表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
150/165

150 シュラ族VS円卓の騎士

おはよう。こんにちは。こんばんは。

今日ぐらいから少しずつ寒くなるとニュースでやっていましたね。

 シュラ族の五人と円卓(ナイト・オブ・)騎士(ラウンズ)の六人による激しい戦闘が繰り広げられている。戦闘開始直後は、ティアナが赤髪の片刃大剣使いと、ユリアーヌが深い緑髪の大鎌使いと、リーゼロッテが紺髪の片刃直剣使いと、ダーヴィトが銀髪の篭手(ガントレット)使いと、クルトとリリーが金髪の小さい鎖の付いた短剣使いと一対一(サシ)若しくは、二対一という状況だったが、今は乱戦状態になっている。


 此処での戦闘は予想通りシュラ族側に軍配が上がる。負けたわけではないが、かなり押されていた。それで、ダーヴィトとクルトがお互いに下がった所で背中がぶつかった。周囲の事を意識していたのに、お互いぶつかってしまう位、何時の間にか視野が狭くなっていた。


 そのあたりから徐々に連携して戦うようになったが、かなり激しい戦闘を行っているにも拘わらず、押され気味の円卓(ナイト・オブ・)騎士(ラウンズ)の六人。


 片刃大剣使いの攻撃をユリアーヌが槍で逸らす。そこに篭手(ガントレット)使いが右拳を突き出してきた。


「させるかよっ!?」


 ダーヴィトが身体をねじ込んで右拳の攻撃を盾で防ぐ。篭手(ガントレット)使いは間髪入れず左拳を構えるが、打ち込む前にクルトが攻撃を行って阻止した。


 篭手(ガントレット)使いとクルトの両者の上空から大鎌使いが武器を振り下ろす。ユリアーヌがそれを察知して槍を滑り込ませる。


 更にユリアーヌを踏み台にしてリーゼロッテが大鎌使いの更に上の位置まで跳躍する。振り下ろす斬撃を鎖付きの短剣が阻止してきた。


 色んな所で金属と金属の衝突する音が鳴り響く。お互いの武器がぶつかった衝撃で発生する衝撃波も先程から周囲の空気を震わせていた。


「アカツキ流大剣術『(よい)斬り』」


 ティアナの攻撃は短剣使いに向けて放つ。しかし、此方も片刃直剣使いの者が間に入り攻撃を防ぐ。更に短剣使いが体術でティアナの右肩を蹴り上げた。


「くっ・・・」


 蹴られた事で地面に倒れるティアナ。そこに追い打ちをかける大鎌使いの斬撃。大鎌との戦闘は、帝国のローゼリア皇女の護衛で来ていた現守護八剣の第八席のローズマリーの武器が大鎌なので彼女と何度か戦闘訓練して経験はあるが、彼女とこのシュラ族の大鎌使いは根本的に大鎌の扱いが違う。


 正しくは大鎌ではなく身体の使い方が違うのだが、ローズマリーの大鎌は鎌の繊細に操るのに対して、シュラ族の大鎌使いは身体を軸に遠心力など様々な力を使って攻撃を繰り出している。


 だから、どちらが上かと言われると実践的なシュラ族の大鎌使いの方が、ローズマリーよりも大鎌を上手く使っている。


 んー。もっとわかりやすく言うならば、型の披露と真剣勝負の様な感じだ。


 大鎌の一撃は、流石に不味いと判断し飛び出す。


 間一髪と言える間合いで大鎌の刃を日本刀で受け止めた。ずっしりと腕にかかる重みが、その威力を物語っている。


 このまま受け続けると日本刀が折れる可能性があると考え、直ぐに刃を逸らして斬撃の軌道を逸らせた。


 地面に突き刺さる大鎌。相手は慌てた様子で引き抜こうとするが、そんな隙を与えるつもりはない。今度は此方が腹部に強烈な蹴りを入れる。


 華奢な見た目に反して、蹴った瞬間の感触は土嚢でも蹴ったかのようにまあまあな硬さを誇っていた。


 別の者が(かたき)を取ろうと襲い掛かってくる。


 大剣使いのシュラ族が、渾身の一撃を繰り出して来ようとするが、紙一重で躱し、ついでと言わんばかりに回し蹴りでその者を蹴り飛ばす。


 ティアナもその頃には立ちあがっており、ちょうど良い頃合だと判断した俺は、他の者たちも集める様にそれぞれの戦いに入って強制的に退かせる。


「ユーリ、クルトもこの辺りで終わりだ」


 皆にそう告げると、皆悔しそうな表情を浮かべる。


「後は俺が足止めをする。治療するから終わったらシャルたちと合流してくれ」


 あの者たちの今の力量は分かった。六人で何とか戦えていたのだから、俺一人でも十分足止めの効果はあるだろう。ただ、これまで本気だったのは分かるが、全力かと問われればまだ何かあると直感的に分かる。


 それを出された場合、六人との戦力差は一気に広がってしまう可能性があるのだ。


「皆よくやったさ。少し前の実力だと完全に押し負けていただろう。誇ってよい。今回はその実力を上回る者たちだっただけだし、皆まだ成長中だ。次に負けなければそれで良し」


 励ましの言葉を言いながら『範囲治癒(エリアヒール)』で皆の傷を癒す。そして森の方角に指をさし「この方角にシャルたちがいる」と言って、皆を送り出す。


「次は必ず負けないから」


 リーゼロッテが代表で皆の気持ちを代弁する。そして、レオンハルトの言う方角に向かって走り始めた。


 出来れば、次が来ない事を願いたい。今回は魔族側からの攻撃ではなくシュラ族としての行動による攻撃なのだが、一人一人が並みの冒険者では太刀打ちできない者ばかり。そんな連中を相手にすると言うのはかなり骨が折れる。


 五人とも戦闘を何時でも開始できる状態で、待っていてくれたらしく。俺の準備が出来ると一気に襲い掛かってきた。


 俺も強化魔法を掛けて、攻撃を行う。


 お互い斬撃などの攻撃による軌跡が空中を描く。そして、互いの武器の衝突による火花と甲高い金属音が鳴り響く。


 六人がかりで如何にか五人とやや押され気味だった戦闘に対し、一人で五人を圧倒するレオンハルトは最早、王国内でも敵なしの存在の一人になりつつあった。


 その攻防は激しさを増す。足止めと言っていたのに、こうも激しい戦闘を繰り広げると言うのはどう言う事なのだろうと、もしこの場にシャルロットたちがいたら問い詰めて来ていただろう。


 次第にシュラ族の動きが悪くなってくる。レオンハルトが攻撃の合間で直背何時的な攻撃を彼女たちに与えているからだ。それに連戦と言う事もあり、少なからず披露し始めている。普通の戦闘では、そんな事はあり得ないのだが、相手が同格レベルともなれば体力は削られるし、格上ともなれば体力だけでなく精神力も削られる。


 広い草原での戦闘は、徐々に場所を移しつつある。


 レオンハルトは、森から彼女たちを遠ざけるためにも、そして商業都市オルキデオの方に行かない為にも戦いながら、少しずつ移動していたのだ。


「せいっ」


 横薙ぎの攻撃に大剣で受け止めるシュラ族の使い手。鍔迫り合いになれば大剣の方が力を入れやすくその上、武器の重みで有利になるのだが、その優位性は一切なかった。


 力を入れ過ぎると受け流されて地面を斬る事に、加減をすると弾き返されるのだ。


 大剣使いがバランスを崩した所に、懐へ入り込んで巴投げの要領でシュラ族を地面に叩き込む。


「がはっ!!」


 誰もカバーに入れていない。


 本当に足止めとは何だろうと言いたくなる。まあ一応、戦っている場所を少しずつ移動させているので、間違ってはいない。


 レオンハルトは巴投げを行った後、後ろへ跳躍して一度距離をとる。


 一方的・・・・とまでは言わないが、かなり優位な状況で呼吸を整えるレオンハルト。確かに圧倒していたのだが、相手は魔族でもかなり強い種族のシュラ族。若い集団ではあるが、五人も同時に相手にしていたので、冒険者用のブラックワイバーンコートが所々裂けているし、肌が露出している顔などは軽度の切り傷もある。


 当然、シュラ族の方が血を流している量は多い。


 レオンハルトと同じく全員が黒い服に身を包んでいるが、この戦闘で結構肌が露出している。露出している事でサービスシーンがあるかと言われると、そう言う露出の仕方ではない。まあ、背中の服が切り裂かれてちょっと際どい所もあるけれど、どちらかと言うと長袖が半袖になるとかそう言う感じだ。


 軽度の切り傷を治療している時、シュラ族の方は何やら構えたまま微動だにせず、集中していた。何をしているのか分からないが、少し様子がおかしいようにも思う。彼女たちの雰囲気がみるみる強く、そして鋭くなっていく。


 俺たちで言う所の『身体強化(フィジカルアップ)』の状態になっているように感じる。


 いつぞやの王都襲撃にいたシュラ族と同じく瞳に炎を宿していたのだ。ただ、五人とも宿す炎の色が異なっていた。そう言えば、王都襲撃時のシュラ族の炎とも異なっている。炎の色は統一されているのではなく、此処によって異なるようだ。色で何か変化が異なるのか分からないが、色の基準は髪の色をベースに薄めた感じの色になっている。


(なる程・・・第二ラウンドって事ね・・・)


 全力且つ本気の状態になったシュラ族の女たち。先程までとは比べ物にならないプレッシャーが肌をチリチリと襲う。


 殺す気で行かなければ此方が殺される。そう判断できる程濃密な殺気を感じ取った。撤退と言う言葉が脳裏をよぎるが、まだシャルたちからの救出と捜索の終了の連絡が来ていない。と言う事は、このまま野放しにすると間違いなくシャルロットたちの元に向かうだろう。道中でラウラとエリーゼの二人も襲ってだ。


「此方も気を引き締めないとな」


 レオンハルトも精神を落ち着かせて、神明紅焔流口伝『心武統一(しんぶとういつ)』を使用した。


 お互いが、準備できた所で再び激しい戦闘が開始する。けれど、先程の高レベルの戦闘を遥かに超える戦闘が繰り広げられていた。


 遠目から見ていたエリーゼたちは、何が起こっているのかも分からない程、激しい戦闘だったのだ。エリーゼたちが一般人と変わらないからだろうと思う人も居るかもしれないが、中堅冒険者でもこのレベルの戦闘では目で追えるかどうかわからない。


 取り敢えず、優位に立っているレオンハルトだが、このまま戦闘が続けば何時敵に優位性を奪われるか分からない。短期決戦が良いだろうと判断し、直ぐに無意識に近い意識の中で、魔法を展開し発動する。


 四種類の魔法、火属性魔法と水属性魔法、風属性魔法、土属性魔法を逐次展開で放つ。


 各属性の魔弾系の魔法を連射して牽制する。


「この魔力は・・・一体・・・」


 大鎌使いは大鎌を、手首を捻りながら回転させ盾の様にして防ぐ。片刃大剣使いと片刃直剣使いは斬撃で飛んでくる魔法を斬り飛ばしているが、数に圧倒されて被弾している。篭手(ガントレット)使いは地面を叩きつけて物理的な土壁を展開し、その壁を盾に身を潜める。短剣使いは防ぎきれないと判断して回避に専念しているが、此方も回避しきれない量の魔法に被弾している。


 自分を起点に発動している魔法の為、移動すれば展開している魔法も追尾し、展開すると同時に放っている。


 体勢を一気に崩したことで、レオンハルトは間合いを詰めて魔法だけでなく斬撃による攻撃を加える。


 シュラ族たちも攻勢に出ようと頑張るが、魔法で動きを制限されて防戦一方。


 だが、その状況も長くは続かなかった。シュラ族は互いに連携を始め、防御に徹する者、牽制する者、攻撃を行う者に分かれて、此方を攻撃し始める。


 片刃大剣使いの攻撃が、レオンハルトの腹部をクリーンヒットする。辛うじて魔法障壁を発動させたので、直撃は避ける事が出来た。しかし、これまで大きな攻撃を受ける事はなかったのだが、連携をされたことでレオンハルトの方が一瞬できた隙を突かれたのだ。


 吹き飛ばされた事で、シュラ族との距離を取る事は出来たが、同時に逐次展開していた魔法も霧散する。


 嵐の様に襲ってくる魔法の数々が止んだ事で、好機とみたシュラ族が、今度は連携を取りながら五人で攻撃をしてくる。


 地面に手を突き土属性魔法『大地炸裂(グラウンドクラッシュ)』を発動させた。


 土属性魔法『大地炸裂(グラウンドクラッシュ)』は、大地の表面近くの地中を爆発させたかのように地面を砕き、その隆起する地面が一直線に進んで、敵の進行を止めたり、直接的なダメージを与える魔法。


 五人とも、砕けながら進む魔法を跳躍で回避し、一度進行を止めたが再び此方に向かってくる。けれど、レオンハルトもこの魔法でシュラ族を如何にかできるとは思っていない。魔法を使用したのは一瞬でも良いから時間を作りたかったのだ。


 日本刀を鞘に納め抜刀術の構えを取る。


 抜刀術の射程内に入ってきた瞬間、神明紅焔流抜刀術奥義壱ノ型『伐折羅(バサラ)』を使用して、一気にシュラ族を切り飛ばす。


 絶命にまでは達する事は無かったが、かなり深い傷を負わせた。たかが一閃、されど一閃。その一撃はそれぞれのシュラ族を戦闘不能に追いやったのだ。片刃直剣使いは片腕を切断。短剣使いは腹部に深手、流石に切断とまでは至らなかった。片刃大剣使いは両腕を切断。大鎌使いは右足を切断。篭手(ガントレット)使いは武器毎片腕を上下に切り裂かれた。


 痛みに呻く彼女たち。これ以上の攻撃を行えない様に地面に落ちている武器を神明紅焔流の技で破壊した。


「さて、少し大人しくしてもらおうか・・・・『睡眠(スリープ)』」


 無属性魔法『睡眠(スリープ)』で強制的に意識を手放させる。最初こそ呻きながらも抵抗を試みていたが、ものの数分で静かになった。


 意識のない彼女たちを治療し、失った手足も元通りにしておいた。その上で、両手足を縛り即席で作った土属性魔法『(ストーン)(プリズン)』に閉じ込めておいた。


 エリーゼたちの元に檻ごと戻ると、二人はシャルロットたちが救出した冒険者たちの看病をしていたのだ。横たわっている人数は全部で六人。治療も済ましてあり覚醒を促すのを待っている状態だが、恐らく今日一日は目を覚まさないだろう。


 そんな中ラウラが、俺の存在に気付きやって来る。


「ご主人様。申し訳ありません。此方でお待ちください」


 席を用意してくれており、そこに案内される。捕まえたシュラ族はどうしたって?そのあたりに檻ごと放置している。


 ラウラがお茶を用意してくれたので、飲んで待っていると、シャルロットたちが転移魔法で戻って来た。ユリアーヌたちもいるので、無事合流する事が出来たようだ。


 誰も連れていない所を見ると、発見できなかったのか、既に死体となっていたのかだろう。


「生存者は見つけられなかったわ」


「仕方がない。彼らも冒険者として活動していたのだから、ある程度覚悟もしていただろう」


 高い危険(ハイリスク)、高い利益(ハイリターン)の仕事なのだから、何時命を落としても可笑しくはない。冒険者になる者は、そこをきちんと理解しておかなければならないのだ。冒険者以外にも傭兵や兵士たちも同様なのだが、冒険者は冒険者ギルドがその人の能力に合わせた仕事を選べるが、傭兵は金で雇われる組織と言う事もあり、時には悪人の方に就く事もある。冒険者も似たようなところはあるけれど、傭兵に比べれば少ない。


 兵士は国や領主などに雇われているので、冒険者や傭兵に比べる高い危険(ハイリスク)、高い利益(ハイリターン)とまではいかない。けれど、有事には率先して動かなければならないと言う意味では冒険者や傭兵よりも自由がないと言える。


 戻ってきたシャルロットたちも少し休んだのち、商業都市オルキデオに戻るための準備を始める。未だに目覚めない救出された冒険者やシュラ族。シュラ族を全員捕縛している姿を見た時、ユリアーヌたちは「まだ、これほど差があるのか・・・」と呟いていた。


 冒険者たちは馬車の荷台に乗せて、シュラ族は石の檻ごと引きずる事にした。ただ、石とは言え重量がそれなりにあり、それが五つもとなると大変なので、魔法で浮かして運んでいる。


 知らぬものが見たら二度見してしまう様な光景。実際に、すれ違った行商人や冒険者たちは二度見していた。


「そこで止まれッ!!」


 商業都市オルキデオに到着すると門兵が槍を使って行く手を阻むように停止するよう言う。一般の列ではなく、貴族用の列に並んでいたのだが、やはり後ろのアレが止められた原因だろう。


 俺は馬車を降りて門兵の下に向かい、事情と身分証を提出する。


 伯爵それも当主と言う地位に加えて、(エー)ランク冒険者だと知ると、すぐに謝罪をしてきた。貴族当主に無礼を働けば、相手が平民の場合何をされても文句は言えない。貴族の物であってもそれなりの処分が下りる事もあるのだ。


 今は、それを使う者こそ少なくなっているが、傲慢な当主や自分勝手の当主は、そういう行いを未だにしていると耳にした事があった。


 今回は此方の落ち度もあるので、頭を挙げるように伝え、一応確認してもらってから、街の中へ入る。


 そのまま、まずは治療院に行き、目覚めない冒険者たちを預ける。これは、事前に冒険者ギルドから要請が来ていたのだろう。すんなり引き受けてくれた。今度はその冒険者ギルドに向かい中へ入ると、中にいる者たちが一斉に此方へ視線を向ける。


 なんだろう?


 依頼を受けた時にも感じた異様さ。オルキデオ支部の支部長や副支部長、受付主任が居なかったのだ。受付主任以外は、見えないところで仕事をするので、居るかどうかわからない。けれど、依頼を受けた時は挨拶に出てこなかった。受付主任が居ないのも年中無休ではないし、冒険者ギルドは一応一日中オープンしている。だから、夜勤を担当する日も当然ある。


「ねぇ、何か街の様子も可笑しくない?活気がないと言うか、外に出ている人が異常に少ない気がする」


 リーゼロッテが小声で話してくる内容に、俺自身も同意した。


 冒険者ギルドが可笑しいのではない。どちらかと言えばオルキデオの街全体が何か変なのだ。


「その割には、冒険者ギルド集まっている冒険者の人が多い気もするわね」


 反対側でシャルロットも同様に小声で話してくる。


「すみません。依頼完了の報告です」


 取り敢えず、受付で依頼完了の報告を行う事にした。冒険者カードの提出をして確認をしてもらう。


「レオンハルト様ですね・・・ええっと・・・ッ!?少々お待ちください」


 受付の女性は慌てて事務所に入っていく。するとすぐに、依頼の説明をしてくれた事務主任が姿を見せた。その後ろには先ほどの女性も一緒にいる。


「レオンハルト様。どうぞこちらへ」


 事務主任に連れられて、依頼の説明を受けた部屋に案内される。冒険者ギルドには俺とシャルロット、リーゼロッテ、ティアナやリリー、エルフィー、ヨハンの七人で入っている。他の面々は外で捕縛しているシュラ族の見張りをしていた。


「依頼の完了との事ですが、行方不明者の冒険者たちは・・・・」


 依頼内容は、行方不明者の捜索と捜索隊の救出であったが、あまり全員が無事と言う可能性は最初から捨てているような雰囲気だ。こういう依頼の場合、全員が無事と言うのはかなり稀な場合(ケース)だろう。救出までの時間にもよるだろうが、遅ければ遅い程、発見が困難で、生存率は激減する。


 今回の場合だと、行方不明者は絶望的で、捜索隊の救出は多少生存確率がある程度。事務主任もこれほど早く帰って来ると言う事は、あまり良い結果ではないのだと考えていた。


「早速本題ですが、生存者は六人で、発見して直ぐに治療を行い命に別状はなく、今は治療院に預けています。他の者は遺体が幾つかと遺品を回収しています」


「そうですか。身元が分かる物は携帯していましたか?」


 質問と同時にギルド職員を治療院へと確認に向かわせる。此方が得ている情報を伝え、後で遺体や遺品を別の場所で出すように言われる。まあ、命令口調ではなくお願い口調ではあったが・・・。


「それで、襲撃者とも遭遇して交戦しました。今は、捕縛して外に居ます。仲間が見張っているので大丈夫ですよ」


 襲撃者が誰なのかも説明をする。名のある山賊や盗賊、イレギュラーな魔物だと思っていたら、まさかのシュラ族と聞いて慌てふためく。


 どうすれば良いか分からない様子だったので、支部長たちに相談する事を勧める。


「支部長のディーター殿か、副支部長のロホス殿に相談されてみては?」


 しかし、事務主任はすぐに返事をする気配がない。やはり何かあるのだろうかと思っていると、事務主任は漸く重い口を開いた。


「すでにこのような異変にお気づきかもしれませんが、支部長や副支部長、他の職員は現在床に臥せています。冒険者ギルドだけではありません。オルキデオの街全体が謎の病で動けません」


 突然のカミングアウトに唖然とする。そのような状況であれば街の封鎖をしなければならないはずだ。封鎖しなければ、移動する者たちによって多くの街にその謎の病が蔓延する可能性があるのだ。


「なぜ、秘密にしているのですか?街の封鎖を行うレベルだと思いますが・・・」


「申し訳ありません。ただ、感染する類の病ではない様なので、今は街の封鎖もしておりません」


「それでしたら、その病が発症した者たちは何が原因で?」


「病になった者の共通点は、一月ほど前に発掘された魔道具で、その魔道具が突如起動し、その周囲に居た者が病になっています。運悪く、冒険者ギルドも支部長や副支部長をはじめ数名の職員がその発掘の確認に向かっており、病に罹ってしまいました」


 他にも鉱山で働く多くの物や領主にその付き人も病に罹っているそうだ。


「魔道具とは何だったんですか?」


「わかりません。形状は人の頭蓋骨を加工している感じの物です。今は、街に居た魔法使いが土属性魔法で密閉して、そのまま一旦鉱山に戻しています」


 悪趣味な形状の魔道具だな。俺だけでなく他の者たちも同じ思いだろう。


 症状がどういったものなのか確認すると、全身に緑の水疱が出来て、爪は黒ずみ、全身重度の倦怠感に高熱が出るらしい。食欲低下や嘔吐、下痢と言った症状はないが、身体を動かすと激痛もあるとの事で、現在大きな宿屋にて全員を収容しているそうだ。


 エルフィーはその症状に心当たりがなく、俺やシャルロットの恩恵による知識でも分からなかった。


「もしかして、魔道具の起動が引き金となって発動する呪法でしょうか?」


「呪法ッ!?呪殺具の一種ですかっ!?大変です。すぐに治療をしなければ」


「落ち着いてください。呪法だとしても、その効果は様々です」


 呪法については、多少知識はあった。呪法、特殊魔法の更に特殊扱いされている超特殊魔法の一つで、正しくは呪詛魔法と言う。魔法で、使える者は国から超危険人物として扱われ、捕縛対象になる国すらある。アルデレール王国は呪詛魔法を使った者は、捕縛対象とされており、現状捕縛されている者はいない。


 事務主任の言う呪殺具、またの名前を呪殺魔道具と言うのだが、正確に分類するならば呪具にあたり、呪具の中に発動と同時に即死させる呪殺具や軽度から重度、最終的には死に至るまでの幅広い病気等の呪いをかける呪病具等がある。


 この呪詛魔法は、聖魔法の『解呪治療(アンチカースヒール)』で解呪する事が出来る。これで解呪できない場合は、更に上位の解呪の魔法を使う必要があったが、使える者はそれほど多くはない。


「私が、解呪の魔法を使用してみます。案内してもらえますか?」


「わ、わかりました。でも、捕縛している件は・・・」


 シュラ族の事もある。彼女たちの実力は(エー)ランクの冒険者以上であり、仮に捕縛を解いて脱走しようものならば、忽ちオルキデオの街は火の海になりかねない。


「シュラ族は仲間が引き続き見張りますので、先に解呪を。俺は、その魔道具について調べてみますので、場所を教えてください」


 病の原因が何か分からないければ、街の人たちは常に不安に晒されるし、俺自身も今後仲間を守る上で対策を立てておく必要があるのだ。そのためにも件の魔道具を確認しておく事が重要であった。


「アヴァロン伯爵様に何かあっては困りますっ!?そんな危険な事は教えられません」


 初めて、事務主任の女性はきつく言葉を荒げて忠告する。


 普通に考えれば、レオンハルトの行動は、常識的にあり得ない。既に多くの犠牲者が出ている呪具を確認しようと言うのだから。


「安心してください。俺も解呪の魔法は使えますので」


 実際には、解呪の魔法ではなく。聖魔法を、自身を中心に魔法陣を展開して、呪いなどの効力を打ち消す『聖域(サンクチュアリ)』と言う聖魔法が使える。解呪に関してはエルフィーが使用できるだけで、俺とシャルロットは覚える事が出来なかった。まあ、覚える機会が無かったとも言える。


「それでしたら・・・いえ、でも・・・んー」


 困っている様子の彼女に更に情報を与える。


「この手の呪具は一度発動すれば、もう発動しない物も多いですから」


 まあ、憶測でしかないし、実際に呪具に触れる機会などなかった為、常時発動型か単発型かは知らない。ただそれとなく言っているだけに過ぎない。それに、即死する様な極悪仕様ではない事は既に分かっているので、仮に呪いを受けたとしても解呪できると思っている。


 うちの治癒士を舐めないで貰いたい。仮にも聖女と巷で言われる位、治癒能力が高いのだから。


 それで、俺は一人問題となっている呪具の元に向かう。鉱山の入口が落盤の様に崩れており、この奥に呪具があるらしい。


 魔法で手早く瓦礫を退かす。すると、土で出来た球体の塊を発見する。魔法使いの手によって封じられている代物で間違いはなさそう。


 流石にこの場で砕くわけにもいかないので、転移魔法で周囲に何もない所へ移動して、それを空ける。


 教えてもらった通り、歪な髑髏の魔道具が姿を見せる。


「悪趣味な魔道具だな。見ただけで呪いの道具ってわかるよな。まあ一応」


 呪具について調べてみるも何も発見する事は出来なかった。


 発見は出来なかったが、分かった事もある。それは、呪詛魔法は如何やら単発の発動ごただのガラクタになっていたのだ。


 魔法で調べての結果なので間違いない。


 ただし、この呪具は相当古いと言う事も分かった事の一つかもしれない。年代で言えば、ざっと千年以上前になると推測できる。この呪具に付着している金属片を調べた時に、グリフォートニア大国の剣の先だと言う事だ。グリフォートニア大国は千年以上も前に滅びた国家で、学園で歴史を学んでいる時に教えてもらった国だったのだ。


 安全だと言う事が分かり、再度オルキデオの街に戻る。


 俺が戻った直後、冒険者ギルドの方で騒ぎが発生していた。


 一難去ってまた一難・・・。呪いの病の方は現在エルフィーが治療中なので解決していないが、呪具の方は既に解決している。行方不明となっていた冒険者や捜索に当たっていた冒険者の救出も終わっている。あと、起こるとすれば・・・・。


(もう目覚めたのか?まだ一日以上は起きないはずなのに)


 騒ぎを起こしているのはレオンハルトが捕らえたシュラ族の五人だ。直ぐに冒険者ギルドの所に移動すると、そのタイミングなのか分からないが、五人とも石の檻を破壊し、外に出てしまった。


 不味いッ!!


 念のためユリアーヌたちを付けているが、流石に街中で暴れられたら被害はかなり大きくなるだろう。俺も身体強化の魔法を使ってシュラ族とユリアーヌたちの間に割って入る。


 勿論、何時でも鞘から日本刀を抜刀できる状態だ。


 しかし、予想とは裏腹に、シュラ族の五人は地面に膝をつき、頭を下げる。


「貴方様は、我らが使えるべき主様だと判断しました。どうか我らの忠義を受け取り下さい」


「「「「受け取り下さい」」」」


 ・・・・・ん?


 レオンハルトはあまりの出来事に暫し固まる。レオンハルトだけではなくその場にいた者たちが固まっていた。


 シュラ族は、己が主と認めた者に忠誠心を誓う。何を基準にと言うと、自分たちを倒す強さ、そしてその度量の広さ等がある。忠誠を誓った者には裏切らない仮に忠誠を誓い別の者に敗れたとしても、主を乗り換える事はしない。ただし、自身が主よりも強くなってしまった場合はその忠誠心が消え、別の主につく事もあるとか。


 簡潔に言えば道場破りに来た我流の武闘家が、返り討ちに会い、弟子と師匠と言う関係になる。師匠から与えられた仕事をこなしながら鍛錬をし、時に師匠と試合をする。全力の試合で師匠が負けた時は、去るの身と言う事だ。


「え・・・っと、そこで待機。誰も危害を加えるな」


「「「「「承知しました」」」」」


 取り敢えず、彼女たちに指示を出して皆が戻って来るのを待つ事にした。

何時も読んでい頂きありがとうございます。

誤字脱字等の報告もありがとうございます。

新作を今月末か来月上旬には投稿出来たらなと思っています。

引き続きよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ