137 裏オークションと闇オークション
おはよう。こんにちは。こんばんは。
この一週間大荒れの天気でしたね。
自分も仕事場から駐車場へ移動したら、道が冠水していて、大急ぎで社用車を避難させたりしました。
年々災害の規模が大きくなっている様に思います。
皆様も重々お気を付けください。
今日はオークション最終日と言う事もあって最後の大盛り上がりに会場は白熱していた。
ベルネットは別の顧客と用事があると言う事で、俺とアカネ、狐人族のルナーリア、狸人族のマルガ、昨日新たに加わった兎人族のリーシャと共に引き続きオークションに参加している。
いくつかの魔道具をオークションで落札させたぐらいで、メイン会場には彼女の姉妹はいなかった。
リーシャの力は、昨日のうちに本人から聞いて確認済み。使いようによっては非常に有益な能力だと思う。波動眼と言う魔眼の一種で、潜在的なエネルギーを捉える事が出来る。エネルギーと言っても、その人の強さだったり、善悪の区別をしたり出来るらしい。エネルギーを可視化した際に多種色に分かれているので、はっきり見えると潜在能力が高く、薄いと低い、善人であれば柔らかい感じに捉える事ができ、悪人の場合は不快に感じるのだとか。
戦闘面はからっきし出来ないが、索敵などの探知能力はかなり高い。彼女にも御者を教えて、同行させるのが良いかも知れないが、彼女に見た目で御者をさせるのも気が引けてしまう。まあ、エリーゼやラウラも容姿に優れている方なので、今更な気もするけど。
因みに購入した魔道具は、磁石の様な二つで一つの平たい延べ棒と水の壁を生み出す指輪、馬の疲労を軽減させる馬用の装備。身体能力を向上させる腕輪だ。
磁石の様な魔道具は二つあったので二つとも落札しておいた。
奴隷は流石に三日続けて落札すると言う事はなかった。アカネにしてもリーシャにしても奴隷を加えるつもりはなかったのだ。それこそ成り行きで買う事になったと言う所だろう・・・まあ、購入した事に後悔はない。
無事にオークションも終了し、落札した商品の引き取りと支払いを行った後、約束をしていたベルネットやシャルロットたちと合流。ルナーリアをリーゼロッテたちに預けて、ベルネットがセッティングしてくれているとある場所に移動した。
その場所にたどり着くと、やや太った体型の男が立っていた。彼の後ろには、並みの魔物であれば一瞬で屠れるほどの実力者の二人が傍に控えている。
同行させていたアカネの身体が強張る。
それもそのはずで、目の前にいる三人こそ、アカネを奴隷としてオークションに出した人物なのだから。
奴隷世界を知らない女子中学生が、奴隷にさせられてオークションで売られるような経験をすれば、誰でも恐怖を感じてしまうだろう。
「ベルネット?遅いではないか?わしを待たせるなんてな」
太った男が偉そうな口調で語りかけてくる。彼の言い方から察するとベルネットと彼は初顔合わせではないと言う事がわかった。
「知合いですか?」
レオンハルトはベルネットに尋ねると「昔は王都で活躍していた奴隷商人で、顔見知りなんですよ」と苦笑気味に答えた。
「ん?ああ、その娘は其方が買ったのか?言葉が分からないのに物好きなものよ」
性的な意味で購入したのだと勘違いをしているようだったが、此方もわざわざ訂正する必要はないだろう。アカネは今話している会話を理解できないし、後ろでシャルロットが翻訳しているが、うまく言葉を濁してくれている。
そこから、落ち着ける場所に移動して彼らと話をした。
「だから、彼女はラーダの森と呼ばれる森の近くで発見した。・・・もういいだろ?」
うんざりした感じで話す太った男。レオンハルトは、彼女の発見した時の様子や場所、その時の周囲の様子、王都までの道のりでの出来事など逐一確認を行ったのだ。
護衛の為に同席している二人は、レオンハルトの質問攻めを止める事が出来ず只々見守るのみ。彼とレオンハルトが出会ってこの店に入ってからお互い自己紹介をした時、レオンハルトが伯爵の現当主だと知り、口答えが出来なくなったのだ。
因みにこの太った奴隷商人は、バーナー商会の二代目会頭のヒエロニムス・バーナーと言う。先代の時に王都の店舗を売り、奴隷を取り扱う行商人になったとの事。貧困の村で娘たちを買ったり、拾ったりして奴隷を集めている。拾う事は無いだろうと突っ込みたくなったが抑えておいた。
流石に誘拐はしないそうだが、レオンハルトは彼の事を余り信用できなかった。リーシャが彼を見て紫の人って言ったのだから。黒に近い色は悪人に近いと言う事で、紫でも黒っぽい紫と言う事で何らかの犯罪に加担している可能性があった。
実際、リーシャの見た通り、彼には犯罪組織との癒着がある。
アルデレール王国ではないが、別の国で活動している犯罪組織エスクァイア。殺人は勿論誘拐に窃盗、強姦、暗殺等々に手を染める連中で、ヒエロニムスはその下位組織であるヴァナゴンの構成員が誘拐した人族や獣人族、亜人族を裏で買い取っている。
だから、悪人に近いと言うか列記とした悪人だが、この世界ではグレーゾーンの位置づけらしい。まあ、奴隷商人なんて、あくどい商人も多く居る業界だ。
「ところで、伯爵様はその女の言葉が分かるんですか?」
自分たちは全然理解できませんでしたが?と後に続きそうな言い回しで訪ねてくる。
「ええ、彼女には生き別れの姉妹がいるそうなので、くれぐれも奴隷にしないでください。次はどうなるか分かりませんからね」
言葉に圧を乗せて話す。周囲が数度下がったような感覚に陥る。
「そ、そうですね。も、もし、我々で見つけたら、丁重には、保護しておきます」
太った奴隷商人は、冷汗を垂らしながら返答する。温度が下がった様な感覚になるのに汗が出るなんてと思うだろうが、実際この場に居れば否応にも理解させられる。次は潰すッ!!って感覚を。
ヒエロニムスたちは、足早にその場を立ち去った。
「アヴァロン伯爵様、あまり奴隷商人を脅さないでください。我々は横の繋がりを非常に重要視していますので」
「ああ、すまない。所でラーダの森ってどの辺りにあるんですか?一月も移動に有していたそうですし、移動距離もそこそこあったようですが・・・」
聞き覚えの無い場所をベルネットに尋ねてみた。すると、ラーダの森は丁度レオンハルトが訪問しているイースラ小国の南西部に位置する場所にあるとの事。ただし、魔の森との距離も近い事から、中々凶悪な魔物がラーダの森にも徘徊しているそうだ。
一月も前にそんな場所に居たのであれば、誰かに保護されていれば無事だろうが、保護されていなかった場合は命の保証は出来ない。
シャルロットもその説明を聞いて、どう伝えるか悩んでいた。
「シャル説明を変わるよ」
彼女に代わってアカネにこれまでの話を説明する。真剣に聞くアカネの目には涙が溜まり、不安そうな顔で聞いていた。
「“わ、わかりました。二人の生存が限りなく少ない事は、けれど諦めたくない”」
「“ああ、わかっている。だから、少し寄り道にはなるけれど、イースラ小国の用事を済ませたら、出来る限り捜索しようと思っている”」
用事を済ませる余裕があるのかと問いたくはなるが、此方の依頼はアウグスト陛下からの王命でもあるので、後回しにはできない。一個人、それも奴隷の身分となっている者のお願いとは、比べ物にならない。
取り敢えず、通常のオークションは終了した・・・・が、今日の夜と明日の夜に裏オークションと闇オークションが開催される。一応其方にも参加する予定にしている。
「では、アヴァロン伯爵様。そろそろ行きましょうか」
ベルネットの言葉で、席を立つ。タイミング的にも丁度良く、他の仲間たちも合流してきた。
「ヨハンあとは任せる」
俺は、ユリアーヌとベルネットと共に裏オークションが開催される場所へ向かった。同行人は一人までと言う決まりがあるそうなので、ユリアーヌに願いしていたし、ベルネットも会場の出入り口付近にて商会で雇われている男と合流するつもりのようだ。
裏オークション。この三日間の間で行われていたオークションとは少し異なるオークションで、かなり稀な代物が出回る。中には使用時にかなり制限がかけられた魔道具なんて物も出展されるし、希少な種族や一般的なオークションでは扱いきれない様な品も多く出品される。
例えば、前回会場内を賑わした代物で、魔装武器の類で雷の魔爪籠手が出回った。本来の魔装武器はまあ、一般的にもオークションで出回る事はあるが、その品に至っては裏でなければいけなかった。はめ込まれている魔石の純度が高く、大きさも通常の倍近くあったのだ。何が言いたいのかと言うと、魔石に込められている魔力量が濃密で大量に保有されているので長時間維持する事が出来るのだ。しかも多種多様の雷系統を行使できる。
その他にも一瞬で重傷の傷を治してしまう最上級水薬が出品されたり、万能薬だったり、極稀に秘薬も出品する。秘薬にもランクがあり、中級秘薬、上級秘薬となる。最上級水薬の様な最上級の付く秘薬は存在していない。代わりに霊薬と言う名前に代わる。一応、その上にも薬があるらしいが、その存在を知る者は生きておらず、書記に少し記されている程度だ。その名前は、神薬。別名、神酒とも言われる。ネクタル以外にソーマと言うものも存在する。違いとしてはワインかシャンパンか、日本酒か焼酎かの違いぐらいで効力は一緒。まあ、一生に一度・・・十回生まれ変わってもお目にかかれるか分からない様な代物。
まあ、裏オークションは一般市場には出せない貴重な物や強力な物が出回る場所でもある。
「代表二名と連れが二名だ」
「御一人五千ユルドになります」
俺とベルネットはそれぞれ一万ユルド出した。入場料が必要らしいが、その価格が異常に感じる。入場料が五千ユルド・・・つまり、日本円で五万円相当。二人だと倍の十万円相当もかかった。
「結構かかりますね」
中に案内され、出入り口で待機していた者が見えなくなるほど歩いた所で、レオンハルトがベルネットに尋ねる。
「そうですね。一般のオークションと裏のオークションを分ける意味もありますが、一般と違って冷やかしでの参加を抑制する意味もありますからね」
確かに、買う、買わないにしても参加費の五万円を支払ってまで見に来たいかという所だろう。それに価格も表の数倍かかるから、莫大な費用が裏オークションで動く。逆に言えば、闇オークションは価格こそ一般的な値段からとある街の一年分の徴収額と同等もする様なばかげた金額が飛び交う。
取り扱いが難しい物から違法な物まで他種多少に取り揃えられている分、裏オークションよりは闇オークションの方が入り安かったりする。
その分、王国騎士団に見つかり捕縛された場合は、主催者、出品者のみならず参加者も騎士団に連行されてしまう。
最悪の場合が訪れても、レオンハルトは速攻転移で逃げるだろうし、仮に連行されても注意だけで済むぐらい彼の存在は大きくなりすぎている。
裏オークションよりも非合法の闇オークションの方が、参加しやすいのは言うまでもないだろう。
裏オークションの会場内は薄暗くすべてが個室化されて、参加者と付添人が入れる少し手狭な部屋。各部屋の一部が少し突き出ているが、この場所に代理人が立つようになっていた。
用意されていた部屋の椅子に座ると、代理人がやって来る。
「今回、貴方様の代理を務めさせていただきます。よろしくお願いします。早速ですが、オークションでの注意事項をご説明いたします。まず初めに―――」
担当してくれる代理人が、オークションでのルールを説明し始める。大まかにいえば一般のオークションと同じなのだが、数点異なる部分として、受け渡しは代理人が現金と引き換えにこの部屋まで持ってくるようになっている。
出品者は落札されたお金を落札者から回収後、持ってくると言う事で出品者は解散するまでに他の者よりも待ってもらう必要がある。待つことが難しいものは、手数料をもらう事になるが、後ほど指定された場所に届けるサービスもしている。
それと、出品者の情報は非公開が必須。かつ、問い合わせがあっても教える事が出来ない。後は、トラブル関係だが運営側は一切関与しないとの事。流石に出品されたものが不良品とかは別だが、そもそもそのようなトラブルが起こらないように、事前に確認作業を行っている。
「以上になりますが、何かご質問はありますか?」
「大丈夫」
問題がないと判断した代理人は、代理人が立つ場所に移動して準備を始める。一般のオークションと異なり声を出すことがないよう、魔道具が手元に用意されている。
代理人の説明では、この魔道具は汎用型の伝達版と言う物で、この場所に記入した内容が、代理人の手元にある伝達版に映し出されるらしい。
互いの伝達版が接続しているようだ。非常に使い勝手が良い魔道具だと思ったが、デメリットも当然ある。それぞれの伝達版は送信と受信のどちらかしかできず、これも二つで一つの魔道具で、片方が壊れたらもう一つも使えない。更に伝達が可能な範囲が半径二メートル前後らしい。これ以上は慣れると正常に受け取る事が出来ない。使い勝手が良いような、悪いような良く分からない魔道具だ。
(改良を加えたら使えるかもしれないが、あまり必要なさそうだな)
前世でのメールと言う意味ならば、十分役に立つだろうが・・・相手が居て使えるし、仲間同士であれば遠距離連絡用魔道具や念話を使うほうが早い。
取り敢えず、始まるまで周囲を眺めるが、同じように参加する者たちの姿は分からないように細工されている。
(魔法なのか?それとも魔道具か?目視できない様にしていると言う事は、かなりプライバシーを厳重に守っているのだろうな)
一般のオークションよりも一回り小さい会場だが、個室にしている関係で収容できる人数が更に少ない。にも拘らず、代理人と思われる人が三百人近くいる事から相当数の数が来ているのだと分かる。
暫くすると仮面をつけた司会者が姿を見せる。
「さて、今宵もやってまいりました。皆さまご準備はよろしいでしょうか?」
司会者の声かけで会場内が大きな熱気に包められる・・・事はなかった。集まっているのはお金をかなり持って居る者たちなのだ。そんな人たちが大声を出す事はまずない。けれど、緊張感が高まったのは事実だろう。
レオンハルトも「ん?空気が変わった・・・」と呟いていた。
「今回は百五十点も出品があります。皆さま、しかと吟味してくださいませ」
百五十点が多いのか少ないのかで言えば、一般のオークション・・・例えば、最終日の今日のメイン会場では千近い品が出品されていた。サブも含めればその四倍は優に超える。となれば、百五十点と言う品数がどれほど少ないのか理解できるだろう。
まあ、一般では扱いきれない物や稀少の中の更に稀少な品々なので、百五十点と言う数は必ずしも少ないと言う判断にはならない。
「栄光を飾る最初の一品目、とある遺跡にて発掘された雷炎の魔剣、二つの魔石をどのように融合させたのかは未知数だが、一つの魔剣で雷属性と火属性を操る超高性能な品です。では、価格ですが・・・・五千万ユルドからの開始です」
―――ッ!!
五千万ユルド、日本円にして五億円相当。しかも最低価格が・・・だ。今はもう一億八千万ユルドに吊り上がっていた。十八億円相当・・・・魔剣一本にかかるお金ではない。
魔剣と言う事は、騎士や冒険者が使うのだろうが、そんな値段だと騎士の給料では割に合わないだろうし、冒険者でもそれこそ今のような発見をしなければ、常に依頼を受けていかなければならない様な事態になってしまいかねない。
まあ、冒険者は危険な職種である代わりに、報酬も高いものが多い。高ランクの冒険者であれば、高難易度の依頼を十数回完了させれば払えないこともないだろう。
結局、雷炎の魔剣は二億四千万ユルドで落札されていた。その後も暫くは遺跡などの発掘された強力な武器や防具が出品される。
「続きまして、Sランクの魔獣シャルガルムの牙を素材に作られた二本の魔槍。魔工鍛冶師の名工グラント氏が手掛けた武器。一本は氷の魔槍、もう一本は風の魔槍です。まずは、氷の魔槍からです。価格は一千万ユルドからです」
魔槍か・・・・エッダの持つ槍も氷の魔槍だったな。性能はどっちがいいのか分からいが・・・。それより、もう一本の魔槍が気になるな。
円卓の騎士のメンバーで槍を使うのはエッダとユリアーヌの二人。エッダはすでに所有しているが、ユリアーヌは通常の武器だ。うちの名工トルベンの作品だが、彼は魔装武器の制作はまだ成功率が低いとの事。十本打って三本出来るが、性能的にクリアしているのはそのうち一本あるか、ないかと言う所。
ユリアーヌは現状の槍で十分だと言うが、魔槍を持たせると更に戦力が上がると思われる。
魔槍の入手の機会はこれまでにもあったが、直観的に感じる物が見つけられなかった。けれど、今回の出品物には、直観的に何かが働いたのか、入手しても良いと思えた。それに、今回の魔槍は風属性の能力を持っている。ユリアーヌの技との相性が優れていると言えるのだ。
「ユーリ。あの魔槍どう思う?」
後ろに控えていた当人であるユリアーヌに確認を取る。彼もあの魔槍に少し思う所があったのだろうか。気にしていた様子だったが、流石に自分から欲しいという発言は控えた。
「かなりの業物だな。アレを扱いきるには相当腕を磨かなければ難しいだろう」
(なるほど。けど、腕を磨けば扱えるって事だよな・・・よし)
当初の目的とは違うが、レオンハルトは風の魔槍を落札するために動くことにした。
「五千六百万。五千六百万ユルド。・・・いませんね。では九十九番の方落札です。では、もう一本の魔槍・・・今度は風の魔装武器ですね。では、スタート価格同じく一千万ユルドからです」
「一千万」
「一千八百万」
「二千万」
「二千二百万」
色々な人物が魔槍を手に入れようと落札金額を提示する。気づけば三千八百万にまで吊り上がっていた。
「四千四百万」
この価格はレオンハルトが提示した金額。しかし、すぐにその金額を超える金額を提示されてしまう。それに応じてレオンハルトも更に上の金額を提示した。
「五千万ユルド。五千万ユルドです。・・・・いないようですね。六十八番落札です」
六十八番と言うのが俺の事だ。五千万ユルドで落札が出来たが、五億円の価値があったのかと尋ねられてしまいそうである。
こんな事なら、もう少し一般のオークションで出品しておけば良かったな。
もう終わった事なので、如何する事もできない。
「落札する事にしたのか?」
少し驚いた表情で此方に話しかけてくるユリアーヌ。レオンハルトは、それに対して振り向いて答えた。
「ああ、俺たちの戦力強化にもなるし、ユーリ・・・君はもっと強くなれる逸材だ」
「そうか。ありがとう」
素直に喜ぶユーリ。あまり嬉しい時の感情を見せない彼が、喜ぶ姿を見るのは俺にとっても嬉しい事だ。
当初の目的である彼女の姉妹が、裏オークションに出品されていないか確認するが、目ぼしい人物はいなかった。結局、レオンハルトが落札したのは風の魔槍と身代わりの首飾り、幻魔の指輪、聖水の杯の四点。身代わりの首飾りは装着者が瀕死の重傷を受けた時に一度だけそのダメージを肩代わりしてくれる。その効力が発揮されると砕けてしまうと言う使い捨ての魔道具で、幻魔の指輪は一時的な幻を見せる魔道具だ。魔力を持たない者でも使える様に魔石が組み込んでいる。聖水の杯は、純水を杯に入れる事で、低品質の聖水を生成する事が出来る。低ランクの呪いやアンデット系の魔物に使用すると効果がある。
どれも、遺跡発掘された物。唯一、身代わりの首飾りだけは、複製が可能との事らしいが作るのにかなり難しいと言う事をベルネットから教えてもらった。
「欲している物が手に入りましたかな?」
帰り際に尋ねてくるベルネットの言葉に、俺は首を横に振る。
彼女の姉妹の捜索。運が良ければ彼女と同じく奴隷として出品されている可能性にかけてみたが、一般的オークションも裏オークションにも該当する人物がいなかった。
後は、非合法オークションと言われる闇オークション。開催は明日の夕方からとの事で、此方も参加できるのは当事者と同行者一名のみ。ベルネットの闇オークションに出品するつもりはないが、レオンハルトの為に別席で同行してくれる。
彼には、このオークション関連で非常に手を貸してもらっている事に申し訳なく、また時間が許す際に商会の方へ訪れてみようと心に誓う。
屋敷に戻ると、皆疲れが為っていたのか既に休んでいると筆頭執事であるフリードリヒに教えてもらった。
「何か急ぎの用事とかはなかったか?」
「一件だけ、小耳に挟んでおきたい事が・・・」
フリードリヒからの報告を聞くと、アンネローゼが一度レカンテートを訪れたいと言っているらしい。王都アルデレートからレカンテートに行くには往復でも早くて数週間は必要だ。
行く用事を尋ねた所、アンネローゼの亡くなった旦那・・・リーゼロッテにとって父親である人物の墓参りに行きたいそうだ。
(そう言えば、そろそろ命日になるのか)
十数年前・・・俺やシャルロットは分からないが、リーゼロッテが生まれる前に他界してしまったアンネローゼの旦那。アンネローゼと共に冒険をして、巷で有名になる程武勇に優れた人物だったらしい。二十代に差しかかる頃にはBランクと言う超一流の冒険者となった程、彼がどうして死んでしまったのかは此処では語らないが、彼の死後アンネローゼたちのチームは解散。彼女はリーゼロッテを孕んだ状態で孤児院を開設した。
そして、必ず彼の命日にはお墓参りをしている。
墓標と共に彼が愛用していた武器も地面に突き刺している。何度かレオンハルトたちもそこに訪れて御供えをした事がある。錆びれて所々刃も欠けていたが、よく使いこまれた良い剣だったのは、今でも強く印象に残っていた。
「分かりました。明日の午前中にでも伺って話をしてくるよ。夕方は例の所に行くから、俺とユーリの夕食は必要ないから」
「承知いたしました。では、私は本日の報告書をまとめた後に休ませていただきますが、何か御用があればお呼びください。失礼します」
ふぅ・・・。漸く一息つけると自室に戻り、寛ぐレオンハルト。少し休んでから部屋に仕舞っている着替えを取り出し、浴室へ向かい汗を流した後、軽く今後行う事をまとめてから床に就いた。
翌朝、何時もの時間に起きて、早朝の鍛錬に出る。
今日も朝早くから彼女は起きていた様で、不思議と空を眺めていた。日が昇り始める少し前のこの暗闇から僅かに明るくなる朝ぼらけの刻。
「“おはようございます。今日も早いですね?”」
「“おはようございます。葵と若葉の事が気になってしまって”」
昨日の裏オークションの結果が気になったのだろう。と言っても彼女がこの屋敷に来てから一日も欠かさずこの時間には外にいる。元々早起きだったのか分からないが、何時も空を見上げていた。
「“私、この時間の空が好きだったんです。暁の空って言えばいいんでしょうか?この空を眺めていたら心が落ち着くんです”」
確かに彼女の言う通り、この日が昇り始める少し前の暗闇から少し明るくなり始めるこの時間は何とも幻想的な感じがする。これから始まると訴えかけられている様なそんな気さえ思えてしまう程の魅力。日が沈む直前も似た様な感じだが、そっちはそっちで別の魅力があるが、俺はどちらかと言うと朝方の方が好きだ。
「“そうですね。この世界も、日本でのこの時間の空も何方も同じ見え方をしますからね”」
「“・・・・はい”」
彼女の少し空いた間で昨日、良い結果に無かった事を理解したのだろう。そもそも、良い結果だった場合、寝ている彼女を叩き起こしてでも知らせてくれるはずだ。
そう判断して、彼女の頬から涙が流れる。
「“昨日は収穫がありませんでしたが、今日は別の催し物がありますので、其方にも顔を出してみます。それでもいない様なら、明日からイースラ小国へ戻るので其方を捜索してみましょう”」
彼女から言葉はないが、深々と頭を下げた。そして、そのまま屋敷の方へ戻って行った。
早めに捜索が出来る様、少し予定を急がせるか・・・。今日のスケジュールを再検討しながら鍛錬を開始した。
朝食後、レオンハルトはリーゼロッテとヨハンを連れてアンネローゼや孤児院の子供たちがいるもう一つの屋敷へ向かった。
「お母さん、帰ったよ」
帰ったと言う表現が正しいのか不明。この屋敷は、俺たちが育った孤児院とは違う場所。レカンテートの孤児院は現在、新しい建物にしている最中、なのでこの場所が帰ってくる場所かと言われると疑問を覚えるが、リーゼロッテにとっては母親で、俺たちにとっても義理母親であるアンネローゼの元に戻って来ると言う意味では、帰ったという表現でもあっているのかもしれない。
アンネローゼは優しく俺たちを迎え入れ、彼女の仕事部屋に案内された。
「思っていたよりも早く来たのね?」
「ええ。お墓参りに行きたいと伺いましたので、命日に訪問するんですよね?」
俺たちを頼らずに、辻馬車等で移動をするなら、そろそろ出発をしなければ間に合わない。だからこそ、早めに彼女のスケジュールを確認しに来たのだ。
「そのつもりよ。明後日ぐらいに王都を出発しようと思っていたから、早く会えてよかったわ」
アンネローゼは俺たちを頼らずに自らの力で、レカンテートに戻ってくるつもりだったようだ。俺たちを頼ってくれてよかったのだが、流石に頼みにくかったのかも知れない。普通はレオンハルトたちの様な転移魔法が使えないのに、自分はお墓参りの為だけに使うのが申し訳ないという気持ちになったのだろう。逆の立場であれば、そう考えてしまうからこそ言い出せなかった事も理解できる。
「俺たちが当日、送り迎えしますよ。久しぶりに皆で墓参りに行きたいですし」
「迷惑にならない?」
「迷惑になるなんて事ありませんよ。アンネさんは俺たちの母親みたいなものなんですから、何時でも頼ってください」
取り敢えず、墓参りの当日はアンネローゼも含めて行く事になった。帰り前に、子供たちと戯れてから屋敷に戻った。
屋敷に戻ってからは、溜まっていた書類に目を通したり、指示を出したりと忙しく。気が付けばあっと言う間に予定の時間になっていた。
「ご主人様、此方の外套をお使いください」
屋敷を出る時にフリードリヒが外套を渡してくる。普段使っている様な外套ではなく、古臭い感じの外套。古臭く見えるが、実際は新しい物をわざと古臭く見える様に加工している。
裏オークションならともかく、闇オークションに参加するのであれば素性がばれる事は極力避けなければいけないらしい。と言う事で、着ている服装もブラックワイバーン製のロングコートではなく、庶民が着る様な素朴な大人しめの物を着ている。因みに服は頭を隠せるフード付きの物で、これで身元が分からない様にすれば良いと考え外套は用意していなかったのだ。
ユリアーヌも同様の恰好で、彼の場合はフード付きのローブを着ていた。ローブならば外套が無くても問題がない位、色々と隠す事が出来るので、外套が無くても問題はない。
フリードリヒから渡された外套を羽織り、ユリアーヌと共にフードを深く被る。どこぞの怪しい集団にしか見えない格好に少し恥ずかしくなる。
「その恰好であれば、大丈夫でしょう」
フリードリヒだけでなくベルネットも二人の恰好を見て合格点を出す。彼と彼のお供も外套やらローブを着ており、人数が揃えば揃う程、変な集団に思われそうだが、ベルネットが用意していた幌馬車に乗り込んでしまうと、周りから見えないので気が楽になる。
使用人たちに見送られて出発し、闇オークションが開催される場所まで移動する。
到着したのは、王都でも治安が悪いとされるスラム街の外れ、一軒の小屋に辿り着いた。ベルネットたちと一緒に幌馬車を降りて、小屋に近づく。
「待て、何ようだ?」
小屋の入口を飲んだくれて座り込んでいる男が、声を掛けてくる。
態度と問いが全く合っていない。酔っ払いが、まるで門番をしている様な口調で訪ねてくる。
「月明かりの下の催しに」
ベルネットの言葉で、男は懐から鍵取り出して渡す。
如何やら今のが、闇オークションへ参加するための合言葉の様なものらしい。
鍵を受け取ったベルネットはその鍵を使って小屋の戸を開ける。
「この梯子を下りて少し進んだところに、今回の会場があります・・・行きましょうか?」
小屋の床を壊して作った様な地下への通路。闇オークションの会場は毎年異なるそうで、今回はこの地下会場らしく、俺とユリアーヌは黙って彼について行ったのであった。
いつも読んで頂きありがとうございます。
誤字脱字のご報告もありがとうございます。




