158 各地の異変
おはよう。こんにちは。こんばんは。
予約するのを忘れていました。と言う事で12月12日なので、12時に投稿する様にしました。
レオンハルトたちがイリードの町の救援に向かい、一万を超える魔物との激しい戦闘を行っている頃。各地でも同じような事態が発生していた。
ローア大陸の北部に当たる国でも、今まさに魔物の大群を阻止しようと冒険者や狩人、兵士に騎士といった者までが駆り立てられて、魔物を倒していた。その中の一人、冒険者として活動をしているヴォイド・グレイス。
とある事情により右腕と右目に呪われた悪魔の様になっている冒険者。その地域では、呪われた冒険者とか、隻腕隻腕とか、活躍し始めた時の服装が何処かの軍人の様な感じだった事から呪われ子軍人と呼ばれている。
不名誉な二つ名が多くあるが、二つ名がつけられる程彼の実力は高かった。
普段の戦闘は左手の片手剣を装備して、見慣れない剣術で次々に敵を倒すが、強敵との戦闘になると、悪魔の腕で敵を切り裂いたり、殴り飛ばしたりする。右目も普段は包帯で見えない様に巻いているが、悪魔の腕を使用する時は右目の包帯も外している。
見た目に反して、根が良い奴なので親しくなった同僚もいるが、基本的に単独活動をしている一匹狼。
「くっそ、なんだってこんな事になっているんだッ!!」
たまたま訪れた街で魔物の大量発生の場に居合わせてしまい。冒険者ギルドの緊急召集に駆り出されて魔物の討伐に参加している。
「ぼやく前に手を動かせ。死ぬぞッ!」
同じ様に駆り出された冒険者たちの不平不満が戦場で飛び交う中、ヴォイドは黙々と魔物を屠って行く。
「ヴォイド。それ以上先行するな、何かあっても助けに入れねえ」
「グルードか?構わない、俺はこんな場所で死ぬ気はない」
呪われた右腕と右目は既に開放している。次々に来る敵に剣だけでは対処できなかったのだ。現在は、その腕で敵を切り裂いたり、殴りつけて粉砕したりしている。
(何か大きなことの前触れか?)
突然の出来事に何が起きているのか自分なりに推測していた・・・が、結局情報が少なすぎて何が正しいのかさえ分からない。
戦闘開始から約一刻が経過するが、未だに終わりが見えない状況だ。
この街にとって唯一の救いは、地形であろう。この街は交通の便が悪く、細い道を進むしかないが、それは魔物も同じである。だから守りの範囲が他の街に比べて圧倒的に少ないのだった。
魔物と呼ばれる異形の生物。冒険者となって教えてもらったが、この魔物の大量発生では、名前も知らない種類も多くいた。土地柄季節的なことが重なり、雪で覆われている。運が良いのか、悪いのかわからないが、吹雪となる日が多いのに今日は雪がパラパラと降る程度。
吹雪の中だと発見できなかった可能性を考えるとやはり、晴れて良かったのかもしれない。逆に晴れていたから進行してきたとも捉えられるが、吹雪で進行という最悪の状況を避ける事が出来たと考えるべきであろう。
皆が言う呪われた右腕の力を借り魔物たちを次々に屠って行く。
「」
身近な人が使っていた拳の技を真似て作った技。指先の一本一本が鋭利な形状となっており、強度も鉄などを圧倒しているため、大抵のものを切り裂くことができる。唯一切り裂けなかったのは、アーマードビックフットと言うBランクの魔物だけだ。
「ヴォイド。気を付けろ。このあたりで生息していないはずのサイクロプスだ。しかも普通のサイクロプスではなく変異種だと思う。俺も直接見たことがないから、はっきりとは言えないが」
俺と共に戦ってくれているグルードが、スノーラットマンを倒しながら教えてくれる。
彼曰く、Aランクはあるかもとの事だった。
それから、彼や他の者たちと共に迫り来る驚異に立ち向かったのだった。
また別の場所、同大陸の南部に当たる国、ブランシャール王国でも、魔物の大群による襲撃に対して、冒険者や兵士たちが対処している。中でも最も目立ったのが、この国で知らぬ者はいないと言われる人物。絹の様な綺麗な薄い金髪に鮮やかな黄緑色の瞳をした少女。
名前をアリアンヌと言い、ブランシャール王国の第四王女でもある。
王女と同時に、彼女は他の姉妹たちとは少々異なる血を受け継いでおり、その血の影響で他を圧倒する力を有していた。冒険者ではなく、自国の騎士団に所属しており、彼女自身も魔物を討伐するほどの猛者でもある。彼女についた二つ名は、姫騎士。それ以外にも剣の舞姫や精霊剣の担い手、精霊と対話する者など挙げられる。
二つ名の通り、彼女の最大の武器は世界でも最も数が少ないとされる精霊剣を所有している。少ない理由は、使い手が極端に限られてしまうと言う事。精霊剣、正しくは精霊武器と言うが、これは魔剣や聖剣を魔装武器、聖装武器と呼ぶのと同じ。
聖装武器も数が少ないが、精霊武器の方が珍しいとされているのだ。
その理由として、一つ目は・・・使用者は精霊の血を受け継いでいる事、二つ目は・・・精霊と契約している事。三つ目は・・・・膨大な魔力を有している事。
魔装武器は魔力の無い者でも武器に埋め込まれている魔石を使った疑似的な魔法を行使できるが、精霊武器は魔力が一定量ないと使用できない。
故に三つの条件にあてはまる者が少ないため、使用している人を見かける事がないのだ。
「これ以上、先に進ませてはなりません」
「アリアンヌ様、南門からも救援要請です。彼方は騎士が少なく兵士も練度が低い者ばかりです。如何なさいますか」
騎士団の統一された鎧を身に付けた人物が話しかけてくる。
現在、魔物の集団は北門に集まっていて、その一部が西側に回り込んだとの事で、かなりの数の騎士団を其方に手配した。
そこに南門となると救援を向かわせるほどの余力がない。北門に残っている騎士団や兵士の半部を南門に向かわせたとしても現状維持が出来るか・・・。それに、北門も如何にか押し留めているが、人が減るとそれも難しい。
非常に厳しい選択を迫られるアリアンヌ王女殿下。
「中々、厳しい状況のようだな」
アリアンヌの背後に突如として現れる。全身黒装束に包まれ、頭や顔まで隠している謎の人物。声で男だと言うのは分かるが、それ以外は全く情報がない。けれど、彼の事について、ブランシャール王国の国民たちは彼の事を誰もが知っている。
悪人から金品を盗んだり、悪事を暴露したり、更に過激な事もした事のある人物だが、悪人のみが対象なので、正体不明であっても彼の人気は姫騎士に匹敵する程、支持している人たちがいる。
「貴方がどうして此処に?今は相手をしている暇はありませんッ」
アリアンヌは強い口調で彼を制するが、実際には彼女の相手を彼がしていると言っても過言ではない。彼が義賊の様な行動を行うたびに、彼女が彼を追うという構造が出来てしまっているのだ。そして、彼女は彼の事が嫌いでもある。彼が彼女にどう思っているかは不明だけれど。
「魔物が出現したのだろう?ならば其方には私が行こう」
どう言うつもりなのだろうか?
私と貴方は敵同士なのにと考えていると、それが表情に出てしまったのか、彼が言葉を発する。
「私もこの街が好きだからな。魔物の大群で無くなるのは許せない。ただそれだけだ」
彼には彼なりの信念があるのだろう。彼を信頼できないが、彼の腕は良く知っている。この国でもトップクラスの実力者の一人なのだから・・・。だから、彼の信念に頼ってみることにした。何度も言うが、彼の事は信用していない。
「でしたら、北門は私が全力で対処します。出来るだけ、貴方を頼りたくはないので」
此処に来てもまだ、対抗意識を燃やすアリアンヌ。けれど、彼女が前線に出てくれるのであれば、これほどうれしい事はないだろう。それ程までに精霊武器を扱う存在は、他を圧倒する。寧ろ、そんな存在に対等・・・いや、常に勝ち越している黒装束の男の方が異常だ。確かに、他を圧倒できる稀少な能力だが、精霊武器所有者と比べれば数段落ちるはずなのだが・・・それでも、勝ち越すと言う事は、彼の純粋な能力や才能が高いと言う事になる。
「では、此処での指示を任せます」
アリアンヌはその言葉を残して、彼女が持つ精霊剣・・・光の精霊剣ティターニアルクスの能力を発動させる。光の魔法剣を作る『妖精剣』、その光の魔法剣を翼の様に装着する『精霊の翼』。光の魔法剣が光る翼となってアリアンヌは空を飛ぶ。
『妖精剣』は使用者が思うがまま動かす事が出来る。それは、攻撃だけでなく機動力に防御にも使える優れもの。
そのまま、あっと言う間に北門に移動した。
圧倒される数の魔物が地上を移動している。
「『踊る剣舞』」
『妖精剣』で更に光の魔法剣を増やして、足元を移動中の魔物たちに向かって光の魔法剣が飛来しながら次々に魔物を貫いていく。
その姿を南門で観察する者がいた。
「流石、アリアンヌ姫だ。さて、此方もやる事をやりますか」
系統外魔法の一つ影魔法を使った魔法でアリアンヌ王女殿下を観察していた黒装束は、空間を操る手袋の魔装武器を使用し、指先から鋼鉄並みの強度を誇り、蜘蛛の糸の様な変幻自在になる魔鋼糸を出して、襲ってくる魔物を細切れにするのだった。
彼らの様に一騎当千の実力を持つ者がいる街は良いが、そうでない場所は悲惨としか言いようがない。
また、別の国でも名のある二つ名持ちたちが奮闘し、勝利し続けるがこの国では、二つ名持ちが魔物の大群に惨敗して早々に戦死してしまった。
「く、くるなーーー」
「いやああああーーーー」
魔物は町の中を徘徊し、人族や亜人族、獣人族などを見つけては数で圧倒し、嬲り殺していた。住民たちも魔物から逃げるため必死に走るが、逃げた先にも魔物が居り、殺される。地獄と言うのがあればこう言う現状を言うのだろうと思える程、悲惨な光景。
しかも魔物によって、悲惨さが異なる。ゴブリンやオークなどの他種族の女性を凌辱する魔物から、オーガやサイクロプスなどの食料として扱う魔物。コボルトの様に玩具の様に嬲り殺す魔物と様々だが、どれも最悪の結末しかない。
一人の母娘が魔物の群れから逃げるために街中を駆け巡っているが、遂にホブゴブリンに追いつかれてしまう。
「いや、こ、来ないで」
「ママーーー」
ホブゴブリンからしたら母親の方は凌辱の対象に、娘の方はまだ子供なので、食料として考えていた。
「奥さんこっちへ」
そこに街を守護していた兵士が三人現れる。
母親は娘と共に其方に移動し、兵士の案内で逃げようとする。ホブゴブリンからしてみれば折角追い詰めた獲物を逃がそうとしている者は、敵と認識して腰に身に付けていた刃が欠けた両手剣を渾身の一撃で振る。
剣圧で吹き飛ばされる兵士たち。
更に状況が悪くなる。ホブゴブリンだけでなく、他の魔物も加わって来たのだ。
三人の兵士は、魔物に成すすべもなく、まるで玩具の様に苦痛を与えながら殺した。その場から逃げられなくなった母娘も・・・・・悲惨な末路を辿る事になる。
そんな母娘が居た街から馬車で半日ほど移動した場所にある町にも魔物が襲って来ていた。唯一、魔物の大群の数が二千程度だと言うのは、大半を母娘のいた街に向かったからだろう。
二千の数相当だが、この町は防衛に成功していた。この町には、名のある料理人・・・が居たのだ。
「ショウ。まだ来るぞッ!!」
「あー、俺戦うの苦手なんだけどな。くそっ。『アシェ』」
名のある料理人・・・ショウは、片刃の短剣を素早く振るう。繰り出す斬撃の回数は十回以上。『アシェ』とは、本来みじん切りや刻むなどの意味を持つパテェシエの技法の一つだ。
彼は、料理人でもありこの世界でも数少ないお菓子専門の料理人なのだ。戦う事が嫌いな彼だが、この辺りでは誰よりも強く、お菓子の材料を一人で調達に行くような危ない存在。普通の時でも獣や魔物が生息する場所に、材料集めに一人で出かける料理人などいない。
しかも、彼自身はお菓子専門と自称しているが、普通の料理もかなりの腕だと言う事は、この町にいる者は誰でも知っているほどだ。
戦慄の料理人と言う二つ名まで与えられる程だが、彼自身は冒険者ギルドに所属していないので、そんな二つ名はある意味不名誉な事なのだろう。
兎に角、彼のおかげでその町は魔物の大群から多少の被害を出したものの、壊滅的な打撃を免れた。
そんな国だけでなく、アルデレール王国は、騎士団が大々的に活躍して、かなりの被害を出してしまったが、撃退した。
アバルトリア帝国も守護八剣の活躍や名のある冒険者たちの手によって、アルデレール王国同様に防衛に成功している。各国は、被害の規模が多少異なるが防衛に成功していた。それこそ村や町、都市が壊滅した国も少なくない数で存在している。
それだけの規模の魔物の大量発生、街への進行は過去にないレベルの災害で、この事件の裏には魔王軍が関与していると噂された。実際に魔王軍が裏で動いていたのだから、間違っていなかった。しかし、誰もが魔族以外を根絶やしにしようと襲ってきたと考えたが、魔王軍の本当の狙いは別にあった。
魔物の大群による奇襲はあくまでも陽動だったからだ。
その事を人族たちが知るには、数年後の事となる・・・。
因みに最も悲惨だったのは、ゴブリンやオーガではなく、アンデット系の魔物だろう。殺された者がアンデットとして復活して今度は自分たちを襲って来ると言うもの。幾つもの街が全壊し、国自体ももうだめだと言った時に勇者コウジ・シノモリがやって来て相当な被害を出したが、如何にか国は残った。
また別の場所・・・いや、世界と言うべき場所。
「ヴァーリ様、邪神アフーム・ザーが霧の神ムンム様と天候の神アダド様との戦闘が開始されました。それに伴い、ムンム様が管理していました惑星アノナド、ピュラトク星が跡形もなく崩壊しました」
「ヴァーリ様、太陽系第三惑星でも謎の現象が多発しております。邪神ハスターが意図を引いていると思われます」
ヴァーリと呼ばれる神。レオンハルトたちの生前だった時に手違いで死なせてしまった原因を作った神でもある。まあ、第二の人生をと言う事で今の身体を与え、最大限の恩恵も渡している。
「これ程までに邪神が復活してたとは、どれだけの命が失われたのか・・・。これ以上被害を大きくするでない」
ヴァーリの言葉と共に、神に使える天使たちが、更に奮闘する事となった。
神が自ら関与する事が出来ない。もし関与するとなれば、それは邪神が関与してからになる。先に動けないもどかしさはあっても、そう言う世の理だから文句が言えない。
それは、まるで事件が起こらないと動けないとある課の様な組織と同じなのかもしれない。しかし、直接的な関与が出来ないだけであって、間接的な関与は出来る。それが今回の様な勇者召喚や転生者、転移者と言う存在でもあった。
邪神を復活させるための邪教徒、邪神崇拝者、闇の組織・・・色々な名で呼ばれるそれらを御し、邪神復活を阻止できれば良い。出来なければ、邪神が復活して世界を滅ぼし、神がそれに伴って直接関与する。出来るだけ、世界が滅ぼされない様に準備する神たちの役目は、非常に苦労が絶えない仕事だろう。
何時も読んで頂きありがとうございます。
今年も残り僅かですが、頑張って執筆しますので、応援よろしくお願いします。




