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122 進級試験?②

おはよう。こんにちは。こんばんは。

三月も残り僅かですね。とても暖かい陽気に包まれ桜の花も綺麗に咲き始めておりますよ?

皆さんは花見は行かれるのでしょうか?

 初日の試験を終えた俺は、急いでレカンテートの町に向かった。


「これは領主様ッ!!お忙しい時に申し訳ありません」


 最初に出迎えてくれたのは、レカンテートが村だった頃の村長だ。今は引退をして村民たちをまとめる役に就いてもらっている。


「いえ、所で急ぎとは何でしょうか?」


「はい、取り敢えず此方へ」


 案内されたのは、町の中央付近に建築された大きな建物。木造建築で造られており、集会場や町役場としての機能を果たす場所としている。町に関する会議や住民の人数の把握などを行っている。


 その中にある会議室へ通されると、職人や町の主要人物たちが話し合いをしていた。


 聞くところによると、最近この近くの森に盗賊が出没するそうで、レカンテートはまだ襲われていないが、周辺の村は幾つか襲われて壊滅的な被害を受けてしまったようだ。その連絡が届いたのが二日前で、急いで交易都市イリードへ行き、イリード支部の冒険者ギルドから王都の冒険者ギルドへ連絡をしたのだ。


 勿論、盗賊の討伐依頼も一緒に出して戻って来て、連絡に出ていた者がレカンテートの町に戻って来たのが今日の事。


 レカンテートでレオンハルトが転移の魔法を使えることを知っているのは、アンネローゼの他に数名いる。その一人が、元村長だったモリス爺。そしてこの場の中心にいる人物の数人で、新年を迎えた時に領主としてレカンテートを訪れた際にアンネローゼや筆頭執事のフリードリヒたちに言われて話したのだ。


 俺が中に入った事で、一同が此方に視線を向ける。


「おぉ。レオンハルト様お待ちしていましたぞ」


 近くに居た町の主要人物の一人が此方に挨拶にやって来る。彼の名前は、エゴン。モリス爺が村長をしていた時に補佐をしていた人物で、レカンテート村の税管理をしていた人物だ。


 今は、使用人からレカンテートの町の責任者を立て彼を筆頭に税管理や区画整備、店や住宅の改装、改築。道路の舗装、娯楽施設等様々な計画が進行している。その彼の指示の元、税管理の補佐として今この町を支えてくれているのだ。


「挨拶は後回しにしよう。まずは現状を教えてください」


 そう言うと、この場に集まっている者は、今集められている情報とレカンテートの町の現状を説明した。


 盗賊は、かなりの集団の様で、情報では盗賊の一団は一つではないと言う事。また、村だけでなく行商人を襲っていると言う事も聞く事が出来た。


 レカンテートの町の警備体制を聞くと、訪れている冒険者に依頼したり、警備をしてくれている王国の兵士が数人いるだけの様だ。


 国からの支援で、職人や何らかの技能を身に付けている人が村の拡大のため訪れていたが、職人以外にも兵士や騎士もそこそこの数が来ていたはず。


 騎士は何処に行っているのか尋ねると、被害があった村へ救援に向かっているそうで全員で払っている。せめて数人は残していくべきでは?と思ったが、更に話を聞くと徐々に各方面に向かってついには町に騎士がいなくなってしまったとの事。


 まるで、此方の戦力を徐々に削いでいる様なそんな作戦に思えた。


 騎士が出払っているから、町の中で多少腕のある人物たちが見回りに動いていると言うが、発展中の町に見知らぬ顔が現れても、それ程不思議に思わないのもまた事実。


 一応、残ってくれている兵士が出入りの確認をしているとの事。


 そう言えば、レカンテートの町に入った時・・・兵士って居たっけ?


 ッ!!


 よくよく思い出してみても出入り口に兵士はいなかった。


「ペートルス。今も兵士は出入口を常駐してくれているんだよな?」


 町の警備担当のペートルス。元村長のモリス爺を除けば、この場で俺が転移魔法を使える事を知る二人の内の一人でもある。彼も年齢はそこそこ取っており、成人した子供もいる程だ。レカンテートに来る前は冒険者として活躍していたと聞くが、ランクについては聞いた事が無い。一応、盗賊の討伐経験はあると言う事で、王国から派遣されてきた騎士や兵士とは別の組織として動いてもらっている。


 兵士たちとは、別組織になるが連携をする必要があるので、互いの事は蜜に報告し合っていた。


「いるはずだけどな?兵士が抜ける時は必ず、警備担当の誰かがフォローに入る様にしているし・・・」


 やはり・・・そうか。くそ、町に来た時に確認すればよかった。


 レオンハルトの予想通り、今現在レカンテートの町は盗賊の進行が水面下で行われている事に気が付いた。魔法での確認ではなく、気配だけの確認はしたのだが、発展中と言う事で来るたびに見知らぬ者が増えているため、知らない気配があっても不思議に思っていなかった。


 それが、盗賊が出たと言うのであれば、状況が大きく変わってくる。その場で感じ取った気配の者たちを魔法で確認していたら気が付いた可能性は大いにある。


 後悔しても仕方が無いので、この場に居る者になるべく騒がない様に言い聞かせてから、説明した。


「恐らく、この町に盗賊が数人、入り込んでいる。ある程度の戦力を確認してから盗賊の一団が流れ込んでくるぞ」


「ほ、本当ですかっ!?数は、それより直に女子供を避難させなくては」


「落ち着け、良いか?数は凡そ七十人から八十人ぐらいだ。うち十数人が町の中にいる。そこでだ。エルネスタ、住民に例の者はどれだけ行き渡っている?」


 エルネスタは、二十代前半の茶髪のショートボブの女性。ここレカンテートの町役場で受付のリーダーに任命された人物で、彼女に住民全員にある物を配るよう指示していた。配る物は、簡易魔道具の一種で、銅板に名前と番号、職業等が刻まれている。これを一人一枚、赤子から老人にまで皆に持たせるように動いて貰っていた。


「住民全員に配り終えています。新しく来た方々も今日の午前中まででしたら、済んでいます」


「分かった。此処二、三日分の新規登録者の名簿を至急この場に持ってきてくれ。ペートルスは、彼女が持ってきた名簿の人物を重要参考人として此処まで連行。必ず数人で行動する様に。俺は少し席を外す」


 そう言うと席を立ち、別室に移動した。


「さて、領民カードを持っていないのは誰だ?」


 『範囲索敵(エリアサーチ)』を連続で二度使用し、状況を把握する。一度目はレカンテート内と十キロメートル圏内にいる人物、二度目は領民カードに限定して発動した。すると、人と領民カードが重なる様に脳内で処理され、町の中だと重ならない反応が十三箇所見つかった。町の外は、重なる箇所が八箇所で重ならない箇所は、八十二箇所に及んでいる。


「予想通りの数だな」


 中に忍び込んでいると思われる人物は、警備に就いている兵士や警備隊などの近くに待機している様で、外の連中は五つの集団に分かれていた。恐らく、それぞれが別々の盗賊の一団なのだろうが、別々だからと言って連携しないと言う事はない。


 獲物が大きければ大きい程、リスクを分散させてうまい汁を(すす)る事もする。


 五つの集団は、レカンテートの町を中心に、西と北西、北、東、東南と陣取っていた。


 南からあまり攻めてこないのは、やや強い魔物が生息していたり、戦闘民族であるルオール一族の縄張りもある。実際には距離があるため、此方とのかかわりは殆どない。


 けれど、盗賊たちはその事を知らなかった為、ルオール一族を避ける様に此方を囲い込んできたのだった。


(まずは、町に入り込んでいる盗賊の対処だな。数が数だけに長引かせると手間だし、殺すのも後始末が大変そうだな)


などと考えながら、身近な盗賊の背後に転移魔法で飛んだ。


「まず一人目っと」


 ッ!?


 相手が此方に気づく前に雷属性魔法『麻痺(パラライズ)』によって、相手を動けなくする。殺傷能力が弱い代わりに全身を感電させて、指一本動かせなくするある意味では極悪な魔法の一つである。しかも効果は、込められた魔力量に応じて変化する上、最大限の威力で放てば心臓を麻痺させて相手を死に至らしめる事も出来る。


 まあ、『麻痺(パラライズ)』を高威力で放つよりも『雷の(サンダーランス)』等の攻撃力のある魔法の方が余分な魔力を消費しなくても良いので、使用する人はかなり少ないだろう。


 領民に扮していた盗賊は、声を荒げる暇もなく無力化された。


 地面に倒れる盗賊を横目に捉えつつ、家の陰に隠れて明後日な方向を警戒するもう一人の盗賊も一気に間合いを詰めると、同じように『麻痺(パラライズ)』で無力化した。


 そこからは、同じ作業を繰り返すのみで、気が付けば潜入してきた盗賊は全て痺れさせて無力化し、領民たちの協力を得て外で待機している盗賊に悟られる事無く終わらせた。


「すまないが、こいつを家に隠しておいてくれないか?」


「これは、領主さ」


「しッ!!」


 麻痺して動けない盗賊は、近くの民家に預かってもらう。普通の人ならまず預からないだろうが、尋ねて来た人物が自分たちの領地の領主だと分かれば、二つ返事で引き受けてくれる。今の様に普通の大きさの声で話掛けてくる者が殆どだったが、領民カードを持った盗賊の仲間がいる可能性もあるので、なるべく小声で周囲に知られない様に行動した。


 十三人を片付けた後は、先程の場所に移動しエルネスタを探す。最近領民カードを作ってもらった人の九割ぐらいの人物が既に集められていた。仕事が早いなと感心しながら、手分けして彼らの身元を確認する。


 既に集まっている人物の中で、盗賊と繋がりのある者はおらず、残りの一割は集められなかったと言う事で、記録に残っている個人情報を聞き、探索魔法で調べると・・・・。


 町の中では発見できなかったが、町の外・・・盗賊たちの一団の周辺にいる事が分かった。手引きしたのは二人の様で、外にいる八十二人と合わせると盗賊は少なくともあと八十四人いる事になる。


 領民カードを持って外にいる他の者は、如何やら警備に当たっていた者や兵士たちが捕らえられている様子。


「直ぐに助けに行かなければッ!!」


 慌てるペートルスを手で静止させて、冷静になるように伝える。折角、外にいる者に知られずに侵入してきていた者を捕縛したのだから、このまま相手に知られずに盗賊の一団毎無力化する方が良いと伝える。


「どうされるおつもりで?」


 エゴンが尋ねてくるので、「同じですよ?皆、麻痺させて捕えます。まあ、今度は一気に無力化しますけどね」と言うとその場にいた誰もが引きつった笑みを浮かべる。


 八十人以上いる盗賊を一気に無力化すると宣言した為、脅威と言うよりはドン引きに近い感情が皆の中で生まれた。実際は一団体が十五、六人の構成なので驚くような事ではない。まあ、普通は十五、六人でも脅威なのだが・・・。


 そう言う部分はレオンハルトの考えは麻痺しているのかもしれない。


 さて、日が暮れる前に片付けるとしますかな?


 まず初めに狙ったのは西にいる一団、数は十二人と少ないが、四人の兵士が掴まっていたのでさっさと開放する事にした。他の所は二人か三人なので、一番多い場所から救出する。


 風属性魔法『飛行(フライ)』で空を飛び、盗賊たちが警戒している範囲外まで高く飛ぶと、そこから西へ移動する。


 お?奇襲する側だから油断しているな。


 奇襲する側とされる側、優位な立場にいるのは当然、奇襲する側の連中。しかし、奇襲する側は自分たちが奇襲されるとは思っていない為、される側よりも更に油断している事が多く。現に上空から下降しても気づかれる事は無かった。


 おいおい、大丈夫かよ?


 幾ら自分たちが奇襲されないと判断しているからと言って、少し油断しすぎでは?と疑いたくなるレベルだった。


 標的(ターゲット)は十二人。それぞれの頭上に黄色い電気の塊の球体を配置させて、合図と共に球体から小さな雷が標的(ターゲット)である盗賊たちを襲う。雷属性魔法『麻痺(パラライズ・)雷電(サンダー)』で相手を感電させて麻痺状態にする。『麻痺(パラライズ)』は接触する事で効果を発揮するのに対し、『麻痺(パラライズ・)雷電(サンダー)』は非接触で麻痺させられる。欠点があるとすれば、頭上からの攻撃のみとなる点だろうか。逆に良い点は複数の相手を一度に麻痺させる事が出来ると言う事。


 こういう、実力のない集団には持ってこいの魔法の一つである。


 一瞬で十二人を無力化し、捕まっていた兵士の救出をする。かなりの深手を負わされているようだったので、治癒魔法で傷を治し、安静にしておかなければいけないが、盗賊は抵抗できない状態にあるので、見張りをする様言い渡す。


 そこから、北西から北に続き、東や東南にいた盗賊の一団全てを西にいた盗賊と同じように麻痺させて連行する。


 誤算だったのは、麻痺させたことで彼ら自身が歩く事が出来ない為、縄で縛りそれを連結させて地面を引きずる様に移動した。


 石ころや木の根に引っ掛かったりして、盗賊たちはレカンテートの町にたどり着いたときは見るも無残な姿とかしていた。一瞬でそれも無傷で無力化したのに、町に到着したら非常に過酷な戦闘を済ませた強者の様な姿。引きずられてさえいなければ、そう見えたかもしれない。けれど、彼らはあまりに酷い姿に目にした領民や警備していた者は、誰も声を掛けようとしなかった。


「・・・・・」


 ああ、もう少し配慮すべきだったか?


 まあ、悪人に容赦をしないと言う事を知らしめておく必要もあるし・・・と、彼自身の心の中で言い聞かせた。


 襲撃してきた盗賊の捕縛後は、各々の一団に分けて尋問する。何故かだって?盗賊が全ての人数で襲撃する事は考えにくい。恐らく自分たちのアジトに数人置いて来ているからだ。盗賊は襲撃したところから金品や食料を奪う・・・中には人攫いもしている。


 周辺の村々が襲われたり、商人が襲われていたりしているので、少なからず掴まっている人が存在する可能性があった。というよりも高確率で捕まっているはずだ。何せ今回の襲撃で警備をしていた者や兵士が無力化されて掴まっていたのだから。


 なので、尋問してアジトを聞き出そうとするが、兵士たちがやっても馬鹿にされるだけで、一向に口を割ろうとしない。兵士たちは一度、盗賊たち捕らえられてしまっているが故、彼らに完全に舐められているのだ。


 このまま時間を浪費するわけにもいかない。明日も進級試験の続きがあるのだから、今日中に帰らなければいけない。流石に明日試験が終わってアジトの捜索をし、捕らわれた人の救出をすると言う事も人としてあり得ない。


「代わりましょう。こう言うのは舐められては駄目なんです」


 学園の制服で来ているレオンハルトが言うのもおかしな話ではある。学生で且つ未成年が相手となれば、先程の兵士よりも舐められる。案の定・・・。


「おいっ?ガキはさっさと帰ってな」


「それよりも俺たちの縄をほどけよ?お前だけは半殺し程度で済ませてやるからさー」


 俺の代わりに引き下がった兵士たちの顔が真っ青になって行く。知らないと言うのは本当に怖い事だな。レオンハルトが一歩・・・また一歩、彼らに近づく。その表情は何も感情を示していない無表情と化し、周辺の空気が変化し始める。


 物理的な意味ではなく、精神的な意味で・・・。


「さ、さっさとしろょ・・ヒッ!?」


 レオンハルトの纏う雰囲気(オーラ)を感じ取った盗賊たちも先の兵士たち同様に顔が青白くなっていった。ガタガタと震えだす者まで現れる始末だ。


「さて、此方が効きたい事は一つ。君たちのアジトは・・・どこにあるのかな?」


 無表情から笑顔に切り替えて話しかけるが、笑顔の裏は笑っていない事はこの場の誰もが感じ取れた情報・・・。アジトをばらす訳にはいかないと息巻く盗賊たちだったが、そのうちの一人を、身体強化を掛けた状態で軽々と持ち上げると、仲間たちから離れた場所に放り投げる。


「ぐへっ・・・何し、やが・・・る?」


「時間が無いって言ったよね?だから尋問して口を割らせようかと・・・」


「ぜ、絶対にしゃべったりなんかしねーかんなッ!!」


「構わないよ。キミを痛めつけるさまを皆に見てもらって、仲間が場所を話してくれるさ。キミが駄目なら、別の者、そいつも駄目ならまた別の者、一体誰が教えてくれるのかな?」


 そこから始まる尋問と言う名の拷問。それは、もう一言で表すなら(むご)いと言えるような事。詳細は、表現できない内容だが、軽めな拷問だと・・・雷属性魔法で意識を失いかけそうなギリギリの感電を行ったり、熱した鉄の棒を直接皮膚に押し当てたり・・・それは、もう惨い尋問だった。


「ア・・、ァジト―――ハ、西に・・・いっこ、くほど・・・ぃった、トコロですぅ――」


 五人ぐらい耐えた所で遂に仲間の一人がアジトの場所を口にした。


「と言う事なので、次の一団に掛かりましょうか?『(クイット)』」


 レオンハルトは発動させていた魔法を解除した。発動していた魔法は闇魔法『悪夢(ナイトメア)』と言う物で、効果は相手を強制的に半昏倒させて、意識朦朧の中文字通り悪夢を見せる。レオンハルトがこの魔法を使用したのは、兵士と入れ替わって直ぐの時。解除したのは発動してから僅か二分弱と言ったところ。


 しかし、実際に『悪夢(ナイトメア)』を受けた盗賊たちは一日近く拷問と言う名の尋問を受けていたと悪夢を見せられていた。


 近い物で幻術を掛けたと言う方が正しいだろうか。


 なので、極悪な拷問を実際にレオンハルトが行ったのではなく。そうしたかの様に精神的に体験させられたのだった。


 他の盗賊の一団も同じように闇魔法『悪夢(ナイトメア)』を使ってアジトの場所を吐かせる。そこで分かった事は、やはり捕らえられている人がいると言う事。主に村にいた女子供を捕まえたり、行商人を捕まえていたりする。女子供を捕まえている理由は奴隷商人に売りつけるためだとか。ただ、非合法的な手段で捕まえた者を奴隷にすると言う事で、一般的な奴隷商人は相手にしてくれない。こう言う裏取引にうってつけの闇商人の買い取ってもらい国外で捌くそうだ。


 そのやり口を聞き虫唾が走る。


 兵士に彼らを逃がさない様伝えると、魔法の袋から黒い外套を取り出して、町を出る。向かう先は、盗賊の一団のアジト。身体強化で、能力を向上させアジトの場所に向かって全速力で走る。転移魔法を使わないのは、レオンハルトが知らない場所だったからで、『飛行(フライ)』を使用しないのは、先の話を聞き少々頭に来て思いつかなかっただけの事。


 森の中を全速力で走る事数分。最初のアジトを発見する。洞窟を根城にしている様で、洞窟の入口に見張りが二人暇そうに地面に座って話をしていた。『周囲探索(エリアサーチ)』で確認すると、洞窟内には八人いて、そのうち四人は女子供だった。その近くに幼い子供や痛めつけられた女性の遺体が転がっている。


 奴隷として引き渡される前に抵抗して殺されたのだろう。それに・・・盗賊たちの慰み者にもされた様に身ぐるみはがされている。


「兄貴?親分たち、まだ帰ってこねーのかね?」


「今日は集落何て規模じゃねー大きさの所だから、きっと良い事があるぜ?」


 見張りたちがゲラゲラ笑っている傍を、風が吹いたように一瞬で背後に回り意識を刈り取る。殺してしまおうかと思ったが、こいつ等を殺して町にいる盗賊は生かすと言うのはどうなのかと考え、それなら同じ苦しみを味わってもらう方が良いだろう。


 見張りを無力化して、洞窟の中に入る。気配を消しているので、洞窟内にいる四人の盗賊は此方に気づく気配すらなかった。


「あーあ、親分が手を出すな。何て言うから、こんな良い身体をした女を抱く事も出来やしねーな」


「そうだね。けれど、君たちはこれから先、一生女性を抱く事なんて出来はしないよ?」


 ッ!!!


 四人の盗賊は、急に知らない人物から話しかけられた事で、警戒し腰に付けた武器を手にするが、時すでに遅く四人は、武器を手にする前に意識を失った。


「後で、自分たちがした事を後悔するといい。皆さん大丈夫ですか?」


 捕まっていた女子供を助けると一通りの怪我は治癒魔法で治し、軽食と飲み物、布を人数分渡す。彼女たちの身なりがかなり酷い事になっているのだ。


 皆、渡された布を身体に巻いて、軽食を食べ飲み物を飲むとその場で倒れる様に意識が無くなって行った。地面に倒れる前にレオンハルトが彼女たちの身体を支え、そのまま地面に横にする。レオンハルトは飲み物の中に睡眠作用のある薬を混ぜて飲ませたのだ。


 寝込みを襲うとかではなく、盗賊も捕らえられていた人も皆、意識が無い状態にしておかなければいけなかったから。この後、他に四箇所アジト巡りをしなければならない。此処にいる者をどうするかという問題になり、全員意識が無い状態でレカンテートの町の近くに転移魔法で移動し兵士に引き渡せばよいのだ。


 ついでに、アジト内にあった戦利品は魔法の袋の中に全て放り込んだ。近隣の村人の遺体も魔法で綺麗にしてから収納した。身元が分かれば、故郷に戻してやりたいと思ったのだ。


 そうして、最初のアジトを後にし、転移魔法で運んだ者たちを兵士に引き渡し、他のアジトに向かった。四箇所の内、二箇所は近くに騎士たちが捜索に来ていたので、彼らに引き渡して、レカンテートに戻る様に伝える。残りの二箇所は、最初のアジト同様の方法で救出した。


 最後のアジトには、二十人近い人数が捕らえられており、如何やら半数が奴隷だった。捕まっている一人が奴隷商人で、如何やら馬車で移動中に盗賊に襲われたようだ。彼と盗賊たちの馬車があったので、それに乗せてレカンテートに戻る。最後のアジトからレカンテートの町に戻った時は、すっかり日は沈み数多の星が漆黒の空を輝かせていた。


「ご苦労様ですッ!!」


「このグループで最後だ。すまないが、皆に手伝ってもらって対応を頼む。俺はモリスたちの所へ行く。と言う事で、ランプレヒトさんここで失礼します。後はこの兵士たちが対応してくれますので」


 ランプレヒトは、奴隷商人の名前。ランプレヒト・レープ。レープ商会の会頭の跡取り息子だそうだ。


 跡取りと言っても年齢は四十前半位の小太り系のおじさんだ。


 最初に話し合いをした建物に移動すると、町民たちは慌ただしく動いていた。予想以上に多い盗賊に、捕まっていた者たちへの対応で大慌ての様子。


 盗賊たちは皆一箇所に集めて、土属性魔法でドーム型の牢屋を作ってその中に放り込んだ。地面もかなり削ったので、上って来る事も難しく、周辺の土は掘れない様に固めておいた。


 食べ物は一食抜いた所で死にはしないので与えず、飲み物だけ取れる様に水の入った樽を置いておいた。


 捕まっていた者は、町民たちが協力してくれて、各々の家に泊めてくれるそうだ。


 宿屋はあるが、実際に稼働していないし、内装も出来上がってはいない中で、十数人が泊まれるように急ピッチに仮住まいが出来る程度に仕上げてくれた。其方には奴隷商人とその奴隷たちに泊ってもらう事にする。


 職人たちには後日、うまい酒を王都から仕入れて振舞うと約束し、その日は王都に戻った。


「おはようございます。皆様がお待ちかねです」


 その日と言うのは、正しくないだろう。レオンハルトがレカンテートでの出来事に一段落して戻って来たのは、日が僅かに顔を覗かせようとする明朝だった。レオンハルトは、レカンテートに行くと言って朝帰りをしてしまったのだ。


 筆頭執事のフリードリヒが、迎えに出てきたと思ったら耳元で「可能な限りフォローしております」と囁いてくれる。年配の男性に耳元で囁かれても何も嬉しくはないが、皆の説得をしていてくれたと言う点は非常に嬉しく思う。


 事情を話せば皆納得はしてくれるだろうが、それならそれで連絡の一つでもできたのではないのかと攻められかねない。皆には連携が大事だから報告、連絡、相談は行う様に言っているのに、注意する自分が守れていないのだから、言葉の重みが他の者よりも重くなってしまった。


「あら?お帰りですか?朝帰りとは良い御身分ですね?」


「レオン様は私たちと言う者がいるのに・・・・」


「今まで何をしていたのか、きちんと説明してこれますよね?レオ様?」


 不味い。非常に不味い。シャルロットにティアナ、リリーがこれまでに聞いた事が無いぐらい低い声で話しかけてくる。リーゼロッテも言葉にはしないが、不満があるのは見て分かるし、エルフィーに至っては今にも泣きそうな顔をしている。


 これは本当にフリードリヒがフォローしてくれていたのだろうか?


 ダーヴィトやユリアーヌたちにエッダやアニータたちは、この場には居ない。この場に居るのはフリードリヒを含めた数人の成人を迎えた使用人たちだけだった。ローレやリタと言った成人を迎え済みの奴隷たちも部屋の隅に控えている。


 視線をフリードリヒに向けると、彼女たちには見えない様に口パクでどんな様子だったのか教えてもらうと、シャルロットは魔法を常時両手に待機させていたらしく、他の者も愛用の武器に手を添えていたそうだ。エルフィーだけはそう言った事はしなかったが、今以上に泣きそうな顔で耐えていたらしい。


 うん。しっかりフォローしてくれていたようだな。だったら、此処は・・・。


「皆心配をかけてすまなかった。実は・・・・」


 俺は、今日別れてからの出来事を一からきちんと説明した。ただ、非常に疲れた挙句、今日も朝から試験だと言うのに予習も復習も出来なかった・・・その上、案の定というべきか「連絡の一つでも出来たはずでしょ?また、一人で危ない事をして」と怒られる羽目になったのだった。


 そして、ある意味盗賊の撃退や捕らわれている者の救出と言った事よりも一番大変な事だと悟るのだった。

いつも読んで頂きありがとうございます。

また、誤字脱字のご報告ありがとうございます。

今回は、タイトルと内容が少々・・・かなり違いすみません。

良いタイトルが思いつかなかったので、そのまま流す感じで対応しました。

次回はきちんと試験の内容にしようと思います。

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