165 盗賊狩り
おはよう。こんにちは。こんばんは。
本日も頑張って投稿いたしました。
後書きに私事の報告を記載しております。
あれか・・・ちッ
外道が――――ッ!!
空中で居合の構えを取る。本来であれば足場がない為、空中での抜刀術など行う事は無いが、神明紅焔流居合抜刀術奥義漆ノ型『宮毘羅』は、足場のない空中で繰り出す技、自身の身体を捻り回転する事で、居合斬りの威力を高める高難易度の技術が必要になる技でもある。前世でも使える者は数人いたが、好んで使おうとする者は殆どいなかった。その理由は、非常に使う場面を選ぶと言う事と、技の命中力の問題である。一回転であれば外す事は無いが、回転数を上げると威力は高くなる半面、命中率が悪くなるのだ。
剣術『螺旋神楽』に似ているが、此方は抜刀してから回転し、回転に合わせて斬撃が行える。『宮毘羅』は最後に抜刀するため、その練度の高さが大きく異なる。後、空中での技なのか、そうでないのかも違いがあるが・・・。
それはさておき、レオンハルトは空中で二回転してからの奥義漆ノ型『宮毘羅』を抜き放った。
二回転程度では命中率はそこまで下がる事は無い。
抜き放たれた技は、馬乗りになっている者とその背後で如何わしい事を行おうとしている者の首を一閃する。
何の反応も出来ないまま二人は、身体と頭部が綺麗に分かれ、そのまま絶命する。
レオンハルトは着地前に二つの遺体を蹴り飛ばし、呆けている盗賊にぶつける。
「な・・・何者だッ!?」
「良くもディップの兄貴を・・・」
盗賊の言っている事に耳を貸すつもりはないレオンハルト。魔法の袋から毛布の様な大きな布をメラニーに被せた後に立ちあがらせる。
「怪我はしていないか?助けが遅くなって、すまない」
メラニーを自身の背後に隠してから謝罪する。先程までは恐怖と絶望の顔をしていたが、今は・・・ぐちゃぐちゃになった顔や異性に見せるにはかなり不味い姿を晒してしまった恥ずかしさで、顔が真っ赤になっている。
「貴様ッ!?聞いているのか?こっちには、まだ人質が要るんだ・・・ぞ?」
盗賊の手先だった冒険者の一人が、話をしている最中に突然その場から消えた。
「ぎゃあああああ」
消えたと思ったら、後方の木の所に居た。彼の右鎖骨辺りにレオンハルトの愛刀が、突き刺さりそのまま木にも突き刺さっている。宙に浮いた状態の為、自分の重みで傷口に負荷がかかり常時激痛を与える。刃の部分を上にしてしまうと自身の体重で傷口が開き、最後には鎖骨辺りから上に向かって切り裂いてしまう。そのため、刃は下向きの状態になっていた。本来であれば自身の体重だけでは骨を切断できないので、一定の所まで行くと止まる可能性があるが、レオンハルトの愛刀はかなり切れ味が良いので、骨も切ってしまう可能性があった。
そして何故このような事になったのかと言うと、単純にレオンハルトが愛刀を冒険者の右肩あたりを狙って投げただけだ。その動きが早くて盗賊や冒険者たちが認識できなかっただけの事。
叫び声につられて、もう一人の冒険者ディンゴと呼ばれていた冒険者が視線をレオンハルトから背けた瞬間、レオンハルトはディンゴの懐に入り、神明紅焔流体術『螺旋掌』を鳩尾に食らわせる。
「ぐはッ!?」
彼もまた、後方に吹き飛ばされ木に衝突してから地面に横たわる。
ヒット&アウェイで、人質になっていたエルネスタとヘルミーナを回収し、メラニーの所に抱えて移動してきた。二人にもメラニー同様に布を被せて、裸体を隠す。二人もかなり不味い状態だったのだ。
「さて、三人ともこの場を動かないでね」
レオンハルトは、そう言うと彼女たちを聖魔法の結界で守護する。
さてと、目で確認できる人数は八人・・・九人か。姿が見えないけど、気配はある者もいるな。魔法での感知は四人だけ、となると魔道具を使っていると考えて動く必要があるか。
「貴様ッ!?」
盗賊の一人が、粗末な槍で突撃してくる。
殺すべきか・・・生かすべきか・・・。本当は殺すべきだろうが、情報を聞き出す必要もあるし、反省もしてもらう必要があるかな。彼女たちの様に絶望を味わってもらうか。
攻撃を軽く躱し、槍と持っていた両腕をへし折る。痛みに耐えかねた盗賊は、槍を落としかけるので拾って、そのまま大腿部を突き刺した。叫びながら地面に転がると別の盗賊二人が襲い掛かってきた。
連携もなにもあったものではない。
手早く一人目の右膝に蹴りを入れ折ると、二人目の攻撃を受け流してその攻撃の軌道が一人目の肩のあたりを切り裂く。
慌てて手斧を抜くが、両肩、脇腹、腹部と連続で拳による打撃を与える。それを皮切りに次々盗賊たちが襲い掛かって来るが、最初の二人以外は死んではいないが、死ぬほど痛い経験を与えて、中には痛みのあまり気を失った者も出た。
まあ、途中から腕や足を切断したり、四肢の殆どの骨を砕いたりした。
「こ、こいつ化け物だッ!!に、にげろー」
残っていた盗賊たちは、蜘蛛の子を散らす様に逃走を始める。
「誰一人逃がすなッ」
レオンハルトの一言で、三人の者が盗賊たちの行く手を阻む。
「退けぇー女ッ!?」
盗賊の一人が現れた人物に剣を向ける。
「身の程を知れ」
突撃したはずの盗賊は、突然地面に倒れ込む。目の前にいたはずの人物は何時の間にかその場におらず、カチャリと言う音がさっきまでいた場所から聞こえる。
シュラ族の一人、フィルが持つ片刃直剣ですれ違いざまに盗賊の両端を切断しただけの事。あまりの早業に盗賊は認識できなかったのだ。まあ、全力の二割も出していないレオンハルトの動きすら全く見えていないのだ。シュラ族の攻撃も認識しろと言う方が難しい。
因みにフィルの武器は片刃直剣であるが、通常の物とは少々異なる形状をしている。両刃の剣を半分にした様な形状を片刃直剣の本来の形だが、フィルのそれは本来とは逆の形状をしている。イメージ的に言うならばカッターナイフを大きくして細くした感じだろうか。
両足が切断された事に漸く気が付いた盗賊は、叫びながらそれでも逃げようとする。
そんな彼に突如、上空から飛来した矢に心臓を撃ち抜かれて絶命した。
「ゼクス。なぜ殺すの?主様から殺しの指示は受けていないと思うけど?」
フィルが視線を向ける先にフィル同様に現れたガラの悪そうな白色短髪の男が立っていた。彼の足元には、二人の盗賊の死体が転がっている。
「ああん?主は生かせとも言っていなかったぜ?だから殺した悪いのかよ?」
レオンハルトに仕えるシュラ族の中でも一番の問題児のゼクス。殺しや暗殺を好む扱いにくい人物だ。
「何を言い争っているの?フィル、ゼクス」
フィルとゼクスよりも立場が上のドライ。最初に仕えた五人が今のシュラ族のまとめ役と言うかリーダー的ポジションにいる。そんな彼女は、ゼクス同様に二人の盗賊を倒していた。
「ゼクス。主様は『逃がすな』と言ったのよ?それは、捕まえて情報を得るためなのに・・・貴方は・・・」
ドライの視線は死んだ盗賊たちに向けられている。そして、殺意を込めてゼクスを睨みつける。
「主様の指示に従えないのであれば、この場で貴方も狩られる側に回ってもらうけど」
ゼクスだけでなくフィルもドライの威圧に平伏しそうになった。
「わ、悪かった・・・次から気を付ける」
「ああ、そうしてくれ。ドライ、こいつらと生きている者を一ヶ所に集めておいてくれ」
そう言うと、レオンハルトはドライたちが無力化した者とは別口で逃げようとした二人を引き渡す。
この二人も盗賊の一味であったが、不可視の指輪で姿を隠していた者たちだ。エルネスタたちを襲った時は別行動そしており、逃げて再度と捕まえたあたりで合流していた。ただ、合流していても姿を見せる前にレオンハルトが奇襲し、そのまま息を潜めチャンスがあれば逃亡しようとしていたのだが、レオンハルトに見つけられ、そのまま気絶させられたのだ。
それと、もう一人、此方を監視している者がいるが・・・・。
「主、我らを監視する者がいますが、そいつはどうします?」
「ゼクス。そっちは気にしなくても良い。・・・ほら」
そう言って空に指さすと、ゼクスも其方に視線を向ける。そこには、一瞬でしか捉える事が出来なかったが、五本の矢が飛んで行っていた。
宿場町にいるシャルロットからの遠距離攻撃。
宿場町から監視者がいる場所までの距離を考えると、とても矢で届く距離ではないが、それを可能にさせるだけの腕前と魔法。
フィルにシャルロットが無力化した盗賊の捕縛を命じ、その間にドライとゼクスは先程指示された案件を済ませるために動く。レオンハルトも木に固定している冒険者の所に行って自身の武器の回収を行った。冒険者は、血を多く流し過ぎたのか、感覚が麻痺してきたのか、かなり大人しくなっていた。
また騒がれても面倒なので、意識だけを奪ってその場に転がしておく。あとでドライたちが一箇所に集めてくれるだろう。
武器を回収した後にエルネスタたちの所へ行き、結界の解除をする。未だに怯えている様子だったため、落ち着かせる魔法を掛けて一通り事情を聞く。ついでに怪我などを治療しておいた。
「フィル、戻った所すまないが彼女たちを宿場町まで送ってくれ、シャルに引き渡したらそのまま宿場町で待機だ」
「ハッ」
一言だけ言うと彼女はエルネスタたちを連れて宿場町へ向かった。出発する時に此方に何度もお辞儀をしていたので、戦闘時に纏っていた雰囲気を解いて手を振り、見えなくなると再び険しい空気を作り出す。
生きている者たちを死なない程度に治癒し、全員の口を布で縛る。情報を話さない手段として暗殺者は口の中に速効性の猛毒を仕込み自害する可能性もある。こいつらがそう言う手段をとるとは思えないが・・・。念のためにしておいた。後、ギャーギャー騒がれても目障りだし。
そのうちの一人の布を緩めさせて会話をする。
「ふん、俺たちは何も話はしないぜ」
「あっそう。じゃあ用はないな」
そう言うと、懐から短剣を取り出して、そいつの口を塞ぎ、短剣を大腿部に突き刺した。
「ん―――――――っ!?」
それだけではない。突き刺した短剣をそのまま上下左右へ動かし、激痛を味合わせる。
「ん―――ん―――――――ッ。ん――――っ!?」
口を塞いでいたのを解放する。すると、痛みによる叫びしか上げないので、短剣を抜いてそのまま顎から頭頂部目掛けて突き刺した。盗賊はそのまま絶命したが、身体は大きく痙攣していた。
「殺すつもりはなかったけど、つい騒がしかったからな。仕方がない別の奴から丁寧に聞いてみるか」
レオンハルトの一言で、盗賊たちや冒険者たちは一気に青褪める。
話さなければ、拷問して殺すと脅されている様なもの。生きていればまだ如何にかできるかもしれないが、殺された仲間の様な死に方は、誰も経験したくない。
「お前で良いか?」
適当に選んだ人物の布を先程の様に外す。
「聞かれた事に答えたら逃がしてくれねぇか?頼む、おれ・・・まだ死にだぐない」
大の大人が命乞いで泣くか?と思ったが、先程の事や彼の状態を見て恐怖に負けてしまったのだろう。彼は既に両腕を折られて、左足も膝から下が失われている。
「まあ、嘘でなかったら、生かしておいてやる。但し、自由には出来ない。王都の兵士に引き渡しをさせてもらうがな」
あんな殺され方をされるよりはましだと言って、レオンハルトの質問に答える。一人が答えてしまえば他の人物も自ずと話始めた。全員布で口を塞がれているのにどうやってと思うだろうが、話し始めた人物の隣の奴が、「ん―――ん―――」と言ってきたので、「お前も何か言いたい事があるのか?」と言う問いに頷いたから布を外す。そして、構成人数や強さ等色々な情報を聞き出せた。後は芋蔓式に同じように答えてくれたと言うわけだ。
アジトの場所を聞いてすぐに、ドライに偵察に出てもらった。
「魔道具商を襲ったのは何故だ?」
「獲物の選定は、主に其処に居るディンゴとザラキが言っていたんだよ。俺たちは選定された獲物を待ち構えるだけさ」
冒険者として活動をしていた盗賊の仲間の二人に視線を向ける。
「俺たちもお頭から金目の物を馬車で運ぶ商人の護衛依頼を受ける様に言われていただけだ。今回は偶々、遺跡から大量に出土された魔道具の運搬の護衛依頼があっただけだから受けただけだ」
跡から出土する魔道具は、一般の魔道具よりも高値が付く上に貴重な物が多い。それを専属冒険者ではなく依頼から集めた実力も余りない様な冒険者に依頼する内容ではない。
「俺たちは、第三陣だからだろうさ。専属の冒険者たちが全員で払っていたから、臨時で募集があった。出費を抑えたくて低ランクの依頼にしたんじゃねぇか?」
なるほど・・・・確かにその可能性は考えられる。それに話によれば昨日、第一陣が荷卸しをしてから再び戻っている所を遭遇し、問題なかったからそのまま交代せずに王都に運ぶ事になったそうだ。
その冒険者たちもそうなる事は分かっていた様子だったので、気が緩む瞬間に盗賊たちに襲われる段取りをつけ、実行したと言う事らしい。
依頼内容とランクが合っていない点は、冒険者ギルドにも落ち度がありそうだったので、これは王都に戻ってから報告する必要があると考えた。
そうしていうと、偵察に出ていたドライが戻って来る。
「この者たちの情報に偽りはありませんでした。それと、アジトに幽閉されている者は確認できませんでしたが、見張りの会話から二人以上はいると判断できます」
幽閉されている者の情報も盗賊から教えてもらった情報だ。かなり良い情報の場合は、その対価として骨折や傷などの治癒をしてあげた。真実だった場合は、欠損も治すと約束している。その為に、斬り飛ばした手足は、魔法の袋に収納していた。
「ドライ、ゼクス。敵アジトに向かうぞ」
「ま、まってくれ。俺たちはどうしたら、こんな所に放置されたら魔物に襲われてしまう」
正直、魔物に襲われて命を落としても良いかなと一瞬考えたが、他にも使い道はあるかもしれないし、盗賊も奴隷商で犯罪奴隷として買い取ってもらえる。微々たる額だが、それでもそのお金で、被害にあった人の補填に当てる事も出来るだろうと考え、土属性魔法で頑丈な檻を作った。
「これなら魔物に襲われる事は無いと思うが、隙間から入って来る様な虫や酸とか毒の攻撃は気を付けた方が良い。そんな敵が現れたら運が無かったと思ってくれ」
そう言ってレオンハルトたちはその場を立ち去る。残された盗賊たちは、絶望の表情を浮かべていた。
暫く森の中を進むと岩山の様なものが見えてきた。
「主様、この先に隠れ家の入口がございます」
ドライの言葉に頷くと、そこからは此方に気付かれないよう会話を小声に、最小限の事しか話さなくなった。シュラ族は隠密行動が得意なだけあって気配を消している。俺もドライが教えてくれた辺りから気配遮断を使っているため、そこら辺の者たちでは捉える事は出来ない。
入口が見えてきた所で、ハンドサインで止まる様に指示を出す。
目視できる見張りは二人。魔法で確認しても二人だけだったので、気絶させるから地面に倒れる前に受け止める様、ハンドサインで指示を出して行動に移す。
レオンハルトの最初の標的は手前にいる粗悪品の槍を盗賊。一瞬で懐に移動し、掌底を突き上げる様にして相手の顎にクリーンヒットさせる。後ろに居た粗悪品の手斧を持った盗賊が、相方が倒された事を理解できていない隙に、背後に移動して首に向かって手刀を落とした。二人目が気づかないのも無理はなく、一人目の盗賊の身体に隠れる様に陣取っていたレオンハルト。二人目からしたら「急に上を向いてどうしたのだろう?」ぐらいにしか思っていない。
因みに、首を手刀で気絶させる行為は、実は非常に危険な行為であり、気絶させるのは難しい。実際に行うと「痛ッ!?」となるか、脊髄を傷つけるか、首の骨を折ってしまう。気絶した様になるのは、頸椎のやや上の辺りに衝撃を与えた事で、衝撃が脳にまで伝わり、脳震盪を起こしてしまったと言うだけの事。脳震盪は、気絶とは少し違うが相手の身体の自由を奪うと言う点は一緒なので勘違いをされている場合が多い。
レオンハルトも二人目は、気絶ではなく脳震盪による身体の自由を奪っただけでだった。
盗賊の二人が倒れ込む前にドライたちが身体を支えて音が聞こえない様にした。しかしそのままにしておけば身体の自由を取り戻すか、目を覚ますかする為、手早く森の方に移動し、入口から見えない場所に二人を縛って拘束した。
レオンハルトは、入口から洞窟内部を確認する。
「思ったより狭いな。広い場所もあるかもしれないが、武器はなるべく避けた方が良いだろう」
流石にハンドサインだけでは此処までの事を伝えきれないので、小声で話す。
洞窟の中での戦闘は、洞窟の広さに応じて戦闘の方法を見直さなければならい。特に狭い所では武器を振り回す事が難しく、無知な者は思う様に武器が使えず、中に居た魔物や猛獣に襲われ命を落とす例もある。
レオンハルトは、日本刀なので戦えなくはないが難しい。ドライは大剣なので難しい。ゼクスは弓なので射線が通らずに難しい。
結果、短剣や体術、魔法で対応するしか手がない。その魔法も、火属性魔法は使えず、威力が強すぎると落盤の危険もあるため、慎重に選ぶ必要があった。
レオンハルトとゼクスは体術で、ドライは短剣を用意し洞窟内部に向かう。
索敵魔法でも暫く盗賊たちに遭遇する事はなさそう。洞窟の中は薄暗く、ジメジメとしていた。真っ暗ではないのは洞窟の所々に生えていた光苔と言う植物が生えていたからだろう。
暫く進むと笑い声が聞こえてきた。
「いやーお頭に従っているだけで、これだけ美味しい思いが出来るとはな」
「ちげーねな。お頭万々歳だぜ」
「にしても、今日の収穫は大量だったが、その分運ぶのが手間だぜ」
「ぼやくな、本命は魔道具ばかりだったが、もう一つの方は金目の物や女を手に入れたんだからよ」
盗賊たちの話では、俺たちが助けた商人たちとは別の所でも商人を襲ったようで、そっちからは人攫いもしているみたいだ。
それぞれの目標をハンドサインで伝え、仕掛けるタイミングのカウントダウンを行う。
「それがさー・・・うぅっ」
「ああん?どうしたッ!?―――ぐっ」
四人いた盗賊を無力化して、一ヶ所にまとめて縛り上げておく。多少の音が鳴ってしまったが、そもそも物を運んだりしてガチャガチャ音を立てていたので、周りが気づくような音ではない。
また少し歩いた所で、二つに枝分かれした広い空間にでる。
右手側に一つ、左手側に一つと言った感じで道が分かれており、右手側は如何やら別の出入口になっているようだ。左手側は、盗賊たちや捕らわれた人がいる場所の様だ。左手側の通路に盗賊が二人此方に向かって歩いて来ていた。
「左に盗賊や捕まった人たちがいるみたいだ。先に救出し―――ッ!?」
「「ッ!!」」
常に警戒をしていたレオンハルトたちが、怠っていない警戒網を潜り抜けてきた人物からの奇襲を受ける事になった。
条件反射とも言えるレオンハルトの居合斬りで襲撃者の攻撃を受け止めた。
「ッ!?」
襲撃者も自身の攻撃を受け止められるとは、思っていなかったのか驚いた様子だったが、その攻撃が緩む事は無かった。
「ドライ、ゼクス。行けッ!!」
「「ッ!!ハッ!!」」
二人を盗賊や捕らわれている者たちがいる通路に向かって移動する。道中には、襲撃者との戦闘音で不審に思い此方に向かって来る速度を速めた盗賊の数名がいたが、ドライとゼクスの二人が一瞬で沈黙させていた。
襲撃者が、二人を奥に行かせまいと攻撃の対象を変更したが、そこはレオンハルトが素早く間に入って食い止める。
「悪いが此処から先は行かせない」
「なら、まずはお前から排除する」
襲撃者は外套で隠しているが左手に持つ剣のみで、右手は攻撃してこない。何かあると警戒しつつ、レオンハルトにしては珍しくかなり本気で戦闘を行っていた。
神明紅焔流剣術『龍霞』。刀の軌跡がまるで銀色の龍の様に流れる無数の斬撃技。レオンハルトの技に合わせる様に、襲撃者も溜めの構えから一気に技を放つ。
「武闘連技『空閃双翼刃』」
『龍霞』で繰り出した斬撃は十一連撃。・・・だが、その全てを襲撃者が使用した技によって防がれてしまう。
普通の者であれば、両者の攻撃である程度、終わらせる事が出来る。けれど、この二人の実力はほぼ互角に等しく、互いの技で消耗したのは僅かな体力や気力と言った程度の事。
今は二人とも互いの武器による鍔迫り合いの状態。日本刀と剣から気迫による火花が飛び散るかの様にぶつかり合っている。
レオンハルトは、無詠唱での魔法・・・風属性魔法『空気砲』を発動し放った。当たれば痛いでは済まない威力だが、驚くべき事に無数の『空気砲』が襲撃者にあたる事は無かった。
襲撃者の隠された右腕が姿を見せたかと思うと、『空気砲』を問答無用に切り裂いて霧散させた。鍔迫り合いをしている超近距離からの風属性魔法を向こうにさせる程の速さ。魔法が発動すると同時に切り裂くしか方法がないが、それをこの場でやってのける実力。
風属性魔法が通じなかった為、すぐに切り替えて鍔迫り合いの状態から抜け出すために刀身の角度を変更して受け流す。
若干、押し気味だった襲撃者は、バランスを崩しその僅かな隙をレオンハルトは一気に間合いをとる。
異様な形をした襲撃者の右腕。とても人の腕には見えないそれは、一回り・・・いや二回り近い大きさに、真っ黒な皮膚。亀裂の様な赤く光る模様。まるで鉤爪の様な鋭利な指先。発動した魔法を一瞬で消し去る技。どれ一つ上げても異常としか言えない出来事に最大限に警戒するレオンハルト。
「右腕を使わされるとは・・・・」
「それが貴様の切り札か?悪いが、それを使われる前に仕留めさせてもらう」
レオンハルトは、そう言うと愛刀を構えて息を整える。
――――ッ!?
次の瞬間、レオンハルトの姿が消えた。まるで煙になったように忽然と消えてしまった。
襲撃者もその出来事に驚きを隠せず、緊張した表情で全方位を警戒し始める。そして、背後に感じ取った僅かな気配に反応する。振り向き様の左手に持つ剣による斬撃。
しかし、手応えは何も感じられなかった。斬った存在が煙の様に霧散する。
すると次は、左右に気配を感じ取り、斬撃と打撃の両方で攻撃するが、結果は先程と同じ。気配が出ては消え、出ては消えを繰り返し、姿なき幻影と戦っている様な気分にさせられる襲撃者。
レオンハルトが使用している技。神明紅焔流剣術奥義参ノ型『朧陽炎』。緩急をつけ自分自身を何人もいる様に錯覚させる。敵が幻影に囚われ焦った隙を強烈な一撃で攻撃をする。移動術、気配の有無、見切りなど様々な技術を用いた難易度の高い技。
実力がある者は、幻影に惑わされまいと気配を探り、動きを止めやすく。実力不足の者は、幻影を追って淡々と攻撃を繰り返す。どちらが相手だったとしても非常に厄介な攻撃なのだ。
襲撃者は、この状況に焦りを感じ始める。
(こんな荒唐無稽な技・・・っく、また幻影か。気配を探っても、ちらちら現れる気配に惑わされる)
右腕で周囲を薙ぎ払う様に攻撃をするが、やはり手応えはなく。
(この国の・・・は、これだけの技術があるのか?それにしては――――ッ!?)
襲撃者の僅かな隙を見逃さなかったレオンハルトは、背後から強烈な斬撃を放った。襲撃者は、これまでの経験と言うよりも反射的にその攻撃を右腕で防ぐ。
鈍く重い音と衝撃波が洞窟内に広がる。
(渾身の一撃でも切り落とせないっ!?)
レオンハルトの攻撃は、襲撃者の右腕を深く切り込めたが、腕の半分ぐらいで日本刀の刃が止まってしまった。
襲撃者の右腕は、少々特殊な形状だけでなく能力も色々と兼ね備えていて、そのうちの一つに痛覚耐性がある。しかし、半分・・・つまりは骨にまで達する様な攻撃では、痛覚耐性による痛みの軽減が薄まり、かなりの痛みが襲撃者を襲う。
「―――痛ッ」
痛みに顔を一瞬歪めるが、ある意味好機の位置にいるとも言えた。右腕に力を集中させ、掌を開くと剣技とは違う斬撃を繰り出した。
「『黒天凱爪』」
レオンハルトに襲い掛かる五つの閃撃。危機感知の能力を全開にしていても全てを防ぐには、距離が近すぎて不可能だった。
三つは防いだが、二つの閃撃は防ぎきれずに、直撃してしまう。
「クッ・・・」
如何にか四肢を切り飛ばされる様な事態は避けられたが、右肩と左腕の二ヶ所に深手を負わされる。
威力で言えば真っ二つにされても可笑しくない威力を、二つは防げないと早々に判断し、威力軽減に勤めていたから、深手で済んだとも言える。しかし、深手も良くはない。戦闘能中であれば、一気に戦闘能力が低下してしまうからだ。
しかし、攻撃を受ける事は既に確定していたレオンハルトからすれば、次の手も予測が出来、且つ行動に起こす事も出来た。攻撃を受ける直前に魔法の袋から二本の魔法薬を取り出して宙に放り投げる。
襲撃者の攻撃で魔法薬の入った小瓶が切り裂かれて中をぶちまける結果になるが、そのぶちまけた先が防ぎきれずに攻撃を受け、深手を負った場所。
深手を負った状態での戦闘や治療に意識を割くと言う事をしなくて済むのだ。
まあ、魔法薬を投げる時間があれば残りの二撃も防げたのではと言う疑問があるかもしれないが、そこは不可能であると言える。
水薬ですぐさま傷を塞ぎ、今度は此方から攻撃を仕掛ける。繰り出す技は、神明紅焔流剣術奥義陸ノ型『陽炎御神楽』。
『陽炎御神楽』は、袈裟斬りと逆袈裟斬り、左切り上げ、右切り上げを連続的に繰り出す斬撃技。本来はそれぞれ二連撃の合計八連撃の技だが、五連撃目で相手の攻撃に完璧に合わせられて防がれてしまった。
初見で防がれるとは思っておらず、驚きを隠せなかったが、そのわずかの隙を相手に与えてしまう。
「ぐふっ―――」
強烈な一撃を腹部に受けてしまい、そのまま吹き飛ばされてしまった。
洞窟内の壁に衝突する。めり込む威力だが、魔法で身体を保護していたため、ダメージは半減させる事はできていたのにそれでもこれだけの威力・・・。
全身を走る痛みを堪え、急いでその場から離れた。その直後、レオンハルトがいた場所に襲撃者の異質な形状の右腕が壁面にめり込むように殴り付けていた。
一人の相手ここまで追い詰められるとは思ってもいなかった。
世界にはこれ程の強者がいるのだとワクワクしている自分がいる事に少し驚いてもいた。
抜刀の構えから、相手との間合いを見極める。間合いもだが、攻撃をあてる場所と言う意味も強かった。
神明紅焔流抜刀術奥義拾壱ノ型『因陀羅』。『因陀羅』は一度の斬撃で三度の閃撃を繰り出す技。獣の爪撃の様に繰り出す技が襲撃者の姿を捕らえる。
「クッ・・・」
今度は、襲撃者がレオンハルトの攻撃を防ぐ事ができずに直撃を受ける。
襲撃者の外套が切り裂かれて遂にその姿を晒す事になった。
その姿は、盗賊の仲間にしては妙な雰囲気を身に纏っている。外套で隠していたのだろうか、無くなってからそれがはっきり分かった。
それに、盗賊と言うよりも何方かと言うと、自分たち側の人間にも思える。しかし、それに反する異形の右腕と今回発覚した右腕同様の感じの右目。腕だけの時は悪魔のようでもあったが、右目と合わせると呪いと言う感じに捉える事ができる。
ッ!?
レオンハルトが、その思考を巡らせたのは、コンマ一秒にも満たない刹那の時、しかし、その僅かな隙を襲撃者は見逃さなかったのだ。
再び両者は激しくぶつかり合い激しく火花と甲高い金属音が洞窟内を木霊する。
そして、二人とも洞窟内の壁を足場に、互いに突進系の技で衝突しようとした時に、洞窟の奥から一人の人物が姿を見せるのであった。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
さて、今日は自分にとって記念すべき日となりました。
と言うのが、本日入籍致しました。(予約投稿なので、おそらく入籍済みの時間になっていると思います)
これからも執筆活動も頑張っていきますので、よろしくお願いいたします。




