148 デート
おはよう。こんにちは。こんばんは。
先日から10月になりましたね。朝晩は冷える様になってまいりましたが、昼間はまだまだ暑さが残っていますね。
そう言えば、PS5が遂に我が家に・・・。
抽選があり、初めて参加したらまさかの一発で当ててしまった。
来月発売のゲーム楽しみだな。
王立学園で中期の終わりに差し掛かる今日この頃。
デビルキラーマンティスの件から数ヶ月が経過した。時と言う物は恐ろしく速く感じてしまうが、この数ヶ月はより早く感じたレオンハルトたち。
と言うのも、レカンテートの事で在学中に彼是していたらあっと言う間に中期が終わりそうになっている。
夏季休暇中に奴隷として購入したアカネたち姉妹もこの数ヶ月で日常会話程度ならある程度話せるようになった。シャルロットが根気よく彼女たちに教えたので此処まで早く覚えられたのだろう。
まあ、海外の言葉が分からないけれど、そこに住んだら数ヶ月もあれば日常会話程度なら出来るようになっているという話もよく耳にする。会話が出来ても読み書きが出来ないと言う話も合わせて・・・。しかし、彼女たちは読み書きもしっかり教えられているため、会話と同じぐらい行う事が出来る。
会話や言葉の読み書きが出来るようになったら、自由にしても良いと伝えたのだが、このまま此処で生活したいと言われている。
将来何になりたいのか聞いてみたが、今のところは何も考えられないと言っていたが、三人ともデザイナーになりたがっていた。三つ子と言うのは、なりたいことまで似てしまうのかと苦笑したのは今でも覚えている。
それと、デビルキラーマンティスは、例の遺跡からの出現で間違いなさそうとの結論が出た。デビルキラーマンティスは、あの遺跡が稼働していた時に遺跡内部を徘徊していた魔獣で何らかの理由で仮死状態となり、それが今になって蘇ったのではないかと推測されている。蘇ったと思われる場所には、デビルキラーマンティスの抜け殻みたいな石膜がたくさん散らばっていたらしい。
念のため冒険者ギルド経由で確認していたローザ・フロシャウアーの安否を確認してもらっていたが、無事に目的地に着いたと言う報告を受けた。エルフィーに話をすると胸を撫で下ろしていた。
今頃はアルデレール王国に戻るための移動をしている頃だろう。
それと、ヨハンとクルトに告白してきた件だが、此方はエトヴィン宰相に相談して見た所、他の者から報告を聞き、真っ当な貴族だと言う事が分かった。
二人にはその気があれば、関係を持っても良いと伝えると・・・。暫く悩んだ様だが、お付き合いをしてみる事にしたらしい。一応、相手は貴族令嬢なので、当家に二人の主である俺が赴いて事情を説明。
彼女たちも既に両親に伝えてくれていたおかげでトラブルらしいトラブルはなかった。
孤児院育ちの者に嫁がせても良いのかと思って聞いてみたが、彼女たちは俺との繋がりがある二人と言う目線ではなく、個々として好きになった様だ。だから、娘の幸せを願っている両親は、それを反対するつもりはないらしい。
ただ、現在急成長中のアヴァロン伯爵家の家臣と言う事で、嬉しい誤算になったそうだ。
二人の縁談が決まった事で、ユリアーヌの縁談の話も上がってきた。しかも、お相手はフロシャウアー男爵家からで、この場に居ないがローザを嫁にどうかとフロシャウアー男爵家の当主から持ちかけられている。
当人がいない状況でどうなのかとも思ったが、それは戻って来てからと言う事になった。男爵位よりも下の貴族位は、仮に自分たちの縁談が決まったとしても第二夫人や第三夫人になる可能性が高いと言う事。男爵位よりも上の貴族位の場合は、ローザが第二夫人になってしまう。
ユリアーヌの返答は、彼女の意思に任せると言った事なので、仮婚約者としている。ユリアーヌよりも一歳年上のローザが駄目な時は、十二歳の三女を勧められていたが、其方は断ったらしい。
エルフィー曰く、ローザが成人しても尚、結婚していないどころか婚約者もいないのは、結婚にあまり関心がない上に、彼女自身冒険者に憧れがあったため、結婚したら冒険者としての活動の制限があると考えていた身体との事。
貴族家に嫁げばその可能性も十分あり得るだろう。だから政略結婚にも非協力的だったみたいだ。
だから、彼女が依頼から戻って正式に話し合いをしてから決める。此方に彼女と仲の良いエルフィーが居るので、断られる可能性が低い状態だとは思うけれど・・・。それに、婚約者だからという理由で冒険者を引退と言う事はしないつもりでいる。寧ろそんな事をしてしまったらシャルロットやティアナたちも同様に引退しなければならない。
ユリアーヌの事は当人同士で話し合ってもらうとして、今日は何とヨハンとグラットン準男爵家のアイーリャ、クルトとヴェックマン準男爵家のマルグリッドがダブルデートの日だ。
グラットン準男爵家のアイーリャが一応、正妻の地位になるそうだ。これはヨハンが決めたのではなくグラットン準男爵家とクラネルト準男爵家の両当主が決めた事。アイーリャはグラットン準男爵家の長女で、クラネルト準男爵家のルイーサは四女になるそうだ。だから彼女は第二夫人候補で、シュレーカー騎士爵家のイルが第三夫人と言う順になる。イルも長女らしいが、爵位の関係でルイーサが上になる。
クルトの方のヴェックマン準男爵家のマルグリッドが正妻になる予定だ。ハイゼンベルク騎士爵家のアルティが第二夫人で、ルフィスが第三夫人、カティが第四夫人との事。クルトもヨハンもこれ以上娶るつもりはないようなので、順位の変動はないだろう。
マルグリッドとアルティは共に三女らしく、ルフィスは次女で、カティは四女との事。カティの実家はオルキデオの宿屋を経営しているが、何とカティは十人も兄妹が要るそうだ。加えて、カティの長男と次男、次女、三女は宿屋の手伝い。長女は既にオルキデオの商店の跡取り息子と結婚し、三男は兵士見習いとして王都に居るそうだ。カティより下の弟と妹たちも家の簡単なお手伝いをしているそうだ。カティは、兄弟姉妹の中で一番頭が良く、下級ではあるが魔法を使う事が出来たため、王立学園でいろいろ学んでいたのだそうだ。
クルトたちが、オルキデオに居る時から接点もあったので余計に王都にと思っていたのかもしれない。これまで、話がなかったのはクルトたちの活躍が想像以上に高かったので、話しかけにくかった等の理由と考えられた。
正妻予定の二人とのデートだが、他の子は改めて日程を決めるそうだ。
それで、今どこに居るかと言うと・・・・。
「まさかの選択ね・・・」
「クルトは仕方がないにしても、ヨハンも一緒なのに・・・」
四人が来ている場所は、俺たちにとってなじみ深い場所・・・王都でも知らない者はいないと言われるほど有名なお店。クイナ商会の店舗に来ているのだ。
二人は直接経営に携わっていないとはいえ、自分たちの仕える主が経営している店に連れて行くのはどうなのだろう。
よく見ると、ヨハンの顔は苦笑い気味なので、この状況を良いとは思っていない感じだ。となるとクルトか彼女たちの選択で此処を選んでいるのだろう。
「ご、ご主人様?どうして、こんなところに居るのですか?」
店内で働いていた狐獣人のルナーリアが、傍から見れば、不振としか取れない様な行動をする俺とリーゼロッテ、アニータの三人。シャルロットたちは少し興味があるようだったが、各々やらなければならない事があるため、デートの追跡を断念していた。
最も残念がっていたのは、朱音たち三人だ。丁度年齢的にも色恋沙汰に興味津々のお年頃で、この世界に来なければ、三人は数年のうちに恋をして、彼氏を作り、仲睦まじく過ごしていた事だろうに・・・。この世界でも、彼女たちの望む恋愛が出来れば良いのだが・・・。
ダーヴィトとエッダも何処かに出かけて行ったので、此方はきちんとエスコートをしているのだろう。
「二人の事が気になってね・・・・ルナーリア。悪いけど、もう少しこの場所を借りるよ」
そういって、クイナ商会の店舗内にある調薬室の一角から店内を覗き込むように四人を見る。
「レオン兄さん、あれ見て、ヨハン兄さんがクルト兄と何か話し始めている」
アニータは、俺とユリアーヌ、ヨハンの三人は兄さんと呼ぶが、クルトだけは兄と呼ぶ。なぜ違うのかと言うと、尊敬度によるらしいと以前シャルロットから聞いた事があった。まあ、クルトは親しみやすい性格をしているから、兄さんと言う柄でもない。
ダーヴィトは、兄呼びをしない。あくまで兄呼びをするのは孤児院で育った人のみのようだ。姉呼びも実は同じ理由だったのだが、ティアナたちはレオンハルトと婚姻を結ぶことになっているので、いずれ義理の姉になる。始めは様で呼んでいたのだけれど、姉呼びをするよう強く懇願されたため、今では姉呼びをしている。しかも呼び方を指定してきたので、ティアナの事はティア姉で、リリーの事はリリー姉さん・・・・そんなに拘る所なのかと疑問であるが、二人は実の弟妹からはお姉様なので、こういう呼ばれ方に憧れがあったらしい。
因みに実の姉であるシャルロットはお姉さんで、リーゼロッテの事は、リーゼお姉ちゃんだそうだ。兄呼びの様な尊敬度による序列は、姉の方には無いようだ。
「如何やら場所を買えるみたいだな。このお店を選択したのは彼女たちなのだろう。何か買い物もしていたみたいだし・・・」
店員に支払いをしている姿を見て買い物をしたのだろう。ヨハンやクルトなら態々(わざわざ)お店で買う必要はない。けれど、支払いをすると言う事は、彼女たちが買い物をしたのだろう。
「移動するみたい。私たちも」
クイナ商会の店舗を出た四人は、アヴァロン伯爵家の馬車に乗り込み移動する。ヨハンとクルトにはそれぞれ馬車を渡しておいた。御者は、エリーゼとラウラの二人。
エリーゼもラウラも立派な御者となり、欠かす事の出来ない人材である。最近何かと彼女たちの出番が多いので、使用人の何人かも御者をさせている状況だが、彼女たちの様に専属の御者を増やした方が良いかも知れない。
現に、今日の二人をクルトとヨハンに回しているので、俺たちの馬車の御者は非番で暇そうにしていた猫人族のランに頼んでいる。
ランは少し不服そうだったが、妹のリンと出かけられるよう配慮すると伝えると直ぐに引き受けていた。ランは妹のリンの事が大好きなようだ。もちろん異性としてではなく兄妹愛や家族愛的な事で、所謂シスコンと言う物だ。リンの方は最近そんな兄に対して一歩引いた感じがあるが、ランのそれは当初に比べて酷くなっている。
「ラン。悪いけど、馬車を出してくれ」
ヨハンたちの馬車は表通りに停めているが、俺たちはバレない様に幌馬車で裏通りに停めていた。
追跡する事、四半刻・・・。訪れた場所は、王都でも一際賑わいを見せている中央区の商店通り。クイナ商会とはそこまで離れてはいないが、人や通りを走る馬車の往来が多いので、移動に時間がかかる。
「お昼ご飯のお店選びですかね?」
何か目的はあるが、目的地が定まっていない様な動きをしていた。時間的に考えてもそろそろ食事をする頃合いでもあったので、リーゼロッテの予想通り食事を行う店を探しているのだろう。
「このあたりで有名なお店だと、穴熊の食事処とアッカーマンの肉料理店かな」
「リーゼお姉ちゃん。アッカーマンの肉料理店は、デートに向かないと思うよ」
穴熊の食事処は、肉と野菜の料理が主で、熊人族が経営している人気なお店。アッカーマンの肉料理店は、名前の通り肉料理が主体で、冒険者向けのお店ではかなり人気がある。俺たちも訪れた事はあるが、肉の焼き加減が絶妙で噛む度に肉汁が溢れ出てくる。旨いのだが、アニータの言うようにデートで選ぶには少々場違いなところだ。
「上品なお店となると、雲の食卓か、ラヴァーエールだろうな。俺はあまり好きではないけど」
雲の食卓もラヴァーエールも王都で知らぬ者はいない高級な料理店。このような場所には似つかわしくない系統の店ではあるが、上級貴族が気紛れに買い物に来たり、王都に立ち寄った他国の貴族などが良く利用する。
レオンハルトもラインフェルト侯爵たちに連れられて、訪れた事があったが楽しく食事をする場ではなく、静かに食事をする場所の様に思えた。出てくる料理も拘っているのだろうが、見栄えが品質は良い・・・けれど、量が少なく、値段が高いのだ。
上級貴族に仲間入りしているので、そう言う事にもなれなければいけないのだろうが、俺としては・・・そうだなフランス料理のコース料理よりもラーメン屋でラーメンや餃子、チャーハンなどを食す方が性に合っている。庶民的な味が落ち着くのだ。
ヨハンたちが、そんな高級な料理店に入る可能性は少ないと踏んでいた。そしてその予想は見事に外れた・・・・外れたけれど、予想していない選択もしていた。
「クルト、今日はきちんとエスコートするんですよ?」
「あー分かってるって、ヨハンだってきちんと出来るのかよ?」
レオンハルトたちに見守られながらデートをする少し前。以前、僕たちに告白をしてきて女性たちとお付き合いをする事になった。此方は孤児院出身なのに対して、相手は下級とは言え貴族として育てられたお嬢様たち。何人かは、貴族ではなく俺たちと同じ平民の者だったが、それでも孤児院出身の俺たちに比べれば、普通生活をしていた者たちだ。
そんな僕たちに告白してきた女性たちは、純粋に好きだからと言っていた。
確かに、僕たちは孤児院出身・・・貴族たちから見れば底辺の分類に居る様な身分だ。最も底辺と位置付けているのは奴隷やスラム街の人たちの様だが、それより少し上と言う扱いではあるが、大きく分ければ同じ分類だろう。
好きになる要素が無いのが普通・・・普通なのだけれど、僕たちはそれぞれ才能に恵まれていた。僕は魔法が人並み以上に仕えた事、クルトは直感的な反射速度と危機感知能力の高さがある。僕たち二人に加えて仲間にも恵まれ、最も際の王に恵まれたのは、出会いの才能だろう。
師であるアンネローゼもそうだが、レオンハルトと言う存在が彼らの今を大きく創っていると言っても過言ではない。
だから、今でも思う。僕たちで良かったのかと・・・。
「エスコートの経験が無いから自信はないけど・・・」
彼はいつも彼女たちのエスコートをしている事に僕はある意味羨ましいと思っている。彼女たちと・・・と言う意味ではなく、自然とその様な振る舞いが出来る事に対して。
彼に出来ない事はあるのかと聞きたくなるぐらいだ。
今回のデートの段取りも彼から若干教えてもらっている。だから、馬車で迎えに行ける様それぞれに伯爵家の家紋が描かれている馬車と御者として、彼女たちも同行できるようにしてくれている。デートに普通の幌馬車で自身が操車するのは可笑しいそうだ。
馬に二人乗りは構わないと言われたが、流石に初めてのデートではハードルが高い。
それと、必ず相手の屋敷まで迎えに行く事も言われた。
平民であれば、何処かで待ち合わせでも良いらしいが、王都に住む貴族の場合は馬車で移動する事が基本なので、偶然でない限りはどちらかが迎えに行くらしい。
そんなわけで、僕はアイーリャを迎えに行く為グラットン準男爵家の屋敷に、クルトはマルグリッドを迎えにヴェックマン準男爵家の屋敷に行く。
迎えに行くのは別々だが、王都の広場で待ち合わせしてダブルデートする事は既に先方にも伝えているから、合流してからお店に行く事になっている。
「アイーリャ様、本日はよろしくお願いします」
「ヨハン様、此方こそよろしくお願い致します。ですが、その前に」
グラットン準男爵家の屋敷に来たヨハンは、既に玄関先でグラットン準男爵家の使用人と共にアイーリャが待っていた。馬車を停めて挨拶をしたのだ。
「私の事はアイーリャとお呼びください」
「わ、分かりましたアイーリャ。自分もヨハンと呼んでください」
「いえ、未来の旦那様を呼び捨てには出来ません。私はヨハン様とお呼びいたします」
一歩も引かない感じだったので、取り敢えず合流場所に向かわないとクルトたちを待たせる事になるから、馬車に乗ってもらい移動する。
アイーリャに付き添っていた使用人は、このデートにもついて来るようで、御者を行うエリーゼの横に座った。何かあれば直ぐにフォローに入れるよう向こうも準備していてくれたのだ。
クルトたちとの合流場所に辿り着いた僕たちは、クルトたちを探すもまだ現れてはいないようだった。そこから待つ事数分。ラウラが操る馬車が見えた。
向こうも相手の使用人が同席しているのだろう。老齢の執事がラウラの横に座っているのが見えた。
ラウラの横に座っていた老齢の執事が馬車から降り、馬車の扉を開けクルトとマルグリッドが降りてくる。
「お待たせして申し訳ありません。私はヴェックマン準男爵家に仕えております執事のエルトマンと申します。お嬢様をよろしくお願い致します」
「此方こそよろしくお願い致します。グラットン準男爵家に仕えています執事のクラハトと申します」
ヨハンやクルト、アイーリャにマルグリッドは王立学園の学友でもあるので、お互いの事は知っている。
それにアイーリャもマルグリッドも同じ準男爵家の娘と言う事もあり、仲が良い。アイーリャは、執事エルトマンの事を知っているし、マルグリッドも執事クラハトの事は知っている。けれど、エルトマンとクラハトは初顔合わせだったので、自己紹介をしたのだ。
「アイーリャ様、マルグリッド様。私たちはアヴァロン伯爵家の使用人で姉のエリーゼと申します」
「妹のラウラです。本日は姉共々皆様の御者を務めさせていただきますので、よろしくお願い致します」
エリーゼたちは、レオンハルトの奴隷だが、アヴァロン伯爵家の使用人でもあるし、奴隷とは思えない程の見た目をしている。服装や言葉使いもそうだが、何よりも容姿が優れている。奴隷としてきた時は、あのような姿だったが、しっかりした栄養を取り、常に清潔にしていたおかげで、今では何処かの令嬢に見える程だ。
そんな二人の挨拶に丁寧に返すアイーリャたち。アイーリャたちの後に同行していた執事たちも挨拶をしていた。
さて、ここからが問題だ。これからどこに行くのかプランを立てていないのだ。いや、正しくは今日何をするのかと言うプランはあるが、細かくは決めていないと言うだけの事。
午前中は街中を馬車でまったり観光し、何処かで昼食を済ましてから午後からお店巡りをと考えていたのだ。
「ええっと。これから馬車で移動しようと思いますが、何処か行ってみたいところはありますか?」
クルトが慣れない言葉使いでマルグリッドに質問していた。
「それでしたら、私行ってみたいお店があります」
「お店ですか?構いませんよ。それで、どちらまで?」
「クイナ商会のお店です」
マルグリッドの言葉にヨハンが固まる。
「おーレオンの店か。確かに、あそこは色々取り扱っているからな」
クルトは、先程の少しカチカチだった口調が元に戻っていた。
「私も一度行ってみたいと思っておりました。ヨハン様如何でしょうか?」
「あ、うん。大丈夫ですよ?」
そんなやり取りがあり、まさかの観光プランがいきなり変わってしまい、しかも雇い主であり親友でもあるレオンハルトのお店と分かり、顔が少しばかり引きつる。
そして、それぞれの馬車に乗って移動。クイナ商会のお店に着くや否や店内に入ると従業員たちが唖然としていた。
初めてのデートで自分たちのお店に連れてきているのだ。そんな対応をされても仕方がないと思っていた。実際は少し異なっており、従業員たちが唖然としたのは、これまで女っ気のなかったダーヴィトにクルト、ヨハン三人の内二人が知らない女性と一緒に行動していたからだ。
「ヨハン様。今日はどういった用件で、此方に?」
従業員の一人が、接客の為に動きヨハンに声を掛ける。
「彼女たちが、此処のお店に期待と言う物でして・・・ん?えっ」
従業員と話をしていたら、調薬室の辺りからとある人物を見つけてしまった。
(レオンくんたちがどうして此処にッ!?)
此方を伺う様に見てくるレオンハルトとリーゼロッテ、アニータの三人を見つけてしまったのだ。三人だけで他の人たちはいない様子。
何故かはわからないが、背筋に悪寒の様な物を感じる。
「ヨハン様。このお店とても良い品ばかりですわね。シャンプーやリンスは何時も此方の物を買わせていただいているのですけれど、何時もは使用人たちが買いに来るもので、凄い品揃えで感動しました」
(あー。確かに売れ筋商品だから、使用していても不思議ではないけれど・・・と言うより、僕たちは毎日使い放題で、普通に考えると贅沢ですよね)
「新商品もありますよ?確か、三日ほど前に出たばかりの物だったはずです」
「本当ですかッ!?」
「ええ、香りが二種類と効能?だったかなそれが一種類だったと思います」
正しくは、四日前で香りタイプは新たに紅茶の香りと深緑の香りで、効能タイプについては香りに関して従来型と数種類の花の香りがする物で、どちらも既にあるが効能がアップグレードしている。実際に使うと髪の毛が若返ったように煌くそうだが、僕たちにはあまり分からなかった。シャルロットやティアナたちが絶賛していたので、女性陣にはその変化が分かるのだろう。
「クルト様は、どちらがお勧めですか?」
「新商品で言うなら、深緑の香りかな?すごく爽やかで、心が落ち着く感じがする。多分
エルフ族とかがすごく好みそうかな」
初めて使った時は、目を閉じたら森に居るのかと思う様な感覚に陥った。紅茶の香りも試したが、これは女性好みだろう。でも、翌日も紅茶の香りがほのかに感じてきたのは、良かったかもしれない。
クルトとマルグリッドの二人の方も買い物を楽しんでいるようだ。
それよりも、気になるのは此方をずっと見てくるレオンハルトたちの事だろう。早めにここを出た方が良いのかと考えていると、アイーリャが新商品のシャンプーとリンス、コンディショナーの三つを持って会計を行っていた。
店内で半刻以上も滞在してしまったのは、誤算だった。でも、皆満足している様なので僕も一安心した。
そろそろ食事にしようかと提案して店を出る。
行先は、中央区の商店街通り。此処は、一般のお店から高級なお店、屋台と色々な食事を行う事が出来る場所でもある。
「何か食べたい物はありますか?」
「俺、肉屋が良い。此処の肉屋すげー旨いんだよ」
流石に肉屋はないだろう、と心の中で突っ込む。
高級なお店もほとんど行かないので、どうしたらよいか考えていると。
「私、屋台で色々な物を食べてみたいです」
「そうですね。良くお友達と食べたりしますが、屋台で食べる食事も美味しいですわよね」
予想と違う物をご所望するお嬢様たち。貴族の令嬢でも屋台食べるのかと思っているヨハンだが、ティアナたちは上級貴族の御令嬢でも普通に屋台で食べているのを思い出して、納得してしまった。
貴族が屋台で食事をするかどうかについては、六割近くの者は食べているが、残りの四割は口にしない程度の割合。それは爵位が上の人程食べない割合が高くなる。騎士爵家に関しては十割と言って良い程の者が食べた経験がある。
準男爵家は、騎士爵家の一つ上の爵位なので、若干食べない貴族が居るぐらいで、普通に食べている者が多い。
まあ、男女比と言うのもある。
男性に比べて女性の方がそう言う経験が乏しいかったりもする。
兎に角、アイーリャとマルグリッドは、屋台のメニューをご所望された為、屋台が並ぶ場所に移動した。
また突き刺さる様な視線を背中に感じ取り振り返ると、やっぱりと言うべきか、レオンハルトたちが付いて来ていた。クルトたちは気付いていないようだが・・・。
「どうかなさいましたか?」
「いえ、行きましょう」
僕はアイーリャの手を取り、一つの屋台の列に並んだ。アイーリャは突然手を握られた事で、顔が真っ赤になっている。
「俺たちも行こう」
クルトもヨハン同様にマルグリッドの手を取り列に並んだ。
並んだ屋台で買った物を近くのベンチに座って食べる。飲み物も屋台で売っていたので一緒に買っている。
エリーゼたちは執事たちと近くで屋台の物を食べていた。
食事を終えてからは、予定通りお店巡りをして回り、帰り際にプレゼントを渡した。これは執事がこっそり教えてくれたの準備する事が出来た。
手ごろな値段のアクセサリーのお店で、クルトはネックレスを。ヨハンはイヤリングを買って渡した。二人とも非常に喜んでくれていたので、僕たちは胸をなでおろした。如何にか初デートを無事終える事が出来たからだ・・・・と思っていたのだが、屋敷に戻るとリーゼロッテたちから色々ダメ出しをされてしまう仕方がない事だろう。
他の子たちとのデートでは気を付ける様に言われてしまったが、他の子たちも最初の内はあまり変わらないデートだったが、回数を重ねていくうちにだいぶ様になって来ていた。
「何でこんな所に・・・」
「クソが、俺たちはBランク冒険者だぞ。どうしてこうも一方的に・・・
ぐはっ!?」
森の奥地で依頼を行っていた冒険者チームが、その日を境に戻ってこなかった。つい最近Bランクに昇格した冒険者たちがチームを組んでいる多少名の知れた冒険者たちだったのだが、戻ってこないと言う連絡を受けて、オルキデオの街は大慌てとなっていた。
消息を絶った冒険者チームはこの街で一番強い者たちだったので、被害が増える前にオルキデオの冒険者ギルドは、王都の冒険者ギルドに応援の依頼を出したのであった。
何時も読んで頂き、ありがとうございます。
引き続き、執筆活動をかんばって参りますので、応援よろしくお願いします。




