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153 領地開発

おはよう。こんにちは。こんばんは。

今年も残り2ヶ月を切りました。早いですね。

そして、告知通り新作も投稿しました。

宜しければそちらの方も是非読んで下さいね。

 現在、レカンテートの街はこれでもかと言うぐらいの早さで街開発が進められている。


 時は一ヶ月前に遡る。


 レオンハルトが、クリストハイトと共にレカンテートに視察に行く時。ついでにと言わんばかりにトルベンやクイナ商会で働く鍛冶師たちを同行させた。転移魔法の事は身内には話しているので使用しても問題なく、シャルロットやアカネたちもついて来ている為、かなりの大所帯になった。


 当然、転移魔法の時に一緒にアインスたちも同行していたのだが、到着早々身を潜めてしまった。


 責任者と話をして、困っている所や手伝いが必要な所に臨時で関わっていると、何時の間にか手伝いではなく主戦力として、膨大な仕事を割り振られた。


 クリストハイトの方に視線を向けると、申し訳なさそうな顔で謝っていた。如何やら今までの規模でこの仕事の早さであれば問題なかったらしいが、開発地域の拡大、新技術を用いた上下水道、見た事もない構造物の設計図、アスファルト舗装と言う新たな道、農作物などが行える畑等の開拓、他の街へ行く為の通り道の整備。やる事が多すぎて、このままでは圧倒的に納期に間に合わないそうだ。


 納期何て決めていないはずだが、何時からそんな話に?


 やや不思議に思っていたが、事実予定の作業を大幅に遅れてしまう事は目に見えて理解できる。しかも開発や整備だけでなく。魔物や猛獣が来た時、山賊や野盗が来た時などの対策と捕縛施設。自然災害に対する整備も必要だろう。


 この辺りでありえそうな災害だと、地滑りや大雨による川の氾濫だろう。


 そこまで考えると確かに、済むのが何時の事になるか分かったものではない。


 まあ、今の生活も楽しくて良いのだが、流石に領地持ちの貴族が領地を運用せず暮らすのは問題があるし、領地があるため、国へ領地税を収めなくてはいけない。領地税を払うには領民を招き税金を納めてもらう必要があった。


 だから、領地開発はレオンハルトにとっては重要で、元々領地運営を行う為のノウハウを学ぶ目的で王立学園に入学している。


 ただ、当初の予定であれば、卒業するタイミングで、五割ほどが完成している見込みだったが規模が大きくなるに従い、領地開発の完成割合は低下している。そうなると、卒業の時には一割しかできていないと言う見込みになってしまうのだ。


 ならば、人手を増やせばよいと言う事になるのだが、人手を増やすためには沢山雇わなければいけない。そうなってしまうと彼らの給金の支払いが予算オーバーする可能性だってあるのだ。


 そこで頼りになるのが、魔法の存在。


 遅れている作業を魔法使いたちの魔法で一気に行えば工事期間を大幅に短縮できる。普通であれば魔法使いを雇う金銭は一般よりも遥かに高いが、生憎、この待ちの領主であるレオンハルトや彼の婚約者たちに仲間たちは魔法を使える者が多い。使えなくても魔道具で一般人以上の力を発揮できるのだ。


「と言う事でして、中央エリアのアシュテル孤児院とその周辺の住民たちの新宅、店舗は概ね完成していますが、領主館や東西南北の領地開発が遅れておりまして」


「報告通りの様ですね。ですが、これは報告に聞いていた以上に深刻の様だ」


「ああ、確かにこの人数と機材でここまで進めてきた事は大したものだけど・・・」


「この段階だと、今からでも街の形状に手を加えられるのでは?」


「そんなことしたら、余計に遅くならないか?」


 王都から来た者と此処で作業をしていた現場監督が、色々な意見を出し合う。俺も思っていた程進んでいない事に驚いたが、よくよく考えると前世でも家やビルを建てるのにもかなり時間がかかっていた。某国では、一日や二日で高層マンション作っていた記憶があるが、それでも別の所で作った物を運んできて組み立てると言う作業をしてた。


 此処にはトラックと言った物もなければ重い物や土を掘り起こしたりする事も全て手作業で行わなければならず、どうしても時間がかかってしまうのだ。


「どういたしましょうか?」


 この一ヶ月と言う短い期間、それも半分以上が過ぎている状況。素材集めも行わなければならない為、どうしても此方に割く時間が足りない。


「ご主人様。残りの予定をお伺いしても?」


 一緒に同行している執事筆頭のフリードリヒとクイナ商会責任者にして、同じく執事のクリストハイトが此方に尋ねてくる。


「予定としては、シュラ族の武具の為の素材集めで二日ほど冒険者として行動するつもりだが、他に予定ってあったかな?」


 自身の事なのに貴族としてのスケジュールは、フリードリヒが把握している。まあ、屋敷にいない事も多いので、その間に届く手紙などは彼が一通り確認して、対応してくれているのだ。


「最終の前日と最終日にそれぞれ伯爵家と公爵家から招待状が届いております」


 ああ、それは先日聞いていたっけか。確か、クナード伯爵家の長男が子爵家の娘との結婚を行うとかで、結婚式に呼ばれているのと、ティアナの実家のフォルマー公爵家で当主のエトヴィン宰相が誕生日を迎えるとかでパーティーがあり、そこに呼ばれている。


「それと、此方への出発前に届いた手紙ですが、此方は王家からですね。まだ中を確認しておりませんが・・・」


 そう言ってフリードリヒは二通の手紙を渡してくる。蝋封された手紙を受け取るとその場で開けて中を確認した。


「どの様な内容でしたか?」


「一つは、陛下からの呼び出しだね。手が空いている時に登城するように書かれている。用件は特に記載していないみたいだ。もう一つは、レーア殿下ですね。此方はお茶会のお誘いです。日付は三日後のようです」


 どちらも断るわけにはいかない案件で、レーア殿下の件に至っては文章の端々から休みの間に会いに来てくれると思ったのにと言う様な感じにとれる文脈だった。


 確かに、王女殿下の為度々顔合わせで王城に足を運ぶのはどうかと思ったが、婚約者の一人でもあるのだから、何日に一回は会いに行くべきだったのだろう。次回から気を付ける様に反省し、予定を考えて行く。


「明日と明後日は素材集めに抜けるとして、三日後の登城の時に陛下とレーア殿下に会う事にする。フリードリヒ後で、登城する日時を記載した手紙を書くから、屋敷にいる者に王城へ持って行くように伝えて」


 フリードリヒが「承知しました」と返事をする。


「最終日とその前日は予定通り参加するから、それ以外は此方に専念しようか。トルベンたちやハンナたち職人組は今日から三日間此方に専念して、素材回収後はアインスたちの武器制作や防具製作、衣服製作などに回って、終わり次第此方を手伝う様に」


 続け様にトルベンたちにも指示を出した。


「クリストハイト。すまないが職人たちを暫く此方の手伝いに専念させるから。クイナ商会の方での彼らの仕事を一時中断。人手が必要になったら、従業員も手伝いに来させるから、場合によっては営業時間の短縮も考えておいて」


 他にもそれぞれに指示を出す。素材集めの為の魔物狩りには、円卓(ナイト・オブ・)騎士(ラウンズ)全員で当たらずに、俺とユリアーヌ、クルト、ヨハン、ダーヴィトで行う。リーゼロッテとアニータには、王都で必要な物資の追加依頼などを、ティアナとエッダは冒険者ギルドで俺たちが確保した素材の剥ぎ取りの依頼とその監督を、リリーとエルフィーは使用人と共に買い出しなどをしてもらい、その後炊き出しをお願いした。シャルロットには、レカンテートでの指揮を任せた。シャルロットの補佐にアカネたちを付ける。彼女たちの日本での知識をもとに色々意見を出してもらうのが良いだろう。


「アインスはリーゼたちの護衛、ツヴァイはティアナたちの護衛、ドライはリリーたちの護衛、フィーアとヒュンフはシャルロットたちの護衛だ」


 この場に居ない五人に指示を出すと、何処からともなく姿を見せる。


「「「「「承知しました主様」」」」」


 こう言っては何だが、本当に忍者の様な存在だなと思ってしまう。


 他にも色々指示を出して、午後から早速北区域となる予定のまだほとんど手つかずの場所に移動した。


「さてと、始めますか」


 そう言うとレオンハルトは、地面に手をついて魔力を大地に流す。土属性魔法『地形創造(アースクリエイト)』で指定した地面を整地して行く。ある程度は平坦になっているが、軽い傾斜がついていたり、地面の凸凹があったりするので、魔法で一気に整える。ついでに、地面の中にある大きな石や岩なども排除し、地表に生えている雑草などは根っ子から取り除く。


 細かい作業ではあるが、かなり実用的な魔法で、魔力制御で更に細かい事も可能となる。今はそこまで細かくする必要もないので、していないが、本来であれば雑草や地中の石や岩の排除も高い魔力制御が必要になる。


 レオンハルトだけでなく、シャルロットやリーゼロッテたちも手伝ってくれる。土属性魔法に適性がないものは他の魔法で代用していた。


「なんて早さだ・・・」


 レオンハルトたちが行った作業を普通に行う場合、広さ的な事やどこまでするかと言う事もあるが、四ヶ月以上は最低でも必要となる。それを僅か一刻で終わらせたのだ。今日の所は整地だけ行う事にしているので、北区域だけでなく西区域と東区域の整備も終わらせた。


 外壁まで作る時間はなかったが、魔物や獣が侵入できない様に外壁予定場所よりも外側に堀を全方位に展開している。身体強化などをすれば飛び越える事も可能だが、普通であれば人は愚か、魔物や獣も飛び越えられない幅で、仮に落ちても這い上がれない程深く作っている。


「これを・・・・一瞬で、どれほど大きくしたんですか?」


「幅は約五メートル、深さは十メートル前後ですので、落ちない様に気を付けてください。落ちたら多分即死しますので」


 堀の内側に転落防止用の簡易的な柵を設置してもらう様にした。南区域の整備と中央区域に微調整は行えなかったが、三ヶ所だけでも十二ヶ月の短縮が行えている。


 今日は、来た面々を連れて王都に戻り、明日クリストハイトたちを再びレカンテートに連れて行く。そのために戻って早々、皆新たに決まった予定を行うための現在の予定の調整に動いた。


 俺も、早速陛下への返答の手紙を用意し、フリードリヒに渡しておいた。後で、警備をしている者が持って行くそうだ。王城の門兵に渡せばいいだけなので、誰でも良いが、時間的に日が暮れているので、成人している者が届けるそうだ。


 そして、予定通り素材集めに動いたり、転移魔法でレカンテートにクリストハイトたちを送ったりした。










「なるほどの・・・わしらも其方の領地がどうなっているのか確認しておこうと思って呼び出したのだが・・・」


 王城にある普段使う会議室にてアウグスト陛下やエトヴィン宰相たちと話をしていた。呼び出された理由は、レカンテートについてだった。別に領地開発の遅延や未開拓について注意するためではなく、王家や協力関係にある公爵家や侯爵家、伯爵家からも人材の手配をしてくれており、既に百人以上が開発の為、レカンテートに来ている。他にどの様な人材が不足しているのかと言う確認の為の呼び出しと進捗状況の確認の為だった。


 人手については、非常にありがたく、出来れば建築作業の経験者をお願いしておいた。後は、レカンテートの街中を警備してくれる人物の紹介もお願いしておいた。


「それにしても、大掛かりな都市開発だな。費用は大丈夫なのか?」


「一応、クイナ商会での売り上げがあるので、大丈夫ですね」


 クイナ商会が莫大な黒字を出しているのは、王家も把握している。新商品が飛ぶように売れ、リピーターも多い。硝子の容器は数が少なく非常に高値で売れているし、シャンプーなどの需要も高い、薬なども評判が良いし、武器や防具、衣類も売り切れが続出。水洗トイレの受注も多く、設置には二ヶ月以上先の予約になっている。


 普通は一つの紹介だけの売り上げで、都市開発の費用を賄える事はあり得ない。実際にクイナ商会だけでも賄えているのは六割程度だ。では残りの四割はと言うと他の紹介に売ったレシピや商品のアイデア料だったり、レオンハルトたちの冒険者として活動した資金が割り当てられている。


 もちろん、国からの支援金や援助金等も出ているので、資金不足と言う事態には今のところ陥っていない。


「ですが、規模を考えるにもう少し支援金や援助金を出した方がよろしいかと」


「そうだな。エトヴィン、悪いが財務大臣と話をして彼らへの支援金の増額を検討してくれ」


 アウグスト陛下の指示で、レカンテートの支援金等の増額が決定する。


「それにしても、其方が言うアスファルト舗装だったか、どの様に仕上がるのか是非見ておきたいの。それに上下水道なる物も取り入れると言う事で、それらがどういう機能を示すのか非常に興味が引かれるわ」


 進捗状況の時に、それらの事を説明しておいたのだ。


「それと、街道にもそういう構造をさせるとは、なるほど感心させられるわ」


 陛下たちに話をしたのは、街道をレンガ舗装で整備するのだが、その過程で特殊な加工を加えていくつもりでいる。粗悪の魔石を粉砕させてレンガ舗装を整える。街灯も設置して此方も魔石から魔力を得て自動点灯するようにし、魔石は地面の魔石の粉末を経由して自動的に吸引するよう手を加えるのだ。


 では、レンガ舗装に組み込む魔石の粉末は何処から魔力を得るのか?それは太陽光をレンガに直接受ける事で熱が得られ、その熱を魔力に循環させる。また、地熱も同時に利用する。これらを循環して街灯が必要に応じて点灯するのだ。


 あとは小さなプロペラもどきも設置する予定だ。地熱のエネルギーを魔力に循環できないような事態が発生しても風力のエネルギーを魔力にできるようにしておけば、二重で魔力循環が行えるのだ。


 レンガ舗装だけでなく、アスファルト舗装にも同様の仕掛けを施すつもりでいる。此方の方が、熱吸収率が高くなるので、より高い魔力循環を行えるのだ。


 余剰分の魔力は、中央と各東西南北の区域の一角に魔力を貯める場所を設け、非常時に使えるようにする。前世で言う所の予備発電みたいなもの。


「既存の道でも可能ですが、我が領地にて実験も兼ねて実施し、問題等がなければ王都や各街の整備に用いていただいても構いません」


「その時は、其方の商会が行っていくのかね?」


「それを担う事は出来ると思いますが、それだと受注に対して供給が追い付かない恐れがあります。それが可能な複数の商会に協力してもらうのがよろしいかと」


 クイナ商会が一手に引き受けるとなると、莫大な利益を得られるだろうが、クイナ商会に掛かる負荷がこれまで以上になるため、対応できない可能性が高い。


 それに、これだけの事業を独占すると周囲の商会からの軋轢にもなる。既に硝子製品や日本刀、生活向上品等様々な物を独占している。薬なども症状に合わせた調薬も行えるようにしており、これは他の商会も真似をしているようだが、中々うまく行っていない。そこに今回の様な事までも独占すると、余計に他の商会からの風当たりが悪くなる。だから、複数の商会を加える事で、商会同士の関係改善を行い、お互いが利益になるよう進める必要がある。


 マヨネーズやドネルケバブ、玩具などは、それを専門にしている商会に売っている。アイデア料を売り上げからもらっている。


「なら、協力してくれる商会は此方で見繕っておきましょう。受注して依頼料を受け取ったら一割前後のアイデア料をアヴァロン伯爵家に納めるように伝えておきましょう」


 クイナ商会ではなく、アヴァロン伯爵家に納める。結果的に言えば同じなのだが、クイナ商会へ資金が行くよりも伯爵家に行く方が、周囲からの妨害を抑制できるらしい。


「レオンハルトよ。其方の領地で成功した場合は、王都全体の整備を其方の商会に委託するつもりでいるから頼むぞ?」


「承知しました」


 アウグスト陛下は早速、新しい取り組みを王都に入れたいようだが、流石に前例を作らなければ王都の主となる通りすべてを入れ替えするのは難しいようだ。まあ、大掛かりな事業を行って失敗しましたとは説明できないだろう。


 俺も絶対に成功するなんて保証はない。前世ではうまく行っていた事でも此方でも必ず成功するなんて保証はないのだ。これまで前世のものを此方で使用した結果、偶々うまく行っただけの事。


「それでこの後は、レーアに呼ばれておったのじゃったな?」


「ええ。この休み期間中も中々会えませんでしたから、何時も寂しい思いをさせております」


 婚約者の中で唯一共に行動していないレーア殿下。彼女もその事を不満に思っているが、同行しても力になれない事も分かっているから、彼女なりに色々と勉強をしてレオンハルトの力になろうとしてきた。


「すまんな。魔法の素質とかあればよかったのだが」


「いえ、陛下が頭を下げる必要はありません。自分とてまだ新参者に過ぎず、至らない点ばかりで殿下にご迷惑ばかりかけています」


「婚姻を結び終えるまでの辛抱とあれにも伝えてはいるのだがな」


 やや、苦笑気味に話すあたり、親として娘の願いも聞き入れたいと言う所なのだろう。


「そう言えば、レオンハルト君の所に優秀な護衛が付いたそうじゃないか。陛下、その者に護衛をさせれば殿下も少しは自由に行動させても良いのではないでしょうか?」


 エトヴィン宰相の言葉に、思い出したかのように納得する。優秀な護衛、それは恐らくシュラ族の五人の事だろう。強者とし主と認めた者を弱者にならない限り裏切らない、非常に優秀ゆえ、引き入れる事が難しい種族。魔族の一員でもあるので、最初から受け入れないと言う人も多いが、アウグスト陛下もエトヴィン宰相もそのあたりは寛大なのだろう。


「そうですね。アインスたちに護衛をさせると言うのは大丈夫だと思います。ただ、現在色々彼女たちも鍛えておりますので、殿下の護衛の任が任されるようになれば、改めてご連絡します」


 それから少し話をした後、王城内を移動し、レーア殿下に呼ばれているお茶会に顔を出した。


「この度はお招き頂き有難うございます」


「これはレオンハルト様ようこそお越しくださいました」


 普段と違う二人の挨拶。知った人たちであればこの様な堅苦しいももう少し柔らかくしているのだが・・・。


「は、始めまして、ローリエン辺境伯家が次女、エトル・クーネ・フォン・ローリエンと申します。アヴァロン伯爵様のお噂はかねがね」


「アヴァロン伯爵様、始めまして。フォルマー侯爵家が三女、オリヴィア・カトラ・フォン・フォルマーと申します」


 フォルマー侯爵?フォルマー公爵ではなくて?と思っていると。


「フォルマー公爵家の分家でございます。現当主であられますエトヴィン様の弟が、私の御父上に当たる方なのですよ」


 なるほど、と言う事はティアナの従姉妹にあたるのか。それにしてもこの場に初顔合わせの面々が来るとは聞いていなかったので驚く。


「はじめまして、レオンハルト・ユウ・フォン・アヴァロンです。ご存知の通り伯爵位を賜っています。新参者ですがよろしくお願いします」


「「ふふふっ」」


 挨拶をすると何故か笑われる。レーアから「伯爵家の当主なのだから、そう畏まった挨拶は必要ないですわ」と言われた。この場に他の当主が入れば別の様だけれど、この場には貴族令嬢しかいない。


「それで、今日はどういう集まり何ですか?」


 初めてお会いする二人。何か俺とのお茶会の前に彼女たちとのお茶会でもしていたのだろうか。


 レーア殿下は、レオンハルトを席に案内して皆着席する。


「レオンハルト様、今回は此方のお二人と顔合わせをしていただきたくお呼びいたしました」


「そ、そうなんだ」


 意外だった。会えない寂しさからだと思っていたのだが、人と合わせるために場を設けるとは・・・。


 詳しく話を聞いた所、エトル・クーネ・フォン・ローリエンは、アルデレール王国の北をアバルトリア帝国との国境付近を領地とし、一応形場ではあるが他国からの戦争の際に最初の盾となる重要な拠点。各国は、互いに国の外周に辺境伯と言う上級貴族たちに領地を管理させて、有事の際は武力でそれに対応する。


 アバルトリア帝国とは友好関係を結んでいるので、先も述べたように事実上の辺境伯でもある。まあ、隣国よりも魔族の侵入を阻止すると言う名目の方が正しいだろう。何もないからと配置をしないのが愚の骨頂である。


 それと、ティアナの従姉妹であるオリヴィア・カトラ・フォン・フォルマー。彼女は、王都とローリエン辺境伯領との間にあるフォルマー侯爵領があるそうだ。名産はサンダカと言う果物らしく、この果物で作るワインが近年特に有名になっている。前世の無花果(イチジク)葡萄(ブドウ)の間の様な果物らしくまだ食した事はなかった。


 そんな二人をこの場に招いている理由。それは、二つの都市には共通点があるそうだ。


「それで、うちの領地に建設予定のクイナ商会本店、その系列の支店を開いてほしいですか」


 共通点と言うのは、この二つの領地はきちんとした領地運用がされているらしいが、敢えて言うならば、娯楽に乏しいと言うか、目新しいと言う物がない。先程のワインも最近流行しているだけで、流行はいずれ低即する。


 新商品の開発を行って行かなければどんどん他の領地に魅力を奪われるのだとか。


 それこそ、少し前まではアルデレール王国の南部も同じ状況にあった。現在はレオンハルトがレカンテートを休息発展させる大規模な都市開発を行っているから、それに乗る形で周辺の領地も活気づいている。


 西部には鉱山という特色が、東部には海と言う貿易可能なメリットが・・・。しかし北部はと言うとマウント山脈があるぐらいだろう。見た目のインパクト差は何処よりもあるが、ただそれだけに過ぎない。強力な魔物も多く生息しているため、入山できる場所も限られている。


 超一流の冒険者がその山脈で活動してくれるのであれば、魔物の素材と言う旨味で、色々な物を作る事も可能だろうが、残念ながらそんなに都合よく腕の良い冒険者はいない。


 目の前に居る人物は、アルデレール王国でも極少数の超実力者の冒険者だが、南部の領地持ちの貴族当主なので、勧誘は出来ない。また、貴族として関わろうとすると、周囲の貴族から利権取得しようとしていると判断されかねない。何処の貴族も何かと関われないか接点を持とうとするが、そこは四大貴族の当主たちが対応してくれている。


 だから、こういう直接的な方法は王立学園で何度かあったぐらいで、殿下経由と言うのは初めてのことだ。


 流石に、殿下経由でも利権に食い込もうとするのは少々、周りに何を言われるか分からないし、今回の場合は利権と言うよりも協力のお願いだ。遠回しに言えば関係を築くと言えるので、利権取得しやすい状況にある事に変わりはない。クイナ商会を発端に色々言われる可能性もあるが、流石にエトヴィン宰相の親族と言う事もあるので無下にも出来ない。


「事情は分かりました。ただ、私一人では決められませんので、議題を持ち帰り吟味したいと思います」


 因みに二人とも俺よりも一つ年下らしいが、王立学園には通っていないそうだ。来年、編入してくるらしくそのために現在王都に来ていたのだとか。


 入試試験に合わせて編入試験も同時にしていたようだ。


 仮に、二人の意見を受け入れたとして、南部に本店、王都に支店一号店、北部に支店二ヵ所ともなれば、輸送をどうするか考える必要も出てきた。


 馬車では、流石に厳しいし、転移魔法だと行えるのが現状、自分とシャルロットの二人。二人が動ける時は良いが、動けない時のことも考えておく必要がある。


(こういう時、貨物列車があればな・・・貨物列車?)


 電車や新幹線を作る事は出来ないけれど、それに代わるものを用意し、線路を用意すれば行けるのではないかと思考を張り巡らせる。


「レオンハルト様?どうかなさいましたか?」


 隣に座っていたレーア殿下が、不安な表情で尋ねてくる。深く考え込んでいたのだろうか、レーア殿下を心配させてしまったようだ。他の二人も少し浮かれない顔をしていた。先ほどのお願いの後の険しい表情、傍から見れば受け入れづらい案件に悩んでいると取られても可笑しくはない。


「すみません。別件で少し考えておりました」


 それからは、雑談に花を咲かせる。ティアナたちの様な冒険者としての活動はしていないらしく、貴族令嬢として社交界に出たり、婚約者との関係を深めたりしているそうだ。だからだろうか、冒険者としての活動の話を興味津々に聞いている。


 因みに、エトル・クーネ・フォン・ローリエンはシュトルム伯爵家の長兄と婚約を結んでおり、オリヴィア・カトラ・フォン・フォルマーはシュヴァルツ侯爵家の長兄と婚約を結んでいるそうだ。


 シュトルム伯爵家は、北西部に領地を構えているそうで、農業が盛んらしい。シュヴァルツ侯爵家は、南西部に領地を構える貴族との事、プリモーロの近くらしいが、どちらの領地にも通り過ぎた程度の滞在はあるが、長期滞在した事はない。


 それと両者の貴族とは、関りを持った事はない。悪い噂も聞かないので、まあ真っ当な貴族なのだろう。


 一刻程、楽しい時間を過ごして、三人と別れた。


 その日の晩に、レーア殿下から遠距離連絡用魔道具経由で話をした。本当ならば、二人だけでのお茶会にしたかったらしいが、友人からのお願いを断れなかったとの事で謝罪もされた。忙しい時に更に面倒な話をした事に対して謝罪してきたが、レーア殿下は悪くないので慰めておいた。


 それと今回の件で少し良い案が浮かんだので、必ずしもマイナス面に働いたわけではない。お茶会の後、再度エトヴィン宰相に時間を作ってもらい。俺たちが構わないのであればお願いしたいとも言われた。


 輸送手段の案も相談してみたが、もしそのような事が可能であれば、王国と俺との共同事業として進めたいと言われる。


 独占も出来るが管理が難しいし、他の領地とも話をしなければならず、手が回らない可能性しかないので、お願いしておいた。


 取り敢えず、必要な物や費用、人手など概算で構わないから欲しいと言う事で、一人執務室で机の前で悩んでいたのだ。


「そう言えば、レーア様。今日のエトル様とオリヴィア様の話を前向きに進めたいと思いますが、先に本店を開店させたいのでその後になるかと思います」


「本当ですか。それは二人ともとても喜ぶと思いますよ。私からもお礼申し上げます。ありがとうございます。」


 それと、レーア殿下に可能であれば、交渉術と算術などを重点的に学んでおくように頼んでおいた。レーア殿下は戦闘技術に関しては皆無だが、政治に関しては誰よりも力を秘めている。婚姻後にレカンテートの内外の政治的な事をお願いしたい。もちろん一人では難しいので、補佐を付ける予定でいる。レーア殿下には新生レカンテートの顔になってもらいたいのだ。


 考えているアレを導入出来れば、かなりの人がレカンテートに訪れてくれるだろうし、商談や外交的な話もたくさん発生するだろう。


 実務作業は代官が行えば良いのだし、転移でいつでもレカンテートに戻る事が出来るので、緊急の案件にも俺たちが手分けして対処も出来る。


 ある意味、異質性がある領地運営だろうが、現実的にかなり問題に対して即時対応が可能な体制でもあった。


「と言うわけで、二人には後日正式に返事を送るから、レーア様の方から伝えなくても大丈夫ですよ。此方としても、お願いしたい案件もあるので併せて取り組ませていただければ。それと、レーア殿下の方で、他の辺境伯の当主との伝手はありますか?」


「他と言いますと、北部以外の辺境伯ですか?」


「はい。可能であれば、各辺境伯領とも交流できればと思っていますので、その橋掛かりとなっていただければ思いまして」


 レオンハルトは、アレの導入に関して、王都や主要都市、辺境の地であり、防衛の要である辺境伯領との動線速やかにできるよう確保したかった。


 形状としては菱形と十字に動線を作れば移動手段が、隔絶に良くなる。馬車での移動を生業にしている人たちの仕事を奪うかもしれないので、そこは移動できる箇所を限定にすれば、馬車利用の距離は短くなったとしても利用客が増える見込みがある。


 つまり南部で言えば、王都からレカンテート、南部のアーベライン辺境伯領を繋げば、長距離馬車の乗り合いは廃業するだろうが、レカンテートから最寄りの町や村へ、アーベライン辺境伯領から最寄りの街や村へ移動が可能となる。これまでの移動よりも楽になるため利用する者たちが増えるだろう。ついでに言えば、王都から東西南北に移動できようになれば、更に王都は活気づいてくれるだろう。加えて、西の辺境伯領から南部、北部の辺境伯領も繋げれば、互いの行き来もしやすくなる。


 唯一デメリットを挙げるなら、移動しやすいが故に移民者が増える可能性もある事と互いの関係が崩れた時に内戦のために利用される恐れがあると言事だろう。


 そこは対策をする必要があるだろうが・・・・。それと魔物や魔獣、盗賊などの対策も必要になる。考えなければいけない事は多いが、それを鑑みてもメリットの方が大きいと言える案件になる。


 流石に、国同士を行き来できるようにするには、かなり問題が生じるだろうけど・・・。


 そんなことを考えながらレーア殿下との話を終えて、エトヴィン宰相からの概算書を作成するのであった。

何時も読んで頂きありがとうございます。

そろそろクリスマス用の投稿内容を考えないといけませんね。

面白いと思った方は、感想や評価、ブクマもよろしくお願いします。

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