136 辛い日々
おはよう。こんにちは。こんばんは。
この一週間、大雨が酷いですね。
皆様、危険だと思えば早めの避難をお勧めします。
私の名前は式守朱音。ルイセント女学園に通う中学二年生。両親は至って普通でお父さんは電気販売店で働いており、お母さんはスーパーのパートをしている。下に次女の葵と三女の若葉の五人家族。葵と若葉は姉妹と言っても一卵性の三つ子なので全員が同じ年。
何もしていない状態であれば、両親にしか判別できない程みんな似ている。似ているのは姿だけではなくて、性格もほぼ同じ、得意な科目も被る事が多く、好きな音楽や芸能人もそう。一時三人が同じ人を好きになった事があるが、彼から「誰が誰か分からない」と言う酷い言葉を受けて、他の人からも分かる様に髪型を変えた。人は髪型を変えるだけで印象ががらりと変わるのだから。
私は、髪を普通に卸し、葵は髪を後ろで纏めたり、横に纏めたりする所謂ポニーテールやサイドポニーと呼ばれる髪型にしている。若葉は逆に髪を編み込む事が少なので、髪を三つ編みにしてオシャレにする様になった。
見た目を変えた事で、美少女姉妹から色彩の美少女姉妹と呼ばれるようになった。色彩は、私たちの名前を由来にしているらしい。近所の人が言い出したので、私たちが自ら名乗ったわけではない。因みに色を基に考えているのは、両親の名前が関係しているからで、父親の名前は亜黄斗で母親の名前は紫と言う。
そんな何気ない日常を送っていた時、事件・・・事故?良く分からない何かに巻き込まれた。
三人でたまたま立ち寄った神社。後数ヶ月もすれば自分たちも高校受験の為の勉強をする受験生になる。ルイセント女学園はエスカレーター式ではあるが、点数が低い者は高等部に上がれない。だから普通の受験と変わらないぐらい勉強が必要である。
だから、その日は偶々、地元の神社で参拝してからお守りを買った。
神社の裏にあるちょっとした緑がたくさんある場所で、買ったお守りを何故か見せ合いっこしている時、目の前の景色が歪み立つ事さえままならなくなったと思えば、真っ暗な場所に来ていた。地面はなく、身体が浮遊しているかのような感覚。訳が分からず辺りを見渡すと葵と若葉もその場所にいた。
「朱音。ここは何処?」
「葵、若葉二人とも大丈夫?」
「葵、身体が反転してスカートの中が見えそうだよ?」
「なッ!?それは若葉の方でしょ!!」
こんな非常識の状況の中で、繰り広げる様な会話ではないでしょと心の中で突っ込みつつ。冷静に辺りを探る。すると・・・。
「「「きゃっ!?」」」
三人とも同じタイミングで悲鳴を上げる。
何かに吸い込まれる様に身体が急に動き出す。イメージとしてはお風呂の水を抜いた時の様な感じだ。
三人がバラバラにならない様にお互い手を繋いで、耐える。耐えると言うよりも吸引力に抗えないので、ただ三人が固まっていただけではあるが。
その時、強力な吸引力で繋いでいた手が滑り離れてしまう。
「朱音―――ッ!!」
「あかね――っ!?」
「葵――ッ、若葉―――ッ!!」
不運にも私だけが二人から引きはがされ、気が付いた時には訳の分からない場所に一人で立っていた。
薄暗い森の中、身体中に痛みが走り、着ていた制服もかなり酷い事になっていた。土や泥、枯葉等がくっついているだけでなく、所々破れてしまっている。辛うじて下着が見えないところが敗れていたので、よかったのだろうか。
「ここは――――どこ?」
何とも寒気のする場所に恐怖する。ふと周りを見渡した時に妹たちが居ない事に気が付き、大声で二人の名前を叫んだ。
葉のこすれる音のみが聞こえる。二人からの返事はなく近くにいないか、気づかなかったかだろうと考え、もう一度大声で二人の名前を叫んだ。
ウォオオオオオオオン
ッ!?
犬の遠吠えの様な鳴き声が聞こえ、身体が再度ビクッと驚いてしまう。森の中で犬の鳴き声が聞こえると言う事は、飼育の犬ではなく、野生の犬の可能性が強い。野生の犬だった場合、凶暴だと言う事は何となく理解している。
犬は人の聴覚の何倍もの音を聞き取る事が出来るし、嗅覚も優れている。私の居場所何てすぐに突き止めてしまう恐れがあった。
だから、彼女は咄嗟に立ち上がり、慌ててその場から移動する。
幸いな事に、この森はものの数分で抜け出すことに成功した。思っていたよりも大きくないのかもしれない。と言うより実は神社の所にある森ではないかと心の中ではまだ思っていた。
けれど、森から出た光景を見て、此処は日本ではないと悟ってしまった。目の前には見たことがない生物が立っているのだ。否応にも違うと認識させられてしまう。
グルルルゥゥゥ・・・。
大型犬よりも二回り大きい体躯に赤い毛色、目が四つもある狼の様な生物。威嚇をしている様な体勢から何時襲われても可笑しくはなかった。
ひっ!?
駄目だ。そう判断した時、どこからともなく火の玉が飛んできて狼の様な生物に直撃する。燃え盛る火の粉を振り払い、攻撃してきた方に視線を向けると、今度は狼の頭上から小さな雷の様なものが轟音と共に落ちた。
衝撃波が自分の所にまで届く威力のソレ。何なのか訳が分からない。
男の子たちが、ゲームや漫画とかで見る様な大きな剣で、その狼の首を一刀両断する。
「△△△。・・・△△、△△△△△?」(たくよー。・・・おい、そこで何してんだ?)
え?どこの言葉?
「△△。△△△△?」(おい。聞いてるのか?)
へにゃ。にょにゃむにゃらひにゃ?どういう事?言っている事が全然分からないっ!?
何処の言葉だろう?なんて悠長な事を言って居る場合ではない。今の・・・へにゃ。にょにゃむにゃらひにゃ?って言葉だって無理やり発音したらそうなっただけ。
「△△△△△?△△△!!」(何とか言えよ?おいっ!!)
「あの。日本語分かりますか?あっ!!は、ハロー?」
剣を地面に突き立てて何やら怒っている仕草を始める。向こうの口調も言っている言葉は分からないが表情から察するとかなりイライラしている感じがした。凄く怖い・・・。
すると、マントの様なものを羽織った外国人の様な顔立ちの人がやって来る。
「△△△△?△△△△△△△△、△△△△、△△△△△△△△?」(何してる?急がないと旦那があれてしまうぞ、そいつは、一体誰なんだ?)
剣を持った屈強な男と目つきの悪いマントを羽織った男が知らない言葉で話し合っている。すうとマントの男がやって来て・・・。
「△△△△△△△△?」(共通語が分からないのか?)
何かを語り掛けてくるが分からない。不思議そうにしていると。
「○○○○?□□□□?」(ファーレス語?ヒジャン語?)
マントの男が口にしたのは一般的な言語ではなく、地域ごとにある言語を使ってみた。一つはファーレス語。これは、レーア大陸の南東部で使われる言語で、ヒジャン語はレーア大陸の南部の一部で使われる言葉。どちらも共通語に比べれば普及していないが、割と知られている言語でもある。
実は、エルフ語やドワーフ語、ビースト語と言うのも存在している。ただ、これはエルフ語であればエルフの村での見つかっているような言葉だ。
ぼるふぉーぱらぱも。ふたらしゃー・・・最後の方は分からなかったけれど、結局彼の話す言葉も理解できなかった。
やはり変なところに迷い込んだのだ。・・・これはきっと夢なのだろうと現実逃避に走るが、よくよく考えたらこれほど現実的な夢があるはずもない。
絶望感が一気に襲って来る。
二人が言い合いをしている時、太った男が此方にやって来た。変な服を着ているが歴史書で見た事がある様な服で、しかも良い物だと言うのは分かる。
二人が彼に何か話している時に、私の顔を見てにやけ顔になる。背筋がぞくぞくする感覚に襲われた。
この場から逃げ出さなければ、立ち上がろうとした時、急に激しい眠気が襲ってきた。
寝たら不味い・・・私の中の危険信号の様なものが訴えてくるが、強烈な眠気に抗えず、そのまま意識を失った。
そして目が覚めたら、私は降りの中に閉じ込められていた。私だけではない、この場所にはやせ細った者から頭を抱えている者まで多くの人がいた。いや、人のような者たちもいたので、多くの人と言う認識でよいのか分からない。
一つ言えるのは、皆、希望に満ち溢れた顔とは対照的な雰囲気を出している。
「ここは何処?出してッ!!」
檻を掴み叫ぶと、いきなり身体に電気が走った。
「ああああああああああっ!!」
まるで静電気を何百倍にもしたようなそんな痛みが全身に響く。私はたまらず、その場で倒れる。
「△△△△?△△△△△△?」(おや?目を覚ましたのかい?)
太った男は、黒い首輪の様なものをブラ上げながら、何か語り掛けてくる。眠ってしまう前と何もかわらない。話している事が分からないのだ。けれど、太った男は、その首輪を首の所に当てるそぶりをする。そして私を指さした。
まさかと思い、恐る恐る首を触ると何かが首に付けられている。
「△△△△△。△△△△△△△△△△△!!」(上玉が手に入ったからな。これから向かう所で出品させてもらう!!)
他の檻の人たちを見ると全員が同じ物を付けられていた。それから檻を時代劇でしか見た事が無いような馬車に乗せられて、移動を開始し一月が過ぎた。二十日たった頃には私も彼女たちと同じように感情を失いかけていた。
そして、何やら大勢のいる場所に出さされ、見世物のように扱われる。私の近くに居た男が何か手に持って歩いてくる。
彼の話す言葉もやはり分からなかったが、ジェスチャーで如何にか理解した。何かを話せと言う事だろう。
私の言葉が通じるはずがない事は分かっていたが、その言葉を口にせずにはいられなかった。
「助けてください」
消えゆくような声。ああ、やはり誰も分かってくれないのかと諦めた。
そして、会場内は変な空気になり、騒めきだしたかと思えば、私はそのままステージから強制退場させられる。もう何でもいい。
そんな気持ちになっていた時、檻ではなく別の場所へ連れて行かれた。そこには、同年代ぐらいの身なりの良い男の人と数人の女の人がいた。分かっていた。私は奴隷にさせられて、そんな私を彼は買ったのだと、身なりが良い女性もいるが、彼の後ろにはあたかも平民ですと言わんばかりの者がいた。
私を此処に連れてきた人がこの場から立ち去ると、突然男の人が近づいてきた。私は何かされると思い身体が強張る・・・。
「大きな声を出さないで、もう大丈夫だから、よく頑張ったね」
彼はあろう事か私の知っている言葉で、優しく語り掛けてくれたのだ。それが余りにも嬉しくて遂気づけば私は涙を流していた。
彼女の事の顛末を屋敷に戻ってから聞いた。
屋敷に戻ってからまず、彼女をシャルロットと二人にして、お風呂に入ってもらった。この世界に来てお風呂にも入れず、魔法で綺麗にしたりする事もなかっただろうから。
そして、その間に消化に良い物を準備させる。
お風呂から出て来たかの彼女は、食事の事を伝えると、我武者羅に出された物を食べ始めた。食べるのに夢中で、此方が話しかけても反応がない。
取り敢えず、使用人たいとぉ全員下がらせて、俺とシャルロットとアカネの三人の空間を作った。よほどお腹がすいていたのだろう。出された食事を皆食べ終えてしまうと、少し寂しそうにしていたが、我々が再び話しかけると直ぐに反応してくれた。そこから、先程までの彼女の経緯を聞いたという流れになる。
「此処にいればもう大丈夫だからね」
「ああ、安心してくれて良い」
「あ、ありがとうございます」
やっと人らしい生活が戻って来たと一安心というか、今までがつら過ぎたので、涙が出てしまう。
「ぐすっ。すみません。・・・・ところで、何故お二人は私の言葉が話せるのですか?」
誰一人として理解してもらえなかった日本語。目の前にいる人たちも日本人かと言われれば全員が違うと答えそうな容姿をしている。
「俺たちの前世が日本人だったんだよ。たまたま、前世の記憶が残っていてね。こうして会話が出来ると言うわけさ」
前世の記憶ってことは、日本から来たわけでは・・・と驚いた表情をしていた。日本に戻る事が・・・とか、お父さんとお母さんは心配して・・・とか独り言を呟いていた。
そこで思い出したのか。慌てて俺に尋ねてきた。
「あ、葵と若葉・・・私と同じ顔の人いませんでしたか?」
同じ顔って、と思ったが一卵性の三つ子なら同じ顔と言う表現はあながち間違っていないのだろう。
「いなかったね。もしかしたら、明日以降もあると思うからいるかもしれないけれど、可能性としては低いかな」
一月あれば、隣国へ行く事も可能だ。どれほどの速度で移動していたのか分からないが、恐らく相当な距離を移動していることは間違いない。
「明日は一緒に行って見てみようか。明日は裏のオークションもあったはずだし、各会場もあたってみるかな?」
最悪の場合、闇オークションの方にも顔を出さないといけないかな。その前に彼女を出品していた者に会えるかどうかも確認した方が良いだろう。彼女の発見した場所を聞き出せれば、妹たちの発見も早くなるかもしれない。
その日は、彼女に一室を貸し与えて、仮眠を取らせた。不安の日々を過ごすこれまでの生活とは変わり、穏やかで安心して過ごせる環境は彼女のこれまでの心労を労うかのように深い睡眠へと誘うのであった。
翌朝、俺は日々の日課を行うために外へ出ると、先に外に出ていた者がいた。
「アカネさん。昨日はよく眠れましたか?」
寝床に案内して直ぐに意識を手放してしまった彼女。深い眠りは彼女の心を少し休ませる事が出来たのか、昨日よりもスッキリした表情で空を眺めていた。
「おはようございます。昨日は、本当にありがとうございました」
深々と頭を下げるアカネ。
「構いません。同郷の人が困っていたのだから、助けないわけにはいかないでしょ?」
此方の世界にシャルロットこと窪塚琴莉と来た時は、日本人との接点なんてもうないと思っていた。
だから、彼女を助けるにはそれだけでも十分だと思える。
「レオンハルトさんは、こんな朝早くに何を?」
「毎日の日課と言うものですよ。この世界は弱肉強食なところが色濃く出ていますからね。強くなるためには日頃から鍛錬しておかないと」
そう言って、まずは身体を解す所から始める。寝て直ぐだと身体がどうしても硬くなっているのだ。それに運動をする前に柔軟しておく事は、怪我の防止にもなる。
「あの・・・私も少し身体を動かしたいので、一緒してもいいですか?」
こっちに来てから碌に身体を動かせなかったから、たった一月とは言え体力の低下をしていると感じさせられるぐらいには落ちていた。
「構わないけど、急に動かさない方が良いだろうから、今日はストレッチと軽く走るぐらいにした方が良い」
「わかりました」
それからは黙々と身体の柔軟を行う。そんな時に、彼女が昨日の会話の事を思い出して、ふと疑問に思った事を尋ねてみた。
「あの、レオンハルトさんたちって大人びて見えるんですけど、何歳ぐらいなんですか?」
「この世界だと十四歳になるかな?彼女も同様だよ。ただ、生まれた日付は分からないからもしかしたら、数ヶ月の誤差はあるかもしれないけれど」
孤児院出身というのは昨日の話に上がっていない。だから、彼女はこの世界に誕生日と言う概念はないのかと勘違いをしていた。
「俺もシャルも孤児院出身だからね。院長の推測からその年代だと振り分けられているんだ」
孤児院出身と言う言葉に反応するアカネ。孤児院出身と言う事は平民で且つ親と死別しているか、捨てられたかというあたりになる。アカネはこの世界についてまだほとんど分からないから、死んでしまったか何かだと思っていた。
「ん?ああ、俺とシャルは捨て子だよ。俺の方はもしかしたら両親はもういないかもしれないけれど、シャルの方は魔物に殺されたって聞いているね」
捨て子と言うのも衝撃だったが、死別の理由も彼女にとっては衝撃的だった。確かに日本では、交通事故や病気で死別と言う方が多い気もするが、そもそも平和な場所だったから、殺されるという発想が無かった。
「ご、ごめんなさい」
聞いてはいけない事を聞いてしまったのではと思い謝るアカネ。けれど、そんな事は気にしていないと言わんばかりの返答を彼女に伝えた。
そこでアカネが思った事は、孤児から初めて既に貴族の伯爵と言うのは何がどうあればそう言う状況になるのだろうと不思議がる。
「ええっと?レオンハルトさんって、貴族ですよね?」
「ああ、そうだね。ただ、そのあたりについては話が長くなるからまた今度にしよう。俺は少し走り込んでくるから、アカネさんはもう少ししたら屋敷に戻ると良いよ。皆も起きてくる頃だろうから」
そう言うと、レオンハルトは何時もの様にランニングに出かける。一人取り残されてしまったアカネは、肝心な事を聞いていない事に気づき後悔する。大人びているという質問に同じ年と答えた。つまり、今世では同じであっても前世を含めれば圧倒的に差があると考えている。倍か若しくはそれ以上の差が。
ため息をついて、それから明るくなり始めている空を見上げる。
(葵、若葉。必ず無事でいて)
アカネは何処かにいるあろう姉妹の事を思い祈るのであった。
「さー七百万。七百万より上の方はいませんか?おーっと七百八十万。八百四十万・・・・」
昨日と同じ人が司会進行を務める中、レオンハルトは昨日同様にオークション会場にやって来ていた。隣には、クリーゼル商会のベルネットがいた。彼は今日のオークションから彼が在籍している商会で取り扱っている奴隷が出品される事になっている。
昨日と違うのは、この場に連れてきた者は昨日購入したアカネと言う名前の日本人奴隷。それと、同じ奴隷仲間のローレとソフィアに同行してもらっている。
昨日もメインの会場以外に複数のサブ会場があった。そのうちの二つにシャルロットたちとヨハンたちのグループが参加していた。今日はシャルロットとアニータ、リーゼロッテとエルフィー、ティアナとリリー、ヨハンとユリアーヌとクルト、ダーヴィトとエッダに分かれてそれぞれの会場入りをしてもらっている。
今日の朝市に運営側に昨日の出品リストを見せてもらえないか尋ねるが、生憎と教えられないと一点張り。ただ、彼女の様な聞いた事のない言葉を話す者はいなかったと教えてもらえた。
今日と明日についても守秘義務の関係で教えてもらえなかった。だから、全員を各会場に配置して確認させる。日本語の分かる俺やシャルロット、アカネは問題ないが、それ以外は分からないので、聞いた事のない言語しか話せない人物がいた場合は至急連絡をするように伝える。
あまり人目につかせたくないが、遠距離連絡用魔道具をステージ側に向けてもらい。それを受けたレオンハルトが聞き取って判断する。
日本語の分かるレオンハルトとアカネを別々にした方が良いのではと思うだろうが、逆に彼女はレオンハルトかシャルロットとしか会話が出来ないので、必然的にどちらかにつくしかない。
それに、物珍しさであればメインのオークション会場に持ってくる可能性が高いと踏んで、彼女を同行させた。
彼女と意思疎通が出来る事をベルネットには、特殊な魔法を使って覚えたと説明しておいた。あと、彼女の黒髪に黒い瞳は目立ちすぎるので、髪の色を変える髪飾りと瞳の色を変える指輪を付けてもらっている。
今のアカネの髪と瞳の色は、朱色だ。
朱音の朱をとって朱色にした。
「今日は昨日よりも盛り上がっておりますね。アヴァロン伯爵様は、目ぼしい物はありましたかな?」
「今のところはないですね。それにしても昨日と同じ物を出品しましたが、昨日より五割増しで売れましたね」
昨日と同じ物で今日出品したのは魔法の袋である。それ以外で今日出品されるのは、魔法の袋と同じ能力の魔法の鞄数点と硝子のコップ等だ。ハンナの服はメイン会場ではなくサブ会場で取り扱われる事になっている。
「おっと、あれはうちの出品した奴隷ですな。アヴァロン伯爵様、宜しければ是非ご覧ください」
そう言われ、ステージに視線を向ける。確かに格式高いと言うべきか、誰かの招待状が無いと入れない様な奴隷商会が、大々的に出品するだけのことはある美しい者や逞しい者たちばかりであった。人族を始め、獣人族、亜人族、色々な種族の者が出品されていた。
「今、出品されている奴隷は、獣人族でも珍しい種族でして、鰐人族と言う種族でして」
ベルネットの言葉に続く様に司会者も同じことを口にした。人族より鰐の方に近い身なりで、男性?雄?性別を何と呼べばよいのか分からないが、性別が判断しにくい種族。似た様な種族だと蜥蜴人族と言うのもある。
人よりか獣よりかで言えば、今回出品されているのは獣・・・鰐に似ている。鰐が二足歩行している様な感じ。
「あの者は、戦闘しかできないので冒険者の同行や商人だと護衛に向きますね。貴族の場合はわりと警備に仕えそうですが・・・」
んーなんか期待されるような目で見られているが、買う気はない。出来ればもう少し人族に近い方が良いだろう。あっ、でも屋敷の警備であれば確かにインパクトはあるだろう。
けれど、買う気が無いので笑って誤魔化す。
六人ぐらいの奴隷の紹介が終わると、「あと二人ですね。今のところ予想通りですので、一安心です」とベルネットが胸をなでおろす。
オークションなので、希望金額に満たないなんてこともある。始めから希望金額を提示する者もいない。希望金額よりも下の価格帯でスタートする。だが、ベルネットが今回出品した奴隷は如何やら希望価格を順調に超えているようだった。
「アヴァロン伯爵様、この後に出てくる奴隷は、非常に人気の高い種族の奴隷になりますよ?」
似たような事を先程から口にしていたと思うが、残り二人の奴隷の内一人目が出てくると会場内が大きく騒いだ。
「続きまして、兎人族の女性です。非常に容姿に優れた者が多いと言われる兎人族。中でも彼女は頭一つ抜き出る程の美人です。スタート価格は五百五十万からです」
五百五十万ッ!?―――高っ!!
気が付けば九百万近くまで吊り上がる。
「兎人族は、周囲の察知能力が高いのですが、彼女はちょっと特殊な能力を持って居ましてね。人の魔力と言いますか、人それぞれが持っていると言われているエネルギーを見る事が出来るそうです」
波動眼と言う魔眼の一種との事。獣人族は本来魔力を持たない種族。一部例外の種族もいるが、兎人族は持つことがない種族だ。魔眼は魔法の一つの様なものなので、獣人に発言する事は本来起こるはずがない。けれど彼女の瞳には魔眼を宿してしまっている。故に同じ種族から忌み嫌われて、奴隷になってしまった。
「なるほど。それは確かに稀有な存在ですね」
待てよ?エネルギーを見る事のできる魔眼と言う事は、アカネの姉妹を探すのに非常に有効なのでは?と頭の中で色々考える。
「一千二百万。一千二百万より上の方は・・」
「一千五百万ッ!!」
昨日同様、代理人に指示を出して金額を伝えてもらう。金額もアカネの時と同じ金額だ。これよりも高くなるのだろうかと考えていると。
「一千六百万ッ!!」
俺の金額に上乗せをしてきた。間髪入れずの反応に、本気でやり合うのだと理解する。だが、そんな状況を更に別の人物が打ち砕いた。
「一千八百万ッ!!」
三つ巴の戦いになるようだ。それから三者の熱い戦いが繰り広げられる。最初に断念したのは、二千五百万の時に最初に張り合っていた人物が断念する。
「二千九百万・・・三千万・・・・・・三千百万・・・」
二人の白熱する戦いに、隣で座っているベルネットも少し、焦った表情をしていた。彼の予想では高く見積もっても二千万ぐらいだと読んでいた。けれど、その読みも既に五割増しの状態になり、競っているのが片方は分からないが、もう片方はいつも御利用してくれている人物。
「なかなか、相手が折れてくれませんね?此処は一気に片を付けます」
レオンハルトは、代理人に指示して金額を更に吊り上げる。
「三千八百万ッ!!」
ついに四千万近い金額に跳ね上がる。
「おーっと此処で、百四十五番一気に攻め込んだーーーもう一方はどうする?このまま追随するのかー?」
司会者が相手を煽る様な言い方をするが、相手がそれに乗れば、まだまだ吊り上がる可能性が高い・・・のだが、相手は考え込んでいるのだろうか?一行に動く気配がない。
「三千八百万ユルド。三千八百万ユルドです・・・では、百四十五番落札。中々の接戦でしたね」
意気揚々と語る司会者に、俺も漸く安堵をつく事が出来る。此処まで張り合うつもりはなかったのだが、アカネの姉妹を探すのにこの兎人族の力を使えば、更に確率が上がると判断したため。
状況が分からないアカネに簡単に説明する。あの兎人族に約四億円もかかったと説明すると目が点になっていた。
逆にベルネットは非常に申し訳なさそうにしている。今日の売り上げだけでもまだまだお釣りが返ってくる程、儲ける事が出来ているので、問題なかった。
すると、ベルネットの所にいる本日最後の奴隷が紹介される。
「続きまして、先ほど同様に今回の奴隷も非常に美人です。鹿人族の女性。先ほどの兎人族は獣人族として人気が非常に高いですが、此方の鹿人族も人気が高い分類になります。そしてその色が非常に珍しい真っ白な肌」
出てきた女性は二十代前半の見た目で、綺麗な感じの女性。最も目を引くのは彼女の髪から角、肌の色までほぼ真っ白と言う存在。
アルビノ種。色素欠乏症と呼ばれる一種の遺伝子疾患。遺伝子情報の欠損が生じて怒るとされている。特に他の人と変わりない生活を送る事が出来る。珍しさゆえに襲撃に会いやすい体質とも言われている。
「彼女は特殊能力こそ持ち合わせていませんが、あの白い肌が非常に物珍しさを物語っています」
まあ、アルビノ種は確かに珍しいけれど。彼女を選ぶくらいだったら、少し前に出品された鰐人族の彼を選ぶ。戦闘が出来て、いるだけで威圧してくれるのだから。
結局、彼女の落札勝負には参加せず、彼女もまた三千万越えの大金星を飾るのであった。それから出品は続き俺の出品した他の物も予想を超える価格で落札され、兎人族の購入価格をすぐに取り返した。
そんな終盤に差し掛かった頃、レオンハルトはベルネットにとある質問をする。
「その奴隷の扱っていた商人と会いたいですか・・・・一体何故かお聞きしても?」
先程まで穏やかだったベルネットがやや険しい表情で答える。
「この子を何処で見つけたのかって事ですね」
「そうですか。仮にも私も奴隷商人の一人、非合法な手で彼女を入手していたとしても、彼を売るような真似はできませぬ」
申し訳なさそうに話す姿を見て、勘違いをしていると分かり、事情を説明する事にした。
「すみません。言葉足らずでした。どうやら彼女には姉妹がいるそうです。彼女から妹たちの捜索を懇願されたので、少し調べてみようかと」
「そ、それはとんだ早とちりを・・・此方こそ申し訳ありません。奴隷商人は少なからず敵を作りやすい商人でして、非合法の手続きをする者は我々も許せませんが、それでも仲間みたいなものですからね。わかりました、私が会えるよう取り計らってみましょう」
ベルネットの誤解も解けたので、宜しく伝えておいた。
まあ、案の定というべきであろうが、その日メイン会場だけでなくサブ会場でも彼女に似た人物の発見はなかったのだった。
いつも読んで頂きありがとうございます。
また、誤字脱字のご連絡も助かっております。
この秋か冬に新しい作品が投稿できればと考えております。
同世界観になりますが、是非楽しんでもらえればと思います。
因みに伏線は095話の中にある人物像を使います。
(個人的にはマーベルの様な同じ世界観で色々な作品が混ざり離れたり、軌跡シリーズみたいない色々なサイドから作品が出来たら良いなと思っています)
応援して頂けると嬉しいです。




