127 この世界での母の日
おはよう。こんにちは。こんばんは。
今日は母の日ですね。と言う事で内容も少しそっち路線に寄せてみました(笑)
「なる程、そのような事になっているとは・・・。此方でもすぐに調査いたします。アヴァロン卿には大変ご迷惑おかけしました」
俺とクリストハイトは、現在王都にある商業ギルドアルデレート本社へ足を運び、模倣品で当商会が非難を浴びてきていると説明しにきた。俺が来たことで、すぐに支配人のロベルトの元へ案内され、状況を報告する。ロベルトはまだその事実を把握して否かたようだが、調査の手続きの為に受付嬢の一人・・・と言うより担当受付嬢となっているテスタロッサは昨日それらしい噂を聞いたそうだ。
ロベルトに「そう言う大事な事は直ぐに報告しなさいッ!!」と怒られていたが、一度聞いた噂を鵜呑みにも出来ないので、今回に関して彼女は悪くないだろうな。少し申し訳ない事をしたと思ってしまう。
「ところで、話は変わるのだけど、テスタロッサさんって今も俺たちの専属担当者なんですか?」
レオンハルトはロベルトに彼女の処遇を聞いた。テスタロッサは俺たちが初めてここを訪れた時に粗相を働いてしまいそれが原因で、こってり絞られ、更に俺たちの専属担当者になる様に言い渡された。
普通であれば、喜ぶべき所だろうが、相手は貴族当主の上、更に巷を賑わす有名人。そんな人の担当など、少し失敗しただけでどんな事が起こるのか見当もつかない。
「ええ。そうですが・・・まさか、また彼女が何か粗相を働きましたか?」
こんな聞き方をしてしまったので、勘違いをする支配人のロベルト。粗相はしていない寧ろよく頑張ってくれていると伝えると安堵の表情を見せた。
では何故こんな事を聞いたかと言うと、今回の模倣品の一件でかなり厳重にある事を進めたいが為、それをするには彼女の力を十二分に使う必要があったからだ。
そう聞くと、大手の仕事が舞い込んできそうだと判断し、顔を引き締め直すロベルト。まだ案でしかないが、頭の中で描く内容を一つ一つ説明する。
「――――ッ!!まさか、そんな事が可能なんですか?」
「ご主人様、それを行うには数年単位の計画を有するかと?」
「恐らくは可能だと思います。ですが、これを内密に進めていきたいので、テスタロッサさん一人では難しいかと、それとクリストハイト。これは、年単位で進めるつもりはない。年内には完成させるつもりでいる」
あまりに恐ろしい計画。けれどその計画が現実化されれば、王都・・・いや、国で抱える問題の何パーセントかは、確実に解決される事案だった。
「承知しました。テスタロッサ一人では荷が重いでしょう。彼女の専属は継続ですが、彼女に部下を付ける事にしましょう。勿論、商業ギルドの威信にかけて身元調査などはしっかりしておきます」
この計画に旨味があるのはレオンハルトたちや王家だけではなく。商業ギルドにも大きな旨味を得る事が出来る。
ロベルトとの話し合いも終え、レオンハルトたちは商業ギルドを後にした。帰り際に、模倣品を取り扱っている商会の裏も探ると言っていたが、楽しみに待っておこう。
クイナ商会のお店に戻るとクリストハイトを降ろし、後を任せ一度学園に向かった。
シャルロットたちに午後の授業は参加すると話していたからな。
学園後は早々にクイナ商家へ戻り、シャンプーやリンスの容器改良に尽力を注ぐ。脳内である程度の設計図は思い描いていたし、必要となる素材も確保している。この世界ではまず無理だろうその容器・・・半透明なプラスチックで作るもの。現状のものは箱に入って必要な分だけ手で掬う物とチューブ型、二つより値が張るプッシュタイプのもの。プッシュタイプ以外が模倣品として出回っているので、全てプッシュタイプの物に変更。これだけでは、また模倣品が出回る可能性があるために半透明若しくは色付きの透明にするようにした。
この機に及んで更に詰め替え用も考えているが、此方はどの様な形状で販売するか皆で話し合う必要がある。
使用する材料は前世では原油から作られたりするが、この世界で原油の事は聞いた事が無い。恐らく原油は存在するのだろうが、魔法と言う概念が存在する世界では需要があまりないのだろう。
それと、文化のレベルの違いもあるかもしれない。前世では原油はとても重要な物の一つで、原油からはガソリンや灯油、軽油と言った物が取れる。何をするにしても必要不可欠な物となっていた。特に車だろうか、昨今は温暖化の事を考えて電気自動車等が流行り始めているけれど、まだまだガソリン車の方が圧倒的に多かった。この世界は車ではなく馬車を用いる。だから環境には優しい・・・・馬に優しいかは別だろうけど。
そう言う点からも原油と言うものの需要はないに等しい。
では、何から作るのか・・・今回は、樹脂と特殊な液体、それに粉末状にした魔石を加えて魔法で調合する。魔石は、ゴブリンから取れるような粗悪の物でも大丈夫だろう。
形に関しては金型を作って圧縮し形を作る圧縮成形、一気に作る事も可能だがそうなると金型の方に面倒な工程を幾つも入れなければいけないので、今回は容器の左右をそれぞれ作り、後でくっつける様にする。
専用の接着剤を使用すれば剥がれる事もないだろうし、何よりそっちの方が幾分楽だ。
樹液確保は、手の空いているダーヴィトたちにお願いして、特殊な液体と専用の接着剤はレシピと作り方を見せてローレたちに頼む事にする。彼女たちも今では調薬、調合系は職人並みの実力となっているし、水薬等の各種薬は、シャンプーやリンスに引けを取らない戦力商品となっている。
シャンプーやリンスを作る手伝いもしてくれていたので、その作業がない分余力もあるはずだ。まあ、今後の事を考えると人手を増やした方が良いのだろうが。
金型は、ベルトたちドワーフ族に作らせれば良いか。魔石もルドミラたちの訓練がてらゴブリン討伐に出てもらえれば、それなりに集められるだろう。
「承知しました。では、新しい容器が出来るまでは、販売を中止しておきます。それと、此方は何で御座いましょうか?」
クリストハイトの目の前にとある新商品・・・それも期間限定で販売する商品のサンプルを置いた。
「これはフラワーアレンジメントって言って、家に飾ったりするお花だよ」
それは見て分かるが、何故わざわざ飾り花を売るのかが分からない。花を買うなら花屋にでも行けば良いのだ。花屋の方が取り扱う花の数や種類、知識など豊富で我々の様な知識も碌にないような者が手を出してよいはずもない。
困惑するクリストハイトに、追加で説明を始めた。
「花は花屋で買うのが良いけど、これは花を使った商品なんだよ。だから花屋でもうちの様な商会でもどちらでも取り扱える商品が、このプリザードフラワーとハーバリウムってわけさ」
「プリザードフラワー?ハーバリウム?それがこの二つの商品の名前ですか?」
サンプル商品は二種類あり一つは暖色系にまとめられた他種の花を飾り付けたプリザードフラワー、もう一つは透明度の高い円柱型のガラス瓶に寒色系や黄色系、緑色系を散りばめ特殊液を入れて色鮮やかなハーバリウム。
これは、レオンハルトが作った物ではなく、シャルロットが発案して形にした物。アニータやティアナたち女性陣が頑張って作ってくれたし、花などは王都周辺の草原に咲いている自然の花を使った。花摘みは孤児院の子供たちでもできるので、シャルロットが子供たちにお願いしたら二つ返事で引き受けてくれたそうだ。
ハーバリウムの特殊液は、プラスチックを作る過程で使用する特殊な液体とはまた異なる液体だ。ハーバリウムの特殊液は、シャルロットがエルフ族のフェリシアとシルフィアの協力を得て完成させた。
俺にはこの液体の作り方を知らないので、恐らくシャルロットの方の恩恵に制作方法があったのだろう。
ヴァーリの恩恵を貰っていても俺たちは異なる知識を得ている。大半は共通しているが、こう言う部分では知っている知識と知らない知識に分かれているのだ。
「どちらでも扱えるですか?・・・それはどういう意味でしょう?」
「言葉通りの意味さ、これは飾り用の花だけれど、生け花とは違う加工した花なんだよ。もっとわかりやすく言ったら、野菜を育てる農家の人に家庭菜園している人が、野菜の種類や量で勝つのはまずできないだろう?」
「―――それは、勝てないでしょうね」
例に例えて説明するレオンハルト。クリストハイトはレオンハルトが何を言いたいのか趣旨を理解しようと懸命に頭を働かせる。
「農家に野菜の種類、量で勝てない。けれど、家庭菜園で育てた野菜を自分なりに工夫して人に売る。これは果たして農家の人に勝てない事だろうか?」
「売る物によりますが、それぞれの家で味付けは異なるので、美味しければ買ってくれる人も多いはずです・・・・ッ!?そうかっ!!」
如何やらクリスハイトにも俺が伝えたい趣旨を理解したようだ。
要するに他が真似をしても構わない自家製の商品。そして、同じ物が一つとして存在しない一品物。製作者や使用する花、容器、色遣いなど様々な要因で変化するのだ。
「それと、このプリザードフラワーは生花を加工しているから、見た目は生花そっくりでも生花よりもかなり長持ちをするよ」
「それは凄いですね・・・ですが、それが本当なら花屋の方は経緯が悪化したりしませんか?」
一時的に売り上げは下がるだろうが、何事にもメリットとデメリットがある。生花は安価な値段で手に入るが、このプリザードフラワーは加工する手間や花の水分を取り除くための液体などコスト面が発生するので生花よりは値段が高くなる。
加えて、プリザードフラワーは紫外線や湿気にも弱い傾向にあり、花そのものも壊れやすいという欠点がある。
ハーバリウムも同じだ。特殊液と言うコストだけではなく、限りなく透明なガラスの容器しかも密閉に出来なくては意味がない。空気の入れ替わりなどがあるとハーバリウムの消耗が激しく直に駄目になってしまう。完全密閉していれば、大方五年は持つだろう。
まあ、特殊液によって一年だったり半永久だったりと振れ幅が広いが、半永久的だとしてもそんなに長い間置いていると言う事も少ないだろうから。五年ぐらい持てば御の字だろうさ。
これら以外にもドライフラワーもあるが、此方は既に存在しているので今回は特に何かするつもりもない様だ。ドライフラワーも観賞用の物ではなく薬用や染物で使うらしいが。
「ですが、何故急に新商品を?」
「ああ、このプリザードフラワーやハーバリウムは、日頃お世話になっている両親へ感謝の気持ちとして渡すって言うのはどうかと思って考えたらしい」
本当は母の日と言う意味だが、じゃあ父はどうするのかと聞かれたら面倒なので、両方にしておいた。ただし、シャルロットが作る際にリーゼロッテたちに伝えたのは、アンネローゼへ日頃の感謝を渡したいからと説明し、ついでに皆もそれぞれの母親に渡すのはどうかと提案して決まった。
まあ、父親が花を貰ってもどうしようもないだろうし、子供から貰えるのであれば嬉しいだろうけどその後の事を考えると別の物の方が良いかもしれないと、クリストハイトへ言うと「確かにそうですねー」とやや苦笑いをしていた。
シャルロットたちは、かなり前から作っていた様で、それぞれ二百を超える数を用意してくれている。それも大中小と分けている辺りがまた彼女たちの心遣いなのだと思えた。
「もう少し数は欲しいですね。此方からも女性従業員を派遣しますので、その者たちを手伝わせてください」
女性従業員と言っても半数は俺の奴隷や使用人たちなのだが・・・。残りの半数は、クリスハイトが自ら面接して選んだ正規に雇用された者たち。
ある意味シャンプーやリンスの販売が出来ない間に販売を開始すれば、客足が減る事もないだろう。あと、念を押す様に期間限定販売と言う事を説明しておいた。
常時発売していたら、話題性や特別感が得られにくくなる。特定の日を決めて、それまでに販売する形が良いだろうと説明する。
クリスハイトもその方が、ある意味定着しやすいですし、他の商会が手を出しても此方は数に制限があるので、話題になり始める事には手に入れられないと言う事もありそうと考えていた。
「では、誰かにイラストを描いてもらって、より目立つように販売しよう。コメントや後はそうだな・・・宣伝文句もありだな」
宣伝文句?と頭をかしげるクリスハイトに「例えば、何時もお世話になっている方へ、感謝の気持ちを・・・とか、真心を込めて・・・とかさー」と言うと、すごく同感してくれた。
打ち合わせも終わる頃には日が傾いていたので、そろそろ終わりにするかと片付けを始める。クリスハイトはこの後、本日の売り上げや従業員たちからの報告をまとめて俺に提出するための報告書を作らないといけないそうだ。
俺は一足先に馬車に乗り込み、屋敷へと送ってもらう。そう言えば忘れてはいけないと途中で馬車を停めてもらい、御者をしてくれていたルドミラへお土産を買って渡した。
今は仕事中なので、終わってから食べると良いよと言って渡した物は、ルドミラや他の奴隷たちが好きな肉の串焼き。恐らく食べる頃には冷えてしまっているだろうが、台所を使う事は禁止していないので、自分たちで温め直すだろう。
本当であれば買い食いと言う形式がよかったが、時間が時間なのでお土産と言う形にした。彼女だけだと他の者がかわいそうなので、人数分きちんと用意している。ルドミラには、もう一つ小さな小包も渡しておいた。此方は一口サイズのお饅頭みたいな食べ物。
名前は確か・・・パオズィと言う。名前が中国の点心の一つ小包に似ているのは偶然だろう。
再度出発する前にルドミラにそれを渡して食べさせる。こういう場合業務を優先するのが奴隷たちなので、食べる様に命令して食べさせておいた。
とても感謝され、今日一日付き合ってもらったお礼と言って、食べ終わるのを待ち。その後出発した。
その晩、ルドミラに渡したお土産は、奴隷たち皆で美味しく食べたそうだ。一部肉を食べない者も居るので、それに関してはパオズィを渡す様にしている。
それから三週間が経過した。
「アンネさん。これ良かったら受け取ってください」
俺とシャルロット、リーゼロッテたち孤児院で生活していた組は、俺が所有する別の屋敷へ訪れ、プリザードフラワーを渡した。そのタイミングを見計らって孤児院の子供たちも自分たちで頑張って作ったハーバリウムを渡した。
「どうしたのこれ?とても綺麗だわ」
子供たちは日頃の感謝を込めて、俺たちは今までお世話になった感謝を込めて贈り物をと用意した事を伝えると、アンネローゼは涙ぐみながら受け取る。
ティアナやリリー、レーア王女殿下も同様に実家で両親にお手製のプリザードフラワーを渡していた。
後から聞いた話だが、皆嬉し涙を流しながら受け取ってくれたそうだ。
そして、この母の日プロジェクトも無事大成功を収める事になる。ある者はいつも支えてくれる最愛の妻に、またある者は久しぶりに里帰りと称して渡しに行ったそうだ。子供たちも自分たちの母親にプレゼントを渡すと息巻いて、プリザードフラワーやハーバリウムを購入していった。流石に子供たちのお金だと大きい物は変えないが、そこはレオンハルトがオーナーとして在籍するお店。子供には小さいサイズの値段で中サイズを自身で作る体験コーナーを設け提供した。
これがまた繁盛を呼んだのは言うまでもない。そして今日の事がきっかけで来年以降も母の日の贈り物が支流となり、数年後にはアルデレール王国だけでなく周辺諸国でも広がりを見せる一大イベントとなってしまうのだが、今はまだ先の話である。
「貴方たちのお店で、何かしているのは聞いていたけれど・・・この事だったのね。皆ありがとう」
アンネローゼの言葉に孤児院の子供たちは大喜び。勿論、アンネローゼだけでなくミュラーや他のお手伝いにも渡した。
ミュラーは俺たちにとっては祖母みたいな人で、この人にも色々お世話をしてもらっている。最近少し身体の調子が良くないと言っていたので、少しばかり気になるが・・・。今度時間を作って診てあげよう。
「これは、レオン君のお店で何時でも買えるのかい?」
ミュラーは、プリザードフラワーをとても気に入ったようで、もう少し自分用に購入したいそうだ」
「お店だと今日までですね。期間限定の販売で今のところは進めようかと思います。手が空けば一般販売でも良いとは思いますが、沢山売れるのは今だけですよ。物珍しさに売れていると言うのもありますから。ミュラーさんにだったら、個別で作っている物をお譲りしますよ」
ミュラーは「ありがとう」と言って、孤児院の子供たちを連れて部屋を退出した。俺たちとアンネローゼへ配慮してくれたようだ。とても気を使ってくれる感謝してもしきれない人の一人。
残された俺たちは他愛ない話をして盛り上がる。
「そう言えば、シャンプーやリンスの販売はまだかかりそう?そろそろうちの在庫が心許ないのよね」
アンネローゼたちも愛用してくれているシャンプーやリンス。皆固形タイプの物より液体タイプの方が使いやすいそうだ。
未だに販売を中止しているが、もう少ししたら販売が出来そうと教えるとすごく喜んでいた。身内だから無償で提供すると言っているが、きちんとお金を払うと言う事で、従業員割引きで卸している。男性陣はあまり気にしないが、女性陣は物凄く切実なのだろう。
最近クリスハイトから届く報告書にも、販売は何時頃から開始されるのかと言う問い合わせが非常に多いそうだ。クレームの件は商業ギルドに相談して以降激減し、今では一人も良いに来る事は無い。
模倣品を取り扱っていたお店は商業ギルドが厳しく調査をし、かなり法に触れるギリギリの事を裏でしていたと言う事もあり、お店の没収、商業ギルド剥奪の永久追放が言い渡され、悪さをしていた事から兵士に連れて行かれて犯罪奴隷に落とされたと風の噂で聞いた。
「今回は、今までのものより更に進化させていますので、使用後の感想をまた教えてください」
まあ、俺の予想だと再来週ぐらいにはお店に並ぶのではなかろうか?シャンプーやリンスの容器がメインではあるが、実は液体も少々改良を加えていたりする。
因みに改良をした方のシャンプー類はまだ誰も使った事が無い・・・いや、正確には俺たちメンバー間でしか使用していない。使用後は使用人たちにすぐばれてしまったが。
そうそう、説明しておかなければいけない案件が後二つほどある。一つ目はこの三週間の間にクイナ商会に商業都市プリモーロのハンナの染物兼衣服作りのお店と彼女の両親が経営する洋服店、交易都市イリードのトルベンが工房を開いている鍛冶屋をクイナ商会に引き入れた。三つとも己の商会を立ち上げずにお店を開いていた。商会を立ち上げなくても彼らの様にお店を出店する事は出来る。商会を企業と考えるならば、個人のお店は自営業みたいなものである。
彼らはクイナ商会に入っても今まで通りの仕事を行っている。
なら何故今この時で引き入れたのか・・・それは、今回シャンプーなどの容器を作る過程で、工場を王都に建設した。工場と言っても町工場程度の規模でしかないが、この工場で容器生産に当たりクイナ商会の鍛冶職人、ドワーフ族のベルトとブラム、それに人族のインゴルフの三人だけでは人手不足と技量不足だったから、一流と呼ばれる地位にまで上り詰めたドワーフ族のトルベンやその弟子たちを巻き込んで、完成させる必要があったのだ。
まあ、前々からお誘いはしていたが、積極的ではなかった。トルベンも俺の誘いなら断らないでいたが、誘いに真剣さが感じられず、保留にしていたと言うわけ。何せ日本刀と言う新しい武器を共に切磋琢磨して作ったあの時の燃える様な情熱を求めていた。
今回は、情熱があったかと問われると怪しいが、物作りに対する熱意を感じ取ったからトルベンもレオンハルトからの誘いを素直に受ける事にした。
鍛冶師たちは、持てる技術を最大限に振るい。レオンハルトと共に試行錯誤しながら如何にか完成させたのだ。
ハンナや彼女の両親を加えたのにも事情がある。
ハンナの使う染め物用の着色液で、シャンプーなどの半透明の容器に色を加える事が出来るから。両親には、プラスチックの制作で生まれたプラスチック廃材をリサイクルして、別の商品として生まれ変わる手伝いをしてもらっている。
その名もシフォン素材のプリーツドレス。一般の衣類と異なるが、精通している所も多くシャルロットがデザインした服を再現するように作ってくれている。元染物職人の母親と元洋裁師の父親がいるのだ。きっと良い物が完成するはず。廃材のリサイクルに関してはまだ何も進めていないので、良い物が完成すると言うのは、願望でもある。
最初は人力で製作していくだろうが、いずれは魔法を最大限に活用した全自動化を目指すつもりだ。とは言え、今の段階ではまだ作れない。素材も時間も人手も金銭も何もかもが足りないし、何より人力の方法ですら手つかずに近い。
それに、段階的に言えば人力の次は、魔法生物のゴーレム人形を作ってからだろう。
ゴーレム人形とは、魔石を特殊加工して無機物に仮の命のような物を与え動かす魔道具。形や大きさなど外装製作者のセンスや用途で異なるが、この国ではかなり貴重なもの。王城の中にあるとされているが、俺は未だに見た事が無い。
最もゴーレム人形を保有しているのが魔法国家ルークシオンである。アルデレール王国と同じ大陸にあり、大陸の中央部に存在する大国の一つでもある。魔法や魔道具など他を圧倒する文化があるのだ。
因みにゴーレム人形とゴーレムは全く違う魔法生物になる。ゴーレム人形は魔道具に分類されるのに、ゴーレムは魔物扱いになる。自身で考えて行動する事が出来るそうだ。同系列の魔物で言うと、マッドドールやスノーガード。マッドドールは泥人形でゴーレム同様に魔法生物。スノーガードは大陸北部に生息する魔法生物で見た目は雪だるまの様な姿をしている。
話がかなり脱線してしまったが、ゴーレム人形を作るにしても基盤は必要だ。なので、手を出すにしてもしばらく先になるだろう。
そんな話をして一週間後、遂にシャンプーやリンスなどの販売再開を果たした。前々日から再販の案内もしていただけの事はあり、開店前から長蛇の列が出来ていた。
「うわーすごーい。こんなにもお客さんが並んでる」
ハンナとその両親も手伝いに来てくれているが、両親は長蛇の列を見て唖然としていた。
「まあ、無理もなかろう。儂とてあのシャンプーとか言ったか。あれを嫁さんに渡したら「あんたは帰ってこなくても良いから、これだけ送ってきなさい」って言うぐらいだからな。参ったぜ」
トルベンも同様に再販する商品の売れ行き具合が気になる様で、クイナ商会仮本店に姿を見せていた。
仮本店と付けたのは、商業都市プリモーロのハンナのお店と両親のお店が加わり、クイナ商会プリモーロ支店洋服専門店と交易都市イリードのトルベンの鍛冶工房が加わり、クイナ商会イリード支部鍛冶専門店として名を変える事になった。なので、発祥の地である王都を本店と言う風にした。仮が付いているのは、いずれ本店を王都からレカンテートに移動させる予定だ。移動させた後の王都のお店は、アルデレート支部総合施設○○的な名前にしようかと考えている。
当然、イリードやプリモーロにも専門店だけでなく他の専門店を考えているし、総合施設も作れれば良いなとさえ思っていた。レカンテートだと自分の領地なのである程度融通が利くが、イリードやプリモーロは他の貴族が統治しているので、専門店程度は問題ないが、大型のショッピングモールみたいなのを作ろうとするなら、きちんと話し合う必要があった。
王都は、アウグスト陛下かエルヴィン宰相に話を持ちかければ、問題ないだろう。
「いらっしゃいませ」
開店の時間になるとお客が一気に流れ込んできた。従業員たちは来客の度にきちんと挨拶をして接客をする。
お目当てのシャンプーやリンスのリニューアルモデルを見たお客は、シンプルなのに美しい全く新しい容器に目を奪われる。
「ちょっとちょっと、これどうやって使うの?前とすごい変わりようだけれど」
透明なプラスチックの加工段階で色を付けて、色付きの半透明容器を作った。色鮮やかに並ぶ容器にはトップの部分に謎の突起物が作られている。箱タイプやチューブタイプとはまた大きく違うので、色鮮やかな光景に目を奪われつつ、買い求めに来た客から次々に同じような質問があった。
予測された質問の為、従業員たちも返答に困る事は無く、一つ一つ丁寧に教えていく。
クリスハイトやディートヘルムたちも接客に回っている。会計などは我が家で働く使用人たちを呼んで手伝ってもらっていた。ローレたちも積極的に手伝ってくれている。時折自分たちの持ち場に戻っているので薬を狩って行くお客も居るようだ。
「ねぇねぇ、オーナーさん?前売っていたお花はもう扱っていませんの?」
一人の客が尋ねてくる。この女性が求めているのはシャンプーやリンスなどの再販と聞いてそれを買いに来ているが、他にも再販があると期待してやって来たのだ。
女性の言うお花は、母の日から数週間前までの間で販売したプリザードフラワーやハーバリウムの事を指していた。
「すみません。彼方は期間限定の物でして、今は取り扱っていないのですよ」
「そうなのー私の知人が両親にプレゼントしたらとても喜んだと聞いたから楽しみにしていたのだけれど・・・残念ねー」
「また、生産ラインが整えば検討しますが、毎年あの位の時期に期間限定で販売しようと思いますので、宜しければ来年買いに来てください。それに他にも色々用意していくつもりですので」
女性は残念そうにしていたが、もう一つのお目当てであるシャンプーやリンスなどを購入できたことでほっこりした表情で帰って行った。
結局その日の売り上げは、クイナ商会開店以降トップクラスに入る実績をたたき出すのであった。勿論、トップではない。トップは開店当時に珍しさと商品の満足度で日々鰻登りの時があった。後は、水洗トイレの販売の時も大事になった。今は、予約制で且つベルトたちが別の仕事につきっきりだったので、今は一時ストップしている。それぐらい今日の来客数と売れ行きは、それらに匹敵する売れ行きだったのだ。
いつも読んで頂きありがとうございます。
また誤字脱字の報告もありがとうございます。
コロナウイルス一向に収まりませんね。早く収束してくれることを願うばかりです。




