156 領地開発~襲撃~
おはよう。こんにちは。こんばんは。
急に朝晩が冷え込み始めましたね。
皆さん、身体にお気を付けください。
オットマーたちとの久しぶりの再会に嬉しくなるシャルロット。共に過ごした日々はほんの数日だったが、知っている人との再会と言うのは例え数日であっても嬉しものなのだ。
「今日は二人だけで?」
面会に顔を出してきたのはオットマーとその娘のソニアだけだった。彼女の母親や一緒に救出した人たちの事を確認すると・・・。
「いえ、あの時に一緒に居た人も皆このレカンテートに来ております」
「そうだったのですね。それで、此処には行商で?」
開発途中の為に商人たちの出入りは激しいが、仕入れの方がメインで、売り物は今の所殆どないと言っても良い。売れる物としては、周辺に出没した獣や魔物の素材ぐらいだろう。特に珍しい物も無いので、態々このような場所に買い付けに来る必要もないのだ。
国家間を行き来する行商なので、もしかしたら他国の何かを売りに来た可能性も十分考えられる。
オットマーの表情は少しばかり困った表情で口を開く。
「この度は、行商で寄らせていただいたのではなく、出来れば・・・この街でお店を開きたいのです」
商人の多くは、お店を開き規模を大きくしたいと言う望みがある。しかし、お店を出せる街にも限度と言うのはあるし、売れ行きが悪ければ直に店を畳まなければならない。
店舗経営をする為の資金集めとして、露店での販売や行商などでお金を貯める者は多い。オットマーは、行商の方が色々な所に行けるから敢えて彼の様に行商人を続ける人も居るが、今回彼らは、今までの考えとは異なる言い分をシャルロットに話した。
「命を助けられ、どう恩返しをしたら良いのか、ずっと考えてきました。レオンハルト様が貴族当主になられ、更には領地までいただいたと聞き、私たちに出来る事は商人として皆様の力になる事だと思いました」
オットマーの話を真剣に聞くシャルロットとフリードリヒ。
アヴァロン伯爵領、その領地として与えられているレカンテートの街。大規模の領地開発でオットマーの様に行商をしていた者や出店や露店などで商売をしてきた者、すでに店舗を持っているが第二第三の支店を作りたいと言う者も多くいる。
今もそう言う人物は基本的に紹介状を持参している者か厳正なる審査をクリアした者だけしか店舗経営を許可していない。それこそ開発を始めた時は特にその様なルールは設けていなかった。
ある程度発展し始めた頃にかなりの人数が押し寄せてきたので、ルールを設けて絞る様にしている。クイナ商会がほぼ何でも屋に近い商会なので、クイナ商会に喰われない商会か、異なる路線の商会、ジャンルが被ってもそれ程被害が出ない商会しかない。
異なる路線とジャンルについては似た様な言い方だが、例えば異なる路線だとクイナ商会で取り扱わない工芸品やお土産物などで、ジャンルが被るとは、食器類でもクイナ商会は硝子作品に対して、銀食器を取り扱うとか木製食器を取り扱う等だ。
衣類も同じで、クイナ商会の服は割と庶民的と言うか、デザインは前世の物を参考にしているし、シャルロットだけではなくアカネたちも色々デザインしてくれているので、他で真似が出来ないデザインが多い。逆に一般的な衣服店は古着や元来からあるデザイン、貴族服にドレスなどがあげられる。
そう言う事にはあまり触れて来ていないのがクイナ商会の良い所でもあり、異質な所でもあるのだ。
斬新だから人が集まると言う意味もあるし・・・。
まあ、同じ物を出してはいけないなんて事もない。一つの街に同じ商品を取り扱うお店だってたくさんあるのだから。
気を付けなければいけないとすると、言わば百貨店と個人商店との違いの様な感じなので、個人商店としての魅力を出さなければいけないのが大変だろうとは思う。
後は同じエリアで出さない様にするなどすれば意外といけるが、同じ系統しかないのも困る。オットマーたちが何を売り出すのかと言うのが今回最大の懸念事項とも言える。
「オットマー殿、貴方方はどの様な店舗を出そうと考えておいでなのでしょうか?」
フリードリヒが彼に尋ねる。
「我々は、今までの経験を生かした。他国の輸入品を取り扱いたいと考えております」
「他国の品とは、アルデレール王国では手に入りにくい物と言う事でしょうか?」
確かに彼の様な他国の商品を取り扱う商会は今の所、決して多くは無いので枠としても問題ない。けれど、何を扱うのかと言うのが非常に気になる。
「主に考えているのは、お酒でしょうか?」
「お酒ですか?」
レカンテートは、王国でも隣国から離れているので、輸入出来る物も数が少ない。それこそ国境付近であれば生ものでも取り扱う事は出来るだろうが、遠いとなると日持ちする物に限られる。
確かにお酒と言うのは、結構日持ちするが、王国とそれ以外の国となるとそれ程違いが現れるのだろうか?
「産地の物によって若干味が異なります。試飲が叶うのであれば、此方の飲み比べをしてみますか?」
「・・・・フリードリヒ。確認してください」
シャルロットは、未成年なのでお酒を遠慮し、フリードリヒに飲ませる事にする。用意されたお酒は、蜂蜜酒と呼ばれる甘いお酒で、売られているのはどちらも違う国の物。
「それでは、失礼して・・・・ふむ、中々の出来です」
最初の種類を飲むと感心した様に頷く。アルデレール王国の一般的な蜂蜜酒とはかなり違う様だ。国でも地域によって味は変わるが、そのどれとも異なる感じらしい。もう一種類も飲んでみると、これもまた深い甘みの中に少しほろ苦さを感じた。
「私は、此方の味の方が好みです。最初の蜂蜜酒は若い女性に好まれそうでしたが、此方は男性の方が好みそうです」
「そんなに違う感じ?」
「ええ、全く違う味わいです。確かに、好みは分かれそうですが、多くの人が集まる場所では繁盛するでしょう。お店や食事処に卸すと言う選択肢もありますね」
フリードリヒのお勧めもあり、レオンハルトと話し合う必要はあるが、問題ない事を伝えた。
その日の夜に、オットマーとの再会の話と商店を出したいと言う話をレオンハルトにする。レオンハルトも久しぶりの名前に少し驚いていたようだが、提案された件を快諾する。出来ればクイナ商会へ引っ張りたいような人材でもある。クイナ商会の行商部門はそれ程力を入れていないので、そっち方面に力を貸してくれたらと思った様だ。その事は私自身も同様に思っていた。
私たちが行商も行っていた時に比べれば七割近く落ちている。まあ、その分店舗の方がかなり忙しいから仕方がないとも思っていたが、行商と店舗では大きな違いがあるのだ。
各地の農村の者は、自分たちの仕事で忙しく。街へ頻繁に買い物に行けない。野菜や根菜類、家畜などで自給自足は出来ているが、逆を言えば調味料などは購入するしかないのだ。他にも消耗品などの鍬や鎌、包丁と言った物も村にいる鍛冶師が修理できるが、それでも限界はある。
薬などの備蓄も限りがある上、娯楽が全くない所もあるのだ。
行商人が訪れると言うのは、ある意味村人たちにとっての気晴らしにもなっている。行商人側にも利益はある。村で育てた野菜を安く買い取ったり、干し肉や干し野菜などの日持ちなども売ってもらえたりするし、魔物や獣の素材も仕入れる事が出来る。
小さな商会は、自分たちで仕入れの為に店を休んだりしながら、行商として活動しているが、大きな商会も行商を行う事もあるが、多くは行商人と契約して仕入れをしている場合の方が多い。
馬車で何日もかけて色々な村々を移動するから、行商人と言う仕事も簡単ではないし、盗賊や魔物に襲われる危険性もある。冒険者を雇っている人も多いので意外と出費はかかるし、それを街で売る時は結構高めの値段になっている事も多い。無論、売り上げに対しての税も支払わなければいけない。
品物の本来の値段よりも輸送費などの方が高くついてしまうのだ。
「所で、お店の場所はどうしますか?」
フリードリヒの問いと共に現在区画整理が終えたレカンテートの地図を取り出す。上質な羊皮紙にきちんと計測した図面。事細かに書かれた内容もそうだが、非常に分かりやすく書かれている。
今はまだ羊皮紙の状態だが、いずれは魔道具化したいと思っている。
後は、住民たちの数の把握や状況を知るために住民登録も行っていくつもりだ。前世での市役所的なところを作って、領民から土地、店舗、家など様々な管理をしてもらう。これも簡単に行えるように専用の魔道具を作る。街を出入りする記録とも連動させたいので、どうやって確認していくかが課題になるが・・・。
「この辺りか・・・もしくは、この辺りが開いていたはずだよね?」
「ええ、それと其方と此方も所有者は決まっていませんので、空き地の状態です」
地図を見ながらフリードリヒが他の候補地も進めてくれる。酒類を主に扱うのであれば、フリードリヒの方が詳しいだろうから、近いうちにオットマーたちと打ち合わせをする様に指示した。
(それにしても、オットマーさんが来ているとは・・・本当に懐かしいな。今のブラックワイバーンレザーコートもあの時襲っていた魔物から作った物だったよな)
近いうちに時間を作ってソニアたちに顔を見せに行くかな。
そんなことを考えながら、翌日もレカンテート周辺の整備を行った。
薄暗くジメジメした場所で、蠢く無数の生物。
足音と密接状態による金属が衝突する音、生物の声や吐息がその内部を反響させる。蠢く正体は、ゴブリンやオーク、ダイアウルフ、トロール、オーガ、リザードマンと言った魔物だ。しかも、変異種や上位種までいる状態。
百万を軽く超える数の魔物が、薄暗い洞窟内を進行していたのだ。
どこから現れ、どこに向かうのか分からない。
洞窟内部は、無数に枝分かれをしており、その度に半数に分かれて進行を継続していたのだ。
「キサマラ、サッサトアルケッ!!」
指示を出したのは、体長四メートルを超える牛頭人身の魔族、ミノタウロス種・・・その中級魔族にあたるブラッドタウロス種だ。赤黒い皮膚が恐ろしさを強調する。片手で持つ大型の両刃斧。
ブラッドタウロスはある命を受けて、この集団を率いているが、彼と同格の魔族も多くおり枝分かれをするごとに部隊長が生まれ、部隊に指示を出す。
各地で暴れると言う命令だが、その裏には別の目的がある。牛頭人身の魔族のブラッドタウロス種や鬼人族の中級魔族にあたるカイゼルオーガ種などが率いている。他にも悪魔族や豚頭人族もいる。魔族だけでなく魔物も驚異に値する種が参加しており、ブラックオーガやグランドサイクロプス、オークジェネラル、ゴブリンチャンピオンと言うAランク相当に値する魔物。フレアリザードマンやビックトロール、ポイズンウルフ等のBランク相当の魔物。他にもCランクやDランクもたくさんいる。
これだけの数が暴れるだけで、各地に大混乱を招くのは必然ともいえる。
水面下で動く集団、しかもお互い連絡が可能な特殊な魔物が部隊の動きを合わせ、同時に襲撃をすると言う最悪の作戦を企てているのだ。
しかし、集団と言うのは必ず秩序を乱す者も存在する。それは人族であろうと魔族や魔物であろうと同じ事で、特に下位の魔物は好き勝手に動く者も少なくない。
そんな中で数百体のゴブリンが交易都市イリードの周辺から出現する。これだけ見れば元々いるゴブリンが集落を形勢したのだと考えられる規模だが、現在は先日の件で高ランク冒険者たちを調査にあたらせているので、十数体の規模であれば見逃す可能性があったとしても数百体ともなれば、見逃すなんて事はあり得ない。
一通り調査を終えた冒険者が、一度イリードへ戻ろうとしたところ、大量の足跡を発見する。
「・・・これは、ゴブリンの足跡?」
「何故こんな場所に?」
すでに調査を終えた場所で見つかる魔物の痕跡。もちろん生物なので、移動をするから調査後にこの場所に来たと言える状況だが、それでも足跡の数が異常に多い。
「この方向は・・・まさかっ!?」
足跡が色んな方向に向いているが、それを辿るとこれから自分たちが向かう方向を一致している事がわかった。ゴブリンの進行方向がイリードの町であること、そしてその数が驚異的な物だと言う事。
調査をしていた冒険者たちは、急いでイリードの町に向かう。もう少しで森を抜けると言った所で、イリードの町から無数の煙が立ち上っている。更に、街にいる者が戦っているのだろうか、戦闘音や声が聞こえてきた。
ゴブリンが既に町を襲っていたのだ。
高ランク冒険者たちは、ゴブリンたちの背後から挟撃をする形で戦闘に加わる。上位種と変異種が数十体混ざっているようだ。
「くらえ『ブレイブスラッシュ』」
「『インパクトナックル』」
冒険者たちは、次々に技を使用してゴブリンを倒して行く。倒しても、倒しても減らないゴブリン、冒険者の数も五十人以上が参加している。百体だと考えれば一人当たり二体を倒せばよいが、乱戦の中で思う様に討伐が進まなかった。
「負傷した者は下がって回復を」
重症者はいないが中軽傷者はかなりの数が出ている。それに変異種の相手に冒険者が六人前後で当たっている事も中々倒せない原因の一つだろう。
ゴブリンの襲撃から半刻ほどで、如何にか全ての魔物を倒す事に成功する。しかし、負傷者は多く、外壁に被害はないが、門の辺りは地面が凸凹してしまっている。
「皆お疲れ、よく頑張った」
冒険者ギルドイリード支部の支部長ギルベルト・オーレンドルフは、防衛した者たちに労いの言葉を掛ける。冒険者だけでなく、警備兵や腕に覚えがある町民も参加していた。今は、乱戦に参加しなかった新人冒険者が、ゴブリンの死骸の回収や後処理に走り回っている。
新人冒険者にとってゴブリンは戦えなくはないが、危険な魔物に変わりはない。それに乱戦となれば、他の者の足を引っ張る恐れがあるため、新人たちが出しゃばって良い戦いでもないのだ。
腕に覚えがある町民は良いのかと言われると、本来はだめだが・・・。参加している者は、猟師経験があったり、元冒険者だったりと言うものが殆ど。だから、戦いに参加できたと言える。
「魔物の数の集計結果です」
ギルド職員は、新人冒険者と共に数えた数と内訳の報告書をギルベルトに手渡す。ギルベルトはそれを見て眉間に皺を寄せた。
「ゴブリンが二百十四体、ハイゴブリン十体、ホブゴブリン一体、新種のゴブリンが十三体か・・・」
新種が出現する事はあり得る。変異種のすべてを把握しているわけではないのだ。けど十三体と言う数字は多い。
ゴブリンに模様が入っているだけの新種だが、これまでに報告された事はないのだ。
「本当に新種なのか?」
「通常のゴブリンよりもかなり手強かったと報告を聞いています」
模様があるだけで強さが変わるのかと思ったギルベルトだったが、実際はかなり違いがあるそうだ。
「立て続けに現れるとは・・・ヒュース。悪いけど足跡があったあたりをもう一度調べてくれるか?」
ヒュースと呼ばれる犬人族の中年の冒険者。現在、イリードで一番実力のあるCランク冒険者の一人。他にも四人同ランクの冒険者がいるが、ヒュースの仲間である人族とドワーフがCランクを持っていて、他の二人は同じチームではない。
先程まで調査をしていたのが、ヒュースたちのチームと他の二人が所属するチームなのだ。
「カインズたちも戻って来て早々にすまないが頼めるか?」
カインズと言う人族の青年がヒュースたちとは違うチームのCランク冒険者だ。
「明日じゃだめなのか?正直言うと、もうヘトヘト何だよ」
「ああ、今すぐ頼めるか?何か嫌な感じがする。ルーファスたちは、元気そうな冒険者たちを連れて外壁の上から監視を頼む。クイルは報告を頼む」
冒険者として活動していた時の様な何か起こる前触れの感じが肌に感じるギルベルト。所詮勘と言われればそれまでなのだが、冒険者のこういう時の勘は割と当たる。それが元でも同じである。それもギルベルトは元Bランク冒険者で超一流の分類に入っていた程の人物だ。勘と言うのは経験がものを言うため、高ランク冒険者程勘が当たりやすい・・・。
ルーファスは、先日レオンハルトが助けた冒険者たちで、あの後すぐに馬車でイリードの町にやって来た。遭遇したゴブリンの集団について報告をした方が良いと言う判断の元。
到着したのが今朝なので、報告は済ませているが、そのあと暫く宿屋で休んでいたら騒動に巻き込まれた。
彼らが引き連れて来たのではと普通は思うだろうが、今回に限って言えばあり得なかった。事前にレオンハルトから報告を聞いているし、同行者が一応隈なくあたりを探したが取り残しや他の集団がいたと言う報告はなかった。
新人の域から出ない彼らは、先の乱戦には加わらず、他の新人たちと共に後方支援をしていた。支部長から言われた事も、雑用と言えば雑用だが、重要な仕事でもあるので、ルーファス他の者に話をしに向かった。
「支部長。報告だが、最初に行っておくと今回のゴブリンの襲撃は予想外の行動だ。行きの段階でそれらしい痕跡はなかったのは俺自身も確認している」
「となるとクイル。お前は、突然現れたとでも言うのか?」
「状況だけの判断だとそう捉えても不思議ではない。ただ、レイス系などではない以上突然現れると言うのは可笑しい。偽装している抜け道の様なものがある可能性も考えられる」
冒険者ギルドの調査を行うギルド職員のクイル。今回は、レオンハルトの報告を聞いて現場確認や調査の為にヒュースたちに同行して調査をした。
「それに気になる事がある。彼らが襲われた直ぐ後の襲撃。俺たちの知らない所で何かが起こっているかもしれない」
クイル自身もギルベルト同様に何か分からないがこの張り詰める空気の変化を感じ取った。
「そうだな。兎に角ヒュースたちの調査結果を待つ事にするか」
しかし、事態は彼の考えていた事よりもずっと最悪な形で現れた。
ギルベルトが、ヒュースたちに指示を出して四半刻もしないうちに、彼らが戻って来たのだ。半刻もかからないとはいえ、四半刻で戻って来るのは早すぎるのだ。
「支部長ッ!?やばい、さっきの魔物とは比べ物にならない数の魔物がイリードに向かって来ていた」
「何ッ!!数は?」
「分からないが、見える範囲全てを覆い尽くす数だっ」
百や二百と言う数ではなく万単位の魔物の集団。それも詳しく聞けば色々な種族が混ざった混種構成による襲撃。同種族ならまだしも他種族も混ざっている事は決して珍しいとはいえないが、万単位ともなれば、どうやって連携を取っているのか分からない。
指示伝達が上手くいかないのが普通だ。
「まさか、さっきの襲撃は斥候部隊か?」
ギルベルトの読みはやや間違っていた。今回襲撃してきた魔物は斥候部隊ではなく、ただ先走った連中で、斥候部隊は実はレオンハルトやアインスたちが倒した集団の方だったのだ。
今となってはどうでも良いかもしれないが・・・。
「どこにそれだけの数を隠していたんだ?」
冒険者ギルドの職員であるクイルが「俺たちが見逃したせいで・・・・」と悲観する様な口調で話をするが、そもそもクイルを含め調査に出ていた冒険者が真っ先にこの集団に遭遇してたら、一瞬にして全滅していた可能性が高い。
これが普通のゴブリンでも万単位の相手となると技術の質よりも物量で圧殺されるのは必然。
「・・・っ!?すぐに緊急連絡。最寄りの町へ救援要請、町民たちの避難、王都にもすぐに事態の報告を」
他のギルド職員たちが慌てて冒険者ギルドに戻る。それと入れ違う様に冒険者ギルドで待機していた職員が慌ててやって来た。
「し、支部長っ。複数の街から緊急連絡。千を超える魔物が襲撃しているとの事で、最寄りの街の冒険者は至急応援にとの事です」
ギルベルトは絶句する。
同じ様な案件が、自分たちの所だけでなく他の街にも同時に襲撃があったのだと。これでは、救援要請どころか他の街への避難も難しい可能性がある。
「支部長。森の奥が何か変です」
外壁から見張りをする様に言われたルーファスが、外壁の上から大声で伝えてきた。
「現勢力で迎え撃つしかないか・・・全員良く聞けっ!!再び魔物がこの町に向かって進行中、これより総力を挙げて迎撃を行う。町中の武器や防具、薬などを搔き集めろ」
「まじかよ・・・」
「・・・さっきのでも結構厳しい戦いだったのに」
「絶対に負ける」
負傷していた冒険者たちが、かなり弱気な事を小声で言う。絶望感に襲われる者たち、恐怖で立ちすくむ者、現実逃避をする者、自暴自棄に魔物がいる方角に向かった威勢を叫ぶ者と様々ではあるが、一様に言える事は、普段通りの状態ではないと言う事だろう。
普段通りでも勝てない数を、そんな状態だとまともな戦いになる事さえ難しい。万全だろうとそうでなかろうと、結果は全滅する。出来る事と言えば、町民たちの避難の時間稼ぎ位だろう、それも避難先が襲われている可能性があるので、かなり運任せな部分もあった。
「目視で最初のグループを確認」
色々な所から色々な情報が飛び込んでくる。
外壁の内部では、迎撃の為の準備も着々と進められていた。恐怖に襲われながらも準備をする冒険者たち。
高ランク冒険者たちは外壁の外に出て準備を行い、低ランク冒険者たちは外壁の上から援護を行う。内側では町民たちが必死に逃げる準備をしていた。
そんな時に、ある事を思い出したギルベルト。直ぐに腰に付けている魔道具へと手を伸ばして使用した。
(出てくれ、出てくれ、出てくれ)
「はい?此方レオンハルトですが、ギルベルトさんどうかしましたか?」
魔道具から聞こえてきた声は、何度も魔族の襲撃を返り討ちにしてきた英雄と呼ばれる存在。既に、ギルベルトが現役時代に到達できなかったAランク冒険者のチーム。その筆頭であるレオンハルトに遠距離連絡用魔道具で連絡を取った。
「此方、イリード支部のギルベルトだ。現在、万を超える魔物がイリードに向かってやって来ている。大至急救援を頼めないか?」
「・・・・分かりました。直ぐに準備をして向かいます」
「頼む・・・」
取り敢えず、勇者に匹敵する冒険者の確保が出来た。これで大丈夫とはいかない数だが、少しは防げるだろう。
それから、暫くすると先頭を突き進んでいた魔物の集団が、冒険者たちと接触し戦闘の火蓋がきられた。
何時も読んで頂きありがとうございます。
誤字脱字の報告もありがとうございます。時間がある時に随時修正を行って参ります。
今後も応援よろしくお願いします。
 




