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123 進級試験?③

おはよう、こんにちは、こんばんは。

とうとう四月に入りましたね。連日続く暑さは何時まで続くのでしょうね?

 試験も残り僅かと言う今日と言うよりも・・・まずは、先日起こったレカンテートの事の話をしよう。


 レカンテートを襲撃しようとしていた盗賊たちを無力化し、アジトを壊滅後捕らわれた人たちを連れてレカンテートに戻ると、町の人に面倒を見させ王都に戻ったのは知っているだろう。


 王都で、婚約者でもあるシャルロットたちにお灸をすえられ、一睡もしないまま試験に挑む。試験は問題なく乗り越えたが、試験が終わった後は急いで昨日の後始末に走り回った。昨日の今日と言う事で、シャルロットとティアナ、リリーが同行し、まず初めに交易都市イリードの冒険者ギルドに立ち寄った。


 レカンテートの町民が盗賊討伐の依頼を出していたので、事後報告になるが伝える。それと大量に捕縛した盗賊たちの処遇と保護した人の対応の依頼をした。


 ただ、既に盗賊討伐の依頼を受けている冒険者がいると言う事なので、彼ら宛てに手紙を書いてもらい依頼は完了し、そのまま依頼の内容の変更がかかれた内容をしたためてもらった。報酬の額は、盗賊討伐に加えて少し色を付けるように手配した。


 その後、直ぐにイリードを発ち、レカンテートへ転移魔法で移動する。イリードから此方に向かっている冒険者はまだ到着していない様で、皆を集めて彼らの対応を説明した。


 まず、保護した人を元の村へ帰してあげるが、数人が既に村が無いと言う事でレカンテートに滞在許可を出す。村が壊滅的な打撃を受けていても如何にか残っている所は、一度帰したのちにどうするか検討してもらう。村が残っているかどうかは、帰ってきた騎士から得た情報との事。


 既に生活が難しい村の生き残りを連れてきている騎士も中には居た。それだけ大きな被害を受けたと言う事だ。


 次に、捕縛した盗賊たちについてだが、彼らはイリードの冒険者ギルドの支部長との話し合いで、奴隷落ちにする事になった。犯罪奴隷なので、イリードに駐在する兵士に引き渡せばそこそこの報酬が貰えるそうだ。ただ、犯罪奴隷なので金額は期待できないらしい。盗賊たちの中で賞金首が入れば儲けものらしいが。


 犯罪奴隷は、奴隷市場で出してもほとんど売れる事が無い為、八割ちかくは鉱山へ送られるとの事。重労働且つ危険な現場で、落盤があれば死者が大勢出る様なところだ。替えのきく犯罪奴隷はとても良い人材なのだとか・・・。


 商業都市オルキデオの鉱山にも何百人、何千人と送られているそうだが、そう言う現場にはいかなかったので知らなかったと、話を聞いた時は思ったものだ。


 後は、裏で奴隷売買をしている人物と接触し、捕縛するそうだがこれは騎士たちの方で対処してくれる事となった。


 それで、そう言う手続きをした後、さらに翌日はイリードで受けた冒険者と対面し、手紙を渡し、村人を送り届けてもらう事にした。盗賊たちは人数が多いので、何回かに分けて騎士たちや兵士がイリードへ連れて行く事になった。


 正直、試験中だと言うのに何て慌ただしい日々なんだと、盗賊たちを恨みたくなったぐらいだ。後、付け加えるなら捕まっていた奴隷商人のランプレヒト・レープ。レープ商会の跡取り息子から王都に戻った際は是非お礼がしたいとの事。そして、以前話に聞いていた奴隷オークションが来月あたりに開催される事を教えてもらった。


 興味はないよ?でも、ローレたちの様に優秀な逸材もいるかもしれないので、覗くだけ覗こうかな・・・。


 さて、脱線してしまったが、今日も試験があるので朝から学園に登校している。


 今、受けようとしている試験は冒険科の試験。筆記試験とは違い実技試験を主体にした内容で、試験を受ける者は一人ずつ番号が記入された羊皮紙を受け取りそこに書かれているお題をクリアすればよい。番号が記入された羊皮紙の番号は、羊皮紙を受け取る前に箱に入った木札を自分でとり木札に記された番号と一致する羊皮紙を渡される。勿論、箱の中身は見えない様にしている辺り、前世で言う所のクジと同じ物。


 羊皮紙には、冒険科としての相応しいと言える様な事が書いてあるようで、冒険者ギルドでお馴染みの依頼の様な内容だそうだ。指定された薬草を何個持ってくるのか、Eランクレベルの魔物の討伐及び証明部位の提出など、羊皮紙によって書かれている事はまちまちである。


「同じ試験内容の者がいれば協力しても構わない。だが、ズルはするなよ?必ず自分たちで行う事。何か質問はあるか?」


 冒険科の講師は元高ランク冒険者と言う事で、威圧と言うものを嫌という程感じたのだろ。生徒たちの半数は少し委縮している。それとも羊皮紙に記載のあるお題がそんなに難しかったのだろうか?


 受け取った者たちが内容を確認して同じ物があれば、協力しないかと誘ったりしている。


「同じ魔物、例えば俺とジャスコは同じゴブリン討伐ってあるが、一人三体なのか?それとも臨時でもチームを組んだらチーム毎になるのか?」


 冒険科の生徒の一人が、質問をする。如何やら彼はゴブリン討伐が試験の内容だそうだ。彼とジャスコは、何時も一緒に居るので、今回のお題が同じと言う事は間違いなくともに動くのだろう。


「その場合は、チーム毎ではなく個人ごとになる。クレマースとジャスコそれぞれでお題の対象の討伐を行う様に」


 なるほど、チームで行わせればチームの人数分の討伐が必要と言う事なのだろう。それでは、採点はどうやって気前るのだろう?


 そんな事を考えていると、追加で説明がされた。


「クレマースたちの様にゴブリンと書かれている者もいるだろうが、普通のゴブリンでも良いし、上位種のゴブリンでも良い。上位種や変異種、亜種などの場合は、追加特典があるぞ。但し、自分の実力を鑑みて命だけは落とさない様に、それと誰かに命令して狩らせたり、採取系のお題を市場で購入したり、誰かの者を略奪したりする行為等は禁ずる。禁を破った者は大幅な減点があると思え」


 と言う事は、不正が無いように何らかの対策を講じていると言う事なのだろう。俺たちの学年の冒険科の試験は今日一日、他の学年とは被らない日程となっている。


 そう言えば、授業の時は単独での活動は許されていないのに試験では許されるのだろうか?もしかしたら、同じ内容同士を組ませる事から試験が始まっているのかもしれないな。


 ちなみにユリアーヌたちの試験は来週あるそうで、クルトは明日との事。もしかしたら、学年毎の講師全員で見回りでもするのだろう。


 未だに番号札を引いていない十数人。その中で顔見知りはリーゼロッテとティアナ、リリーの三人に、冒険科の授業で知り合ったテオバルト・アル・フォン・シャハナー、テレーザ、イルメラの三人だ。


 この三人もレオンハルトと同じ(エス)クラスの生徒で、テオバルトは爽やか系の剣士でシャハナー男爵家の五男との事。家を継ぐ事は出来ないため、学園で独り立ちできる技術を身に付けるために頑張っている。テレーザとイルメラは、それぞれ短剣使いと弓使い。テレーザは平民でありながら、実力で同じ(エス)クラスになっている。隠密行動も出来ると言う事もあり冒険科の中ではかなり活躍をしている生徒の一人だ。もう一人のイルメラは学園では珍しいエルフ族。人族の割合が九割を超えるこの学園で数少ない亜人種の一人でもある。


 優れた感知能力を持ちテレーザとは対照的に敵の発見を用意にしてしまう。但し、自分の能力を上回る隠密系は発見できないが、学生や王都周辺の魔物程度であれば難しくはない程能力は高い。また、弓使いとしての能力も高く、学園の中でも上位に入る程の命中率だ。


 残りの者は、クラスが別々なので関わりを持った事が無い為、良く知らない。知っているのは名前とクラスぐらいだろう。


「さて、羊皮紙を受け取ったな?では、試験開始だ」


 あれ?俺たちは木札もまだ引いていない。


 すると、「お前たちは別の内容だ。ついてこい」とだけ言われて指示された通り移動する。行きつく先には各学年の冒険科を受け持つ講師たちが勢ぞろいしていた。


「お前たち十二人は、冒険科の進級試験をしなくても良い」


 急に言われる内容に整理できないでいるとテオバルトが質問を投げかける。


「試験をしなくても良いと言う事はどういう事ですか?まさか、僕たち何かしましたか?」


 テオバルトの言いたい事も分かる。ほとんど説明なしに試験が無くなったのだから、不安にもなる。


「こらこら、そんな説明だと生徒たちが混乱してしまうぞ。悪いな君たち。俺はエーヴァルト・バルベ冒険科の主任講師で三年生を受け持っている。よろしくな」


 少し厳ついおじさんが明るく話しかけてくる。ダーヴィトやユリアーヌから話は聞いた事あるなと思いつつ自己紹介をした。


 エーヴァルトの話では、俺たちは試験を受けなくても良い代わりの試験を受けている者の動向の観察を行うそうだ。冒険科の受講は毎年多く、講師だけでは見きる事が出来ないとの事。


 素行の悪い者には減点を、仲間の為にきちんとできる者には加点をして行くそうで、そのあたりのチェックもしなければいけないとか。後は、討伐のお題の者には危険が無いように多少魔物を間引く行為も必要との事。但し間引きすぎると突発的な出来事に対応できるかなどの加点、減点ポイントの部分の評価が出来ないので程々にする必要があるらしい。


 俺たちの試験の結果は、きちんと評価をしていれば、満点をくれるそうだ。


 自分たちだけ特別でよいのかと思っていると毎年、十数人に同じように手伝ってもらうそうだ。


 選ばれた理由は、これまでの成績の上位十二人を選んだだけだという。一位は言わずもがなレオンハルトで、実力及び知識は他の生徒の数段上を言っている。場合によっては講師たちよりも上なので、扱いに困ると言うのが本音らしい。


 二番手にティアナ、三番手にリーゼロッテ、四番手にリリーと並んでいる。俺と俺の婚約者が上位を独占している事に苦笑いしか浮かべられない。


 十二人いるため、学生の審査部隊には、二人一組になって審査を行う事になった。


 仲間同士で組もうとするが、それだと力のバランスが崩れると言う事で、リーゼロッテはテオバルトと組む事になり、ティアナはイルメラと、リリーはテレーザと組む事になる。俺はA(エー)クラスの少女、ニーナ・ズザネ・フォン・ハイネマンと組む事に。


 ハイネマン騎士爵家の三女で、武器は両手に身に付けている篭手(ガントレット)。華奢な身体で肉弾戦を得意としたちょっと可愛らしい子だった。


「お、お話するのは・・・初めて、です・・・・よね?ハ、ハイネマン騎士爵家が三女、ニーナ、ニーナ・ズザネ・フォン・ハイネマン・・・です」


 何だか余所余所しく話をしてくれる彼女に疑問があり尋ねる。


「俺はレオンハルト・ユウ・フォン・アヴァロンだ。どうして、そんなに余所余所しいんだ?同じ学生なんだから普通に話してくれても構わないよ?」


 一応、相手が家名も含めて自己紹介をしてきたので、此方もレオンハルトだけではなくアヴァロンの家名まで出す事にした。ただ、直球(ストレート)に尋ねてしまった為だろうか、彼女は驚きの表情をした後、更に余所余所しく返答する。


「アヴァロン様は、その、上級貴族の・・・あの、当主様でいらっしゃるので、私の家は下級貴族の、騎士爵家ですから・・・」


 なる程、貴族は爵位の優劣をとても気にする事が多い。中にはレオンハルトやティアナの実家のフォルマー公爵家、リリーの実家のラインフォルト侯爵家の様にあまり優劣を気にしない貴族もいるが、圧倒的に優劣を気にする人が多い。中でも当主ではなくその家族の方が、つまり学園に通っている子爵家の御子息や男爵家の御子息と言った中級貴族の者は、優劣をつけたがる。


 上級貴族が気にしないのは、高い地位にいるため、その事を逆手にやりたい放題する者も居るが比較的に半々の割合。中級貴族は、上級貴族にペコペコし、その憂さ晴らしを下級貴族にぶつけたりする。立ち位置を少しでも上に見せたがる意味で。下級貴族は、地位があってない様な物なので、基本的に下手に出るしかできないのだ。


 つまり、上級貴族であるアヴァロン伯爵と下級貴族であるハイネマン騎士爵と言う絶対的な貴族としての核が違う事をニーナは恐れていたのだ。


 学園では、こう言う貴族の地位を用いる事は禁じられているが、学園から一歩でも外に出ればそんな校則は意味をなさない。


「ああ、気にしなくても大丈夫だよ?俺は孤児院出身だから、どちらかと言うと君たちと変わらない生活を送っていたし。余程の事じゃない限り、不敬を働いたからと言って処罰もしないからさ」


 元孤児だったと言う事が彼女の中で驚きだったのか、目を丸くしていたが、おかげで会話の余所余所しさはなくなった。


 皆、組んだ相手と自己紹介を済ませた様で、それぞれ担当する範囲(エリア)を教えてもらう。試験を受ける者が多いので、常に一団体を見張る事は出来ない。定期的に巡回する形で見回りをするのだ。


 ただ、この十二人の中で探索系が得意な者とそうでない者にきちんと分けているので、離れている所もある程度は把握できる。


 そう言えば王都周辺と言えば、去年の年末に魔族が暗躍し、冒険者チームの数人と救援に向かったチームが半壊した事があったが、その方面は立ち入り禁止と言う風に学生たちに伝えているらしい。


 まあ、森の入口に入ったとしても、奥の方まで行かなければさして問題は無いだろうし、定期的に熟練の冒険者や騎士たちが見回りに行っているらしい。


 あれ以降、それらしい発見はないそうだ。


 試験に向けて学生たちは既に出発している。記録用に羊皮紙を数枚受け取り俺たちも担当を任された場所に移動する。


 俺とニーナが割り当てられたのは、南の小川のあるあたりで、他に雑木林もある。同じ方面だとティアナたちと一緒だ。南門でティアナや講師たちと別れ、ニーナと共に移動を開始する。


「この先に四人いるみたいだ。如何やら薬草採取をしているみたいだね」


 『周囲探索(エリアサーチ)』に加えて、『(ホーク)(アイ)』で具体的な状況を確認しニーナに伝える。


「え?そんな事までわかるものなのですか?」


 余所余所しさはないが、普通の口調ではなく、どちらかと言えば貴族としての口調に寄せた話し方をしている。それよりも探索の魔法を普段やっている様に行ってしまった。


 というか、広範囲で確認してしまった為、南の方活動している者の大方を把握してしまった。まあ、分かったとしても伝えなければ良いだけの事、今話した程度で驚かれるのだから・・・真実を話すのは止めた方が良いと強く思う。


 皆、単独(ソロ)ではなく集団(グループ)になって受けているようだし、取り敢えず安心かな。


 ニーナとそれぞれの冒険者の観察をバレない様に行い、点数をつけていく。


(薬草をきちんと分けている・・・加点項目だな。あっちは、ランドバードの捕獲か?嫌、仕留めているな・・・血抜きは良いが、場所が悪いし周囲への警戒が足らないな・・・減点と、おや?彼は一人で何をしているんだろう?ってそう言う事か)


 一人で採取していた冒険科の生徒は、実力のある生徒たちに自分たちの分も採取する様に頼んだのだろうな。一人で籠を幾つも持つ事は可笑しい。


 頼んだのは何処の生徒だ?と探していると、小川でくつろいでいる男女を見つける。人に採取をさせて自分たちはイチャイチャするとは、冒険者を何だと思っているのだろうな。


 イチャつく行為は別に構わないが、他人にお題をさせる行為はズルイ事であり、これが冒険者として依頼を受けている内容であれば、マナー違反になる。別にマナー違反をしたからと言って処罰や罰金があるわけでもない。けれど冒険者と言うのは商人に匹敵するほど信用と言うのが大切になる。


 実力があっても信用できない人物であれば、ランクアップも途中から行えなくなる。


 それに、周囲への警戒がまるでなっていない。この辺りは、率先して襲う魔物がゴブリンくらいだろうから、良いがもっと凶暴な魔物だった場合は、あっと言う間にあの世行きであろう。


 彼らには大幅な減点をする様にしよう。


 それから数組のグループを観察していた。


「あれって単独(ソロ)でしょうか?」


 ニーナに言われて、其方に視線を向ける。『周囲探索(エリアサーチ)』では、数人いたと思うけど、目視では確かに一人だけだった。


 『周囲探索(エリアサーチ)』で確認すると、彼以外の生徒は雑木林の中に入っていたようだ。ゴブリンの討伐で、一人連絡係でいるのかな?少し気になり、彼の元に行く。


「あれ?一人で何しているんだい?」


 ッ!!


 急に声を掛けられて驚く生徒。此方は試験を受けている者たちを採点しているとは言わず、偶然同じ試験を受けていて出会った風に装いながら話す。


「うわっ!!って、レオンハルトさん。一瞬、先生かと思ったよ」


 講師にバレたらまずい事でもしているのだろうか?


「先生だと何か都合が・・・ひょっとして、グループのメンバーは君を置いて中に?」


 罰が悪そうに頷く彼を見て、ふと感じた


 つまり、そういう事なのだろう。きっと彼のグループは魔物の討伐と言う内容も含まれており、試験の点数稼ぎの為雑木林の奥へ向かって行った。彼はそれに反対し、この場に置き去りにされ、もし告げ口でもしたらと脅されたのだろう。


「まったく・・・ニーナ、悪いけど彼と此処で待っていてくれ。俺は彼らの所へ向かう」


 そう言うとレオンハルトは、お得意の身体強化を使って一気に彼らの元に向かった。











 一方、その頃別の所で評価をしているティアナたちは、エルフであるイルメラの探索能力で、問題なく観察対象の生徒を見つけては、評価をして回った。


「ティアナ様も探索系の魔法が使えるのですか?」


「いえ、私はあまり得意ではありません。ですので、今は探索の魔法は使用していませんわ」


 得意ではないだけで使えない事は無いが、使ったとしても半径十五メートル前後で精度もそれほど高くはない。チーム内に異常なほど高い探索系などの探索魔法が使えるものがいるので、基本的にそっち頼りでもあった。


「そうですよね。ご一緒されているのが魔族殺しの英雄と呼ばれるような人ですから・・・」


「そうね。レオン様はとても多才な方ですわ」


 その意見には賛成で、彼の噂はどれも常人で考えられない様な功績をこれでもかと持っている。中でも一番驚いたのは、魔族を幾度となく戦闘し、生き残るだけでなくその殆どを勝利していると言う点だった。


 高ランク冒険者でも苦戦する様な魔族に、彼は十三歳と言う若さでその偉業を達成している。


 彼と言う貴重な存在に王侯貴族が囲い込みをしている様に名家の令嬢たちが彼を囲う様に集まっていて、一緒に組んでいるティアナもその一人だと認識していた。実践を模した訓練を何度か目にしているし、正直手合わせをしたこともある。


 けれど、今日の彼女は私が知っているこれまでの彼女とは大きく違ったのだ。


 そんな事を考えていると、探索魔法に違和感を覚えた。


 え?雑木林の中に集団?冒険者・・・にしては動きが素人っぽい?もしかして試験の点数稼ぎに?


 雑木林の中に入らないといけない様な試験内容はないはず。確かにゴブリンなどの魔物を効率よく、それでいて一定数以上の結果を残そうと思うなら雑木林や森の中に入って魔物を狩るしかないが、冒険者として行動しているならまだしも試験として動いている以上、何かあっては大事になる。


 ゴブリン一、二体を相手にするのと十数体を相手にするでは意味が違ってくる。


 森の外にも人がいる所から、グループ内で意見が分かれたのだろう。


 勝手な行動をとるあたりは、人族も獣人族も変わらないな。エルフは、長命種なだけにかなり慎重に動く者が多いというのに・・・。


「雑木林に数人を感知しました。どうしますか?一応先生方に・・・」


「・・・向かった方が良さそうですね?とても嫌な予感がします」


 ティアナの言葉にイルメラはもう一度、雑木林の方に視線を向ける。確かに少々雰囲気が違うのを感じ取った。恐らく下級魔物か猛獣の上位種、亜種、変異種と言った何かが近くまで迫っているのだろう。別に珍しい事ではない。魔物同士殺し合いをしたけっか、勝者はより強くなる個体も稀にいるし、自然発生した魔力濃度の高い場所に長時間留まっていても同じような現象が起こる。魔物がより強い個体になる事を進化と呼ぶし、獣や猛獣が魔物になる事を魔物化と呼ぶ。その二つの現象を引き起こしてしまうのだ。


 魔物化は、獣同士で戦って勝利し続けても魔物にはなれない。魔物化は濃度の高い魔力を蓄積し続ける事で起こる自然現象。


 どちらにしても、雑木林に入ってしまった者たちの後を追う必要があった。


 ティアナとイルメラはそのまま雑木林に入る。二人が入ったタイミングに合わせるかのように雑木林の外に取り残されていると思われる生徒の一人が、雑木林に侵入してきた。


 距離は、圧倒的に此方が近い。先に集団を回収してから後で入ってきた者を救出する様に考えていると、向かっている方角から殺気のようなものを感じ取った。


「こ、こっち来るなーッ!!」


「ア、アルニム様、た、助けて」


 数人のグループで入っていた生徒たちが、ゴブリンの集団と遭遇してしまったようで、囲い込む様に陣取られ、嬲られていた。


 道中に、数体のゴブリンを数人がかりで倒し、有頂天になっていたグループ。けれど、最初は偶然の遭遇で倒したが、その後に出てきたゴブリンは、実は彼らによって誘き寄せられ、集団がいる場所に知らず知らずの間に追い詰められていた。


 気が付いた時には、時すでに遅く。如何にか自分たちの身を守る事が精一杯だった。数人のグループの中から既に戦闘が行えない者も居る。と言うのも追い込まれたと気が付く直前に、ゴブリンの放つ矢が後方を歩いていた生徒の背部に突き刺さる。


 最後尾の人物が倒れた事に、前にいた者たちはいっせいに振り返ると、仲間が血まみれで地面に倒れていたのだ。うめき声が聞こえたと言う事は、即死は免れたと言う事。けれど突然の攻撃に経験のした事が無い痛みに生徒の表情が恐怖し、絶望していた。


 その表情が他の仲間の心に焼き付き。蜘蛛の子を散らす様にバラバラに逃げようとし、囲まれたのだ。


 その後の戦闘で、男子生徒二人と女子生徒二人が負傷し、戦闘が出来ず。今は冷静になった仲間が如何にか持ちこたえているのだった。


「フェーン危ないッ!!」


 フェーンと呼ばれる男子生徒は、背後に視線を向ける。そこには、棍棒を持ったゴブリンが棍棒を振り下ろそうとしていたのだ。


 死んだ・・・と思ったが、一向に痛みが襲ってこない事を不思議に思い、目を開けるとゴブリンの側頭部に矢が刺さっていた。


 この場に居る生徒は誰一人弓を使う者がいない。それなのに矢が刺さっていると言う事はゴブリン同士で相打ちしてしまったと勘違いしたが、その誤解も直に消え去った。


「はあーっ」


 第三者が割り込んできたと思ったら、大きい剣を振り下ろしゴブリンを左右に分断させた。


 俺たちの学年のマドンナ的存在の一人、ティアナ・カロリーネ・フォン・フォルマーであったのだ。

いつも読んで頂きありがとうございます。

また、誤字脱字の御報告ありがとうございます。


引き続き読んでいただけると幸いです。

そう言えば、今日は月と日が同じなんですね(笑)

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