151 名を授ける
おはよう。こんにちは。こんばんは。
早速ですが10/31の8時にシリーズ?なのだろうか・・・。
当作品と連動した作品を予約いたしました。
暫くはこの作品とも絡む事はありませんが、是非読んで頂けると嬉しいです。
「以上が事の顛末でございます」
商業都市オルキデオのギルド支部にある会議室にて、事務主任はオルキデオ支部の支部長ディーターと副支部長ロホス、それに他の関係管理者たちに事実説明を行っている。その場には当然、レオンハルトたちや救出された冒険者も参加している。
あの日から既に十日近く経過しており、支部長や冒険者たちが動けるまでオルキデオに滞在する事となった。依頼を完了している俺たちは必要ないのだが、依頼達成に当たり冒険者たちを襲撃していたのはシュラ族の五人で、その五人は現在、俺の配下に加わりたいと言って来ている。襲撃しても命まで奪ってない様だが、冒険者たち倒した後放置した事でその後、魔物や獣に襲われて命を落としている。直接的に命を奪ってないにしても間接的に奪っているので、何らかの対応が必要。
彼女たちの処遇もあるからと引き留められているのだ。
この休みも後半分程しか残っていない。本来であればさっさと依頼を済ませて領地開発の手伝いを行うつもりでいたのだ。
世の中予定通りには進まないと言う事なのだろう。
ただ、オルキデオの街で待機しておくのも勿体ないので、呪具による復興の手伝いをしていた。貴族として参加すると問題があるので、冒険者として参加している。
本当に・・・自分の領地開発ではなく、他の貴族の領地の復興の手伝いとか、何やっているんだって思ってしまう。
シュラ族の五人はどうしたかって?今は兵士たちが拘留所に入れて反省させている。
どうやって入れたのかは簡単だ。レオンハルトが命じると自ら進んで入っていった。そうして気づけば今に至っている。
「報告ご苦労。さて、アヴァロン伯爵様、この度は緊急依頼並びに呪具による治療や街の復興誠にありがとうございます。領主様に代わってきちんと謝罪とお礼をお伝えします」
「ディーター支部長、頭を上げてください。緊急依頼は王都の冒険者ギルドから要請があったためですし、呪具の件は避けられない不慮の事故ですよ。ただ、助けられなかった命があったのは残念ですが」
「彼らも冒険者だ。いずれそう言う事が起こるだろうと理解していただろう。・・・所で、報告にあった・・・その五人は今どうしておるのだ?」
「ハッ。現在、兵士たちが管理している留置場に大人しく入っております。毎朝、伯爵様がお越しになって、五人に指示しているため大人しいのだと思われます」
同室に居たギルド職員がガチガチになりながら支部長たちに報告する。
俺たちが呼び出されている最大の理由。それが彼女たちについてなのだ。彼女たちが俺に対し忠誠を誓ってしまった為、俺の配下に加わってしまったのだ。実力は実際に戦ったので分かるし、頼りになるのは間違いない。けれど、俺はその事を未だに受け入れていないし、此処での事件の事もある。だから、こうやって今日まであやふやな状態になってしまったのだ。
処遇をどうするのか。この場で話し合う事はしない。何故なら、昨日事前にその件で領主や支部長たちと打ち合わせをしていたからだ。
「なる程、では彼女たちの処罰を言い渡す。領主様からは彼女たちの件、間接的にとは言え数名の冒険者の命を奪った行為、本来であれば重罪になるが、冒険者としての活動中の不運と言う事で、私からの処罰はなしとの事」
街の中で、平民や貴族を間接的に殺したともなれば、領主が彼女たちに処罰を下す必要があるが、今回は領内であっても街の中ではないし、冒険者が依頼中による不運と言うので、領主からは処罰対象にならない。寧ろ冒険者ギルドが管轄する案件でもある。
そもそも、冒険者ギルドも表立っての処罰は今回の件で言えば難しい。直接手を掛けているのであれば、処罰を行えた可能性があるが、そもそも彼女たちは冒険者ではない。襲ってきたと言う点においては山賊や盗賊と変わらないのだ。
山賊や盗賊の管轄は領主たちの方になる。けれど、山賊や盗賊の様に強奪や直接的な殺人を行っていないから、捌くに捌けない。
それで、冒険者ギルドでも表立って処罰できない理由は、例えば魔物に襲われ誰かを身代わりにする行為・・・褒められた行いではないが、時と場合によっては誰かを犠牲にする場面も少なくないのだ。同じチーム同士では少ないが、複数のチームが合同で動くような時はこのようなトラブルが起こってしまう事もある。止むを得ず、誰かを犠牲にして生き延びた場合、生き延びた者たちを処罰していたら、冒険者はあっと言う間に数を減らすだろう。流石に悪質な内容であれば処罰対象にはなるし、前者でも罰金などのペナルティは発生する。
だから、今回彼女たちが、冒険者と戦闘し倒し放置した事は、かなり白か黒かと言われると白よりのグレーなのだ。冒険者は、基本的に自己責任の部分が多いと言う事だ。魔物のなすり付けとか、他の冒険者を罠に嵌めるとか冒険者が全員良い人とは限らないのだから。
前世だと、車で人を轢いてしまったら、すぐに人命救助を行わなければいけない。もし彼女たちの様にその場から立ち去ったら、ひき逃げや殺人と言う罪に問われる事になる。そう言う点からしても、この世界と前世とでは人の命の重みや価値観が大きく違うのだと思わされてしまう。
「オルキデオ支部からは、彼女たちに金貨五十枚と十日間の軟禁、そして街の復興作業の手伝いを三日言い渡す」
ディーター支部長の処罰の内容も事前に聞かされていた内容と齟齬はなかった。
彼女たちに金貨五十枚何て大金持っている訳もなく、彼女たちの主人になってしまったレオンハルトが支払う事に・・・・。彼女たちを突き放した所で何時までもついてくると昨日教えてもらってから、五人を受け入れる事にした。
金貨五十枚分しっかり働いて貰うとしよう。
因みに軟禁十日間は今日までの軟禁と言う意味で、明日から三日間労働に励んでもらうのだ。俺たちも彼女たちが処罰を終えるまで待機する事になり、更に領地開発が滞ってしまうと嘆くレオンハルト。と言うのも、レオンハルトたちの今回の依頼に対する報酬の査定やまだエルフィーの治療が必要な人が居ないか等の確認の為の期間なのだ。
「本人たちが今、軟禁中につき彼女たちの主となったアヴァロン卿が彼女の処遇をきちんと対応していただきますが、よろしいですか?」
「ええ、わかりました」
上から目線での発言を行う支部長。内心では冷や冷やしていた。ディーター支部長は貴族ではなく平民の出。伯爵家の当主でもあるレオンハルトに対し、この様な良い方は本来許される事ではない。
これで、報告会は無事に終了する。一応、呪具の話や病になった者の件の話もしたが、まあ俺たちが知っていると言うか手伝った事実や知りえた情報をそのまま話していただけだった。
冒険者ギルドを出る時に領主に引き留められ、今度は領主館に案内された。
商業都市オルキデオの領主ユーリウス・ライマー・フォン・ヴァルヒ伯爵。一年の七割近くは王都で仕事をしている。内容は内務経済の部署で管理職の地位にいる文官だそうだ。
たまたま、残りの三割の帰省中に今回の事件に巻き込まれたそうだ。
俺はヴァルヒ伯爵との面識は何度かある。オルキデオの時は最初に訪れた時に、王都では国王陛下との謁見の時に会っている。そう言えば、ヴァルヒ伯爵家の使用人がクイナ商会に来たと言う話も聞いていた。少なからず懇意にさせてもらっている相手でもある。
「アヴァロン卿、どうぞこちらへ」
「失礼しますヴァルヒ卿」
何で呼ばれたのかはまだ分からない。領主館に入ると一人の文官がやって来て、俺たちを応接室に案内してくれた。アルデレール王国でも大きな分類に入る商業都市オルキデオ。その領主館と言うだけあって応接室もかなり豪華な物が飾られている。
「アヴァロン卿。其方に改めて礼を伝えたくてな。この街を守ってくれてありがとう」
ヴァルヒ伯は、先の場では簡略な礼だけだったのに対し、領主館ではきちんとした礼を述べてくる。四半期に一度帰省しているのだが、帰省のタイミングが今回の事件のタイミングと重なってしまうと言う悲運に見舞われた。
「これは細やかな物だが、謝礼として受け取っておくれ」
渡されたのは、金貨が大量に入った袋と希少鉱石の小山だ。
魔鉄に魔銀、魔金、ミスリル鉱、オリハルコン鉱とどれも数が少ない種類ばかり。アダマント鉱もあった。どの種類も武器を最低でも五つは作れる量だ。
「こんな貴重な品を宜しいのですか?」
「構いません。我が領地に会っても、お恥ずかしい事に魔鉄や魔銀、ミスリル鉱の武具制作は出来るのですが、魔金やオリハルコン鉱、アダマント鉱に関しては制作どころか加工もままならないのでして、普段は王家に税の一部として納めるだけです」
魔鉄や魔銀は、腕に覚えのある職人であれば手を加える事は可能だし、武器や防具も作る事は出来る。ミスリル鉱は二つに比べると難易度が上がるが出来なくはない。けれどオリハルコン鉱やアダマント鉱、この場にはないヒヒイロカネなどは非常に難しく、一流の鍛冶師でも加工するのは至難の業と言える。
一番の現位は、炉の火力不足と素材に対しての道具負けが原因である。オリハルコン鉱の素材を魔鉄やオリハルコンよりも下位の素材で作った金槌で叩くと、金槌の方が割れてしまうのだ。
ヴァルヒ伯とはその後有意義な時間を過ごさせてもらった。
「それで、このような場所に私を案内したのね?」
俺は、シャルロットとリーゼロッテの二人を連れて王都に来ていた。転移魔法を使っての移動の為、一瞬で王都のとある屋敷に来ていた。
「アンネローゼさんは、どう思いますか?」
王都に仮で作っているアシュテル孤児院としての屋敷。その屋敷に移動したレオンハルトたちは、アンネローゼを見つけると彼女を連れて、院長室の横にある応接室に来ていた。院長室だと誰が入って来るか分からないけど、応接室であれば入って来る者も少ない。それに盗聴などを防ぐために魔法で結界も張っている。
リーゼロッテにとっては母親で、俺たちにとっても母親的存在でもあるアンネローゼにシュラ族の事を相談してみたのだ。アンネローゼも元一流の冒険者の一人だったため、こういう時、的確な助言をくれたりする。
「シュラ族は、私も現役時代に一度だけ遭遇した事があるは、ただあの時は、既に主が居る状態で、主の傍に控えていたの」
その時の話をしてくれた。要約すると、他国にある迷宮に向かった時立ち寄った国に居た子爵家当主。剣の腕は一流で、冒険者として活動するならばAランク冒険者と変わらない強さを持っていたそうだ。その子爵家当主がシュラ族を下し、常に護衛で傍に控えさせていた。隠密にも優れているし、索敵や探索の技量もある。戦闘能力も高いし、主に忠実だから、基本的に裏切らないと言う点で、非常に優秀な駒として使っていたそうだ。
今はその子爵もシュラ族も共に命を落としているそうだ。人害や災害ではなく、風土病がその地域で蔓延して、半数近い人が感染し、そのうち五割が命を落としたそうだ。今はその風土病に対して、特効薬が開発されているから、死者が出ないらしいが、当時はかなり大変だったらしい。
運が良い事に、その風土病は他の地域で流行しなかった為に終息も早かった。被害が大きかったのは、治療できる者が当時いなかった為らしい。
俺が生まれる前の話で、国もアルデレール王国の近隣国ではないため、アンネローゼから話を聞くまで知らなかったぐらいだ。
「シュラ族は一種の功績にもなるわ。従えていると言う事は、実力者だと言う証明にもなるからね」
一人でも大変なのにそれを複数人従えているとなると、かなり大きな問題としてあげられるらしく、俺の五人と言うのもかなり異例な事らしい。
「やはり手元に置いておくのが良いんですかね?」
「別に四六時中護衛にしなくても良いんじゃないかな?隠密行動もできるから間者として忍び込ませることも出来そうだし、トラブルにあっても武力行使で切り抜けられるから」
なるほど、護衛としてではなく前世でいるところの忍者みたいな使い方が出来ると言うわけか。確かに、実力は申し分ないし、影から見守ると言うのは此方からしても安心できる。特に直接戦闘が出来ないエルフィーや使用人たち。俺が不在の時のティアナやリリーたちの護衛。結婚後のレーア殿下の護衛などだ。
王家には暗部と言う特殊な騎士団がいるらしいので、個人で複数人雇うのもありなのではと言う考えになり始める。
要は使い方なのだ。
「ありがとうございます。おかげで良い案が浮かびました」
彼女たちの処遇について考えがまとまると、早速フリードリヒたちと打ち合わせが必要になり、そのまま自分たちの屋敷に転移した。
「お帰りなさいませ。ご主人様」
「ただいま。フリードリヒは今どこにいる?」
「フリードリヒ様は現在、執務室におられると思いますけど・・・お呼びしましょうか?」
「いや、そのまま執務室で話をするから、このまま向かう。悪いけど何か飲み物とお茶菓子を用意してくれるかな?」
「承知しました」
そして、フリードリヒが居る執務室に入ると、そこにはものすごい速度で書類を片付けているフリードリヒがいた。
此方に気づくと慌てて書類を書いていた手を止めて此方にやって来る。
「忙しいところすまないが、一つ相談があって・・・」
互いに席に座り、レオンハルトの言葉にフリードリヒは、真剣な表情で話を聞く。話の途中で給仕係が紅茶を持ってきてくれたので、それを飲みながら話をつづけた。
「なるほど・・・シュラ族を従えさせるとは、流石でございます」
「ありがとう。それで、如何かな?結構良い案だと思うのだけど・・・」
「非常に良いと思いますよ。今やアヴァロン伯爵家は、新生貴族としてまだまだ整えなければならない事が山済みです。その中でもレオンハルト様や奥様方の護衛は必須となりますし、今後貴族間同士の牽制も必要になります。貴族社会は見栄や威厳が必要ですが、それよりも情報をどれだけ早く仕入れられるかも重要な事の一つですからね」
やはり、忍者の様な使い方は有効なのだろう。流石に忍者と言う説明では理解できないだろうから、隠密による情報収集だったり、影からの護衛だったりなど行ってもらいたい仕事を一つ一つ挙げてみた。
最終的に王家の暗部みたいなものですかと尋ねられた時は、「・・・・そんな感じの仕事かな?」と言うのが精一杯だった。
仕舞いには「もう少しシュラ族を従えていただけると、かなり楽になるのですが・・・」と小さい声で独り言を言っていたが、俺の耳にはしっかり聞こえていた。
兎に角、シュラ族の扱いについての方向性が固まったので、それに伴う準備をしておく必要があるだろう。
差し当たってしなければならないのは、名付けだ。シュラ族は赤髪のとか、黄髪のとかと髪の毛の色で呼ぶか、そこの女とか、そこの男と言うような性別で呼ぶらしい。何だか人権侵害になりそうだ。シュラ族を従えるとまず初めに名前を決める必要があると言う事で、どうするか考える。
名付けするにしても、俺得意じゃないんだけどなと思いながら考えるが良い案が出ない。一人決まれば次の者がいる。それが五回も繰り返される。
一人決めるとそのまま一気に決められないかと考えると、一つの妙案を思い浮かんだ。
「名前は、アインス、ツヴァイ、ドライ、フィーア、ヒュンフだ」
確かドイツ語で一から五を示す呼び方。安直すぎるかもしれないが、これでシュラ族の追加があった場合でも名前のストックは十分あると踏んでの選択。
しかし、意味を知るシャルロットは、「もう少しきちんと考えられた方が良いのでは?」と耳元で囁いて来るが、俺としてはそこまで悪い名前ではないと思っている。そもそも俺もシャルロットも元日本人なだけに名前を付けようと思うとどうしても日本人っぽい名前になってしまう。
それが悪いわけではないのだが・・・・非常に浮いた名前だ。ドイツ人っぽい名前の住民が多いのだから、ドイツ風に習う方がマシであろうと言う考えての発言。
「私は良いと思うよ?フィーアなんてちょっと可愛い感じするし」
「そうですね。私もリーゼロッテ様同様に、良い名前かと」
うん。・・・・あれ?本当にそれでいいのか?と思いたくなるが、リーゼロッテもフリードリヒも反対しないので、それで良いかと決めてしまった。
一応、片刃直剣使いがアインスで、大鎌使いがツヴァイ、片刃大剣使いがドライ、篭手使いがフィーア、短剣使いをヒュンフと名付けた。
「それで、何時頃此方に御戻りになられますか?」
フリードリヒの質問に「早くても後一日は向こうにいるかな?」と返答すると、戻られたらクリストハイトが領地開発で相談したい事があるとの事。ただ今日と明日はクイナ商会の方でバタバタしているそうなので、明後日以降が良いそうだ。
此方も領地の事で色々相談したい事があったので、丁度良かった。
「じゃあ、フリードリヒ。留守番を任せるよ」
そう言って転移魔法でオルキデオの宿屋に飛んだ。
その日の夜に宿屋に戻って来たシュラ族の五人の少女。見た目は人族とほとんど変わらない外見をしているので、パッと見ただけでは分からない。
「主様、我々をお呼びとの事で」
「疲れている所悪いね。君たちの今後について話をさせてもらいたい」
そこで、君たちを正式に受け入れる事、伯爵家に仕えた時の君たちの処遇についてと仕事の内容について、君たちの武器を新たに支給する事、最後に・・・。
「君たちには名前が無い。それは今後非常に困るので、名前をそれぞれに授ける」
「な、名前を付けていただけるので?」
そんなに重要な事なのか?と思い訪ねると、ツヴァイと名前を付けようとしていた女性が説明をしてくれる。シュラ族にとって名前を与えられる事は、一人前とみなされるそうだ。某作品の様な名前を付けられた事で能力が向上すると言う機能はなく、ただ単に主に認められたと言う意味になるそうだ。
それってすごく不便なのではと言うと、基本的に「おい」とか「おまえ」って呼ばれるのが普通らしい。シュラ族を同時に従えることが少ないからこそ、名前も後回しにされやすいのだとか。
それを聞いた瞬間、名前を決めるの早まったかなと思ったが、結局呼ぶ時に不便なのでそのまま名前を与えた。
「アインス、ツヴァイ、ドライ、フィーア、ヒュンフだ」
「アインス・・・アインス・・・ッ!!主様ありがとうございます」
アインスたち皆各自の名前にすごく嬉しそうな表情をする。普段見せない笑顔に年相応の無邪気さを感じた。これまで何度か話をしたが、毎回笑う事所か表情一つ変える事が少なかった。シュラ族は皆そうなのかと思う位五人とも無表情を貫いている。時折、感情らしい感情が見えるが、それでも「今、笑った?」と此方が疑問視するぐらいの変化でしかない。
「うん。みんな笑った方がとても可愛いよ」
シャルロットの言葉に、再び無表情になる五人。まだ全然打ち解けていないと言うのが良く分かった。まあ、出会ってから半月も経過していないし、関わり出したの何てつい前日なのだ。お互い親しい間柄になるにはまだまだ時間が必要と言う事だろう。
「明日で君たちの処罰も終わるが、最後まで気を抜かずに街の貢献をするのだぞ。では、各々休む様に」
「「「「「ハッ」」」」」
アインスたちシュラ族は、そう言うとまるで忍者の如くその場から消えた。確かにアヴァロン伯爵家の隠密として働いて貰うつもりだと説明はしたが、今この時からとは言っていないのに既にその気でいるのだから、シュラ族の忠義と言うのは凄まじいと感心してしまった。
さて、俺たちも明日に備えて休むとしますか。
明日は、冒険者ギルドで今回の報酬を受け取る。夕方にアインスたちの処罰も終わるので、終わり次第オルキデオを出発するつもりだ。
そう言えば、シュラ族に襲われた冒険者たちだが、戦闘と言うよりも一方的な蹂躙と言うある種トラウマの様な感じになった者と、死からの生還を果たしたと言う事で、皆冒険者を引退する事にしたらしい。
死ぬような体験と仲間の死という二つの直面にそう判断したのだろう。どうするのかと言う点だが、オルキデオの街で商売をするらしい。当然、ノウハウなんてものは持っていないから、何処かのお店で見習いとして働くところかららしい。
「レオン君良かったね?皆可愛い子だよ?」
リーゼロッテがニヤニヤした顔で話しかけてくる。こう言う部分は婚約者の中で彼女だけがする行為だろう。シャルロットは中身が大人だし、ティアナたちは上級貴族の御令嬢、そんな事はしないのだ。
とは言っても、リーゼロッテも本来は、上級貴族の孫娘に当たるので、ニヤニヤする方が不味いと言える。
「何馬鹿な事言っているんだ?」
しかし、リーゼロッテの言う通りシュラ族の五人は、普通に美少女と呼んでよい顔立ちをしている。顔立ちだけでなくスタイルも良いと来ている。十人が通り過ぎた時に七人が振り返る程だ。シャルロットは十人全員で、ティアナたちは九人から八人ぐらいだろう。これは俺の独断による見立てではあるが、そこまで大きく外していないだろう。
彼女たちの武器も考えなくてはいけないが、丁度良いタイミングで領主から鉱石などを沢山いただいているので、彼女たちが持っていた武器を参考に新しく作り直しても良いかもしれない。
そうと決まれば明後日は、クイナ商会にいるトルベンたちと打ち合わせをして、ついでにクリストハイトもクイナ商会の方に居ると言っていたから、領地開発の相談を聞く事が出来るだろう。まあ、忙しければ相手にされないだろうが、フリードリヒの話だと明後日以降であれば大丈夫とも言っていたし・・・。
それからは、リーゼロッテたちと他愛ない話をして、程よい時間になったので各部屋に移動して休んだ。
次の日は、簡単な依頼や鉱山での採掘の許可を得てから、採掘に没頭したりして過ごしシュラ族の五人の処罰も終了。俺たちも鉱山での魔物討伐の依頼を同時進行しており、依頼完了と査定待ちだった依頼の報酬を合わせてもらってから、王都に転移した。
転移については、戦闘中に見せていた事もあり、五人に驚いた表情は無かったが、行き先が王都と言う事は伝えていなかったので、大層驚いていた。まあ、王都に来たと言うよりも、王都まで移動してきたと言う意味合いで驚いていたようだが。
転移魔法は、距離や人数によって必要とされる魔力消費量がかなり違う。幾ら近いと言ってもこの人数を一気に王都までとなると、出来る者は少ないと言える。
魔力量が多く且つ魔力制御がきちんと出来ていれば、消費量を抑えつつ長距離を移動できるのだが、この世界の人の魔力制御は、出来ている俺たちからするとかなり杜撰な気もする。
王都の屋敷についてからは、早速屋敷の警備に当たると言って、各々姿を晦ました。三人は屋根の上から警戒して、二人は庭の辺りで警戒に当たっている。
屋敷の警備に当たっている者たちにそれとなく伝えておくようにフリードリヒに伝えて、普段の日常が戻って来た。
その頃・・・・。
「ふむ。今年の入試試験の結果は、平民からかなり学のある者たちが入って来るのだな?」
王立学園の学長室にて、数名の責任ある立場にいる講師陣たちが今年の入試試験の結果の報告を行っていた。
例年通りであれば、下級貴族の子弟たちが上位独占しているはずなのだが、今年はかなり荒れている様で、何せ下級貴族や平民だけでなく、上級貴族までもが参加している。今年に限った話ではない。昨年から上級貴族の参加率が増えてきているが、今年は去年よりも多くの子弟たちが受験していた。加えて、平民たちの実力も高く。上位・・・トップから三番手までは上級貴族が食い込んでいるが、四番手が平民で、五番手が下級貴族、六番手と七番手に再び平民、八番手に上級貴族と非常に入り乱れていたのだ。
「はい。上級貴族の方々が上位独占をすると思っていたのですが、まさかここまで均衡しているとは予想もしておりませんでした」
試験に立ち会った講師の一人が、困った顔で報告する。
普通に考えれば、平民の学がある事に喜ばしい所だが、それは下級貴族と同とであればの話、上級貴族に匹敵するとなると彼ら彼女らは専属の家庭講師によって身に付けている学と同等だと言う事になる。
王立学園は、貴族社会であるこの国において貴族や平民の立場を禁止している数少ない場所。公には禁止しているが、実際に権力をかざす者はいるし、卒業後に恨みなどで面倒ごとにならない様に各々が自分の立ち位置を理解して行動している。要は見えない場所では立場と言う権力が行われていると言う事。
これまでに表立って問題が起きなかったのは、割と貴族は貴族たちのクラスに、平民は平民のクラスにと言うのが当たり前だった。時々、貴族のクラスに平民がと言う時もあるが少なかったために軋轢もなかった。
しかし、今回の様な場合は、各クラスに均等に存在するので、どうするか悩みの種だと講師たちは話す。
「学だけでなく、実技も優秀なんですよ・・・」
どうしてこんなにも優れた平民が集まっているのか。それは、非常に簡単な事で、レオンハルトが孤児院の子供たちに学を身に付けさせるために色々手を打ったからである。実技も同じだ。つまり、今議題に上がっている子供たちと言うのは、殆どアンネローゼが経営している孤児院の子供たちなのであった。
それだけではなく、孤児院に遊びに来ていた地域の子供たちも時々勉強に参加してきていたので、総合的に色々な事が身につき、結果として現れてもいる。
「それに、孤児院の・・・おや?ひょっとして?」
そこで一人の講師が、上位に入っている平民たちの情報を見て不思議に思った。
出身が皆孤児院であると言う事。それも同じ孤児院だと言うのが分かったし、その孤児院がどういう孤児院なのかも知っていた。
「なるほど・・・・数々の偉業を成しているが、こういう所も秀でているとは・・・」
そう。話題沸騰中の在学生。その人物の育った場所の名前と同じだと言う事に・・・。そこの経営者が、上級貴族の令嬢だと言う事も。だから、それが分かってからある意味納得が出来たのだろう。話し合いで大まかな事は次々に決まったのである。
何時も読んで頂きありがとうございます。
誤字脱字の報告もありがとうございます。
新作の一つが投稿予約できました。二つ目も引き続き頑張って参りますので、応援よろしくお願いします。




