120 帰宅、そして会議
おはよう。こんにちは。こんばんは。
本日はホワイトデーです。内容一切関係ありません・・・。
「またしても、実験か・・・・」
外の景色は月明かりが綺麗な夜となっている時刻、現在冒険者ギルドの会議室にて冒険者チーム、セイバーズの捜索と魔族と思われる目撃情報の確認及び捜索で集められていた冒険者たちが各々の出来事を報告していた。
レオンハルトたちもこの報告会に参加しており、あの後どうなったかと言うと・・・。
ダークエルフの初老の魔法攻撃を腹部にもらい吹き飛ばされた後、レオンハルトは意識朦朧の中、大木を背に立ち上がろうとする。そこに現れる元鬼人ガドスの肉体を乗っ取った銀色のスライムの様な生物。
急いで治癒魔法をと思っている時、仲間たちの助けが入る。
「レオンハルト様ッ!!直に治療を」
「こっちは任せて・・・アレもさっきと同じで感じだったら、リリーッ!!」
シャルロットとリリーが、即座に魔法を使用する。魔法が発動するタイミングで足止めをしていた仲間がその場から退き、とある魔法を撃ちこんだ。瞬く間に仲間たちによって銀色のスライムの様な生物は活動を停止し、後始末を開始する。エルフィーの治癒魔法で腹部の傷は癒え、シャルロットの元へ行き状況を確認した。
俺と別れた後、ユリアーヌとクルトが二人がかりであのスライムの様な生物に攻撃を休まず行い、反撃の機会を与えないようにし、その間ダーヴィトや他の仲間が襲い掛かってきたスクリームと特殊な能力を持つスクリームの迎撃を行ったそうだ。
スクリームとの戦闘を何度も経験している彼らは、少し変異種が居たとしても問題なく対処でき、問題となっているスライムの様な生物の対応に向かう。
やはり物理攻撃も魔法攻撃もあまり効果を示していなかった時、ふと「石化出来れば良いのに」と言うエッダの言葉を聞いて閃いた。
石化は、土属性魔法の魔法効果で起こる現象の一つで、火属性魔法であれば火傷、雷属性魔法であれば痺れといった副次的効果の事である。ただ、火傷や痺れは使用する魔法にもよるが、多くの魔法でその効果が得られる反面、石化は特定の魔法のみに効果を発揮する。
つまり、火属性魔法『火の槍』を直撃し耐えたとして、火傷になるかどうかは受けたダメージによると言う事。殆どダメージが入っていない状態であれば火傷になる事は無いが、かなりのダメージを負ってしまった場合は、火傷になっている可能性は十分あり得ると言う事。石化は、同じように『石の槍』を直撃し深手を負っても石化はしない。石化をさせるには『石化の槍』を使わなければならず、副次的効果による石化と言うよりも石化を起こすための魔法を使うと言う事になるのだ。
危険レベルAランクオーバー、怪鳥コカトリスは相手を石化にする魔眼を持っているため、非常に危険視されている。
猛獣や魔物、魔獣、幻獣、神獣と一般的に分けられているが、怪鳥コカトリスは魔獣に分類されている。魔獣と幻獣との間には大きな差がある。生物としての能力もあるが、個体数が大きく違う。驚異の存在である幻獣や神獣は群れで行動する事は無く。そもそも個体数が圧倒的に少ない。唯一無二の個体もいると言う噂はあるが実際に目にした者も居ない。ただコカトリスの様に魔獣に分類されていても魔獣コカトリスとしてではなく、怪鳥コカトリス等と呼ばれる存在は他にも居る。代表的な例が、巨獣ベヒモスや猛獣グリフォン、蛇怪ヒュドラなどである。まあ、巨獣ベヒモスは幻獣に分類されるが、結局の所、魔獣だろうと幻獣だろうと別の名が与えられている生き物が居ると言う事だ。
因みにアルデレール王国内にいる幻獣は三種類。一種類は、マウント山脈を縄張りとする山頂の頭、幻獣アシュラコング。アルデレール王国の南部・・・レオンハルトたちの故郷よりさらに南下した先にある海の生物、眠亀サイファースアーケロン。あとは、生息地不明ではあるが、目撃情報が多く寄せられている霊獣ファントムキャット。基本的に幻獣は大型の中でも大きい分類に入る種が多いが、霊獣ファントムキャットは数少ない小型の種。小型と言ってもアルミラージュの様な小型ではなく。近いサイズだとギガントボアぐらいだろうか。
まあ、話がかなり脱線してしまったが、石化と言う言葉からとある事を閃き、それを実行するために二人に協力をしてもらった。
氷属性魔法が使えるリリーと氷の魔装武器を所持するエッダ。三人が協力して氷属性魔法を使いスライムの様な生物を氷漬けにし、そのまま魔法の袋に収納した。
魔法の袋には本来、生きた生物を入れる事は出来ないのだが、氷漬けにして冷凍保存状態にしたら入れられるのではないかと考えたようだ。まあ、石化させれば石像と同じ感じだし、氷漬けにしてしまえば、生命活動は停止するはず、そうなれば死んでいるのと同じ状況が作れ、魔法の袋に収納できるかもしれない。発想としてはありきたりだが、誰も試してこなかった為、盲点だったと言わざる負えない。
そして、一度治療などをして此方に救援にやって来たそうだ。
鬼人ガドスは銀色のスライムの様な生物と共に氷漬けにされ魔法の袋に入れている。鬼人ゲドラはまだ息があるため、拘束して動けない様にしたのち、冒険者ギルド側と騎士団側が尋問をして情報を聞き出す予定だとか。
戦闘が終わった頃には、既に日の光は殆ど沈んでおり、日中でも薄暗くなる森は、光無き森へと変わっていた。
『短距離転移』で王都周辺に移動し、門に向かうと他の冒険者たちが大慌てで森から飛び出してくる。
「え? あれッ!? どうして?」
月の雫のリーダー、エミーリエたちに青い稲妻、朝焼けの雫の面々、皆森での異様な戦闘音を聞いて撤退をしてきていた。本来であれば、南風旅団も撤退をしなければいけないのだが、彼らは自分たちの実力を過信し魔族との戦闘に割り込んできた結果、チームの殆どが死亡しその亡骸はスクリームの材料に使われてしまった。
南風旅団のリーダー、ルートヴィヒも右腕と左足を失い瀕死の重傷を負っていた。レオンハルトが止血をしたおかげで出血多量による死亡は避けられ、遅れてきた仲間たちの魔法で手足は元通りになった。けれど、彼を含め南風旅団の面々は意識不明の状態でレオンハルトたちに担がれていた。
それから、門の所で警備に当たっていた騎士に事情を説明し、治療院と騎士団の応援に走ってもらう。何せ、意識不明の元怪我人たちを五人連れており、捕縛した下級魔族もいるのだ。
これまでの経緯を話し終えると、深刻な顔をしていた王国騎士団団長のアレクシス・フォン・グロスマンが口を開く。
「そうか。スクリームや嵌合体魔獣以外にも生物兵器を作っているのか。陛下に申告して、各国で情報を共有した方が良さそうだな」
この場にアレクシス騎士団長が居る訳は、下級とは言え魔族を捕縛した為、急遽呼んできてもらった。というか、応援を呼びに行った騎士が団長に報告した事で団長自らやって来たと言う事。まあ、部隊長クラスか団長が来なければならない位の案件なので仕方がない・・・。
「それと、セイバーズの生き残りと南風旅団の生き残りはどんな様子だ?」
アレクシス騎士団長の言うセイバーズの生き残りというのは、最初に逃げ延びてこの重要な情報を届けに来た人物ではなく、森の中で救出した者だ。生き残りは僅か一人ではあったが、辛うじて生きていた。今は、南風旅団の面々と共に治療院のベッドで横になっている。意識もしっかりしているので、明日にでも治療院を出られるそうだ。
他の仲間の痕跡については・・・皆、遺体となって発見されたかスクリームの素材にされていた。
「セイバーズのヒルデですが、彼女はかなりの疲労と衰弱をしておりましたが、すぐに良くなるでしょう。南風旅団の方は未だに意識が戻っていないと報告を受けております」
傍に控えていた騎士の報告を聞くと、ギルド支部長が「意識が戻っても冒険者を続けられるか分からなそうだな」と残念そうに口にした。
他のチームや個人で参加していた冒険者たちも事前に戦闘を禁じられていなければ、彼らの様に特攻を仕掛けて今の様になっていた可能性が大いにある。
魔族とはそれ程までに強い連中なのだ。
「アレクシス騎士団長。気になる事があるのですが・・・」
「なんだね?」
「ガバリアマルス王国が消失して尚、魔族の進行が未だにないのでしょうか?」
俺たちが居るアルデレール王国はローア大陸と言う大陸にあり、魔族はガウロン大陸で生活していると言われている。かなりの数がローア大陸に潜り込んでいるようだが、本土であるガウロン大陸にはまだ数多くの魔族がいる事は間違いない。
そのローア大陸とガウロン大陸の間には広大な海があり、魔物や魔獣の巣窟伴っている魔海も存在する上、魔海の中心には竜の巣があるため、魔族でもおいそれとわたる事が出来ないのだ。魔族は、魔物や魔獣と共闘しているので、仲間と思われがちだが、どちらかというと使役に近い。なので、使役していない魔物や魔獣が相手だと魔族も戦闘を強いられるのだそうだ。
まあ、そんな二大陸にも一ヶ所だけ行き来出来る場所が存在する。両大陸の北部にある一ヶ所がお互い行き来するための様に出っ張った形になっており、そこから魔族が魔物や魔獣を使役して進行してくるのだ。
そこを防衛していた国が今は滅んで無くなったガバリアマルス王国だったと言うわけ。ローア大陸の盾とも言われる様な重要な国だったが、それが数年前に落とされ、今は誰も立ち入っていない。
ガバリアマルス王国に隣接していた国々は直ぐに警戒態勢を整えて、進行してくる魔物を撃退しているらしい。ガバリアマルス王国が落とされる様な進軍を隣国が止まれるのかという疑問については否と答えざるを得ない。
魔物の進行はあるが、魔獣や魔族は進行してきていないそうだ。
普通に考えれば、拠点を突破したのだから一気に攻めてきてもおかしくはない。けれどそれが無い為、現在勇者コウジ・シノモリに調査してもらっていると説明してくれた。
「これはあくまでも私の仮説だが、彼らの進行が止まっている事、度重なる実験。我々の知らない所で何かが行われているのではないかと思っている。進行を止める程の出来事。何かを探さないといけないか・・・、それともガバリアマルス王国を落とす事が本当の目的だったのかは分からない。もしかしたら、魔族側の情勢の問題もあるのかもしれないが・・・」
結局、推測の域を出ないので星の数ほど可能性があって対策の使用が無い。あるとすれば、一人でも多くの実力者を育て上げるかと言う事になるのだ。
(国の情勢・・・内乱、いや政権争い? そもそも魔族の実験に来ている段階で、その路線は低そうだな。神から邪心の復活の事も聞いているし・・・)
そういえば、アレクシス騎士団長は国王陛下から邪神についての情報を聞いているはずだが、この場でその言葉を使わないと言う事は、未だに機密案件と言う事なのだろう。勇者コウジ・シノモリも調査に出ていると言っていたが、何の調査かは説明していなかった。おそらくこれも内々での確認を取ろうとしての王命か何かなのだろう。だが、勇者たちだけでは情報を集めるのは難しい。
「支部長、今回の件王国側でも調査を行う様にしますが、冒険者側からも調査を出していただきたい。依頼に係る費用は王城へ請求できるように整えておきます」
案の定、アレクシス騎士団長も情報収集の人手不足を懸念しているようだ。今回の様に魔族がどこで暗躍しているか分からない。レオンハルトも王都に来てから二年程しか経っていないにも拘らず魔族との遭遇戦を何度も行っている。
まあ、アレクシス騎士団長はそう言うと、部下の騎士たちを率いて捉えた魔族を連行していった。話し合いの最中、魔族は部隊長を含めた精鋭で脱走しない様に警備していたそうだ。
「今日は、皆ご苦労だったな。今日の依頼料は明日にでも受け取りに来てくれ」
そう言って、皆部屋から出ていく。時間的に日付が変わるかどうかという位の遅い時間。流石にこの時間から飲みに行こうと言う連中はいなかったようで、そのまま冒険者ギルドを出て行った。
俺たちも出ようかと思ったら支部長から声を掛けられて振り返る。
閑散とした冒険者ギルドの中で、俺たちは支部長からある話を持ちかけられた。
「Aランクへの昇格をそろそろ考えてくれないか?」
深夜は余り冒険者たちも依頼を受けに来ないし、依頼を見に来ても碌な依頼は残っていない。加えて、もう少しで今年も終わると言う事で、殆どの冒険者たちは活動よりも酒場などでどんちゃん騒ぎをするか、綺麗なお姉さんがいる店に行ったりしている。
けれど、全くいない訳ではない。現に、何かあったのかと会議室から出てきた冒険者たちを眺めていた数人の冒険者が、最後に残る俺たちに視線を向けていた。
「今は学生の身分ですので、学問を疎かには・・・」
定型文句の断り方。学生になってからは基本的にこれを理由に断って来ている。学生になる前は、仲間たちのランクを上げてからと言っていた。今もまだ仲間たちのランクにばらつきがあるし、実際に学業や商会、貴族としての務め、領地管理など行わなければならに事がたくさんあり、Aランク冒険者として活動し続けるのは難しかった。
Aランク冒険者は、圧倒的に少なく。一流の中でも一流の者、つまり超一流の実力者と言う証でもある。なので、指名依頼が殺到しやすかったり、高難易度の依頼を回されたりする。まあ、その分依頼報酬料は破格の金額が用意されているが・・・。
「騎士団長の話を聞いて少し気になる事もある。出来れば、君にはアルデレール王国の冒険者のトップとして支えてもらえればと思っているのだが・・・」
何時もであれば、このあたりで食い下がる支部長も今日は珍しく、押しに出てくる。
暫く考えた末、検討するとだけ言って、冒険者ギルドを後にした。この時間になると日中の活気は何処に行ったのかと言うぐらい静かで、遅くまで開いているお店の明かりが寂しく光っている様だった。
「ご苦労様です。御主人様」
迎えに来てくれていたのは、筆頭執事のフリードリヒや、成人を迎えた使用人たちだけだ。流石にこんな夜遅くにエリーゼやラウラたちにお願いは出来ない。実際は、レオンハルトがお願いしたわけではなくフリードリヒが御者をさせる者を選んだに過ぎない。フリードリヒが指示すれば、エリーゼたちもついて来てくれるだろうが、そこまでする必要もないと考えフリードリヒたち成人組が自ら動いたのだ。屋敷にはローゼたち数人の成人している女性たちが待機しているそうだ。
因みに彼らが何時から待機していたかと言うと、王都に戻ってきた時に支部長が受付で手の空いている職員に屋敷へ走ってもらったっていた。依頼を受けて出発した時は自分たちで御者をして森近くに移動し、馬だけを転移魔法で屋敷に帰していた。馬車は魔法の袋の中に収納していれば問題なく活動できる。
帰りの時、月の雫たちと鉢合わせてしまった時は、流石に転移魔法で馬を連れてくるわけにもいかない。彼女たちが用意しておいた馬車にアニータたちを同乗させてもらい。数人は身体強化で王都まで駆ける事になった。
南風旅団の生き残りは、嫌々ながらも乗せてくれたので助かり、王都に着いてからは門を守る騎士たちが馬車を手配してくれてそのまま冒険者ギルドと治療院に分かれて連れて行ってくれたのだ。。
「こんな遅くにすまない。迎えに来てくれて助かったよ」
「構いません。我々はご主人様に仕える使用人です。何時いかなる時でも御用があればお申し付けください」
馬車に乗り、屋敷まで向かう。馬車の中でレオンハルトは、今回の事でまた何かしらの褒美をもらう羽目になるのではないかと億劫になる。彼自身、注目を集めるのを嫌う傾向にある。別に人付き合いが嫌いとか皆の前に出るのが嫌いと言う事は、これまでの人生でもわかる様にそれらの事は好きではないが苦手と言うわけでもない。ただ、注目を集めると言う事は良い意味でも悪い意味でも色々な事を引き寄せてしまう。
時々思うのが、注目を集め過ぎたから、こうも向こうからトラブルがやって来るのではないかと・・・?
この世界に来た時はシャルロットを守る事が最優先事項だったが、今は他にも守らなければならない人たちが増えてしまった。注目を集めれば、善し悪しの差はあれど必ず何かが起こってしまうもの。
明日から、新年を迎えるための準備を行って行かなければならないが、今まで以上に気を引き締めようと心に誓ったのだった。
王城では、深夜と言う時間にも拘らず、アウグスト国王陛下や宰相のフォルマー公爵、各主要大臣に騎士団長並びに隊長格が集められていた。
呼び出された理由は、この場に居る者皆が知っている内容。魔族の実験についてと捕縛に成功した事だ。
「襲撃してきた魔族三体の内、一体は逃げられ、もう一体は実験体となり討伐方法が不明の為、とある場所に封印しております。最後の一体は、現在尋問を続けておりますが、何も話そうとはしません」
騎士団の五番隊隊長であるドナート・クライネルトが皆の前で報告する。彼は、騎士団と言うよりも歴戦の傭兵と言う風貌をしており、鋭い眼光に強面の面構え、鋼の様な肉体とやや隊長格の中でも異様さを漂わせている。
「取り逃がしたと言う魔族の行方は分からず、現在我が隊が王都の警備に加わり厳重な体制を整えています」
続けて口にしたのは、ドナートと同等かそれ以上の異様さを醸し出す人物。黒に金色の装飾を施された重装備を全身に身に纏い、会議の場だと言うのに顔が見えないフルフェイスのヘルムを被っている六番隊隊長のザックス・ザウアーラント。
彼の素性は、大臣や同じ騎士団員でも殆ど見た事が無く。この場で彼の素顔を知る者は国王陛下と宰相、騎士団長の三人だけだった。彼がなぜそこまで顔を隠しているのかについてだが、これは陛下以外に知らず、二人は陛下から直々に尋ねてはならぬと言われている。
だから、宰相も騎士団長も理由までは知らない。
騎士団の隊毎に大まかな役割が存在する。一番隊と二番隊は、基本的に全ての事を行えるオールラウンダー系が多く。一番隊は、王城の警備、二番隊は、王族の警護の任に就く事が多い。三番隊は遠距離系の使い手が多く、例えば弓部隊や投槍で相手の数を減らす。後は長物の武器を使う者も多い。四番隊は、魔法を主として戦う戦法を得意とする部隊で、比較的女性が多い部隊でもある。五番隊は逆に屈強な戦士たちが集まった様な熟練の戦闘及び力技に走りやすいパワー系の部隊だ。六番隊は、五番隊に似ているが攻めの五番隊に対して、六番隊は守りを重視している。そして七番隊は、部隊人数は少ないが、隠密系に優れた者が集まっている。主な任は情報収集や影からの護衛、暗殺といったところ。
七番隊だけは、本当に騎士なのかと疑いたくなるが、隠密系の仕事を振られ易いだけで、何もない普段だと、他の隊と同じく王城の警備に就いている。
因みに魔法を主として戦う四番隊とは別に王城には、魔法士の部隊もある。この隊は騎士団とは別の指揮系統で動いているので、四番隊と似た立ち位置ではあるが、別のもの。加えて、騎士団の四番隊は剣や槍などの武器を併用して魔法を使う、俗に魔法剣士みたいな立ち位置で、魔法士の部隊は後方から魔法を撃って敵を殲滅したり、補助や防御、支援といった様々な事をする。剣の腕はお世辞にも良いとは言えない・・・。
魔王使いが兵士として籍を置いている者を魔法士と呼び、王宮に使える魔法士を王宮魔法士と呼ばれている。
深夜の時間に集まって、会議をする中で一つ新たな情報が開示された。
「襲撃を受けた事を勇者であるコウジ・シノモリ卿に連絡したところ、彼方でも魔族との遭遇戦があったそうです。現在いるのは、旧ガバリアマルス王国より西へ向かった小国にいるようですが、発見した魔族は何かを探すかのように遺跡に群がっていたそうです」
過去の産物が多く眠る宝の場所。遺跡探索を生業にする冒険者は一攫千金を手にしやすい反面、死亡率もかなり高い。未知の場所は特に罠や強い魔物が徘徊している。苦労して探索した結果、お宝なしと言う事も稀にある。
魔装武器の多くは過去の産物が殆どで、今存在して作れない魔道具たちも同様だ。勇者コウジ・シノモリとの連絡手段もギルドが所有する魔道具と似て非なる物で、お互いの言葉を届けたり聞いたりするギルドが所有する魔道具ではなく。手紙のやりとりをする魔道具だ。
使い方は簡単で、書いた手紙を小さな箱に入れる。すると対となる箱に手紙が届くと言う仕組み。どういう仕組みでどの様に作られたのか全くの不明で、量産が出来ない魔道具の一つ。
ただ手紙を送るだけなのだが、消耗する魔力は大きく。魔法士一人の魔力量で大体、七回ぐらいが限界だ。
「何かを探している・・・一体何を?」
大臣の一人が、考えていた事を口にするが、それついて答えれる者がこの場には居なかった。
「かの王国が滅んでいこう、魔族の動きが非常に不可思議です。一度各国と話し合いの場を設けて情報を共有されてはいかがですか?」
「馬鹿なっ!!国際会議で集まった所を一気に襲われる可能性だってあるのだぞ?」
「では、代理人同士という・・・」
「それならば、・・・・・」
大臣たちが提案する意見に別の大臣が否定する。そんな出来事が次第にヒートアップしてきそうなタイミングで、アウグスト国王陛下が静止を促す。
「まずは、魔族の動向を知る事が大切であろう。冒険者へも依頼を出して調査をさせるんだ。頼めるか騎士団長?」
「ハッ!!既に手配は行っております。人員が集まり次第動けるかと・・・」
「それと、他国への調査も合わせて依頼してくれ」
その事についても既に根回しはしている騎士団長であったが、只々頷いて返答をする。
「父上、あの者の手を借りると言うのはどうでしょうか?」
コンラーディン王太子殿下は、魔族殺しの英雄と言う二つ名を与えられたアルデレール王国でも実力の冒険者レオンハルト・ユウ・フォン・アヴァロンの事。実際に数多くの魔族と戦闘をし、その度に大きな功績を残している。
彼の能力を知るコンラーディン王太子殿下からしたら、彼の助力を得ると言う事はかなりのアドバンテージになると判断した。
しかし、それについてアウグスト国王陛下は首を横に振った。
「彼はまだ未成年だ。有事の時には助力を得るが、それ以外は極力勉学に励んで惜しいと願っている」
十五歳にならなければ成人と認められず、彼もあと二、三年もすれば成人を迎えられるが、魔族側に不穏な動きがあるのも確かではあるが、それを理由に彼の今と言う時間を奪うのにも引け目を感じてしまったのだ。娘の婚約者と言う点では見れば正しいのかもしれないが、国王陛下としては良くない選択肢だっただろう。
結局その日は、太陽が昇る少し前に解散し、集まっていた者たちは眠気に耐えながら帰路に就く。
ダークエルフの初老が魔法で、別の場所に移動してすぐ。近くに居た鬼人族の者に仲間を置いてきた事を強く非難してきた。彼らは、仲間意識が高く、それでいて此処としての能力も優秀と来ている。現十二魔将の一人に鬼人族をまとめている人物が務めている。一族は不遇の扱いを受けないけれど、立場上作戦行動中の戦死が、他の種族に比べて多い方。
「そっちの計画はどうだったのだ?」
「幾つか改良した方が良い内容は此方に記載しております。眼を通してくれるかな?」
そう言って、その場にいる一番偉い人に、実験の結果とそれに伴う改良点などを資料を渡すと同時に口頭で説明したのだった。
いつも読んで頂きありがとうございます。
誤字脱字等の報告、感想など受け付けて押しますのでどうぞよろしくお願いいたします。




