134 目指せイースラ小国
おはよう、こんにちは、こんばんは。
今日も一日頑張りましょう。
「もうすぐ国境ですね」
俺たちは今、アバルトリア帝国の西にあるイースラ小国との間の国境付近に来ていた。
此処までの道のりで然したる出来事もなく順調に進んでいた。一時、立ち寄った村・・・ダリア村と言う村で引き受けた山賊討伐の依頼以外は・・・。
山賊討伐にはレオンハルトとユリアーヌ、クルト、ダーヴィトの主力メンバーに加えてルドミラ、ダグマル、コノリの三人を同行させた。山賊は総数で五十を優に超える大規模の集団となっていたが、四人の活躍であっさり討伐される。山賊に捕まっていた人たちも無事に救出できたが、間に合わず既に息絶えてしまっている者も少なからず出ていた。
救出した日は、日も暮れ始めていると言う事でその場で一夜を明かし、捕らわれていたあっちこっちの村人は安心して休み、その間レオンハルトとユリアーヌは生き残った山賊たちに恐怖を植え付けた。
レオンハルトの魔法で周囲へ音が漏れない様にし、治癒魔法を使いながら事情聴取と言う名前の拷問を行う。
具体的な事は、あまり口に出来ないが、熱された投げナイフで急所ではない場所を刺したり、風属性魔法の上位である雷属性魔法で感電させたり、水属性魔法で水球を生み出し、顔を覆って溺死寸前まで追い込んだりした。
周囲に音が漏れないようにしたが、山賊たちは自害しない様に口に布を噛ませて舌を噛み切れないようにした。
普段のレオンハルトとユリアーヌはその様な事をする人物ではないが、流石にあの惨状を目にし、彼らに反省の糸も見えないと言う事、また、捕まっていた人の数人は奴隷商人に売ったと言う事だったので、それを吐かせるために非人道的な方法で吐かせたのだ。
翌日は、捕らわれた者と山賊の残党を引き連れて、最寄りの町へ移動。何でもダリア村からも近いと言う事もあり、その町に冒険者ギルドがあったため、そこで依頼がされていると考えて移動したのだ。
山賊たちは手足を欠損している者や昨夜の拷問などがあると移動に支障がきたすと考え、治癒魔法で治している。それに、彼らは町で兵士に引き渡す事になるだろうが、その後は犯罪奴隷として扱われる。犯罪奴隷としても手足の欠損があるのとないのとでは、報酬金額も変わってくると言う事で治した。大きな場所だけだが・・・。
徒歩では移動に時間がかかる上、守る対象が多い事から、陸路ではなく空路を選択。空を飛べるのはこの中ではレオンハルトだけなので、アニータに渡している魔道具を更に改良して作った『飛行する羽』と言う名前の魔道具。アニータの使用している者と同じ物を改良しているが、どちらかと言えばアニータの持っているのは戦闘用で調整されているため、高速移動が可能。けれど、改良した物は運搬用なので、戦闘で役立つほどの速さは出ないが、その代わりに相当数の重量を乗せても飛行が可能となっている。
ユリアーヌたち三人に『飛行する羽』で山賊たちを連れて行く。まあ、縄で縛って宙ぶらりん状態の運搬だから、彼らからしたらある意味恐怖でしかないだろう。
俺は、捕まっていた村人たちを一枚の厚手の布に乗せる。それを重力属性魔法と風属性魔法を組み合わせて空に浮かして、移動させる。イメージとしては魔法の絨毯に近いだろう。
途中で、自分たちの村だと言う者は降ろしたりした。それでも七割近くの者は町に同行したが・・・。町に到着してすぐに兵士に事情を説明。山賊たちの身柄を引き渡した。彼らの遺体も一緒に渡し、賞金首が居るか確認してもらった。高額ではないが、そこそこの金額を掛けられていた者が七人いたので、引き渡した際に金銭を受け取り、それと奴隷商へ売り渡す金額も受け取る。
こういう罪人は、状態によって金額が異なる。例えば、普通であれば銀貨二枚で買い取られるが、欠損部位や病気、怪我の具合で銀貨一枚になる。兵士に引き渡した後は、彼らに所有権が移り、彼ら兵士から奴隷商へ売り渡される。その際の金額が、冒険者に銀貨二枚で売ったなら奴隷商に銀貨三枚で売り渡す。
その様な方法では、例えば冒険者には銀貨一枚で引き渡し、その後奴隷商に銀貨五枚で売買出来るのでは?と疑問に思うだろう。そもそも、犯罪奴隷はそれほど高く買い取ってくれないというのが一般常識なので、余り気にしない冒険者は多くいる。
賞金首が掛けられている人物はその分高くなりやすいし、大物になれば銀貨ではなく金貨になる者も居る。
それに、生死を問わないという条件の者が多いので、反撃などを警戒する冒険者や道中の動向が面倒な冒険者は殺してから、証明部位を持って行く。
流石に二十人以上の遺体の持ち込みは兵士たちにドン引きされていたが・・・。
兵士に引き渡し後に、彼らに証明書を書いてもらい。それを冒険者ギルドに持って行く。盗賊や山賊等の賊の討伐も随時受け付けられているので、兵士たちが書いた証明書を渡せば依頼達成となる。兵士たちの所であまり金にならない事に冒険者が納得しているのは、冒険者ギルドでも報酬が貰えるからと言うのもあるからだろう。
冒険者ギルドで、ダリア村の村民が山賊討伐依頼を出してくれていたので、依頼完了の手続きを行い報酬も受け取る。捕らわれていた者たちは、この町に残るか、自分たちの村に戻るのかを選択してもらい。
受け取った報酬を使って帰りたい者たちを村まで送り届ける依頼を出しておいた。
そんな事をすれば赤字になるのでは?と思うだろうが、実際は山賊たちが溜め込んでいた金貨や宝石、魔道具等はすべて回収している。賊を捕まえ彼らが持っていた者は全て掴まえた人に権利があるのだ。だから、賊の討伐は場合によっては臨時ボーナスもたんまり手に入れる事ができる。
因みにダリア村の者たちは、俺たちの手で送り届けてやる。転移魔法で飛んでと行ってシャルロットたちと合流したかったが、合流場所がダリア村の近くでもあるからついでとばかりに連れて戻った。その後、シャルロットと連絡を取り合流後は転移魔法で他の皆とも合流したのだ。
「イースラ小国って、何が特産何だろう?」
「特産は芋らしいですよ?」
どうして知っているのかシャルロットに訪ねると、訪問する国を調べておいたそうで、大きな都市が四つしかない小さな国と言う事、特産であるタモタモと言う芋が産地らしい。
見た目はサツマイモの様な感じらしいが、味は分からないので現地で食べてみるのが良さそうだ。
「よし、次の方ーッ。此方まで」
国境を警備する兵士に案内され、馬車を所定の位置に移動させる。現在、御者をしているのは、ラウラとランの二人。護衛で連れてきているランやルドミラたちにも御者をさせている。貴族が利用する場所に並び慣れていないランを後へ、ラウラを先頭にしている。
「アルデレール王国のアヴァロン伯爵様一行です。此方が証明書になります」
ラウラが事前に用意していた証明書を渡す。兵士の一人が馬車の中を確認したいとの事で、二台とも確認する。証明書の確認が終わると「イースラ小国へは、どの様な御用件でしょうか?」と尋ねる。
アウグスト陛下からイースラ小国の陛下宛に親書を届ける王命を受けている事を説明した。
「ッ!!承知しました。どうぞ中へ」
兵士は、伯爵と聞いていたが、王命を受けているとは思ってはいなかった。貴族当主であることは、証明書でわかっていた。兵士は親に不幸があり、未成年の子供に伯爵当主を襲名され、旅行か何かしているのだと思ったのだ。
「此方を首都イスラスへお持ちください。都市警備兵が直に対応してくださいます」
首都イスラス。イースラ小国の首都で人口は、海隣都市ナルキーソとほぼ同じか少し多いぐらいだ。アウグスト陛下やジギスバルト陛下が住まう様な王城や帝城と言った大きな城はなく、王都にある迎賓館ぐらいの規模の城がある。城と言うよりも城に似せた感じの屋敷と言うべき建物。
兵士に礼を言って、イースラ小国へ入国した。
去り際に兵士に此処から首都イスラスまでの距離を尋ねると、馬車で四日程の位置になると教えてもらう。普通の馬車で四日ならば俺たちの馬車だと二日ぐらいで着くだろう。
やけにアバルトリア帝国側に寄せた場所に首都があるのだと感心していたが、よくよく考えると反対側は、魔の森と呼ばれる恐ろしい地域が広がっている。そちら側に寄せると言う事は魔物が溢れた時あっと言う間に魔物に飲み込まれて全滅という最悪の状況も考えられたため、アバルトリア帝国側に寄せているのだ。
イースラ小国へ入国して、すぐにある宿場町で少し早いが、宿を取る事にした。
始めてくる国だ。いきなり野宿は面白みに欠けるだろう?
流石に宿場町なので、宿はかなりあるが、何処も冒険者向けの宿屋ばかりだった。普通の上級貴族なら文句の一つでも出そうなところだが、生憎と俺たちは冒険者からの成り上がりで上級貴族の仲間入りをしている。今にも崩れそうな宿屋以外であれば正直何処でも構わなかった。
「そこのお兄さんたち。良かったらうちの宿はどうだい?一泊三百ユルドだよ」
「あっちの宿屋よりうちの宿屋の方がサービス良いよ。どうだい?一泊二百五十ユルドでかまわないからさー」
この宿場町の宿屋の相場は二百から四百ユルド。円に直すと二千円から四千円ってところだ。
あの二件だけでなく他の宿屋も軒並み変わらない値段の提示だったから、間違えは無いだろう。
今晩泊まる宿屋を暫く探していると一人の女の子が、俺たちが乗る馬車の目の前で転んだ。馬車の速度がほとんど出ていなかったから直前で止まれたけど、街道を進む速度だった場合轢いていたかもしれない。
俺は御者の座る場所の隣で宿屋を探していたので、急に停止しても大丈夫だったが、馬車の中にいた者は驚きの声を漏らしていた。
「ご主人様、申し訳ありません」
馬車を操車していたラウラがすぐさま謝罪をしてくる。
ラウラの謝罪よりもこの子を優先させないと。
レオンハルトは直ぐに馬車から飛び降りて、子供の元へ駆け寄る。馬たちもだいぶ興奮しているが、魔法で落ち着かせておいた。
「君?大丈夫か?」
「う・・・」
転んだ時に膝を擦りむいたのだろう。更に転んだ拍子に持っていた籠の中身まで盛大にぶちまけていた。果物であればそこまで問題もなかったかもしれないが、彼女が籠に入れていたのは生卵。無事な卵もあるが、そのほとんどが地面に落ちた衝撃で割れてしまっている。
「マホナッ!?―――ッ!!き、貴族様、妹が申し訳ありません」
転んだ女の子はマホナと言うらしい。栗色のちょっとくせっ毛のある女の子。年齢的には七歳前後だろう。慌ててやって来た女の子、マホナの事を妹と呼んでいたので、実妹なのだろう。義妹の可能性もあったが、姉の姿がマホナの容姿を少し成長させた感じなので、間違いないはず。
貴族だと分かった姉は、物凄い勢いで謝罪をしてくる。貴族社会では良くあることらしいが、こういう場合貴族の進路妨害で罪に問われる場合もあるのだ。しかも、罪の経度によっては死罪もあり得る。
仮に、馬車で引いてしまったとしてもそのまま立ち去る貴族もいるらしい。平民たちはそれに対して避難する事も出来ないのだから、貴族差別は根強いと言える。
「気にしなくて良いけど、君はこの子のお姉さんなのかい?」
彼女にそう問いただすが、彼女から返答を貰う前に事態は急変する。騒ぎを聞きつけた者たちが野次馬の様に群がって来たのだ。
「あの子、貴族様の馬車を止めたそうよ?」「残念ね。きっと耐えられない様な罰をお与えに・・・」「あの子供の姉かしら??必死で謝罪しているけど・・・」と言う野次馬たちの憶測が此方にまで聞こえてきそうだった。
貴族の馬車の進路妨害をしたら処罰って、状況にもよるだろうが、前世とは真逆の考えでこういう時、「悪いのは此方だから」と言う気持ちがどうしても出てきてしまう。
前世との考えの違いはこういう部分で顕著に出てくる。
「場所を移そうか。ラウラ適当なところで馬車を停めてきて、シャルとエルはこっちの手伝いをヨハンこの場を任せる」
指示を出しながら、手早くマホナと言う少女の治療を魔法で行い。シャルロットとエルフィーと共に場所を移した。
二人ともこのチームにおける治療の専門家だ。簡単な擦り傷で済んでいたし、その傷もレオンハルトが直しているが、エルフィーの慈愛の心とシャルロットの母性を感じさせられる優しさ。貴族である俺と共に行動してくれれば、彼女たちも多少は落ち着くだろう。
それに、あの場にヨハンだけでなく。アルデレール王国の宰相の娘であるティアナたちを残した事で如何にか収拾を付けてくれるだろうから。
取り敢えず、近くにある食事処に移動した俺たちは、店員に案内されるまま席に着いた。
「あ、あの・・」
「君大丈夫だった?怖い思いをさせてごめんね」
マホナが言いにくそうにしていたので、先に此方から謝罪する。するとマナホとその姉は、何が起こっているのか分からないと言った顔をしていた。
俺が話しかけると緊張している部分もあったから、俺は最初の謝罪だけを口にして、シャルロットとエルフィーが彼女たちと話を続ける。
マホナとその姉であるエミルナは、この宿場町の住人で宿屋の娘でもあった。格安でも高級でもない一般的な宿屋。その宿屋のお手伝いで養鶏場から卵を買いに行ってきた帰りに俺たちの馬車の前で転んでしまったのだとか。
無事な卵は回収できたが、駄目になった方が圧倒的に多い。貴族の通行の妨げたという事もあるが、卵を駄目にしたという二重の出来事で、彼女たちの表情は暗くなっていたのだ。
「シャル?俺たちの方にまだたくさん残していたよな?」
俺は直ぐに魔法の袋に仕舞っている食材を思い出す。
魔法の袋の中には、いざと言う時の為の食材や物がたくさん入れられている。それこそ卵や果物、パンに魔物や獣等の肉、ナルキーソ産の魚介類も入っている。反物や農機具、木材、テントや食器類と何処に行っても生活に困る事は無い。
そんなに買い占めて街の方は大丈夫なのかと思うだろうが、これは一ヶ所から買いだめしているのではなく、冒険者として行く先々で購入しているのだ。その分、行商人として不足している物資などを販売したりもしている。
沿岸部では砂糖などの甘味料が、山間部では塩などの調味料が重要とされている。
「忽ち三十個ほどで大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよ。エミルナと言ったね?君たちの宿で二十人ぐらい泊まれるだけの空きはあるかな?」
「え?あ、はい。まだ半分ぐらいしか埋まっていないと思いますので、大丈夫かと・・・え?」
「では案内してくれる?あ、店員さん会計を願いします。ええ、全員一緒で」
レオンハルトはお店の会計を済ませる。流石に何も注文しないのは店側に悪いし、彼女たちにも謝罪の意味で、飲み物とデザートをご馳走した。
店から出ると他の仲間たちが丁度合流してきた。
「すまない。彼女たちは宿屋の娘たちらしいから、今日はそこに宿泊しようと思う。そうだ。エミルナの宿屋に馬小屋はあるかい?」
何台かは停める事が出来るそうだったので、ランたちを率いてエリーゼたちに後で馬車を取りに行ってもらおう。その話をしたら、ダーヴィトとエッダも同行してくれるとの事。俺たちも宿屋の手続きが終わったらこの宿場町を散策してみようかな。
エミルナとマホナの案内で直ぐに彼女たちの両親が経営する宿屋に到着した。メイン通りから外れた場所の立地の為か、お客はまばらにいるそうだ。メイン通りは、お客の集客率は良いが他の宿屋と激戦を繰り広げなければならない。
「おかーさん」
ッ!?
中には居ると何処か懐かしい感じの女性が立っていた。この感覚は、全員ではなくレオンハルトとシャルロットの二人だけ感じ取ったもの。そこにいた女性が前世で互いに知っている人物に瓜二つだった。世界が違うので別人だと言う事も分かるし、髪の色も知って居る人は黒髪だったが、この女性は少し暗めの青色をしていた。
(驚いた・・・受付でシャルロット、いや窪塚さんと一緒に居た天音さんにそっくりだな)
そう。二人が前世で務めていた会社の同僚にそっくりの人物。
「あら、帰りが遅かったけど何かあったの?」
「うん、実はね・・・・」
エミルナとマホナが事情を説明。エルフィーが二人の説明に対して合の手を入れたり、説明の補足やお店でお話した事を話したりした。
「これは、娘たちがとんでもない事を、娘に変わり謝罪いたします。どうか娘たちには」
「いえ、謝罪は私たちにあります。マホナちゃんを怖い思いをさせてしまいましたし、卵も割れてしまっています。もし宜しければ・・・シャルロット様?」
エルフィーが話を進めてくれていた間、レオンハルトとシャルロットは未だに驚いたまま固まっていた。エルフィーに促されて漸く我に返り、魔法の袋から卵を取り出して渡す。流石に受け取れないと言っていたが、怖がらせてしまったお詫びと言う事で如何にか受け取ってもらえた。それと、この人数で一泊可能かどうか確認する。
全室個室は難しいと言う事で、個室と二人部屋、三人部屋を用意してもらった。馬車の駐車代金と馬の世話は、サービスしてくれるとの事。向こうも貰いっぱなしは悪いと言う事で言い出してきたので、受ける事にした。
「夕食はどうなさいますか?宜しければ主人が腕に縒りを掛けさせてもらいますが?」
「そうですね。ではお願い致します。それと、可能でしたら此方の食材で一品何か作っていただけますか?」
レオンハルトが取り出したのは、国境を超える前に遭遇したフォレストボアと言う深緑色の体毛に覆われた猪の魔物。それ程強くはない魔物だが、一般人では少し荷が重い。冒険者でも新人や初心者では死人が出ると言われている。まあ、この辺りでこの魔物を倒せる者は一人前の冒険者として名乗りを上げられる代表的な魔物。
実は、この魔物はアルデレール王国には存在していないため、これまで食した事が無かった。この近辺で出るならば何か良い調理方法を知っているだろうと考えてのお願い。
「これは・・・フォレストボアの肉!?この宿場町では高級な肉ですが宜しいのでしょうか?」
あれ?思っていた反応と違う?
国境の兵士からは、まあまあ出没すると聞いている。って事はそれなりの頻度で討伐されているのだと思っていた。しかし、二人の母親でもある女将から話を聞くと、討伐されても割と市場に出回らず、自分たちで食べてしまうらしい。
二、三頭出れば、余りが市場に卸されるとの事で、直接持ってくる者はこれまで経験した事がないらしい。
出没しても倒すとは言っていなかったな。それに、これを倒したら一人前ならこの宿場町や国境の兵士は一人前の冒険者より弱いと言う事になるのでは?
「肉の鮮度を維持させて倒すとなると普通の冒険者でも難しいと聞きますし・・・」
なる程、倒すのに時間を掛け過ぎたり、傷つけすぎたり、魔法で食べれなくなってしまったり色々あるようだ。
取り敢えず、肉塊を二つほど渡しておいた。余るようなら今日泊まっているお客振舞っても良いし、自分たちで食べてもらっても構わないと言っておいた。まあ、十中八九余るだろう。一つでも俺たちには多い量なのだから。
支払い等を済ませて、一度部屋を確認する。その後は自由行動にしているがダーヴィトたちはエリーゼたちと共に馬車を取りに行く為、部屋を確認してすぐ宿屋を出た。
「そう言えば、明日でしょ?例のオークション」
俺は残っている面々と共に町の散策に出ており、目ぼしいお店を巡りながら皆と雑談をしていた。シャルロットが言うオークションは、アルデレール王国の王都アルデレートで年に二回程度しか開催されない大型のオークション。
何度か知り合いの者に誘われていたのだが、生憎とタイミングが合わずこれまで参加した事が無かった。
今回も依頼を受けてしまって難しいかと考えたが、今回の依頼は時間的に余裕があるので二日、三日程度別の事をしても支障が出ない。たぶん。
と言う事で、初のオークションに参加してみようと思っている。
そのオークションが明日と明後日、明々後日の三日間の開催と言うのだから。とても楽しみであった。奴隷商人のベルネットも奴隷たちを数人、表と裏のオークションに出店するらしい。
俺たちのお目当ては奴隷ではなく、各地方の特産物。この中にお米にまつわる何かがあればと期待している。
それと、オークションは誰でも参加可能な上、出店も出来るそうだ。
何か出してみるのも良いかもしれないと思い、クイナ商会の名前で数点出品する事にした。貴族のお土産にも使った硝子細工のワイングラスのペアを数点、トルベン作の刀や武器、ハンナの服、中級水薬や各種中級の薬、極めつけはレオンハルト作の魔法の袋や魔法の鞄数点を予定している。
「どうするの?この町で滞在しておいて向こうに行く?それとも・・・」
「明日の明朝に町を出発して、全員で転移しようと思う」
町からでも良いかもしれないが、この宿場町はあくまで国境を超える時の中継点でしかない。そんな場所に長くとどまる理由があまり無いので、早めに出ておいた方が良いだろう。仮に町にいると思われて探して見つからない等の事が起これば問題になるかもしれない。町を出て人気のない所で転移し、三日後何食わぬ顔で次の目的地に向かえばよいだけの事。
「私、オークションに参加するの初めてです」
「そう言えば私も」
リリーとティアナも初めてと言う事、聞けば俺たちの中でオークション経験があったのはダーヴィトとエッダの二人だけ。二人は俺たちと出会う前にオークションに参加したらしい。これは後で聞いた事だが、遺跡探索の依頼を受けて臨時で数人の冒険者とチームを組んだそうだ。その時、偶然未発見の宝物室を見つけて、エッダの持つ魔装武器を手にしたとの事だ。他にもあった様だが、それぞれに分散してダーヴィトはオークションでお金に変えたのだとか。
盾職の彼が、魔法使いが良く持っている杖を貰っても使い道などないからとの事。
その後宿場町の中を散策して、何個か買い物を終えた。
いつも読んで頂きありがとうございます。




