118 鬼人ガドスと鬼人ゲドラ
おはよう、こんにちは。こんばんは。
今日で2月も最後ですね。明日から3月なりますが、お身体を悪くしない様に頑張りましょう。
7時に予約していたのですが、上手く出来てきなかった様です。
私たちは今、王都アルデレート周辺の森の中を捜索中。先日、王都のお店で買い物をしていたら、冒険者ギルドで良く窓口にいる職員がやってきて急用との事で仲間と共に冒険者ギルドを訪れた。
私たち以外にも呼び出された冒険者チームがあり、皆王都では名の知れたチームが集められていた。
「なんだ?月の雫も来たのかよ?」
屈強そうな連中、日焼けして小麦色になった面々が特徴の南風旅団。そんな暑苦しそうな連中を束ねるリーダーが此方に声を掛けてきた。
「ルートヴィヒ。貴方たちより私たちの方が実力は上よ?呼ばれないわけ、ないでしょうに」
月の雫のリーダーであるエミーリエが、南風旅団のリーダーに牽制する。エミーリエの言うような両チームの実力差はそんなに変わらない。南風旅団の方が、人数が多く濃い面々がいるため、覚えが良い。しかし、月の雫の方が依頼達成率は高いと言うより、指名依頼の件数は月の雫の方が多い。
お互いに睨み合う中、口を開いたのは朝焼けの雫のリーダー、アスマンだ。
「まあ、いがみ合うのは止めた方が良いぞ?この時期にこの面々が呼ばれたのにはよほどのことが起こっていると言う事だろう」
私も同じ思いだ。うちのリーダーであるエミーリエも急な呼び出しに少し不機嫌な表情を出していたが、職員の真剣な表情を見て気を引き締めていたぐらいだ。
ふと、これだけの面々が居るのであれば彼らも来ているのかと思い集められた人たちを確認する。
キョロキョロと周囲を見渡していたら不思議に思ったのか、エミーリエが声を掛けてくる。
「コローナ?どうしたの」
「彼らが呼ばれていないのですね?」
「彼ら?ああ、本当ね?実力者たちがこれだけ集められているのに、王都で一番のチームが来ていないのね?」
誰の事かと言えば、以前彼ら経由でコンラーディン王太子殿下の護衛依頼を誘ってきた円卓の騎士のメンバー。
自分たちよりも年下なのに圧倒的な実力とその実力に見合う知識量を持った実力者集団。魔族が王都を襲撃してきた時も最前線で戦い、リーダーであるレオンハルトと言う少年は、単独で魔族を倒した一流の腕前を持っている。
実際、共に護衛についた時も一部を除いて、これまでにないぐらい平穏な依頼。その一部は、アバルトリア帝国領にあるアルデレール王国との国境付近、自由都市アルメリアを過ぎたあたりの道中で魔族に襲われたりした件だ。此処だけ捉えると安全のあの字も感じられないが、彼らが居たことで誰一人として欠ける事なく乗り切る事が出来たのだ。
王都アルデレート最強の冒険者チームがこの場に集められていないのだ。
すると、扉が開き円卓の騎士が入室してきた。
「支部長、レオンハルト様一行をお連れしました」
円卓の騎士の面々の先頭を歩く受付職員のティティス。私たちも良くお世話になる人物なので、顔馴染だった。
「やっぱり来たみたいね?やっぱり他と風格が違うわね」
彼ら以外にも待ち人がいるようなので暫く待っていると王城に勤める近衛騎士団の面々も入室してきた。
近衛騎士団が参加するとなると相当な事態だと悟る事が出来る。
私たちは王都アルデレートの冒険者支部の支部長マティーアス・フランク・ブリューゲルから今回集められた理由を聞いた。セイバーズと言う中堅冒険者のチームが王都周辺の森の調査の依頼中に魔族らしき者と遭遇。運悪く見つかりチームがバラバラに逃げ、一人だけ如何にか王都に戻ってこれたそうだ。
冒険者ギルドはこの事態の把握に最優先事項に当たると判断し、現王都に在住する名のある冒険者を集め、行方不明となっているセイバーズの残りのメンバーの捜索と魔族と思われる者の捜索の二つの依頼を受ける事になった。
南風旅団のリーダーであるルートヴィヒが重い雰囲気を出しながら、魔族の捜索について確認する。戦闘をしても良いのかという意味なのだろうが、実際に対峙した事がある私たちは、戦闘なんてもってのほかだと思っていた。
下級魔族ですら普通中堅と呼ばれる冒険者数十人で対処するような人害。そして、私たちは王都の冒険者ギルドでは上位にいるチームの一つだが、結局の所中堅冒険者のやや上の位置にいる様な実力しかない。
私たち以外のチームもそうだ。基本的には一部を除いて然程変わらない実力者ばかりだ。
案の定戦闘を避け、直ぐに撤退する様に言われた。その日のうちに捜索の為の準備を行い翌日目撃情報があった森の中を捜索し、半日以上経過してもそれらしい発見は出来なかった・・・・はずだった。
「きゃああああ」
突如として発生した戦闘音と遥か先から襲って来る衝撃波、なぎ倒される木々が今いる位置からでも分かる振動。
誰かが近くで戦闘をしている事を物語っている。
では一体誰が?誰と?
答えは簡単だった。前者は今この周囲の捜索には昨日集められた面々しかいないはずなので、捜索にあたっている誰かだろう。他の冒険者たちには冒険者ギルドが立ち入り禁止の指示を出しているし、王都からこの場所に続く近くの道に関しては騎士団たちが封鎖しているからだ。
後者は、普通の魔物や獣であればこの様な激しい戦闘になる事は限りなく少ない。となれば、捜索対象のうちの一つ・・・魔族だろう。
そんな事を考えていると、頭上を凄まじい速さで何かが通り過ぎた。
ッ!!
鬼だッ!!それもゴブリンやオーガと言った魔物ではなく。鬼人族と呼ばれる魔族の種族。気性が荒く、強靭な肉体に溢れ出る闘気、体内にある膨大な魔力は殆ど肉体強化系に使用し肉弾戦を得意とするが、牽制程度の魔法も使用できる非常に有名な魔族の一角。
二体の鬼人族と戦闘をしているのは、魔族殺しの二つ名を与えられた英雄、レオンハルトだった。
互いに地面ではなく高い木々を足場に空中戦を繰り広げながら、戦地を移動していた。
「エミッ!!私たちは直ぐに此処から離れてギルドに報告に行こうッ!!」
月の雫の数少ない前衛職を担う剣士マーリオン。エミとはリーダーのエミーリエのチーム内での愛称である。
「リオンの言う通りです。直ぐに撤退をしないと」
魔法使いのカトリナもマーリオンの意見に賛同する。おっとりした雰囲気を持つ彼女の言葉がどうにもこの場の雰囲気に適していないなと仲間たちも心の片隅に置いていると、レオンハルトが向かった方で再び大きな音が轟く。
それにびっくりしたカトリナは豊満な胸を大きく揺らしながら飛び跳ね、慌てて近くに居た同職のエイミーに抱き着く。
「ふにゃ!?」
カトリナとエイミーでは大人と子供ぐらいの身長差があり、エイミーの顔は見事にカトリナの胸の中に埋もれてしまった。
「コローナ。何があったの?」
エミーリエの言葉で何があったのかを探る私、『鷹の眼』で状況を確認すると、レオンハルトが鬼人族に吹き飛ばされて地面に大きな窪みが出来ていた。
見た様子を皆に伝えると、エミーリエは皆に指示を出す。
「リオンを戦闘にシェリーとレギーナは周囲を警戒しながら続いて、コローナとリナ、エイミーは魔法障壁の展開が出来る様に、私を殿で王都に向かうよ」
因みにリオンとはマーリオンの愛称で、リナはカトリナの愛称である。他の仲間たちにはないのかと言われると、シェリーとレギーナはなく。コローナはコロ、エイミーはミーと言う愛称があるが、二人ともちゃん付けで呼ぶので、こう言う場面では使わない。
全員リーダーの指示通りの隊列を組みなおし、急いで王都に向かった。
この時、月の雫以外にも捜索に出ていた冒険者たちは異変に気付き同じように王都へ移動を進める。ただ一つのチームだけは王都ではなく、戦闘音が聞こえる方に向かって移動していた。
敵の攻撃を紙一重で躱し、反撃として腹部に斬撃を入れるが、それはもう一体の鬼人族の手で防がれる。
文字通り手で。
レオンハルトが単独で魔族の迎撃に向かうとダークエルフ族の初老と一本角の鬼人族と二本角の鬼人族の三体がいた。鬼人族の二体はダークエルフ族の護衛と言う感じに待機しており、一本角の鬼人族の手にはごっつい篭手を装備し、二本角の鬼人族は某映画に出る様な四本刃の鉤爪を両手にそれぞれ装備していた。
その二本角の鬼人族がレオンハルトの先制攻撃を鉤爪で防ぐ。
「へえー面白そうなガキだな?」
にやりと笑う鬼人族、彼は護衛対象らしきダークエルフの初老グムドに待機を命じ、一本角の鬼人ガドスに声を掛けた。鬼人ガドスも二本角の鬼人ゲドラに話しかけて、装備する篭手を互いに叩きつけながら、鋭い視線を向けてきた。
鬼人ガドスは身体強化系の魔法で全身の筋力を上げ、爆発的な突進で此方を殴りつけてきた。身体を捻り、鬼人ゲドラの鉤爪を流し、一度距離をとる。本当は、一気に攻めて一体は確実に戦闘不能に追い込んでおきたかったのだが、流石にそこまで甘くはないらしい。
バックステップで一度距離をとるが、鬼人ゲドラとガドスは引いた俺に追撃を仕掛けてくる。超接近戦での激しい攻防が繰り広げられた。
斬撃と打撃の応酬が周囲の木々を次々になぎ倒す中、三者の均衡が一瞬で崩れる。
神明紅焔流抜刀術奥義玖ノ型『波夷羅』。初撃の抜刀から幾重もの斬撃を繰り出し続ける連続攻撃。レオンハルトたちが初めて魔族と対面をした際、コルヴィッツと言う名の初老の姿をした魔族との戦闘で使用した奥義の一つ。
瞬間的な斬撃の回数は神明紅焔流の技でもトップクラスに入るため、そんな攻撃を二体の鬼人族は受けきれずに後方に吹き飛ぶ。
咄嗟に風属性魔法『空気砲』を無詠唱で発動して叩きつける。
「グッ!?」
「グハッ!!」
鬼人族はたまらず、苦痛の声を漏らした。
魔族はやはりとてつもないが、この二体はただ単純に接近戦で強いだけで、遠距離戦にはそれ程脅威ではない様だ。魔法での攻撃は少ないし、魔法を受けるとそこそこの威力でも普通にダメージが通る。
得意の接近戦もコルヴィッツとの戦闘に比べれば数段落ちる所を見ると下級から中級に位置する実力の魔族なのだろう。ただし、何度も言うが、下級魔族であっても普通の冒険者ではAランク相当の魔物と同等程度には脅威の存在なのである。
今度はレオンハルトが追撃を仕掛ける。
神明紅焔流剣術『双槌連』。上段の構えから下段に向けて振り下ろす技なのだが、それだけではなく相手の視覚からすると右斜め上から左斜め下に斬る軌道と左斜め上から右斜め下に斬る軌道に見えるのだ。右を防げば左から斬られ、左を防げば右から斬られると言う中々に防ぎにくい技。
当然、弱点も存在する。
片方ではなく両方を防げば、かなりの確率で防ぐ事が出来る。まあ、師範代クラスになれば、第三の軌道に修正して防御の隙間を縫う様に斬撃を行えるけれど・・・。
それと、反撃に弱いと言う点もある。
上段からの斬り落としは、威力は良いが胴体部分がガラ空きになる。そこを上手く突かれると技の威力が大幅に低下してしまうのだ。
鬼人ゲドラへ技を繰り出し、刃が身体に触れようとすると・・・。鬼人ガドスが間合いを詰め強烈な右ストレートを繰り出す。鬼人ガドスも鬼人ゲドラ同様に吹き飛ばされたのだが、上手く衝撃を後方へ逃がす事が出来、間合いに入る事が出来たのだった。
レオンハルトも瞬間的に魔法障壁を腹部に展開する。
鈍い音が響く中で、レオンハルトも攻撃を辞める事無く振り下ろした。しかし、拳による攻撃でレオンハルトの身体が予想よりも後退してしまったようで、鬼人ゲドラが本来受ける予定であった傷は、深手から浅手と言う結果に終わった。
体制は当初の振出しに戻り、再び高速戦闘が行われる。本来上級魔族に匹敵する実力を持つレオンハルトが二体の鬼人相手に戦いが均衡するのは鬼人同士の連携が抜群に良いからだ。阿吽の呼吸と呼んでも良いレベルで、息が合う合わないで此処まで変化する。
日頃、レオンハルトがチーム内での鍛錬の時に仲間同士の連携を重要視するのにはこういう理由である。
敵よりも力が無くても仲間と共に戦えば、勝てる事もあるのだ。個の力よりも集の力。とは言え、個々の力があまりにも低く、相手が圧倒的な場合は集の力は意味がなくなってしまうが。
兎に角、レオンハルトが攻め切れないのは、鬼人の連携が非常にうまいからであった。
森に聳える高い木の枝を足場に、位置を変えながら戦闘をしていると不意に別の気配を感じ取った。
ん?人・・・か。
丁度、地面を歩く数名の冒険者を目撃し、その頭上を偶々通過する事になった。何せ此方は魔族二体と現在進行形で戦闘を行っている最中。流れ弾にさえ気を付けていれば、被害は出ないと判断した。
上空から下を一瞬見た時の面々にも見覚えがあった。Bランクチームの冒険者で、構成員は皆女性ばかりだがかなりの実力者集団、月の雫だった。
彼女たちは、驚いた表情で上を見上げていた。
「よそ見する暇なんか与えねえ!!でりゃ」
鬼人ガドスの拳に魔力を帯びさせると一気に懐に飛び込んできた。まあ、体格差があるので、懐に入り込むと言うか超至近距離にやってきた。
魔力を纏う鬼人ガドスの拳は、赤く燃えている様になると。
「『鬼の火拳』」
力強く叫ぶと同時に燃える拳を突き出してくる。
両手から繰り出される攻撃・・・一度目、二度目と躱すレオンハルトだが、此処で違和感を覚える。鬼人ガドスの両手の炎が消えないのだ。
(まさか、連続で使える技なのかッ?)
直接受けるのは不味いと言うのも何となく察した為、基本的に躱すか受け流すかして対処している。だが、敵は一体だけではない。
「『鬼の氷爪』」
木々の死角から鬼人ゲドラが両手の鉤に氷で出来た氷刃で覆い攻撃してくる。寸前でゲドラの攻撃も躱すが、ゲドラの攻撃は通り過ぎた後に副次的な効果を齎す。
氷刃の冷気で通過した空気が他よりも気温を下げる。現在の時期は冬季でもうすぐ霜季に入る。大陸でも南側にあるアルデレール王国でも冬季は当然寒いし、雪も降る。
レオンハルトは、アルデレール王国とアバルトリア帝国の二カ国しか経験がなく、帝国に至っては一時の間しかいなかった為知らないのだが、この国の四季の温度差は一部の特定の地域を除いてそれ程変わりはない。
あったとしても誤差範囲内だ。
流石に最南端と最北端では気温の差は大きく表れるが・・・・。だから、アルデレール王国の冬季も当然寒く、その寒い中で更に温度を下げてきたのだ。
ゾクッ!?
一瞬感じた寒気に枝を伝って後方に飛ぶ。
「なっ!?」
飛びながら見た光景に声を出して驚いてしまう。今しがた居た枝が、凍り付きかけている。完全に凍り付いていないのは、相手を氷漬けにする攻撃ではなかった為だ。
だが、驚いて居る場合ではなかった。
鬼人ゲドラの事に意識を集中しすぎて、上空から追撃をしてきた鬼人ガドスの攻撃の察知に遅れてしまった。
「貰ったッ!!」
鬼人ガドスの火拳をまともに受けてしまった。一応、直撃の瞬間魔法障壁を展開できたため、正確には直接当たっては無いが、それでもかなりの威力があり、全てを殺しけれず地面に叩きつけられ、大きな窪み・・・クレーターを作ってしまう。
「ガハッ!?」
久しぶりに感じる全身に響くダメージ。肺の中の空気が一気に漏れ出る。骨折はなさそうだが、全身に激しい痛みを覚える。
『中級治癒』で負ってしまった怪我を治し、刀を帯刀する。再び抜刀の構えを行うレオンハルトに、木々の枝に立つ二体の鬼人。
三度目の仕切り直しが始まる。
そんな時に茂みから数十人の気配を感じ取った。
「漸く見つけたぜ?魔族さんよー?」
いつも読んで頂きありがとうございます。
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