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021 武術大会

今回は、サブストーリーとなります。

よろしくお願いします。

 これは、レオンハルトたちが生誕祭を楽しむ一月(ひとつき)程前の出来事。


「これが王都アルデレートかー」


 馬車の中から身を乗り出してこれから向かう場所を見る。現在の位置からまだ、四半刻程距離があるにもかかわらず、周囲が草原となっているため前方にそびえる防壁やその防壁に守られるように立っている城がはっきりと認識できる。


「クルトあんまり身を乗り出すと危ないよ?」


 この中で頭脳面担当とも言えるヨハンの言葉に、全くいう事を聞こうとしない。それどころか更に身を乗りだそうとする。その時、馬車が石かなんかを踏んでしまい大きく揺れる。


「うわああッ!!っと危なかったー」


 馬車から身を乗り出していた事でバランスを崩し、落ちそうになるが、何とか耐えた。それを見たヨハンが更に厳しく注意をする。


「はあー。ルーカスさん仲間が騒がしくてすみません」


 三人の仲で一番年上のユリアーヌが、この馬車の持ち主ルーカスへ謝罪をする。ユリアーヌたち三人は現在、冒険者ギルドの依頼でルーカスを王都まで護衛をする任についていた。元々、三人も王都へ赴く用事があったので、この依頼はある意味丁度良かったとも言える。


「気にせんでええよ。若い人はあの位元気な方がいいくらいなんじゃから」


 そして、暫く進むと大きな門が見え始めた。これまで行ったどの街よりも数倍大きな門に扉、一体誰様なのかと聞きたくなる程大きいが、その理由は門の前に列を作る一団を見て理解した。


 王都アルデレートに入るための門番によるチェック。どの街でも行われているが、他の街とは大きく異なり、チェックする場所が五か所も設けられていたのだ。


 しかもその五か所に数十人の列をなしている事から、どれだけの者がこの王都に出入りしているのか分かる。


 そんな列に加わり、自分の番を待つユリアーヌたち三人。ルーカス共に待つこと四半刻。ついに自分たちの番になる。


「お前たちは何をしに来たのだ?」


 開口一番に疲れた様子も一切見せず、キビキビとした口調で訪ねてくる門兵。ルーカスは、王都にあるお店に戻ってきた事、そしてユリアーヌたち三人はその護衛でやってきた事を伝える。その際に、冒険者カードと依頼書を提示した。


「それと、王都で行われる武術大会に参加するために来た」


 冒険者カードと依頼書を見ながら、頷く門兵。この時期は、武術大会に参加するために各地から多くの冒険者が集まる。それを知っているため、わざわざ大きな反応は見せない。チェックが終わり、門兵から冒険者たちが多く集まってきているから、揉め事だけはしない様に注意を受け、王都の街に入るための門を潜る。


 門を潜って直ぐルーカスから依頼書終了のサインをもらい別れた。


 ここアルデレール王国の首都である王都アルデレート。人口は凡そ五百万人は居るだろうと言われるほどの大都市である。王都の中でも三つの区画に分けられており、中央に(そび)え立つ城を中心に貴族区画、商業区画、平民区画となっている。


 貴族区画は、言葉通り貴族たち、それも上級貴族の屋敷や大商家、高級店などがあり次にある商業区画との間に塀で覆われ貴族か通行を許された通行許可書を持つ者しか入れない様になっている。貴族区画に入るための門にも街の門兵よりも実力で優秀な兵士が守っているためやすやすと侵入できない様になっていた。


 次に商業区画では、文字通りやや高めのお店から安いお店などが並んでいる。また、飲食店や武器屋、魔法道具、仕立て屋など多くの種類のお店がある。ほかに特徴的なのは、今回の大会でも使用される中世のコロッセオの様な本格的な闘技場が建っていた。王都の商業ギルド、冒険者ギルド、宿屋も大体この区画に存在しており、王都内で最も広い区画とも言える。


 最後は平民区画で、此方は主に王都に住む住民の家が建っている他、鍛冶師が働く工房に激安とも言える宿屋、畑などがある。実はこの三つの区画以外に外壁近く・・・それも門から遠く離れた位置にあるスラム街も存在している。


 三つの区画以外に王都にはもう一つ分かれている者があり、それは・・・・。王都を東西南北に分け納めている貴族がいると言う事だ。基本的に王都は、この国の王が取り仕切ってはいるが、あくまでも表書きの事で、実際の運営は四つの貴族が東西南北を収めている。


 北地区は武闘派の上級貴族エーデルシュタイン伯爵家、南地区は勇者の血筋を受け継ぎしラインフェルト侯爵家、東地区は教会の力を持つシュヴァイガート伯爵家、西地区は代々宰相として国を支え、此方も遠い先祖が勇者だった血筋の大貴族フォルマ―公爵家が納めている。三つの区画に比べて、此方は特に何らかの制限があるわけではない。


 そんな大都市でもある王都は、数日後には年に一度の大行事である武術大会のおかげで通りは大賑わい。まだ始まっていないのに屋台は並び、武器や防具なども店先に並べて、販売していた。


 急ぎ、大会中に滞在できる宿屋を探し、少し高めだが宿を一月半借りる事にした。


 宿屋が決まれば次は武術大会への参加申し込みだ。その為冒険者ギルド近くに仮設の大会運営所ができており、そこで参加申し込みを行う。


 参加には二種類あり、未成年の部と一般の部。未成年言わば十五歳以下の子供が対象になるが、一応参加申し込める年齢も十歳からと決められている。なので、一番年齢が若くても十歳となる。流石に未成年の部最高年齢の十五歳が三歳や四歳児と戦っても何も面白くはないし、万が一の事もあり得るからだ。一般は成人していれば誰でも参加する事が出来る。


 ただし、犯罪歴のある者は駄目だが、奴隷は参加する事が可能。


 申し込みの為受付に並び順番を待つ。それ程待つことなく順番が来たので受付の女性に参加希望の旨を伝えた。


「参加されるのはお二人で宜しいですか?」


受付の人の問いに答える。


 今回参加するのは、ユリアーヌとクルトで、ヨハンは観戦席から応援するだけ。その理由はこの武術大会では魔法の使用が出来ないからだ。魔法が使用できないヨハンでは、勝ち目はまず無いと言っても良い。


 そして、魔法が使用できないのには、このコロッセオ自体が古代聖遺物(アーティファクト)であるからだ。誰が何時、何の目的にどうやって作ったのか不明だが、このアルデレール王国が建国されるより以前、いやそれよりも前の国の頃から既にあったとされている。


 それに魔法が使用できないとは言ってもコロッセオ全体ではなく一部だけだ。その一部が武術大会の試合会場となる闘技場内のみだ。客席や控室などは魔法が使える。


 使えると言っても客席から闘技場内へ使用しても弾かれ、全く魔法を受け付けないのだ。純粋な武術を競うのであれば最適な場所とも言える。


 普通に考えてわかるように、この古代聖遺物(アーティファクト)は非常に強力と言えるが、余りに大きな建造物で動かす事は出来ず、利用価値が乏しいのが現状だ。


 とは言っても今回魔法使いであるヨハンは参加しないが、魔法使いが参加してはいけないと言う決まりはない。毎年数十名の魔法使いが無謀にも肉弾戦主体の冒険者や兵士たちに挑み、あえなく散っており、ある意味風物詩となっている部分も存在しなくはないのだ。


「この大会のルールはご存知ですか?」


 参加費を支払い。受付の女性からルールを聞く。


 まずは予選と呼ばれる十六ブロックに分かれて争い。そこでブロック優勝した者たちが本選に出場できると言う事。


 しかも、予選の最初の一試合は十人で行われるバトルロイヤル制。そこで生き残った者がトーナメント制の予選に移れると言う事。言わばバトルロイヤル制は予選トーナメントに行く為の予選みたいなもの。


 まあ、十人かどうかはその時の参加者人数によって多少変わるようだが、それでも数グループが一人減ったり増えたりする程度。


 大体、未成年の部で毎年五千人を超えるぐらい。一般の部は一万人程度らしい。それだけの人数で限られた日数、試合を組むのは不可能との事でその様な試合方式になっているのだそうだ。


 そのあたりの事も受付の女性が説明してくれた。


 それ以外に、殺傷行為の禁止がある。死ななければ問題ないと言うわけでもないらしく。障害が残るような攻撃もこの行為に該当するらしい。


 この行為が行われた場合、相手が生きていれば、高額の罰則金や犯罪奴隷にされる程度。犯罪奴隷と言っても必死に働けば、解放されることがある程度のもの。しかし、相手が死んでしまった場合は、軽くても一生犯罪奴隷として働き、重い場合は人体実験の被検体若しくは処刑となり、かなり重たい罪になってしまう。


 過去に相手を死なせてしまう出来事は起こっており、女性の奪い合いや貴族の子息への復讐、不慮の事故など理由は様々だったが、どれも被検体として非人道的な扱いを受け死んでいったらしい。


 このあたりの話が曖昧になっているのは、そんな事は此処数十年起きておらず、そういう事があったという記述でしか確認できないからだそうだ。


 他に、試合にかかる時間の制限はなく。勝敗の判断は、相手が降参するか、気絶などで戦闘継続が不可能と判断された時との事。


 大まかに聞かされたのは、このくらいの事。後は何か気になった事があればそれに答えてくれるそうなので、気になった点を幾つか尋ねる。


「貴族が参加されるのに対し、此方が粗相をしたら罰則とかあるのか、それと武器の持ち込みは可能なのか」


「それと、試合中に闘技場内から出た場合はどうなるのか、外部からの魔法は無効化しても物理系の援護に対しての対策はどうなっているのか」


 ユリアーヌ、ヨハンと言う順位質問を行った。クルトは既に受付の女性の人から聞いた説明だけいっぱいいっぱいの様で、質問が出来る様子ではなかった。


「貴族に対しては、粗相にはならないわ。貴族の者も参加しているので、そんな事を気にしていては試合にならないもの。これは貴族側への説明できちんとされていますし、その事で何か言われた場合は王族たちが、その貴族に処罰を与える事になっております」


 この大会は身分など関係ないようだ。


「武器の持ち込みは大丈夫よ。持ち込みが嫌な場合は此方側で貸し出しも行っております。それと、試合中の場外は負けの判定になります。ご注意ください。最後の外部からの不正行為は、魔法と同じく弾かれてしまうが、余りに強力な物は弾けないようなので、その場合は行った人物と企てた人物を捕まえ、処罰されます」


 この武術大会は、何人をも妨害する事が出来ない。己の磨き上げた技と技を競わせる最高の場となっているようだ。


「わかりました。では最後に、魔装武器や防具はどういう扱いになりますか?」


 ここまで聞けば魔法の関与のない技のぶつかり合いになるが、中には魔法を用いて戦う者もいる上、魔法が使えなくても大金を積めば魔法が使える武器を購入することだって可能だ。なので、此処で懸念されるのが、技が互角の時に差が出る武器の性能だ。


 直接的な魔法の使用が不可能なのであれば、魔法石に魔力を込めた魔装武器の魔法がどうなるのかも知っておく必要がある。恐らく使用できないのだろうとは思っていても、万が一と言う事もあるし、その時にはその時用の対策も考えておく必要があるからだ。


「魔装系に関しましても、魔法として認識されるため発動は致しません。武器や防具も一般の物と同じ扱いになります」


 説明を聞き、その後申し込みの手続きを済ませる。


 受付の女性の説明は、適切ではあったが、一部説明が不足していた。と言うよりも一般的に知られていない事ではあるが、魔装武器に関して一部例外も存在する。それが、聖剣などの聖装武器と呼ばれる物、更に神剣などの神装武器と呼ばれるものだが、どれも表にはほとんど出てくる代物ではないので知らない者が大半だ。


 知っていたからと言って、聖剣など持ち出してくる者が居ないと言うのも事実ではあるが・・・。


 受付を済ませてから数日が経ち遂に待ちに待った武術大会当日の朝。


 朝早くから、観戦者や参加選手、大会職員、警備の兵士などで王都アルデレートは大賑わいしていた。


「さあ、選手の皆さん。朝にこのジュースを飲めば、身体の疲れは一気に吹き飛び、試合で良い結果を残せるよー買った買ったッ!!」


「これは、前回準優勝したギュンター選手と同じ型の大剣だよー大剣使いは見てってー」


「この防具はね―――――――」


 道は武器や防具を始め、軽食や観戦者たちが食べたり飲んだりできる飲食もの、中には怪しい商品を売る者までいた。怪しいと言っても兵士が出張って来る様な代物ではなく。インチキ臭い代物と言った方が正しいかもしれない。


 ユリアーヌたち三人もそんな賑わう街中を進み、目的地のコロッセオにたどり着いた。


 幾つにも分かれた列があり、コロッセオに入るための幾つもの入口にそれぞれ列をなしているようだった。入場券は、大銅貨二枚二百ユルドと比較的高めではあるが、それでも払えない金額ではない値段だ。その列へ向かうためヨハンとはここで分かれる事になる。


「二人とも無茶な事はしないでね。じゃあ応援席で見てるね」


 それに二人は答え、分かれた。ユリアーヌとクルトは選手控室へ移動。此処でも二つの列が出来ており、第一から第八ブロックが右の列、第九から第十六ブロックが左の列になっているそうだ。今日行われるのは未成年の部だけなので、此処に集まっているのも皆十歳以上十五歳以下の子供ばかり。


 中々鍛えている屈強な感じの者から余所余所しい雰囲気で如何にも非力ですと合わらしている者、只々戦いを楽しみにしている者、型稽古をしている者、お調子者に物静かに構えている者など様々な人物が列に並んでいた。


 男女比もほぼ同じくらいか若干男性が多い感じで、持っている武器にしてもかなりばらついている。剣でも片手直剣系や曲刀系、両手剣などの大きなものと多種多様にあり、槍や鉾、棍などの長物、短剣やダガーなど短物、斧や槌、篭手と様々な武器を所持していた。


 ユリアーヌは第六ブロックで、クルトは第十五ブロックに指定されておりそれぞれの列に並ぶため二人も此処で分かれた。


「見た感じだと三人ってところか?」


 列に並んで周りにいる人物を観察するユリアーヌ。彼の肌の色が珍しいのか相手たちも彼の事を気にするように見ていた。ユリアーヌの三人と言う言葉は、此処に並んだ中で強いと思われる人物の数で、その三人以外はどれも大したことないと判断している。


 ユリアーヌよりも少し前に並ぶ金髪の少女。その金髪よりもだいぶ前にいる二人組のうちの赤髪の少年。最後は、背は低いのに随分と重そうな大槌をもつドワーフの少年。それが、この第一から第八ブロックの中で強いと予想した人物たちだ。


 それから控室へ移動し、まずは第一ブロックの一試合目が始まった。控え選手は基本控室にいるか、控室横の選手専用の観戦室で試合を見るぐらいだが、第一ブロックに目ぼしい人物がいる感じがしないので放置した。一ブロック三百二十人の中から三十二人にまで減る事になっており、バトルロイヤル制を三十二試合行われ、一ブロックにかかる時間は僅か四半刻程度。これだけの試合数に対し、何故これほどまでに早いのか・・・。


 それは単純に試合会場が本選でしようする闘技場より小さい闘技場で戦うからだ。予選の決勝から一試合ごとに行う大きな闘技場になるが、それまでは割と小さめの闘技場だったりする。


 一度に四試合行えるので、回転率が速いというわけだ。四分割にしたら闘技場が狭くなると思うかもしれないが、四分割しても十人程度なら余裕で戦えるだけのスペースがある。そう考えれば、分割しない闘技場はどれだけ大きいのか理解できるだろう。


 第二ブロック、第三ブロックと順調に終わり、第四ブロック目で漸く金髪の少女とドワーフの少年が会場の方へ進んだ。そして、気が付けばあっと言う間に二人とも対戦相手の九人を倒し戻ってきた。


 結果、予選第一試合は無事終了し、五千人以上いた中から五百十二人が生き残った。当然、予選第一試合にユリアーヌもクルトも残っており、ユリアーヌが気にした金髪の少女とドワーフは残り、赤髪は第一試合でまさかのユリアーヌとあたり、呆気なく他の八人と一緒に倒された。後から聞いた話では、彼は前回大会で準優勝をしたギュンターだった。


 優勝候補の一人がまさかの予選一回戦負けで会場は大盛り上がりしたのは言うまでもない。クルトからの話では、第九ブロック以降で強そうな人物は、緑髪の長身のエルフの男女、狼の獣人の少年、銀髪の少女、体格の良い少年、印象が薄い少年の六名だそうだ。


 前半のブロックに比べて、後半の方が割と強い人物が固まっているのかと予想していたが、実はユリアーヌの強さの基準とクルトの基準では大きく異なる。前半のブロックにクルトが行っても恐らく同じぐらいの人数は伝えていただろう。クルトの基準よりも高い基準をユリアーヌが持っているがゆえに人数に幅が出てしまったのだ。


 各ブロックの第一試合だけで初日は終了してしまった。


 翌朝、昨日と同じようにコロッセオへ向かい。選手控室で待機する。未成年の部の大会参加者は昨日の一割しか残っていないが、現在はその中でも四分の一しか控室に選手はいなかった。


 今日から会場を昨日の第一ブロックがすべての闘技場を使うのではなく、一つの闘技場に一つのブロックが使用する形をとる。まずは、第一ブロックから第四ブロックが、予選決勝まですべて終わらせる。その後第五ブロックから第八ブロックまでが試合を再開。此方もその日のうちに予選決勝を済ませて終わる。翌日は第九ブロック第十二ブロック、第十三ブロックから第十六ブロックまでが、予選を終わらせる。


 ブロック優勝は、第一ブロックに十三歳の犬耳を生やした半獣人の少年。第二ブロックは今大会が最後になる少年。第三ブロックも少年。第四ブロックはユリアーヌが気にかけた金髪の少女とドワーフがおり、最終的に金髪の少女が勝ちブロック優勝した。第五ブロックは狐の獣人。第六ブロックは当然ユリアーヌが勝ち進んだ。第七ブロックは幼げな少女。第八ブロックはどこかの貴族の少年、第九、第十ブロックは、エルフの男女であり、この大会には色々な種族が参加している様子が見てとれる。第十一ブロックは、クルトが一番気にしていた銀髪の少女、細剣で敵を的確に攻撃していた。驚くべきことはその技の速さと剣速だろう。一連の動きなのかクルトにはわからなかったが、まるで幾つもの技を連続して繰り出している様にも捉えれたからだ。第十二ブロックは、見た目は完全に大人だろうと言いたくなるような筋肉質の大剣使い。第十三ブロックは全身を外套で隠した性別不明の人物。第十四ブロックは前回大会優勝者の少年。第十五ブロックは素早い動きとアクロバティックな行動で対戦者を翻弄し、双剣または体術で倒してきたクルト、此方もユリアーヌ同様何の問題もなく予選突破した。第十六ブロックは、熊の獣人でクルトの倍近い体格差がある見た目は完全に熊の少年だ。少年と呼ぶべきなのか良く分からないが・・・・。


 明日から二日間は、お休みでその間に一般の部の予選を行う事になっている。


「二人とも予選突破おめでとう」


 飲食店で予選突破の祝勝会を開いていた。ユリアーヌもクルトも問題なく突破したが、普通に考えればかなりすごい事である。本選に出場できるのは五千人中たったの十六人。その中に二人が入っている事がどれだけすごい事か。


 世の中にはもっと強い奴らもいるだろうが、現在参加している中では限りなく強者の分類に入るだろう。


「ありがたいけどよーヨハン。この大会は思っていたほど強い奴ら居ないぜ?」


 クルトは出てきた料理を勢いよく食べながら話す。


「確かにな。俺たちは冒険者として活動してきているから実践慣れしているし、それよりなによりレオンハルトと過ごした数年間の方がかなりしんどかったからな」


 ユリアーヌもクルトの意見に同調する。こういっては何だが、レオンハルトと対戦していた時の方がもっと実力を出さなければいけなかった。いやもっとと言うより全力でぶつからなければいけなかった。それに比べれば、この大会は他の子供たちを相手にしているのと差ほど変わらない。


 実際には、孤児院の子供たちよりも今日の対戦者たちの方が格段に上なのだが、二人からすればあまり変わらない感覚なのだ。


「レオンくん参加すると思っていたんだけど、来なかったね」


 三人が大会に参加した理由の一つに、レオンハルトたちに会うと言う目的があったのだが、今回は果たせそうにない。自分たちが孤児院を出てからは一度も会っていない。レオンハルトたちが離れる少し前に手紙が届いたぐらいだが、今はその手紙のやり取りも行っていない。


 三人から見てレオンハルトと言う人物は、強さを求めている印象が非常に強い。事実、物にしても魔法にしても誰よりも強かったし、更に強さを求めていた。故にこの様な大会に参加するのではないかと言う気持ちも少なからずあったのだ。


「まあ、外せない用事か何かあったんだろうよ。俺たちがこの大会で上位の成績を残せば来年は必ず参加しに来るさ」


 そのまま、食事を堪能し宿屋へ戻った。その後は自分たちの出場が来るまでの二日間を王都観光したり、大会の観戦に行ったりして過ごす。


 一般の部も未成年の部と同じように強い者は強く、弱い者は弱い。弱い者同士の対戦は見ていて面白みがなかったとユリアーヌが呟いていたが、優勝候補として名を連ねる者たちはとても面白そうに観戦していた。クルトも参加するならこっちの部が良かったとぼやいていたほどだ。


 そして、未成年の部、一般の部共に予選が終了し今日から本選が開催される。


 観戦者数は、予選の時とは比べ物にならない程座席を埋め尽くしていて、立見席まで出ている始末。それよりなにより、本選からは王族も観戦しに来られていた。


 現国王アウグスト・ウォルフガング・フォン・アルデレール。そして現国王の第一王妃アマーリア・アグネス・フォン・アルデレール。第二王妃は、体調不良で来られていないらしいが、お互いの子供たちも参加している様子だ。


 美青年として国民に愛される第一王太子。第二王妃そっくりな美少女の第二王女。まだ、十歳ぐらいの第三王子と第三王女も見に来られ、王族が姿を見せた時は、試合の時以上の声援があった。


「今年の大会も大盛り上がりだと聞いておるぞ。今日はそれ以上の試合が見れると期待しておる。それと、上位者には余から褒美も与える。しかとその実力を示してほしい以上だ」


 アウグスト陛下が本選出場者に向けて激励を行う。毎年、この様に本選が始まる前に闘技場に参加者が集められ、陛下直々に本選開催の挨拶を行うそうだ。


 本選開会式が終わり、それぞれの選手は控室に戻る。この時一般の参加者たちは試合がない為、そのまま解散していた。


「皆さま、長らくお待たせしましたー。只今より未成年の部の試合を開始したいと思います」


 試合進行の職員が魔道具で声を大きくし会場を盛り上げる。予選の時にはなかった仕様なだけに客席からの盛り上がりもすごい。魔道具が使用できるのは進行役が王族たち観戦している直ぐ真下の客席から話していたからだ。


「まずは、予選第一ブロックを勝ち上がってきた獣人族のシーロ選手。見た目は人よりの姿をした犬の半獣人だが、その本能は本物だー。予選では数々の参加者を倒してきたのだからー。今日は一体どんな試合を見せてくれるのだろうか。では入場してもらいましょうー」


 姿を見せたのは、進行役の伝えた通り、見た目が人間で犬の大きな垂耳が頭から生えている獣人だ。それとちょっと手入れ不足な感じの犬の尻尾がありそれらを隠せば人間に見える。小さめの丸い鉄の盾とショートソードと呼ばれる種類の剣。動きの妨げにならない様に鉄製ではなく革製の鎧を着こみ腕や足にも似たように防具を装着している。


 ユリアーヌと同じ年齢だが、身長が低いせいでもう少し若く見える。


「対するのは―――――――――」


 第二ブロックを勝ち残った選手の紹介を行い。そのまま闘技場に上がる。進行役の合図とともに第一回戦第一試合が開始される。


 素早い動きに対して、若干苦戦している様子の相手だったが、何処かで習った剣術なのか大きく技の名前を叫びながら振るった剣が、相手選手の防御を抜き、バランスを崩した所を喉元に剣を突きつけて試合が終了。


 子供にしてはなかなかの試合で、他の参加者たちも少しばかり驚いていた。


 第二試合は第三ブロックを勝ち上がった少年と第四ブロックを勝ち抜いた金髪の少女。


「――――――前回大会で惜しくもベスト四を取り逃がしたザシャ選手。対するは、この王都西地区をまとめ宰相を輩出する勇者の血筋を持つ大貴族フォルマ―公爵家の令嬢ティアナ選手。代々受け継がれる勇者様が考案した剣術が果たしてザシャ選手に届くのだろうか。今大会優勝候補筆頭の人物なだけに目が離せません」


 そして始まる第二試合。圧倒的な強さでザシャ選手を追い込む剣技。見た目はシャルロットと変わらない程の美少女にやや大きめの両刃の剣を巧みに使いこなす。


「彼女の剣の流派ってアカツキ流大剣術だよな?」


 彼女の戦い方を見て判断するクルト。この王国には有名な大剣術の流派が三つあり、そのうちの一つが、勇者が考案したアカツキ流大剣術だ。正確にはアカツキ流ではなく(あかつき)流が正しいのだがその様な事は、彼女たちは知らない。


 その問いにユリアーヌが答える。


 大剣を自身の腕や力だけで振るうのではなく、流れに乗せて剣を振る流派なのだと。故にそれを使いこなす者は強者になりえるが、使いこなすのが難しいと言われている。


 彼女は大剣ではなく大きめの剣を持って戦っている事から大剣を生身で扱うにはまだ難しいのだろうと推測していたが、強ち間違えではない。


 アカツキ流大剣術は、まだ半人前の段階だと剣を扱って練習すると知れ渡っている情報なのだ。それは技術的な部分や身体的な部分に起因するが、彼女の場合は身体的な部分と言える。


彼女の攻撃を止める事すらできないまま、気絶させられ試合は終了する。


「予選では見せなかった動きだな」


 ユリアーヌがその戦闘を見て呟く。


観客たちは彼女の強さの凄さに歓声を上げていた。


「勝者―――ティアナ選手ッ!!可憐な美少女からは想像できない剣技でしたねー観客たちもこれまで以上に盛り上がっております」


 彼女が闘技場を去ると次の出番は自分だと言うようにその場に立ち上がる。次の試合は第五ブロックと第六ブロックの勝者たち。即ち、第六ブロックの勝者ユリアーヌの出番なのだ。


 対戦相手もその場で立ち上がり礼をする。根が真面目そうな狐の獣人だ。第一試合の時の犬の獣人とは異なり、此方の狐の獣人はもう少し獣よりの獣人だった。


 驚くべきことは、腰にぶら下げている武器だ。


(あれは・・・カタナか?確かに商品化されているのは知っているが、製造方法が特殊で値段がかなり高かったはずだが)


 狐の獣人が持つ刀に視線を向け考える。視線を察してか、狐の獣人が此方を向き彼の考えている事を言い当てる。


「この武器が気になっているようだね」


 話を掛けられ、それに返答をした。試合が始まる少しの時間だが、軽く話す事が出来た。彼は刀を一目見て気に入り、かなり無理をして購入したそうだ。まあ逆に刀について説明された時に知っていると答えた時の狐の獣人が驚いた表情が面白かったが・・・。


「さて、続きまして第三試合に移りたいと思います。先程の試合同様に此方の試合も中々驚かせてくれる事でしょう。では、選手紹介を行います。予選第五ブロックを制したのは、近年発明されたというカタナを使用する獣人族ルシアノ選手です。狐獣人の素早い動きに未知の可能性を持つカタナがどれ程すごい戦いを繰り広げてくれるのだろうか」


 対戦相手・・・ルシアノが闘技場に立つ。腰から見せる刀を引き抜き観客たちにその刀身を見せる様に演舞。それを見た観客たちは、見事な美しさだとかあれでどう戦うのかなど話し声が聞こえる。


 司会役も同じようにカタナを褒めていたから、かなり注目度は上がったはずだ。


「レオンハルトとは違う戦い方、楽しませてもらおう」


 闘技場を見つめるユリアーヌ。彼は気が付かなかったが、同じように闘技場で演武を見せているルシアノ、彼の持つ刀に注目している人物がクルトやヨハン以外にもう二人いた。


「では、彼の対戦相手をご紹介いたしましょう。アルデレール王国の南部にある山脈に住むと言われるルオール一族のユリアーヌ選手。ルオール一族は独自の立場で生活を成り立たせるため、余り王都などで見かける事はないが、その脅威の身体能力と天性の戦闘技術は皆さまも数々の御伽噺(おとぎばなし)で知られている事でしょう。今回はそれが事実なのか各々の眼でしかと確かめてください」


 年齢的に考えれば長身と言われる背丈。その背丈よりも長い槍を携え闘技場に上がる。


 対戦相手もユリアーヌを見てかなり嬉しそうな表情で待っていた。


「やっぱアンタあのルオール一族の者だったんだね。これは中々楽しめそうだ」


 ルシアノがそう言って構え直す。此方もそれに合わせる様に槍を構える。予選の時に感じた強そうな人選にルシアノは居なかったが、それでもこの場に立っているだけの実力は有しているようだ。


 けど、カタナを所持しているせいか、彼と比べれば、赤子の様な者だ。ルシアノの構えはレオンハルトとは大きく異なる上に隙だらけだ。ユリアーヌからすれば一瞬で終わるような相手にどう戦うか考える。


 相手が隙を見せている時は、本当に隙を見せているか、またはそれが囮なのか見極める様にとレオンハルトに教わった。当初は、何を言っているのか分からなかったが、実際に体験をしたからわかる。構えなどからの隙は使い手によってどうとでもできるが、もっとも隙を修正しにくいのが、己が攻撃をしている時だ。


 わざと隙を作り、相手に攻撃をさせる。その攻撃に合わせる様に攻撃をする。この手段で何度レオンハルトに負けた事か。


 それを思い出し慎重に探る。すでに進行役からの試合の合図も出ているが両者とも一向に動かない。


(やはり、カウンターを狙っているのか?ならば、カウンターにカウンターで返せば問題ない)


 思考での戦闘を終えると吹っ切れたようにユリアーヌは構えを変更する。


 次の瞬間、動いたのはルシアノだ。構えを変更した瞬間にチャンスと判断したのであろう突進してくる。


 ユリアーヌもまた、相手に合わせる様に走り出す。


 両者がすれ違う瞬間、ルシアノは横一閃に刀を振るい、ユリアーヌは身体を捻るように躱し、槍を同じように横へ振るった。槍先近くの柄の場所がルシアノの身体に直撃。強烈とまでは行かないがそこそこの威力の打撃でそのまま吹き飛ばす。


 そのままレオンハルトから習った移動ですぐさまルシアノに詰め寄る。


「くっ―――」


 吹き飛ばされ地面に転がりながらも意識を失わない様に何とか耐えるルシアノ。起き上がった瞬間に目の前に迫るユリアーヌを見て、持っていた刀を前に突くが、それを悟っていたのか目の前に迫っていたユリアーヌの姿が目の前から忽然と消える。


「――ッ!!」


 何処に消えたのか探ろうとすると背後から声を掛けられる。振り向けば彼が槍を構えて待っており、棄権をするように促してきたのだ。


 ルシアノは、ルオール一族の実力の一端を見て、勝てないと判断し負けを認めた。


「あ・・・あの動き五年前の・・・あのお方と同じ動き」


「私たちを助けてくれた森も南にあるところ。もしかしたら何らかの接点があるのかもしれないよ?知り合いとか同じ流派とか」


 控室で話す二人。先程のユリアーヌの動きを見てからある光景を思い出す。五年ほど前に森で魔物に教われている所を助けてもらった時の事を・・・。


 当時は、今のように力も技術もなく只々、皆から可愛がられたあの頃。魔物から救ってくれた同じ年くらいの少年。当時全く知られていないカタナと言う名前の武器であっと言う間に斬り伏せる実力。その動きに全く同じ動きを示したユリアーヌは、彼の事を知るための手がかりであった。


「後で聞いてみましょう」


 今はまだ大会の本選中。出来ればゆっくり聞きたい事もあり、大会終了後に時間を作って尋ねる事にしたのだ。


 第四試合は、第八ブロックの貴族の少年が勝ち。第五試合は、第十ブロックのエルフの少女。この試合はエルフ同士の戦いと言う事もあり中々見応えがあった。お互いに使用する剣術は同じ、後は少年の力か少女の手数の勝負になり最終的に手数で少年を下したのだ。


「では次の試合に移りたいと思います。この試合も皆さん目が離せませんねー。どちらも優勝候補として名前が挙がっているお二人です。それでは、選手の紹介です。第十一ブロックを勝ち上がったのは、第二試合を勝ち抜いたティアナ選手同様、この王都の南を統治するラインフェルト侯爵家の令嬢リリー選手。大貴族だけでなく勇者の血筋まで同じと言うこの境遇。いや、血筋で言えばティアナ選手よりも勇者の血筋が濃いと言える。何せ彼の祖父が勇者として戦っていたのは皆の心に残っている事だろう。小さい頃からティアナ選手と仲が良い事でも知られている。果たして勝てるのでしょうか」


 進行役の紹介が終わると闘技場に現れた一人の少女。ティアナと違い少し大人しそうな雰囲気を出している。銀髪は滑らかでいて美しさすら感じるほどだ。


 対するのは、ニ十歳前後に見える大柄の少年だ。少年と言えるのか不明だが、一応年齢は十四歳らしい。彼は、大剣を所持し、闘技場に上がる。司会役の説明では、彼は前々回とその前の優勝者でもあるらしく、実力は十分あるのだ。去年は本選二回戦で敗退してしまったらしいが、今年も本選に上がれたら騎士になれるよう推薦を書いてもらえることまで説明していた。


 その事はこんな公で伝えて良いのかは分からないが、それを聞いた他の選手も俄然やる気を出していたので良いのだろう。他者の刺激材料としては持ってこいの情報だろう。


 対戦の結果は、その前の試合の上位版と言って差し支えない戦い方だった。戦法は違うが、根本の部分は同じなので力対手数の様な試合だった。とは言っても彼は力以外で技の切れ、対する彼女も手数のみならず素早さと技術で対抗し、最後は速さに翻弄された彼が自滅と言う結末に終わった。


 第七試合は前回優勝者を倒した第十三ブロックの正体不明の人物が勝ち上がり、第八試合は一方的に攻めて勝利を得たクルト。進行役の紹介の時にユリアーヌと同じチームと紹介された時は俺にも何かカッコいい説明をと残念がっていたのが印象的だ。対する熊の獣人は力と威圧がすごかっただけで、それ以外はそうでもなくあっさり負けた事に少し落ち込んでいた。


 予定よりも早く終わってしまい。この後第二回戦を二戦程行うか話し合いがあったが、結局明日行う事となった。明日は、第二回戦と第三回戦である準決勝戦まで行う。そして、次の日は一般の部で同じ様に二日掛けて準決勝戦まで行う。大会最終日に未成年の部と一般の部の決勝戦を行い。午後から閉会式と上位者への報酬及び立食パーティーが開催されることになっている。


 コロッセオから離れ、街を散策し、冒険者ギルドにも顔を出す。冒険者である三人だが、今は依頼を受けていられないので、どんな依頼があるのかだけ確認して宿屋に戻った。


 翌朝は、昨日同様に控室に向かい出番が来るまで待機する。ざっと見渡す。獣人族のシーロに、エルフのオリヴィア、貴族の少年に金髪の令嬢ティアナと銀髪の令嬢リリー。外套で全身を隠した正体不明の人物。それにクルトと自分だけ。このうち勝ち残れるのは二人のみだ。


「本選二日目となりました。予選の時は五千人以上いた参加者でしたが、今は残り八人。そして、その八人も今日の全試合が終わる時には、僅か二人しか残っていない事になるでしょう。選手の方々が、どの様な戦いを見せてくれるのか、非常に楽しみですねー」


 進行役がいつもの様に軽やかに進めて行く。ああいった仕事は、向き不向きがあるのだが、彼は間違えなく天職と言えるそう言う進め方だ。


 本選第二回戦第一試合、犬の半獣人シーロと金髪の令嬢ティアナとの戦闘が始める。どちらも実力は十分備わっており、どちらが勝っても可笑しくないと思われたが、実際はティアナの圧勝となった。


 シーロの戦法は、アカツキ流大剣術の前になすすべもなく敗れたのだ。


「まるで、何処の誰かを思い出させてくれるな」


 次は自分が対戦する可能性があると考え、試合を観戦していたユリアーヌから何かを思い出したように呟く。


 彼が思い出したのは、共に戦い鍛えてきたレオンハルトたち三人の事だ。鍛えているのに筋肉体質とはかけ離れた肉体。女性陣に至っては、鍛えているのかすら怪しい見た目。可愛らしさが七割近く占め、残りの三割も戦いとは無縁の見た目にも関わらず、実力は自分たちと同等並みであった。


 なぜこのような事を思い出したのか。それは、ティアナもそれに値する人物だからだ。可愛らしさの中に強さを秘め、戦えば踊るように敵を倒すあたりはどこかの誰かそっくりなのだ。


 両者は、速やかに闘技場を離れ敗者はそのまま、控室を去る。勝者は、次の試合に備えて身体の回復に努めるか、相手の戦いの観察をしたりする。


「第二試合は、今大会優勝候補の一人にしてルオール一族のユリアーヌ選手。前回の試合では、未知の武器カタナを使うルシアノ選手を圧倒しておりましたが、今回はどのような試合を見せてくれるのでしょうか」


 ユリアーヌは、進行役が紹介した時、溜息をついてしまう。その原因は、進行役の紹介の度に言われるルオール一族。ユリアーヌ自身は、余りルオールと連呼されたくない。


 何せ、ユリアーヌ自身、孤児院出身の為、実際にルオール一族との関わりが全く記憶にない。確かに自分自身の血筋だけで判断すれば、ルオール一族の一人ではあるが、関わり合いどころか面識すらない一族の事を紹介に出されるのは、あまり気分の良い物ではない。


 試合が終われば、司会役にその事を伝える事を決心し、闘技場へ足を進める。


 対戦相手は、貴族の少年だ。紹介された時もやたらと貴族の事を強く紹介されていた。


「おいお前、俺は選ばれた貴族だ。だから、今すぐ敗北を宣言しろ。そうすれば、その後でお前を雇ってやる」


 こいつは何を言っているんだと呆れた顔で見る。だが、貴族の少年はいたって真面目に話しているので、これまでもこんな調子で対戦者を若干脅した風にしてきたのであると理解した。


 脅した風と言うのは些かぬるいかもしれない。少年は表面上、自分の盾としての兵士の勧誘、主従関係を希望している様に取れるかもしれないが、そんなのは少し考えれば脅しだと理解できる。


 しかし、少年が発する言葉の本当の意味は、俺に手を出せばどうなるか分かるな?貴族の力でお前を追い詰めてやる的な事だろう。それに雇うと言っていたがそれもきちんと約束を守るかは不明だ。


 仮に戦いに勝って、その逆恨みに手を出したとしてもそれが知られれば、処罰を受けるのは貴族側の方だ。それを分かって発すると言う事は、脅しとして使っているか、実際に闇討ちなどしてくるかだろうが、どっちにしても褒められる行為ではない。


 こういう奴の相手は真面目にするだけ無駄だと判断し、試合の合図とともに一気に攻める。


「なっ!?」


 素早い動きに全く反応できず、ユリアーヌの二連による攻撃を受ける事になる。一撃目は、少年の持つ武器、ショートソードの一種でカッツバルゲルと言われる剣。それを叩き落とし、二撃目で少年の喉元に矛先を寸止めする。


 普通の試合ではこの段階で対戦相手は負けを認める。しかし、少年は自分自身が貴族であると言う誇りが強すぎるため、認めるとことはない。


 それは、ユリアーヌ自身も理解していたし、それも含めて二撃したのだ。


「き・・・・貴様ぁ―――ッ!!」


 ユリアーヌは、彼との距離を取り構え直す。逆上した少年は、落とした剣を掴み、怒りに任せて剣を振るった。


 鉄と鉄のぶつかり合う音が会場内に響き渡るが、そこまで激しいぶつかり合いはしていない。ユリアーヌの槍は、彼のカッツバルゲルを完全に捌ききっていたからである。


 捌きそして、たびたび攻撃を仕掛ける。


 体術や槍術で相手の足を払い、体勢を崩させ転倒させる。ユリアーヌは普通に戦えば一瞬で終わる試合を先程から何度も相手を転倒させては、攻撃を裁くしかしない。


「ふざけやがってッ!!いい加減に喰らえ」


 渾身の一撃とも思える攻撃も危なげなく躱す。普通に勝つのは難しくない。でもそれをしないのは、彼が試合後に何か仕掛けてくる可能性がまだあると確信しているからだ。


真面目にするだけ無駄。


 何をしてくるか分からない。ならば何もできないようにするのが一番良い方法だと言う事でのこの行動だ。つまり、彼自身の暴走による自滅。ユリアーヌはそれを狙って彼を本気で戦わず、流しながら戦っているのだ。


「俺を・・・俺をここまで侮辱したからには、覚えていろよ。これが終われば貴族として貴様を殺す。絶対に殺してやる」


 待っていた言葉が漸く出る。その言葉は観客席に居る人にも聞こえる程の大きさだ。


「さっきも貴族に仕えろだの。試合に負けろだの・・・言っていたな」


 正確にはそんな言葉は発していないが、ニュアンスとしては同じことだ。彼は既に怒りでそこまで考えている余裕はない。発する言葉は違えど意味が同じであれば彼にとってそんな事に疑問を持ちはしなかった。


「当たり前だろッ!!俺は貴族として選ばれたんだ。そして、貴様の様な野蛮な平民が、俺様に矛を向けるなど、万死に値する」


 それを聞き、兵士たちは急に慌ただしく動き始める。観客たちも驚愕の表情を浮かべた。試合には、貴族としての立場を振るえば陛下から罰則が与えられる。そして、この会場には陛下が見に来ている。周囲が慌てるのは当然の事だろう。


「そうか・・・・」


 ユリアーヌは、その場で構えを解き、持っていた槍を地面に突き刺す。


「お前は武器で戦うに値しない。素手で十分だ」


 槍を手放し、体術の構えを取る。レオンハルトに教わった体術。それを自分なりに手を加えた構え。力を抜いたと思った一瞬、その場から姿を消す。


 神明紅焔流の体術に鍛えこまれた脚力を併せ持った高速移動。直進的な移動だが、その分威力が増す。突進力を生かすように手をつきだす。


 殴るではなく、手のひらを相手の身体に添える様にして出した攻撃により、突進力を最低限にまで落とし相手を突き飛ばす。


「グハッ!!」


 そのまま闘技場の外へ吹き飛ばされた貴族の少年は、駆けつけた兵士により拘束され、闘技場を後にした。


 その場は、勝利を喜ぶような歓声はなく。只々、状況についていけない観客ばかりだった。


「・・・・・・はっ!?只今の勝負は、貴族としての立場を乱用しようとしたことにより、ホフマン伯爵が嫡男、ヘルムート選手を失格。勝者は、ユリアーヌ選手となります。また、ヘルムート選手及びホフマン伯爵家には、アウグスト陛下より後日罰則が言い渡されるとの事」


 進行役が、普通の兵士よりも立場が上の兵士たちと話し合いの結果決まった事を会場内にいる客と選手に伝えた。


(これで、この後に襲われることもないな)


 実際襲われても、互角に渡り合えると思ってはいるが、場合によっては自分だけでなく仲間にも危険が及ぶ可能性があった。


 何とも後味の悪い試合をしたと言いたそうに闘技場から控室へ向かう。


 すれ違った選手から若干睨まれたりもしたが、無視して腰かけに座った。


「いやーあんな馬鹿なことする奴もいるんだなー」


 クルトが何やらニヤつきながら近寄ってきて、先程の試合の感想を伝えた。何が面白いのか尋ねると、この次の試合はかなり重たい雰囲気の中で戦わなければならないと言う事で、選手が呟いていたのが面白かったようだ。


 だが、それには自分が含まれている事を理解しているのか、若干不安になるユリアーヌであった。


 その後、少し時間を空ける事になり。半刻程して第三試合が開始した。エルフの少女と銀髪の才女リリーの戦いだったが、お互いに手数勝負をリリーが巧みな剣捌きで圧倒し、勝利を収めた。銀髪の令嬢から銀髪の才女と呼ぶようにしたのは、剣の才能が非常に高いからそういう(あだ)び名にしただけ。


 ティアナも剣の才能は同じぐらいあるが、リリーの方が小手先の技が得意だから其方を優先したに過ぎない。


 第四試合は、正体不明の外套で認識させない様にしていた人物とクルトの戦いだった。試合直後はお互い互角に戦っていたが、クルトの体力が落ちない事に焦り始めた正体不明の人物が焦り、ミスを起こした。


 クルトの間合いに無暗に入り込んで外套を切り刻まれ、正体不明だった素顔をさらけ出してしまう。


 対戦相手は、普通の人族の少年だった。しかし、普通ならなぜ正体を隠さなければいけないのか。その少年は、参加資格は一応満たしていたが、両親の関係で参加を固く禁じられていたのだ。


 何を隠そうこの少年の親は、現国王アウグスト陛下の側近で、騎士団をまとめる騎士団長の息子でもあったからだ。


 別に騎士団長の息子だから参加してはいけない事はない。しかし、この少年はクルト並みの実力は備えているが、病によって全力で戦う事が出来ない。と言うよりも戦いに時間制限の様な物があるのだ。


 全力で数分も戦えば、心臓に負荷がかかり持病の発作が発動してしまう。本人が幾ら戦いたくても戦えない身体の為、禁止されていたのだ。


 クルトは、少年の動きに不自然さを感じる事無く、そのまま両手に持つショートソードで少年を襲う。少年も何とかそれに応戦していたが、時間が経つにつれ一方的になり、その頃にはクルトも様子がおかしい事に気が付き始めていた。


 これ以上は危険と判断したところで攻撃を辞め、負けを認める様にすすめて漸く試合が終了した。


 少年はそのまま兵士たちに連れられ退場し、治療院へ向かう事になった。


 ユリアーヌとは違った後味の悪さではあったが、それを次の試合に引っ張るわけにはいかないと考え、気合を入れなおす。


 次は、ユリアーヌとティアナの試合だが、その前に休憩が一刻ほどあり、軽く昼食を食べたりして過ごした。その際、ティアナとリリーの二人が、此方に何かを尋ねたそうな視線をしていたが、お互いに次の対戦相手と言うこともあり、結局会話などは一切なかった。


「皆さま、大変長らくお待たせしました。只今より未成年の部の準決勝を執り行いたいと思います。これまでに数多くの戦闘を行い勝ち進んだ四名の選手たち。しかもこの四名、驚くべきことにティアナ選手とリリー選手は、幼少期より仲の良い親友として共に過ごし、方やユリアーヌ選手とクルト選手も同じ孤児院で苦楽を共にした仲であるそうです。これはお互いの親友同士が戦うまさにこの大会始まって以来の戦いとも言えるのです」


 情報源が何処からきているのか疑いたくなるような正確さだったが、そこまで知っているのであれば、自分自身ルオール一族の血筋以外何も接点がない事分かっているのだろうにと思うユリアーヌ。


 長い前振りが終わり、選手の紹介へ移る。


 毎回、紹介内容が違うので本当にこういう事に才能を費やしているのだと感心しながら闘技場に立つ。


「優勝候補筆頭のティアナ選手か。それともユリアーヌ選手の先の戦い見せた高い戦闘技術で相手を倒すのか。両者構え―――始めッ!!」


 進行役からの合図が出るが、両者とも様子見とばかりに動かず、互いの出方を伺う。静かな空間に包まれ、観客たちも何故戦わないのか不思議がっている頃、両者は既に頭の中で戦闘の予測を行っていた。


(彼は間違いなく強い。あの構えからして初手は強烈な突進による突き、躱された時はそのまま槍を巧みに操るか、持ち前の体術で追撃を行って・・・・)


(彼女も俺が真正面からついて来る事は予想しているはず、躱して反撃してくることもあり得るか・・・)


(けど・・・・彼はそれも予想しているはず)


(だが・・・・彼女もそれは承知の事)


((最初の一撃は絶対にしても二撃目に関しては予想が役に立たない・・・ならば全力で最初の攻撃を決める))


 お互いの判断はほぼ同時に終わり、二人とも一気に相手に駆け寄るため前へ飛び出した。


「アカツキ流大剣術・・・・『(よい)斬り』」


 ティアナの持つ剣は、横一閃と振るうがそれに合わせるようにユリアーヌの突きが剣閃を妨げる。しかし、一回の攻撃が防がれただけではティアナも驚きはしない。何せ、ユリアーヌはあの人と同じ動きを見せた人物だ。あの人までの実力はなくてもそれに匹敵する実力は持っているだろうと考えていたからだ。


 二閃、三閃と連続で攻撃をする。


 しかし、その剣戟すらも持ち前の槍術で捌き、激しい攻防が続いた。


 お互いの技量は互角。一撃の重さを主体としたティアナの戦い方は何時しか彼の戦いに合わせるように鋭さを主体とした戦いに切り替えている。


 そうしなければ、ユリアーヌの槍術に追いつけなかったからである。


「きみは強いだろうと思っていたが、予想以上に強いようだ」


 自分の戦いについてくる同年代などレオンハルトたちぐらいしか知らないユリアーヌにとって、その事実はかなり称賛に値するものだ。


「ありがとうございます。でも、それはお互い様ですわ。(わたくし)も貴方がこれだけの実力を持っているなんて想像もしていませんでしたもの」


 事実、ユリアーヌとクルトは、互いがぶつからなければ優勝できるとさえ考えていたし、ティアナとリリーも同様の考えだった。同格の実力者が四人、この準決勝に並んだことは、事実上大会参加者の中で一番強い四人と言っても過言ではなかった。


 両者は、これまでに無いほど剣術と槍術をぶつけ合い戦い続けたが、ギリギリの所でユリアーヌが負けるという結果に終わってしまった。


 互いの健闘を称える様に試合後に握手をして、闘技場を後にする。


「これは歴史に残る名勝負と言えるでしょう。さて、今日この試合が最後の試合になります。準決勝第二試合、先程先進んだティアナ選手の親友であり、勇者の血筋を受け継ぎ者、リリー選手の入場です。対するのは、惜しくも負けてしまったユリアーヌの親友、今大会のダークホースと言えるクルト選手です。ユリアーヌ選手の仇を果たしてとる事が出来るのでしょうか。・・・両者、準備は良いですね。それでは始めッ!!」


 開始の合図と共に両者が動き始める。先の試合と違いお互いの探り合いはしていない。と言うのも直感で動くクルトにとって、想像による憶測の戦闘は非常に苦手なのだ。リリーの方は既に予想していたのか、表情に余裕があるように見受けられる。


 規則正しい動きのリリーに、不規則性のクルト。お互いに速さを主体とした戦いが得意だが、そのアプローチの方向性は少し異なる。リリーの速さは剣速による連続攻撃なのに対し、クルトは、移動の高速による自身の速さを主体にしているのだ。


 四方八方から繰り出される斬撃を、あたかも予測していたかのようにすべて捌ききるリリー。先程の試合とは別方向の凄さがあり会場内は興奮の渦に包まれていた。


「っく。これも防がれるのかー・・・・すげーぜ」


 二本の短剣を逆手に持ち替えて、低い姿勢から突撃する。


 金属と金属が激しくぶつかり合う音が響く。二本の短剣で繰り広げる連続攻撃を、リリーが持つ細剣(レイピア)によってうまい事軌道を逸らされていた。


「(すごい・・・・・けど)えっ!?」


 それは一瞬の出来事だった。


 短剣による連続攻撃に加えて足技を使用してきたのだ。正確には足払いなのだが、動きがユリアーヌ同様、あの人と同じ動きだったのだ。まるであの時助けてくれたあの人がクルトと重なるように見え、判断が遅れる。


「きゃっ!!」


 足払いを避ける事が出来ず、転倒してしまう。クルトは、そのまま追撃をしてが、その攻撃は辛うじて躱す。


「此処まで一方的に勝ち進んできたリリー選手ですが、まさか転倒させられるとはだれが想像したでしょうか」


 その後もお互いの攻撃は継続した。一度は転倒させられてしまったリリーだったが、直ぐに起き上がり、何事もなかったかのように攻撃は再開していた。


「これならどうです?御爺様直伝の刺突『月下楼(げっかろう)』」


 今までと同じ構えから放たれる十二連続の刺突。細剣(レイピア)本来の技を最大限に生かした戦法だ。十二連続の刺突は一つだけだと簡単に防がれてしまうが、守る毎に守れなくなる仕様の為、これを受けたクルトはかなりギリギリで捌ききった。


 守れなくなるのは、簡単に言えば斬る動作に比べ刺突の方が遥かモーションが少なくて済む。それだけでなく、攻撃する場所も技量次第で変更可能だ。そうなれば応用次第で、防がれた状態を確認判断したのち、次の一手を最も防ぎにくい場所へ攻撃すれば良いだけ、それを連続で行えば、相手はいつか守り切れなくなり攻撃を受けてしまうと言う技だ。


 今回、クルトが防げたのは、リリーがまだ、完全に読み取れていないのと技量不足、そしてクルトが二本の短剣を使っていた事にあった。


 しかし、自分が未熟で防がれる可能性も彼女自身分かっていた様で、十二連撃からつなげる様に両肩両大腿に二連続ずつの斬撃『雪化粧(ゆきげしょう)』を間髪入れずに行った。


 十二連撃を凌ぐのでやっとだったクルトにとって追撃してくる八連撃の斬撃は、防ぐ手立てがない。


「・・・・ちっ!!」


 二撃目までは体勢を崩しながらでも凌げたが、三撃目以降は防ぐ事が出来ず、結果六撃もらう事になった。


「そこまでっ!!勝者リリー選手」


 最終的に審判に止められて試合は終了となった。


 決勝に進出したのはティアナとリリーの二人。ユリアーヌたち三人は試合が終わると、そのまま冒険者ギルドで依頼を受けて、拠点としている商業都市オルキデオへ戻っていった。決勝後にあの人について尋ねようとしていたティアナとリリーは、彼らが既に王都をさっとことを知ると非常に残念な様子で帰宅。


 彼女たちの試合の方は、準決勝並みの戦いを決勝戦でも繰り広げ、ギリギリの所でティアナがリリーの武器を吹き飛ばし、武器を失ったリリーが降参すると言う結末に終わったそうだ。

此処まで読んでくださってありがとうございます。

次回は今月末か、来月上旬に投稿いたします。

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