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145 Aランクの魔物?

おはよう。こんにちは。こんばんは。

緊急事態宣言延長になってしまいましたね。予想はしていましたが・・・。

 レーア王女殿下たちが海隣都市ナルキーソから戻ってきて三日が経過した。


 五日間の滞在は、レオンハルトにとって予想以上の疲労をもたらした。一応、二日目はナルキーソの南側や街の外で過ごし、何も時間は起こらなかった。翌日は、船を手配してくれたことで、遊覧船に乗って海上を楽しむ。途中で魚釣りなどを行い釣れた魚をその場で捌いて食したりする。一応、寄生虫が居ないかなどの確認も行ったりして、最初こそ抵抗があったようだが、船を出してくれた人やレオンハルトが食べている所を目撃して、食べていたりした。


 思っていた以上に美味しかったと好評だが、レオンハルトは「これに醤油があれば・・・」と呟いている。その声は誰にも届いてはいなかったが。


 その次の日は、市場訪問をしたり、冒険者ギルドを尋ねたりした。当時お世話になった受付の人や支部長とも挨拶をして、冒険者たちとも少なからず交流をした。王女殿下たちをナンパする輩もおり、そう言う者たちは早々に退場してもらった。


 驚いた事は、レオンハルトたちがナルキーソで活動していた時に同じく登録したばかりと言う冒険者たちとも再開を果たす。名前は確かティモ、エルマ、アルミン、オティーリエ、カイ、ライ、テアだったはず。


 当時は、ティモ少年とアルミン少年、エルマ少女、オティーリエ少女の四人組の新人冒険者とカイ少年とライ少年、テア少女の三人組の新人冒険者だったが、久しぶりにあった彼らはI(アイ)ランクからG(ジー)ランクに昇格していた・・・と言っても、I(アイ)ランクからG(ジー)ランクの昇格は普通にしていればランクアップするもの。逆にF(エフ)ランクに昇格していないのかと驚いたぐらいだった。


 魔物狩りよりも採取系の依頼の方ばかりしているため、昇格しにくいようだ。


 それと、二組だった彼らはあの日以来、一緒に依頼を受ける事が多くなり、今では一緒のチームとして活動しているそうだ。チーム名もあるそうで、岬の夕暮れと言うらしい。結成したのがナルキーソ近隣の岬で夕方だったと言う安直な理由だった。登録はしていないと言うので自称、岬の夕暮れになるが、読み方を(ケープ・)夕暮(トワイライト)れにしてはどうかと伝えてみたところ、速攻で採用されてしまった。


 近いうちにチーム名の登録とランクアップの試験を受けると言っていたので、頑張るように伝えて分かれた。


 最終日は、再び買い物と言う流れになったが、前と違うのは、個別での買い物である点。流石に二人きりと言うわけにもいかず、人目を忍んで護衛していた。残された二人はその間、ヴァイデンライヒ子爵が対応していた。一人当たり一刻と言う時間を設けていたため、合計で三刻も買い物に同行する事になる。


 内容がどうだったかと言うのは・・・語る機会があれば、語る事にしよう。


 そして、王都に戻ってきた俺は、冒険者ギルドに呼ばれ現在支部長たちと面会中。呼び出しを受けた理由は、先日ヨハンたちが冒険者ギルドから聞いたアルデレール王国とガーフィスト連邦共和国との国境付近で謎の集団が目撃された件について、あの時は気に留めておく程度だったが、あの後名のある冒険者を調査に向かわせたら、瀕死の重傷で発見された。


 名のあると言っても、A(エー)ランクやB(ビー)ランクと言う一流の冒険者が早々いるわけでもないので、今回はD(ディー)ランクの冒険者を中心に複数のチームを派遣したようだ。しかし、派遣したチームは消息を絶ち、本日捜索隊が結成されたそうだ。冒険者ギルドの各支部が所有する魔道具により、情報を円滑に伝えるようにしている。その魔道具で捜索隊の事を聞いたのだろう。


 消息を絶った冒険者たちが無事に発見される事を願いつつ、呼び出された理由について話す。


「俺たちにも捜索の依頼が?」


 まだ夏季休暇ではあるが、それもあと数日で終わる。休暇が明ければ、これまで通り学園での生活が始まるし、学園のない日は商会や領地の方で動く。冒険者として活動できる日が更に少なくなる。だから、動けるうちにとでも思ったのだが、どうやら違うらしい。


「君たちには、王都より馬車で一日と言った場所にあるガランダと言う集落に出向いてほしい」


 ガランダ・・・形式上の集落は村だったはずだ。商業都市オルキデオに向かう時に通る(ルート)の一つらしいが、俺たちはその(ルート)を使った事が無い。ただ俺たちと合流する前と言う意味で言えばユリアーヌたちが訪れた経験があると言っていた。


 そんな場所なのか聞いてみたが、当たり障りのない普通の村だそうだ。そんな所に一体何の用事があるのかと思っていると・・・。


「ガランダの村に現在、バーティス公爵家の子息が滞在していてね。明朝に早馬がやってきて救援を依頼されているのだよ」


「バーティス公爵家?」


「レオン様。失礼ながらバーティス公爵家は、先々代の国王陛下の弟殿下が公爵家となった現国王ともはとこに当たる血筋になります。我がフォルマー公爵家とも遠縁にあたります」


 なる程、現バーティス公爵家の当主は、国王陛下とはとこ関係にあるのか。もしかしたら王位継承権もと考えたが、余りにも遠すぎるため、王族になる事はないそうだ。たしかに王位継承権第百何位とかだと、現王族やその前の王位継承権を持つ者たちを全て根絶やしにでもしない限り王位につくことはあり得ない。


 バーティス公爵家は、商業都市オルキデオからやや南西に移動した場所に領地があるそうで、バーティス公爵領は大きく分けて三つの都市があるのだとか。一つ目は、要塞都市ガラデオン。二つ目は、商業都市ラヴェンデル。三つ目は公爵家の屋敷がある山間都市モルガナリスと言う。残念な事にこの三つの都市には訪れた事が無い・・・と言うよりも公爵領に立ち入った事もなかった。


 一般的な公爵領は、割と王都に近く領地もそこそこ広いが、バーティス公爵領の領地は他に比べて規模が小さいのだそうだ。


「公爵家の方々でしたら、護衛の騎士もいるはずなのでは?」


 貴族・・・それも領地を持つ貴族は、私兵を雇っている。侯爵や公爵ともなれば、兵士だけでなく騎士と言う強者も多く居る。公爵の使用人などの移動では兵士が同行する程度だが、当主やその親族は騎士を含めた兵士たちが護衛するはずだ。


「早馬による情報だと、同行している騎士は魔物の強襲を受けて負傷し、兵士たちも半数近くがやられてしまったそうだ。ガランダの村までならD(ディー)ランクやE(イー)ランクでも良いのだが、公爵家となると下手な者たちも送れないと言う事で、君たちに行ってもらいたいのだよ」


「事情は分かりました。それで、騎士が負傷するような魔物とは何に襲われたのですか?」


 騎士であれば冒険者に考えるとE(イー)からD(ディー)ランク相当はあるはず。王都から一日の距離にあるガランダの村周辺にそのランクの者たちを負傷させるような魔物に身に覚えがなかった。


「書簡によると・・・名前の知らない魔物らしいが、特徴を見る限り蟷螂系の魔物だろうが、あのあたりに蟷螂系の魔物は生息していないはず・・・」


「蟷螂・・・レカンテート村の近くの森の奥地にアイアンマンティスが生息していたな。位置的に離れているけど、アイアンマンティスの生息範囲は広かったはずだし、ソードマンティスやオーダルマンティスなどがいるけど・・・」


「どれも森の奥地に生息しているから、村に降りてくるのかしら?」


 俺が言おうとしていた言葉をティアナが代わりに代弁する。


 やはり、今一度情報不足だが、一つ言える事は騎士の負傷が重篤なのかどうか、それと蟷螂系の魔物が村の近くに潜んでいるのかと言う事を考えると早急に対応した方が良いと判断し、支部長からの依頼を受ける事にした。


 承諾後は速やかに手続きをしてもらう。他の仲間たちにこの場にいない仲間を集めてもらい出発の準備をように言う。


 食料や薬、冒険に必要な物は魔法の袋にすべて入れているし、不測の事態に備えての予備もたくさん持ち合わせている。なので、準備らしい準備はないのだが・・・。


 全員が集まったら、冒険者ギルドまで来てもらい俺を拾って出発するような流れなるだろう。


 王都を出れば、ガランダの村近くの街道に転移すれば更に時間を短縮できる。


 受付で手配を終え、皆が来るのを待つ事四半刻。冒険者ギルドに御者をしていたラウラが入ってきたので、俺は受付の人たちに出発の旨を伝えて冒険者ギルドを後にする。










 王都を出て暫くすると、人気のない事を確認して転移でガランダの村の近くに移動した。場所的にはガランダの村まで一刻ほどの距離にいる。直ぐに移動を開始し、予想通りの時間に到着した。


 ガランダの村の入口には兵士が待機して警戒していた。蟷螂系の魔物との戦闘の傷が兵士たちにも刻まれているが、大怪我をしている者はいない様だ。


「おい、そこで止まれッ!!」


 一人の兵士が此方に気が付いた様で停車を求める。


「我々は、冒険者ギルドから依頼を受けた冒険者です。救援要請を出された公爵様の一行でよろしいでしょうか?」


「何ッ!?もう救援が来たというのか・・・すまない、中へ。デビット様が危険な状態だ。水薬(ポーション)系の予備があれば譲ってもらえないか?」


 デビットと言うのは、話に聞いていた騎士の事だろう。


水薬(ポーション)の持ち合わせはありますが、まずはその方の容態を確認してから」


「此方です」


 兵士に案内されて村の中心部に移動する。村人も鍬や薪割り用の斧を持っており、兵士に比べると軽傷だが、かなりボロボロで疲弊しているようだった。


「ユーリ。クルトたちを連れて村の警戒に、ヨハン指揮系統を任せる。エリーゼとラウラは炊き出しの準備だ。シャルとエルは俺と共に」


「わかった。何かあれば直ぐに連絡する。皆行こう」


「かしこまりました。ご主人様」


 ヨハンは俺とシャルロット、エルフィー以外を引き連れて村の周囲を警戒する様位置取りを行った。普段であればシャルロットの近くにアカネたちがいるのだが、流石に彼女たちを同行させるわけにも行かない為、屋敷に置いて来ている。


 何かあった時に使用人たちと意思疎通ができる様、木札の表面に此方の言語を裏面に日本語を書いたものを百種類ほど渡しているので、簡単な事ならどうにかなるだろう。


「報告にあった蟷螂系の魔物に心当たりは?」


「分かりません。アイアンマンティスの様な外殻にソードマンティスの様な鋭利すぎる鎌、あとは鎌の手が全部で八つもあった・・・あんな魔物見たことがない」


 兵士は、恐怖に怯える表情を示す。確かに、彼から得た情報に該当する魔物は俺たちも知らない情報だった。新種か・・・それとも変異種か。考えたくないが魔族が魔物の改造を行った産物と言う線も考えられる。


 襲撃してきた魔物の正体が分からないまま、重傷者が居る場所に辿り着いた。


「カール様失礼します。王都から救援に来られた冒険者方です」


 バーティス公爵家の息子はカールと言うのだろう。兵士は主の許しをもらい入室し、我々を中に招き入れる。


「よく来てくれた冒険者よ。すまないが手持ちに水薬(ポーション)類は持って居ないか?見ての通り騎士たちが重傷でな」


 カールと言う人物が示す場所には、十人近い人たちが呻き声をあげて横たわっている。簡単な理療をしたのだろう。横たわっている者の殆どが、傷口に布を巻いて止血しており、その布もかなり血がついて真っ赤になっていた。


 重傷と言う騎士は現在、この村の教会関係者が如何にか治療を試みようと司祭様が治癒魔法をかけて、修道女(シスター)たちが塗薬などで処置をしている。


 パッと見た感じだと危険なのは、司祭様が治癒魔法をかけている騎士と修道女(シスター)が止血している騎士の二人だけだろう。他に二人いる騎士は、かなりの深手を負っているようだが、今のところ命に別状はなさそう。出血が止まらない様なら、危険かもしれないが・・・どちらも別の修道女(シスター)が見ている。兵士は中軽傷と言った感じだが、戦闘に復帰できるかと言われると怪しいレベルの感じがする。


 騎士や兵士以外で、村人らしき人物もこの場に運び込まれているので、村人にも被害が出てしまったのだろう。応急処置の心得のある兵士が、軽傷者を当たっている。


「シャルは司祭様と交代して、エルは中傷者の手当を・・・。カール殿、我々の見立てではあちらの騎士二人は非常に危険な状態です。水薬(ポーション)では間に合いません。我々三人は治癒魔法を習得しておりますので、治療には我々が当たります。カール殿も負傷しているようなので後ほど手当を行います」


「そ、そうか。よろしく頼む」


 頭を下げる彼を背に急いでシャルロットの下に向かう。


「司祭様。後は我々が、司祭様は少し修道女(シスター)たちと少しお休みください。魔力欠乏症の初期症状が出ておりますよ」


「しかし、私は聖職者として・・・」


 教会の者として譲れない部分があるのだろう。


「彼女は、エクスナー枢機卿のお孫様で修道見習いとして活動しておりましたし、自分と彼女は、枢機卿に認められる程の治癒魔法を行使できます」


 まあ、エクスナー枢機卿からそんな事を言われた事はないが、枢機卿でも知らない様な治療方法を持って居る事はレーア王女殿下の件で知っているから、強ち間違えでもないだろう。


「そ、それは本当ですか。枢機卿様がお認めになられたお方でしたら、すみませんがお願いします」


 司祭は、場所を譲ってくれる。シャルロットは既に騎士の一人の全身を確認している状態で、俺も直ぐにもう一人の騎士の全身をチェックし始める。


(これはひどいな・・・特に酷いのは、右肩の傷と左腹部の傷だろう。どちらも貫通しているな・・肩の方は骨も綺麗に切断されている。左腹部は小腸や下降結腸がパックリ切れているな。幸運なのは肝臓や脾臓からの出血がない事だろう。この二つがダメージを受けていたら大量出血していた恐れがあるな)


 負傷してからの時間を考えるとその二つの臓器を損傷した場合、俺たちが到着する前に命を落としていたことだろう。早馬が到着した頃には亡くなっていた可能性すらある。今でも腸の類が損傷しているが、放置していたら勿論命はなかった事だろう。司祭たちが懸命に処置をしてくれていたおかげで今も生きているのだろう。


「シャルそっちはどう?」


「こっちの騎士は、右上腕部の切断、胸部から腹部にかけての裂傷、左大腿部へ大きな刺傷、大腿骨の切断と神経系もズタズタです」


「了解した。此方は右鎖骨断裂と肩甲骨の一部に亀裂が入っている。左腹部に刺傷、それに伴って小腸の一部と下降結腸が切断されている」


 二人とも痛みが増しているのか苦しそうにしていたので、魔法の袋から鎮痛剤用簡易注射器を取り出して、患部の近くを数回刺す。鎮痛と同時に麻酔効果もあるので時期に感覚がなくなるだろう。


「大まかな処置は治癒魔法で、細かい部分は手を加えながら処置をしよう」


 そう言うと聖魔法『上級治癒(エクストラヒール)』を発動する。全体に使用するのではなく部分部分を集中的に行う。


「なっ!?上位の治癒魔法なんて・・司教様・・いえ、大司教様でも使えるかどうかの魔法を」


 レオンハルトの発動を見て驚いていたが、シャルロットも同様に聖魔法『上級治癒(エクストラヒール)』を発動する。そして、エルフィーも聖魔法『中級治癒(ハイヒール)』を使用した。『治療(ヒール)』しか使えなかった司祭は、目の前で行われている出来事について行けず只々、口を開けたまま呆けていた。


「シャル。これをっ」


 レオンハルトは聖魔法『上級治癒(エクストラヒール)』を一時中断すると、魔法の袋から幾つもの何かを取り出し始める。


 そして、その一つを床に突き立てると棒の様なものが伸び、更に上部が左右に開いた。


 レオンハルトが現在行っている行動は、失われた血液の補填を行うための点滴の準備だ。治癒魔法では、失われた血液は元に戻らない。治癒魔法で傷を治したとしても、血液の不足で何らかの障害が出てしまう恐れがあるのだ。


 レオンハルトが準備をしている時にシャルロットは、専用の点滴の中に水薬(ポーション)を加えてゆく。そんな事をしては折角の水薬(ポーション)が無駄になると、周囲にいる者たちはつい声を発してしまいそうになるが、先ほどの聖魔法の上級魔法も見ている手前、恐らく想像もつかないことをしているのだと思い見届ける事にしている。


 何をしているのか分からないが、流れるような作業に目を奪われる。


 レオンハルトは点滴台の用意が出来ると、今度は騎士が身に着けている一部の防具を外し、腕が出るようにする。そして、手で触りながら静脈を探し、見つけるとその場所をアルコール濃度の高いお酒を掛けて消毒し、点滴用の注射針を刺す。血管に入ったかどうかは、刺した針から血が出てくれば問題なく。レオンハルトが刺した針は赤い血が出てきていた。


「こっちのルートは確保した。シャル?準備が出来たら交代しよう」


「準備出来ているから代わるわ」


 俺は、最初に見た騎士からシャルロットが見ていた騎士の方に移動。シャルロットもそれに入れ替わるように場所を変える。


 『上級治癒(エクストラヒール)』のおかげでシャルロットが見ていた騎士も辛うじて命をつないでいるのだろう。急いで此方にも点滴針を刺し、ルートを確保する。


「シャル。点滴入れ終えたら、残りの処置を速やかに行う。エル?そっちはどんな様子?」


 中傷者を見ていたエルフィーに騎士たちの様子を尋ねる。修道女(シスター)たちを休ませているので、エルフィーが殆ど見てくれている状態だ。


「一人目は、顔に裂傷、右目にも影響が出ている状態です。両手が複雑骨折しています。二人目は、背中と腹部に大きな切り傷、肩や腕にも複数の切り傷があります。三人目は、十数ヵ所の刺傷がありますが、重要な器官は無事のようです。四人目は・・・・」


 この数分で良く此処まで詳しく確認していると感心する。


「ひとまず、危険がないと判断したら、こっちのフォローに来てくれ」


「我々が手伝いましょうか?」


 休憩してもらっている司祭や修道女(シスター)が申し出てくれるが、修道女(シスター)たちは聖魔法を使えないし、司祭は魔力欠乏症になりかかっている。そんな者たちではかえって足手纏いになるので、丁重にお断りしておいた。


 「では、・・・」と軽傷の兵士たちが手伝おうとするが、彼らには自分たちの傷を治す様に伝えた。


「お待たせしました」


 エルフィーは、自分が担当していた中傷者の容態を落ち着かせてからフォローにやって来る。


「助かる。悪いけど、この腕をこのまま持っていてくれるか?」


 そう言って指示したのは、腕を切断されてしまった腕側の方。運が良かったのは、切断された腕を回収してくれていたと言う事だろう。ただ、この状態を治癒魔法や上級の水薬でも繋げる事は出来ても以前の様に動かすのは運が必要になる。


「これから血管、骨、神経を繋げていく。シャルそっちの騎士は頼む」


 点滴の時にお互い見ていた騎士が入れ替わっているので、レオンハルトの方には切断されている騎士が、シャルロットの方には鎖骨の切断と肩甲骨の一部断裂の騎士がいる。シャルロットの方の騎士には他にも小腸などの負傷もあったが、其方はレオンハルトが治療を施している。


「か、彼らは一体何を?」


「デビット。アンダーソン。無事でいてくれ」


 公爵家の息子であるカールは、自分を庇って負傷した騎士二人を祈る様にみて、司祭様たちはレオンハルトたちが行っている全く新しい治療に目が釘付けとなっていた。










 一方、レオンハルトたちが本格的な治療を開始した頃。村の周囲を警戒していたユリアーヌは、背筋に何か悪寒の様なものを感じた。


 ッ!?


 咄嗟に周囲を見渡すと、雑木林との境目から見た事が無い蟷螂系の魔物が出現する。表面の色は青紫と言った感じで、外殻はアイアンマンティスの様な鎧に似た外殻を身に付け、ソードマンティスの様な鋭利な鎌を左右四つも付けて合計八つの前足で現れたのだ。


「ヨハン。アレは何て魔物だ?」


 隣に居るヨハンに話しかけるも、彼も「分からない」と返答をする。擦り傷程度の兵士たちは、持っていた槍を構える。


「気を付けて下さい。我々はアレの襲撃に巻き込まれて壊滅しました」


 全身に感じる嫌な感覚・・・アレはAランク以上の魔物・・・もはや魔獣の分類に入れても良い存在。


 ヨハンも同じ事を感じ取り、すぐに襲撃を知らせるため上空に火属性魔法『火球(ファイヤーボール)』を放つ。


「ヨハンッ!!」


 ユリアーヌは、槍を構えて走り始める。彼の言葉で、ヨハンは普段使わない杖を取り出し連続で魔法を使用する。


「『身体強化(フィジカルアップ)』、『筋力増強(ストレングスブースト)』、『俊敏力向上(ヘイスト)』」


 間髪入れず、三つの強化の付与魔法を施す。無詠唱での発動にかなりの集中力を要するが、今の彼にとっては、朝飯前に出来る。加えて、彼が持つ杖は魔力の制度を挙げる効果と魔力消費量を抑える二種類の効果を持つかなり強力な代物。


 付与魔法の効果もあり、強化されたユリアーヌは、蟷螂の魔物との間合いを詰め、八本もある鎌の攻撃を回避し、懐に入り込んだ。


「せいっ!!」


 渾身の突きを放つが、まるで鉄の塊にでも衝突したのかと思う様な、硬い外殻に阻まれ刃が全く刺さらなかった。


 ッ!?


(硬ッ!!ヨハンの二重付与(ダブル・エンチャント)が掛かっているんだぞっ)


 強く押し込んでもビクともしない。


 蟷螂の魔物は懐にいるユリアーヌに向かって、攻撃を仕掛ける。ユリアーヌも攻撃を槍で受け流して対処するが、懐に居たからこそ攻撃の手数が少なかったのが、離れてしまったことで、鎌の本数が増え、徐々に捌ききれなくなる。


「くっ・・しまったッ!?」


 三本の鎌を同時に捌いたのだが、一本一本の攻撃が重く三本を凌いだところで追撃してくる攻撃に対し僅かに反応が遅れた。


「ッ!!『魔法障壁(プロテクション)』、『魔法強化盾(リインフォースシールド)』、『魔法鎧(マジックアーマー)』」


 ユリアーヌが鎌で切り裂かれる直前に防御の付与魔法が彼の窮地を救う。『魔法障壁(プロテクション)』は対象者の直前に魔力で出来た障壁を展開して攻撃を防ぐ事が出来る。同じく『魔法強化盾(リインフォースシールド)』も『魔法障壁(プロテクション)』と同様の効力を発揮するのだが、効果範囲が『魔法障壁(プロテクション)』よりも小さいのが欠点だ。しかし、その防御力は『魔法障壁(プロテクション)』を上回るほど高い。『魔法鎧(マジックアーマー)』は対象者の全身に魔力的な防御膜を作る。前の二つに比べるとやや防御面に難があるが、対象者の動きに合わせて展開している半永続的な魔法なので、使い勝手は高い。


 『魔法障壁(プロテクション)』は鎌の攻撃で砕かれてしまったが、その次に展開していた『魔法強化盾(リインフォースシールド)』によって攻撃を防ぐ事が出来た。


 ユリアーヌはその僅かな隙を見計らって一気に後退する。


「助かった。あれは、(エー)ランクに分類されるんだろうが、その中でも上位に当たる強さだ」


「物理攻撃に高い耐性があるのかもしれない。今度は僕が・・・『真空斬閃(エアースラッシュ)』」


 風属性魔法『真空斬閃(エアースラッシュ)』、真空の刃を作り出し飛ばす事で敵を一刀両断する攻撃魔法。


 火属性魔法の方が良かったが、雑木林が近くにあり躱された場合、放った攻撃で森林火災になっても困るからだ。魔法で対処可能だが、それはあくまで自分よりも実力が下の相手か有利な場合のみだ。今回の場合、森林火災に気を取られて居たら一気に命を奪われかねない状況にある。


 『真空斬閃(エアースラッシュ)』が蟷螂の魔物に直撃するが、傷一つ付ける事が出来なかった。


「物理だけでなく魔法耐性もあるのかもしれない・・・単純に防御が優れているかもしれないが・・・」


「そうだね。来るよっ『俊敏力向上(ヘイスト)』」


 ユリアーヌには、付与魔法で掛けている『俊敏力向上(ヘイスト)』を自分自身にも使う。身体能力はユリアーヌに比べて圧倒的に劣るヨハン。ユリアーヌでもいっぱいいっぱいだった攻撃をヨハンが躱し切るのは不可能。だから、魔法で回避率を高めて負傷しない様に動く。


「お前の相手はこっちだッ!!『ゲイルスピア』」


 ユリアーヌの十八番とも呼べる技。槍に回転を加えて貫通力と高めた突きを放つ。


 先程の突きより格段に威力が上がった突き。今度は、硬い外殻に突き刺さり表面に亀裂が入った。けれど、亀裂が入っただけで、槍も刺さるには刺さったが、深く突き刺さると言う事は無かった。


「ユーリ離れてッ。『(ウォーター)(ランス)』」


 水属性魔法『(ウォーター)(ランス)』。水の槍の形状に作り変えて対象物を穿つ魔法攻撃。先程の風属性魔法に比べると威力は落ちてしまうが、少しでも注意をそらせる事が出来ればそれでよかった。


 ユリアーヌは、ヨハンの援護に合わせて前線で死闘を繰り広げる。


 蟷螂の魔物も腕の二本を大きく振り上げると此方に向かって空を斬る。


 ッ!?


 空を斬ったように見えたその攻撃は、『真空斬閃(エアースラッシュ)』の様な空気の斬撃を飛ばしてきた。


「『岩壁(ロックウォール)』」


 すかさず、地面に手をついて土属性魔法を発動して、飛来する斬撃を防ぐ。一枚岩の様な壁が衝撃と共に崩れる。斬撃を防げたが、『岩壁(ロックウォール)』をこうも容易く破壊するのかとその攻撃力に冷汗が流れる。


 その瞬間、ヨハンは二度目の斬撃が自分自身に向かって放たれていたのを認識しておらず、気が付いた時には魔法を発動させる余裕が無かった。


「ぐはッ」


 斬撃を受け、鮮血が宙を舞う。


「ど、どうして?」


 ヨハンが口にしたのは、自分を命がけで庇ってくれた兵士に対して・・・。斬撃を受けそうになったほんの僅かの差で兵士の一人がヨハンに対して体当たりをした。ヨハンはそのおかげで体当たりと吹き飛ばされた時に地面に打ち付けた以外ダメージを負っていない。兵士はと言うと背中を掠めたのだろう。防具は裂け、深手とまでは行かないが、そこそこ深い傷を負ってしまった。


「我々には、お二人の盾になるぐらいしか・・できませんから」


 それを見ていた他の兵士か彼の回収に来る。魔法の袋から水薬(ポーション)を渡して下がらせた。


 ヨハンが兵士たちとのやりとりの間はユリアーヌが、蟷螂の魔物の注意を引きながら戦闘を行っている。


「少々、無茶をしますかね?」


 こんな事態だと言う事は、レオンハルトも気づいているだろうが、それでも駆けつけないと言う事は、手が離せないのだろう。もう少し時間を稼ぐ・・・いや、レオンハルトが来る前に倒して見せると意気込み。魔法の袋からベルトを取り出す。


 ベルトには、二十個を超える指輪がつけられており、ヨハンは直ぐにその中から十個を選んで各指に装着し、更に魔力を少しずつ回復してくれる魔法『魔力自然回復促進(マナリジェネーション)』を使用と強化系の魔法『魔力高純度化(ハイピュリティオブマナ)』の使用で魔法の威力を増加させた。


「<紅蓮よ。敵を燃やし尽くせ>『火炎嵐(ファイヤーストーム)』」


 略式詠唱で火属性魔法の範囲魔法を使用する。火属性魔法は周囲・・・特に雑木林への飛び火を恐れて使用しないつもりでいたが、この推定Aランク以上の蟷螂の魔物を倒すと決めて、周囲の被害よりも討伐を優先するよう切り替えたのだ。


 昆虫型の魔物にとって火属性魔法は弱点とも言える魔法なので、『火炎嵐(ファイヤーストーム)』を受けた蟷螂の魔物もかなり苦しそうに悶える。


 『魔力高純度化(ハイピュリティオブマナ)』の効果で、『火炎嵐(ファイヤーストーム)』の火力も上がり、熱波が此方にも押し寄せてくる。ユリアーヌも今は距離をとって、水薬(ポーション)なので簡単に治療をしていた。

何時も読んで頂きありがとうございます。

楽しいと思った方は是非、ブクマや評価をよろしくお願い致します。

来週も頑張って投稿できるよう執筆活動かんばります。

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