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133 成り行きの山賊討伐

おはよう。こんにちは。こんばんは。

ちょっと今回はグロい話も混ざっておりますので、ご注意ください。

 帝都アバルトロースを出発して四日目。現在、帝国領内にある一つの村に来ていた。アバルトリア帝国の西にあるイースラ小国に向かっていたのだが、この村に辿り着いて一つの依頼を受けてしまった。いや、依頼ではなく頼みと言う方が正しいか。


 昨晩、この村に辿り着き空き家で一泊させてもらったのだが、朝起きてみたら村長が我々の前に現れて見事なまでの土下座をした。


「この村より北へ少し行った辺りに山賊が住み着いています。皆様は名のある冒険者と見込んでどうか、どうかこの村をお救いしてもらえませんか?」


 この村は、今山賊に襲撃されているようだ。この村だけではない。この周辺の村は何処も狙われており、この村で言えば既に三度攻められている。


 若い衆が少ないと思ったら、彼らに反抗し殺されたか、若い女ならば連れ去られてしまったとの事。


 二度目の襲撃後に、此処での生活に怯えた者も村を出る始末。


 帝国の兵士に伝えてみてはどうかと言ってみたが、既に連絡済みなのだそうだ。同じような内容の報告も他の村から出ているため、兵士たちも何処を探せばよいのか分からずにいるそうだ。


「どうするの?流石にこのままって言うのは夢見が悪いのだけれど?」


「そうだな。予定よりも早く移動が出来ているから、多少の時間は問題ないけど・・・」


 実は帝都からこの村までは馬車でも七日はかかる道のり。それを凡そ半分の時間で移動を可能にしたのは、馬車を魔改造しているおかげであろう。他にも考えられる要因はいくつかあげられる。


 魔物や山賊、盗賊と言った輩との遭遇が少ない事、遭遇しても瞬殺してしまっている点。馬たちのきちんとした休息等々ある。


 暫く考えた後、二手に分かれる事にした。一つは予定通り馬車での移動で西に向かう者たち。もう一つは、山賊を捜索して討伐する者たちである。


 普通なら絶対にしない行動だろうが、彼らにはお互いが連絡できる手段と転移魔法と言う裏技の様な魔法がある。しかも転移魔法が使える人材は二人。転移魔法は本来行った事がある場所かその場所までの道筋を知る事が発動条件になる為。知らない場所に移動する事は本来できない。


 だが、何に対しても例外と言うものは発生する。転移先を指名しない強制転移がそれにあたる。転移できるが、何処に転移するかは発動させた本人でさえも分からない上、通常の転移魔法よりも高い魔力量と魔力制御(マナコントロール)を要求される。


 ガバリアマルス王国が滅びる直前にセドリック殿下たちが王国を離れる事が出来たのは、命がけでこの魔法を発動してくれた二人の魔法使いのおかげと言えよう。


 話を戻すと、転移魔法が使えるレオンハルトとシャルロットの二人が別行動を行えばよいのだ。村から離れた場所にお互い拠点として覚えて置き別れた後、レオンハルトは山賊の討伐へ、シャルロットはイースラ小国への移動を開始。


 レオンハルトが山賊を倒した後、シャルロットと連絡を取り合い予め決めていた場所に転移魔法で集まり、シャルロットの転移魔法で馬車がある位置に飛べば、全員もれなく集合と言う事。


 転移魔法を何度も出来、且つ連絡の手段を持っている彼らだからこそできる方法。


「俺とユリアーヌ、クルト、ダーヴィト、ダグマル、ルドミラ、コノリの七人で向かう。他の者はシャルロットと共にイースラ小国へ向かってくれ。三人とも大丈夫か?」


「「「は、はいっ!?」」」


 名前を呼ばれるとは思ってもいない虎人族のダグマルと狼人族のルドミラ、人族のコノリ。


 この七人の中で足手まといになりかねない三人を同行させるのは、村から攫われた可能性がある者を救出した際、その面倒を見させる為とダグマルとルドミラの二人には実戦経験を積ませる良い機会だと判断しての事。


 同じ屋敷の警備や護衛などを行ってくれている猫人族のランでも良かったのだが、此方に戦力が偏り過ぎるのはどうかと思いダグマルとルドミラの二人を選抜した。


 それに猫人族は、動きは素早く危機管理能力も高いが、虎人族や狼人族の様な血の臭いに敏感問いほどでもない。猫人族も人族に比べれば高い感覚を有しているが、二人の種族に比べると少し落ちてしまう。


 感覚が敏感であれば日常生活が大変なのではと思うだろうが、彼女たち曰く切り替えのような事が出来るそうだ。通常の時は人族より優れているかどうか程度で、感覚を高めれば周囲の臭いや音を感知でき、動物のもつ固有能力を行使できる。


「分かりました。山賊は我々が対処しましょう」


 冒険者ギルドも通していない案件であるため、最寄りの冒険者ギルドで依頼を出す様にだけ伝えておいた。依頼の受注を受けてから本来であれば討伐をするのだが、今回は討伐後に受注と完了の報告を同時に行う方法を取る。


 通常依頼と常駐依頼があり、通常は依頼者が発注して完了したら終わりの依頼終了となるが、常駐の場合何処に行っても必ずと言って良いほどある依頼で、例えばゴブリンの討伐、一匹につき幾らみたいな感じであれば、倒せば倒すだけの報酬が貰える。


 常駐依頼は依頼書を持って行き、完了を証明する物を提出すれば終わる。通常依頼は依頼書を受け取ってからだが、後出しでも構わない。


 後者を選んだ時の問題(トラブル)として、依頼の重複だろう。だけれど、これは依頼を行う際に既に対応してくれている冒険者がいると伝えれば終わる。


 と言うわけで村を出た俺たちは、まず集合場所となる場所を決めておいた。候補は既に決めており、この村から北西の位置に一際大きな樹木の一体が広がっている。


 村の人に聞くところによると、あのあたりはララバの森と言う場所の様で、土地が非常に肥えている為、植物が良く育つそうだ。あの樹木も周辺の樹木と同じ種らしいが、あの一帯だけ可笑しな成長をしたのだとか。特に害する様な事は無く、寧ろあのあたりに生えている果物は一般の物よりも二回りも大きいらしい。


 まあ、食べ物が豊富という意味で言えば魔物の数も多少他に比べて多いそうだ。


 そして都合が良い事にこの時期はあのあたりで採れる果物が無いので、魔物の数も少なく、村人も採りに行く事がないとの事。


 なので集合場所を決めてから、それぞれの方角に向かう。


 馬車を見送ったレオンハルトたちは、ダグマルとルドミラの二人に身体強化魔法を付与した。獣人である彼女たちは魔力を持たない為、魔道具を渡しても使用できない。


 獣人族には獣化と言う固有能力があるが二人はまだ使いこなせないので、今回は付与魔法で身体強化を底上げした。


 コノリは、身体強化の魔道具を渡しても良いが、素の能力がそれほど高くないので、俺たちで運んだ方が手っ取り早い。そこで誰がとなるが、この中で最も負担なく彼女を運べる存在となるとレオンハルトしかいなかった。


 コノリを抱えたレオンハルトたちは、山賊がいると思われる場所へと向かう。方向がわかっているだけで、正確な場所は分からない。そもそも本当に北にいるのかどうかも怪しいが、受けてしまったものは仕方がない。最悪の場合、彼が飛行魔法で空から探すと言うのも一つの手だろう。


 最前列を走るクルト、その後方をレオンハルトが、両側面をユリアーヌとダーヴィトが追走する。前方の四人を追いかけるダグマルとルドミラの二人。彼女たちはこれまで出したことがない様な速度で森の中を走っていた。


「これ早すぎッ!?うわっ」


「ダグマル、口を開かない。集中しないとすぐ障害物が」


 森の中を走って移動すると言う事がどれほど難しい事か。足場は一定でない上に、石や木の根、動植物、あらゆるもので足を取られそうになる。


 更に加えれば、道ではない道を走破しているため、木や枝、茂みと言ったものが、進行方向上に幾つもあり、油断をすれば正面衝突しかねないぐらい沢山の障害物がある。


「もう少し速度を緩めようか?」


 レオンハルトが、後方にいる彼女たちを気にかけて、近寄り声を掛ける。余裕そうに移動する彼を見て、自分たちの為に速度を制御しているのだと悟る。奴隷先輩でもあるランから自分たちの実力を把握する良い機会だから良く見ておくようにとも言われていた。


 戦闘の前からすでに圧倒的な実力差を見せつけられる。


「だ、大丈夫です」


「こ、これ以上早くなると、難しいです」


 ダグマルは大丈夫ではなさそうなのに、迷惑を掛けられないと言う思いから実際と気持ちがバラバラだった。ルドミラもダグマルと同じ状況なのに対し、彼女はしっかり「これ以上は無理」と主張する。


 今回は経験も兼ねているので、あまり無理をさせるのも良くないだろう。


 仲間たちに声を掛けて移動速度を落とす。


 かなりの範囲を捜索したが見つけられず、夕方に差し掛かろうとした頃、探索魔法に三十人を優に超える人数が廃墟となっている場所に屯っていた。一瞬「村か?」と思ったが、他の魔法で確認したところ、如何にも山賊ですと言った身なりの集団だったので、日が暮れる前に片付けるかと行動に移す。


 発見してからは慎重に行動し、彼らのアジトらしき場所に無事到着する。


「さて、どう攻める?」


「数はどれぐらいだ?」


「周囲の見張りが十一人。北側と東側それに西側に三人、南側に二人だな。中は屋外にいる者が四十人から五十人ぐらいで、屋内はそれの半数ぐらいがいる」


「結構な数だな」


 攻め方をレオンハルトたち四人で話し合う。探索魔法で他にも分かったことがあった。村長が言っていたように女子供が捕まっているのだ。


 女は山賊たちの慰み者となり、子供たちはストレス解消のための暴行の的にされている。暴行を受けていない子供もいたが、そちらは奴隷商人へ引き渡すのだろう。女たちの近くに閉じ込められている。


 暴行を加えるなら、子供じゃなくて大人の男でもよさそうな感じだが、窮鼠猫を嚙むと言うように大人の男だと、反撃を受ける可能性があるし、子供の方が恐怖を植え付けやすい上に優越感を味わえるのだろう。


 ああいう事をする連中の考え等わかるはずもないし、わかりたくもない。


「村から連れ去られた女性や子供もいる・・・数は想像以上に多いな。全部で二十八人か・・」


 山賊の討伐を頼まれているが、当然捕まっている者たちの保護は必要になる。十数人は居るだろうと考え、コノリたちを同行させたが、予想を上回る数に新たな手立てを考えなければいけない。


「思っていたよりも多いな。人質に取られると面倒だぞ?」


「逃走されないようにしないと」


 数が多い上に捕まっている者たちの人数も多い。一ヵ所なら如何にかできるが、複数だとユリアーヌの言うように人質にでもされたら面倒な事になる。クルトの言う逃走についても問題だ。こういう類の人種は、更生するのに時間がかかるし、この世界にはあまりそういう部分に力を入れていない。犯罪奴隷は更生ではなく、有罪判決を下された労働者みたいな扱い。犯罪奴隷は奴隷から解放されることはほぼないのだ。


 だから、盗賊や山賊を取り逃がせば、またどこかで同じような犯罪を繰り返す。更に勢力を拡大したら周辺の村に復讐しかねないのだ。


「逃がすつもりはない。四方面から一気に攻める。ダヴィは正面。ユリアーヌは西側から、クルトは東側から攻めてくれ。俺は北側から攻め込む」


 三人にはこの場で待機をしてもらう。この配置にしたのは理由があり、正面と西側は多少開けた場所があるため、二人の戦闘スタイルを考えると、開けている所での乱戦が良いだろう。正面には特に暴行を受けた子供たちもいるので、ダーヴィトが保護し、後方にいるダグマルとルドミラの二人に引き継がせて安全の確保を図る。


 東側は建物が近く内装が入り組んでいる。山賊たちの武器庫や財宝などを入れる部屋や女子供を閉じ込めている場所もあった。牢屋の様な場所なので、すぐに直ぐ人質をとれないが、時間をかけすぎると危険と言う事で、早さ重視の戦闘を得意とするクルトに任せることにした。


 俺自身が北側を担当するのは、此方も建物が近くにあり、更に生活の基準となる場所が多くある。つまり女性が慰み者になっているのだ。クルトの方と違ってすぐに人質にされる可能性を考慮し、一気に殲滅しなければならない。


「合図をしたらすぐに突入しろ」


 そして、三人が移動し少しすると合図があり、ダーヴィトたちは一気に山賊のアジトへ乗り込んだ。


 その合図と言うのが・・・・。










 レオンハルトは、ユリアーヌたちと別れて直ぐ、転移魔法で北側に移動した。事前に探索魔法で調べた時、探索魔法『(イーグル)(アイ)』で上空の目線から目ぼしい場所を幾つか覚えておいた。


 手早く北側にいる見張りの一人を背後から口を押えて手に持つ短剣で心臓を一刺しする。暗殺者顔負けの手際の良さで、残りの二人も同様に手にかける。


 見張りの排除が終わり、中へ侵入する。捕らわれた女性たちの位置と山賊たちの位置はすべて把握済みの為、まずは建物内を巡回して邪魔になりそうな者を次々に心臓を一刺しするか、首を切って仕留めた。


(そろそろ、皆も所定の位置につく頃だな?こっちも派手に動くとするかな)


 レオンハルトは、目の前の扉を勢いよく蹴り飛ばして、中にいた山賊四人を愛刀で瞬殺する。騒ぎを聞きつけて隣で楽しんでいた男たちが此方に着た瞬間、投げナイフを額や喉に投げて三人倒す。


「今のうちに。一箇所に集まって、ふっ」


 全裸や半裸の女性たちを集めている時に背後から山賊の一人が棍棒を振り上げて殴りつけて来ようとしたため、両足を斬り飛ばした。


「うぎゃあああああぁぁぁぁ」


「うるせぇ」


「ごぼっ」


 足を斬り落とされた男は、そのまま床に転倒。激痛から顔をぐちゃぐちゃにして泣き喚いていたので、蹴り飛ばした。レオンハルトの蹴りは男の腹部に大ダメージを与えた。衝撃で分かるが内臓の幾つかが潰れ、背骨も折れた。圧迫された事で胃の中の物を撒き散らすが、そこには血液も大量に混じっている。


 叫ばれてしまったので急がないとな。


「集まりましたか?ではその場で待機していてください」


 俺は、魔法の袋から何枚か大きな布を渡し身体を隠す様に言う。起き上がれない者もいたが治療をしている暇はないので、水薬(ポーション)を渡して飲ませるように指示し、後は彼女たちを覆う様に防御魔法を展開した。


「う、うしろっ!?」


 一人の女性が背後から襲って来る山賊を教えてくれる。まあ、部屋に入ってくる前から既に補足済みだけれど。彼だけではなく、何かあったのかと外にいた連中も集まり始めた。


 自分たちが襲撃されているとは思ってもいないみたいだ。足を斬り飛ばした者も今目の前にいる大男もたまたま武器が近くにあったと言うだけ。


「死ねぇええええ」


 叫びながら鈍器で襲い掛かってくるが、レオンハルトは大男の懐に瞬時に入り込むと片足に力を込めて踏み、逆の足で蹴りを入れる。メキメキと音を立て、肉壁にずっしりと食い込む。


「ぶっ飛べ」


 次の瞬間、大男は大砲で吹き飛ばされたかのように吹き飛び、脆い壁を壊して場外まで飛んだ。


 これが俺たちの決めた合図。先行して捕まっている一部の者たちを保護。その後大騒ぎになる事をするから、それに乗じて乗り込む様にと。


 どんちゃん騒ぎをする中、急に悲鳴が聞こえそのすぐ後に大男が屋内から屋外へ空を飛ぶ様に宙を舞っているのだ。大騒ぎにならない訳がない。


 ユリアーヌにクルト、ダーヴィトの三人は見張りを手早く始末すると、各々アジトに乗り込んだ。


「な、何者だッ!?俺たちを誰だと思っていやがる?」


 虚勢を張る山賊たち。


 東西南北からそれぞれ一人ずつ立ち、武器を軽やかに扱いながら歩み寄る。この場に居る誰もが肌で感じ取った。この者たちの強さを・・・。


「名を言うつもりはない。抵抗しなければ殺さないが、抵抗する者は容赦しない」


 レオンハルトの言葉に山賊たちは怒りを覚え、周囲に置いている武器を手に取った。


「ああ?容赦しないだと?たった四人でか?」


「お前らやっちまえッ!!」


 山賊たちが一斉に襲い掛かる。山賊以外でこの場に居るのは暴行を受けていた子供たちだが、過度な暴行で意識が朦朧として、助けに来たことはわかっていなかった。もし、彼らの意識がしっかりしていた場合、この状況を見て「折角、助けが来たのに・・・」と絶望してしまうような状況だった。


 けれど、これが普通の冒険者だった時の話だ。


 レオンハルトたちはB(ビー)ランクの冒険者だ。俗にいう一流の冒険者として活躍している証でもある。レオンハルトに至ってはA(エー)ランク以上の実力をすでに有しているし、他の面々も今回のアウグスト国王陛下からの依頼完了後には、レオンハルトを含め全員がA(エー)ランクに昇格する手はずになっている。


 だから、たかだか山賊風情が百や二百集まろうと、彼らの敵ではないと言う事。


 レオンハルトは向かってくる山賊たちを蹴散らすように斬り捨てる。先ほどの者たちと違い可能な限り命を奪わないようにしているが、先ほどの現状を見て怒りもあり、気にかけて救うような事はしなかった。本来であれば必ず仕留める斬撃を、まあ死ぬかもしれない斬撃に切り替えて攻撃している。


 レオンハルトはまず、一番手前に居た髭を生やした大柄な男を右切り上げにて倒す。更にその横にいた人物を回し蹴りで倒し、動けないように足の腱を斬った。


 そのまま相次いで敵を斬り飛ばしたり、峰打ちや平打ちで敵を気絶させたりした。体術も交えて攻撃をしたため、ほんの数分で十人近くが地面に倒れることになった。


「遅い遅いっ・・・よっとっ」


 クルトはその瞬発力を生かし、双剣を巧みに操って山賊たちを切り伏せる。この場にいる四人は体術も得意としているが、中でもクルトはアクロバティックな動きを入れた体術を好むため動きが読みづらい。


「クルト、捕まっている人たちの所へ向かえッ!!」


 レオンハルトが指示を飛ばし、クルトはすぐさま捕まっている場所を目指す。建物の中でも彼の力は十二分に発揮される。


 ユリアーヌとダーヴィトの所には、最も山賊が集結している場所であり、戦いには適した広い場所もある。


 南側から進行したダーヴィトは、盾を武器として使いながら、意識が朦朧となっている子供たちの下へ行く。


「うりゃああああ・・・げふっ」


 盾の淵部分が、スキンヘッドの男の喉に直撃。その衝撃で喉がつぶれ、呼吸がままならないのか地面に倒れて苦しそうにもがく。だが、ダーヴィトは彼を助けるつもりはない。何せ先ほどまで彼は子供たちに同じように痛みを味合わせていたのだから。


 ッ!!


 殺気を感じ取り、顔の正面を盾で庇う。直後、右腕に強い衝撃が伝わってきた。別の男が木槌で思いっきり叩いてきたのだ。木製でなく金属製だったら、衝撃だけでは済まなかったかもしれない。


 まあ、それでも折れるまでには至らず、最悪痺れる位だろうが・・・。


 防御(ガード)した側とは反対側の手に持つ盾で、相手の足を先程同様に盾の淵で叩きつける。皮製の靴なので、高い防御力もなく。男は突然襲ってきた痛みに耐えられず飛びあがる。隙だらけの相手の顎を砕く勢いでアッパーを繰り出し殴り飛ばした。


(思いのほか子供たちは動けそうにないな。取り敢えず・・・)


 魔法の袋から水薬(ポーション)を取り出し、子供たちにぶっかける。手荒な事になってしまったのは申し訳ないが、現状が現状なので理解してもらいたい。


「ダヴィ、気をつけろ。弓を使う者がいるぞ」


 ユリアーヌの助言で、此方を狙っていると思われる弓使いへ盾を投げ相手を倒す『シールドブーメラン』で対処した。


 ダーヴィトの十八番になりつつある投げ盾技。威力もさる事ながら、その汎用性が非常に優れている。対象物に直撃すると弾んで別の場所に飛んで行く。投げ方にコツが必要だが、出来るようになれば案外簡単だ。角度をある程度予測して投げれば、一度に五体ぐらいは直撃させることができる。まあ、弾む回数が増えるとその分威力が微弱ながら下がってしまう。


 更に別の場所にいる者にも投げて倒す。


 盾役でありながら、その盾を失う・・・が、彼自身、レオンハルトのきつい訓練で身に着けた回避能力と格闘術で迫りくる山賊をなぎ倒した。


盾役とは何ぞ?と尋ねられそうな戦い方。けれど、必要のない攻撃を受ける事に意味はなく最小限の防御といざと言う時の仲間の守りをするそれが盾役の理想と教えられ、鍛えられてきた。


「遅いっ」


 ダーヴィトが戦闘している近くでユリアーヌも得意の槍術で山賊たちを次々に薙ぎ倒していく。四人の中でもレオンハルトとユリアーヌは頭一つ抜けた実力を有し、山賊などそこら辺にいるバンタムオークと大差ない感じに軽やかに倒していった。


「そこの三人。悪いけどあの子たちを任せたぞ」


 ダーヴィトが侵入した経路の外側で待機していた狼人族のルドミラと虎人族のダグマル、そして人族のコノリである。コノリは非戦闘員だが、ルドミラとダグマルは屋敷の警備などを任されている者だ。


 まだまだ修行中のみではあるが、この程度の盗賊であれば、遅れを取る事もないだろう。


 三人の経路を確保しながら、山賊たちを倒す。倒れた者の半数近くは遺体となっているか瀕死の重傷を負っている。


 外にいた連中が粗方片付き、現在は室内にいた者が外に流れる様に飛び出してきている。まあ、出てきた傍から戦闘不能のダメージを与えていた。


「ひっ!?こ、こいつら化物だ・・・逃げるしかねぇ」


 九割近くが戦闘不能になった頃、漸く生き残りたちが蜘蛛の子を散らす勢いで四方八方に逃げていく。取り逃がすと後々厄介になる。レオンハルトは三人に指示を出して、逃げ出した山賊の追撃を命じる。


 各々、投げナイフやダーヴィトは盾で追撃をする。


 まあ、最後は誰一人逃げ出せず、生きている者は一ヶ所に、死体は魔法の袋に収容した。捕らわれていた人たちの解放も無事に終わったが、中には無残な姿になってしまった我が子を見つけた母親らしき人物や姉弟で捕まっていた姉が弟の亡骸を見て大声で泣き叫んでいた。


 俺たちが救出する前に既にその命はなかった。その子供の遺体から異臭が漂っている。山賊たちは遺体になった状態でも蹴ったり殴ったり、刃物で突き刺したりと中々にエグイ事をして楽しんでいたようだ。もう少し早く到着出来ていればと後悔するが、世の中にはどうしても避けられない事もあると理解はしている。


 けれど、納得はしていない。


 理不尽な事に抗えるように今日まで頑張って来たのだ。流石に遠く離れた異国の者の死までは何とも思わないが、こんな感じに見ず知らずの者でも救えた可能性があったのではと言う事に関しては思う所もあり、救えなかった事に対しての怒りもある。


 特に、今回の様な子供が犠牲になる事については・・・。


一ヶ所に集められた山賊たち。無傷の者は誰一人としていない。


「ダヴィ、クルト。悪いけど皆を建物の中へ移動させておいて。もう日も暮れるから、此処で一晩過ごして明日移動させよう。非常食を使ってくれて構わない。皆に振舞っておいて」


 魔法の袋の特性を生かして用意されている非常食。出来立ての料理をそのまま魔法の袋に入れておけば、取り出した時はいつも出来立ての状態になっている。魔法の袋の中では時間が停止するので、大量に作って居れておけば非常時に提供できる食事が完成する。


 二人に指示を出して、俺とユリアーヌは山賊たちの場所で彼らを見つめている。


「んーんーーん、んーー」


 山賊たちはロープで手足を縛って拘束し、布で口を縛り話せなくしておいた。騒がれても迷惑だし、耳障りだからだ。


「予想以上に生き残っているようだな。ざっと三十人ぐらいか?」


「二十八人だな。五体満足にある者が十一人。残りは手や足などを欠損している」


 五体満足にあると言っても、身体中の骨が折れていたり、かなり深い切傷を負って血が止まらなかったりする者も居る。手足があるから軽傷ではなく。全員一人残らず重症を負わされているのだ。


「さて、捕まった人たちが味わった痛みをお前たちにも味わってもらおうか?」


 怒る事はあってもキレる事は余りないレオンハルトが、かなりキレているのか、愛刀ではなく投げナイフを片手に三本ずつ用意し、不敵な笑みを浮かべながら彼らに近づいて行った。


いつも読んで頂きありがとうございます。

来週も頑張って投稿できるよう執筆作業を進めていきますね。

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