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002 予期せぬ出来事

 ―――――死。


 それは、生きとし生きるものすべてに平等に扱われる出来事。


 人や動物、植物などの生き物をはじめとし、物にも死は存在している。それは例え、永遠と思われている物であってもいずれ訪れる宿命なのだ。星や宇宙であっても例外はない。


 始まりがあれば、必ず終わりも来る。生命だと、誕生し死を向かえ、物になると作られたらいずれ壊れる。


 そう世界の仕組みに出来てしまっているのだ。


 死とは何なのだろうか?


 ただ、言葉の通り生命の活動を停止させ手しまうだけのものなのだろうか?


 それとも生きると言う檻、または監獄から解放し、自由を手に入れることを指しているのだろうか? 


 人は、それぞれ死に対して持っているイメージが異なっているのではないだろうか?


 恐怖。不安。痛みや苦痛からの解放。安らぎ。自由。後悔もあれば満足もあるかもしれない。その他にもいろいろと死に対してのイメージが存在していると思う。


 哲学者の中には、限りない命(死)があるから、より生きようとする。生きている者に深い愛情を注ぐのだ。なんて事を言う人もいる。


 考え方が多種多様にあるのだ。その死を迎える手段も当然多い。


 手段によっては、イメージが偏るかもしれないが・・・。 


 多種多様にある手段として、自然死、所謂(いわゆる)寿命。病死。事故死。溺死。自殺。他殺。窒息死。中毒死。凍死。安楽死などがある。今の日本では、だいぶ少なくなってきているが、餓死も存在するし、戦争により死ぬ戦死や罪を犯した者を罰する死刑などもあったりする。 


 生きる時代や場所によっても死の迎え方は変化する。平和な国であれば、自然死や病死、自殺、他殺などが多い。逆に戦争をしているところでは、虐殺や孤児などが多く死の迎え方は平和の国とは大きく異なってくる。


 時代も医療技術が発展していない頃は、病死は多かったし、もしかしたら生贄なんて物もあったかもしれない。


 そこで改めて思う。 


 死とは何なのだろうか?


 死。


 それは、自分たちのすぐ傍にある運命であり、気紛れであり、悪戯におこる。とても身近な隣人・・・いや、もっと近い相棒とでも言える存在なのではないだろうか。












 真っ白な視界。


 それが、目を覚ました俺が最初に見た風景だ。風景と言うには、物足りなさが多く正直見ていて何も面白くない。


 面白くはないが、いやな感じはしなかった。


 やがて寝ぼけ気味だった脳も活性化し、今置かれている状況を確認しようとした。


 すると、あることに気が付いてしまった。


 足場がない。


 足場がないどころか、床や天井がどの向きにあるのか、それすらも分からないのだ。


 真っ白な空間に漂っているそんな状況だった。漂っているのは、概ね間違っていないであろう。何せ身体の重み、重力を感じさせないのだ。


 重力は感じられない代わりに、浮遊感の様な浮いている感覚すらあるのだ。


 上も下も分からない状態で、しかも身体の向きをうまく変えることが出来ず、苦戦していると女性の声が聞こえた。


 女性の声には、聞き覚えがあった。つい先程まで車の助手席に座っていた窪塚(くぼつか)琴莉(ことり)さんだ。


 そこで、俺の中で新たな疑問が生まれる。


(あれ?そういえば、どうしてこんな場所にいるのだろうか?)


 伏見(ふしみ)優雨(ゆう)は、先程までしていたことがうまく思い出せなかった。ただ、まったく思い出せないわけではない。先程まで車で運転していた事は思い出せたのだが、その後何があってここにいるのか、それが分からないのだ。


 最後に覚えている記憶は、研修場所に向かうため助手席に窪塚さんを乗せて山道を運転しているところまでだ。


 その後の事を思い出そうとする。


(・・・・たしか、山道を走っていて、それでカーブを曲がろうとして・・・・曲がろうとして何か、そうだ何かがあったんだ。でも何があったんだ?)


 次第に優雨の記憶が蘇り始める。


(曲がった先で・・・・いや、曲がる前だったかな?それで、飛び出してきてビックリしたんだ。何が飛び出したんだ?動物・・・・・違うな。飛び出す前に金属音が聞こえたから、車?そうだ車が飛び出して、避けようとして・・・)


「あっ!!」


 自分が思っていたよりも大きな声が出てしまった。それも仕方ないことだろう。何せ、崖から転落し命を落とした事を思い出したのだから。


 すると次第に身体が震えている感覚に陥ってしまった。死んでしまった事と彼女を死なせてしまったと言う後悔で胸がいっぱいになってしまったのだ。


 優雨が後悔に襲われている中、優雨の大きな声で身体を一瞬びくついた窪塚さんは、恐る恐る優雨に尋ねる。


「っ!!何?そこに誰かいるの?今の声ってもしかして伏見くん?」


 彼女の声が聞こえたことにより、我に返る。先程まで死なせてしまったと思っていた思い人がすぐ傍にいる。先程彼女の声を聞いたのにそのことを忘れてしまっていたぐらい、混乱と後悔で押しつぶされそうになっていたのだ。


「そ、そうだよ。窪塚さんは大丈夫?」


「たぶん大丈夫よ?」


 彼女の安否を目視したわけではないが、彼女自身から大丈夫との事を聞けたので一安心した。語尾が疑問系だったのが少し気になったが・・・。


「ところで、ここって?」


 思いのほか冷静なのか、それとも優雨みたいに記憶が戻っていないのか分からないが、今自分が置かれている現状を見極めようとする彼女。


「ごめん。わからない」


 こんな白一色の空間は、映画やドラマなどでしか見た事がない。その映画やドラマにしてもそこにいた人たちは、地に足をつけていたと思う。今の自分のように足場がない状況は、なお悪いようにも感じる。


 浮遊感というか、無重力と言うかそんな経験は水の中ぐらいしか経験したことがない。その水の中なら息が出来ないし、会話もできないのでそれに比べればまだ良いのかもしれないと少し思ってしまった。


 ただ、これまでの会話で窪塚が居るのは、分かったが本人を見ていない。恐らく先程の会話から察するに向こうも俺のことを声のみしか確認していないのだろうと思う。確認していれば、何らかのアプローチがあってもおかしくないはずだからだ。 


 窪塚の下へ向かうことを伝える。場所は、声の位置から察するに頭上から聞こえるが、果たして自分が上に向いているのか下へ向いているのか分からないが、とにかく声のする方へ身体を器用に動かし、方向を変える。


 意外と簡単そうに見えるがこの作業、実はかなり大変だった。手間取りはしたもののどうにか向きを変えることに成功。 


 窪塚を見ると彼女もまた全然違う方角を向いていた。自分が床に立っていた場合、彼女は壁に立っているそんな位置取りだった。


 窪塚もどうにか身体を動かしたり、手足を動かしたりして向きを変えようとしているが、何も変わっていなかった。そんな彼女を見ていると驚くべき事に気が付いてしまった。


 彼女の身体全体が半透明になっているのだ。もしかしたら(もや)みたいな物が身体を覆っていて、何だか彼女が全体的に白く(かす)れているだけなのかもしれない。しかし、今の状態ではよく分からないのだ。


「く、窪塚さん大丈夫!?」 


 後ろから突然大きな声を出された窪塚さんは、身を震わせて驚いていた。


「ごめん。大きな声出したから驚いたよね?」 


 優雨は、一旦彼女が透けていることを言わず、自身でも驚くぐらい大きな声を出した事を謝罪した。それから透けていることに対してある予測を立てる。


(どうなっているんだ?まさか―――!!)


 優雨の予測は、最後に覚えている光景から現状に至るこの怪奇現象とでも言える彼女の半透明化。見知らぬ場所に、地面のない部屋。これらから導き出した答えは、自分たちが死んで死後の世界に居るのではないかと言う事だ。ただそれを証明する手段は持ち合わせていない。そもそもどうやってそれを証明するのだろうか。


 どうすることも出来ない現状で今自分に出来ることは、一刻も早く彼女の傍に行くことだ。


 四苦八苦しながら、どうにか彼女の元までたどり着くことが出来た。半透明化している彼女の肩に触れ、お互いの顔が確認できるように向きを変える。意外なことに彼女に触れることが出来て、少し予想外だった。優雨の中で、触れないかもしれないと言う不安があったからだ。しかし、その不安は予想を裏切った。触れられる事に嬉しく思いこの後に起きることを考えずに振り向かせたのだ。


「あ!!伏見く、ん・・・え?」


 窪塚の表情は、不安から嬉しい表情に変わり、俺の姿を見て停止した。


「・・・・あ」


 そこでようやく、自分も窪塚さんと同じく半透明化していることを理解した。そして、それに対しての現状を伝え忘れたのだ。 


「ど、どう言う事?どうして、どうして伏見くんの身体が透けているの?何が―――。一体何が起こっているの!?」


 状況が掴めない窪塚は、混乱する。訳が分からなくなったら、冷静にならない限り混乱は終わらない。優雨は、自分たちが措かれている現状をきちんと伝えることにする。そこにはまず落ち着かせる必要もあった。


 優雨は、強く彼女を自分のところへ引き寄せ、その勢いのまま抱きしめる。こうする事で彼女の混乱を鎮め、冷静さを取り戻してくれると信じての行動だった。当然やましい気持ちは微塵もない。


「――――ッ!!」


 抱きしめられた彼女は、冷静さを取り戻すどころか別の意味で冷静で入られなかった。耳の付け根まで真っ赤にした窪塚は、口をパクパクさせて何処か身体も強張ったような様子だ。


 一体どれだけの間抱きしめていたのか分からないが、気がつけば彼女も優雨のことを抱きしめていた。お互いがお互いを安心させるために。


 そして、時間の感覚がない中、ふとある事に気が付いた。


 それは何時起こったのか?


 どうやって起こったのか?


 なぜ気が付かなかったのか?


 疑問が一気に湧き上がって来るくらい、いつの間にか起こっていたのだ。


 彼女への抱きしめていた力を解き、一歩後ろへ下がる。そんな様子に彼女はまだ気が付いていない。


 俺たちは、抱きしめあっている間に、いつの間にか地面に足をつけていたのである。今までと風景は何も変わらない。殺伐とした白一色の世界。しかし、先程までなかった地面がそこに存在している。自身の重みも感じるし、抱きしめてた時は彼女の重みも感じ取れていた。故に地面の存在は見た目では分からないが、きちんと感じ取れる確かなものだった。


「床が・・・・ある」


 優雨の言葉で、窪塚もいつの間にか立っていることに気が付いた。お互いに顔を見合う。


 わからない。


 自分たちが措かれている現状がまったく持って理解できないのだ。


「伏見くん、私たち此処に来る前たしか、車に乗っていたわよね?」


 窪塚はまだ、事故のことを思い出せていない。そんな中でのこの状況下だ。理解なんて出来るはずもない。事故の事を思い出している自分ですら、こんな状態だ。今分かる範囲を彼女に伝える。


 話を聞き、ただでさえ半透明化している彼女の表情が、さらに薄くなったように思えた。彼女の顔色が悪くなっているのだ。


「私たち、し・・・死んじゃったの?」


 俺は、彼女の問いに答えることが出来ない。黙っている俺を見て肯定していると判断した彼女は、その場で泣き崩れてしまった。


 慰めようと手を差し出すも彼女の肩に触れる前に止まってしまう。一体どう言って彼女を慰めたら良いのか俺には分からなかったからだ。 


 思い人を守ることもできず、ましてや目の前に泣き崩れている彼女に何も出来ない自分が歯痒い。


 差し出した手を引っ込めようとした時、突如それは起こった。


 目が開けられないほどの眩い閃光、一瞬スタングレネードのような強い閃光が白い空間いっぱいに広がった。実際にはスタングレネードの閃光なんて浴びたことがないが、海外ドラマや映画でやっているようなそんな感じの物だった。


 光で一時的に視界が失われるが、直に回復する。ゆっくり目を開くと自分たちの目の前に何処からともなく老人が現れていた。


 長髪の白髪頭で、見た目は七十歳代の男性だが、今まで見た事がないような服装をしていた。正確には昔の人、社会の教科書などで見た奈良時代ぐらいの文官が着ていたようなそんな服装をしていたのだ。


 何者か分からぬ上、突然現れたので優雨は、警戒して窪塚を自身の身体の後ろへ移動させ構える。身構えるのではなく、武術をする者の構えだ。それも素人ではありえない隙のない雰囲気を出しながらいつでも動けるように神経を張り巡らせる。


 彼は、こう見えて実家が古武術の道場を開いていた。しかも、難易度の高い技や正確な型を競うようなものでもないし、空手や剣道のようなスポーツとして試合をするようなそんな道場でもない。


 まあ難易度の高い技を教えたり、試合を行ったりするが先程述べたものよりも何倍も練習の密度が濃く、実際の戦闘を主とした実戦的な流派の一つなのだ。そんな道場で幼少期より武術に励んでおり、近接格闘術や剣術、槍術、弓術など多種多様の武術を教わってきた。


 高校生の頃には、近接格闘術、剣術、銃を用いた武術である銃術が皆伝。槍術や弓術、薙刀術、そして暗殺技術が奥伝。その他は、ある程度使うことが出来るレベルに達する程の腕前になっていたが、訳あって高校を卒業すると同時に道場へは通わなくなった。


 いや正確には、通えなくなったが正しいだろう。実家から遠方の大学に通うことになり、大学生活から一人暮らしを始め、社会人になってもそのまま継続して生活していた。そして今に至るまで古武術の鍛錬をする時間は取れなかったが、それでも彼の構えはそんな年月を感じさせることのない鋭い構えだった。


「・・・・・」


 しかし、現れた老人は彼のそんな姿勢を物ともせず、前進する。


 手に汗を感じるような雰囲気が、この白い空間いっぱいに漂う。優雨は、構えている拳に力が入る。


 老人は、此方に近づくにつれ表情が険しくなり、ついに優雨が身体を一歩だし拳を突き出しても紙一重であたらない程度の位置まで来ると立ち止まった。

 

「すまない」


 ただ一言そう言って頭を下げてきた。その一言に俺たちは、なんに事に対しての謝罪なのかも理解が出来ず、唖然としていた。


「ん?どうした?儂らの不手際でお主らを死なせてしもうた件で謝罪したのだが・・・・・・ああ、突然の謝罪で混乱させてしもうたな。では順を追って説明しよう。じゃが、その前に」


 老人は、右手を出しフィンガースナップを行った。すると、何もない真っ白な部屋となった場所に突如テーブルや椅子が現れた。しかも、ご丁寧にテーブルの上にはコーヒーのような香りのする飲み物やクッキーやケーキのようなお菓子までも用意されていたのだ。俺たちはその老人に進められるがまま席に着いた。


「まずは、自己紹介といこうかの。儂は多元空間を管理する次元管理局の一人、名をヴァーリと言う。お主らに分かり易い言葉で言い換えれば、神様と言う事になるじゃろうな」


 ヴァーリと名乗る老人の発言で、この場に一瞬おかしな空気が流れ込む。


「え・・・え、あ、あの自分は」


 あまりにも非現実的なことの連続が続いたため、優雨は張り詰めるような雰囲気をかき消され、あまつさえ動揺してしまい半ば冷静さを欠かされてしまった。


「いや、お主たちの事は知っておるぞ。伏見優雨に窪塚琴莉じゃろ。巻き込んでしまった人物じゃ悪いと思うたが調べさせてもらったぞ」


 巻き込んでしまった?ヴァーリの言葉に先程から気になるキーワードが何度も出てきている。その事に気が付いた優雨は、(おもむろ)に口を開いた。


「すみませんが確認したいことがあります。まず、自分たちを巻き込んだ、死なせてしまったと先程おっしゃっていましたが、それはどういう事なんですか?」


 あまりにストレートな物言いにヴァーリは、一瞬だけ感心してしまった。これまでも似た様な事は数千年に一度起こってきたが、これまでの者たちは錯乱したり、泣き叫んだり、あまつさえやり場のない怒りを暴力で解決しようとしてきた者までいた中で、冷静に判断し今置かれていることを把握しようとした者は一人も居なかったのだ。


 もちろん優雨は、ただ出来事が唐突すぎて自分たちの身に何が起こっているのか知りたかっただけなのだ。


 ただ一つだけ言えることは、混乱してしまっては周りの事が見えなくなると言う事を武術の師であり祖父でもある人に教わっていたのだ。まあ武術の指導されたことなのだが、これは日常的な事でも言えるだろう。


「そうじゃのー。何から説明したら・・・お主たちは神様を知っておるな?その神様がどんな事しているか分かるか?」


 ヴァーリの言おうとしていることが、分からず二人は首を傾げてしまう。


 その様子を見たヴァーリは、苦笑気味な表情をした後咳払いをし、再び説明を始めた。


「神様がどんな事をしているのか、すべてを伝えることが出来ないが、簡単に言ってしまえば世界の調和を保つことなんじゃ。此処で言う世界はお主らの居た地球だけじゃなく、この宇宙や平行して存在する多元宇宙などを見守り、時には間接的に干渉したりしているんじゃ」


「その調和を保つ機関か組織かが次元管理局ってことですか?」


 優雨は、自身が整理できるようヴァーリの口にしたキーワードを一つずつ確認していくことにした。そうでもしないと隣で唖然としている窪塚さんのようになってしまうと考えたからだ。まあ彼女には眉間にしわを寄せて考え込むよりも今の姿のほうがちょっと可愛い。


 俺の考えを理解しているのかヴァーリの表情も驚きを一瞬見せるが直に感心したような表情になっていた。


「そうじゃ。じゃが、調和を保つのは何も次元管理局だけじゃないがな」


 他にも機関または組織があることは、彼の言葉で推測することが出来た。他にどの様な機関があるのか気にはなるが、それよりもまず確かめないといけないことができた。 


「では、その調和が原因で自分たちは死んでしまったのですか?」


 この質問には、唖然としていた窪塚さんを無理やりにでも知覚させ自分たちが置かれている立場を再認識する形となった。


 優雨自身も別にしたくてしたわけではない。人はいずれ死を向かえるが、人の死に度々次元管理局が現れていたのでは、埒が明かないからだ。もしかしたら地球だけだったら可能かもしれないが、ヴァーリの言葉は宇宙や多元宇宙といっていた。多元宇宙が何のかは知らないが、俗に言う平行世界のようなものではないかと推測している。


 わざわざ再確認したのは、この置かれている事態が恐らく双方予期していない出来事だったのではないかとまで推測しての言葉の誘導だ。


 神様相手に「あなたたちが原因で自分たちが死んだのか?」など証拠もないのに言えるはずがなかったからだ。


「はっはっは。いやー実に面白い奴じゃな。面白いが故に死なせてしまったのは実に惜しいが、お主の発言よりも考えている方が正解じゃな」


「なっ!!」


 心を読まれたことに焦ってしまう優雨。何のことか分からない彼女は、優雨とヴァーリの顔を何度も行き来していた。


「お主の考えている通り、お主らの死は調和によるものではない。次元管理局・・・いや儂の不手際で死なせてしまったのじゃ。正確に言えば、巻き込まれたの方が正しいかも知れんが、それでも儂の不手際であることには変わらん」


 これで確証は得られた。俺たちの死は、想定外の出来事だったのだろう。しかし、結果的に死んでしまっているその事実はどうあっても覆ることはない。もしかしたら神様と呼ばれるものたちはそれが可能なのかもしれない。だが、それをしてしまうと今度は調和を保つことにはならないだろう。彼らは調和を保つためにいる存在なのだから。


 では、なぜ俺たちはこんな所に居る?次元管理局は人の生き死まで管理しているのだろうか?それでは先程の考えたようにあまりに膨大な量になるのではなかろうか。漫画やアニメなどの固定されてしまった知識もあるだろうが、人は死ぬとドラゴ○ボー○みたいに魂が列を成していたりするのではないだろうか?


 考えれば考えるほど深みにはまってしまう優雨。


 何の答えも導き出せない状態で居ると別の人物が口を開いた。


「此処が何処なのかよく分かりませんが、私たちの身に何があったのですか?あれはただの事故ではなかったのですか?」


 そうだ。俺はまだ、自分たちがなぜ死んでしまったのか聞いていなかった。あれがただの事故ではない。それは何となくだが分かってた。


 転げてくる車には、誰一人として乗っていなかったのだ。外へ放り出されたのかとも考えたが、シートベルトは固定されたままだった。そんな状態で外へ放り出されるのだろうか。あの山道の少し行った先に休憩所のようなところに停めていたとしても結局シートベルトの件は謎になってくる。今一度考えてみると不可解な出来事だろ思えてならない。


「あれはただの事故ではない。あれがただの事故でお主らが死んでしもうたなら、この様な場所には呼ばれることはない。儂が次元管理局の者だと言ったな。その次元管理局の仕事である事をしなくてはならなかったのじゃ。じゃが、その際に操作を誤ってしまってな。ある事をする人物が別の人物即ち事故を引き起こす原因になった車の運転手に対象が変わってしまった。結果、車が暴走し事故を引き起こし、お主らを巻き込んでしまったという事じゃ」


(なるほど、事故が発生した経緯は大まかに理解できた。気になるのは次元管理局とは一体何を管理する業務で、ある事とは何なのかが分からない)


 俺は今一度頭の中で整理するため、彼女の様子をみた。


 窪塚にも何やら思うところはあった様子で少し考え込んでいた。


 此処にきてどのくらい経過しているのか分からないが、来たばかりの頃に比べれば多少冷静に慣れたのであろう。


 目の前に用意されたコーヒーの様な飲み物を口にする。緊張と会話の為か口渇感を感じていた口の中は飲み物を含む事で潤いを取り戻す。加えて言えば、そのコーヒーの様な飲み物は思いのほか美味しく、一気に飲み干してしまった。


 飲み物に意識が行き、考えを一拍置くことで頭の中を整理することが出来た。

 

 彼女も優雨が、美味しそうに飲む飲み物を口に含むと美味しさのあまり笑みがこぼれていた。


 二人がそれぞれ整理できた頃を見計らいヴァーリは更なる説明をするために口を開いた。


「お主らは察しがいいのー。特に伏見と言ったか。お主は、感も良く読みも深い。お主らが疑問に思っている次元管理局とある事、それにこの後どうなるのかだが・・・」


 次元管理局についてとある事は優雨が疑問に思ったことで、今後のことについては彼女が疑問に思ったことである。


「まず始めに、ある事から説明した方が良いじゃろうな。ある事とは即ち転移、精神と肉体を別の世界の星に移動させる事じゃ。本来はこの転移を別の星に居る者にする予定じゃったんじゃよ」


 ヴァーリの話で居なくなっていた運転手の謎が一つ解決した。


 解決したが新たな疑問も生まれることになった。そんな事を考えているとヴァーリは次の説明を始めていた。


「次元管理局についてじゃが、この説明をする前に多元空間について説明した方が良いじゃろうな。まずはこれを見てくれ」


 ヴァーリは、自身の手を前に出す。するとそこから、ホログラムのような映像を出してきた。


「これはお主らが居た星じゃ。そこから・・・・・」


 映し出された映像には地球が映し出されており、それを縮小していくように小さくなり変わりに木星や太陽などの星が見える。どんどん縮小は進み地球・・・と言うか周囲の惑星なども含めて星が認識できないほど縮小してしまったのである。続いて別のホログラムを出して同じようにする。


「で、平行する世界・・・お主らの言葉じゃと並行世界と呼ぶものがこっちの物になるのじゃ。平行世界はあくまでも管理対象の一つで、実際は大宇宙から時空や次元の異なる世界、異世界、異空間など空間そのものを管理するのが仕事じゃ」


 いくつか出された映像はさらに数を増やしていった。新しく出る映像は、銀河の形や星を写すものではなく星の環境を映し出していた。人のような形をした生命体が映し出されていたり、恐竜みたいな動物、機械の人とSF映画のような街並みなどさまざまな物が映し出されていた。


 映像に圧倒される俺と彼女。そんな彼らのことはお構いなしにとヴァーリは説明を続けていた。


「じゃがな儂一人じゃすべての管理も出来ん故、他の神やそれを補佐する神使、お主らの世界では神使の事を天使と言うようじゃが、各々がエリアを管理して次元の調和を保っておるのじゃよ」


 ヴァーリは、会話に一区切りするかのように自身も用意した飲み物を口にしていた。二口ほど飲んでからカップをソーサーに置き、両肘をテーブルについて深刻な表情で話の続きを始めた。


 その変わりように俺も彼女も緊張し、話を聞いた。


「しかし、それを良く思わない輩も居てな・・・・その名も邪神と言う輩じゃ。邪神は争いや憎しみ、妬みそう言った物が満盈(まんえい)する混沌とした世界を作ろうとしているのじゃ。儂の仕事は主にその輩の対応に当たっておってな、今回も邪神がとある世界で動き出したためにその対応で勇者を向かわせようとしたのじゃが、誤りがあってしまってな。それでお主らが巻き込まれてしまったのじゃ。本当にすまない」


 ヴァーリは、姿を見せてきた時と同じように再び頭を下げてきた。


 これで漸く自分たちがなぜ死んでしまったのか、神様ですら予期せぬ死を迎えてしまったのか理解する事ができた。理解する事は出来たが、やはり納得は出来ない。


 納得が出来ないからこそ、ヴァーリの謝罪にうまく返事を返す事ができなかった。

 

 当然、二人の心を知る事が出来るヴァーリは、彼らが謝罪を受け取らないのか分かっている。


 そして、静かな沈黙が過ぎる。


 こう言う沈黙はとても居心地が悪い。あまりにも居心地の悪さに周囲に映し出されている映像に目を向ける。そこには人と何かが戦っている映像だった。


「それは、邪神の生み出した悪しき者じゃよ。戦っている者は、儂らが送り出した戦士じゃな」


(送り出した?そう言えば転移させるとかも言っていたし、最初の説明では・・・・・そう間接的にって言ってたな。直接邪神と戦ったりしないのだろうか?誰かに戦う役目など背負わせなければ、自分たちが死ぬ様な事もなかったはずだ)


 映画とかでも良くある物語(ストーリー)だが、神同士の戦いは早々あるものではないのだろうか?


 まあ映画などは所詮、創作(フィクション)だから実際と照らし合わせるほうが間違っているのかもしれない。


「儂ら神と邪神とで戦いになれば、被害は甚大じゃろうに・・・・それに、基本的には介入は望ましくないんじゃよ」


「基本的にですか?」


 彼女の問いかけにヴァーリは更なる説明を始める。


 その説明によれば、邪神側が今のところ間接的な攻撃しかしてこないから、ヴァーリ含む神も間接的にしか対策が取れないのだそうだ。神が先に動けば、それを口実に邪神が全面的に仕掛けてくる事は予想される。そうなってしまえば、神同士の全面戦争に発展に調和を維持する事は非常に困難になってしまう。ただ、向こうが動いたならば此方も動かざるを得ないのだそうだ。


 ヴァーリの説明で疑問に思う点として、無秩序や混沌の世界を望む邪神が直接動かないのか。神は直接動く事に何のメリットもないが、邪神は動くほうがメリットがあるようにも思える。


 その疑問を尋ねると勢力的にヴァーリたち神の方がかなり優勢で、たとえ全面戦争になったとしたら今居る邪神は一体も残らないそうだ。それでは、邪神の作ろうとする世界に邪神自身が存在できず、長い年月が立てばまた今のような調和が保たれた世界に戻ってくるだから、邪神も直接干渉する事はせず、間接的に動いているのだそうだ。


 では、間接的に動くメリットがあるのか。メリットはあるようで、邪神の力の源は生きる者の負の感情なのだそうだ。だから世界に負の種を撒き、負の感情を高め力をつけ、いずれは勢力が逆転したら直接干渉してくるのだろうと神たちは予想しているとのだそうだ。


 最近では、邪神の間接的な干渉が活発になってきており、違う場所では神同士が睨み合いまで始まってしまっている事態なのだそうだ。活発になると当然それの対策に追われるヴァーリたち神の仕事が増え、結果的に不手際(ミス)が生じてしまう。


「負の種を取り除こうと手を打ってこの結果ですか?」


 理由を聞けば聞くほど、自分たちの死に納得が出来ない。


 彼ら(神)もいっぱいいっぱいだったのかもしれない。


 たしかに、大事になれば自分たちがいた地球も無くなってしまっていたかもしれないし、無事だったかもしれない。そんな話をしていたらキリがないが・・・。


 だが、俺や恐らく彼女も結婚など人並みの幸せは、経験したかったはずだ。車の中での好きな人が居ると言った時の彼女の顔が何よりの証拠だろう。けど、その笑顔すら奪われてしまった。


 俺の負の感情が膨れ上がる最中、ヴァーリが申し訳なさそうに口を開く。 


「そうじゃ。責任はすべて儂にある」


 そして、此処へ来て何度目になるかわからない頭を下げた謝罪。


 その謝罪を受け入れずにいると、再びヴァーリが顔を上げて重い雰囲気を少し和らげた様な感じで話の続きを始めた。


「その責任としてじゃが・・・・、お主らに新しい人生を用意しておるんじゃが、どうするかの?」


 新しい人生。その言葉に二人は茫然とした表情でお互いの表情を確認しあった。 


 しかし、同時に疑問も生まれてきた。事故で死んでしまい恐らく肉体はすでに消失している。それを肉体から元に戻すことなど、それこそ調和を乱す事にはならないだろうかと考える。


 調和を乱さずに新しい人生を歩ませる方法・・・・。


 何度も新しい生命体へ生まれ変わる事・・・輪廻。


「生まれ変わりか」


「生まれ変わり?」


 窪塚は、どうやらまだ理解できない様子だった。理解できないと言うよりも正確には、まだ人生を歩むことができると言われて思考がそこで停滞していたと言う方が正しいかもしれない。


「これは俺の推測だけど、身体は事故で失っている。それを復元させるのは、調和に反することだろうからヴァーリたちはそんなことをしない。そして、新しい人生を用意したと言う事は、地球で別の人間として生まれると言う事だと思う」


「それって、伏見くんは伏見くんではない別の人に、私は私とは違う誰かとして人生をやり直すってこと?」


 そうだ。ヴァーリは運転手に転移を使用したと言っていたから、転生も可能なのではないかと思える。ただ、生まれ変わりの概念は地球にもあった。それをヴァーリが行わなくても俺たちはきっと遠い未来に生まれ変わりをするのではないかと思える。


 実は、生まれ変わりは特定の人物や何らかの制限があり、それに俺たちが該当しなかった可能性もあるから実際のことはわからない。


「半分はそれであっておるぞ」


 考えてもわからない事を考えていると、ヴァーリから追加説明がなされた。 


「死んでしまった者の魂は、浄化し他の魂と結合させ新しい生命に生まれ変わるのだが、今回は浄化をせずに以前の記憶を所持したまま新しい身体に魂を入れようと思っておるのじゃよ」


 以前の記憶を持ったまま新しい身体を手に入れる。それはある意味天才の赤子が出来ると言っている様なものである。しかし、同時に今まで関わってきた人たちの事を知りながら、相手は全く知らない状態になるのだ。果たしてそれは、良いことなのだろうか。


 普通に考えれば、かなり残酷な事のようにも思えてしまった。


 同じ時代ならそうなるだろうが、それこそ時代が大きく異なっていると童話でもお馴染みの亀を助けて竜宮城へ行った浦島太郎と同じ心境に陥ってしまうそんな感じだ。


 どちらに転んでもヴァーリの提案が良いものだとは言えないように思えてきた。


「別の世界に行ってしまうのがそんなに辛いのか?しかし元の世界には戻してやれん故、こればかりは・・・・」


 ヴァーリは、何か作業でもしていたのか。ホログラムに映し出されたキーボードのような物から手を放し、困った表情で伝えてきた。


 ヴァーリからすれば、記憶をもったままの生まれ変わりの処置はかなり良い内容なのだろう。その内容に考え込んでしまった俺たちに対してこの後どう対応してよういのかわからない様子がなんとなく理解できた。


 理解できたが、それよりも重大な事をヴァーリは口走っていた。


(え?元の世界には戻れない―――――それに、別の世界って・・・・・生まれ変わりは地球ですらないのか?)


 俺が考えていたのは、歴史的に死んだ少し後なのかそれとも数十年数百年も先なのかと考えていたのだが、根本的に星が違うのであれば考えていたことがまるで意味がないことになってしまう。


 そもそも人なのかすら怪しく思えてきた。


「生まれ変わる世界はどんな感じなんですか?地球で生まれ変わる事が出来ないのですか?」


 隣にいた窪塚は、真剣な表情でヴァーリに質問していた。


 その内容から察するに、俺と同じように考え結論付けたのだろうと思う。


 質問を受けたヴァーリはどう返事すればいいのか真剣に考えこんでしまう。


 それを真剣に見つめる二人。


 彼の説明次第では、生まれ変わりの件をしっかり考えなければならない。


 最悪、見知らぬ土地で一人ぼっちになり、しかも生まれ変わった姿が芋虫とかだったら、迷うことなく生まれ変わりの話を白紙に戻すところだ。


 二人には聞こえないぐらいの声量でブツブツと独り言を言っていたヴァーリだったが、どう説明するのか目途が付いたのか、俺たちにわかるように説明し始めた。


 所々わからない内容が含まれていたが、結果だけ言うならば、元の世界・・・地球には戻ることは不可能らしい。


 地球に戻る手段は、一般的な死を迎えた人と同じように別の魂と結びつけば可能になるとのことだが、それだと伏見優雨と言う記憶を持った魂は、存在しなくなり真っ新な魂として地球で生を()けるのだそうだ。


 伏見優雨と言う魂は、絶対に地球で生まれ変わる事は出来ないのだそうだ。


 変な話、地球以外でも同じで用は伏見優雨が存在していた世界に前世の記憶を持ったまま生まれ変わる事が出来ないのだ。


 当然、窪塚も俺同様の立場である。


 理由としては、魂には指紋や声紋と言ったように魂紋と言うのがあり、死ぬとある所に魂紋が記録させてしまう。その記録された魂は、その管轄下にある空間すべてで復活・転移・転生が行うことができないのだそうだ。


 だから、地球とは全く異なった別次元にある、人が住めて習慣も以前と変わらないところが多い星を選んでくれたそうだ。勿論その世界での人間としての生まれ変わりも保証されている。


 最後に、ヴァーリからこの度のお詫びと称して、転生する俺たちにいくつかの特典のようなものが付くのだとも説明を受けた。


 ただ、特典に関しては物理的な物は渡す事ができないようだ。そのため、転生した人物の才能を一般人に比べて比較的多く付与してくれるだけらしい。


 しかも、どの才能がもらえるかはランダムで、もらうことができた才能が知ることができず、結果的に才能を開花させることなく人生を終える可能性すらあるのだそうだ。


 何だか、特典と言うよりはおまけ程度な物に感じるが、これは考え方によってはすごい事である。


 例えて言うならば、天運の才能や強運の才能で宝くじの高額当選を何度も体験できる可能性もあれば、水泳にマラソン、サッカーなど多くのスポーツの才能をいくつも習得してしまえば、超人的なスポーツ選手になってしまう事も可能なのだから。 


 まあ、どれもこれも才能を得ることができ、尚且つ開花させる事が出来ればの話になるが・・・。


 それと才能とは別に、前世で得ていた才能や技量、知識、身体能力などは更に向上してくれるのだそうだ。


 前世での才能が凄ければ凄いほど、新しい世界では超人・・・・いや、化け物化してしまう可能性があるのだ。


 知識も似たようなもので、ある程度知っている事は、その分野においてほとんどの知識を知り得るレベルにまでなるようだ。


 ある意味過剰の様な気がする二人だが、この程度の事は特に問題ないらしい。


 実際、転移予定していた勇者候補には、この二つの特典がより具体的にそして、選択できるそうだ。 


「まあ転生はすでに完了し、お主たちはすでに新しい世界で生きておるぞ」


「どういうこと?」


 窪塚は、何故か俺に訪ねてくるが、俺もヴァーリに転生するともしないとも伝えてはいない。


 それなのに、すでに新しい人生を送っているというのは、どういう事なのだろうか。


「今回は急を要する事態だったからな。説明する時間を省き、先に新しい肉体とお主たちの魂を結びつけて、転生させたのじゃ。じゃがな、今言ったように急を要するため魂は肉体と定着させたが、記憶の部分はまだ覚醒しておらんのじゃよ。そこで、説明も兼ねてお主たちに転生をするかどうか考えて、記憶の覚醒をさせるかどうかを決めようと思うんじゃ」 


 ヴァーリの説明はさらに続き、仮に転生を拒めば俺たちはそのまま消滅し、前世の記憶を持たない魂がそのままその世界で生活する。簡単に言えば、普通に生まれて普通に人生を歩むただそれだけの事らしい。


 まあ前世の記憶を覚醒させても結果は同じで、第二の人生を歩むだけである。


 俺自身の答えは決まっている。


 ヴァーリの説明から察するに、俺と窪塚さんは同じ星の同じ時代にいるそうで、場所もかなり近い位置にいるそうだ。一人で見知らぬ土地を生きるよりも二人で生きるほうが、精神的にも安心できると思うし、何より彼女を前世では守れなかったそれを次は守れるそう言う機会をもらったような気がした。


 窪塚を見ると同じような表情をしていた。


 恐らく彼女も知った人と一緒に新しい世界に行くほうが良いのだろうと思う。


 お互いの意思を確かめ、そして頷く。そこには一切の言葉は存在しない。表情から理解できたからだ。


「どうするか決まったようじゃな。では、もう一度訪ねるぞ。お主たちは新しい人生をやり直す意思はあるか」


「「はい」」


 二人の力強い返事に、ヴァーリは一瞬安堵の表情を見せた。そして、すぐに真剣な表情に変わり、手元の何もない場所からホログラムのディスプレイとそれを操作するキーボードの様な物を出し、何かを始めた。


「ふむ。じゃあこれから、お主たちの記憶の覚醒と儂ら神からのお詫びとして才能の向上並びに新しい才能の付与を行う。付与に関しては、何が付与されていてどのくらい付与されるのか儂にもわからん。じゃが、きっと新しい人生の助けとなってくれよう」


 二人の足元から円形状の魔法陣の様な物が淡い光とともに出現し、その光に二人は次第に包まれていった。


「第二の人生を歩む星の名は・・・・アルゴリオト星じゃ。それじゃあ・・・・・・なんじゃ?」


 ヴァーリの腰部分にぶら下げていた、いくつ物装飾品のうちの二つが突如暴れるように外れ、これから新しい人生を歩もうとする二人に向かって飛んでいく。


 意識が掠れる中、飛来してきた何かが俺と窪塚の心臓部分に突き刺さり、入り込んだ。


 突き刺さりはしたが、痛みは全くない。意識がなくなる手前だったからか、そう言う物なのかはわからないが、何かが入り込んだ・・・・・と思う。


 よくわからない。正直、意識をこれ以上保てない。


「お前たち・・・・そうか、共に行くか。もしかしたら――――まお―――おせ――は――――。しんと―――――きゅう―――――たの―――。で――――よい――を」


 ヴァーリの言葉のほとんどが聞き取れない状態だったが、辛うじて最後の言葉だけは理解できた。


 最後の言葉・・・・・それは「良い人生を」と言っていたのだ。


 彼の表情から察するとその言葉は本心で語っているのだと思われるが、それを感じ取る前に二人の身体は跡形もなく消えてしまったのだ。


ここまで読んで下さりありがとうございます。

次回は、9月11日(木曜日)あたりの投稿を考えております。

よろしかったら、また見てください。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「お主らは察しがいいのー。特に伏見と言ったか。お主は、感も良く読みも深い。お主らが疑問に思っている次元管理局とある事、それにこの後どうなるのかだが・・・」 ここの 感は、感じの感では…
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