもいた。ツインテールウルフやオークも生息している様だ。何方も遠目に見つけただけで戦闘はしていない。


そして、俺たちは遂にそれを見つけた。山道を歩き始めて半刻程の位置に、最初に襲われた地点。道を外れた場所に捨てられた幾つもの馬車に魔物に食いつくされたのであろう馬や人の骨。


 辺りには護衛として雇われていたであろう冒険者の防具や剣、斧などが血まみれで転がっている。しかも地面には至る所に血痕の後まで残されていた。


 見ていて気分の良い物ではないが、一応壊されている馬車の荷台を調べる。


「食べ物は・・・魔物が食い散らかしたようだな。調味料などの消耗品も割れたりして殆ど駄目になっているし、辛うじて使えるのが、武器ぐらいか?衣類もあるみたいだが、泥だらけの破れ放題だし・・・商品としての価値はなさそうだな・・・にしてもすごい臭いだな」


 すべての馬車の荷台を調べる。当然、魔物や獣は血の匂いで寄ってきて、人や馬を捕食したのだろうし、食べ物も綺麗に食べるはずがない。食い散らかした食材は、異様な臭いを発し始めているし、何より、腐敗臭が酷い。


 壊れた馬車を調べていると、転落時に巻き込まれたのか食いつくされていない死体も幾つか見つかった。


「アウラー伯父さんッ!!それに、バルバラさん・・・・」


 ソニアの知り合いなのだろう。伯父さんと言っていたからもしかしたら親戚と言う可能性も十分にあり得る。そして、バルバラと呼ばれていた若い女性の死体の先には・・・・。


 赤子の死体が無残な状態で潰されていた。きっとバルバラはこの子の母親なのだろう。こんな小さな赤子まで命を失う。この世界の命の軽さを痛感してしまう。


 だが、死体が此処にあると言う事は、ソニアの両親も近くに居るはずだ。聞けば、必死で逃げ回ったようだから、どのあたりに進んだかまでは分からないそうだが、そこは魔法の出番だろう。定期的に使用していたのである程度の魔物の位置は把握している。


 再度魔法を使い周囲を探ると、どうやら範囲ギリギリの場所に大型の魔物の反応が五つと十数人の人の反応を捉える事が出来た。より鮮明に情報を得るため、『(ホーク)(アイ)』で確認する。大型の魔物は彼女が言っていたワイバーンの様で、ワイバーンが見つめる先に洞窟らしきものがある。ただ、上からの視野の為、洞窟内部がどうなっているのかは分からない。


 ワイバーンも黒い種類が二匹、白いのが一匹、後は緑っぽいくすんだ色のワイバーンのようだ。色の違いは上位種による物なのか、それとも同位種でそれぞれ特徴が別なのか分からないが、何せかなり慎重に行動しなければならないだろう。


「この先にいるみたいだ」

死亡シーンの想像しながら書くと何処まで表現してよいのか分からなくなります。

まあ、極力グロテスクな描写は避けようかとは思いますが、気が変わったら入れるかもしれません。

次は七月上旬から中旬あたりで投稿します。

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