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017 アーミーアント討伐部隊~中編~

(この状況は非常にまずいな)


 レオンハルトは、襲い来るアーミーアントの群れを愛刀雪風で斬り伏せながら、戦場を分析する。


 格下であるアーミーアントに攻撃で傷だらけになっているジャイアントセンチピード、そこに割り込む様にヴェロキレイオスの参戦による三つ巴。加えて、その戦いに巻き込まれるように参戦させられたレオンハルトたち一行。数ではアーミーアントが、戦場をかき乱すのは大暴れしているジャイアントセンチピード。ジャイアントセンチピードに関しては暴れているだけで、対処しようと思えばできるが、それよりもアーミーアントが死んだ時に発する特殊な臭いで周囲の仲間をどんどん拡大している事だろう。


 今も木の上に避難した冒険者たちを襲う様に自分たちの身体を梯子代わりにどんどん積み重なって、襲おうとしている。


 攻撃をしているようだが、これといってダメージを与えられていない。


 頭部と胴体の隙間の部分を狙い首を跳ね飛ばす。そして、その頭部を空中で蹴り梯子のように積み重なる場所の土台へと命中させる。土台が崩れれば、自ずと上も崩れる。そして、そのように斬り飛ばした頭部や胴体を土台に向かって蹴り飛ばしたり、投げ飛ばしたりする。


 その光景を見たノーマンやカスパルは、レオンハルトがした事と同じように試みようとするものの、アーミーアントの数に圧倒され、現状を維持する事で手一杯だった。


「うおおおおおりゃああああ」


 振るわれた槍斧(ハルバード)は、アーミーアントの頭部を正面から破壊する。


(なんだあの少年は?こんな乱戦の中であそこまで立ち振る舞えるとは・・・・たしか、ダーヴィトと一緒に組んでいたな)


 ノーマンは、レオンハルトの殲滅力に只々感心する。


 今のレオンハルトの戦闘は、誰が見ても三人の中で一番多く敵を倒しているのだ。剣術と体術を駆使し、攻撃を躱しながらそれでいて流れる様な動きと鋭い太刀筋で次々にアーミーアントやヴェロキレイオスを倒しているからだ。


「ちっ。幾ら倒してもきりがないな」


 高く跳躍し、その隙に刀身を綺麗にする。休む暇も与えない程の数に襲われると血が刀に付き切れ味を落としてしまうからで、定期的に手の平から水の塊を作り出し刀身をそれで洗いながら戦っていた。それでも風属性を付与しているため、普通に使うよりは血が付きにくいが・・・。


 魔法で身体強化している分、その跳躍も数メートルの高さとなっていて一呼吸入れる場でもあった。すると、大暴れしていたジャイアントセンチピードが、突如視界に入ったレオンハルトを見て襲いにかかる。


 それも二匹同時に襲い掛かって来るのだから、正面から受ける者としてはかなり脅威であろう。普通の冒険者であれば・・・・。


 二匹ジャイアントセンチピードがレオンハルトを囲うように周囲を自分の身体で覆い、巨大な百足の肉団子の様な形を取った。


「あれはまずいっ!!」


 ノーマンは慌てて、腰に装着している切り札に手を伸ばし、それを投げようとするが百足の肉団子が完成をしたのを見るとその行動を辞めた。


 ジャイアントセンチピードがその攻撃をした時、特に完成した時の中は、口から出す毒で中の生物の動きを鈍らせ、捕食していくのだ。それを知っているため、完成する前に助け出そうとしたのだが間に合わなかった。


 悔しそうな表情を浮かべそうになった瞬間、凄まじい闘気がジャイアントセンチピードの所から発せられた。そして次の瞬間・・・。


 二匹のジャイアントセンチピードの身体は切り刻まれ、肉塊は子供位の大きさに細切れにされていた。


 血と肉の雨が降り注ぐ。


 そして、百足の肉団子の中心だったと思われる場所には、強者のみが纏うオーラを纏ったレオンハルトがいた。


「あーあ。切り札の一つを見せちゃった」


 その光景を見ていたリーゼロッテが、呆れる様に発言する。それを聞いた者たちは、これまでの戦いは全力ではなかったのかと再び驚いていた。


 シャルロットは、リーゼロッテとは逆にジャイアントセンチピードに捕まった瞬間。大丈夫だと分かっていても心配しており、無事に脱出した姿を見て安堵していた。


「レオンが切り札を見せたのなら、私たちも切り札の一つ使う?」


 リーゼロッテの言葉を聞き、シャルロットが頷く。すると二人から漂う空気が変化し始めた。


「私が木に群がる蟻を担当するから、リーゼちゃんはノーマンさんとカスパルさんのと所に向かってくれる。たぶんレオンくんがそろそろ何かすると思うから」


「なら、急いだ方が良さそうね」


 付与魔法の強化魔法である『身体強化(フィジカルアップ)』ともう一つ『劫炎装填(フレイムチャージ)』と言う付与魔法を使用する。この魔法は、名前の通り火属性を武器に纏わせる事が出来、強力な一撃を繰り出す事が出来るのだ。レオンハルトが自身の武器に風属性を纏わせるのと同じで、斬り味ではなく威力を主とした付与だ。


 因みに、レオンハルトが使う風属性の付与魔法は『幻飄装填(ミストラルチャージ)』と言う名前で見えない風の刃で刀を覆っている。


(トルベンさんの作ったミスリル混合剣(クロスソード)、魔法の掛かり方が全然違う・・・・すごい)


 リーゼロッテは火属性が付与され刀身がすべてを燃やし尽くすのではないかと思うような炎を纏ったミスリル混合剣(クロスソード)を見て、驚きの表情を示した。新しい剣にして今回付与するのが初めてだったこともあり、今までと同じ魔力量で行ったため炎を纏う火力が上がってしまったのだ。魔法の通りやすい武器で魔法を使おうとすれば、初心者の冒険者のみならず熟練の冒険者でも稀に間違えてしまうのだ。


 魔力量を抑え、周囲に被害が出ない程度の火力に調整する。それと炎の火力が強すぎるがために剣が解かされてしまうなどのトラブルは起こらない。魔法で作られた炎以外だと鉄が熔解する熱量を浴び続ければ変形するのだが、所詮魔法で作られた炎と言う事なのだろう。これは、魔法石が埋め込まれた魔装武器も付与魔法同様に武器そのものにはダメージはない。


 ただし、これは飽くまで一般的な理であって、勿論例外も存在する。込める魔力量が高すぎるとそれを受けきれずに剣が砕けたり、脆くなったりするし、付与された武器で付与されていない武器が衝突すれば付与されていない武器は、その効果を受けてしまうのだ。分かりやすく言えば炎の剣で鉄の剣と打ち合えば、鉄の剣の刃は炎の剣と衝突した場所が解けてしまったりすると言う事だ。付与や魔法石と言った物はその武器への効果を無効にするのであって干渉する物に関しては効果を発揮すると言う事だ。


 炎の剣を片手に木の枝から飛び降りる。高さが五メートル以上あったが、その程度の高さでは着地を失敗する事はない。


 綺麗な着地をするとヴェロキレイオスやアーミーアントの群れは一瞬だけ動きを止めたが、獲物が目の前に現れたと勘違いをしリーゼロッテへと目掛けて襲い掛かる。


 暗闇の中炎の剣は非常に目立つ為、木の上に避難していた冒険者たちは、リーゼロッテの戦いに見惚れてしまっていた。


 シャルロットの方も『風精霊(シルフィード)化身(インカーネーション)』を使用する。そして、そのままリーゼロッテと同じく『身体強化(フィジカルアップ)』を掛け、更に追加で命中率を上げやすくする『集中力増幅(フォーカスブースト)』、暗くても周りが見える様『夜目(ナイトビジョン)』、空中での攻撃を行うための『飛行(フライ)』等幾つもの魔法を同時に行使する。


 そのまま、木の枝から飛び立ち上空から木を這い上がって来ていたアーミーアントを狙い撃つ。魔法で作った矢は、無数の矢となり次々と首のあたりの関節部に直撃させ撃ち落とす。


 視界不良でもはっきり見えるのは、『夜目(ナイトビジョン)』のおかげであろう。それに、普段から冷静に物事を見極めようとするシャルロットの集中力は魔法でより高められており、この程度の悪条件などないのと同じであった。


「な、なあ。あの二人かなりすごくないか?」


 今となっては安全な場所と言える木の枝の上で、二人の戦闘を観戦していた冒険者たちが思い思いに話す。


 彼らは木の高さと視界の関係で、レオンハルトの戦闘は分からない上に、声や斬撃、打撃などの激しい戦闘音をさせるノーマンとカスパル。辛うじて見えるため何がすごいのかわかり難い状態だったが、燃える剣で戦うリーゼロッテとその灯で同じく映り込むシャルロットの戦いはしっかり認識できていたのも相まって、話題は二人を中心とした内容が多かった。


(確かに彼女たちの実力は、模擬戦闘の時よりも遥かに高いが、それでも二人が戦いやすい環境を作っているのは間違いなく彼だろう。ノーマンさんやカスパルさんの声の感じからすると身を守る事でいっぱいいっぱいな感じもするし・・・)


 そう分析するダーヴィト。エッダも同意見の様に分析していた。


 縦横無尽な動きで次々とアーミーアントやヴェロキレイオスを屠りながら『周囲探索(エリアサーチ)』を使用し周りの動きを確認する。


「ッ!!」


 脳内でレーダーの様な働きをする『周囲探索(エリアサーチ)』で知った内容に少しばかり驚いてしまう。魔法で得られた情報は、アーミーアントの群れが三方向からかなりの数の増援が来ると言う事だ。恐らく、アーミーアントの仲間を呼び寄せる死臭がかなり広範囲に漂ってしまったのだろう。それでも三方向から時間差は多少あるものの恐らく戦闘中に次のグループが合流してくる流れになるだろう。


 幾ら強いレオンハルトと言えど、その数を相手にするのは骨が折れる。まあそんな数に襲われても負ける自信は一欠けらもないのだが、相当の疲労が予測される。


(三方向から来るって事は、その先に巣があると思ってよさそうだな)


 大まかに向かってくる集団の中で、最も密集している場所の先に大きな巣があるのだろうと推測する。


「北の方角から敵多数。それと東北の方角ともう一箇所からも同等数の増援確認」


 それを分かるように皆に伝え、増援が此方に来る前に終わらせるため、魔法で一気に倒す事にする。


「あいつらの動きを少しの間止めるから、その間に皆撤退するぞっ!!」


 レオンハルトが魔法で対応する前にノーマンが全員に指示を出す。


 何か秘策でもあるのか、それを確認する為声をかける。撤退するにしても何をするのかぐらいは聞いておかなければ、他の皆も対応に遅れてしまう。


 ノーマンの説明では、彼の腰に装備している戦鎚(ウォーハンマー)は魔装武器の一種で、その性質は雷の属性を使えると言う事だ。だが、風属性の上位に当たる魔法の為、埋め込まれた魔法石に込められた魔力の消費が大きい為、数発しか使えないと言う欠点もあるそうだ。


 誰かが、魔法石に魔力を補充してやれば何度でも使えるが、それを今何度もするよりも補充に充てる魔力で敵を攻撃した方が何倍も効果がある。


 そう言えば、エッダの持つ槍も魔装武器で使っている所を見た事がないけれど、発動できるのは七、八回で程度だと言っていたのを思い出す。魔力が無い者でも魔法を使う事が出来る武器は、その性能だけ見ればかなり優秀だと判断できるが、使用制限が此処まで限られてくるのであれば、やや使いずらい気もしなくはなかった。


 だが、今回の様なここぞと言う時に使用するには適してもいた。


 ノーマンの持つ雷の戦鎚(ウォーハンマー)で相手を痺れさせて、動けない間に逃げると言う算段を聞き、それを修正するように提案する。


 撤退するのは簡単だが、その後アーミーアントに追われる危険性がある上に、折角巣があると思われる方向を幾つか入手できたのだ。その場所がわかり難くなるのだけは止めなくてはならない。


「相手が動けなくなったら、今度は俺の魔法で敵を一網打尽にします。死臭に関しても此方に考えがあるので、皆には木にしがみ付いている様にだけ言ってもらえますか?」


 この戦いで幾度となく助けられたレオンハルトの言葉に、何か手がある事を知りその策に乗る事にした。ノーマン自身も出来れば撤退はしたくはなかったようだ。撤退してしまえば、貴重な食料やテントなどの備品もそのままにしなければならないからだ。とはいってもテントの半分以上は魔物が暴れまわった事で壊れ使い物にならなくなっているし、食べ物はほぼ全滅しているので、撤退してもしなくても損失自体はかなり被害が出ている。


 それでも、倒した魔物の素材と言う戦利品まで捨てる羽目になってしまうのは看過できなかった様だ。


 ノーマンがレオンハルトの策に乗る事に賛成し、レオンハルトはシャルロットとリーゼロッテに指示を出し、ノーマンとカスパルは木の上に避難している冒険者に指示を出した。


 そして、木を()じ登ろうとしている者を片っ端から撃ち落とし終えると、その時を待っていたと言わんばかりにノーマンは腰に装備していた武器を取り、魔装武器特有の発動の言葉を言う。


 これが、魔装武器のもう一つの欠点ともいえるだろう。何せ、リーゼロッテの様に無詠唱で発動するのとは違い。これから使いますよと言っている様な物だからだ。だが、それでも一般の冒険者や兵士からすれば防ぐ手立てがない場合、事前に分かっていてもいなくても大して変わらないのも事実だが・・・・。


「目覚めろっ!!」


 戦鎚から(ほとばし)る電撃が現れる。この状態ならば、魔法石からの魔力供給も少ない為、持続時間が長く持てる。リーゼロッテの炎の剣と同じ状態だ。


「そして、轟かせろ雷電『電流(スパーク)暴走(ランページ)』」


 だが、次の言葉でその力を発揮させる。


 電撃を()びた戦鎚(ウォーハンマー)を振り下ろし、地面へと叩きつける。電撃は戦鎚(ウォーハンマー)から地面へと移り、まるで衝撃波が出ているかのようにその電撃を広範囲に広げた。


 電撃を()びた魔物は、感電し身動きが取れなくなる。地面へ電撃が流れるタイミングを見計らい下で戦っていたレオンハルトたちは跳躍し、電撃を(まぬが)れていたが、木の上にいる冒険者たちを襲おうとして自分たちを土台にしながら登っていたアーミーアントたちはその電撃の餌食となり、その塔のように積み重ねていた形は一気に崩れてしまった。


 広範囲に電撃を広めていたため、殺傷能力は低くなっていたが、全員が動けない状態を確認するとレオンハルトは着地と同時に地面に手をつき、魔法を発動させる。


 土属性魔法『石柱(ストーンジャベリン)』大地から円錐(えんすい)型の石を生み出し、下から槍のように敵を串刺しにする魔法で、その力は使用する魔力量で強度や範囲が異なるが、魔法としては中級から上級にかけて位置する魔法だ。


 石の槍は、寸分たがわず魔物の即死部分に当たる首や心臓部を貫き、周囲にいた魔物のすべてを根絶やしにした。


 そしてアーミーアントの特性、死んだ際に仲間に知らせて敵を増やす死臭を周囲に漂わせる。だが、そこもレオンハルトは対策済みだ。


 その合図を受けて、上空に待機していたシャルロットが風の球を作り出し、それを地面に向けて撃つ。圧縮された風の球は地面に衝突すると弾けるように周囲を風圧で吹き飛ばした。


 木の上にいた者は枝や木にしがみついて、地面にいる者は風圧に吹き飛ばされない様に(かが)んだり、防御姿勢をとり耐えた。


 この風圧でアーミーアントの放つ死臭は、風圧により霧散し、此方へ向かっていたアーミーアントの群れも動きを止め、それぞれの巣に戻るように消えた。


「た、助かったー」


 冒険者の一人が安心したのであろう。地面に降りてからへたり込む。それに釣られるように他の者もそれぞれ安堵の表情を示した。


「安心するのは良いが、警戒を緩めるなよ。それと、さっさと後始末をしないと今度は血の臭いで獣がやって来るぞ」


 カスパルは安堵する冒険者たちに注意し、やらなければならない事を支持して回る。その間にレオンハルトは先の戦いで得た情報をノーマンに伝えてどうするのかを話し合う。 


「最低でも三方向に巣があると言う事は分かったが、此方も半数近く減ってしまっている。この人数で攻めるには少しばかり心許ないな」


 結局、此方も増援が到着するまで動けない事が決まり、冒険者の中で斥候に向いた者を向かわせ此方と合流できるように手配した。


 その間に残った者たちは、魔物の解体作業に入った。


 バラバラになった二匹のジャイアントセンチピードに三十七体のヴェロキレイオス、百八十七匹のアーミーアントだ。正直、増援が来る頃に四割解体できれば良い方だろう。


 それから二日ほどして、増援部隊と合流した。


 その間にレオンハルトは『転移(テレポート)』でプリモーロへ飛び、ハンナの店の貯水タンクに水を補充してすぐさま皆の所へ戻った。一応、秘密にしている魔法の為早く戻らなければ怪しまれてしまうと言う意味も込めて寄り道する事はなかった。


「久しぶりだなノーマン。かなり苦戦しているらしいじゃあないか」


 増援部隊をまとめていた冒険者ダニー。ノーマンやカスパルと同じ(ディー)ランクの冒険者で、体格は二人とは全く別の細身の小柄な体格の青年だった。小柄と言っても身長は百七十を超えているため、小柄とは言いにくいが、二メートル近くある二人に比べれば、小柄と言えるだろう。


 戦士が身に着ける様な鎧ではなく、ローブを身に纏っている所を見ると魔法使いなのだろうと想像できるし、実際そうなのだとダーヴィトから教えてもらった。


 白銀の牙と言う名前のリーダーでもあるそうで、ノーマン同様仲間思いのリーダーだと教えてもらった。


「なるほど、君がノーマンやカスパル以上の冒険者か。話はさっき聞いたが本当に若いね。僕はダニーよろしくね。こんな姿だけど、前衛も出来るから君と同じ感じかな?」


 そう言って腰に指している二本の短剣を見せてきた。ダーヴィトの話にはなかったが、短剣を使った戦闘も可能のようで、傍から見ればレオンハルトやリーゼロッテと同じポジションに見えるだろう。だが、レオンハルトは同じようなポジションでも武術を主にしているのか魔法を主にしているのかでは大きく異なると考えている。恐らく彼は魔法が主の前衛タイプの様だ。足の運びだけでそれを判断した。


「此方こそよろしくお願いします。自分はレオンハルトと言います。魔法が使える前衛ですが、根本的にはこの武器を主に戦いますので、ダニーさんとは少し異なるかと思います」


 レオンハルトは腰にぶら下げていた刀を相手に見せた。


「なるほど、確かに少し異なるようだね。けど、君には期待しているよ」


 ダニーは笑顔でその場を去り他の者へあいさつに向かった。


 その夜は、ノーマンやカスパル、ダニーの三人の(ディー)ランク冒険者に加え、ノーマンの仲間の冒険者一人バルドゥルと援軍出来た冒険者二人、それにダーヴィトとレオンハルトの計八人で今後の行動を話し合った。


 全員参加でないのは、魔物の襲撃がない様に見張りについていたり、食事などの後片付けなどをしていたからだ。他にも単純にチームリーダーの指示に従うとかで参加しなかった者もいた。


「なるほど、襲撃があった場所がこの辺りで、アーミーアントの増援はこっちの方角とそっち、それにこっち方面もか。どうするか・・・・」


「三方向に分かれるのはごめんだね。正直、先日の戦いを考えるとまとまって行動した方がいいと思う」


「だが、そろそろ終わらせないと此方も疲労が溜まって、倒れてしまうぞ」


 どうするか悩む者と早期決着を急ぐ者、そして慎重に行動したい者など意見が分かれ一向に決まらない状態が続く。


「君はどう思う?」


 そんな状態で増援としてきたダニーが意見を求めてきた。


「そうですね。・・・・増援で来た皆さんはまだ大丈夫でしょうが、最初から参加している自分たちはそろそろ決着を付けたいと言う気持ちは大いにあるかと思います。ですが、此処で焦ってしまえば思わぬところでミスが出るでしょう」


 レオンハルトの話をしっかり聞く七人。冒険者としては新人だが、その実力はあの戦いを経験した者は理解していた。戦闘力だけでなく、判断力と決断力も相当高く、若いからと無下には出来ない。


「ですから、自分なら四つのグループに分かれて攻めます」


「四つに分けるだと?それこそ戦力が著しく低下するではないか?」


 増援で来た冒険者の一人が、レオンハルトの意見に抗議した。三つのグループに分ける話ですら、反対意見が多かったのにそれを四つに分けるのだから、反対する人も多いだろう。しかし、ノーマンはその作戦の詳細を具体的に聞いてきた。


 三つのグループ若しくは二つのグループに分けるならまだしも、四つのグループに分ける意味が分からなかったと言うのもある。二箇所に二つのグループが向かうのであればそれは四つのグループに分けるではなく、二つのグループに分けると表現した方が正しいし、三箇所でも同じだ。どこかの箇所が二つのグループで対応するのだからそれは一つのグループとして捉えるべきであろう。


 他に考えられることは、四つ目を全く別の所へ捜索させるか、三つのグループの遊撃としてのポジションぐらいしか考えられなかったからだ。


「四つのグループに分けるのには意味があります。巣の位置を正確に把握できていない事、そして大量発生している原因の一つ女王蟻(クイーンアント)の居場所が分からない事です。なので、それを突き止めるための編成です」


 そして、その後もレオンハルトの説明は続いた。


 少数に分けた三つのグループと残りの大隊のグループ。少数のグループは、アーミーアントの巣があると思われる場所へ向かい巣の破壊及び女王蟻(クイーンアント)の討伐。残りのグループは広い場所に陣地を作り、アーミーアントを誘き寄せる作戦だ。


 アーミーアントの特性を逆に利用し、巣の位置を割り出し潰していくと言う事だ。


 もし、三箇所とも違ってもその後に合わられるアーミーアントの増援により新たな巣の位置を割り出す事が出来、それを少数に分けたグループが潰して回るそういう作戦なのだと説明した。


 短期決戦に加え、個々の能力に依存する作戦ではあるが、高確率で巣を割り出し潰していける作戦もあって、反対意見と賛成意見が入り乱れた。


 最終的にこの場にいる者たちでは決まらなかったために、皆の意見を取り言えると言う事になる。その結果、レオンハルトの考案した作戦がリスクはあるものの高確率な成功と早期解決と言う点で採用された。


 巣に襲撃をする三つの部隊の一つをシャルロットが先導。残りの二つは増援できたダニーとカスパルの仲間で、斥候として優秀な冒険者がそれぞれのリーダーとして選ばれた。四人一組のグループで、シャルロットのグループにはリーゼロッテを配置。残りの二人は、荷物持ちとして参加していた冒険者と増援で来た冒険者の構成だ。


 そして、最も危険な囮役にレオンハルトやダーヴィト、エッダ、ノーマン、カスパルなどの主要メンバーにノーマンの仲間やカスパルの仲間、増援出来た冒険者たちで立ち向かう事になる。どれだけ全力で戦い生き残るかそれこそがこの作戦の要でもあるのだから。


 どうするのかが決まれば、そこからは色々な事が決まる。どこの場所へ誰が向かうか、何処で大々的に誘き寄せるか、守りや配置、時刻などとんとん拍子に決まり、その結果作戦決行は明後日の明朝と言う事になった。


 明日は、英気を養うための時間・・・・・ではなく、戦場の場所に罠を仕掛けたり、仮の拠点を作ったりしなければならない。


 魔装武器へ魔力供給をしたり、武器の手入れや薬草、水薬(ポーション)の準備、巣を破壊するための毒作りなども行わなくてはならない為、その日の夜から寝る魔も惜しまず作業に没頭する事になった。










 それから二日後。


 遂に決戦の日。


 まだ、太陽が昇る前の薄暗い空の元にアーミーアント討伐の為集められた冒険者が一同に準備を済まし、今回のまとめ役の話を聞くために集まっていた。


「皆よく聞いてくれ。今日はこの依頼の中で最も危険な一日となるであろう。そして、最も長い一日にもなるはずだ。だが、これを・・・・これを乗り切れば、此処にいるお前らは確実に強くなっているだろう。そして、教えてやれ誰がこの街を守ったのかをっ!!」


 ノーマンの掛け声で皆の士気が一気に高まる。


 低ランク相対する魔物であるアーミーアントだが、集団戦になればそれこそ並みの冒険者でも手を出さない。そして、その集団に挑もうとするのだから皆も生き残ろうと気が高まる。


「では、作戦開始だっ!!」


 合図と共に十二人は巣があると思われる三箇所へ向けて森の中へ消える。


 『周囲探索(エリアサーチ)』で皆の動きと魔物の位置を把握しつつ、ある程度離れた事を知ると魔法の袋からアーミーアントの死骸を取り出す。死臭が出るかは分からないが、近くに居るアーミーアント程度ならこの臭いを感知してくれるだろう。と言うよりはしてもらわなくては困るのだが、そこは賭けだ。もしだめなら、森の中を探して倒すのみだ。


 だが、その心配は必要ないようで、『周囲探索(エリアサーチ)』によれば、アーミーアントが数十匹此方へ向かって進み始めた。


「どうやら、餌に食いついたようだ。皆戦闘態勢を取ってくれ」


 レオンハルトが前線へと歩みを進めると、敵が向かっていると判断したノーマンが皆へ警戒を促す。


 彼一人が先陣を歩むのには理由があり、彼の魔法で最初の群れを一網打尽にして、その死臭を広範囲に撒き散らす必要があったからだ。臭いを撒き散らす即ち風属性魔法によってその匂いを広げるのに他の冒険者たちが最前線にいたら魔法の餌食になってしまうためである。


 まあ、魔法を使う時に下がってもらえば問題ないのだが、そこはあえて誰も突っ込まなかった。


 暫くして、森の奥から葉を踏みつける音とアーミーアントのまるで歯ぎしりでもしているかのような鳴き声が聞こえ始めた。


 姿を見せた瞬間、レオンハルトは強化された脚力で一気に間合いを詰め寄り視認するのが難しい速さの斬撃を幾重にも繰り出し、アーミーアントを襲った。傍から見れば、いつの間にかレオンハルトがアーミーアントの傍に出現し、何をしたのか分からないがその場にいたアーミーアントすべて頭部がなくなっており地面に転がっている状態だった。


 そして、その死骸を掴み巣があると思われる方向に向けて投げた。


 レオンハルトが切り捨てた時の死臭か、投げ込んだ時の死臭かわからないが、暫くすると森の奥から何十何百と言う気配と行進してくる足音が聞こえ始める。


 一方向にしか死骸を投げ込んでいないが、その臭いは他の二方向にも伝わったのであろう。気配と足音は三方向から聞こえ始める。


「敵の数、六十・・・・七十・・・・百尚増加中」


 『周囲探索(エリアサーチ)』を使用できる冒険者が、皆へ分かるように大声でその数を伝える。数が増していく毎に表情は硬くなるが、そこへカスパルから激励が飛ぶ。


 その事で、一時的に士気が下がりかけた冒険者たちは気合を入れなおし、戦闘態勢を取り直した。


 足音が鳴き声など様々な音がもう間もなく目視できると感じるほど近くなると、木々の隙間から大量のアーミーアントが押し寄せてきた。


「戦闘開始――――っ!!」


 先日の夜戦に続く蟻の軍団との第二幕が始まった。


 まずは、仕掛けた罠がアーミーアントを襲う。基本は落とし穴だ。穴の中はここら一体を更地にしたときに出た木を杭にし、穴の中に敷き詰める。落とし穴に引っ掛かれば杭によって串刺しになる。初歩的だが、非常に効果的な罠の一つだ。


 その他にも丸太を振り子のように襲う物や積み上げた木材が魔物に向かって崩れる様なそんな罠も発動する。


 しかし、罠で倒せるのは僅かでしかない。群れで襲って来る殆どをそれぞれが対応しなくてはならず、戦力的にも不利な事には変わりはしないだろう。ただし、事前に準備をしていなければの話だ。


 準備中罠だけでなく、残った木材で一夜城ならぬ一日要塞を作っていたのだ。丸太で作った二枚の壁、その外側には罠で倒し切れなかったアーミーアントが迫ってくる。壁と言っても簡易的な物でしかない為、五十や百程度ならある程度耐えれると思うが、それよりも上回る物量で攻められると壁は機能しなくなる。


 布陣としては、一枚目の外で全力のレオンハルト、ノーマン、カスパルが敵を減らす。一枚目の三箇所に入口を設け侵入してくる魔物の数を減らし、一枚目と二枚目の間が他の冒険者の戦場となり、二枚目の内側が一日要塞となり、休息や補充、怪我人の治療等を行うようにしている。


 ただし、最前線の三人は数が増えすぎて捌き切れなくなったら、他の冒険者たちが戦っている壁の内側へ撤退し、そこで戦うようにしている。これは、最初のうちは一枚目の壁の外でも対応できるだろうが、アーミーアントは倒せば倒すだけ数が増えてくる魔物だ。幾ら(ディー)ランクの二人でも低ランクの魔物の物量には押されてしまうからだ。それは、レオンハルトも同様である。実力が高くてもそれを捌き切れなくなる可能性は大いにあるのだ。


 ノーマンとカスパルは壁の近くに作った簡易的な見張り塔から一気に下へ飛び降りる。他の者たちもそれに続く様に降りていた。


 見張り塔に残った冒険者は、その場で魔法の詠唱を始める。


 火属性魔法や風属性魔法などの初級魔法が飛び交う中、レオンハルトたち三人も戦闘を開始した。


 魔法による身体能力を向上させる『身体強化(フィジカルアップ)』と見えない鎧で受けた攻撃を緩和する『魔法鎧(マジックアーマー)』、武器に付与する風属性付与の魔法『幻飄装填(ミストラルチャージ)』、その他に補助魔法として、『集中力増幅(フォーカスブースト)』『高感覚(ハイセンス)』『俊敏力向上(ヘイスト)』を掛ける。


 マウントゴリラ戦の際に攻撃主体の魔法をメインに考えていたが、自身の力を底上げする補助系の魔法にも少し力を入れていたのだ。


 出来るだけ魔法は目立つため使わないようにしていたが、こういう補助魔法はある意味使い勝手が良かった。


 魔物の大群の中へ突撃すると、次々にアーミーアントを斬捨てる。


 傍から見れば何が起こっているのか分からない程の勢いで次々に刀を振るう。切り上げたと思えばその勢いのまま逆サイドへ振り下ろし、気が付けばその刀は無数の軌跡を残しながら迫り来る敵を斬りつけていた。


 体術、剣術、移動術、暗殺術、縦横無尽に動き回るアクロバティックな動き、そして魔法。


 今の彼はそれらを駆使して戦っているため、その周囲はアーミーアントの屍で覆いつくされていた。


 囮組が戦闘を開始して間もなくした頃。


「レオンくん大丈夫かな?」


 先頭を走りながら、後方で戦っているレオンハルトの事を心配するシャルロット。あの中では誰よりも強く誰よりも頼りになる存在なのは理解していても、心配な事に変わりはない。


 それ知っているリーゼロッテは、シャルロットを安心させるように声をかけ、作戦に集中するように伝えてきた。


 シャルロット率いるメンバーは、リーゼロッテと剣を使う男の冒険者に駆け出しと分かるような装備の少年、彼は魔法が使えると言う事低いランクながら今回荷物持ちとして依頼に参加していた。まあ魔法はシャルロットもリーゼロッテも使えるし、彼よりも魔力量や熟練度もかなり差があるため、本当に何のためにいるのか分からない。


 それは、当の本人が一番わかっているだろう。


 一応『周囲探索(エリアサーチ)』が使えるようだが、範囲はシャルロットの範囲の二割にも満たない。襲撃前の時は彼にも『周囲探索(エリアサーチ)』をお願いしていたようだが、今は完全にシャルロットが担当している。


「もう少ししたら巣の近くに出るわ」


 すでにアーミーアントの巣の一つを射程内に捕らえており、その事を皆へ伝える。


 これまでなら、巣から出てくる前に毒を使って巣を破壊していたが、今は誘き出すために巣からそれなりの数が出たのだろう。巣の周りにも十数匹巣を守るように待機していた。


 尽かさず二本の矢を取り出し、そのうちの一本に今回の作戦の秘密兵器を結びつける。そして、それを付けた矢を巣の近くにある木の枝目掛けて射抜いた。間髪入れずもう一本も少し軌道を変えて射抜く。


 一本目の矢が木の枝に刺さると、秘密兵器が振り子のように揺れる。その括りつけている糸を二本目で射抜き、秘密兵器を巣の中へ落下する。


 振り子のタイミングを完璧に計算し、絶妙なタイミングで射抜かなければ成功しないような事をさらりとやってのけるシャルロットに同伴した二人が、大いに驚く。


 秘密兵器と称されたそれが巣に入ると白い煙を噴出し始め、外にいたアーミーアントたちは慌てて巣の中へ戻っていく。


 そして次々とアーミーアントたちは意識を失い死んだように地面に倒れた。


 今回使用した秘密兵器は、単純に強力かつ即効性の高い眠り玉だ。白い煙を吸い込めば忽ち死んだ様に寝てしまう程強力な魔法だが、どうして毒ではなく眠り玉なのか。


 単純に毒の時と違い巣に近寄れない。しかも、巣の周りを倒してしまえば、その死臭から仲間を呼ばれ、レオンハルトたちの囮も無意味にさせてしまうので、殺さず無力化させる必要があったのだ。


 巣の周囲と巣の中のアーミーアントたちが眠り玉の効果により深い眠りにつく、尽かさず今度は毒を取り出し巣の中を毒でいっぱいにする。深い眠りから永遠の眠りへ誘う。


 女王蟻(クイーンアント)がいるかの確認を行い、居ない事が分かれば次の巣へと向かう。アーミーアントの死骸の回収は後回しだ。急いで回収しようとしてもどのみち眠り玉の効果があるため近寄れない。


 アーミーアントの巣を破壊した場合、それを皆に知らせるためにこれもまたレオンハルトが開発した道具で、見た目は少し大きめのロケット花火の様な形をしている。導火線に火を付ければ、音は出ないが代わりに黄色の煙を噴射させながら上空へ打ちあがる代物だ。色は単純に見分けがつきやすいように染め物とかに使われる特殊な粉を更に細かな粉末状にしたものを混ぜて作ってあるだけで、アーミーアントの巣を破壊した時は黄色の煙を女王蟻(クイーンアント)がいる巣を壊した時は赤色の煙が出るものを持たしていた。


 黄色い煙が上空へ上るのを確認して、次の行動をする。


 他でも既に巣を破壊したのであろう。自分たちが打ち上げたすぐ後に二つ煙が上がった。


「他の所も順調に破壊できているようだな」


「そうみたいですね。けど、目標は未だに発見できていないみたい」


 冒険者の男とシャルロットは、移動しながら会話しリーゼロッテもその会話に加わる。魔法使いの少年は、周囲の環境に怖気づいておりそれどころではないと言った雰囲気を出していた。


 何せ、目の前にはレオンハルトたち囮組の方へ進軍する。アーミーアントの群れを遠目に発見したからだ。そこから向かってきた方角へ移動を始める。










 戦闘が続いて彼此二刻近く経過している。囮組の被害は、夜戦の時に比べ混乱することなく対処していて軽症者や重傷者はいる者の死者は今の所三人だけという状態だ。


 ノーマンとカスパルは、戦闘が始まって暫くすると皆と合流して戦闘を再開。壁の外で戦っていたのはレオンハルトのみで、戦闘が始まってから他の事を気にする余裕がない者は、中で戦っているか既に死んでいるかぐらいにしか思っていなかっただろう。しかし、レオンハルトは今も一人で壁の外で戦っていた。


 一振りで二、三匹を屠るかのような立ち振る舞い。普通の冒険者が一匹倒す間に数十匹を倒す速さで戦場を暴れまわっていた。


(ん?あれは、これで八つの巣が破壊できたわけか。そろそろ何処かのグループが女王蟻(クイーンアント)を見つけてもいいはずだ)


 黄色い煙が上空へ伸びているのを確認したレオンハルトは、そんな事を考えながら戦闘を繰り返す。


 魔法も織り交ぜながら戦闘をしているためまだ余裕がある上に以前に比べて確実に強くなっていると認識できるほど体力や魔力量が上がっていた。それはレオンハルト本人が一番驚いている事でもあった。


(これだけの戦闘に身体がついていっている?マウントゴリラの時より遥かに強くなっているな)


 そしてその頃。


「くそっ!!武器が使い物にならね。悪いが一度引くそれまで持ちこたえろよっ!!」


 ノーマンは愛用する槍斧(ハルバード)が壊れてしまい。一旦戻って違う武器を取りに行く。とはいっても武器は腰に付けた戦鎚(ウォーハンマー)にする予定だが、それとは別にリーチが短い分、盾か何かを使用しようかと考え取りに行ったのと、少し水分補給等をしに戻ったのだ。これまでの戦いで皆何度か怪我の治療や補給、小休憩などに戻って来ているのだ。


 中に入ると戦えない冒険者たちが慌ただしく動いている。戦えないと言っても魔法が使える者や弓で戦う者たちだ。魔力が低下すると意識を保つのが難しくなるだけでなく、最悪魔力欠乏症で気を失ってしまう。そうなる手前で、休みながら怪我の治療や飲食の提供をしていたのだ。


 荷物持ちで参加していた少年が、水をコップに入れて持ってくる。


 激しい戦いで、汗だくになっていたノーマンも水を一気飲みすると少し疲れが取れた様な表情を示す。


「ありがとう。戦況はどうだ?」


 戦いに夢中で、今どういう状況なのか把握できていなかったと、少年に尋ねる。


「はい、今の所八つの巣を破壊。でも全部黄色なので・・・・。ですが、壁の向こうで戦っているレオンハルトさんのおかげで、皆さんが安全に戦えています」


 黄色かと嘆きそうになっていたノーマンだったが、少年の次の言葉で我に返る。


 レオンハルトが未だに生きていて、壁の外で戦っているそんな情報を聞き、耳を疑った。(ディー)ランクである自分たちでも四半刻も持ちこたえれなかったのに、それを既に二刻以上一人で戦っていたと言うのだ。しかも数は此方の倍以上下手すれば数十倍近くの差があるはずだ。


 一体どれ程の力を秘めているのだろう。依頼の時は精々腕の立つ奴程度と判断し、夜戦では完全に自分たちと同格の力の持ち主、今は俺たちよりも上の実力を持っていると認識する。


(恐らく(シー)ランク以上の力があるのか)


 (ディー)ランクから(シー)ランクに上がる壁はかなり高いと言われており、ノーマンたち長年冒険者として活動し、それなりに信頼なども手にしていてもなるのが難しいぐらいだ。


 何しろ、同ランクの冒険者二十人以上を一度に相手にして無傷で倒すとか、数百の魔物の討伐を行うなどかなり条件が厳しいのだ。なので、一般的なランクで良いのであれば(ランク)もあれば上等だ。それ以上を目指すとなるとかなり厳しい訓練をするとか、魔装武器の様な物を幾つも所持する他ならない。


 自分の三分の一も生きていない、それも未成年の子供に此処まで力の差を感じるとそれはそれで、こっちも頑張らなければいけないと思うようになり、もう少し休むつもりだったが、幾つかの水薬(ポーション)を補充し、予備の盾を装着して外へ出る。


「まだ外でレオンハルトが一人奮闘している。俺たちもまだまだやれるはずだーッ!!気合を入れなおせ!!」


 激励を行い、一番近くに居たアーミーアントの一体を戦鎚(ウォーハンマー)で殴りつける。一度では倒せなかったようで、ふら付きながら後退するアーミーアントへもう一度強く殴りつけた。倒したのを確認する間もなく別の個体が襲い掛かってきたために盾でその攻撃を防ぎ、魔装武器の力を使う。


「目覚めろッ!!」


 夜戦の時同様、迸る電撃を纏った戦鎚(ウォーハンマー)を地面ではなくそのまま相手に叩きつけた。アーミーアントも一瞬その武器を見たが、次の瞬間には電撃により感電してしまった。


 重たい一撃によるスタン状態と電撃による一時的な麻痺で動けなくなってしまったアーミーアントを別の冒険者が尽かさず剣の刃をアーミーアントの首関節へと突き刺した。


「俺が動けなくしていくから、すぐに止めを刺せ」


 ノーマンは次々とアーミーアントを感電させ、そこを他の冒険者が止めを刺して回った。


 一方、ダーヴィトとエッダはと言うと、此方は此方で苦戦していた。


「あぶねぇー『シールドブーメラン』」


 ダーヴィトは自身が装着する円形の盾を遠心力の力を借りて他の冒険者を襲おうとするアーミーアント目掛けて投げた。回転しながら飛ぶ円形の盾は吸い込まれるようにアーミーアントの頭部に直撃、そのまま吹き飛ばした。盾の方は衝突の衝撃で上空に跳ね飛ばされ、落下地点まで向かい落とすことなく掴むと襲ってきたアーミーアント目掛けてそのまま攻撃を行う。


 盾とは何だと聞きたくなるような戦い方だが、それが彼のレーヴェン流盾術の戦術なのだ。盾を攻撃と防御の両方を熟し、盾を手放している際は体術で敵を組み伏す。


 同時にそんな彼の背中を守るようにエッダが槍の魔装武器で敵を凍らせていく。


 完全に凍らせるのには時間がかかり魔石の魔力も相当使うが、攻撃した箇所が凍る程度ならそこまで消費がなく、一部でも凍れば動きがかなり鈍くなる。今度はそこをダーヴィトの盾やら体術で倒すという連携を取っている。流石に(ディー)ランクのノーマンやカスパルのように倒すスピードはないにしろ。参加している同じ(ジー)ランクの中では上位の強さを誇っているため、そこそこの敵を倒してきていた。


「くっ。一体いくらいるの?そろそろ魔石の魔力が心許ないんだけど・・・・」


「さあな。でも、森の奥から黄色い煙が何回か上がっていたから、巣は減っているはずだ。時期に減るんじゃないか?」


 戦いながら会話をする二人。すると・・・。


「血の臭いに釣られて他の魔物も現れたぞっ!!」


 冒険者の一人が他の皆に注意を促す。血の臭いで魔物が増える事はよくあるが、これまで此処にアーミーアント以外の魔物は現れていなかった。それが、突如として表れ始めたんのだ。


 アーミーアントの相手だけでもいっぱいいっぱいの中で他の魔物も相手にしなくてはいけないとなるとかなり骨が折れる。


 現れた魔物は、ゴブリンやバンタムオーク、ヴェロキレイオスなどこれまで遭遇してきた種類ばかりで、魔物以外にもツインテールウルフやボアなどの肉食系の獣も参戦してきていた。


 他の魔物が現れたのは、外にいるアーミーアントの数がそれなりに少なくなったことに原因があったが、中にいる者たちからすれば、中の数が減っていないのに別の魔物を相手にしなくてはならない為、少し混乱仕掛けるのであった。


「これでも()らえ『スマッシュ』」


 片手斧で戦う冒険者が強烈な一撃をヴェロキレイオスに向かって振り下ろすが、俊敏なヴェロキレイオスはそれを簡単に避けてしまい。技名を叫んで攻撃した冒険者の片手斧は空気を切り裂いただけでそのまま地面にめり込んでしまった。


 武器が抜けなくなってしまい冒険者が慌てて引き抜こうとしたが、その行動は大きな隙を作ってしまう。


 背中ががら空きだと判断したのかツインテールウルフがその背中目掛けて襲い掛かる。


「剣技『四爪裂光(しそうれっこう)


 大剣を持つカスパルが、一瞬で四度斬り付ける技を使いツインテールウルフを五分割する。完全なるオーバーキルだが、そんな判断をしている余裕はない。


「油断するな!!次は助けてやれんぞ!!」


 仲間を助けた後はそのまま別の場所へと向かう。その直ぐ傍でも激しい戦闘が続いていたからだ。


「ぐぁはっ!!・・・・ハアハア・・・・・くそったれが、いてーじゃねか。この虫野郎おおお――――ッ」


 アーミーアントの噛みつく攻撃で、ヴェロキレイオスが片足を切断、重心を支えられなくなり、男の冒険者の方へ倒れてきたのだ。致命傷とまでは行かないもののその重量で圧し掛かられたため、足を痛めてしまう。 


 足を痛めても尚、持っていた武器、モーニングスター・・・いや金砕棒とも言うべき武器を握りしめ足元で暴れているヴェロキレイオスに渾身の一撃を入れる。


「くたばれーー」


 血まみれの金砕棒を今度はアーミーアント目掛けて振り下ろすもそこは向こうの方が上手だったようで、難なく回避される。しかし、回避した先にいた冒険者によって首を跳ね飛ばされて絶命した。


「おいっ!!大丈夫か?お前は一度戻って治療してもらえ」


 足の痛めている個所を見ながらそう声をかける。治癒魔法や応急処置など得意ではないその冒険者から見ても分かるほど、その足は痛々しい事になっていた。それもそのはずだ。此処に診断できる程の者が居れば間違えなく骨折と診断したであろう。


 その男もこの足では戦えない事は理解しているが、状況がそれを許さない。既に二人の周囲には多くの魔物が存在していた。


「エッダッ!!」


「凍てつけ『(アイス)きし氷柱(ブレイクニードル)』」


 彼女の持つ魔装武器の能力により氷の槍と表現できるような氷柱が地面から突き出てくる。氷柱だけではなくその一帯の地面も凍らせた為、氷柱を免れた魔物は足を氷で囚われてしまい。身動きが取れなくなってしまう。


 本来は人間にもその効果が及ぶのだが、今回人間のいない場所に向かって使ったため魔物だけが、その効果を受けてしまった。動けないのを確認すると他の冒険者たちが、その魔物を倒しに向かう。命のやり取りをしている場面だと言うのに何人かの冒険者は、凍った地面を滑って思いっきりこけていたのは、何とも言えない場面ではあった。


「さっさとくたばれーーー『バスタースラッシュ』」


「ええい、うっとおしい『スマッシュ』」


「『デュアルショット』」


 冒険者は各々の技を繰り出し倒しているが、大声と威勢だけではどうにもならず、命中精度はかなり悪い。疲労の蓄積で威力は半減している上に士気も低下していた。


 そんな時、彼らにとっては嬉しい赤色の煙が上空に撃ちあがったのだ。

急ピッチで書き上げたので、なんだか言い回しが変な気がする主です。

今年も残り僅かですね。次回予告・・・・していいのかわからないけど、クリスマスに関連したお話にするつもりです。よければ続きを読んでいただけると幸いです。

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