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162 レカンテート視察

おはよう。こんにちは。こんばんは。

一月もあと二日で終わりです。

二月は何をしようかな?

「ふあああぁぁぁ」


 陽光が指す部屋。重い身体を起こし、凝り固まった身体を目覚めさせる様に背筋を伸ばした。普段使う高級ベッドより更に寝心地の良いベッド。昨晩はこのベッドに横たわった瞬間、天に昇る様な感覚と包まれていると感じる抱擁感を味わっている様な気分にさせられ、そのまま深い眠りについてしまった。


 横で寝ている妻も、普段であれば同じタイミングで起きても良いのだが、未だに眠りから覚めていない。


「それにしても・・・凄く快適に眠れたな」


 ベッドの寝具類を改めて触る。この時期だと寒さで厚手の布団を掛けないといけないが、これがまた重量感がある・・・しかし、今朝方まで使った布団は想像以上に軽く、且つ寒さを感じさせない温もりがあった。


「全てにおいて規格外だな・・・」


 独り言を口にする。それが原因か分からないが、隣で寝ていた妻が「んー」と小さな声を出し、徐々に覚醒していく。


「ん?あら、あなた・・・もう起きていらっしゃったのですね」


「ああ、アマーリエもその様子だと、ぐっすり眠れたようだな」


 アルデレール王国の国王アウグスト・ウォルフガング・フォン・アルデレールは、目を覚ましたばかりの第一王妃であるアマーリエ・リーゼル・フォン・アルデレールにやさしく声を掛けた。


 家臣たちの居る場では見せないその顔にアマーリエもそっと笑みを浮かべる。


「とても寝心地が良かったですわ。まるで身体が浮いている様でした」


 国王と王妃が絶賛するベッドだが、実は普通のマットレスを採用している。この世界では使われていない技術だから普通とは言えないかもしれないが、高反発スプリングマットレスを採用し、更に硬すぎても柔らかすぎても身体に負荷がかかるので、ちょうどよい硬さになるよう高反発スプリングマットレスの上下面を挟むように凹凸上のクッションを入れている。マットレスだけでなく、掛布団も雲の様な翼をもつ鳥、クラウドバードの超ふんわり羽毛布団を採用していたりする。因みに付与魔法で温度調節も付与しているので、かなりの品であることに変わりはない。


 国王陛下たちはロイヤルスイートルームに滞在したが、このホテルの寝具類はどれも同じだ。ベッドのサイズが、キングやクイーン、ダブルとなっているぐらいだ。ロイヤルスイートルームは当然キングサイズのベッドを設置している。


 それと、備え付けの簡易キッチンやソファー、観葉植物、水洗式トイレ、浴室など色々な物を用意しているし、スイートルーム以上の部屋には書斎や隠し部屋、使用人の部屋に護衛の待機する部屋も用意している。隠し部屋は何をするのかと言うと、有事の際に隠れる場所だ。暗殺者や襲撃者が来た時に避難する部屋で、この場所は外部からの攻撃に耐えられるよう特別製の扉と防壁に覆われている。


 襲撃者がこのホテルまで来ることが出来るのかは分からないが、準備しないよりはしておく方が良い。


「やはり、彼の作る物や政策は、我々では思いつかぬものばかりだな」


「あの方が、義理息子(むすこ)になってくれるのであれば、王国の未来も明るいですわね」


「ああ、ディンやテオと共に良き国を築いてくれるとありがたい」


 ディンと言うのは、コンラーディン王太子殿下の事で、テオとは、第二王子のテオドール殿下の事を指す。家族同士の時の呼び名で、普段の場で呼ぶ事はない。


「レーアも彼と結ばれる事を望んでいますし、今日の視察で問題がなければ、卒業後は此方に住まわせても良いかも知れませんね」


 流石に在学中は、居住地をレカンテートに移すわけにはいかないし、未婚の女性が男の者で生活するなど、問題になる。特にレーア殿下の場合は王族と言う事もあり余計に厳しい。上級貴族のご令嬢も当てはまるのだが、冒険者として活動するためと言うある意味裏技を使って周囲の声を黙らせている。それでも、小言を言う親族はいるが・・・。


 暫く二人でまったりしていると、寝室のドアからノック音が聞こえる。許可を出すとドアが開き侍女四人がやってきた。四人とも王族に仕える侍女で、主に陛下と王妃付きとして今回同行させている。


 侍女たちが来たことで、二人も快適だったベッドから起き上がり、それぞれ更衣室に移動した。侍女たちも陛下と王妃に分かれて身支度を整える手伝いを行う。


 当然、陛下の準備の方が早く終わり、座り心地が良いソファーに腰を下ろして待っていると、侍女の一人が飲み物を持ってやってきた。


「失礼します」


 お茶を飲んでいると支度をしてくれた侍女ではなく別の侍女がやって来る。彼女は息子(コンラーディン)の付き人とし同行させた侍女の一人。如何やら、彼方も支度を整えたので此方の部屋にやって来ようとしているようだ。それに続くように(レーア)の所の侍女もやってきた。それから暫くすると、(アマーリエ)息子(コンラーディン)(レーア)もやってきた。


「父上もそうでしたか。私も気がついたら朝になっていましたよ」


 何故かベッドで盛り上がる王族たち。その後、他の者たちはやってきた事で、別の場所に移動する事になった。


「アヴァロン卿よ。このホテルと言ったか実に素晴らしかったぞ」


「ありがとうございます。従業員にも陛下が満足された事、お伝えしておきます」


 一階で、待機していたレオンハルトたちと合流し、そのまま朝食に連れて行ってくれることとなった。


 (レオンハルト)が誰もいないはずの場所に向かって何か合図を出していたので、そこに彼が従えているシュラ族の隠密たちが居るのだろう。


 馬車に乗って移動したが、馬車で移動しなくてもよさそうな距離で停車した。案内されたのは徒歩で五分程度離れた場所にある一件のお店。


 クイナ商会が提携しているお店で、軽食にぴったりのメニューが豊富のカフェ店だそうだ。


 彼や彼と共にいた、フォルマー公爵家のティアナ嬢やラインフェルト侯爵のリリー嬢がおすすめするだけあって、出された料理は非常に美味であった。


 若干自分には甘めが強い気もしたが、(アマーリエ)(レーア)はとても喜んでいた。特にハニトーなる巨大なパンを偉く気に入った様子。自分は、甘さ控えめなパンケーキなる食べ物が美味しかったとだけ言っておこう。


 あと、寒いのに氷のデザート・・・アイスクリームは皆夢中になって食べてしまった。アヴァロン卿から「あまり食べすぎるとお腹を壊すので、ほどほどにした方が良い」と注意を受ける大臣も居たほどだ。


 朝食後は、クイナ商会の総合本店に移動する。賑わいを見せる巨大な建物の中には、無数のお店が並んでいた。


「「「「「・・・・・」」」」」


 何という事だ。此処は、まるで違い世界に来てしまったかのような錯覚を覚える程の出来事に、視察と言う名前の観光で訪れた者たちは皆、驚愕の表情を浮かべてしまった。










 陛下たちがクイナ商会総合本店に訪れてから一刻程買い物などをして色々な場所を回るが、圧倒的に時間が足りず昼からも回りたいと申し出があった。


 特に女性陣たちはゆっくり見たいそうで、シャルロットたちがアマーリエ王妃やレーア殿下たちに就いてくれることになった。


 俺たちは、陛下たちと共に他の階に移動し、ドワーフの制作した武器防具や生活用品、魔道具のお店などを順に見て回る。既に莫大な量の買い物をしている陛下や大臣たち。魔法の袋も購入して、追加で入れていたので・・・・まるで、外国人旅行者たちがお土産を多く買い過ぎてしまい追加でキャリーケースを買って詰め込んでいる・・・そんな光景に見えてしまった。違うのは持つ人が自分か使用人たちかの違いだろう。


「あれ?あそこにいる二人って・・・」


 レオンハルトの付き人として同行していたアカネとアオイ、ワカバの三姉妹。その次女のアオイが向こうの方から歩いてくる人物を見て声を上げる。陛下たちの前での粗相を止めようとワカバたちがアオイを止めるが、彼女の指さす方角には、ワカバたちも知っている人物がいたのだ。


「クリスティーナさんとフィーネさん?」


 彼女たちの視線の先に居たのは、アオイとワカバの二人を保護していた冒険者たちの内の二人。年子の姉妹で、二人とも色素欠乏症(アルビノ)聖印症候群(ホーリーシンボル)の持ち主。色素欠乏症(アルビノ)聖印症候群(ホーリーシンボル)を同時に持つのがどれほど低い確率なのか、更に姉妹でとなると天文学的確率になるそんな存在の姉妹。


「レオンハルト様、彼方にクリスティーナさんとフィーネさんがいます」


 陛下たちが商品の品定めをしている時にこっそり話しかけてくるワカバ。


「なんで此処に居るんだ?」


 彼女たちは、アオイたちを保護してくれたため、謝礼金を渡したら、病気の弟の為、薬を買い実家に帰ったはず・・・実家がどこにあるのかは知らないけれど、此処に居るなんて想像もしていなかった。


「アインス、ツヴァイ。陛下たちの護衛を頼む・・・陛下、失礼します」


「ん?どうかしたか?」


 二種類の魔道具を手にして見ていた陛下が、此方に視線を向ける。


「知人がこの街に訪れていたので、少し挨拶をしてこようかと、暫く抜けても大丈夫ですか?」


「ああ、かまんよ?」


「ありがとうございます。一応、家臣たちがこの場に待機しておりますので、何かあれば彼らにお伝えください」


 アヴァロン伯爵家の家臣と言えば、ユリアーヌやクルト、ヨハン、ダーヴィトたちの事。冒険者仲間だが、貴族としての立ち位置も用意している。新興貴族なので、家臣や臣下と言った者たちがいなかったから、都合が良かったのだ。


 伯爵家でしかも領地持ちの貴族としてはかなり規模が小さいと言わざるを得ない。


 陛下たちを待たせる事になるので、アカネたちを連れてクリスティーナたちの所に移動する。


 向こうも此方の事に気付いたようで、手を振ってくれた。


「お久しぶりですね。クリスティーナさんにフィーネさん」


「お久しぶりです、アヴァロン伯爵様。初めてアルデレール王国に来ましたが、王都と比べても遜色ない街ですね」


 しっかり者の妹フィーネが、先に挨拶をしてくる。姉の方が、見た目しっかりして、真面目そうなのに、ちょっと抜けていて、お調子者と言う残念美人なので、こういう時は妹の方が率先して対応してくるのだ。


「伯爵様、この街凄いです。私たち此処を拠点にしても良いですか?」


 クリスティーナが目を輝かせて尋ねてくる。


「ああ、好きにしてくれて良いよ。余程の事がない限りは街への立ち入りを断らないから、それよりも弟・・・だったかな?病気の方は大丈夫なのか?」


 二人は、実弟の薬代を稼ぐために冒険者として生計を立てていたのだ。彼女たちの故郷がアルデレール王国ではない事は知っているし、アルデレール王国でもレカンテートの街は南下している場所に位置している。仕送りなどを送ろうとすれば、かなりの時間と出費が嵩む筈だ。冒険者ギルドに預けると言う選択肢もあるが、彼女たちの故郷に冒険者ギルドがあるのかと言う事と、引き出しが難しい事を考えれば、なるべく離れすぎない方が良いと思っていたのだ。


(デューク)の病気は、伯爵様から頂いたお金で薬が買えたので・・・それと、お父さんがお礼をしたいと言って、故郷の名物を持ってきました」


 彼女たちに渡したお金はアオイとワカバを保護してくれていた謝礼・・・正当な報酬なのだから気にしなくても良かったのだが、彼女たちや両親はそれでもお礼がしたかったのだろう。


 魔法(マジック)(バック)に名物が入っているそうだが、今はタイミング的に悪いので、明日改めて屋敷の方に来てほしいと伝える。此方も色々と聞いてみたい事もあるし、他国から移動してきている冒険者だ。知らない知識もあるだろうから・・・。


「わかりました。それにしても、アオイとワカバ、それとアカネでしたね。以前よりとても表情が良いですね。きっと素晴らしい生活を送っているのでしょうね」


「クリスティーナさんやフィーネさんが、お世話してくれたから私たち姉妹は今こうして無事に生活が出来ています。あの時は本当にありがとうございました」


 アカネが代表で二人にお礼の言葉を告げ、頭を下げる。それに続くようにアオイとワカバも「ありがとうございました」とお礼を口にして、頭を下げた。


「「ッ!!」」


 アカネたちが二人にも通じる言葉を口にして、目を見開く。保護していた時は、言葉が全く通じなかったのだ。それをこの会っていない期間に日常会話が行えるレベルになっていた。


「うそっ!?会話が出来るッ!?」


「ええ、此方で読み書きを教えましたから、問題なく会話ができると思いますよ。明日来られた時にでも三人と出来るようにしておきますよ」


 特にアオイとワカバは、長期間二人にお世話になっているから、色々と話したい事もあるだろう。


 クリスティーナとフィーネの二人と軽く挨拶を行い、陛下たちの所に戻る。


 戻ると何故か、ニヤニヤとした陛下が待っており、女性人たちがいない間に耳打ちしてきた。


「今の二人も嫁候補か?偉く美人じゃないか。それにあの透き通る様な白髪。リリー嬢とはまた違った感じだな」


「なっ!?陛下、あの二人は知人です。既に六人と婚約しているのに更に増やすなんて」


 一夫一妻の世界から、一夫多妻の環境に措かれたのだ。二人、三人の奥さんがいる事にも未だに抵抗があるのに六人いて更に増やすなんて事、俺自らは動くつもりはない。


 陛下としては、新興貴族のそれも上級貴族である伯爵位。既存の貴族であれば第三、第四夫人ぐらいが一般的だが、新興貴族の場合は六人でも少ないぐらいだ。それに先の二人とは別に二人ほど婚約者候補もいるから、時間の問題ではないかとさえ思っていたのだ。


 陛下の後ろに居たエトヴィン宰相やラインフェルト侯たちも似たような表情をしていたので、あえてスルーする事にした。ふと、陛下に付き添っていた執事が、大量の商品を魔法の袋にしまっている最中で、他の貴族の使用人たちも似たような事をしていた。


 陛下たちが大量に購入したのは、男物の衣類だ。特に下着や肌着などを大量に買ったようだ。


 女性用の方もそうだが、男性用の肌着や下着もこだわって作ってもらった。トランクスパンツとボクサーパンツにしている。一応、ブリーフパンツも販売しているが、一番売れているのがブリーフパンツと言うのは解せぬ・・・。まあ、人気があるのは柄物や色物ではなく純白だと言う点だろう。それだけで清潔感に思うのだろう。


 それから一刻程すると女性人たちも買い物を終えて合流してくる。アマーリエ王妃たちの護衛に就けていたシュラ族の方に視線を向けるが、これと言って脅威となる出来事はなかったようだ。


 まだ、日が傾くには早い時間帯もあり、一旦クイナ商会総合本店を出て馬車で街の中を視察して回る。


 目新しいさが満載なので、その都度、陛下や宰相、大臣たちから質問が飛んでくる。


 領地持ちの大臣からは、役所での住民登録と言う方法は非常に感心していた。領主として領民を大切にしている貴族も多いが、領民が一体どれ程いるのかは誰も把握していない。これまでは大した障害でもなかったが、領民の数を把握している事で、必要な整備や徴収税を大まかに計算できると言う利点に目を輝かせていた。


 まあ、災害や不作、害獣などで予定額を下回る事もあるだろうが、それに関しては仕方がないと割り切れる。後は官僚たちが横領していないかなども組織化し統制を行っていけばかなり防ぐ事が出来るだろうとも説明した。


 世の中良い人ばかりではない。悪知恵を働かせて悪さをする者も多くいる。かなり厳しい目で監視しても賄賂を受け取ったり、横領したりする者も現れるのが常だ。官僚だけでなく領主であるはずの貴族や領主代理である代官が、横領する場合もあるのだ。


 重税を課す領地もあるので、領民たちの流出は各領地の課題でもあった。軽税を課す領地が良いかと言うとそうでもない。徴収する税が少なく領民が過多になると、領地として運用が怪しくなり領地開発やその他の支援等に資金が回せず、結果最低限の生活となり治安が悪くなるのだ。


 どちらもアルデレール王国内では少ないが、全くないわけではない。子爵位の領主であれば領地没収なんて事も可能なのだが、わりと悪さをするのは上級貴族らしく、それも巧妙に隠していたり、切るに切れない場合もあるらしい。目の上のたん瘤とはこの事だろう。


 その日、視察として回った陛下率いる王国の重鎮たちは、夕食を領主館にて頂き、そのまま転移魔法で王都まで送った。


 レーア王女だけは、戻りたくないと陛下に懇願していたが、アマーリエ王妃に耳打ちで何かを言われてから大人しく戻ったのだった。


 翌日、この二日間の疲労がまだ蓄積されている中、屋敷の方に来客が来た。


 昨日の私服とは違い、領主に合うと言う事で冒険者なりの正装・・・冒険者での活動する服で訪れていた。互いに白を基調とした布地に姉のクリスティーナは青の刺繍を、妹のフィーネは赤の刺繍が織り込まれた服装。どちらも出会った時よりも質の良い装備に切り替えており、(クリスティーナ)の方は軽装を主としているのだろう。防具は必要最低限の物しか身に着けていなかった。(フィーネ)の方は、騎士風のデザインにしている。どちらも膝上スカートなので、戦闘中に見えないのか気になる者もいるかもしれないが、そのあたりはきちんと対策がされている。


「よく来てくれたね二人とも。歓迎するよ」


 屋敷の中にある大応接室で、レオンハルトとシャルロット、ティアナたちを含め円卓(ナイト・オブ・)騎士(ラウンズ)の面々が集まっていた。他にも筆頭執事のフリードリヒや給仕係のミアたち、後はアカネたち三姉妹も同席している。


「いえ、伯爵様が薬代を出してくれたお陰で弟の病気もかなり良くなりましたので」


「いや、前にも伝えたけど二人を助けてくれたお礼だから」


「お礼だとしても、あのお金のおかげでかなり良質の薬を手に入れる事が出来たのは事実です。故郷に戻った時の弟の様子からあまり時間がなかったのだとわかりましたし、本当にありがとうございました。あっこれお父さんから伯爵様へと預かりました」


 昨日も言っていた彼女たちの故郷の名物との事で、サル豆とブルートウモロコシを大量に受け取った。


「・・・おう、ありがとう。凄い色だな」


 なまじ黄色いトウモロコシを知っているレオンハルトとシャルロットは、青いトウモロコシを見て、若干引いてしまった。他の者たちは「このブルートウモロコシは中々良質ですね」なんて言っていたから、アレが普通なのだろう。


 それから、彼女たちから他国についての情報や最近の魔物の行動について等を聞かせてもらった。彼女たちもそこそこ高いランクの冒険者なのでその国の秘密にしなければならない様な事は話していないが、それでも多くの事を知る事が出来た。


 やはり、魔物の大量発生について彼女たちも別の場所で遭遇し、その周辺の街などを拠点にする冒険者たちを迎撃に参加したそうだ。


 聖印症候群(ホーリーシンボル)を持つ二人は、あまたの魔物を相手に善戦し、かなり懐が潤ったそうだ。


「伯爵様、昨日もお伝えしましたが、私たち姉妹はこの街を拠点に考えています」


 そう言えばそんな事を言っていたなと思っていると。


「それで、伯爵様の円卓(ナイト・オブ・)騎士(ラウンズ)に加入させてもらえませんか?」


 冒険者として活動しているパーティーメンバーに加わりたいと言ってきたのだ。円卓(ナイト・オブ・)騎士(ラウンズ)(エー)ランクチームの冒険者で参加している面々も(エー)ランク冒険者になる。超がつく冒険者たちなのだ。


 二人の様に希望する冒険者も実は多いが、彼らの実力差に愕然とし結局今まで誰も加わってこなかった。


「パーティーメンバーに加わるのは自由だけど・・・・」


「どうして、うちなの?」


 レオンハルトが微妙に困っていると、ティアナが代わりに尋ねる。こういっては何だが、超一流の冒険者のパーティーに入りたいだけじゃなく、新興貴族に仕える事が出来ないかと言う事も含まれているのではと思ったからだ。


「「――――伯爵様の力になりたいと、思ったからです」」


 つまりは、アヴァロン伯爵家で雇ってほしいと言っているようなもの。


「なら、まず貴方たちの実力を見せてほしいの」


 若干気まずい空気になっていたところを、シャルロットが空気を換えるかの様に提案する。確かに、実力が分からなければ依頼を受けた際に同行させるべきか考えなければいけない。


「「よ、よろしくお願いします」」


 とは言え、恐らく実力は十分あるはずだ。なので、臨機応変にどう対応できるのかと言う事が知りたい。「早速始めますか」と聞いてくる姉妹に対して、流石に直ぐに行うのはと言う事で、メンバー入りを掛けた実力試験を三日後に設定した。年末なので、忙しいからそれ以上伸ばすことも出来ないし、明日と明後日は別件で王都に行く予定になっている。


 試験内容はヨハンにでも考えてもらおう。二日間ヨハンやユリアーヌたちは特に予定もなかったはずだし・・・。


 その後、レオンハルトたちは席を外し、アカネたちとクリスティーナたちを部屋に残した。何の話をしたのか気になりはするが、野暮な事はしたくないので、温かく見守る事にした。


 アカネたちが話をしている時に、俺は自室にてシャルロットたちと話をする。


「また、女の子を増やすの?」


 ド直球に尋ねてくるリーゼロッテ。リリーやエルフィーも興味津々と言う顔で此方を見てきた。


「リーゼ。その言い方だと俺が何時も女性を誑し込んでいるみたいに聞こえるんだが?」


 呆れ顔で返答すると、それに対してティアナが口を出す。


「レオン様・・・すでに何人の女性を手元に置いていると思っているのですか?」


 ん?何人って六人だよね?


 しかし、他の女性たちはレオンハルトが気づいていないと判断し、呆れるか、苦笑するかの対応を取った。


「あの・・・レオンハルト様。私がわかる範囲だけでも・・・私たち婚約者以外で五人がレオンハルト様に好意を寄せておられますよ?今日の二人を含めれば七人ですね」


 ・・・・え?


 五人!?えっまじで?しかも今の二人も?


「クリスティーナさんやフィーネさんは、そこまで好意を寄せていると言うより、感謝と信頼ですかね」


 シャルロットも如何やら分かっていたそうだ。


 にしても五人って・・・・誰だ?


 誰なのか考えていると、皆「やっぱり気付いていないようですね・・・」と少々困った表情を浮かべる。


「皆知っているのか?あれ俺だけ知らない?」


「そうですね・・・私たちは何となく見ていて気が付きましたし、此処に居ないエッダさんたちももしかしたら気付いているかもしれません」


「アニータやユーリたちは分からないけど、ヨハンは分かっていると思うよ」


 ダメ出しの様に言われると、男ってこういう色恋沙汰では女に勝てないのが良くわかる。逆にヨハンが分かるのは、そういう空気をよく見ているからだろう。


 気になる。別に変な意味ではない。好意を寄せられても正直困ると言うのが本音だ。しかし、相手を無意識で傷つけない様にするためにも知っておきたかった。


「教えてくれたりは・・・・」


 そう尋ねると、シャルロットたちが集まって俺に聞こえない様会議を始める。その会議も二、三分で終わってしまい。結論が出たようだ。


「レオ様・・・私たちはレオ様の考えを尊重します。なので、よく考えてあげてください」


「まず初めに、確実に好意を寄せているのは・・・・」


「ローゼリア・ラナ・リザーナ・フォン・アバルトリア皇女殿下とシルヴィア・エステス・フォンガバリアマルス王女殿下ですね」


「それと、エリーゼさんとルナーリアさん、アカネさんも含まれますね」


「葵ちゃんと若葉ちゃんは、分からないけど・・・三つ子だから可能性が無い事もないかな」


「アカネってそうなの?私はてっきりフェリシアだと思っていました」


 如何やら皆の中でも若干、違う人物が候補者に上がっているようだったが、共通だったのはローゼリア殿下とシルヴィア殿下、エリーゼ、狐人族のルナーリアの四人。


 食い違っている事としては、シャルロットとエルフィーはアカネの可能性が高く、シャルロット的には、更に予備候補としてアオイとワカバも可能性があると考えていた。一方、リーゼロッテはエルフのフェリシアだと思っていたようで、ティアナは、ローゼリア殿下と一緒に来たアバルトリア帝国の守護八剣第八席のローゼマリーの名前が上がり、リリーは王都の商業ギルドの専属担当職員のテスタロッサだと思っていたらしい。


 まさかの人物の名前に驚きを隠せない。ローゼマリーやテスタロッサが自分に好意を寄せるなんて微塵も思っていなかった。いや、実際にはエリーゼたちも同じ事が言えるが、エリーゼたちよりも接点が少ないからこそ予想の斜め上を行く内容だったのだ。


 テスタロッサとは、基本的にクリストハイトやクイナ商会の従業員、ローレたちが良く報告や売上税を修めに行っていたりするが、時々、俺自身も商業ギルドを訪れる事はあったため、接点が全くないと言う事はなかったし、実のところ、テスタロッサはこのレカンテートの街に移住している。


 商業ギルドレカンテート支部を開設して、そこに人事異動しているのだ。他にも王都の商業ギルドから十数名人事異動でレカンテート支部に来ている。商業ギルドも雇用枠を増やせると言う事で感謝されていた。冒険者ギルドも同じことを言っていたし、新たにギルド支部を設置するのも中々難しく、今回の様に村が町へと規模が拡大でもしないか、若しくは新たに町を作るかしなければ作れないのだ。


「・・・・聞かなければ、よかった・・・」


 聞きだしたのが、自分なだけに誰も攻める事が出来ない・・・そんな事はしないけれど。


 リリーの言う通り、よく考え中ればいけない。実際にこれ以上増やすつもりはなかったが、この世界の考えに基づくならば、婚約者を増やさざるを得ない。

 にしても、シルヴィア殿下やローゼリア殿下等、他国の王族や皇族との婚姻は国際的に問題にならないのだろうか?


 加えて、クリスティーナとフィーネも国内の人間ではないので、そのあたりにも多少の問題が生じてしまう気もする・・・それに、エリーゼたち奴隷の場合は、妾や愛人扱いになるのではと言う疑問が頭をよぎる。


 種族違いに婚姻は認められている。エルフと人族が結婚する例もあれば、獣人とエルフの結婚もある。生まれてくる子供はハーフエルフや半獣人(ハーフビースト)になるらしい。ただ、厳密に他種族同士の結婚の場合、どちらかの種族に寄るそうなので、獣人とエルフの子供の場合は、高確率で半獣人(ハーフビースト)になるそうだ。種族間でもどちらの血が色濃く出るかの組み合わせはほとんど決まっているとの事。


 人族と人族以外の場合は、人族以外の種族の血を色濃く受け継ぐ。獣人とドワーフは、ドワーフに。エルフと獣人は、獣人に。ドワーフとエルフは、ドワーフに。他の種族間でもこんな感じで決まっている。ハーフの場合は、この関係図に近いが唯一異なるのが人族とハーフの場合は人族になると言う点だろう。


 どういう理論でそうなるかは、未だ解明されていない。


 昼食の時間になり、アカネたちも話を中断して応接室から出てきた。クリスティーナとフィーネの分も料理人に頼んで用意してもらっている。


 早速頂いたサル豆とブルートウモロコシを使った料理が出てきたが、トウモロコシはシャルロットがポタージュスープにして、サル豆は料理長がオーク肉の煮込み料理の中に入れていた。


 冒険者と言う事もあり、あまり畏まったメニューではなく冒険者に馴染み深い物にしてもらっているため、二人とも美味しそうに食べていた。


 午後からは、シャルロットたちも加わって話をしており、俺はと言うと午前中に聞いてしまった話について頭を抱えて悩んでいたのだった。










 その頃、とある場所では・・・・。


「欠片が全て揃ったようだな」


 薄暗い建物の中で、にやりと笑う人物。彼の前には強者と呼べる雰囲気(オーラ)に身を包んだ猛者たちが跪いて頭を下げていた。欠片とは封印の(ほこら)の中に厳重に閉じ込めていた邪神の欠片の事。残りの五つを闇妖精王、魔妖妃、魔焉皇帝、冥府王、破壊魔人の五人の魔将が捜索していた。強靭な封印の為、魔将クラスでなければ封印を破る事が出来なかったのだ。これで、邪神復活の工程の一つが終わった。残りの一つは、勇者の魂魄と聖母の心臓が必要になる。


「後は、鬼神・・・お前に任せた勇者の排除はどうなった?」


 鬼神アスラダーラは、最後の勇者であるコウジ・シノモリの暗殺に動いていたが、アスラダーラ自身が勇者と遭遇することがなかった。部下は幾度となく勇者と遭遇しその都度激しい戦闘を繰り広げ、多くの魔族は返り討ちにあっている。


 魔王軍側は既に勇者の魂魄を入手している。ガバリアマルス王国で倒した勇者三人の魂魄が納められていた。(ヴァーリ)は勇者が死んだことは知っているが、魂魄が捕らわれている事は知らなかったのだ。


 聖母の心臓。これはシンセシア聖王国、現女王マリア・ベール・エルネクス・フォン・シンセシアの心臓の事。規模としては大国に劣るが、大国に匹敵する程の重要な国でもある。シンセシア聖王国は、言い伝えによると初代勇者とその妻となった大聖女アリアンロッドが、建国した国と言われている。


 その聖母の心臓に手を出さなかったのは、欠片が揃わなかったからで、心臓は新鮮なうちでないといけない。つまりは全ての物が揃ったからこそ、聖母の心臓の入手に魔族軍が全力を挙げる事になるのだ。


 各地の魔物の大量発生は、封印の祠の発見と破壊を行うためのカモフラージュでもある。勇者に悟られる事なく欠片の回収が行えたのだ。


「全軍を持って心臓を回収する。直ちに軍を編成しろッ!!」


 着々と進められる邪神復活への道。(ヴァーリ)がその事に気付くのはもう少し先の話になる・・・のであった。

何時も読んで頂き有難うございました。

もう一つの作品の方にも少し執筆を進めていこうと思います。

来週も張り切って行きましょう。

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