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019 修行の開始

2話連続での投稿になります。

 日差しが眩しく照らし、密集した空間はまるで灼熱地獄のように感じる。これで、ある程度のスピードがあれば吹き抜ける風で多少は、暑さを紛らわせたのだが、今は非常にのんびりした歩みだ。


 今は商業都市プリモーロへ向かう馬車の中で暑さと密集された熱気と戦うレオンハルトたち五人。


 アーミーアント討伐完了から既に十日経過して、漸く一昨日イリードの街を発つ事が出来たのだ。基本的にイリードの街で足止めされていたのは、魔法の袋からアーミーアントなどの死骸を出し査定してもらったり、買取で得た金銭の受け取りやその分配についてだ。


 大まかな分配は既に決まっていたようで、全体の四割を俺たちが、残りを平等に分ける事にしていたようで、受け取っていた。


 それ以外にも、トルベンの所へ行き武器の手入れや消耗した武器の調達なども行った。購入したのは投げナイフや調理用のナイフだ。今度包丁などの作り方を伝授した方が良さそうだ。それとダーヴィトの盾をオーダーメイドし、防具も新調する事になった。エッダの方は、武器の手入れだけで済み、予備武器に短剣を購入した。防具も動きやすいハーフプレートを新調、腕に篭手の様な防具も購入していた。


 トルベン自身、盾を武器にする者や魔装武器を所持する者に出会え、興奮したのか。依頼された仕事を予定よりも早い期日で完成させたのだ。


 最初は、適当にしたのか?と疑いかけたが、作成に三徹したと聞かされれば、生半可な物は作っていないと悟る事が出来た。オーダーメイドの盾は二つ。大きさも重さも全く同じの円形の盾だ。強度と重みに特にこだわり、かなり良い物を仕上げてくれたようだ。


 代金を支払い。ペートラや弟子たちに挨拶を済ませ、諸々準備し馬車に乗り込んだと言うわけだ。


 馬車に人が多いのは、討伐依頼による物だろう。


 依頼が完了し、冒険者たちはそれぞれの拠点に戻ったり、それぞれの街へ買い付けに行ったりで、タイミングが噛み合ってしまっただけの事。


 『転移(テレポート)』で移動も考えたが、後から出発したはずの人物が先にいるのは色々と辻褄が合わなくなるとの事。それと、新しく仲間になったダーヴィトとエッダに打ち明けていないのが使用しない理由である。


 プリモーロに到着してすぐに、宿屋を探し、部屋を確保すると二人に紹介したい場所がある事を伝える。


 鍛冶屋トルベンのお店ともう一つ贔屓にしている店と言うよりも自分たちがスポンサーをしている店、仕立て屋。以前訪れた時にハンナと言う女性と知り合い、仕立ての腕や衣類に対する情熱が非常に高くそれ故に作業が進まず困っていたお店。縁あって水や素材確保をある程度協力している。


 ハンナのお店に近づいて来ると店の外にまで及ぶ人垣が出来ていた。


 初めは、店に入るための列に並ぼうと考えたが、店の作業場の方へと回る事にした。単純に、外から商品が見れるようにしていて店内に入るための列なのか、ただ外から見える飾られた衣類たちを見に来ている者たちなのかの区別がつかなかったのと、アーミーアント討伐から戻ってきた日以来、此処へ訪れていないのでそろそろ貯水している水がないのではないかと言う疑問から作業場の方からにした。


「あっ。すみません此処は関係者しか入れないので、お店に入られるのでしたら、正面口からお願いします」


 此所の従業員と思われる十代半ばの女性に引き留められてしまった。


「いえ。俺たちは客ではなくて・・・・いや、客なのか?」


 水の補充に来たのと、前に注文していた服の受け取り、新たに服の注文の依頼。そう考えたら客でもあるのかと納得してしまう。


「どうかしたのアルマ?ってレオンハルトさん来てくれてたんですか?アルマあの方たちは良いの。このお店の協力をしてくれているから」


 ハンナが現れ、アルマと言う女性に俺たちの事を説明し、その後作業に戻るように言われたため此方の事を気にしつつ作業場へ戻っていった。


 ほんの少しの間に従業員が雇えるだけのお店に急成長したようだ。プロデュースした者として嬉しい限りである。特に客引きとなったのはマネキンに着せた服を飾り、外からでも確認できるのと、簡単な衣服の組み合わせなど参考にできるようにしている部分だろう。初めは目新しさから客が立ち止まって、少し覗いたお客からどんどん客が増えて行ったそうだ。おかげで、生産する方はかなり大変らしく。急遽、従業員を雇用しお店を回しているそうだ。


 お店の方は、一応商品は陳列しているみたいだが、それらは見本として現物購入できない様にしている。同じ衣類が欲しい場合は、その見本を持って行き、寸法を測った後から作成するようにしている。受け取りまでに十日から二十日かかるみたいだ。一からのデザイン注文も受け付けているが、其方の方は費用及び製作日数が更に増えるらしいが、其方の方もかなり注文が来ているそうだ。


 少しばかり効果がありすぎの気もするが、元々良いデザインだったり、仕上がりも上々の物ばかりのお店だ。噂がたてば、流行るのは間違いなかった。


「なんか忙しい時に来たみたいで」


 若干、来るタイミングを間違えたかなとも思わなく無かったが、どの時間帯に来てもこの調子なら今でも良かったのかなと少し思っている。


「いえ、何時でも来てください。皆さんには返し切れない恩がありますから」


 忙しく疲れているだろうにそんな様子を一つも顔に出さず、笑顔で対応するハンナ。あまり彼女を端止めにしておくのも気が引けるため、当初の予定を済ませる事にする。


 まずは、このお店の要の一つ。鮮やかな色を出すための綺麗な水の準備。三つある貯水タンクに水を満タンになるまで入れる。その後、定期的に水の補充に来なくても良いように地面に大型の貯水施設を作る。別に、補充に来る事はそこまで苦にはならないが、先日の様な討伐遠征だったり、補充に来るのが難しい環境だったりするとハンナに迷惑をかけてしまうと考えたからである。


 遠征中に考えて、どうするのが良いのか。店の外に置くにしても限界はあるし、店の上に設置も重量や日差しによる問題、衛生的な事。場所を確保しつつ、色々な制限を少なくできる場所・・・・それは、地下しかないだろうと言う結論に至り、此処に来るまでの間にトルベンにある物の制作を依頼していた。設計図を渡し、部品を作成してもらっていた。最悪この処置をしてしまえば、貯水等が必要なくなる可能性が高いがそれはハンナが考える事だ。染め物の洗い場で、使用しない場所。加えて、使用時には重要になってくる場所を見極めその場所に手を加える。


土属性魔法『地形創造(アースクリエイト)』。地面に手を加える魔法で、魔力量や魔力操作に応じてその制度は大きく変化する。実戦で使うなら、足元を凸凹にして戦いにくく出来る。とは言っても実践に使うより今回の様な開拓などに使われることの方が多い魔法だ。


 大量にある魔力と精密な魔力操作で、地下に超巨大な空間を作り、空間の外壁もそのまま魔法で硬化させる。イメージしたのはコンクリ―トで、土と空間の間はすべて硬化した硬土で覆いつくす。かなり深い所に設置したため、簡単には見つける事は出来ず、上にある建物の影響も受けない様に調整した。これだけで魔力の三割を使ってしまったが、普通にこの規模のこの精度を作ろうとしたら、中級以上の土属性魔法の得意な魔法使い十人集めて一月(ひとつき)以上かかるぐらいの代物だ。


 出来上がった空間に今度は、トルベンに作ってもらった物を組み立て設置していく。公園とかに設置している様な蛇口だ。それも業務用に調整した大きめの蛇口。井戸などに使われていた手押し式ポンプでも良いかと思ったが、回せば出続ける蛇口の方が良いと思い此方を採用した。正し、普通に蛇口の管を空間に入れるだけでは、水道としての役割を果たせないので、内部構造もかなり手の込んだ仕掛けにしておいた。前世の様な水道管があれば便利なのだが、そんな物はこの世界には存在しない。従って、前世と同じような作りをしても役に立たない。しかし、前世と違い此方には魔法がある。難しい部分は魔法で補えば良いだけの事。此方は、レオンハルトがこの数日掛けて作った代物で、魔力を閉じ込めれる鉱石で、発動させれば水を吸い寄せる魔法が発動するようにした。


 作った物自体に魔法を覚えさせるのではなく、簡単に言えば魔法陣のような物だ。魔法陣を用いれば、そこに魔力を流すだけで魔法陣の持つ魔法が行使できる代物だ。魔道具の中にはこのような魔法陣を刻み込んだものもあるが、欠点としてそれしか使えないと言う部分だ。それに、作るのには専門的な知識が必要になってくる。


 因みに、特殊魔法の一つ儀式魔法は、この魔法陣を用いて魔法を行使するし、召喚魔法も魔法陣を用いている。一般的には普及していないが全く目にしない訳でもない程度の代物だ。


 レオンハルトとたちはまだ知らないが、此処より遠く離れた国では詠唱よりも魔法陣を用いて魔法を行使する処もある。


 今回は、魔法陣を地上に上がってくる管の内側に刻み込む。そうすれば魔力を閉じ込めれる鉱石がある発動の動作で刻み込まれた魔法陣の魔法を強制的に使えるようにした。ある動作とは分かると思うが、蛇口を回す動作である。回せば回すほど効果を出すようにして、その効果を受けて、勢い良く水が出る仕組みだ。


 それとは別にもう一つ。正直、この作業が一番難問だったと言える。鉱石にどうやって魔力を補充するかと言う点だ。毎回誰かに補充してもらうか、自分たちで補充するかしなくてはならず、どれほどの頻度で来ないといけないのかもわからない。寧ろ水を補充に来るのと変わらない気がするからだ。そこで思いついたのがソーラーパネルのシステムだ。ソーラーパネルは太陽光のエネルギーを電気に変える物だが、今回は空中に漂う魔力を集めて鉱石の魔力として補う事が出来る仕組みだ。それが分かれば後は簡単だ。それ用の物を作り上げればよい。最後の野営中に徹夜で作り上げた。


 世の中に出回っていない仕組みなので、あくまでも試作品だ。問題なければそのままでよいし、もっと良い物が出来たり、不具合などが見つかったりしたら交換するつもりでいる。


 レオンハルトが新しい水回りの工事をしている間にシャルロットは、生地の元になるスパイダーシルクやその他の糸を取り出す。これらの品は今回調達した物ではなく。以前渡した分の残りである。前回出した物の半分近くはそのままだったが、残りの半分は加工し染めていた。暫くは加工するしかないらしいけど、直ぐになくなる量ではない。


 手持ちの蜘蛛糸玉が無くなってしまったので、また取りに行かないといけないかなーと考える。


 そんな事を考えていたら、レオンハルトに呼ばれ其方へ向かうシャルロット。水道の蛇口の設置を終え、その他もろもろの仕掛けも済ませたようで、貯水施設に水の補充をお願いされた。


 水の生成だけならそこまで魔力を消費しないが、色々仕掛けが起動するか、貯水施設に不具合がないかを確認するのに集中したかったみたいで、今回はシャルロットが担当する事にした。


 リーゼロッテやダーヴィトたちは特にできる事もないので、皆の邪魔にならない位置に座ってのんびりしていた。


「何だかこの前よりもすごい事になっているわね」


 完成した物を見てその感想。これがどれ程すごい技術で作られている代物なのかもう彼女の中では計り知れない代物だった。この価値を分かる者が見たら恐らく腰を抜かしてしまう程の代物だ。地下にある貯水施設の大きさが分からない上に見る事も出来ないので、驚きはどうしても少なくなってしまうのは致し方がない。


「此処を回せば水が出るようにしました。量も今まで以上に使用しても、二月(ふたつき)以上は持つと思います。ただし飲み水としては使用しないで下さい」


 決して飲めない事はないが、お腹を下したりする可能性が無いわけではない為の処置。


 ハンナからすごい感謝をされ、以前頼んでいた服を受け取り新たに服の依頼をお願いする。デザインと作り方はシャルロットとリーゼロッテが作っていたため、その通りに作ればよいだけだ。しかし、ハンナはこの案に更にアレンジを加えてくる。そのあたりは女性陣に丸投げしておいた。新しい服はダーヴィトたちの物も含まれている。そして漸くお互いに自己紹介する事になり、始めに自己紹介するのが普通だよなと今更ながらに順番がバラバラになってしまった事に気が付いた。


 帰り際に服の代金を尋ねると、お金を受け取れないと拒否されてしまう。服の原価はこの世界ではかなり高い。そして服を販売するとなると手間賃や人件費なども含まれるため、中々手が出せないのに、それでも俺たちは無料で良いと言うのはと思っていたら、先程のアルマと言う女性がこっそり教えてくれた。


 如何やら、原材料のほとんどをレオンハルトたちが用意した物で、そこまで費用的に掛かっていないらしい。デザイン費や労働時間の費用はどうしても発生するが、それでも水の補充だったり、材料の仕入れに比べれば大した額ではないのだと言う。


 そして、材料の仕入れや水の補充などスポンサーとして後ろ盾してくれている間は、と言うよりもこれまでの恩もあり、今後も金銭類は受け取れないと言われた。


 ハンナと言いトルベンと言い。こう贔屓にしているお店の主は何で、そう言った部分に欲を出さないのだろうと思ってしまう。


 取りあえず、スポンサーとして何か必要な物があれば何時でも行ってほしいと伝える。一応、月一で訪れるつもりでいる。


ハンナのお店を後にして、次は冒険者ギルドへ足を運んだ。目的は簡単な依頼があるかどうかの確認だ。依頼板に掲示している依頼内容にどれも微妙と判断し、そのままギルドを出た。少しばかり時間が余ってしまったので、このまま自由行動にして解散した。


 翌日は、スパイダーシルクの調達の為、街を離れる。ほぼ一日かけて前回よりもかなり多く蜘蛛糸玉を作る事が出来た。この作業は単純な行動を只管しなくてはいけないが、ダーヴィトもエッダも文句ひとつ言わずに協力してくれた。


 ついでに冒険者ギルドで受けていた依頼もこなす。依頼と言っても簡単な依頼で、サンドスコーピオンの討伐だった。数もニ十匹以上だったが、広範囲の索敵能力を持つ者が二人もいるのだ。ほんの少しの時間で依頼は直ぐに完了した。


 そして、予定通り明日にはこの街を離れて、現在拠点として使っているナルキーソに戻る。宿屋の一室に集まった皆にそう告げた。此処からナルキーソまでの馬車は出ていない為、再びイリードへ戻りそこから、出発すると判断していたダーヴィトたちに明日朝早くに近くの森へ移動すると言うとかなり驚かれた。


 移動手段をこれまで説明していなかったので、この場で移動手段について打ち明けるつもりだが、前もって驚かない様に言い含め、『転移(テレポート)』の事を打ち明けた。


 当然、その事を聞かされた二人は、驚くなと言う事を言われていたため、大声で驚くことはなかったが、それでも表情は驚きを隠せていなかった。


「それが使えたなら、此処までの道だって飛んでくればいいだけだったんじゃ?」


「あまり知られたくないからだよ。討伐の関係であの街には冒険者がそれなりに集まっていた。その冒険者が帰る時に後から出発したはずの者が先にいたら不自然だろう?これが、ある程度離れている街とかなら問題はなかったんだけどね」


 レオンハルトの理由に納得する二人。『転移(テレポート)』が使える魔法使いは、国でもかなり譲歩される。譲歩と言えば聞こえがいいが、最悪の場合お抱えの魔法使いとして手元に置き、自由を奪われるケースもあるのだ。


 そして、恐らく彼らは手元に置かれるケースだろう。尋常じゃない戦闘力に魔力。加えて、戦いの戦略家としても優秀。そんな人物が『転移(テレポート)』まで使える。並みの貴族だけでなく下手をした場合、王族にすら目を付け兼ねられない。


 故に、彼らの秘密を洩らさないと言うのはダーヴィトたちにとって共通の決まりごとになった。その他にも伝えておかなければならない事はこの際すべて伝える。当然、前世の事は除くが。


 『転移(テレポート)』以外だと、どんな魔法が使えるのかだ。これはアーミーアント討伐の時に一部伝えてはいるが、ダーヴィトたちはその一部が全部だと思っている節があったので、きちんと伝えた。特殊な魔法は使えない物が多いが、一般的な属性魔法や系統魔法はほとんど使える事。素材とかを気にしなければ囮作戦の時のアーミーアントの量程度なら数発の魔法を撃ち込めば勝てるほどの魔力量と威力を有している事。ナルキーソの領主との知り合いなど、色々話をした。レオンハルトたちだけの話のみならず、ダーヴィトたちの話も教えてもらえた。何でもレオンハルトたちだけ情報を開示するのは、これから仲間になる者として許せないとかなんとかダーヴィトが言い出したから。


 ダーヴィトもレオンハルトたちに秘密にしていた事があったようで、一つは彼らの持つ魔道具についてだ。アーミーアント戦でも使用しなかった魔道具が、装備品だと二つ。日用品は三つあるそうだ。装備品は靴と指輪で、日用品は見た目の十倍の量の水が入る魔法の水袋に魔力を注げば酒が出てくる銀色(シルバー)(カップ)浮遊(フローティング)する(ボード)があるそうだ。靴は天翔(エアレイド)(ブーツ)と言う数回、空中を足場にできるそうだ。当然魔力が無い者も使える代物だが、魔力の補充が必要な為、それが出来る環境がないと意味がない。今は補充されている魔力が(から)の為、普通の靴になっている。指輪は筋力を少し上げる効果を持ってる。因みにどちらもダーヴィトが装備していた。浮遊(フローティング)する(ボード)は、地面から腰の辺りまでなら浮かせる事が出来る魔道具で、重たい荷物などを持つ時に便利らしい。


 そんな機会があるのかと尋ねると、そこそこ大きな魔物を運ぶ時などに用いるそうだ。魔法の袋に入れるレオンハルトたちからすれば必要ない代物で、今まで興味がなかったため知らなかっただけだ。この中でこの浮遊(フローティング)する(ボード)だけが、割と安く店売りされている物で、指輪はそこそこ高いが此方も販売されている。エッダの持つ槍と他の三品は、以前遺跡を発見した折に見つけた出土品との事で、どれもいい値がする物ばかりだとか。


(なるほど、天翔(エアレイド)(ブーツ)浮遊(フローティング)する(ボード)か、使い方次第ではかなり戦い方の幅が増えるな。そうなるとやはり・・・・・・)


 レオンハルトは、自室に戻ってから何やら今後の事について模索する。


 戦力的には問題ない。しかし、アーミーアント討伐の様な危機的な場面は今後も冒険者として活躍すれば必ず遭遇する。それにどう対処するのか、色々な事態に備えておくことが必要なのではないかと考えていたのだ。


 翌朝、まだ太陽が昇る少し前に身支度を済ませ、宿屋を後にする。


 朝早くから出て行く事は、冒険者や商人にはよくある事で、宿屋の店主も特に何か言う事はしなかった。そのまま一度プリモーロを出る手続きを済ませ、近くの森へと進む。徒歩にして四半刻程、人の気配がなく誰かに見られる可能性も低い場所で、レオンハルトに皆が掴まる。


 あっと言う間に目の前の景色が変わった。森の中と言う部分は同じだが、木々の種類や位置、そしてその先の景色の違い。まぐれもなくさっき迄いた場所とは違う場所だ。


 光り輝く・・・や、魔法陣が展開して・・・などあれば『転移(テレポート)』したのだと分かるのだが、そんなものは一切ない。なれていれば気にする事でもないが、『転移(テレポート)』初体験の二人には、かなり不思議な感覚に陥っているだろう。


 挙動不審の動作をする二人に先に進む事を言われ慌てて歩き始める。今いる森もしばらく歩けば抜ける事が出来、その先にあったのは草原と大きな壁だ。


 海隣都市ナルキーソを敵から守る外壁。


 森からナルキーソの北門までそれ程距離はなく、距離にすれば一キロメートル程。門に着く頃には太陽が昇り始めており、朝日が拝める状態になっていた。


「おや?君は・・・・レオンハルト君だったね」


 門を警備する兵士にそう尋ねられる。どこかで会った事があったかと考えていると向かから話をしてくれた。如何やらマウントゴリラの時にいた兵士のようで、兵士の方が一方的に知っていたと言う事らしい。


 身元は知っていても、一応決まりとの事で身分証を提出する。一人が確認している間にもう一人の兵士と世間話を少しして、確認が済むとそのまま中へ通してくれた。


 取りあえず、宿屋に向かう事にする。場所は前回も泊まった月夜の宿へ向かった。部屋は二人部屋を一つと三人部屋を一つ確保する。取りあえず三日分支払いを済ませる。仲間たちからは三日しかいないのか?と尋ねてきそうな雰囲気を出す。そのあたりはまた後で話をしなくてはならない。


 宿が決まり、近くの飲食店で朝食を済ませ今日の予定を決める。決めると言ってもレオンハルトは今日一日やる事は決めていた。なので皆に自由行動をするように伝える。それと、自分は少し街を離れる事とシャルロットに買い出しをお願いしておいた。


 皆と別れて、一人先程の門へ引き返す。


「ん?もう出るのか?それも一人で・・・」


 先程世間話をしていた門番が不思議に思ったのか、声をかけてくる。まあ出る時も確認する必要があるのだから、向こうから来てくれるのはありがたい。


「ちょっと、用がありまして、でもそれ程遠くには行きませんから」


 再度身分証を提出。先程確認したばかりの為、さっと目を通すだけ通して終わる。


 そのまま、来た道を引き返すように歩き、森の中へ。人の気配を探り、周囲に誰もいない事を確認すると、『身体強化(フィジカルアップ)』を発動。強化された状態で森の中を走破する。


 北の森を走破する事、半刻。全力で走ったため、普通に此処まで来ようと思えば一日以上かかる距離だ。当然魔物も出てきたし、奥に進むにつれて出没する魔物も厄介になる。初めて見る種と言えば、トロールやジャイアントセンチピード以上の大きさの攻撃的な猛毒蛇ハンタータイパン、ツインテールウルフの二回りほど大きいグレーターウルフなどとも戦闘になった。当然、苦戦することなくすべて処理して魔法の袋へ収納。


 マウント山脈の一角、マウント山脈の代表的な山マウントマウンテンより二つほど海寄りにあるデボリット山の(ふもと)、標高四千メートル級の山だが、マウント山脈の中では割と低い方に分類される山である。マウント山脈の大きい山々は、一万メートル級なのだから、それらに比べれば半分もない山だ。


 そんな山の麓までやってくると、ちょっとそのあたりを散策し始める。


 デボリット山とマウントマウンテンとの間にあるハーバード山。デボリット山とハーバード山の間ぐらいにお目当ての場所を見つけた。デボリット山の麓についてから散策したが距離的に言えば、散策などの距離ではない。しかし、身体強化をしていたレオンハルトにしてみれば散策と言えるレベルの距離だった。


 お目当ての物は大きな洞窟だ。


 中に危険な生物や魔物がいないかを確認。吸血蝙蝠の類やブラッドグリズリーと言う真紅の大熊が居たぐらいで、それ以外は特に住んでいなさそうな様子。それらを駆除及び討伐を行い、近くの森の木々を魔法で伐採し始める。


 まずは、洞窟の奥へ進み適当なところで木を壁のように積み上げる。それと併用して土属性魔法『地形創造(アースクリエイト)』で補強。強度も鋼鉄並みにしてギガントボアクラスでも簡単に壊せない代物を作る。仮に奥にまだ生物が潜んでいたとしてもこれで対処できる。次に奥の壁と入口との間に適当に魔法で土台を作り、木を運び込んでは形成し、形作ってから組み立てる。現在作っているのは、頑丈なログハウスだ。


 普通であれば数ヶ月から一年近くかかるものだが、そこは異常なほどの魔力と魔法でその制作スピードは一般に比べ数十倍速い。しかも、この世界とは違い。前世の方の建築の知識を元に構成して作っているので、複雑なかつ繊細な仕上がり具合になった。こっちの世界のやり方だと家は何とかなるが、ログハウスの様な物はかなり適当になってしまう。若干の隙間が出来たり、ちょっと歪な形になったり、真っ平らでなかったりなどだ。形が歪になるのは百歩譲って良しとしてもそれ以外がアウトだ。夏場は森が近くにあるため虫が入り込みやすくなるし、冬場は隙間風が寒くてとてもではないが生活が困難と予想される。なので、一時的な利用だとしても全力で作り上げるのだ。


 ログハウスが完成したら、次はそのログハウスに防御系の付与魔法をかけ、それ以外にも環境快適、隠蔽と言った付与もかけた。付与が終われば中の内装と洞窟の入口の防御壁だ。内装は明日にして、まずは防御壁作成に取り掛かる。奥と同じように木で壁を作り、外から隠蔽工作を施す。それとは別に洞窟の中の空気を循環したり、太陽光などが入るよう工夫も同時に行っていく。


「まあこんなものかな?」


誰もいないが、一人呟くレオンハルト。完成した物を見れば、一日で作った様な物とは思えないほど立派なログハウスが完成した。


しかも、トイレやお風呂、台所完備。トイレは水洗トイレで、お風呂は檜風呂風のお風呂だ。まだ、排水関係の処理も済んではいないので、そのあたりも明日行う事にして、一度ナルキーソに戻る事にした。


 門の所へ行く頃には大分太陽が沈み始めており、街へ入ろうとする者たちが大勢いる。夜になれば大扉は締まり、馬車などは入れなくなる。人間程度の大きさなら、小さい扉で行き来できるが、それでも大きな荷物など狩りに出ていた冒険者からすれば、大扉が閉まる事は不便なのだ。


 レオンハルトは、何食わぬ顔で門へ辿り着き、朝とは違う門兵に身分証を提出する。


 宿には既に仲間たちが戻って来ていたようで、部屋に集まっていた。


「お帰り。どこに行っていたの?」


 開口一番にシャルロットが訪ねてくる。別に疚しい事をしているわけでもないし、伝えておくかと言う事で、何をしていたのかとそれと今後の事について伝えた。


「修行?どうしてまた?」


 リーゼロッテが不思議に思い訪ねてくる。その意見にダーヴィトとエッダも同じような表情を示していた。自分たちは既に二ランク以上の実力を身に着けている。ダーヴィトとエッダは一ランク程度だが、それでも現状のランクには収まらない力は有していた。


「理由はいくつかあるが、一つは底上げだな。ダヴィとエッダの戦い方を見て思っていたんだが、お前たちはもっと強くなれる。強くなれるが今のままではそれほど強くはなれないと言う事。それと、連携かな?俺とシャル、リーゼは幼い時から一緒に戦っているから、何となく考えやタイミングが分かるが、そこにダヴィたちが加わったからな。五人の連携の強化と誰と組んでも問題ない立ち回りなどの練習も兼ねてって事」


 レオンハルトの言葉を真剣に聞いた四人。彼の言葉通り連携に関して言えば、穴だらけな部分も多い。そして、その時には説明しなかったが、ダーヴィトたちが持つ魔道具の使用と応用で更に変則的な事も可能だと判断していたからである。


 取りあえず、明日もまた自由行動にしようとしたが、修行に関して動いているのなら手伝いたいとの申し出があり、全員で明後日からの修行の準備に入る事にした。


 明日は、ダーヴィトに日曜大工。エッダは内装についてのアドバイス兼作業補佐。シャルロットは日用雑貨の買い物・・・主に寝具や台所用品、消耗品など。リーゼロッテはナルキーソに戻ってきた事を領主のヴェロニカへ報告と修行で再び街を離れる事を伝え、時間が余れば、調味料などの買い出し、そして俺はログハウスの地下室及び配管工事、台所などの制作作業。


 段取りを話し合って、それから夕食を食べに宿屋の食堂へ足を運んだ。










「そこらへんで良いかな?あっ!!ちょっと右にずれてる」


 ログハウス内の内装工事を行うダーヴィト。今はレオンハルトが用意した木材を使って、リビングの棚を作成していた。机や椅子もこの後に作らないといけないので、出来るだけ素早く済ませたかったが、何分経験がない為、悪戦苦闘中。


 エッダに離れた所から見てもらいながら平行か確認して釘打ちする。


「かなり疲れるな・・・」


「何言っているのよ?レオン君は一人でここまで作ったのよ?それに比べたら棚の一枚や二枚」


 そう。彼の作っていたログハウスを見て、最初はかなり驚いた。前々から作っていても驚いただろうが、これを昨日一人で一から作ったと言われれば、更に驚きはすごくなる。二人の考えはその時に一致し、彼が絡めば何でも有りなのだと言う事。不可能も可能にしてしまうような存在なのだと。


 ただ、エッダの言い方だとダーヴィトが棚しか作っていない様に聞こえるかもしれないが、そんな事はなく。既に人数分のベッドの木枠を作ったり、各部屋に設置する収納できる机を作成した。まあレオンハルトが(あらかじ)め、作り方を教えており、その通りに作っただけなのだが・・・。


 当の本人は現在、地下室の制作を行っていた。ハンナのお店の地下施設の様な感じであれよりももっと小型化した物だ。特に必要なのかと言われれば、それほど必要でないのだが、蛇口を作った時にそれの応用版を思いついたため、その応用を行うための場所が必要だったからだ。前回作った経験から、二刻程で作れるようになったので、素早く設置する。ただそれだけだと地下室として勿体ないので、倉庫や部屋も一緒に作成した。


 ログハウスなのに地下室とも思わなくもないが、まあそこまで形式にこだわる必要もないだろう。此処は地球ではないのだから、ログハウスとはこういう物だと言ってしまえば、こういう形が基本なのかと納得してもらえる・・・はず。


 日が暮れる頃には、大方作業が終わり、明日皆で来た時に買い出しで購入した寝具や台所用品、その他もろもろ搬入して終了だ。


「うわーーーーなにこれ?」


 完成したログハウスを見て驚くリーゼロッテ。シャルロットの方は、驚きと言うよりもやや呆れ気味に近い表情をしていた。そのまま中の案内を行う。玄関を過ぎればそこそこ大きめのロビーと会談。奥にリビングやダイニングなどを設置し、部屋も四つ作っている。その他にもトイレと洗面台、脱衣室に浴室完備と前世の基準にできるだけ近づけた設計だ。地下には食品庫に倉庫、機械室を設置。二階は一階同様のトイレと洗面台、部屋が八つとかなり大きな規模のものが出来上がっていた。


「お、お、お風呂があるーーーっ!!」


 呆れ顔から一転、感激の表情を見せるシャルロット。リーゼロッテを含む三人はそれが何なのかよくわかっていない様子だったが、きっとすごい物なのだろうと想像していた。


「トイレも洋式のトイレに、え?これって水洗式トイレ?うそっ!!」


「ヨーシキ?スイセンシキ?何かの流派かな?」


「さあ?ってか此処は何をするところなんだ?」


 その技術の凄さに驚くシャルロットと全く何なのか理解できない三人の温度差を傍で見ながら、何の場所なのか説明していく。説明しても何がすごいのか分からず、普段の物でいいんじゃないの?と言われた時にはその価値が分かる二人に猛抗議が始まった。


「台所は、流石にIH(アイエイチ)コンロではないみたいね」


 IHなんて作れるはずがない・・・・事もないだろうが、そこまで変わらないだろうと思い今回は無しにした。当然電子レンジや炊飯器、ポットなども何もない。あるのは魔力で火が出るコンロと水道ぐらいだろう。


 部屋割りは、男性が一階で、女性が二階となり、好きな部屋を選んだ。内装は自分好みにしてくれて構わない。それと、必要な寝具等を配り設置する。後は、椅子やテーブル、ソファーなども設置していき、気が付けば昼近くになっていたので、ログハウス初の料理を台所で作る事になったが、食器や道具など洗ったり、食材の準備やコンロの使い方など普段よりバタバタしてしまい時間がかかった挙句、凝った料理が出来ずじまい。


 午後からは、どんな訓練をまず行うのか説明する。


 ダーヴィトとエッダはまず基礎体力作り、シャルロットとリーゼロッテも初めのうちは一緒に行う予定で、ダーヴィトたちがまともに動けるようになったら二人だけで行ってもらう。個々の訓練メニューも一応考えており、シャルロットは定位置からの命中率は高いが、空中への跳躍中だったり、アクロバティックな動きの最中の命中率は定位置に比べて格段に下がる。後は、高速での移動中の相手や物陰に隠れられたりする相手への攻撃の威力も低下してしまうため、そのあたりの特訓を行っていく。


 リーゼロッテは、純粋に剣の技術と魔法との組み合わせだ。剣技に関してはアンネローゼが仕込んでいたので、彼が教えれる部分はあまり多くない。それ以外に感覚機能を向上させる事も必要になってくる。


 ダーヴィトには、基礎体力に加え、天翔の靴を使った戦い方。盾を武器にする時の立ち回りや体術、回避、見切りなどを仕込んでいく予定だ。これだけ覚えれば確実に今のリーゼロッテ並みの実力者にはなれるだろう。


 エッダに関してもダーヴィトと同様にまずは基礎体力作り、後は槍の扱い方と足捌き、飛び道具や魔法への対処方法の特訓を行う。


 そして最後にレオンハルト自身は、神明紅焔流と魔法の組み合わせや技の練度、素の状態の基礎能力向上が課題だ。素の状態とは、魔法で身体能力や感覚系を向上させていない状態の事で、それをする理由は、魔法が使えない環境下でも強者と渡り合えるようにしておくためだ。それと今は神明紅焔流の技を魔法で身体強化を上げないと使用できない種類もあるため、魔法に頼らなくても良いように・・・生前と同じぐらいの技量を手に入れたいという願いがあるからだ。


 まずは走り込みと下半身を鍛えるためのメニューを行っていく。


半刻もしないうちにエッダが潰れ、そのすぐ後にダーヴィトも潰れた。幼い頃から基礎をしっかりしている二人は、涼しい顔で運動後のストレッチをしていた。ダーヴィトたちが回復するのを待ち次のメニューに移る。


「では、まずはエッダとシャルの組み合わせ、ダヴィとリーゼの組み合わせだ。二人の修行はもう少し先になってから開始する。その前にダヴィたちの力の底上げが先だ。ただし、二人もただ相手をするのではなく、どう攻めるか、隙を作る方法など探って身に着ける様に」


 レオンハルトの指示したように二人ずつに分かれ、模擬戦闘を開始する。因みにこの模擬戦闘には色々な縛りが存在していて、指示した攻撃や魔法以外の使用は禁止と言う事だ。


 どういうことかと言うと、シャルロットはエッダに向かって一定の距離離れた場所から矢を射抜く動作しかできず、エッダの方は自分に飛来する矢をすべて叩き落す事しかしてはいけないと言う事だ。回避をしても良いが、エッダはその場から定められた範囲から出てはだめと言う縛りもあり、基本的には迎撃するしか手はなかった。


 リーゼロッテたちも、リーゼロッテは火属性魔法でダヴィを狙い撃ちし、ダーヴィトはそれらをすべて回避するように言われたのだ。


 この行動に何の意味があるのか。そもそも特訓のメニューがダーヴィトとエッダ逆なのではと思ってしまうかもしれないが、これで良いのだ。


 これは、ダーヴィトの特性を生かすための第一段階。盾を武器にすると言う事は、攻撃を防ぐ為ではなく攻撃するために使用しなくてならない。言葉にすれば当たり前だろうが、実際にそれを行動するとなると難しいと思う。何せ攻撃している時に守りが薄くなる。これは、一般常識のレベルで、誰でも知っているだろう。カウンターも相手の攻撃の隙を見極め攻撃したりする。要は攻撃の最中が最も脆いと言えるだろう。


 盾は、そんな敵の攻撃をギリギリの所で防ぐ事が出来る。文字通りの守りの為の装備。ならその守りの装備を武器として使う。武器として使っている時は、どうやって敵の攻撃を防げばよいのだろう。敵の武器を攻撃する?それとも守りに戻す?


 答えは否。敵の武器の動きに合わせて相殺させていたら、何時になったら相手にその攻撃が届くのだろう?守りに戻すこともあり得ない。戻すなんて行動をしたら、戻ってきた時には敵の攻撃を受けてしまっている頃であろう。時間の無駄使いとしか言いようがない。


 であれば、答えは躱す。若しくは攻撃していない方の手や足による体術で受け流す事だ。


 まずは、敵の攻撃を見極める目を作る事。それと身体で反応できるようにする事が今回のリーゼロッテとの戦闘の目的だ。


 盾を武器にした事がないレオンハルトでも、自分が仮に盾を武器にしようと考えるならこの方法が最も効率的だと判断した結果だ。それと、前世などで見た映画の知識も半分近く参考にした。


 エッダの方は、攻撃を弾く。これは単純に槍術の訓練。要は長物をどのように振るえばよいのか知るための物だ。槍は基本的に突くか斬撃か投げると言ったものが主流だ。前世でもそうだし、この世界も同じだ。では、他の者より強くなるにはどうするのか、それは槍の扱いをうまくすると言う事だ。孤児院時代に仲の良かったユリアーヌもエッダと同じような槍を武器に戦っていた。彼は、恵まれた能力と天性の才能で槍を自在に操れていた。だから、孤児院内でも抜き出た実力を持っていたのだ。


 それをエッダにも行ってもらおうと考えている。ただし、ユリアーヌと違い。彼の様な才能は彼女にはない。それはシャルロットやリーゼロッテも薄々感じ取っているはず、彼に劣ってしまうのであれば、彼よりも抜き出た何か一つでも習得すればよいだけの事。幸いにして、彼女には優れた武器と女性特有の小柄な体格。男ではまず難しいその小柄さを生かした戦い方をするのが、良いと考えていた。


 そのために攻撃をすべて見切り打ち落とすための扱いを身に着けるのだ。


「ダヴィさん、ある程度強めに行くので大けがしないようにしてよ。はああっやあーーー」


 無数の『火球(ファイヤーボール)』がダーヴィト目掛けて襲う。


 それを、危ないながらも何とか躱すダーヴィト。時には直撃したり、咄嗟に盾を使って防いだりしてしまっていたが、どうにか対処する事が出来た。


(リーゼは、ダヴィの反応できるギリギリの数で攻めているのか?まあ、あれ以上の数で対処すると一瞬でダヴィがやられるだろうから、丁度良いのだが・・・・ん?なるほど。リーゼは、リーゼで炎の質を変化させて撃っているのか)


 リーゼロッテは自らの魔力をより強化できないかを模索していた。それが、ダーヴィトとの対戦で見つけた自分自身への修行方法のようだ。


 対するシャルロットたちも対戦が始まっている。


 飛来する矢を槍で叩き落とすエッダ。動きに無駄が多く捌くのが間に合わずあちらこちらに矢傷が出来ていた。身体に矢が突き刺さってはいない様子だが、ギリギリの所で矢が通過するそれは、掠れば血が滲み出る程度の傷が出来ている。これは、シャルロットが狙ってそういう風に射抜いているからだ。完全に手加減されていると言う事だろう。


 そのシャルロットは、エッダとの戦闘で彼女自身が見つけた修行は、変則軌道による連続攻撃の様だ。矢羽をあらかじめランダムに切り、真っ直ぐ飛ばないようにする。矢筒から矢を取り出した時に判断してその都度、射出する方向を修正し、射抜いているのだ。


 これは、攻撃方法や技の修練とは違う。状況判断能力の強化と言った感じだろう。


 それぞれの修行を確認したら、レオンハルトは自分自身の修行の為一人森の中へ姿を消した。


此処まで読んでいただき、ありがとうございます。

今後も投稿していくので、よろしくお願いします。

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