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135 初のオークションへ行ってみよう

あはよう。こんにちは。こんばんは。

予約がうまく出来ていませんでした。すみません。

「フォレストボアは、ハーブの風味が染み込んでいるのか・・・これは美味いな」


 俺たちは現在、アバルトリア帝国とイースラ小国の間にある国境、そのイースラ小国側にある宿場町に来ていた。ひょんな事から宿屋の娘たちと接点を持ってしまい、その関係で宿泊場所を紹介してもらう事にした。


 前世でシャルロットこと窪塚と同じ部署で働いていた同僚、天音(あまね)花梨(かりん)に瓜二つの人物と遭遇。この宿屋の女将をしていて、名前をアンランと言うらしい。そのアンランと主人のレナンド、娘のエミルナとマホナの四人で切り盛りをしている。


 俺たちが食べているフォレストボアのステーキは、この宿屋の夕食として出してくれているが、元々のメニューではなく俺たちが持ち込んだ食材を調理して提供してくれているのだ。


 他に宿泊している人にも提供してくれていたので、食事を済ませた者や一休みしている者からお礼の言葉を言いに来ていた。


「ボアが魔物化した場合の進化先に居るのかもしれませんね?」


 ボアは魔物ではなく獣の分類になるが、魔素を浴び続けたりすると起こる変化。進化とも呼ばれる現象で、獣であるボアが魔物に進化した場合、大方はライズボアになるが、条件が異なるとワイルドボアは、ファイヤーボア、フォレストボアに進化するそうだ。


 条件に付いてはまだ研究が思うように進んでいないが、幾つかの条件の中に生活圏や周囲の状況と言うのもあると言うのが最近の研究データで分かって来ているらしい。


 これは、アルデレール王国の王立学園で講師が熱弁していたのを今でも覚えている。


「ギガントボアよりは圧倒的に弱いだろ?ライズボアの進化系って事はなさそうだったな」


 ギガントボアは俺がこの世界に転生し、意識が覚醒した頃に出会った魔物で、並みの冒険者でも太刀打ちできない様な高ランクの魔物だ。


「ギカントボアと同格でしたら、この町もただじゃすまないでしょうね」


 俺たちの会話に参加してきたのは、此処の料理人であり主人のレナンドだった。


 食事に来た時に彼と挨拶をして、フォレストボアのお礼を口にしていた。それと食べ方についても教えてくれた。今回は時間もなかったので、ステーキになったが、他にも幾つか美味しい食べ方があるそうだ。


 ステーキも十分美味しいのだが、燻製で食べるともっと美味しいらしい。まだ手元にたくさん残っているので、今度作って診よう。燻製の方法とは盲点だったが、イースラ小国は芋が一般的には有名らしいが、最近は燻製も有名になりつつあるそうだ。


 燻製にする為のスモークチップを何処かで入手したいな。


 主人曰く、この宿場町よりも王都の近くにある街の方が良質なスモークチップが手に入るらしい。


 食事を終えてから、一旦部屋に戻り何回かに分けて転移の魔法で屋敷に戻る。戻る理由はお風呂に入るためだ。実は、ほぼ毎晩と言って良い位の頻度で屋敷に戻っている。


 時々、見知らぬ人と共に野営と言う事もあったので、何回かは魔法で綺麗にしたが・・・。やはり出来る事ならば、入浴して汗を流したい。


「ご主人様お戻りになられたのですね」


「ああ、フリードリヒ戻ったよ。何か報告事項はあるかい?」


 戻って来る事が分かっていたかのように待機していたフリードリヒ。まあ、戻る事を事前に伝えていたのであたりまえだけど。何せお風呂の準備に多少なりと時間がかかる。なので、事前に何時頃に戻ると伝えて、戻り次第入浴を堪能できるようにしておいたのだ。


「ベルネット殿より明日、昼前頃にお伺いするとの事です。初日の開催は昼からとの事ですので、お時間的に宜しかったでしょうか?」


「ああ、構わない。此処には明朝戻って来るようにしているから、それとオークション開催中は向こうには戻らず、此方に居る予定だから食事などの手配も頼むよ」


 フリードリヒは頷きながら返事をする。それと、フォレストボアの肉を思い出して彼に渡しておいた。燻製が美味しいと聞いた事も話しておいた。スモークチップはこれから手配するから、取り敢えず低温加熱や熟成肉を試してみる様に指示する。


 全員の入浴が済むと再び宿場町の宿屋に転移して、各々の部屋に戻った。


 翌朝、やや曇り空が広がる中、レオンハルトはチャックアウトの手続きを済ませる。


「またお越しくださいレオンハルト様。何時でもこの月下の宿をご利用ください」


 チェックアウト後に分かったが、この宿の名前は月下の宿と言うのかと少し申し訳ない顔をしていると、宿の主人であるレナンドが朝食にと軽い軽食を用意してくれて、渡してきた。料金をと思い準備をすると、「お世話になったお礼です。どうかそのままお受け取り下さい」と言う事で、ありがたく受け取る事にした。


 宿場町をそのまま出ると、そのまま街道を突き進み人の気配が無くなった所で、転移で王都アルデレートに移動した。


 ランたちは普段の業務に戻ってもらい、俺たちは一度着替えを行ってから朝食を食べる。勿論、レナンドが用意してくれた軽食を皆でいただく事にした。


 小麦粉の様な粉物を水で溶いて、クレープの様に焼いた物を昨日のフォレストボアの肉を薄切りにした物と野菜を一緒に巻いた総菜クレープの様な食べ物だった。


 昨日のステーキも美味しかったが、こう言う野菜などと一緒に食べるとまた別の旨さを感じさせられる。


「レオンハルト様、本日彼女たちもご同行させてくださいませ」


 フリードリヒが連れてきたのは、ローレとミア、イザベラの三人だ。ローレとミアは荷物運びとしてイザベラは二人の護衛と言う意味らしい。


 貴族がオークションに赴く時は使用人を同行させる事が基本で、フリードリヒもそれを知っていたからこそ三人に準備をさせていた。


「ローレは兎も角、ミア、ミリアムは良いの?」


「ご主人様、娘はトアさんが見てくださいますので、ご安心くださいませ」


 結晶硬化症と言う難病患っていたが、レオンハルトたちに救われて以降、献身的に尽くしてくれている一人である。


「わかった。それとフリードリヒ、エリーゼとラウラを今日一日休ませたいから、別の者を御者に用意しておいて」


「承知しました。マルガとアルヌルフの二人を手配しておきます」


 狸人族のマルガは使用人の給仕係(メイド)に、犬人族のアルヌルフは警備隊に配属していたっけ?


 そうこうしていると、お待ちかねのお客がやって来た。


「ご無沙汰しております。アヴァロン伯爵」


「ベルネット殿もお久しぶりです。本日はよろしくお願いします。ちょっと人数が多くなってしまいましたが、大丈夫でしょうか?」


「ええ、構いませんよ。人数の制限と言ったものはありませんから」


 優しい笑みを浮かべるベルネット。結局のところ俺はこのオークションの仕組みも大まかな事しか分からないから、彼がいてくれて非常に助かっている。


 本当ならば彼も出品の準備などで大忙しの身分のはずなのに。


 この日、王都は普段以上に人で溢れかえっていた。年に一回か二回程度開催される大規模オークション。多くの商人や冒険者が、各々が持つ貴重な品や珍しい者、遺跡などで発見された出土品を出し、それを多くの人が買い求めにやって来る。


 かなりのお金が動く一大イベントでもあり、連日連夜メイン通りは色々な出店が立ち並び活気に満ち溢れていた。


 アルデレール王国の四大イベントの一つとも言われており、このイベントに武術大会も挙げられている。生誕祭や新年祭は、王国と言うより他国も同様なので四大イベントには含まれていなかったりする。


 武術大会と違って、地方や他国の商人や商会、冒険者たちもこぞって参加するため、規模で言えば武術大会よりも広範囲でのイベントとなる。そのため、人の多さに圧巻するレオンハルトたち一行。


「人だかりがすごいですね」


「毎年、多くの人が訪れますからね。アヴァロン伯爵は今回初めての参加ですから余計にそう感じるのかもしれません」


「このまま進んでも大丈夫なんですか?」


 人通りの激しい通りではなく、別の通りを進んでいる。どうやら、徒歩で行くものと馬車を使う者、オークションに出品する者で進む所が違うらしい。俺たちが並んでいるのは、出品する列で、長蛇の列が出来ていた。


 けれど、此方の方が進む速度が圧倒的に異なる。何せ、オークションに出品する物が届かないとオークション事態盛り上がらない。大きい物や数がたくさんある物は事前にオークション会場近くに専用の保管場所がありそこに置いている者も多い。これを利用するのは商人や商会ぐらいで、冒険者はその日に持ち込むことが多い。あとは奴隷の出品も当日連れて行く事になっている。


「次の方・・・・、次の方・・・・・、次の方」


「クリーゼル商会、支配人のベルネットです。同行者は」


「クイナ商会の会頭、レオンハルト・ユウ・フォン・アヴァロンです。後者の二台は私の従者や使用人たちになります」


 危険人物がいないかの確認と事前にオークション出品手続きを終えている人物かの確認を行う兵士。事前申込が済んでいない場合は、別テントが用意されているところで申込の手続きを行う必要があるのだ。まあ、主に飛び込み参加者用らしい。


 俺は事前にフリードリヒに頼んで手続きをしてもらっていた。俺たちの確認が取れたので、そのまま案内され、馬車を停める。


「此方になります。皆様方はどうされるのですか?」


 ベルネットの問いかけは、シャルロットやヨハンたちに対してのもの。同行しても構ないらしいが、この人数が入るとなると大部屋を依頼しないといけないらしい。


「俺は、適当な所で見て回ろうと思う」


 ユリアーヌの返答にヨハンとクルト、ダーヴィトがそれに賛同する。エッダとアニータも男性陣とは別口で歩くそうだ。二人だけだと何かあっては困ると思い、シャルロットとリーゼロッテが二人についてくれることになった。


「では、アヴァロン伯爵に同行するのはお付きの方々とティリア様、リリー様、エルフィー様の三人ですね」


 この人数ならば二階席の一角を貸し切りする事で大丈夫だろうと話していた。そのまま、一度出品を行う受付に移動し、売る物と最低価格の提示を行った。売買完了後の手続き費用が発生する事や売れ残った場合の受け渡し等の注意点を聞く。売れても売れなくても手数料がかかるとの事。ただし、売れた場合は売れた額の一割を、売れなかった場合は最低価格の半分を支払う事になるらしい。


 単純に考えて、売れ残った場合リスクが高い気もするが、逆に最低価格で売れてしまった場合でも損をする可能性があるのだ。値段決めが一番難しいと改めて思い知る。


 何せ、クイナ商会の商品の値段ですら、適正価格が不明な物が多い。手探りで適正価格を見極めているが、物によっては大きく変動したこともあったぐらいだ。


 用意していた品の値段などを決め終えると、ベルネットが近づいてきた。


「時間がかかってしまい申し訳ありません」


「いえいえ、値決めはとても重要な事ですので、気にしておりませんよ。では、会場内に入りましょうか」


 彼に促されるまま来場する。既に何百人と言う人が会場内に入っていた。一階はほぼ個人やちょっとした面々の平民たちが陣取る。二階席から上が貴族や大きな商会が立ち入る場所との事。


「ようこそ、お越しくださいました。此方の席へおかけください。それと此方をどうぞ」


 綺麗な女性に案内されるまま席につくと、番号のついたプラカードの様なものを渡される。これを使ってほしい品があれば司会者に見えるように突き出せばいいと言う事なのだろう。


 俺たちは三階席のバルコニー席と呼ばれる場所。文字通りバルコニーの様に突き出た場所で観戦するため、他の利用客と接点を持ちづらい事がメリットになる。


 要するにグループでの参加を目的とした場所になる。他にもボックス席やウィング席と言う場所もあるそうだ。ボックス席は文字通り箱に覆われた様な形状で硝子の様な透明の板が張られた所、王侯貴族が利用する様な場所らしく、内からは外が良く見えるが、外からはスモーク硝子の様に見えにくい細工まである。これは、現代技術では作れないようで、遺跡で発掘されたものを使っている。ウィング席は、一階席の二階版みたいな感じで、利用するのはそこそこの商人や下級貴族たちだ。


 受け取った番号札を見ると八十六番と書かれていた。ティアナやリリー、エルフィーも受け取っており、八十七番から八十九番となっている。ローレやミア、イザベラは配られていない。


 因みにマルガとアルヌルフはシャルロットたちに同行している。


 アルヌルフだけ男性になってしまい、彼自身かなり居心地が悪そうにしていたが、女性ばかりと言うのもあれなので、彼には申し訳ないがそのまま同行してもらった。


それから半刻程経過する。時間にしてみれば丁度十三時頃だろう。昼食は、係の者を呼んで食べ物を持ってこさせた。有料にはなるが、こう言うサービスも実に細かくしてくれる。


「さーて。皆様お待ちかねのオークションを開催したいと思います。今日より三日間皆様ごゆるりとお楽しみくださいませ」


 光の魔法が封じ込められている魔道具が一斉に消える。薄暗くなる中で、先程の魔道具の光が集中的に司会進行役の者に浴びせられる。そして、司会者の合図と共にステージ上の光が転倒した。


 なんだか、こう言うのを見るとマジックショーを見ている気がするな。


 ふと思ってしまった事に苦笑し、出品されるものを見る事にした。


 開始から早一刻が経過する。これまで出てきた品は武器や魔道具などが支流だったが、此処からは地方の物珍しい物が出品される。


「続きまして、百二十九品目。ローア大陸北陸部に生息するクリスタルディアの水晶角です。このサイズは滅多にお目に掛かれない上に、傷もない一点物。スタート価格は百万ユルドから開始します」


 開始と同時に百万、百五十万、二百万、二百八十万・・・・・最終的に八百六十万ユルドで落札された。円相場で八千六百万円相当。たかが水晶で出来た鹿の角に一億円弱の値段が付いた事に驚きを隠せない。


 因みに掛け金の上がり方は、初回で番号のある番号の付いたカードを上げると、スタート価格の販売。そこからスタート価格の半分の値段毎に番号の付いたカードを上げると吊り上がって行く。まあ今回で言えば、百万ユルド代スタートの上がり幅は最低五十万と言う事になる。ただ、二百万から二百八十万と八十万も上がったのは、番号の付いたカードと一緒に反対の手で指を三本立てたからだ。そうする事で、三十万上乗せを相手に知らせる。指での合図であれば最大で最低吊り上げの倍まで示すことが可能。


 それよりも吊り上げる場合は、番号の付いたカードを挙げた後、金額を口頭で伝えると言う手段がある。会場が賑わっているため口頭で伝える場合は、かなりの声を出さないといけない。なので、貴族はこういう場合、口頭で伝える部分を代理人にさせるのが支流。代理人は自分の使用人等にさせても良いし、オークションの運営側が用意した人物を使っても良い。この場合は時給を支払う必要があるが、慣れている分よく声が通るものが多いそうだ。


 俺たちは、初めてと言う事もあり代理人を付けてもらっている。これまで落札したいと言う物がなかったので、活躍の場がないが・・・。


 あと、裏オークションは、ほぼ口頭での吊り上げが支流で、闇オークションに至っては、代理人が主軸で執り行われる。代理人の後ろで他からは見えない様な工夫がされているとかいないとか・・・。


「クリスタルディアの水晶角って何に使うんですか?」


 俺はいまいち落札された角の使い道が分からずに同席してくれているベルネットに聞いてみた。彼も商人だが、扱う物が奴隷なので分からない可能性の方が強かったが・・・。


「あれは、特に使い道はないですね。大貴族の方々は物珍しさから屋敷の観賞用に飾っているぐらいでしょうね。まあクリスタルディアもかなり手ごわい魔物なので、綺麗な状態の角はそれだけで珍しいですからね」


 特に気にした様子もなく教えてくれるベルネット。


 その後、物珍しい物が出展されていく中で、ついに・・・。


「続きまして、剣の亜種と呼ぶべきでしょうか。近年新しい技法によって生み出された武器、その名も刀。武器でありながら美しい刀身はまるで芸術そのものを見ているかのような完成度。今回はオークションの為にと大小セットを三セット用意してくれています。では、まず一つ目から参りましょう。スタート価格は五十万ユルドから開始します」


 開始早々、瞬く間に金額が跳ねあがる。刀を販売しているのがクイナ商会だと冒険者や貴族は理解しているし、クイナ商会の会頭で、超一流の冒険者としても名高い人物が、刀を巧みに扱う姿を見て、近年では人気が高い武器の一つになっている。


 人によっては扱えないが持っているだけでステータスになると言う猛者もいる。


 一つ目は五百二十万ユルドで落札。二つ目も五百七十万ユルドで落札された。三つ目は、更に値が張り六百五十万ユルドで落札されたのだ。


 これにはベルネットも驚いていた。普通は最初が高くて徐々に値が落ちるものだが、今回はアヴァロン伯爵の名前が評価の加点になったと話をする。


 それからしばらくは、色々な品が出るがどれも欲しいと言う物がなかった。


「続きまして、魔法の袋―――おお、これはすごい。自分が欲しいぐらいですよ。汎用型で容量が馬車五台分以上。商人や冒険者の方なら誰もが欲する品です。汎用型が四つ。固有型は七つ。出土品ではなく制作品のようですね。作成者を明かす事はできませんが、全部同じ人が制作したようです」


 あ、これも自分の事だとすぐに理解してしまう。


「おお、これは今日一番の品でしょうな。固有型はともかく、汎用型でそれだけの容量となると中々手に入る事はありませんからな」


 ベルネットも落札するために準備を始める。


 隣に座る者が制作者とは夢にも思わないだろう。これまで良くしてくれているので融通しても良いが、もし落札できなかった時は、後で皆と相談してから決めるか。


 固有型から始まるが、気が付けば・・・。


「二百八十万、三百八十万、四百二十万・・・他に」


「六百万ッ!!」


 此処とは違うバルコニー席から声がかかる。後ろの人物が指示している様に見えるから代理人なのだろう。


「六百万。六百万。他にいませんか。百八十二番様落札。続いて二つ目・・・」


 二つ目以降は四百万前後ですべて落札された。汎用型は激戦を繰り広げる。


「五百九十万、六百七十万、七百七十万、八百五十万・・・九百十万。九百十万。他にいませんか。十五番様落札。続いて二つ目・・・」


 破格の値段が付く。四つあった汎用型は九百万から一千万ユルドで落札される。俺からしたら十分程度で作れるような代物。それなのにあり得ない金額に驚いていると。


「一つは手に入れる事が出来ました。アヴァロン卿は参戦しなかったのですね?」


 隣に座るベルネットはちゃっかり最後の一つを落札させたのだ。落札価格は驚きの九百八十万ユルドッ!!よく手を挙げたなと感心してしまう。ただ、ベルネット曰く、これが明日の出店だった場合、一千万から一千五百万で落札していただろうと口にしていた。


 兎に角、汎用型でこの容量は恐ろしく性能が良いとの事。


「それにしても百八十二番の方、固有型二つに、汎用型二つも手に入れて、三つめも狙ってくるとは恐れ入りました」


 ベルネットの言う通り、一つ目の固有型を六百万で落札させた人物は、その後の魔法の袋に積極的に狙いに行き、四つの魔法の袋を手にしていたのだ。


 それよりも恐ろしいのは、トルベンの刀と魔法の袋だけで既に九千万ユルド近い金額で売れた事。一割を支払うので八千万ぐらいが手元に来るだろうが、しれでも驚異の金額だろう。


 まあ、あと高そうなものと言えばクリスタルガラス製やバカラ製、ベネチアガラス製等の食器類だろう。食器と言ってもコップやワイングラス等で、お皿などは作っていない。


 他だとハンナの作った反物や衣類、ローレたちの作った水薬(ポーション)各種出品する事になっている。水薬(ポーション)はお店でまだ扱っていない物やレオンハルトが作成した中級水薬(ハイポーション)上級水薬(メガポーション)も数点出すようにしていた。流石に最上級水薬(エクストラポーション)は素材の関係で作れない。


 かなり儲ける事が出来、明日も数点魔法の袋を出してみようかと考える。それに魔法の袋だけでなく魔法の鞄も用意してみようか、魔法の袋も魔法の鞄もまだ未使用の予備が数店あるし・・・。


 レカンテートの開拓には王国側も援助してくれるが、莫大な費用が掛かるので、これだけ儲ける事が出来るのであれば、儲けておいても損はないはずだ。


「さて、次は・・・おおっと、本日初めての奴隷ですね。まずは人族の成人男性。借金による奴隷で犯罪歴はなし、戦闘が得意の様で冒険者ランクで示すならE(イー)ランク相当との事です。では、スタート価格は十万ユルドから開始します」


 十万、十五万、二十二万・・・と吊り上がり、最終的に二十八万ユルドで落札された。その後、人族の女性、犬人族の男性、同じく犬人族の少女、ドワーフの男性と奴隷が次々に落札される。


 売れ残る事も考えていたが、今のところすべて落札されている状況に落札されないことはないのかと思ったが、ここに来て初めて落札されない案件が出てきた。


「スタート価格三十万ユルドです。三十万ユルド。居ませんかね?落札者なしと言う事で、次に行きましょう」


 まあ、あの態度では難しいだろうと言わざるを得なかった。


「稀にあの様な感じで売れ残る子はいますね。教育不足が良くわかる良い例ですよ。また明日も参戦してくると思いますよ」


 ベルネットが売れなかった理由やその後どうなるのかを教えてくれた。


 売れなかったら半分と言うのは開催期間中何度かチャレンジが出来ると言う意味らしい。それだったら初日の方がと思うかもしれないが、二日目、三日目の方が良いものが出るし、客層もより集まるのだとか。


 魔法の袋も今日の価格は九百万ユルドだったが、明日ならば一千万から一千五百万となるなら、よりもらえる方を狙う人が多い。だから、出品数も明日の方が圧倒的に多くなる。


 その後も色々な物が出品されていた。魔法書と言う魔法について書かれた書物や古代文字が書かれた文献の束、食材や調味料もあったが、お米に関連する物はなかった。


「これで本日最後の出品となります。人族の奴隷になりますが出身国は愚か言語ですら此方と意思疎通が出来ない人物です。ただし、黒髪に黒い瞳と珍しい色をしております。スタート価格は三百万からです」


 百万ユルド代スタートなので上がり幅は最低五十万ユルドからになるが、三百万、四百万、五百万・・・と百万ずつ上がる。


(あれって、日本人?)


 見た目が日本人そっくりだった。日本人に見えるだけの人物の可能性も考えられる。実際、勇者コウジ・シノモリは、レオンハルトたちの前世の日本と類似する世界からきている。それに、ローア大陸でも辺境の地には彼女の様な見た目の人種が居ても可笑しくはないし、大陸違いであれば、その可能性が高まる。


 けれど、何か気になる。


 喉の奥に引っかかる様な何かが・・・。


「司会者に質問とかって可能なんですか?」


「可能ですが、質問の内容によっては答えられない事も多々ありますよ?質問する場合は、係の者に言えばよいです」


 ベランダ席を出たところにいる運営側の職員が立っているので、イザベラに声を掛けてベランダ席に来てもらう。


「―――――と言う事を聞きたいのですが、可能ですか?」


「承知いたしました」


 職員は、何かの魔道具を使って、司会者と連絡を取る。感じ的にインカムの様な魔道具。あまり考えたことがなかったが、ああいう魔道具があると戦闘での連携がより取りやすくなるのではなかろうか。


「五百万。五百万より上の方は、ちょっとお待ちください。お客様からのご質問がありました。彼女の話す言語が知りたいとの事。ただ、我々では何語を話しているのか分からないので、実際に彼女に話をしてもらいましょう」


 司会者はマイクの様な声を拡張させる魔道具を彼女の口元に持って行く。話すように言うが、此方が彼女の言葉を分からないように、彼女も此方の言葉がわからないのだろう。怯えた表情をしていた。


 司会者も困り果てた挙句、ジェスチャーで言葉を話すように伝えると・・・。


「“助けてください”」


 ッ!?


 彼女が如何にか口にできた言葉は非常に弱々しく、今にも消えそうな言葉だったが、そんな声でもマイクの様な魔道具はきちんと拾った。


 会場内は誰も分からなかったのだろう。ざわめき声が聞こえる中、俺は彼女の言った言葉の意味を理解した。


 彼女が発した言葉は、俺とシャルロットが前世の時に使っていた日本語だったのだ。たまたま別の日本の同じ言語だったと言う可能性も残っているし、知らない場所で使われている言語が日本語と同じだった可能性もまだ残っているけれど、それでもレオンハルトは彼女の言葉を聞き取れて、彼女の置かれている状況を知ってしまった。


「聞いたことのない言葉でしたが、分かる方はおられるのでしょうか?・・・会場内の方々も分からないようですね。では、改めまして、五百万からになりますが、いなければ」


「一千五百万」


 俺は代理人に金額を伝え、代理人が驚きながらも言われた金額を伝える。まさかの一気に三倍まで膨れ上がった金額に会場内はどよめきが生まれる。


「い、一千五百万、一千五百万です。他に居ませんか?・・・・他に居ないようですので八十六番様落札です。以上を持ちまして本日のオークションを終了します」


 司会者が、終わりの挨拶をしている時にベルネットが質問してくる。


「本当に一千五百万ユルドで購入されて良かったのですか?どこの言葉かも分からない者を」


「ええ、彼女の見た目と声がとても気に入りました。言葉は追々と教えていきますよ」


「そうですか。まあ、勇者様に似た髪の色と瞳の色でしたからね。きっとご利益があるのかもしれません」


「だといいですけどね。ベルネット殿本日はありがとうございました」


 今日一日付き添ってくれたことのお礼を口にすると、向こうも同じように挨拶をしてきた。このままこの場で解散すると言うのは、ここに来た時に聞いていたのだが、俺は彼女の引き取りと支払いに、ベルネットも俺の出品した魔法の袋を購入したので、支払いと受け取りを行うため、あの場での解散はせず、支払い場所と受け渡し場所に移動した。


 運営側が購入者たちを引き連れて移動する。


 途中でベルネットと別れ、俺たちは職員に案内されるまま別室に移動した。


「本日はご利用ありがとうございます。アヴァロン伯爵様が落札されたものをと出品された品の金額をご用意いたします。落札されたものの支払いはどうされますか?」


 選択肢としては、今回三つあるとの事で、一つ目は、この場で彼女の落札価格を支払い、俺たちの出品した金額を受け取るか。二つ目は、彼女の金額を相殺した額を受け取るか。三つめは、出品した金額を受け取り、彼女の支払いを分割にして支払う方法。


 三つ目は、利子が発生するので、可能であれば二つ目が楽だろう。


「承知しました。すぐにご用意をいたしますが、何分額が大きいので、今しばらくお待ちください」


 と言う事で、その部屋で暫く待つと先に俺が落札した少女が多少身なりを整えた状態で連れてこられた。どこに連れて行かれるのか分からず、ビクビクしていた。


「大丈夫ですか?」


 エルフィーが彼女にやさしく声を掛けるも、やはり言葉が分からず困惑した様子が見てとれた。


 勢いで動いてしまったけど、どうするかだよな。取り敢えず前世の記憶について、屋敷内でも知っている者は限られている。と言うより使用人たちは誰一人として知らないはずだ。兎に角屋敷に戻ってから彼女の対応を話し合う必要があるだろう。


 彼女を連れてきた職員は、彼女をこの部屋に置いて別の所に行ってしまう。そのタイミングを見計らい俺は彼女の下に行く。身体をビクッとさせて怖がっていたが、彼女の耳元まで顔を近づけると。


「“大きな声を出さないで、もう大丈夫だから、よく頑張ったね”」


 俺が日本語で彼女に語り掛けると、内容よりも日本語が分かる人に出会えた驚きで、目を見開いた。他の者にも聞こえない大きさで話したため、突然彼女が驚いた事に皆も驚く。


 怯えるしかしない彼女が、驚いたと同時に目から涙を流し始めたのだ。


「レオン様、彼女に何をされたのですか?」


 何もしていないことを説明するが、皆から怪しいと言われる中、彼女のつらい気持ちが一気に膨れ上がり、レオンハルトに抱き着いて大泣きをする。緊張の糸が切れたかのように。


 流石にタイミングがまずかったかなとは思ったが、早めに安心してもらう必要もあったから仕方がない。職員が来たときは、この状況についていけず、困惑していた。


 彼女が落ち着くのを待つこと十五分ほど。職員たちもこの状況をティアナたちから説明を聞いて理解し、彼女が落ち着くまで待ってくれた。ティアナもこの状況を把握していなかったが、レオンハルトが魔法で少し意思疎通が取れたと誤魔化して説明してくれている。


 そして、彼女を一度エルフィーに預け、職員から本日の落札の合計額を受け取った。余りに多すぎると渡す際に不憫になるが、魔法の袋を持っていると、あっという間に引き渡しが出来る。


 彼女を連れて、外へ出る。シャルロットとは魔法で連絡を取り合っていたので、すぐに合流が出来た。ユリアーヌたちは徒歩で先に戻ったそうで、マルガとアルヌルフは既に馬車の準備を終えているそうだ。


「この子がそうなのね」


 シャルロットには事前に連絡しておいたので驚くような事はなかったが、他の者は彼女の見た目を見てすごく興味を示していた。彼女は一応奴隷契約を済ませており、奴隷である証明、奴隷紋が右肩に刻まれている。今はあの部屋を出る時に丈の長い外套を彼女に着せたので見る事は出来ない。


「ああ、彼女の名前はアカネだ」


 奴隷契約を行った事で、ちょっとした内容は主であるレオンハルトに分かってしまう。内容と言っても名前や年齢ぐらいだが、実際彼女の名前はアカネではなく式守(しきもり)朱音(あかね)。本来であれば朱音(あかね)式守(しきもり)になるのだろうが、悪目立ちし兼ねないので朱音(あかね)だけを使う事にした。


「言葉が分からないと思うけど、よく頑張ったね」


いつも読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字の報告もありがとうございます。

応援よろしくお願いします笑

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