131 模擬戦の行方・・・
おはよう。こんにちは。こんばんは。
今週は、体調不良が続いて酷い一週間でした。因みにコロナではありません。
原因は急に枕が合わずに此処数ヶ月首の痛みによる頭痛や吐き気が凄い。
どうしたらいいのだろう・・・・。
模擬戦が開始して十五分ほど経過した。始めは身体強化のみの戦闘だったが、現在はお互いの技を織り込んだ更に激しさを増した戦闘を行っている。
王国剣術『レイド・アーク』。アレクシス騎士団長の使用した技が勇者コウジ・シノモリを襲うが、彼もまたアレクシス騎士団長の攻撃に対して、反撃の技を繰り出す。
単発技『スラストフォール』。体重を乗せた重い一撃で上段の構えから縦斬りを行う技。アレクシス騎士団長の『レイド・アーク』も単発技で身体を捻り遠心力を加えた横斬りなため、両者の放つ技が十字の形でぶつかり合った。
すかさず、レオンハルトは二人に向かって刀を振るう。
神明紅焔流剣術『龍霞』。刀の軌跡がまるで銀色の龍の様に流れる斬撃に見える連続斬り。
割り込んできたレオンハルトの斬撃を躱し、反撃を行う勇者コウジ・シノモリ。そんな彼の隙を見逃さなかったアレクシス騎士団長は勇者に対して連続突きを繰り出す。
「くっ・・・」
反撃の体勢から急遽、回避の体勢に変え攻撃が中断される。
互いの攻撃が邪魔になったり、援護になったりする状況。十五分と言う短い時間だが、戦っている者たちは長時間の戦闘を行っているような感覚である。最初の死に至らしめる攻撃は禁止と言うルールは、あってない様なもの。かなりギリギリの攻撃を三人は行っており、そのすべてを紙一重で躱すか、受け流すか、受け止めるかしている。
終わりなき戦いが何時までも続くと思っていた・・・・。けど、終わりは必ず訪れる。
均衡する三人の力に一息入れようと全員がその場から後退する。
呼吸を整えなおした三人は互いに、全力でぶつかり合うために力を貯め始める。勇者コウジ・シノモリは聖剣ジャワユーズの力の一部を開放し、アレクシス騎士団長も同様に自身の光魔剣アリュアンデスの力を開放する。
聖剣・・・音の聖装武器であるジョワユーズ。光魔剣・・・光の魔装武器であるアリュアンデス。どちらも強力な武器で、聖剣に関しては魔剣とは比べ物にならない程協力だ。
対するレオンハルトは、刀を鞘に納め再び居合の構えを取る。けれど、先ほどとは明らかに集中力が違うのが周囲の人でも認識できるほど集中していた。魔装武器を持たなくても対等に戦えるレオンハルト。技量だけで言えば三人の中で誰よりも実力があるのはこの時点で明白になった。
お互い力と集中力を高め、最高潮に達した瞬間―――。
「神明紅焔流抜刀術奥義弐ノ型『真達羅』」
「聖光を指し示せ、アリュアンデス!!『ホーリーストライク』」
「奏でろジョワユーズ『鳴音激衡斬』」
三者の大技が炸裂する。三者とも選択した技は突進系による斬撃。身体強化魔法と元々の身体能力で高速から超高速の戦闘となり、技を放ったと思ったら三者のど真ん中で激突し、激しい火花と剣圧、衝撃波が結界内の空気を揺るがした。
誰一人譲らぬ攻撃に遂に結界魔法の方が先に限界を迎えた。衝突する衝撃波を再三にわたり浴びた事で結界にヒビが入り、徐々にヒビ割れが拡大。危険を感じた三人は、後方へ跳び溢れ出る圧を抑えた。
「・・・・・こ、この勝負引き分けッ!!」
アメリアが審判を下すと、騎士や仲間たちは喝采の拍手を三人に贈る。
それ程、凄まじい試合を見せられたのだ。
「驚くべき力だな・・・」
「ええ、流石騎士団長と言う所でしょうか。最後魔剣の力を使いましたが、それまでは素の実力でした。勇者に負けぬあの実力は、まさに王国最強の騎士と呼べるでしょうね」
アウグスト陛下の率直な感想に隣に居た大臣の一人がアレクシス騎士団長の勇姿について語る。
彼の言う通りなのだが、アウグスト陛下が気にしたのは・・・その二人に負けぬ実力を示したレオンハルトに対しての率直な思いだったのだ。
「陛下の言う人物は騎士団長の事ではありません。齢十四で勇者や騎士団長とあそこ迄互角に戦えるアヴァロン卿の事を言ったのですよ」
エトヴィン宰相がアウグスト陛下の代わりに説明を行った。
魔族殺しの英雄。誉ある二つ名だが、本当に驚くべきなのはまだ成人もしていない少年が単独で魔族を討伐したと言う事、それも一度や二度ならず幾度となく戦闘を行い勝利してきている。下級魔族ですらかなりの手練れを集めて漸くと言うのに上級すら単独で渡り合えるのだ。一般の者よりも遥かに実力を兼ね備えている。
それに、他に者たちは気づいていないだろうが、勇者は聖剣を、騎士団長は光魔剣を使用していた。対するレオンハルトはトルベンが鍛えた最高の武器ではあるが、聖剣や魔剣の類ではない・・・言うなれば普通の武器。
今回、聖剣や魔剣に対してかなりの制限を掛けていたが、全く欠けていない訳でもない。つまり武器の所有している段階でレオンハルトは他の者たちよりも数段戦闘力を欠いていたと言う事だ。
宰相に言われて、その場にいた大臣たちは改めて彼を注目する。
疲れた様子は見せているもののほかの二人とほとんど変わらない姿で、その場に立っていた。
言われるまで気づかなかった大臣たちは、その事実を再認識して顔をひきつらせた。
騎士たちによる拍手喝采の終わりを見せたタイミングでアウグスト陛下は彼ら三人に称賛の言葉を述べた。三者引き分けと言う残念な結果になってしまってはいるが、それでもこの成績は誇ってよいと・・・。
陛下の言葉が終わり、王城に戻る陛下や臣下たち。俺たちも一度控室のようなところに戻り、来ていた服を脱いだ。
アレクシス騎士団長は全身鎧仕様で、勇者コウジ・シノモリは布地に所々鎧などを身に付け勇者らしい赤いマントを付けた半身鎧仕様、レオンハルトはブラックワイバーンレザーコートに軽装材の篭手などを身に付けた見た感じ防御に難ありのロングコート仕様。
試合前に皆着替えていたが、試合後は着て帰ると言う事をせず、きちんと片付ける。レオンハルトは、冒険者活動で使用するブラックワイバーンコートから学生服に着替え、勇者は半身鎧を外した布地のみの姿に変わる。
唯一、騎士団長だけはそのままの姿で過ごすらしい。
騎士としてきちんと身なりを気にしなければいけないという精神からだろう。この暑い中よく全身鎧を着ていられると感心するレオンハルトだった。
制服に着替え終わると、勇者コウジ・シノモリからまた、時間がある時に模擬戦をしようと誘われる。彼の仲間も決して弱くはないが、あれ程の密度の練習が出来るかと言われれば、間違いなくできないと答える程、今回の模擬戦は得るものがあったらしい。
「それに、君の武器や戦い方に少し興味もあってね。模擬戦抜きにしても近いうちに食事でもしないか?」
「此方も聞いてみたい事があるので、都合が付けばよろしくお願いします」
結局、王城を出る頃には太陽はすっかり見えなくなり、太陽の代わりに満天の星空の中屋敷に帰るのであった。
「であるからして、皆さんくれぐれも道中に気を付けて帰省してくださいね」
王立学園の学園長の挨拶を聞き終えると、皆それぞれの教室に戻る。
勇者コウジ・シノモリやアレクシス騎士団長たちとの模擬戦から一月近くが経過した。今日で学園は終了し、明日から夏季休暇に突入する。この一月の間に旅の準備を着々と進め、手が空いている時に冒険者活動や勉学、商会の新製品開発などに勤しんだ。
それと、約束通り勇者コウジ・シノモリと食事を共にし、聞きたい事を尋ねたり、逆にある事を質問攻めにあったりした。話をする過程で、レオンハルトの公には公表されていない秘密を話す事になった。
まあ、向こうも確信めいたものを持っていたそうなのだが・・・。
此方が効きたい事はただ一つ。訪れた地方で米があったのかと言う事。勇者もこの世界に来る前はライ米と言うお米を主食にしていたらしい。前世で食べていたお米と少し形状が異なるそうだが、調理手順や食べた時の感覚は同じなので、お米で間違いないのだろう。
少しお互いの持つ情報に齟齬を感じ、確認した結果。勇者コウジ・シノモリは地球から召喚されたらしいが、俺たちの知る地球とは似て非なる世界の様だ。
俺たちが済んでいた国は日本という場所だが、勇者コウジ・シノモリの住んでいた所は日本連邦国と言うらしい。世界最大の国もアメリカ合衆国ではなく。新アメリカ連合国家だった。
どうやら、これが神の語っていた平行世界だとか次元がどうとか言っていた内容なのだろう。実際に同じ地球であっても多次元世界による別々の世界の地球なので、似ている事も多いが、違う点も多々ある。
話がそれてしまったが、結論から言うとなかったそうだ。その返答を聞いて愕然とする姿を見た勇者コウジ・シノモリは、更に言葉を掛けてくる。
「全ての国や地方を回ったわけではないからね、もしかしたら訪れていない場所では存在するかもしれないよ?」
まあ、もしかしたら国内でも全てを見て来たわけではないから、諦めるには早い。それに、夏季休暇中は貴族としての役目を果たすため幾つかの国を訪れる事になっているが、聞けば勇者コウジ・シノモリは、四つの国の内二つはまだ訪れた事が無いという。
だから少しだけ、ほんの少しだけ期待しているのだ。
「レオンハルト殿も帰省されるのですか?」
声を掛けてきたのは、今年から同じクラスで一緒になった生徒で、一般的な会話ぐらいでそれほど親しい間柄でもない。ただ何となくの会話だと思っていると、会話の中で今年彼女の帰省先がレカンテートだと言う。
どういうことなのか聞いてみたところ、先月の上旬頃から彼女の両親がレカンテートに移住して、そこで商売をしているそうだ。だから、レカンテートの領主である自分に少し話を聞いてみたかったのだとか。
これまで聞いてこなかった理由は分からないが、此方で把握している内容を教えてあげた。これからと言う部分が多いが、現在の発展具合は以前に比べてかなり生活しやすくなっている。特にレカンテート行の馬車がイリードから頻回に出ていると話すとすごく喜んでいた。
普通は、何日かに一度の往来になるが、現在は一日に四便も出ている。それだけ、イリード等の周辺の街を中継にレカンテートへ訪れる者が増えた。
人手や専門の職人、物資等の開拓に必要な事、開拓を行うにあたっての支援する者たち商売をする者たちの往来も必然的に増えるのだ。
教室までの短い距離だったので、それほど長い会話ができたわけではないが、彼女の両親がレカンテートに移住し働いているのであれば、彼女との交流も今後増えてくるかもしれないと思いながら、教室に辿りついた。
「レオンハルト様?今日はお父様にお会いするのですか?」
夏季休暇に入る時に陛下たちの下へ訪れて、最終打ち合わせをするようにしていた。レーア王女殿下もそのことは知っていたようだが、夏季休暇に入ると言う曖昧な日にちに対して、今日なのかどうかの確認を取りたかったのだ。
「明日の朝一番に訪問するようにしているよ」
その答えを聞くと、少し寂しそうな表情をする。もし今日なら一緒に帰れると思ったからで、違うとなれば一緒に帰る必要はない。
まあ、王城に行かないから一緒に帰れないと言う事はないのだが、彼女の落ち込みようをみて一緒に帰るかと誘う。落ち込んだ表情だったレーア王女殿下は、花が咲いた様な笑顔を見せる。レーア王女殿下と帰ると言う事は、シルヴィア王女殿下に加えてローゼリア皇女殿下も必然的についてくることになる。
なので、寄り道をしようものなら大所帯となる事は必然。逆に言えば、学園内であれば多少大所帯になっても問題ない事も多い。と言うわけで、俺たちは学園内にあるカフェに行くことにした。
クルトは、ユリアーヌと予定があると言う事で、彼とヨハンの二人が先に帰る。
あれ?
男俺一人じゃね?って思ってしまうが、よくよく考えると仲間内の男女比が圧倒的に女性に傾いているので「今更か?」とあきらめ、紅茶を啜る。
他愛ない話をして半刻程経過し、そろそろ解散と言う話になるタイミングで、此方に寄ってくる人物がいた。
「レーア殿下。そろそろお戻りなりませんと」
現れたのは迎えの騎士たちだ。学園内に残る事は先に帰ったヨハンたち経由で伝えてもらったのだが、流石にこれ以上遅くなるのは良くないと判断した騎士たちが此処まで迎えに来た。
きりが良かったので、そのまま解散し翌日は予定通り王城へと足を運んだ。
王城に来た目的は、王命である四カ国を訪れる際の最終打ち合わせだ。王都を出発するのは五日後で、予定のルートを話し合ったり、避けた方が良い道などを教えてもらったりした。主に天候による道の選択が多かった。雨の日は避けるとか、風が強い日は通れない等が主で、盗賊が頻繁に出るとか、魔物が多いとかは彼らの実力からしたらそれほど気にする事は無い。ただ、高ランクの魔物が出る場所は余り通らない方が良いと言われる。
幾ら魔族が殺せるような実力だからと言っても、高ランクの魔物数体を同時に相手にするのは危険が多いからだそうだ。何が起こるか分からないという意味ではレオンハルトも同意見だった。
どうしても避けられない危険区域としてはやはり、魔の森ミストリア大森林だろう。こればかりは、運を味方に付けるしかない。
話し合いの中で、魔の森ミストリア大森林の中にあるエルフの里を偶然発見出来たら、エルフの作る紅茶の茶葉を購入してきてほしいと頼まれた。かなり貴重な紅茶の茶葉を沢山扱っているそうで、中でもエルフ紅茶と呼ばれる紅茶が良いらしい。エルフの里でしか取り扱っていない紅茶で、飲むにはエルフの里で購入した者が市場に出回るのを買うか、自分自身で買い付けに行くしかないらしい。
口当たりが良く爽やかな風味が特徴らしい。ミントティーみたいなものだろうか?
「準備の方は順調か?」
「ええ。今回の件で、更に快適な移動ができる様手を加えましたから」
レオンハルトは、今回の話を聞いてから、兼ねてより考えていた馬車を魔改造した。馬車以外に皆の装備の幾つかを一新している。ワイバーン製の防具はそのままなのだが、成長に合わせて少し修正し、デザインも多少変化させた。
男性陣は、刺繍や装飾品などが追加されより以前よりかっこよくなり、女性陣は、男性陣と同じく刺繍があしらわれているが、それ以外に女性らしさを感じるお洒落風なデザインとなっている。膝上ぐらいのスカートの者も居て、戦闘では見えてしまうのではと思ったが、そのあたりはシャルロットが対策詰みらしい。
後は、腕輪や指輪、耳飾り、ネックレスなどの装備品も加えているし、腰に付けたベルトには専用のポーチを付けている。ポーチにも魔法の袋と同じく魔法付与を行い要領の拡張もしている。
「そ、そうか。では、出発の前日に再び余の元を訪れよ。その際に其方が作った写鏡の魔道具と親書を渡す」
「それと、その時に今回の路銀も渡すので、忘れない様に」
今日は打ち合わせだけだったので、その後は王と臣下ではなく。プライベートの間柄として世間話を行った。
「そう言えば、うちの娘から例の件を聞いてお願いしようと思っていたのだが」
エトヴィン宰相は、やや興奮気味に話しかけてくる。先程まではあれほど冷静な対応をしていたというのに・・・。
「あのギョーザと言う料理のレシピを教えて下さるとか」
エトヴィン宰相やラインフェルト候はごくたまに我が屋敷にやって来ては娘と交流を行うと言って夕食をご馳走になりに来る。
何時だったか、ギョーザを提供したところ、偉く気に入ってしまい。作り方を教えてほしいと懇願されていた。
作り方が手間なのと忙しくて忘れていたのだが、ある時仲間たちでギョーザを食べている時にレシピの件を思い出し、手が空いた時に作っていたのだ。
「此方がレシピです。長くお待たせして申し訳ありません」
魔法の袋からレシピの記載された羊皮紙を渡すと、嬉しそうに受け取るエトヴィン宰相。すると自分たちの分はないのかと言う物欲しいそうな目で訴えてきたので、予め用意していたレシピ集の束をアウグスト陛下やラインフェルト候にも渡した。
アウグスト陛下は、まだ一度も食べた事が無いが、エトヴィン宰相たちからの話を聞いて非常に興味を持っていたそうだ。
庶民的な料理なので、教えるのが少しだけ心苦しいのは内緒である。
聞けば、次の日の夕食には何処の家庭もギョーザが出てきた事は言うまでもない。
いつも読んで頂きありがとうございます。
また、誤字脱字の御報告もありがとうございます。
出来る限り、減らしていきたいと思います。
これからもよろしくお願いします。




