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139 貴方たちは一体?

おはよう。こんにちは。こんばんは。

遂に今日から8月ですね。

暑い日々が続いております。熱中症や脱水症には十分お気を付けください。

 訳の分からない世界に迷い込んでしまった三つ子の次女の葵と三女の若葉、三つ子の長女である朱音と離れ離れになってしまい、訳の分からない森に出たと思えば、化け物の様な生物に襲われ、もう死ぬと覚悟した時謎の武器を持った集団が化け物を倒してしまった。


 あんな化け物も武器を持った危険な人物も日本では考えられない事。そして、最も困ったのは、彼らが何を話しているのか全く分からないと言う事だ。授業で習った英語をしどろもどろに口にしてみたり、言葉遊び程度に知っている中国語やフランス語などを口にしてみたが、分からない様だ。


 意思疎通が出来ない以上、元の世界に帰る方法も、そもそも此処が何処なのかも尋ねる事が出来ない。


「△△△、△△△△△?」(貴方たち、私たちの言葉が分かる?)


「△△、△△?△△△△△△?」(お姉ちゃん、どう?言葉分かりそう?)


 クリスティーナとフィーネが如何にか話しかけているが、全く伝わっていない事に悪戦苦闘中。他の者たちも物は試しと色々話しかけたが、誰一人理解してもらえなかった。


 二人の処遇について、話し合いがもたれ、結局町に戻って冒険者ギルドに託せないか尋ねる事になったが、それまでの間は年齢が近いだろうからという理由でクリスティーナとフィーネが面倒を見る事になった。


 三つのチームは、日頃から仲が良いわけではない。寧ろ、三つのチームは今回の依頼で初めて組んだのだ。冒険者ギルドで顔を合わせた事はあるが、協力して依頼を熟した事は無かった。


 そんな三つのチームの内、クリスティーナとフィーネに任せたのか、こんな面倒な事を好んで引き受ける者は少ない。二人もそう言う性格でもない。


 二人には成さなければならない目的があった。そして、他の二つのチームから取り分を少し彼女たちに多めにすると言う約束の元、引き受ける事にした。


 困惑する葵と若葉だったが、言葉が通じない代わりに何らかの方法で意思疎通が出来ないか試す。結果、最も伝わったのはジェスチャーによるものだ。しかし、ジェスチャーだけではまともな会話が成立するわけでもない。


「若葉、トイレってどうやってジェスチャーしたら良いの?」


「えー知らないよ。それにこんな場所にトイレなんてあるはずないし・・・野外で?」


 今、葵は非常に不味い状況に陥った。尿意を催してしまったのだ。此処は森の中で更に言えば、湿地帯の様な地面がぬかるんでいる所、こんな場所にまともなトイレがあるはずもなく。白髪の美少女たちにジェスチャーで伝えても伝わらなかった。


 地面に洋式トイレの絵を描いてみたけど伝わらず、結局恥ずかしいが女性相手と言う事でそう言う場面をそれとなく書いて漸く理解してもらえた。


 銀髪の美少女に案内してもらって木陰で用を足す。生まれてきて一番恥ずかしい思いをしたのは言うまでもない。


 色々な事を経験しながら夜を明かし、翌日の昼頃に漸く町の様な場所に到着した。夜寝て起きたら今までの事は現実みたいな夢だったのではと思ったが、夢ではなく現実だった事も痛感した。


 町に辿り着ければ、何か色々な事が分かると葵と若葉は意気込む反面、此処まで連れて来てくれた冒険者たちは別の意味でこれからどうするか考えこむ。


 二人を冒険者ギルドに託すことは決定しているが、冒険者ギルドがあるのは町中、町に入るためには身分証がいる。身分次第では通行税も必要になるが、彼女たちが身分証を持っているようには見えない。一応、持っている所持品の確認をさせてもらったが、見た事が無いような代物ばかりだったが、身分証は持っていなかった。


 そうなると、仮の許可書の発行をしてもらわなければいけない。しかし、それにはお金がかかる。そんなお金持っているはずもない。


 誰が立て替えるかで、話が進まなくなったのだ。通行税は決して高くはない、それどころか貴族が着る様な高級な衣類を身に付けていたので、発見した場合の謝礼金を貰える可能性だってある。けどそれが、何時なのか、そもそも貴族なのか分からない。だから謝礼金もお宝を見つけるぐらいの気持ちでいないと損をする。


 町に近づくにつれ、冒険者たちはどうするかで悩み、葵と若葉は新しい情報が得られないかという期待を心に秘めていた。


「△△。△△△△△△。△△△△△△△△」(おい。止まれ。通行証を見せろ)


 此処まで案内してくれた彼らが、町に入るための列に並んだので、私と若葉も一緒に並んだ。そして、私たちの番が来たと思ったら鎧を身に付けた人に呼び止められた。


 言語が分からない以上、何で呼び止められているのか分からない。パニックになりかける私たちだったが、最初に私たちを守ってくれた男が、何かカードのような物を見せて、それから話をしていた。


 男と鎧の人が何度も此方に視線を向けて、最後に私たちの持ち物の一つハンカチを見せていた。あれは先程、白髪の少女(フィーネ)が、渡してほしいとジェスチャーで伝えられた物。


 暫く話し合っていたら、今度は私たちの方に鎧の人がやって来る。


「△△△△△△△△△△△△?△△△△△?」(君たちは何処から来た?犯罪者か?)


 話しかけてきているが、何を言っているのか分からない。ただただ呆けていると。


「○○○○○○?」(どうなんだ?)


 違う言語の様な言葉で語り掛けてくる。イントネーションが違うので、たぶん違うのではと言う位の認識。


 そして、鎧の人は再び男の元に向かう。


 再び何かを話し合っている感じだ。そして、鎧の人は別の人を呼んで話をする。こんな感じで待たされたら、今後は何かを手に持ってやって来た。


 何だろう?占いの時に使う様な水晶の球みたい。


 手を乗せる様ジェスチャーで伝えられたので、手を乗せると青白く光る。


 若葉も同様に手を乗せても同じ結果となった。


 鎧の人はそのまま別の場所に行く。助けてくれた人たちは安堵した様子で此方に視線を送った。











 無事に町に入る事が出来た俺たち。


 やはり最大の難関は、町に入るための身元確認だろう。これが村とかのレベルであれば、身元確認なんて事はあまりされないが、町の規模となると割と何処でも確認している。


 言葉も分からない者をどうやって、証明するか・・・・結局、犯罪者ではない事を証明し、通行税を収める必要になると考えた。


 費用は話し合いの結果、全員で持ち寄る事になる。私たちは、金銭的にあまり余裕が無かったが、人助けの為と割り切って出した。それに他にチームから彼女たちの面倒を見ると言う事で多少多くもらえる様になっている。


 あとは、彼女たちの知り合いが体よく見つけてくれる事を願うばかりだ。ただ、変な人物に預けるわけにも行かない。一応、冒険者ギルドに相談し預けるつもりだが、預かってもらえなかった場合は、発見者である私たちが見なければいけない。


「冒険者ギルドに討伐の報告と彼女の説明、出来れば身分証の発行をお願いしたいな」


「身分証の発行って事は、冒険者登録をさせるの?」


 冒険者ギルドが発行する身分証は冒険者としての登録をする事を示す。冒険者カードが発行されれば、晴れて身分証があると言う事。もし、発行しなかった場合は、今ある仮の身分証の有効期限は二十日間、それまでに再度延長の手続きを踏まなければ犯罪者になってしまう。


 冒険者ギルドで冒険者の登録もただではないし、延長の手続きもお金が必要になる。どうするべきかまずは、冒険者ギルドに行ってから考える必要があるだろう。


「無理ですね」


 冒険者ギルドの受付で彼女の引き取りをお願いしたが、速攻で断られてしまった。一応、支部長に確認してもらうようにしたが、支部長直々に出てきて断られた。


 理由は、何時引き取りに来るか分からない人物を預かる事は出来ない。言葉が分からないから余計に無理だと言う。言葉が理解していれば、知っている人物に連絡を取るなどの対応も出来るが、それすら叶わないのだから、出来ないと主張するのは当然である。


 って事で、クリスティーナとフィーネが面倒を見る事が決定する。


 因みに冒険者ギルドの登録も出来なかった。理由は至極簡単、彼女たちとの意思疎通が出来ない為だ。字が書けない者は多く居るため、代筆してもらう事は可能だが言葉が通じない以上、代筆も出来ない。彼女たちの情報が全くないのでは登録できないと言う事だ。


「ちょっと、この状況どうするんですか!?」


 悪い方向にばかり状況が進む二人にとって、非常に不味い状況だ。


「このままだと、デュークの治療費すら集められなくなるよ?」


「んーどうしようかフィーネちゃん?」


 説明しておくと、フィーネは最初からこうなる可能性も含めて反対していた。しかし、楽観的なクリスティーナが、他のチームよりも多く取り分を得られると言う事で安請け合いをしてしまったのだ。


 しかし、決定してしまった以上はフィーネも姉のクリスティーナに協力する事にした。


「どうしよう?じゃ、ありません」


 姉のクリスティーナよりも妹のフィーネの方がしっかりしているのだ。そんな彼女でも姉の事は尊敬している。クリスティーナの存在が無ければくじけていた場面も多々あったからだ。


 それと、デュークと言う人物は、二人の弟にあたる人物で、重度の病を患っている。まだ幼い弟を助けるために二人は、弟の治療費の為に冒険者として活動しているのだ。今は、両親が母国で弟の面倒を見ている。


 二人は、イースラ小国の出身ではない。更に北上した所にある国からやって来ているのだ。母国はイースラ小国よりも更に国土が小さい国で、冒険者として活動しても実入りが余りない為、イースラ小国に来ていた。


 彼女たちの世話をする事になってしまうが、流石にずっとだと冒険者としての活動に支障をきたす為、彼女たちが冒険者として活動する時、どちらかのチームが休みであるなら世話をお願いする事にした。


「それにしても、貴方たちは一体どこから来たのでしょうね?」


 言葉が分からないのについつい語り掛けてしまう。


 宿屋も二人部屋から四人部屋に変更してもらう。二人部屋を二つ用意するよりもこっちの方が安上がりだから。それでも二人部屋より四人部屋の方が高いのだが・・・。











 レオンハルトたちが葵と若葉の捜索を開始して十日が経過した。これまでに得た情報は特になし。今もレオンハルトが町や村以外で、他の者たちが町や村での捜索や聞き込みをしてくれている。


「なる程、シャルたちの方も収穫なしか」


「はい、現在地図上で確認できる周辺の町や村の七割以上が何もない事になります」


 レオンハルトは、現在イースラ小国の南部にある森の上空にて、王都アルデレートの屋敷にいるフリードリヒと話をしていた。シャルロットたちは既に捜索を終えた町で待機しているとの事で、其方へ転移した後、次の捜索場所に転移し直す必要がある。


 なので、彼女たちを回収して次の場所に連れて行き、元の場所に戻る。それを何度も繰り返してきたので、今ではもう慣れてしまった。


(この辺りも一通り探したがいなかった。予定にはないが、少し北上してみるか?)


 イースラ小国の南部、南西部、西部、東部、南東部を捜索済みで、イースラ小国の捜索予定の場所はもう少しで終わる。アウグスト陛下の依頼の件もあるので、北部の捜索は断念していた。次の捜索場所は魔の森だったのだが、予想外の出来事があり、魔の森の捜索を断念している。


 と言うのも、昨日魔の森ミストリア大森林を上空から入ってみたのだが、ミストリア大森林の名物・・・迷いの霧で方向感覚が分からなくなり、まっすぐ進んでいたつもりが、元の位置に戻っていた。


 何度か挑戦してみるも結果は同じ。戻って来る位置が多少違ったぐらいでほぼ戻されている。


 踏破するには、エルフの道案内が必要なので、レオンハルトは少し時間が余ってしまったのだ。


 取り敢えず、北西部の捜索をしてみる事に決めたレオンハルトは、その旨をフリードリヒに伝え捜索を開始する。


 半刻程経過した時、イースラ小国の北西部の国境付近で町を発見した。と言っても遠くから見えるだけで、どの位の規模かは探索系の魔法の効果範囲外なのでわからないが、村という程小さくはなさそう。


 取り敢えず、上空で待機し、魔法の袋からイースラ小国の地図を取り出し確認する。


「現在地がこの辺りだから・・・あれ?あのあたりに町なんてないはずだぞ?」


 地図に町の名前が記載されていないどころか、村も存在していない事になっている。地図上ではないはずの町が、目視では存在する。


 一応、フリードリヒに連絡を取り本部の方の地図も確認してもらうが・・。


「町どころか村もありませんね。だとすると最新の地図の完成後に出来た町なのでしょうか?村でも規模が小さいと地図に乗せない事もありますから、もしかしたら地図が書かれた時には、規模が小さく記載しなかった可能性もあります」


 確かに、これまでも何度か小さな村が地図に記載されていなかった事はあったが、町が記載されていなかったのは今回が初めてだった。地図も毎年作り直しているわけではない。そもそもレオンハルトみたいに上空を常に移動できる存在何てほんの一握りの者しかできない。地図は、冒険者たちの情報を基に各地域で作った物を大都市で纏めていたりする。


 今持っている最新の地図も作られたのは三年も前の事だ。この空白の三年間で小さな集落が町にまで発展したのだろう。


「その場所も、誰かに調査させますか?」


 フリードリヒも新しい町がある事を地図に書き込みながら、誰に当たってもらうか考える。直ぐに手が空きそうな人物はいないため、早くても明日以降の捜索になるだろうと推測する。


「いや、俺が直接確認するよ。ついでに昼食もあそこでとるから」


「承知しました。人手が必要な時はご連絡ください。使用人の誰かを動かせるようにしておきます」


 相変わらず、段取りが良い事でと思いながら、地図にない町へ向かう。


 空を飛んでいる事は極力内密にしておきたいし、騒ぎの種になるので、近くの森に降りて、徒歩で町に向かった。


「んー貴族の列ではなく、普通の方で並ぶか」


 そう言うわけでレオンハルトは貴族が使う列ではなく、冒険者や商人、村人たちが使う一般の方の列に並んだ。


「次、身分証を」


 兵士に冒険者カードを提示する。


(ビー)ランクの冒険者様ですか。どうぞお通り下さい」


「ありがとう。そう言えばこの町って何て名前なんですか?」


 地図に無いので、名前も分からなかったから、ついでに聞いてみる事にした。兵士も突然話しかけられ少し驚いた様子だが、直ぐに姿勢を正し、答えてくれる。


 ラーレと言う名前の町で、二年前に町としての規模になったらしい。特産品と呼べるようなものはないが、冒険者として活動するには初心者から中級者にかけて育成するには良い場所らしい。


 近くの村や町に比べても活躍の場が多いから、薬草採取などの依頼でも他より少し高めの報酬になっているそうだ。


 後は、冒険者ギルドの有無とある場合は何処にあるのかも聞いておいた。ついでに、この辺りで美味しい食事が出る所も・・・。


「冒険者ギルドでしたら、この道を真っすぐ進んで別の大きな通りとぶつかった場所の右手奥側にあります。食事でしたら、すぐそこの門前宿がおすすめですよ。宿代もお手頃ですし、何と言っても料理はこの町一番の旨さですからね」


 冒険者ギルドの場所と宿屋もとい食事場所も聞けた所で、教えてくれた兵士に挨拶をして門を通った。


(まずは、食事してから冒険者ギルドに向かうかな)


 早速、兵士に勧められた門前宿に向かう。時間的にも昼のピークを少し過ぎた頃なので、客もそんなに多くないだろうし。


「いらっしゃーい。お客さん泊まりかい?それとも食事かな?」


「食事の方で、まだやってる?」


 一応、営業しているかの確認をする。所によってはピーク過ぎたら仕込みに入るために営業中断する様な場所もある。特にこういう料理専門のお店じゃない所は特に。


「やってるよ。一人かい?カウンター席へどうぞ」


 ちょっとふくよかな優しい感じの女性に案内されてカウンター席に座る。全部で四十席ぐらいある広さだが、カウンター席はその中でも五席しかない。雰囲気としては少し古びた感じだが、意図的に古くした感じの古さだ。きっと、そんな意図はないのだろう。実際は古いのに丁寧に使われているから、こんな風な味が出ているのだろう。


 先程の女性はこの門前宿の女将で、食事処で働いていた自分よりも少し年上の感じの女性に指示出していた。


「いらっしゃいませ、何になさいますか?」


「おすすめの料理は何かありますか?」


 取り敢えず、定番の事を聞く。このお店で何が美味しいのか分からないから、こういう場合は店員に任せるのが一番手っ取り早い。


 この辺りで出没するバグバグと言う獣の肉を使ったシチューが美味しいらしいので、それを注文した。バグバグは、山羊の様な生物らしく草食で家畜向きの生物でもあった。


 シチューと言ってもバグバグミルク煮なので、ホワイトソースを使うシチューとは少し味が異なる。ややくどい感じだが、肉と野菜がそのくどさをまろやかにしてくれる。


 予想よりもいい出来に満足しながら、支払いを済ませて門斬宿を出る。


 次の目的地である冒険者ギルドまで、それ程時間もかからない。町と言っても集落が大きくなった程度のもの、ものの数分で辿り着く。木造二階建ての建築物なのだろう。先程の門前宿に比べて新しい造りなのに、彼方此方修理した痕が残っている。


 冒険者は何処であろうと素行がよろしくない者が集まりやすい。きっと喧嘩か何かで出来た痕なのだろう。


「今日は何の様でしょうか?」


 冒険者ギルドの受付嬢に声を掛ける。内容は勿論、葵と若葉についてだ。冒険者ギルドはかなりの情報が行き来する。冒険者ギルド以外だと酒場などが良いが、時間的に良い情報が得られるとは思えない。だから、冒険者ギルドに来たと言うわけだ。


 町の出入り口を守る兵士でも良かったが、出入口が一つではないし、兵士も交代をする。余程の印象が無ければ覚えていないだろう。


「見慣れない人ですか?あなた以外ですよね?」


「ああ、この位の背丈の少女が二人だが、記憶にないか?言葉が通じないとか」


 暫く考えると、受付の女性が何かを思い出した顔をする。


「そう言えば三月ほど前にそう言う人物が来られていたと思います。確か、対応したのは・・・ミーフィス、三月ほど前に来た言葉が分からない少女を保護してほしいってうちに来てたわよね?」


 別の受付嬢に声を掛け、此方に来てもらう。


「その時、彼女が対応しておりました」


「受付のミーフィスです。ええ、確かに言葉が通じない少女二人が冒険者ギルドに来られましたよ」


 このような場所で二人の情報らしき情報を入手する事が出来た。


「その二人は、冒険者ギルドで保護されたのでしょうか?」


 此方の問いかけに申し訳なさそうにする二人。そして、ミーフィスがゆっくりと口を開く。


「此方でお預かりできないと、説明いたしました」


 保護してくれていれば、直ぐに解決できていただろうにと愕然とするが、ミーフィスの次の言葉で顔を上げる事になる。


「まだ、この町に滞在していると思いますよ。その二人は冒険者の方々が保護されたのですが、此方で預かれないと言うと冒険者たちが世話をする事になりました。彼方此方へ移動する様な冒険者でしたら、足取りを掴むのは難しいでしょうが、この町を拠点にして活動されていますので」


 って事は、まだこの町にいる可能性が高い。


 ミーフィスにその二人を保護している冒険者を教えて貰うと運よくそのうちの一人が、冒険者ギルドにいると言うので、会う事にした。


 教えてもらった人物は、依頼板(クエストボード)の前に立って、目ぼしい依頼が無いか確認していた。


「貴方が鉄壁の武人のラウル殿ですか?」


 突然背後から声を掛けられたラウルは鋭い眼光で、その人物を見る。


「何か用か?鉄壁にお前の様な子供を入れる予定はないぞ?」


 チームに入れてほしくて声を掛けたと勘違いされる。間違いだと主張し、要件を話すと雰囲気が一瞬悪くなった。


「・・・・そんな奴は知らん。分かったら失せろ」


 ラウラは、葵と若葉の事を話すつもりがないのだろうか。


「貴方たちが、その少女たちを保護したと言うのは聞いています。その少女が、もしかしたら此方の知り合いの可能性があるので、どうか会わせてもらえませんか?」


 丁寧に頼むが知らないの一点張りのラウラ。彼が此処まで頑なに口を閉ざしているのは、何も情が芽生えて手放したくないという考えからではない。実はレオンハルトたちが訪れるまでの三月の間、同じような事を言う人物が現れた事がある。正確には、鉄壁の武人や他の保護の時に携わった冒険者と食事中に絡まれて危うく彼女たちを誘拐されそうになったのだ。


 手を出してきたのは、イースラ小国で有名な犯罪組織スコルピス。その下位組織のモグリスと言う誘拐や窃盗などを行う集団だった。彼らは、二人の黒髪やその容姿に高い評価を付けて高値で売りさばこうとした。


 如何にかこれに対して撃退したが、それ以降はかなり慎重になっている。


 それに、彼女たちの面倒を見てくれているのは、同世代少女たち。見た目と冒険者のランクに反してこの町で最も実力を持つ二人だ。


 ラウラよりもランクが低いのにラウラよりも実力を持つ。単に聖印症候群(ホーリーシンボル)のおかげである。


 だから彼は、どこの誰だからか分からない人物に彼女たちの情報を渡すつもりがないのだ。


 困り果てるレオンハルト。強引に探し出しても良いが、見ず知らずの二人を連れて逃げるのも出来なくはない。けれど、今後の関係・・・二人とも出し、この町の人たちとの関係は最底辺に来てしまうだろう。


 気にしないと言う人もいるだろうが、レオンハルトは冒険者でもあり王都で有名な商会の会頭でもある。商売は信頼関係を築く事が出来なければ一流とは呼べないし、何処で悪評を流されるか分からない。情報は武器でもあるのだから。


 思案していると一つの案が思い浮かんだ。


 レオンハルトは直ぐに羊皮紙を取り出して、ある言葉を描き始める。


 この世界で見る事がない言語・・・日本語だ。


「分かった。俺を信用できないだろうから、此処で引き下がる。けれど、一つ頼まれてくれるか?俺が彼女の知り合いかどうか、これを渡して判断してほしい」


 そう言うと二枚の羊皮紙を彼に渡す。それぞれに此方の言語で一番と二番と記載して分かるようにしている。


「まずは一枚目の羊皮紙を渡して、これには二人が使用しているだろう言語で、伝わるかどうか、内容が理解出来たら手を二回叩く様に書いている。もし違っていたら、言葉が分からないはずだから、手を叩く事は無い。手を叩いた場合は、二枚目を渡してほしい。二枚目には此方に会いたいかどうかと書いている。会いたい場合は手を二回、会いたくない場合は手を一回叩く様に書いている」


 実際はもう少し記述している。一枚目の方には読んでいる人物が葵と若葉で合っているか、朱音を此方で保護した事なども書いており、二枚目の方には二人は此方と合流する意思があるのかと記述している。


「俺は知らないと言ったはずだぞ?」


「だったら、これを何処かで捨ててくれて構わない。俺は用があるから、二枚目を読んで二回手を叩いたら・・・そうだな、一刻後に冒険者ギルドの会議室に来てくれ、受付の人には使えるように手配しておく」


 レオンハルトは、そう言って羊皮紙を強引に渡して、その場を立ち去る。


 早歩きである場所に向かった。


「いらっしゃーいってあら?忘れ物かい?」


「すみません。一泊したいのですが、幾らになりますか?」


 俺は、昼食を食べた門前宿にやって来た。一泊するつもりはないが、転移を見られない場所で行うならば、こう言う個室が役に立つ。


 少し多めに支払い部屋へ急ぐ。個室に入ると直ぐに遠距離連絡用魔道具でシャルロットたちに連絡した。


「どうかしたの?」


 定時連絡ならば、フリードリヒからかかってくるはずだけれど、レオンハルトから直接かかってきた事に驚くシャルロット。


「今、偶然見つけた町で有益な情報を入手した。アカネたちと一緒にこっちに来てもらいたいが抜けられそうか?」


「それほんとッ!!待って直に皆を集めて合流地点に飛ぶ」


「分かった。こっち本部に連絡してから迎えに行く」


 レオンハルトは、フリードリヒと連絡を取り、シャルロットたちをこっちにいったん呼び寄せる事を伝えた。当然、有力な情報を見つけた事も説明している。そして、話し終えたらレオンハルトはシャルロットたちを迎えに行く為に転移魔法で彼女の元に飛んだ。











 一方、ラウラはと言うと・・・。


「こんな物を知らない奴から渡されたがどうする?」


 鉄壁の武人のメンバーを引き連れてクリスティーナやフィーネたちが滞在している宿屋に向かう。レオンハルトが宿泊を決めた門前宿とは丁度、反対方向にある門前宿。レオンハルトは一般的に南の門前宿で、クリスティーナたちが泊まっていたのは北の門前宿だ。


 東西南北に街への出入り口の門があり、それぞれに門前宿が存在するので、北や南以外にも東の門前宿や西の門前宿も存在する。


「書かれている言葉・・・全く理解できない。この一番と二番はみたいですが・・・」


「二人に渡すように言われているならば、渡してみます?もしかしたら本当に彼女たちであれば読む事が出来るのかも?」


 話を行った結果、彼女たちに渡してみる事に決まったのだ。

いつも読んで頂きありがとうございます。

今月はお盆休みがあるので、ストックを沢山書き留める事が出来れば良いなと研鑽中です(笑)

引き続き、応援よろしくお願いします。

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