154 領地開発~続~
おはよう。こんにちは。こんばんは。
さてさて、今日もまったり過ごしましょうーー。
「こんな感じで良いかな」
土属性魔法で即席の外壁を作る。既にレカンテートの街の開発予定地も含めた場所全域に外敵からの防衛策として堀と外壁の設置を行った。一応東西南北に王都と同じような壁門を設置し、門の上から外が見えるようにしている。因みに堀も外壁も何度か手直しを起こない、結果・・・堀は落ちたら上がってこられない様にしただけではなく、強引に突撃してきても良い様に強化面もきちんと施している。更に堀の底には数種類の罠まで仕掛けておいた。
城壁も上から攻撃が出来るように通路を作っているし、壁の高さも約六メートルにもしている。堀の深さが十メートルなので、合わせれば十六メートル近くも高さに差があるのだ。煉瓦にコンクリートもどきに鉄など様々な構造で作っているため、物理防御はかなり高い。それだけに留まらず、魔石なども使い魔法攻撃に対する防御の魔法や壁より上の上空から侵入されない様に魔法結界も張っている。
王都に匹敵するかそれを上回っても可笑しくない万全の構え。
これを作るのに十日近くかかってしまった。
因みにトルベンたちにはアインスたちの装備作成をお願いしており、現在進行形で頑張ってくれているはずだ。二日間にかけて素材を集めたが、ほぼ総動員して集めたので、恐ろしいほどの量が確保できた。全てを使うわけにもいかず、幾らかは冒険者ギルドに卸している。
で、一番疑問に思っている事だろうけど・・・王立学園の休みは既に終わっている。俺たちはもう二ヶ月程延長して休むよう学園側に届け出をして、毎日忙しく開発を行っていたのだ。
それと、王都や各辺境伯領を移動しやすくするための対策は、企画書をエトヴィン宰相に渡し陛下たちと吟味の結果、無事に開発許可が下りた。流石に直ぐには動けないので、それまでの間に材料の調達をお願いしている。
鋼鉄などは幾らあっても足りないし、魔石や銅、ミスリルなども多く必要になる。今は下準備期間と言う事で、俺たちはまだ手を出していない。
他の皆も色々手伝ってくれているし、こう言うのが不向きな者は周辺の魔物や獣を間引きに行っている。
「うわーかなり頑丈な壁が出来てるね」
「わかるか。リーゼの攻撃でもビクともしないぞ」
完成した外壁を見で素直な感想を述べるリーゼロッテ。
「ちょっと力を入れ過ぎではないの?」
ティアナとリリーもやって来て余りの完成度に呆れていた。
「リーゼ様、シャル様が探していましたよ?」
ティアナとリリーだけでなくエルフィーもやって来る。彼女は怪我人が居ないか見回ったり、仮で作った救護場で怪我人の手当てなどをしてくれていた。
リーゼロッテは、そのままシャルロットの元へ向かい。ティアナとリリーは頼んでおいた作業が終わった事の報告に来た。
ティアナとリリーは整地済みの土地の区画整理で動いてもらっていた。道になる予定の場所や更に家や店舗など建築予定場所に四方などに杭を打ち紐で区切る。
もちろん、そこには何が経つのかなどの立て看板も設置してもらっている。
これまでは、限られた人数で孤児院と領主館、アヴァロン伯爵の屋敷の整地などに割り当てていたし、店や家も街の中央区に集中して作っていた。今回、区分けをきちんと行う事で、より効率的に作業を進められる。中央区はそのまま進行するので、東西南北の区域を整備しているが、拡張したエリアもあるので、建築作業を行っている者たちは、数年は終わらないだろうけど。
「さて、資材調達に行って来るかな」
木材や鉄鉱石などがこれから大量に必要になる。魔石も同様に必要だが、此方は他の者たちが収集に行っているす、冒険者ギルドへ依頼も出しているので、それなりの数が集まるだろう。
そう言ってレオンハルトは一人、転移魔法で何処かへ行ってしまった。
姿を隠していたアインスが慌てて飛び出してきたが、時すでに遅く、護衛に就けなかった事を後悔していた。この場合、アインスが悪いのではなくレオンハルトが勝手に単独行動をしたのが悪いのだが、ティアナたちが彼女を慰めようとした時には、再び姿を晦ましていた。
一方、リーゼロッテは、シャルロットに呼ばれて移動中。
「リーゼロッテ様、どちらに行かれるのですか?」
丁度、職人たちへ食事の配給をしていたソフィアたち給仕係が居た。食べやすい様に何かの肉の串焼きと野菜スープ、それにパンと言う組み合わせ。串焼きがかなり多めなのは肉体労働をしているから、体力を少しでも賄うためだろう。
「シャルちゃんが呼んでたって聞いたから・・・どこに居るか分かる?」
「シャルロット様でしたら彼方の方に」
教えてもらった方角に視線を向けると、クリストハイトやアンネローゼと共に話をしていた。アンネローゼはこっちの手伝いに来るようになって同行する事が増え、現在では一日おきに訪れている。
同様にアシュテル孤児院の卒院生たちも手伝いに来てくれていた。とは言っても、手に職を持つ者はそう簡単に抜ける事は出来ないので、冒険者として活動している者が殆どだが。
リーゼロッテは、そのままシャルロットの元に向かう。
「シャルちゃん。私に用って?」
「あ、リーゼちゃん丁度良いタイミング」
呼んで置いて丁度良いタイミングもないのだが、リーゼロッテはそんな事を気にする様子もなく、話を聞いた。如何やら、この場の指揮をしていたシャルロットが、少し用事が出来たとの事でこの場を離れなくてはいけないらしく、代わりに指揮をするのかと思っていたらそれはアンネローゼに頼んだらしい。私への様と言うのは卒院生たちと共に南区域の手伝いに行って欲しいのだそうだ。元々、アンネローゼが対応する予定だった仕事の様で、内容も資材の仕分け作業と振り分け作業をほしいとの事。
「うん、分かった。これから向かったら良いんだよね?」
リーゼロッテは、その場に居た五人の卒院生たちを引き連れて南区へ移動。因みにその卒院生たちは皆顔見知りだ。一人はヨハンやクルトたちと同じ年代で、二人がユリアーヌの一つ上、残りの二人は更にその一つ上の人。
「カルラ姉もアル姉も手伝いに来てくれて、ありがとう」
カルラ姉と呼ばれる栗毛色のボブカットの女性とアル姉と呼ばれる若草色の三つ編みの女性。二人がこの中で最年長になる二人。どちらも・・・と言うよりもこの五人も冒険者として活動している。カルラ姉ことカルラとアル姉ことアルフィナは互いにチームを組んでいる。他のメンバーは冒険者ギルドで知り合った仲間だそうだが、この場には居ない。別件でイリードに行っているのだ。
「妹ちゃんたちが頑張っているんだから、うちらも頑張らないと」
「それに、アンネ先生にもまだ恩返しが足りていないしね」
レオンハルトとはそれ程接点はなかったが、シャルロットとリーゼロッテは性別が同じと言う事もあり仲は良かった。
「カルラ姉さんたちが返せていないって言うんだったら、俺たちは全然だな」
「俺たちって言うか、俺は何度か孤児院に顔を出したりした時にお土産や手伝い何かをしたぞ?」
そう発言するのは、ユリアーヌの一つ上・・・私たちで言うと三つ上の先輩たち。一人は単独で活動しているちょっと天然系な青年で名前は、ギード。もう一人は、ヨハンの様な感じの真面目さで、そこそこ活躍しているチームの一員で名前は、イヴァス。今日はチームで参加しているそうだが、チームメンバーは別の場所で建築の手伝いをしているとか。
まだ発言をしていない青年がロッタ。冒険者として活動しているが、戦闘よりも採取系の依頼を熟す事が多い冒険者。彼もまたギード同様に単独で活動している。活動拠点は、イリードを基準にしているが、結構転々と動いている。単独のギードとロッタはイリードから拠点を移した事は無い。
こういう話も、こんな機会がなければゆっくりできなかったと思う。
私を含めた六人は、南区域での資材関連の手伝いだった。運搬の作業だった場合は魔法の袋で移動させる事は出来るが、その手の魔道具は高価な為、カルラたちもまだ持っていない。この中で持っているのは私だけ。
まあ、運搬は土木作業や建築作業の担当が行う。私たちはその資材の振り分けと仕分け作業なので、魔法の袋などの魔道具を持っていても使う機会はない。レオンハルトが大量に持ってきた木材や煉瓦、綺麗にカットされた長方形の石、何に使うのか分からない謎の資材等々。これらを木材は何処用にと直接書いたり、煉瓦や成型された角石は十個単位にまとめたり、謎の資材も何処行きとまとめる。
かなりの数の資材を仕分けしていると、ギードが話しかけてくる。
「それにしても、あのリーゼがレオンと婚約とは・・・」
「確かに、レオンくんはシャルちゃんと相性良さそうだったけど、リーゼちゃんともとは思ってなかったね」
ロッタも話に加わってくるが、更にそこへカルラも加わってきた。
「私はそうなるかもって思っていたけど?」
皆でおしゃべりをしていても良いのかと言われても仕方がない感じだが、案外他の者たちも雑談をしながら作業を行っていた。言うまでもないが、仕分け作業などはリーゼロッテたち以外にも数十人単位で行われている。何しろ資材の量が多いため、人海戦術で行っている。
この後、区画整理が大方終われば、レオンハルトが各家や店舗、宿屋、公共施設などの基礎を作って行くらしい。その後、柱を組んで家の形にして行く手筈となっている。
手を動かしながら会話を続けていると、何故かレオンハルトと自分たちとの婚約についての話題になってしまった。きっかけは男性陣たちだが、話を広げていったのは女性陣だ。やはり、結婚と言う物に憧れているらしく。良い男がいないか、目を光らせているそうだ。
「それにしても、あのレオン君が伯爵様か。私も狙っておけばよかった」
アルフィナの発言にカルラも頷く。実はレオンハルトたちは孤児院時代、他の孤児たちから一目置かれていた。当然と言えば当然だろう。魔法の才能をもつヨハンに戦闘能力なら大人顔負けのユリアーヌ、ギガントボアを討伐したレオンハルト。同じくギガントボアの時に活躍したシャルロット、同年代でも実力派だったリーゼロッテ。此処にクルトが居ないのは、彼の態度が女の子たちから見た時、幼稚に見えた為、魅力半減していたのだ。
レオンハルトもヨハン、ユリアーヌは女の子から人気があったし、シャルロットやリーゼロッテも男の子から人気があった。単純に子供であっても皆、美少年や美少女だったのだから、余計に人気があったとも言える。
「まあ、私たちは直ぐに孤児院を離れてしまったから、アプローチなんてかける暇もなかったけど」
「そう言えば、アル姉ってリョー兄の事、好きだったような?」
アルフィナとカルラのアプローチと言う発言から、今度はイヴァスが話題を振った。良いタイミングとリーゼロッテは考えて、変わった話題を膨らませようとする。彼女も恋バナをするのは少々と言うかかなり恥ずかしかったのだろう。話が変わってくれた事を心の中で喜んでいた。
「なっ!?何で知っているの?」
「え?結構知って居る人多いですよ?」
知られていないと思ったのは本人だけ。恋はわりと自分では隠せているつもりでも意外と周囲にバレていたりするものだ。辛うじてアルフィナの想い人であったリュートと言う人物は自分が好かれていると言う事に気が付いていない残念な人物でもある。アルフィナたちの一つ上で、彼は現在、何処かの街で商売をしていると風の噂で耳にした事があった。
確か、アクセサリー商の新人だったはず。孤児院を出てからアクセサリー職人のもとでこれまで研鑽し、漸く見習いから外れたアンネローゼの元に手紙が届き、先日教えてもらったばかりだ。場所も書いてあったのだが、リーゼロッテは興味がなかったので詳しくは聞かなかった。もし聞いていればアルフィナに教えてあげる事もできたのだが。
それにしても、終わらない仕分け作業に半ば呆れてしまう。これらの物資の半分以上はレオンハルトがこの数日で集めてきた物資。木材などは私たちが手伝う前からそれなりの数を用意していたようだ。ただ、これらの移動となるとかなりの人手や間道具を頼らざる終えない。
まあ、今日一日では終わらない作業なだけにまったり続けていた。
「話が変わるんだけど、最近おかしな噂が流れているんだよね」
「噂?」
「そうなのよ。聞いた事ないかな。変異種のゴブリンの話」
ゴブリンはこの世界で最も有名な魔物の一種。通常のゴブリンは、下級の魔物に分類され新人冒険者がどうにか倒せるほどの強さしかないが、ゴブリン種の厄介な点はその繁殖力にある。同族だけでなく他の種族、人族と同じ姿であれば繁殖が可能なので、数体のゴブリンが村娘などを捕まえては苗床にし、まるで鼠算式に増えるのだ。十数体であれば対処も出来るが百を超える集団となれば驚異でしかない。
それだけでなく、ゴブリンの上位種や変異種は他の魔物に比べ、遥かに多く、新種のゴブリに出会うなんて事も稀にではあるが発生する。ゴブリンからオーガに進化する個体もいるので、魔物研究を行っているものたちは、魔物の奥深さに頭を抱えていたりする。
ただし、系統が似ていれば進化できるが、極端に異なる・・・例えば、ゴブリンからドラゴンに進化すると言う事は流石にできない。
もしかしたら、いくつもの進化を得てドラゴンにと言うことはあり得るかもしれないが、そう言った報告は未だに上がったことがない。
ゴブリン種で頂点にたつのが、ゴブリンキングか、ゴブリンエンペラーである。固有種を加えるなら、エンシェントゴブリンやカオスゴブリンと言うのもいた。カオスゴブリンは約七十年前に、エンシェントゴブリンは約三百年前に現れて、国が二つも滅びる程の被害を出したと記録されている。
そして、噂と言うのは変異種のゴブリンの異常発生の事。この辺りの話ではないのだが、最近ゴブリンを含めた異常な個体が増加していると噂が流れているのだ。
リーゼロッテもその噂は聞いた事がある・・・けれど、発信源が分からないし、現状自分たちが狩りに出た時の遭遇率は今までとそう変わらなかった。
「聞いた事はあるけど、それが何かあったの?」
「うん。私の知り合いの冒険者たちが、遭遇したらしいんだけど・・・通常のゴブリンよりも上位種や変異種の方が、数が多かったらしいよ」
「それ俺も聞いたな。ゴブリンとオークが一緒に行動していたって」
どちらもあり得ないと言うわけではないが、珍しくはあった。ゴブリンだけでなく魔物や獣、猛獣全般に言える事なのだが、人族も強くなるために剣を振るい強化され、更に魔法や魔道具で能力値を上げる事も出来る。それは、人族だけってわけではなく魔物たちも同様に言える。
例えば、ゴブリンがそこら辺にあった錆びた剣とボロボロの木盾で人族を十人近く殺した場合、その経験がゴブリンを進化させて、ゴブリンソルジャーとなる。経験だけでなく、あらゆる所に自然発生する魔力溜まり、これに長時間触れ続けていても何らかの進化を引き起こす事が出来るのだ。
魔力溜まりとは、空気中に漂う魔素が、何らかの原因で増加し更にその場で余剰分の魔素を貯め込んでしまう場所の事を言う。
自然発生する現象な為、何時何処で発生するのか、範囲も、魔素濃度も、発生期間も不明な非常に厄介な代物。
「それってどのあたりの出来事?」
この辺りではないとの事だが、そんな大群が近くに居るのは頂けない。
「確か、プリモーロよりもっと西の方角に進んだ辺りって聞いたな。一応、アルデレール王国内らしいけど、噂の確認のために高ランク冒険者や騎士団が調査するって聞いたよ?」
騎士団が絡むのであれば、もしかしたらレオンハルトが把握しているかもしれない。作業が終わった後に聞いてみる事にした。
その後も皆で力を合わせて作業を進め、如何にか今日中に終えなければならない作業より少し多めの作業を終える事が出来た。
夕食の時間にレオンハルトに尋ねようと思ったのだが、何処かに行って以降、まだ戻ってきていないとの事で、今日は戻らないと連絡もあったそうだ。
如何やらかなり良い品質の鉄鉱石などが取れる場所を見つけたらしい。それと聞いた事のない土の話もしていたとフリードリヒから聞いた。
その日は、シャルロットが皆を転移魔法で王都に移動させて、夜少し話をしてから就寝した。
リーゼロッテが就寝した頃、レオンハルトはと言うと・・・。
真っ暗の洞窟の中で、地面に手をついて魔法を展開する。地中に眠る各種鉱石を魔法で吸い上げて、一塊にする。一般的な発掘場所よりも更に地中深く、人力では不可能な場所から抽出しているから、良質で純度の高い高品質の鉱石を入手出来ているのだ。
今の洞窟に来る前は、大量の木材や石材などを集めており、かなりの数が集まっている。木材も普通の木ではなく、トレント系のトゥリー・エントと言う魔物を倒して手に入れた魔物の素材だ。一般的な木材に比べても丈夫で、色味も良く・・・何と言っても魔物なので、普通の木に比べても成長が早い。
原理は良く分からないが、恐らく地中に残った根の一部が空気中の魔素を吸収してトゥリー・エントとして復活する。ただ、復活と言うよりも生まれ変わりと言う方が近いのだろう。
一般的な木を苗木から育てたとしても数十年は育てなければ使えない。トレント系はそれこそ栄養となる魔素の濃度と量にもよるが、平均で七日もあれば復活している。最初はトレントやエントとして生まれ変わるが、そこから徐々に成長してトゥリー・エントやオークトレントと言うものに変化する。変わり種なのは、ホワイトオークトレントやブラックオークトレントと言う魔物もいる。これらの木材はそれぞれ白色や黒色をしているので、わりと人気であるが個体数が少ないために貴重でもある。
同様に石材もゴーレム系のストーンゴーレムと言う魔物を倒して表皮の石材を集めた。
狩場として選んだのは、以前トゥリー・エントで鍛錬をしていた時の場所だ。あの辺りはトレント系の魔物多く生息するし、そこからマウント山脈へ移動すれば、ストーンゴーレムが生息する場所に行ける。ブラックワイバーンが商隊を襲っていた時の場所の近くでもある。
更に、その場所の近くにある洞窟で現在夜通し、魔法を使った採掘作業をしているのだ。
「ん?奥から魔物か?」
採掘作業をしながら『範囲探索』で警戒を怠っていない。その魔法に引っ掛かったのは、アーマーグリズリーと言う熊系の魔物。怪力も勿論脅威になるのだが、真の恐ろしさはその防御力にある。
鉄製の武器やFランクやGランクの冒険者程度の攻撃では傷を付ける事もままならない。防御力の高さに名のある冒険者も撤退をする場合も年に数十件発生している。勝てないから撤退ではなく、武器の消耗の方が激しいからだ。この手の魔物は斬撃系の武器よりも打撃系の武器の方が良い。
ただし、武器を使えばと言う前提条件にある。魔法による攻撃は、物理防御力よりも低い為、中級程度の魔法ならわりとあっさり倒せてしまう。
レオンハルトは、振り向きもせずに魔法を発動。土属性魔法『落とし穴』で身体の半分を地面に落とし、更に落とし穴の内部に土属性魔法『石の槍』で串刺しにする。
一瞬で命を落とすアーマーグリズリーに対して、氷属性魔法で氷漬けにしてから採掘作業を続ける。アーマーグリズリー以外にもレオンハルトの周辺には氷漬けになっている哀れな魔物が数体存在していた。
深夜も半分が過ぎた頃に漸く、満足の行く量を確保できたレオンハルトは、氷漬けになっている魔物を魔法の袋に収容して洞窟を出る。
今から戻っても中途半端な時間なので、別の場所に移動する。
夜行性の魔物や猛獣も多く居るので、単独での夜間の移動は冒険者ギルドも進めていないのに、そんな事はお構いなしに移動する。
夜間で最も怖いのは、眠気による注意力が低下する事と、視界が極端に悪く敵の襲撃を察知しにくいと言う所である。夜行性の魔物は、真っ暗な状況でも相手の位置を把握できるなどの固有の能力を兼ね備えているものも多く居る。
そんな状況で次に向かった先は、昔ワイバーンに襲われていた商隊が隠れていた洞窟だ。
この中では取れそうな鉄鉱石はないが、代わりに奥にある川の周辺には、薬草や毒消し草などの様々な水薬に使える物がたくさんある。ついでに岩にこびり付いている苔も建築で役に立つので大量に回収しておいた。
前世では存在しなかった糊苔と言う苔で、すり鉢などで磨り潰すと粘り気のあるものが完成する。これを回収した土と混ぜ合わせるとモルタルの様な物が出来るのだ。
この方法はレオンハルトが見つけたのではなく。今回、レカンテートの街開発の時に建築をしている者から教えて貰ったのだ。
割と建築関係者は常識として知っているほど有名な物で、洞窟などで綺麗な水が流れている所でないと良い品質の物が採取できないのだとか。
一般的に出回っている糊苔は、人工的に作られた品種で、草食のロックアリゲーターと言う全長八メートル近い獣の背中に糊苔を張り付けて増やして商売にしている者から買い取っているそうだ。
アリゲーターは、前世では鰐なので、草食っておかしいと思ったが、仕入れに同行した時に目を疑う光景を目の当たりにした。鰐系の魔物に遭遇した事が無かったので、この世界の鰐は草食なのかと思ったら、全体の一割にも満たない種類しか草食はいないそうだ。
良かったような、安心してはいけない様な複雑な気分になったのは今でも忘れられない。
糊苔も種となる物以外を残して、かなりの数を採取した。洞窟から出た時は、夜空が明るくなりかけている時間だった。結構集中していたし、黙々と作業を続けていたので、此処にきて睡魔に襲われ始めた。
冒険者登録をして暫くした後に作った秘密の場所。
マウント山脈にあるデボリック山とハーバード山の中間ぐらいの位置にある洞窟内部にログハウスを建設していた。最後に来てから暫く使っていなかったが、いざと言う時の為にいつでも使えるようにしていた。そこに来たレオンハルトは、魔法で身なりを綺麗にしてから、ラフな服装に着替えて、ベッドに倒れる。
本当であれば、七時間ぐらいの睡眠はとっておきたいが、今日もやらなければならない事が沢山あるので、軽い睡眠にとどめる。
十分程度の短期的な睡眠でもかなり脳を覚醒させる事が出来るのだ。身体の疲労は回復させる事はできないが、一日、二日程度ならこれぐらいの睡眠でも大丈夫なのだ。流石にこれを常に続けるとなると過労死一直線なのは間違いない。
そして、十分睡眠ではなく一時間ほどの睡眠をとり、倦怠感が残る身体をゆっくり動かしながら起きた。もう少し寝る事も出来るが、早く起きたのは日課の鍛錬を行うため、昨日の夜の鍛錬が行えなかったので、その半分を朝の鍛錬に追加して行う事にした。
いきなり身体を動かすと怪我をする可能性もある。別に怪我をしても魔法で治療できるのだが、不必要な事はしない方が良いし、怪我の種類によっては癖の様な物が身体にしみこんでしまう事もある。
まずは、肩慣らしにストレッチをして、身体を徐々に覚醒させ、そこから何時ものメニューを熟した。
一刻半程行った後、転移魔法で王都の屋敷に戻った。
「お帰りなさいませ。ご主人様」
「ああ、ただいま。皆は今どこに?」
「食堂にてお食事をされております」
給仕係をしていたトアの案内で食堂に行く。エッダとクルト、アニータ以外は既に席に座っていた。
「今帰りか?あまり無視しない方が良いぞ?」
ユリアーヌが最初に声を掛けてくれる。他の者たちもその後に続いた。
料理人となったソフィアが、レオンハルトの朝食を持ってくると、レオンハルトも出された食事を食べ始める。その時にリーゼロッテから最近噂になっている変異種のゴブリンについて尋ねてきた。
「噂は知っているが、詳細までは聞いていないけど、何かあった?」
「何もないけど、昨日アル姉たちと話してたいら話題になって・・・」
「その事で、一つ噂の追加情報だけど、今の噂は国内の情報だよな?」
レオンハルトの問いに頷くリーゼロッテ、この場にいる者も噂を知っている者は皆頷いていた。
「他でも同じような異常が発生していると小耳に挟んでいる。どれも同じ様に変異種や上位種の増加だが、普段ならいない種類の魔物が徘徊していると言う情報もあった。魔物も生き物だから、住処を替える可能性はあるが、こうも頻繁に噂が流れると何かあるかもしれない」
レオンハルトがこの情報を入手したのは、レカンテートの開発の為、二ヶ月の延長行ってから少し経過した頃。皆に話をしなかったのは、どれも確定された情報ではない上に噂の内容がかなり異なっていたからだ。
例えば、双頭のオークの集団が居たと言うものも居れば、双頭のオークではなく宙に浮かぶコボルトを見たとか、サイクロプスの様な見た目のゴブリンが居たとか。どれも共通しているのは変なことが起こっていると言う内容だけで、変な状態が皆異なっているのだ。
それが一ヵ所であれば、夢だったとか、何かと見間違えたとか言えるのだが、それが十数ヵ所ともなると話は変わってくる。この情報がレオンハルトに伝えられたのも三日ほど前で、まだ不確定な部分も多いが、目撃者が増えている事や商隊が何組か行方不明になっている。盗賊と思われる集団の死体の山と、異変を確信するような内容が次々に報告に上がってきた。
暫くは冒険者活動をするつもりはないし、レカンテートや王都から出る事も少ない。もちろん、外に出る時は単独行動をしない様に当初から伝えているので、情報が確定するまでは皆に伝えるつもりはなかったのだ。
危険な事を共有しないと言うのは、チームのリーダーとしても、領地の当主としても良い判断とは言えない。それは彼自身も承知の上で、それでも共有しなかったのは、不確定要素が高すぎるためである。
「一応、アインスたちに周辺の警戒を行うよう伝えているから、危険を事前に把握する事は出来るだろう」
「最初、シュラ族を入れるのに抵抗はあったけど、皆すごく動いてくれるから助かるね」
「私たちよりも強いから、本当に任せて安心できるし」
「アインスたちと同じようなシュラ族を片っ端から引き込んだらどうだ?」
「ユーリ、それは流石にレオンくんでも難しいと思うよ。人数が増えるたびにシュラ族の主と言うもののハードルも跳ね上がるっていうから」
レオンハルトの発言を発端に、他の者たちもその話題に乗る。ティアナたちの言う事も一理あるし、ユリアーヌの発言にも賛成したくなる。けれど、自分から厄介毎に巻き込まれたくはない。関与する可能性があるならまだしも、態々自分から関りに行こうとは思わないのだ。
そんな話で盛り上がっていると、朝食に間に合わなかった者たちも集まって朝食を食べ、その後フリードリヒたちを含んだ面々でレカンテートに移動した。
二人の少女が、実家を離れて数ヶ月が経過した頃。
「お姉ちゃん、何かこの森可笑しくない?」
「そうねー。何かピリピリする感じ」
「おいおい。この森はそんなに強い魔物は出ないぞ?あんまり依頼主を怖がらせるようなことは―――って、ありゃなんだ?」
少女たちの前を歩いていたワイルド系の冒険者が何かを目撃する。
その姿を見た他の冒険者たちの顔が徐々に青白くなる。
これでも、一応Eランク冒険者たちだ。ゴブリン如きに負ける様な事は無い程度の実力を兼ね備えている。兼ね備えているのだが・・・。
視線の先にあるゴブリンから放たれている不吉な雰囲気に、一部を除いて立ち尽くしていた。
「急いでこの場から離れましょう」
早めに気付けた事が今回の幸運だったと言える。直ぐに撤退の判断が出来、且つ誰もが迅速にそして音を立てないよう撤退した事が良かった。行商人と共に数人の冒険者は撤退に成功し、彼らはそのまま来た道を引き返して、町に戻った。
冒険者なら戦えと罵られるだろうが、一目見て分かった。一戦交えれば瞬く間に全滅してしまうだろうと言う事。実際には、二人の少女は如何にか戦えるだろうが、かなりの深手を負わされることを覚悟で挑まなければならない程、その存在は圧倒的だった。
冒険者たちは依頼失敗の罰金を支払いつつ、先の出来事を報告するのであった。
何時も読んで頂きありがとうございます。
この後8時から新作の第二話を投稿しますので、そちらも良かったら見ていってください。
ブクマ、評価なども宜しければお願いします。




