143 報告と説明
おはよう。こんにちは。こんばんは。
もう八月も残り僅かですね。
何だか夏らしい天気が続いております。脱水症等十分気を付けて下さい。
私は今、とても不機嫌になっています・・・・。
王立学園が夏季休暇に入ってから、婚約者であるレオンハルト様と沢山一緒に居る事が出来ると思っていたのに、父である国王陛下の命でアルデレール王国にある周辺諸国に旅立ってしまった。
近年、魔族との戦闘が激化し、魔族の進行をこれまで食い止めていたローア大陸の守護国と言っても良いガバリアマルス王国が魔族の手に落ち滅びてしまった。
ガバリアマルス王国の元第二王子のセドリック殿下と元第一王女のシルヴィア殿下、同じく元第二王女のリリアーヌ殿下は現在、我が国アルデレール王国の王城にて客人として居候している。
元第二王子のセドリック殿下は現在、祖国の再建の為に日夜勉学に励んでいる。シルヴィア殿下は国王陛下の計らいで私たちが勉学の為に通う学び舎に留学生として身分を変えてやって来た。
今でこそ、親しくなっているので良いが、レオンハルト様を狙っていると知った時は、心に騒めくものを感じてしまった。
それから、忘れてはいけないのは、アバルトリア帝国からローゼリア皇女殿下も留学してきて、レオンハルト様の婚約者候補に入り込もうとしている。
各国の姫様ですらその魅力に虜となってしまいますが、そんな彼と夏季休暇に入ってから会えない事に不満が積もり、つい先日国王陛下に直談判に行ってしまう程。
会えない代わりにと一応私にだけ渡されている遠距離連絡用魔道具を支給され、三日に一度は、連絡を取り合っている・・・・取り合っているけれど、やはり会えないと言うのは寂しいのです。
「わ、分かった。近いうちに王都に戻って来る故、それとなく頼んでおくから」
「絶対ですわよっ」
国王陛下でも可愛い愛娘の頼みに弱いのは、何処の父親も同じなのでしょう。
唯一、お父様が許してくれないのは、レオンハルト様が冒険者として活動している時の同行の禁止。街中のお使い程度の依頼ならば良しとするのだそうだが、魔物の討伐などはやはり危険と言う理由から、レオンハルト様たちとの生活を禁止されています。
幼馴染で公爵令嬢のティアナや侯爵令嬢のリリーは、同じ屋根の下一緒に暮らして、一緒に冒険して、一緒にお出かけをしているというのに・・・。
けれど、私が魔物の前に立ったところで何の役にも立てないと言うのもまた事実。なので、私なりにレオンハルト様を支える事が出来る分野で支えるために、算術や領地運営について、交渉術などを猛勉強している。
「レーア様?どうかなさいましたか?」
付き人である侍女が、お召し物を持って部屋にやって来た。
今日はこの後、シルヴィア殿下とローゼリア殿下とお茶会をする事になっている。私は王族なので、旦那様になられる方が複数の女性を娶る事も全然気にしていない。これから会う二人も恐らく、これから先レオンハルト様を共に支えてくれる人物になると言う事は分かっているので、共に情報共有をしておこうと時間が許す限り集まって、お話をしている。
「何でもないのよ。今日は涼しい色が良いから、右の方にしたいわ」
選んだ服を侍女たちに手伝ってもらいながら着て、約束の時間になるまでの間、きちんと身なりを整えておいた。
「・・・・と言うわけで、ご報告が遅くなりましたが、無事各国の訪問を終えました」
王都に戻って来たレオンハルトたち一行は、国王陛下に王命完了の報告を行う前にアンネローゼの旦那の命日の為、一旦里帰りをしてきた。前泊をしていたおかげで、墓参りが終わってからその日の夕方には王都に戻り、翌日王城に顔を出したと言うわけだ。
王城内に入ると直ぐ騎士団の面々が「陛下がお待ちです」との事で、何時も使う会議室ではなく、謁見の間に通された。
アウグスト陛下並びにエトヴィン宰相、その他数名の大臣に上級貴族の当主たちが軒並み待機していた様で、謁見の間に橋を踏み入れた直後、皆の顔が一斉に此方を向いたので、「入ってよかったのかな?」とさえ思ってしまった。
騎士団の人が、「陛下の前までお願いします」と耳打ちしてくれたため、赤い絨毯の上を歩き陛下の前まで移動してから、膝を折る。
「良く戻った。早速報告を聞こう」
アウグスト陛下は既に知っているが、一応他の貴族たちの前でもう一度報告をする。アウグスト陛下は何も言葉を発しはしなかったが、代わりにエトヴィン宰相が声を出す。
「ご苦労であったアヴァロン卿よ。既に陛下からお主への恩賞を聞いておる故、この場にて伝える。レオンハルト・ユウ・フォン・アヴァロン伯爵よ」
「ハッ」
「其方に金貨百枚と授与する」
金貨百枚、大金貨で言うと十枚で、白金貨ならば一枚になる。日本円に直せば一億円相当の額だ。白金貨一枚を授与するではなく、金貨百枚と言ったのかと言うと、白金貨は額が大きすぎる故、使い場面が殆どない。更に付け加えるならば両替も中々できないと言う欠点がある。なので、使いやすい貨幣と言う事で金貨を送られる。流石に金貨一万枚とかの規模になる場合は、大金貨や白金貨が混ざったりもする。
「それから、円卓の騎士のメンバーの冒険者ランクを全員Aランクに昇格する。此処の功績も申し分ない結果を出しているとギルドの方からも推奨の声があった。後日、冒険者ギルドでギルドカードの更新を行う様に」
これは前もって言われていた報酬だったので驚く事もない。周囲の貴族たちも一部を除いて概ねこの報酬に納得しているようだった。一部は、「全員をAランクにするなんて何を考えておられるのか?」と小声で呟く者たちがいたぐらいだ。表立って反対はしなかった。
「最後に、これまでの功績と今回の功績を合わせて陞爵を・・・と、考えていたのだが、現在のお主の爵位は伯爵位、これより上に爵位となると侯爵に地位になってしまうが、その地位に至るには、功績がやや不足しているし・・・そこで、叙爵として準男爵の席を一席と騎士爵の席を二席其方に渡そう。この者を貴族にと言う物が居るのであれば、それ席を使って貴族にしても構わん」
これには、周囲の上級貴族たちもどよめき始める。今回の様な下級貴族の爵位の席を報酬にする例は過去にも存在し、現にフォルマー公爵家は男爵、準男爵の席を数席持っているし、ライフェルト侯爵も同様だ。他の公爵や侯爵、辺境伯も持っている。
けれど、ここ近年その様な報酬はかなり少なくなった。と言うのも貴族と言うのは余り増えすぎるとかえって問題が大きくなってしまう事がある。領地問題もあるし、毎年の年金支給も発生する。悪さをして取り壊される貴族家もあるため、それ程一気に増加する様な事もない。ではなぜ、皆が動揺しているのかと言うと、伯爵の地位でその報酬を貰ったからだ。
伯爵位がこの報酬を貰った前例は実はない。
因みに伯爵の次は侯爵となっていたが、実は間に辺境伯という地位もある。これは、他国が攻め込んできた時に真っ先に領軍を編成して、進行を阻止する重要な任を持っている。辺境伯に就く者の領地は王国の一番端に割り当てられるのだ。
何もない時は、侯爵の下か、同等の権限があるが、有事の際には、公爵並みの権限に変わる言わば特殊な爵位でもあった。
侯爵の地位は、貴族が陞爵で上がれる最高位の地位でもある。基本的には王族の遠縁にあたる事が殆どだが、中には素晴らしい功績を残してきた事で陞爵したり、王族や公爵の地位の者が伯爵家などに降家した場合、その伯爵の状況によって侯爵に陞爵する事もある。
公爵の地位は、王族の割と近い親戚である事が多い。まあ、王族と公爵家が結婚する事も多いので、割と血筋的には王族に血は濃いだろう。
話が少し逸れてしまったが、レオンハルトが今回得た報酬は、過去に例のない物だと言う事。
「ハッ。謹んで頂戴いたします」
跪いた状態で、頭を下げる。
「これで、この集まりを終了する」
エトヴィン宰相は、集まった貴族たちに解散を促す。それと同時にアウグスト陛下は王座を立ち、そのまま王族専用の出入り口から謁見の間を後にした。
「レオンハルト君は、この後残ってくれるかな?」
俺を呼び止めたのは、リリーの父親でもありラインフェルト侯爵家の現当主リーンハルトだった。
これは、此処では離せない事があると言う事で、普段使う会議室に集まる様にと言う事なのだろう。
そのまま謁見の間を後にした、俺とラインフェルト侯は外に待機していた侍女にも声を掛けられ、そのまま別の場所に移動する。何時もの会議室に入ると、まだ誰も来ていないようだったので、普段から定位置になっている場所にお互い腰を掛けた。
「レオンハルト君、娘のリリーは元気にしているかね?」
「ええ。とても元気にされています。リリー様から連絡は来ないので?」
ラインフェルト侯にも、娘のリリーにも遠距離連絡用魔道具を持たせている。なので、直接触れたり顔をみたりする事は出来ないが、声を聞く事は可能だ。定期的に連絡をしているのであれば元気かどうかは直に分かるだろう。
「連絡は三日に一度ぐらいだね。娘からの連絡は、私より妻が受け取る方が多い位だけどね」
きちんと連絡を取っているのは良かった。
「君には感謝をしているよ。娘からの連絡の殆どが君と何をしたのか、どんな場所に行ったのか等の会話ばかりだけど、っても楽しそうに語ってくれるよ」
リリーたち上級貴族の御令嬢たちにとって、俺たちとの冒険者活動が不満ではなく、満足している事を聞いて少しうれしくなる。そうこうしていると、会議室に他の参加者がやって来て最後にエトヴィン宰相とアウグスト陛下がやって来る。
俺とラインフェルト侯、後から来た貴族たちは席を立ち、頭を下げた。
此処に集められた何時もの顔ぶれ・・・アウグスト陛下にフォルマー公爵家の現当主にして宰相のエトヴィン、ラインフェルト侯爵家の現当主リーンハルト、シュヴァイガート伯爵家の現当主ハイネス、ハイネスの義父であり国教のアルデレール王国に在住している責任者でもあるエクスナー枢機卿、エーデルシュタイン伯爵家の現当主テオ、他に内務大臣や財務大臣も参加している。
もうお馴染みである面々。王国内でも爵位に関係なく最大の力を有する四大貴族の現当主たちに、国の方向性を定める宰相や各大臣たち。錚々(そうそう)たる顔ぶれたち。
「アヴァロン卿・・・いや、今は非公式だな。レオンハルトよ。其方には何時も助けられてばかりだな」
「いえ、自分は貴族の責務を全うしただけです」
「そう謙遜する必要もなかろうに・・・ヘルムート、例の物を」
陛下より指示された人物、財務大臣のヘルムート・フォン・ルートヴィヒ・ヒルデスハイマー男爵・・・いや、先日子爵位に陞爵したと聞く。彼から、金貨百枚が入った木箱を渡された。先程、謁見の間にて言い渡された恩賞、俺はそれを受け取ると静かに魔法の袋に入れる。
金貨百枚もあると結構の重さになるし、この会議室に置いておくのも邪魔になる。数枚程度であれば内ポケットに閉まっていただろうが、百枚もとなるとそう言うわけにも行かない。この行動に誰も咎めないのは、誰しもが同じ行動をとるため、注意しないだけだ。
「ありがたく頂戴します。所で今日は何の集まりになるのでしょうか?」
今回の集まりについて何も聞かされていたないレオンハルト。他の者たちは既に聞いているのだろう。レオンハルトの発言に追随する者はいなかった。
「レオンハルトよ。其方・・・また妾を増やしたのか?」
・・・・ん?
妾?何の事だろう?
「レオンハルト君がまた女性をオークションで購入したと聞いてね。ずば抜けた才能があるわけでもないのに、かなりの高額でね」
アカネについてだと言う事がようやく分かった。しかし、妾って俺はそんなにも女性に目が無いと思われているのだろうか?まあ、アカネだけでなくアオイとワカバの二人もいるのだけれど・・・。
確かに、既に六人のも婚約者がいるし、更に二人追加されそうな状況ではあるけれど・・・。婚約者であってまだ、結婚はしていないから、結婚するまでの間の女とでも思われたのだろうか?ってか、そんな風習でもあるのか貴族って?
「妾の為に購入したわけではありません。この場の皆様は既にご承知と思われますが。自分には前世の記憶があります。彼女はどういうわけか、私の前世の世界からこの世界に流れてきたみたいだったので、此方で保護しました」
「・・・それは世界を渡って来たと言う事かね?そんな事が出来る人物なのか?」
エトヴィン宰相の質問に俺は顔を横に振る。
「彼女自身の力ではありません。恐らく自然現象的な何かに彼女たちが巻き込まれたのだと私は推測しています」
「そんな恐ろしい自然現象が発生する場所なのかね。君の前世の世界は」
内務大臣のヴァルター卿が顔を青くして問いかけてくる。確かに、自然発生として人が突然他の世界に行ってしまう様な事が度々起こってしまったら、それは世界の破滅を助長させている様に思われかねない。
「大雨や洪水の様な度々起こる様な現象ではないと思います。と言うよりも私の前世の世界では神隠しと呼ばれる超常現象の一種かと」
「神様が隠したと言うのかねッ!?」
神を崇めるエクスナー枢機卿からしたら、神様がその様な悪戯をするという行為は俄かに信じられない。そんな強い口調で問いただしてきた。
「言葉不足があったようです。申し訳ありません。神隠しとは、何も神が人を隠す行いではなく、忽然と・・・それこそ神が隠したのではないかと言う様な超常現象を神隠しと称されるようになっただけの事で、実際に神が隠したという事ではないのです」
エクスナー枢機卿もつい熱が入ってしまった事を謝罪した。しかしながら、やはり神とは関係のない所で神の名を汚すような言い方に納得はしていなかった。
「そもそも、前世の世界の神は、数え切れないほどの数が要ると言われておりました。私の居た国では八百万の神々と言って全てのものに神が宿ると言う考えでした」
・・・・
静まり返る会議室。最初に声を出したのは・・・・。
「レオンハルトよ。其方の前世の世界には・・・八百万もの神が居たのかね?」
そんなにも神が居るのであれば、明らかにこの世界の水準を遥かに超えた地位の世界ではないか、そう皆は考えていた。
「実際に名を聞くのはもっと少ないですと思います。八百万の神々とは、例えば此方の机、この机にも机の神が宿って居たり、椅子も同様に椅子の神がいると言う考えです。名も無き神々と行った所だと思います」
俺とシャルロットは、実際にヴァーリと言う神に会っているから、神の存在を仮にも信じてはいる、けれど流石に名も無き神々までは、居るのか居ないのか分からない。
話がそれてしまったので、本題に戻すレオンハルト。
「オークションに出品されていたのは、その前世の国から迷い込んだ人物でしたので、保護しました。加えて、保護した人物からの情報で他二名も此方の世界に迷い込んだと思われる発言があり、依頼遂行と共に捜索を行い、先日無事に保護できました」
「それでは、三人もの人物がこの世界に来たと言う事なのか」
「そうなりますね。私やシャルロットは前世で死にこの世界で生まれ変わりましたが、彼女たちは言わば強制転移に近い形で来ております。確かに、能力は疎か、言葉すら話せない状態で、三人が生きて行くには非常に厳しい環境だと思います」
そんな事情があったのかと知ると、誰もが妾だ何だと言える状況ではない事を理解した。
実際には、レオンハルトが妾を娶る事に何の思いも持っていない。貴族と言うのは、一夫一妻と言う方が珍しい。重婚を推奨している上に、愛人や妾を持つと言う事は一種のステータスとしての効果もある。
それこそ、良い意味でも悪い意味でもどちらの意味も含めてだ。悪い意味だと、女に現を抜かす人物だとか、女で破滅するとか見られる。良い意味では、経済力がある。包容力や魅力等があると言う風に捉えられるのだ。
「そうか、それはさぞ辛かろうに・・・レオンハルトよ。王家からも何らかの支援を考えておく故、今しばらくその者たちを頼むぞ」
「承知いたしました」
「それにしても、魔族の異常な行動、度重なる異変。これから先この世界に何が起ころうとしているのだ?」
この問いには誰も答える事が出来なかった。空気が重くなる中で、今度は各々の娘の話になる。この頃には、エクスナー枢機卿と財務大臣、内務大臣、エーデルシュタイン伯爵は席を退出していた。先程の件を内政及び予算案へ組み込む検討を行わなければならないし、枢機卿の方は各国の責任者と連絡を取り、今回の件を簡潔に説明しに戻ったのだ。神ではないが、神の御業の様な出来事に人が巻き込まれて知らない土地に来たり、行方不明になるケースがあると伝える。協会は、そう言う人たちの保護する場所でもあるのだ。
暫く、娘たちとの様子はどうかとか、初孫が何時見れるか等話している。
初孫ってまだ、成人迎えていないし、結婚もまだの状況だ。六人との婚約発表は済ませているから時間の問題の様な気もするが、それでも先に結婚式を挙げてからでしょ?とツッコミたくなる。
「それと、レーアが顔を見せてほしいと言っておったので、この後にでも見せてあげてくれるか?」
王城に来る時にそんな気がしていたので、大丈夫だと伝えておく。
それから、四半刻程話をしてから、今度こそ本当のお開きとなり、俺はそのまま侍女に案内されてレーア王女殿下の元に向かった。
侍女よりも騎士団員に良く場内を案内されるのだが、今は訓練の時間らしくて必要最低限の騎士団員しか警備に当たっていなかった。一応各詰め所にも待機している騎士たちがいるので、有事の際には彼らがすぐに駆け付ける。
必要最低限になった時に、案内するのが侍女たちの役目との事。
厳密には騎士か侍女などの使用人のどちらかが案内するようになっている。
「失礼いたします。アヴァロン伯爵様をお連れ致しました」
会議室から此処まで案内してくれた侍女は、レーア王女殿下が待つ部屋の戸をノックして入室した。案内された場所は、レーア王女殿下のプライベートの部屋で、此処に立ち入るのは初めての事だった。
三十畳はありそうな大場屋に高級そうなソファーやテーブル、装飾品など様々な物を置かれていた。天井からは規模は小さいながらもシャンデリア風の灯りを放つ魔道具が置かれている。電気が無い・・・問いよりも電気を使った電化製品が無いので、夜間の光は、魔道具を用いるか蝋燭に火を灯すかしかない。
白い天井や壁、床に薄いピンク色や濃い赤色の装飾品が飾られており華やかで非常に女性・・・少女らしい部屋となっている。高級家具があるせいか、少女らしい部分と女性らしい部分が合わさったような部屋となっていた。
(白い大理石のテーブル・・・一番に目を惹くな)
主体が白なので本来は、濃い赤のラグや飾られた花々、薄いピンクのカーテン等他に目を向ける物がたくさんある中で、あえて白の大理石のテーブルが一番に人目を向ける存在感。
「レオンハルト様、ようこそいらっしゃいました。どうぞ、此方へ」
部屋の主であるレーア王女殿下に案内され中へ入室。レーア王女の部屋ではあるが、寝室ではない。流石に未婚の女性が、未婚の男性を寝室に招くような事はしない。
此処まで案内してくれた侍女は、一礼した後に退室した。
「ご無沙汰しておりますレオンハルト様」
レーア殿下に続いて挨拶をしてきたのは、アバルトリア帝国からアルデレール王国の王立学園に留学生としてやって来たローゼリア・ラナ・リザーナ・フォン・アバルトリア皇女殿下だった。その隣には、ガバリアマルス王国の元第一王女シルヴィア・エステス・フォン・ガバリアマルス殿下。学園では、シルヴィア・エステスと名乗っている彼女もおり、その場で軽く頭を下げる。
「ローゼリア殿下にシルヴィア殿下もいらっしゃったとは、私の訪問は後日、日を改めましょうか?」
流石に三人もの姫殿下が居るとなると、自分の存在が場違いに思えてくる。しかし、彼の言葉はレーア殿下の意に反する事だった様で、少し頬を膨らませ、俺の手を取り強引に席に案内した。
「レ、レオンハルト様は此方ですっ。私たち三人とも貴方様をお待ちしていたのですから、良いんですっ」
強い口調で顔を膨らませながら、少しだけ不機嫌さを見せるレーア殿下に他の二人が、静かに笑う。
流石に、大声で笑う様な真似はしないあたり、彼女たちの育ちの良さが良く分かる。まあ、王族や皇族として育っているのだから当たり前なのだが・・・。そう考えれば、うちの女性陣でお淑やかに笑わないのってリーゼロッテやエッダ、それとアニータぐらいかと改めて思ってしまった。リーゼロッテたちに品が無いかと言われれば、そんな事は無く寧ろ一般的な分類に比べて品がある方だが、シャルロットやティアナ、リリー、エルフィーと言った面々が要るため、どうしても浮いて見える。
ティアナやリリー、エルフィーも上級貴族として育てられているから当然と言える。逆に公爵令嬢が大剣を持って戦う方がどうかと思う。シャルロットは、貴族ではないが、前世の記憶を持っている関係上、精神年齢は他の者より大人であるため、そう言う事はしないし、そもそもシャルロットの前世・・・窪塚琴莉の時からお嬢様の様な気品を持っていた。それが、この世界では上級貴族に匹敵する品を備えていたと言うだけの事。
「レーア殿下、そんな顔をしていますと可愛い顔が台無しですよ?」
唖然としている俺と頬を膨らませるレーア殿下、それを見て静かに笑うローゼリア殿下とシルヴィア殿下。では誰が、そんな注意をしたのか?答えは簡単だ。
この部屋の中には四人以外の人物が二人いる。
一人は、レーア殿下のお世話をする侍女で、もう一人が護衛で待機している女性騎士だ。女性騎士はそう言う発言はしないので、そうなると必然的に侍女が発言した事になる。
「アヴァロン伯爵様が見ておられますが宜しいのですか?」
侍女の発言で、膨れ顔から茹で蛸の様に真っ赤な顔になる。
「ル、ルーサなんて事言うのっ!?レオンハルト様の居る前で・・・そんな・・・」
動揺しているのが手に取る様に分かるぐらい動揺していた。ルーサという侍女は、年齢で言えば四十歳前後の見た目、実際は四十歳を少し過ぎている人物だが、レーア殿下が赤ん坊の時から傍についている。日頃は、彼女のプライベートな空間のお世話をする事が多いので、レオンハルトも彼女にお会いするのは初めてだった。
「そんなに慌てないでください。私もレーア殿下のその様なお姿が見れて少し新鮮でしたので」
更に真っ赤になるレーア殿下。遂には下に俯いてしまう。
「ルーサさんと言うのですね。自分はレオンハルトと言います。紅茶ありがたく頂きます」
侍女のルーサは、使える主人を揶揄いながら、レオンハルトの飲み物を用意して渡していた。それを受け取りながらレオンハルトは侍女である彼女に簡単な自己紹介をする。ルーサ自身が、彼の事をアヴァロン伯爵様と呼んでいたので、彼の素性は把握している。それでも律儀に自己紹介をする事に少しばかり目を疑った。
「アヴァロン伯爵様は貴族様で、私は一介の侍女に過ぎません。どうか私相手に敬語は必要ありません」
そう言うと、一礼してその場から後退する。
「そう言えばレオンハルト様。レーア殿下からお聞きしましたが、何処かに行かれるのですか?」
シルヴィア殿下の言葉で、此処に来た目的を忘れていた。確かに、アウグスト陛下から訪れてほしいと言われていたが、彼女に用事もあったので、ある意味好都合でもある。何処かへ遊びに連れだしてほしいとの陛下からの依頼・・・いや、陛下を通してレーア殿下がお願いしてきた買い物。
陛下も危ない場所に行かなければ構わないと言っていた。
だからその相談の為、レーア殿下の元を訪れたのだが・・・。何故かシルヴィア殿下とローゼリア殿下も知っていた。
「どうしてその事を?」
聞くところによると、この話はそもそも三人で考えた事らしく、レーア殿下が外出する時に二人も同行する事になっているそうだ。初耳だったため、少しばかり思考回路が停止したが直に復帰して、訪ね直す。
「シルヴィア殿下とローゼリア殿下もご一緒されるのですか?」
「ええ。よろしくお願いしますわ」
にっこり微笑むローゼリア殿下を見て、レオンハルトは顔を引きつらせてしまった。何かとんでもないお願いを気づかない様に聞いてしまっていたのだと・・・。
レーア殿下にローゼリア殿下、シルヴィア殿下とのお茶会?と呼んで良いのか、お話会を行う事半刻が経過した。
「では、三日後の午前中にお迎えに上がります」
話の結果、三人を連れて海隣都市ナルキーソへ向かう事となった。途中陛下の下に向かい報告を行うと、殿下たちの移動は転移魔法で行い、ナルキーソには魔道具で連絡して準備をさせると共にナルキーソでの護衛の為、騎士団を直ちに向かわせることになった。
行き先が海隣都市ナルキーソに決まったのは、俺が冒険者になった最初の地と言う事と長い間拠点にしていたと言う事から一度、見てみたいと言う事で決定した。
騎士団たちに転移魔法の事は伝えている。ただし、大人数の移動は問題ないが、建前上難しいと言って先に行かせているが、三日や四日では普通たどり着けない。なので、持久力と速力のある馬に乗り馬車を使わない移動なので、その速さで辿り着く事が出来るのだ。
必要な荷物も、先日開催されたオークションで魔法の袋を四つも入手できたそうで、今回はそれを使って荷物を最小限にしている。
あれを四つも買ったのって騎士団の人だったのか・・・。四つも買うなんて、とも思ったが騎士団の備品として使用するならば、四つでも少ないだろう。実際に何個持っているか分からないが、まだまだ必要なのかもしれない。今度エトヴィン宰相にそれとなく聞いてみておこう。
ナルキーソでの宿泊期間は五日間を予定し、その間泊まる場所は領主邸に決まった。これも、魔道具で訪問する旨を伝えた時に、是非泊ってくださいと打診されたそうだ。
領主のヴェロニカとも久しく会っていないから丁度良いかも知れない。
ローゼリア殿下とシルヴィア殿下にも、転移魔法の事は伝える事にした。伝えなければそもそもこんな計画は立てられない。陛下からもその事についてはお許しが出ているし、一応彼女たちに口外しないようにお願いしておいたが、どれだけ効力がある事やら。特にローゼリア殿下に関しては、大国アバルトリア帝国の皇女でもある。その力の優位性は十分理解しているから、皇帝陛下に情報が漏れる可能性もあった。
シルヴィア殿下は、祖国を魔族によって滅ぼされているので、話すとしても彼女の兄であるセドリック殿下に言うぐらいだろう。
取り敢えず、ナルキーソ訪問について考えなければいけない事は山済みだなと思考しながら、屋敷に戻った。
因みに、海隣都市ナルキーソの他に、商業都市イリードやレオンハルトたちの生まれ故郷であるレカンテートも候補に挙がったが、レカンテートは現在大幅に領地開拓中と都市化に向けての政策がすすめられているので、候補から外れイリードも新レカンテートが出来てから併せて訪問する方が良いと言う事になり、此方も候補から外れる事になった。
ローゼリア殿下は、アバルトリア帝国のおすすめ領地を紹介してくれたが、流石に他国への訪問は厳しいと言う事で、あっという間に候補から外される。
フォローの為、また何時か訪問出来る時にお願いしますとだけ伝えておいた。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「ただいま、シャルたちが今どこに居るかわかる?」
出迎えてくれた給仕係の1人に尋ねると、食堂で寛いでいると言う事だったので、羽織っている上着を渡して、食堂に向かい。今日の出来事を共有しておいた。
いつも読んで頂きありがとうございます。
これからも執筆活動を頑張って参りますので、応援よろしくお願いします。




