015 新たな仲間、槍使いと盾使い
交易都市イリードにあるトルベンの工房で一振りの剣と弓を受け取っていた。また別口でお願いしていた防具も作ってくれたようで、早速その防具を装着し、微調整を行ってもらう。
リーゼロッテの剣、ベースはミスリル鉱を使い魔法の発動を助けられるようにし、強固さも加えるためにウーツ鋼とクロム鋼の混合鋼を少量練り込まれている。以前の鉄の剣に比べ数段性能が上がったミスリル混合剣。
シャルロットの弓も同様に、此処の性能を高めるために魔力循環しやすいミスリル鉱に魔物レッドトレントの一部を使って作成していた。繋ぎで買った弓は、魔法の袋の中にしまっているが、それに比べても完全に能力が上昇している。レッドトレントにミスリル鉱で装飾した赤鋼弓。
防具は、動きが阻害され難い物をお願いすると布地を付与魔法で強化する事になった。付与魔法はレオンハルトが行うので、裏地に細工するのとマウントゴリラの皮とキリングベアの皮で作った革鎧を制作してくれた。三人とも同じものが出来るかと思ったが、それぞれの動きや用途に適した形に修正してくれていた。マウントゴリラの皮は、防刃、対魔法緩和の効果があり、キリングベアの方も対衝撃緩和と保温効果が備わっている。
元々備わっている効果の付与魔法で更に高めるとして、他に何を付与させるか考えるレオンハルト。最終的に思いつくものをすべて付与してはどうか自分で作ってみた試作品に付与してみる。
もし、何らかの制限があるのだとしたら先にそれを知っておかないと、トルベンが制作した革鎧を駄目にしてしまうかもしれない。
防刃、防突、防水、防寒、対衝撃緩和、対魔法緩和、保温、蒸れ防止、汚れ防止此処まで掛けると試作品にひびが入り始めた。その事をトルベンに伝えると酷く呆れられた。
如何やら普通は三つか四つが限界らしい。素材にもよるが例えばゴブリンの皮等だと一つか二つが限界。素材が良くなれば、増えたりするがそれでも精々六つまでなのだそうだ。九つも付与しただけでなくそれに用いたのがゴブリンの皮で行ったのだから、余計にだろう。
そこで、具体的にどうしてそれ程付与できたのかと言う疑問になり、検証する。トルベンとペートラは付与魔法が出来ないが、弟子の一人に付与魔法が使える者がいたので、実際に使ってもらう。
見ていて分かった事は、彼がいけなかったのか、全体的に付与魔法がこうなのか分からないが、魔力制御があまい事が分かった。もう少し検証する必要があるため、トルベンの紹介で防具などに付与魔法を施してくれる人物数名に同じように付与してもらった。
付与料金が少し高い気もしたが、商業都市プリモーロで水を大量に販売して、資金を得ているので問題ないが・・・。
それらの結果を考察するに、見えてくるものが浮上した。同じ素材で同じ物を作り付与してもらった結果・・・皆魔力制御にムラがあった事と制御がまともな人程、付与の種類が多くしっかりとかかっていた。
トルベンの弟子は一つのみ、付与魔法をお願いした者で魔力制御が悪い順に一つ、一つ、二つ、二つと言う結果になった。
要は、素材に魔力付与できる容量は決まっていて、それを如何に少ない魔力で付与できるかによって付与できる数が変わってくるのだろうと考えた。数字で示す方が分かりやすいかもしれない。
素材を受け入れる容量を十とすると、魔力制御が悪い人は一つの付与に六とか七ぐらいの魔力を使う。よって残りの容量的に四とか三しか残らず他に付与できない状態になる。これが、魔力制御が上手な人は付与に四とか五で行えるため、付与の数を二つに増やす事が出来るのであろう。レオンハルトの場合は付与する内容を明確にイメージし無駄を省き、最小限の魔力で魔力制御しているため、付与に使用する魔力が一より少し上程度で済むので、九つも付与できたと言う事だろう。
検証の結果導き出された答えをトルベンに伝えると恐ろしい勢いで勧誘された。流石にそれは遠慮させてもらうと、弟子の中で唯一付与魔法が使える者を鍛えてほしいと懇願され、これまでも良くしてもらっていたので、弟子を鍛える事は了承する。
まずは、トルベンの弟子ケヴィンの魔力量を知る必要があるので、使える魔法を教えてもらう。彼は火属性魔法、土属性魔法、付与魔法が使えると言う事で、小手調べに火属性魔法『火球』を何個作れるか見せてもらう。ケヴィンは、魔力欠乏症を酷く嫌がった。その理由が、鍛冶師見習いとしての作業が出来なくなり他の者に迷惑をかけてしまうからだそうで、その事をトルベンに伝え二人で説得した。
魔力を全部使い切るように指示し、出来た『火球』は十個。魔力制御の事もあるので、一つにどれだけ魔力消費しているか分からないが、魔力量を数字で表すなら百から百五十ぐらいだろうか、彼の訓練の時は魔力を数字に変換してみていくほうが早いと判断し、勝手に進めていった。因みに彼は魔法が使える者で示すなら下の中ぐらいの位置にいる。大体平均が下の中なので、彼は平均的なレベルなのだろう。
まずは、魔力量を底上げする必要があるので、魔力が回復するとすべて使う。全回復と全消費を交互に行ってもらい。それをしばらく続けてもらう事にした。恐らく二月ほどで本人にも分かるぐらいには魔力量が上がるはずだ。
これで漸くトルベンが制作した革鎧に付与できると思ったが、シャルロットにそろそろプリモーロに行った方が良いのでは?と言う事で、空間魔法で転移してハンナのお店に行く。
わずか数日で水の残りが僅かになっていた。そのかわりに染めが終わった布がところせましに干している。染め樽の中身がない物が半分以上になっている所を見ると、染め具合を見るために綺麗にしているようだった。
貯水樽に水の補充を行い。また来る事を告げ再びイリードへ戻る。
さて、此処から漸く付与魔法を行うため防具を取り出す。
試作で行った、防刃、防突、防水、防寒、耐衝撃緩和、耐魔法緩和、保温、蒸れ防止、汚れ防止の九つに加え、追加で俊敏力向上、防御力向上、硬化、防酸、防熱、防臭を付けて終わった。本当はもう少し付与したかったが、防御系やその他と違い向上系は思いのほか容量を使う様で二つだけしか付けれそうになかったからだ。残りの容量を防御系に回し、恐らく付けれても残り一つか二つ程度にとどめた。
正直魔改造しすぎた代物だが、耐衝撃と耐魔法緩和は、効力としては五割減出来ればよい方だし、向上系も一、二割しか上がらない程度だ。
これは、自分たちももっとイメージをしっかりさせつつ、魔力制御をする必要があると判断し、定期的に作っては付与を試みる事にした。
新調したばかりの戦闘用服に武器、防具、その他装備品を付けていく。
「取りあえず、適当な魔物でどんな調子か試した方が良さそうだな」
と言う事で、冒険者ギルドへ足を運び討伐系の依頼を探す。
Gランクだと討伐系の依頼もまあまああるので、その中からツインテールウルフの肉の納品があったので選ぶ。
ツインテールウルフの肉を魔法の袋の中に入っているが、依頼を達成するのが目的ではなく、試し斬りの為だ。
そもそも、もっと強い魔物や獣を求めて奥へ進むかもしれないが、まずは手頃なところを攻める。
ツインテールウルフ十匹、ゴブリン八体、バンタムオーク五体と倒してところで一休憩入れる。武器の方も防具の方も申し分ない出来だ。まあレオンハルトの持つ刀は既に試し斬りとか済ませていたが、リーゼロッテやシャルロットの武器は初実践使用なのだから、テンションも上がる。
そこそこ時間が経過しているのにもかかわらず、これだけの成果なのかは、別の場所で素振りや試し打ちをしていたからでもある。それぞれが剣の長さや重さ、弦の張り具合に弓の長さなど細かい部分で違いがあったので、それの確認も兼ねていたら遅くなったと言うわけだ。
木陰でお茶を飲みながらこの後どうするかを話し合う。このまま森に入っても良いが、実はこの先の森は未だに行った事のない場所だ。情報を余り持っていないので、手前まで下調べでもしようかと考えていると、大きな音と複数の足音が聞こえる。其れとは別にカサカサと変な音も聞こえ始めてきた。
探索魔法『周囲探索』を使用すると森の方から人が六人此方へ向かって走ってくる。更に別の所でも二人森から出るために走っているようだ。逃げる人を追いかけるように体長一メートル以上ある蟻の大群に追われていた。
緊急事態が起きた事を二人に伝える。その場に出していた物をあっと言う間片付け、戦闘態勢に入る。
「あのあたりから人が二人、そっち側から六人が魔物の集団を引き連れて出てくる。二人とも注意して」
モンスタートレインと言われる奴だが、敵の集団を見れば理解できなくもないだろう。数が百から百五十匹はいるのだ。
何だか、こういった事が最近よく起こるなと心の中で呟くが、どうやらそんな事をしている暇はなさそうだ。六人いた人は三人に減っていた。二人の方は襲われると避けるか、一撃与えて体勢を崩し、逃げている。
どちらを先に助けるか、人数で言えば二人の方だが、『周囲探索』で見る限りでは、残り三人の方があまりよろしくない。
「ぎゃあああああああ」
森から大きな悲鳴が聞こえる。
再度、『周囲探索』で確認すると残りの三人も二人組も存命。恐らく範囲外にまだ人がいたのであろうと推測する。
おっ!!如何やらここから一番近い森の入口からも、数匹出てくるのを確認した。武器を構え攻撃できるようにしていたが、急遽その蟻たちは三人いる方へ移動を開始した。二人組を追い回していた、アリたちも半部ぐらいは其方へ移動している。
何が起きているのか、連続で魔法を使い。三人は囲まれた状態で蟻たちを倒しているようだった。ただ倒せば倒すほど群がっているようにも見える。
(もしかして、仲間が死ぬと同族を呼び寄せるのか?だとすれば・・・)
「シャルは右にいる二人組の所へ、リーゼは左の三人だ。俺は正面を移動している蟻たちと交戦する」
それぞれ、指示されたように動く。二人組も三人もまだ森の中にいるので正確な位置は分からないが、先程レオンハルトが大まかな場所を話していたので、それぞれその近くまで走って移動する。
レオンハルトは、一気に森の中に駆け込み、近くを進行する蟻を数匹その首を刎ねる。音や匂いでも発しているのかと思ったが無臭無音だった。しかし、読みは合っていたようで、その周囲にいた蟻たちが一斉にレオンハルトへ襲い掛かる。バックステップで、距離を保ちながら森を出る。その間に近づいてきた蟻は、すべて首を刎ね飛ばした。
(うわっこの物量やばいな。エルフィーを助けた時以上に凄みを感じるな)
最終的にはあの時の方がたくさんいたが、何故だか此方の方が衝撃的だ。森の地面一帯を黒いそれが蠢きながら此方に襲い掛かって来るのだか・・・・。
「レオンくん、こっちの二人は無事だよー」
「こっちの三人も無事回収。この魔物を倒していいの?」
「リーゼ。その魔物に手を出すなッ。仲間の死を嗅ぎ付けて集まる習性がある」
森の入口から出たレオンハルトは、その草原で蟻を退治し始める。次々に倒しては移動、倒しては移動を繰り返し、両サイドを進行していた群れも此方におびき寄せる事に成功した。
三人組を助けに向かったリーゼロッテは、森の奥にいるであろう気配を探る。
人の気配は三人、三人以外の気配は無数にいる。どうやって助け出すか考えていると無数にいた気配はレオンハルトが突入した地点に移動し始めた。
森に入るとうじゃうじゃ居る蟻と接触しないようにするため、木の上まで跳躍し、木から木へと移動する。あれ程沢山いた蟻が半分近くまで減っている。しかし、未だ取り囲むように蟻たちが陣取っていて、逃げ道が見つけられない。
三人は足元に落ちていたであろう太めの枝の先端を布か何かでくるんで燃やして、近づかせないようにしていた。
『身体強化』で彼らの背後に飛び降り、この中で一番軽症の人を掴むと思いっきり森の外へ向かって投げる。そして残りの二人を掴んで、跳躍で躱しながら一目散に逃げる。
外へ出ると先程投げ飛ばした。男が全身打撲により痙攣していた。水薬を素早く三人にかけると森の入口と自分たちとの間に『炎の壁』で此方を襲えない様にする。暫くするとそいつらもその場から離れある場所に向かっていった。
「た、助けてくれた事は感謝する。まあ見ての通り何も残ってねえから礼は出来ないがな―――」
「コンラート。みんな、皆死んでしまった―――タビタ、ゲルト、ルートガー、ウーヴェ―――みんな―――――っ」
三人のうち二人が仲間の死に嘆きその場に泣き崩れる。コンラートと呼ばれた男は、この中でまとめ役をしていたのであろうその人から、簡単に事情を聴く。
八人で森の中にいる魔物討伐をしていたら、数匹のアーミ―アントを見つけ、ギルドに報告するため戻ろうとしたら、そいつらに見つかってしまい襲われそうになった仲間の一人が誤ってそいつを殺してしまう。アーミーアントは討伐したら直ぐに特殊な液体をその死骸にかけないといけないのだそうだが、それを持っていない彼らは急ぎその場を離れたそうだ。しかし、既に死骸から彼らにしか分からない臭いを嗅ぎ付けたようで、あっと言う間に包囲される。その後は只管逃げ、一人また一人と仲間がアーミーアントの餌になってしまったと言う事だ。
倒せば倒す程周囲の軍隊蟻、アーミーアントを呼び寄せるのであれば、さっきレオンハルトの方に向かったのはレオンハルトが襲われていると言う事なのだろう。慌てて剣の柄に手を添えると森からすごい勢いでバックステップして出てくるレオンハルトがいた。
殺してしまえば、更に数を増やして襲って来るアーミーアントと呼ばれる魔物を屠りながら。
声を掛けようとすると、レオンハルトの更に向こう側からシャルロットの声が聞こえる。
如何やら向こうの二人は無事なようだ。
「こっちの三人も無事回収。この魔物倒していいの?」
救出前にレオンハルトから、魔物を倒さずに救出するよう言われていたが、救出後はどうするか聞いていなかった。今レオンハルトに集中するアーミーアントを両サイドから私とシャルロットで挟撃すれば、倒し切る事が出来る。それに、アーミーアントの特性を知らせないとレオンハルトはアーミーアントが全滅するまで戦い続けなければならなくなる。
そこまで考えていたのだが、レオンハルトから手を出さない様に忠告を受けた。そしてその後に続く言葉を聞き、彼はその特性を状況判断で導き出した様だった。
シャルロットの方も二人組の救出のため、二人がいるであろう近くまで急いでくると、森の中を見据える。
弓を主体に使う彼女は、視力がすごく良い。森の奥にいる二人がどう言う状況なのか把握する。
襲われそうになりながらも何とか捌き切っているようだった。風属性魔法『飛行』で木々の間をすり抜ける様に飛び、二人組の所までやってくる。
「大丈夫ですか!?援護するので、直ぐに離脱してください」
上空から弓を構え、蟻たちを牽制する。
「そいつらを殺してはだめだっ!!そいつらは仲間の死の臭いを嗅ぎ付け集まる習性がある」
二人組の男の方が此方を見ながら、教えてくれる。
なるほど、それでレオンハルトが救出前に魔物を倒さない様にと注意してくれたのだと分かり、矢による牽制から、二人組と徐々に数が減ってきた蟻との境目に風属性魔法『嵐の壁』を発動、吹き荒れる風の壁が蟻たちの行く手を阻む。
そのまま、森の外まで誘導する。
森から少し距離を取り、二人を落ちるかせる。
「ありがとう。君のおかげで助かったよ」
「ああ感謝する。一時はどうなる事かと思ったからな」
助けた二人・・・・女の人と男の人がお礼を伝えられるが、今はそれどころではない。風で作った壁により蟻たちは此方を襲う事をあきらめたのか、彼が入った森の方に移動し始めた。
レオンハルトなら大丈夫だろうと考えるも心はいつも不安でいっぱいだ。
しばらく様子を見ていると、森から出てくるレオンハルトが視界に入った。
その様子を助けた二人も見ており、レオンハルトが次々にアーミーアントの頭部を斬り飛ばすと、慌てた様子で彼に声を掛けようとしていたが、彼もそれを分かったうえで行っていると説明する。
多少余裕が出来たのであろう。此方を一瞬見たので、此方の状況を伝える。
「レオンくん、こっちの二人は無事だよー」
そのすぐ後に向こう側からリーゼロッテの声も聞こえる。彼女はこの後どうするのか尋ねるため、魔物を倒してよいか尋ねていたが、それは止めておいた方が良いだろう。私とリーゼロッテで挟撃を掛ければ確かにレオンハルトにとっては、戦闘が楽になると思うが、そうなった場合助けた者たちが再度標的になる可能性もあるのだ。
であれば、此処は後退するのが得策であろう。
案の定、レオンハルトは死骸で集まる事を理解しているようだ。
これには、男の方も驚いていた。知っていてその行為をするのと、知らずにするのでは、意味合いが全然違ってくる。
後者は運が悪かったや勉強不足を注意されるが、前者はただの怖いもの知らずか、自殺志願者ぐらいだろう。
「た、助けに・・・」
「いえ、この場は彼に任せましょう。私たちは直ぐにこの場を離れます」
彼なら、レオンハルトなら大丈夫。絶対に。
群がる軍隊蟻、アーミーアントを烈火の如く屠り続けるレオンハルト。
大方半数近くを屠ったあたりで、後方を確認。既に撤退を完了している様子なので、この辺りで終わらせるため、風属性魔法『飛行』を発動し、上空へ移動。そのまま森の奥地まで退避する。
アーミーアントの群れはそれを追う様に森の中へ侵入し、あれだけ居た数がすべていなくなる。後の残ったのは、アーミーアントを屠った際に出た緑色の血のみだった。死骸すら残っていない状況に助けられた五人は何が起こったのかついて行けていない様子で、その場所を見つめる。
死骸が残らなかったのは、戦いながらレオンハルトが素早く回収していたからで、常に足場を確保しながら立ち回っていたのだ。それを行い始めたのは、周囲を囲まれたあたりからなので、撤退に専念していた五人には分かるはずもない。
そこまで被害が出ないと思われる位置までアーミーアントを大移動させ、『短距離転移』で森の近くまで移動する。暫くしても此方に戻ってくる気配がない為、一度イリードの街に戻る事にした。
「あーレオン。こっちこっち」
街へ入るとすぐ近くの広場に助けた三人とシャルロット、リーゼロッテが待っていた。二人組の方は、冒険者ギルドに報告に行っているそうで、三人からすごい勢いで感謝される。
その後、彼らと別れ俺たちも冒険者ギルドへ足を運ぶ。
「お前はさっきの」
中で先程の二人組とギルド支部長ギルベルト・オーレンドルフそれに、支部長補佐のエーファ・レディガーが受付付近で話し合っていた。
「何だ。助けてくれた冒険者って言うのは、レオンハルトたちだったのか」
ギルベルトは、少し驚くも納得したように此方を見ていた。エーファは、ただ会釈をする程度で声はかけてこない。
二人組は、支部長が三人の事を知っている様子に少し疑問を浮かべていた。
「お知合いですか?」
普通の冒険者は、ある程度高ランクになるか、個人的な知り合いか若しくは以前に支部長からの指名依頼など顔合わせをした事がある場合ぐらいしか、覚えてもらう事が難しい。その中で、可能性が高そうなものを選んだと言うわけだ。
それを答えたのは、支部長のギルベルトではなく補佐のエーファが説明をした。
説明の中には、ギガントボアの件や刀の考案者等と言う情報は伝えず、彼らを育てた人と交流があったと言う方向で説明していた。
特に秘匿事項でもないのだが、面倒事になりかねないとの事で極力その話題を出さない様に、アンネローゼがギルベルトとエーファにお願いしたようだ。
「レオンハルトよ。お前たち三人にお願いしたい事がある。明日の朝一番に此処に来てくれ」
恐らく、先程遭遇したアーミーアントの事だろうと予想はつく。しかも、ギルベルトの表情を見る限りでは、相当面倒な事態なのだと言う事が伺えた。
(指名依頼・・・ではないか、数が数だけに此処の単位では時間がかかりすぎる、となれば・・・・緊急依頼の方か?)
アーミーアントの脅威は、先程の森で理解する事は出来た。倒せば倒すだけ敵を集めてしまう。イリード近郊でその様な事をしてしまえば、街にも被害が出てしまう。そういう理由で街と森との間の草原は、戦場には選べない。なら立地としては不利になるが、森の中での戦闘か森の中で開かれた空間での戦闘が好ましくなる。
ただし、森の中にはそこそこ強い魔物も生息しているので、アーミーアントだけを警戒していれば済む話ではないのだ。この世界は弱肉強食、アーミーアントは個体の力はやや高めで苦戦する可能性があるが、寧ろ特性の方で集まってくる方が最も厄介な部分だ。そこそこ強い魔物が集まる処には、それよりも強い魔物が餌を求めて現れる可能性も十分あり得るからだ。
なら、手出しをしなければ良い食物連鎖に身を任せ、個体数を他の魔物の手によって減らしてもらうのが得策だが、アーミーアントは繫殖力が強い上、エーファから教えてもらった情報では、丁度今繁殖期の様で、巣の中には数千、数万の卵が存在しているだろうと話してくれた。
それらが、孵化してしまえば、今度はそれらの食料確保のため、人里に姿を見せる可能性すらあるのだ。
取りあえず、明日の朝一番に此処に尋ねる事を約束し、必要になりそうな物を準備する事にした。
冒険者ギルドを出た所で、助け出した二人組の一人が、此方に歩み寄ってくる。
「俺の名はダーヴィト、そっちが仲間のエッダだ。俺たちもそれに参加するんだ。良かったら一緒に準備しないか?さっきのお礼もしたいしな」
ダーヴィトと言う盾を二つ持つ変わった冒険者とエッダと言う槍を持つ女性の冒険者が話しかけてくる。
二人組の冒険者は、アーミーアントからの逃走時も攻撃を的確に捌き対処していた、そして、これから討伐に出るアーミーアントについても知識を持っているとの事なので、行動を共にする事にした。
近くの飲食店で、お礼をしてくれるそうなので、そのままついて行きご馳走になる。
「さっきも自己紹介をしたが、俺はダーヴィト、年齢は十四になったばかりだ。冒険者としては、彼此三年になる。冒険者ランクはGランクよろしく」
割りと長身のダーヴィト。少し暗めの茶髪に言葉使いとは裏腹な大人しそうな容姿。軽鎧を身に着けていて、武器らしい武器は腰に隠している短剣と投げナイフぐらいだ。それとは別に席の後ろに立てかけている鉄製の円形の盾――バックラーが二つのみだ。
「うちの名前はエッダ。今年で十三歳、冒険者になって二年半ってところかなー?ランクはダヴィと同じくGランクよ。あっ!!ダヴィって言うのはダーヴィトの愛称ね」
元気が取り柄の様な明るい笑顔で挨拶をしてくるエッダ。緑色に黄色が少し混ざった様な若葉色のふんわりした長い髪を後ろで二つに束ねていて、やや清楚感も兼ね備えた感じの人だ。ダーヴィトと違い革鎧に篭手と脛当と動きやすさを重視した軽装備に武器はリーチの長い槍を用いていた。
二人の自己紹介が終わったので、今度は此方の番かと思い席を立ち挨拶をする。
「俺はレオンハルト。歳は十歳になったばかりで冒険者もこの間登録したばかりです。ランクはお二人と同じGランクです」
そう言って冒険者カードも一緒に見せる。ランクの事で嘘をつかれている思われる可能性があったので、余計なもめ事を起こさないための対策だ。
その後にシャルロット。リーゼロッテと自己紹介を進める。
「あははは・・・ある程度強いとは思っていたが、まさか冒険者成り立てに加え、同ランクとは恐れ入ったよ」
何でも、ランクはある程度実力があると認められるか、一定数依頼を熟し信頼を得る事が出来ればランク昇格の資格を得る事が出来る。最初のIランクからHランクになるのに凡そ半年から一年はかかる。それから、Gランクまでは二年から三年程だ。だがこれはあくまで標準的な見通しだ。技術も才能もない者は更にランク昇格に時間がかかるし、どちらも兼ね備えていればそれだけ早く昇格する。レオンハルトたち三人はある意味、特別な速さで昇格したと言える。
それから暫くそれぞれについて話を行う。
「ダーヴィトさんの武器が盾って事ですか?でも盾って守るための物ですよね?」
「エッダと同じようにダヴィと呼んでくれて構わないよ。確かに盾は本来守りの為の防具だが、俺たちの流派はその盾を操り武器としてきたんだよ。まあ一般的には非常に少ない流派だから知って居る人も多くはないんだけれどね」
困ったように伝えるダーヴィト。
確かに盾を武器に使うぐらいなら剣を持って戦う方が簡単だ。だから、盾を武器にする者が少ない。
ダーヴィトは、この盾術―――――レーヴェン流盾術を広げようと日々研鑽しているそうだ。
「盾は確かに武具として用いるが、それを逆手に取った戦い方はいくらでもあるんだよ」
レオンハルトは盾を武器として用いた事はないが、用いる事が出来る事は知っている。一般的に有名な物は盾で体当たりをしたり、盾で殴ったりと言ったところだろうが、それでも鈍器並みの威力ある。
ダーヴィトの盾以外にもエッダの武器についても教えてくれた。
先端が十字槍になっていて、その中心に埋め込まれた魔法石が白く輝いていた。
魔法石が埋め込まれた武器は、魔装武器と呼ばれ魔力を持っていない者でも魔法石に蓄えられた魔力を使って魔法が発動できる優れものだ。ただ、魔装武器は総称として用いられるので、彼女の様な槍の形状の場合は、魔槍と呼ばれる。これが剣ならば魔剣、弓ならば魔弓と言われるのだ。
一般的な武器よりも高額な上、はめ込まれている魔法石の種類や大きさ、純度によって価値の差が大きい開く。彼女の武器は、店売りしている様な物ではなく。遺跡探索中に出土した古代聖遺物の一種だそうで、売れば巨額の資金を得れるような代物だ。
この辺りもダーヴィトやエッダから教えてもらえた。
ここまでの情報を普通は教えるべきではないし、聞き手側のレオンハルトたちも、語り手のダーヴィトたちも分かっている。
では、何故この様な話を持ち出すのか。
答えは簡単だ。今回の依頼を一緒に行ってほしいと言う願いがあるからだ。
仲間にしてもらうために、腹を割って話をしてきたそれが、レオンハルトの見解だ。
この提案は、彼らにとっても悪くはない話だろう。何しろ、数名の冒険者が参加する依頼とは違い、ほぼ総力戦となるこの依頼は味方をできるだけ作っておく方が、後々起こるであろう問題に対処しやすい。
だから、これの話を聞き、此方の手札も幾つか開示した。
刀と言う武器とその戦い方。三人の時の連携。魔法が使える事。ある程度の魔物は問題なく倒せることも伝えた。
そうして、この依頼の時はチームを組む事もきちんと話をし、互いに了承を得た。
「アーミーアントは、知っての通り群れで行動をする魔物だが、群れを作る数がゴブリンよりも遥かに上回る。しかも、嗅覚が非常に優れていて仲間の死骸から発せられる特殊な臭いを感じ取り、近くに居る群れが再度襲って来る非常に手強い魔物だ」
ダーヴィトの説明は、先の戦闘時に何となく把握していたが、特殊な臭いが原因だとは思いもしなかった。音か触角があるため微弱な電波か何かでも感じ取っているのかと思っていたからだ。
アーミーアントの死骸の対処法も教えてもらう。一つは、焼却する事、これは持っている火種でも魔法でもどちらでも構わないらしい。ただ、生息しているのが森と言う事が多いので、森に引火させないようにしなければならない様だ。二つ目は解体だ。特殊な臭いを発する器官があり、それを取り除けば臭いは散布されなくなる様だが、その場で解体する事は難しいと教えてもらった。三つ目としては、腐敗液の使用だ。これは、大体の獣や魔物に使用する事ができ、その液体を掛けると忽ち朽ち果てて、土に吸収される。冒険者としては、必須道具の一つで持ち帰りきれない死骸をそのまま放置させると微生物が湧き瘴気が生じ始める。それを餌として食べ続ければ他の種へと変化し強くなることもあるのだ。他にも食されなかった場合には、瘴気によってその死骸は、魂を持たない肉体だけの魔物アンデットになる事もある。倒したらそれ相応の対応をする必要があるのだ。
腐敗液をレオンハルトたちは所持していない。普段から魔法の袋にすべて詰め込んでいるため、必要のない物だったからだ。腐敗液とは反対に防腐液と道具もある。これは、痛みを遅らせる効果があり、倒した魔物をそのまま持ち帰る時などに良く使用される物だ。この防腐液は、別の事に使用するのである程度所持している。
その他にも魔法の袋や魔法の鞄等に入れるか、魔法で凍り付けにする等の対応が必要になってくる。
「あとは、アーミーアントは比較的何処にでもいる魔物なんだが、今回の規模を見る限り、クイーンアントと呼ばれる女王蟻が居るのかもしれない。クイーンアントが近くに居る場合には、アント系の魔物が多く生息していると聞いた事がある」
冒険者ギルドでエーファから得た知識と照らし合わせても、その可能性が非常に高いと言わざるを得ない。
依頼内容がどうなるかによって対応が変わってくるので、取り敢えず持って行くものの確認をする方が良いだろう。何日か掛かる可能性もあるので、食料や水、テントなどは冒険者ギルドが用意してくれるそうだが、最低限の量しか準備されないので、自分たちでも準備をしておく必要がある。
水薬や薬、腐敗液と防腐液、調理道具、剥ぎ取りナイフ等話し合う。ほとんどの物は手持ちに持っていたので、新たに買い足すとすれば食材ぐらいであろう。
ダーヴィトたちは、準備物が多いとの事で、ここらあたりでいったん分かれる。
その日の夕方に、再び彼らと待ち合わせを行い。お互いの力量を知るために模擬試合を冒険者ギルド内にある訓練場で行っていた。
レオンハルト対ダーヴィト。レオンハルト対エッダ。シャルロット、リーゼロッテ対ダーヴィト、エッダ。レオンハルト対リーゼロッテ、エッダ等様々な組み合わせで模擬試合を行う。
今は、三対二で行っており、レオンハルトとシャルロットが組んで三人を相手取っていた。
レオンハルトの重い一撃を全身の力で受け止めるダーヴィト。攻撃力の高さに苦い表情を表す。
「っぐ。重いっ!?ぐはっ―――」
剣戟からの後ろ回し蹴りに大きくバランスを崩す。更に追撃をかけ未だ空中にいる状態で、先程とは別の足で蹴り飛ばす。
シャルロットは弓を棒の様に使いエッダの攻撃を防ぐ。後方からの攻撃を得意とするシャルロットを自分の間合いでなら勝てると踏んで近寄ったが、彼女の槍捌きはすべて防がれてしまっている。
「これでっ!!えっ!?きゃあああああ」
レオンハルトの着地に合わせてダーヴィトの陰から剣で攻撃しようとするも、それを雪風によって受け流され、そのまま腕を掴まれたと思ったら、投げ飛ばされてしまう。
「これでも喰らえ『シールドストライク』」
盾の淵の部分で相手を突くその技を頭上に弾き、雪風の刃の向きを変えそのまま脇腹を攻撃。再び受けるダメージでその場に倒れる。
『治癒』で怪我をしたものを直し、お互いの戦い方を知る。
ダーヴィトの戦い方は、何処かのアメリカンヒーローみたいなものを感じた。まあ盾を攻撃の手段としているのであれば、必然的に近くなるのかもしれないが・・・。
エッダは、魔装武器に頼りすぎているのか、槍の使い方が甘い所が見受けられる。実際魔槍の能力を使ったわけではないので、どの程度なのかわからないが・・・。
シャルロットは、問題なく戦っているが、その優しさから攻め切れていない部分もあった。
リーゼロッテは、的確な攻撃をしてくるが、皆とのタイミングを合わせる事に意識しすぎて、攻撃をセーブしていた。
四人の動きを把握し、改善していく必要があるが、明日も早いため適度なところで模擬試合を終わる。
「思っていた以上だな。正直、実力差がこれほどあるとは・・・」
冒険者ギルドの中にある椅子で一休みしながら感心するダーヴィト。
最後の模擬試合が、相当に堪えたのであろう。何せ四対一の試合だ。四人で挑んで勝てないのだから驚きを通り越して呆れているのだろう。
夕食は、冒険者ギルド内にある居酒屋で済ませ宿屋へ戻る。
翌朝、ギルドに来るよう支部長であるギルベルトに言われていたため、朝食を食べ直ぐに向かった。
「皆集まってくれて感謝する。今回集めた者は緊急依頼の第一陣に参加してもらいたい。第二陣、第三陣は準備が整い次第出発させる予定だ」
ギルドの受付前で険しい表情で話すギルベルト。それを真剣に聞く三十人近くの冒険者たち。雰囲気からして相当の手練れたちを集めた様だ。
「今回の緊急依頼は、この街の周囲にアーミーアントが出没。数は不明だが、大量発生しているのは確かだ。だから君たちには、そのアーミーアントの巣を駆除して回ってもらいたい」
ギルベルトが話を終えると、集まった者の一人から質問が飛ぶ。
「幾つか聞きたいんだが、アーミーアントの巣はどれくらいあるんだ?それとチーム単位で動くのか、幾つかのグループに分かれるのか、最後に増援とはどう合流する?」
その質問の答えは、一つ目は不明。二つ目は二グループに分かれて行動。三つ目は増援部隊に斥候を付ける彼らが第一陣を見つけ誘導するとの事だ。
他の者からも質問があった。内容としては、どのくらいの期間行動するのか、依頼の報酬配分、他にどのような魔物がいるのか等様々で、それらの情報を皆で共有しようとしていた。
「クイーンの可能性は?」
俺は、ダーヴィトから前日に聞いた情報を確認した。
「クイーンがいるかは、情報はないが可能性としては高いと思っている。皆も良く聞いてくれ、この依頼の危険度は極めて高い。生還できるかどうかも分からないが、全力で事に当たってくれッ!!以上だ」
ギルベルトから解散を言い渡され、それぞれ門に集合する。そこで部隊編成を行い出発する事になった。
気がついたら長文になってしまっていました。
正直、中編をはさもうかとも考えましたが、まだ序盤なので前編、後編にしました。しかし、長文にしすぎて遅くなってしまい。申し訳なかったです。
極力早めにストックを作っていきますので、今後共よろしくおねがいします。




