113 王家の生誕祭
おはよう、こんにちわ、こんばんは。
大雪でここ数日大変ですね。自分の地域は降るだけで積もる事はありませんでした。
まだまだ冷え込みがあると思いますのお気を付けください。
アヴァロン伯爵主催の生誕祭パーティーを終え、一日が経過した。
昨日の疲れが一気に押し寄せる中、使用人や給仕係たちは慌ただしく片付けに追われている。今日からクイナ商会のお店も営業開始するので、朝一でレオンハルトはお店の方に足を運んでいる。
(お父様がパーティー中に仰っていた事、彼ともっと親密な関係を築きなさいって・・・)
頬を染めるティアナ。同じような事をリリーやエルフィーも両親から言われている様で、片付け終えている部屋でお茶を飲んでいた。三人が片付けを手伝わない理由は、筆頭執事であるフリードリヒから止められたからだ。
本来、パーティーの後片付けは使用人たちの仕事。中には家の財政の問題で自ら動く貴族もいるが、アヴァロン伯爵家は財政的に苦しいわけではないので、家の主や婚約者たちを働かせるわけにはいかないのだ。
なので、ティアナとリリー、エルフィーは現在、昨日の疲れと父親の言う言葉の意味を考えながら静かにお茶を飲んでいた。
シャルロットは、昨日出した料理のレシピを記載している。彼女はこれまで作った料理のレシピを自分なりのレシピ本として記録しているし、国王陛下よりレシピを教えてほしいと言われ、他にも上級貴族たちからも声があったので、作成している最中。
リーゼロッテは、レオンハルトと一緒にお店の方に同行している。帰りに孤児院の子供たちが居る屋敷へやって帰ってくるためで、昨日の余った料理のお裾分けに寄るそうだ。
「失礼いたします。屋敷の片付けが終わりました。ご自由にお過ごしください」
給仕係のミアが頭を下げて、その場にいる私たちに報告を行う。給仕係として働く前は、結晶硬化症を患っていた奴隷の母娘、今は娘のミリアムも給仕係見習いとして一緒に仕事をしており、今も二人でやって来ていた。
「ありがとうございます。そうだ、ミリアムちゃん。これ頑張ったご褒美ね」
三人の中で最も社交的で優しいエルフィーが、お茶請けにと用意してもらっていたクッキーを二枚渡す。ミリアムに渡していたが、恐らく母親のミアの分もあるのだろう。彼女に直接渡しても受け取らないので、娘から渡してもらう算段なのだろう。
自分の実家であれば、ちょっと家事をした程度でご褒美を渡す事は無いが、此処は主であるレオンハルトも、彼を支えるシャルロットやリーゼロッテたちもちょっとした事でささやかなご褒美を渡したりする。なので、この程度の事ならば誰からも文句は言われないだろう・・・いや、一人だけいる。筆頭執事のフリードリヒだ。
使用人の育成の責任者として、余り甘やかさないでほしいと以前、自身の主に注意していた。使用人が主に歯向かう事自体どうなのだろうとは思うが、皆の意見を聞いて対応しているため、彼の下で働く者は皆、生き生きと働いている。
「そう言えば、ティアナ様宛にお手紙が届いておられました」
ミアはそう言うと一枚の手紙を渡した。
ティアナはそれを受け取り、差出人を確認したら実家から送られた物であった。
昨日会ったばかりで、今日手紙が届く。同じ王都にいるので手紙を出したのは今日だろう。ミアに確認したら、使用人らしき人物が馬車で持ってきたと言う。
(急ぎの連絡?それならば、直接私に言うはず・・・)
開封して手紙の中を読む。
「――――えッ!?」
読んでいる内の思わず声を出してしまった。
書いている内容を抜粋すると昨日のパーティーについての感想と偶には実家に戻って来る事、実の妹の縁談の話、そして・・・。
明日のパーティーの際のメニューの一部をレオンハルトにお願いできないだろうかと言う提案だ。無論、急遽のお願い故、無理にとは言わないがアヴァロン伯爵家のパーティーで出た料理の数々を気に入ったようで、レシピを貰う段取りになっているが、レシピを貰ってすぐできるとは思っていない。だから、レシピと共に料理人を貸してもらえないかと言う相談だった。
直接、レオンハルトに頼むよりも娘のティアナから聞いてみてほしいと言う事。
最後に、昨日のお土産で貰ったワイングラスの販売をクイナ商会でしないのかと言う確認だった。もし販売する様であれば、大量に発注をかけたいと言う事も書かれていた。
そう言えば、昨日の話で実の兄であるアルフォンスの結婚式も来年に行うと言っていたのを思い出す。
ティアナは、フォルマー公爵の長女であるがその上には、長兄のアルフォンスと言う人物がいる。そして、正妻である母親、実の妹である三女パウリーネ、第二夫人の子供の次女と三男、第三夫人との間の四女と五女がいる。腹違いの兄妹も含めるとティアナは八人兄妹になるのだ。
実の兄の結婚と実の妹の縁談。どちらもティアナにとっては嬉しい限りである。
「ティアナ様、何かありましたか?」
一緒に居たリリーとエルフィーが手紙を読んで声を出した事に不思議と思い声を掛けてくる。
「お父様からの手紙にパーティーでレオン様の料理を提供できないかと相談がありまして」
「フォルマー公爵様から・・・確かに、レオ様の考案したメニューはどれもとても美味しかったですからね」
「今、シャルロット様が厨房でレシピを用意されていたはずです。一度ご相談されてみてはいかがでしょう?」
アヴァロン伯爵家の正妻候補のシャルロット。孤児院の出ではあるが、その知識と能力は貴族令嬢を上回る物がある。本来ならば、レオンハルトの愛人や妾としての地位しか得られない様な出自だが、誰一人彼女に勝てるものを持っていない。
それに、レオンハルト自身が彼女の事を正妻に希望しているし、彼女もレオンハルトの事を信頼や恋愛を越える何か別の物を感じ取っている様な気がする。何者にも負けない結びつきとでも言えば良いのだろうか。
「そうですね。シャルロットさんに聞いてみましょう。メニューの考案はシャルロットさんも一緒にしていましたし」
ただ、もし了承を得られたとしても当日は、午前中にエーデルシュタイン伯爵家のパーティーに参加、午後からフォルマー公爵のパーティーの参加となるので、下ごしらえなどの時間はあまりない。
食堂へ足を運ぶがそこにシャルロットの姿はなかった。偶々近くに居た厨房に配属しているレオンハルトの奴隷のソフィアが歩いていたので、彼女に確認すると今は厨房にいるそうだ。
改めて、シャルロットに会うべく厨房に行くと彼女は新たな料理を作っている最中だった。
「あれ?皆揃ってどうしたの?」
料理を一段落終えているのだろう彼女は、使用済みの材料を片付けつつ、この後に使用する物を調理台に並べていた。
「シャルロットさん、少しご相談が」
事のあらましを説明する。彼女は驚いた表情一つ見せずに只々頷き、最後まで聞き終えると聞いた内容を整理するように確認してきた。
「特に料理の指定は無かったのよね?パーティーに出していない料理でも構わないかしら?」
暫く考えて、お父様からの手紙には料理の指名が無かった事を確認し、大丈夫だと思うと返事した。
シャルロットからレオンハルトへ話を通してくれるそうで、予め作ってから持って行く形にすると言い始めた。それでは折角の料理が冷めてしまうのではと考えたが、魔法の袋に入れておけば鮮度はそのままだと言うのを思い出した。
シャルロットが同じ意見かと言えば、話をしなければ本来分からないだろうが、彼女を見て考えが正しいと確信する。何せ彼女は腰に付けている魔法の袋をポンポンッと叩いて教えてくれた。
「そう言えば今日は午後から侯爵様のパーティーに出席でしたよね?私の代わりにティアちゃんとリリーちゃん同行してくれる?私、料理の準備をしておくから、エルちゃんお手伝いよろしくね」
今となっては誰も気にしなくなったが、シャルロットは公でない時はかなりフレンドリーに話しかけてくる。最初は少し驚いたが、同年代の女性からこうも砕けた口調で話をされると嬉しくなり、誰も注意をしない。私たちは、貴族の令嬢として、そして淑女として教育されてきたため、何処か硬い口調で話をしてしまう傾向があった。
「わかりました。それで、シャルロット様は何をお作りなのでしょうか?」
待っていた作業が終えたのか、窯から金属の型を取り出す。
「これ?シフォンケーキって言うケーキの一種よ。作り方は簡単で、今日のおやつにと思って作っていたの」
出来たばかりのシフォンケーキを皆に見せる。その後、レオンハルトがクイナ商会から戻ってきて、先ほどの手紙の件をシャルロットと一緒に説明した。レオンハルトは、困った顔一つせずにお父様の料理の件を承諾した。
お土産に渡したワイングラスの件は、販売するかどうかまだ決めていないとの事。今回の件は、クイナ商会経由ではなく直接販売なら出来るとだけ返事してくれていた。あのワイングラスの製造方法は、私たちにも分からない洗練された細工が施されていて、見ているだけでうっとりしてしまう高級感漂うワイングラス。別にうっとりした原因が、高そうだからではなく、見る者を魅了する高級と言う意味の方だ。数はそこまで用意できないとも言っていたので、大量に卸す事は難しそうとも言っていた。
そう言えば、お土産用のワイングラスだけでなく。この屋敷にある食器類は、卓越された技術が伺える物ばかりである。
食器だけではない。食事や調理方法、浴室や脱衣室、トイレ、各部屋等屋敷の至る所にあり、自分が実家の屋敷にはない物ばかりである。これでも先祖代々からフォルマー公爵家として力を持っていたのにも関わらずにも・・・。
そして、その日の夕方前ぐらいの時間に招待されていた侯爵家のパーティーに出席する事になった。リリーの実家であるラインフェルト侯爵家と遠縁にあたる貴族で、ラインフェルト侯爵家とは違って、国王陛下より領地を授かっている家なのだ。
アメルハウザー侯爵家、ラインフェルト侯爵家の当主リーンハルトが王城で財務大臣としての地位がある様にアメルハウザー侯爵家の当主も財務の局長の地位を承っているのだ。
爵位は同じだが、両家の力は圧倒的にラインフェルト侯爵家の方が上なのだ。
昨日のアヴァロン伯爵家のパーティーには、参加されていない人物で招待状を送ろうとしたら、本人に直接お会いする機会があり、その時に不参加の旨を言われる。何でも娘の嫁ぎ先の貴族の方に顔を出さないと行けなかったそうだ。
本来であれば、新規で立ち上がった有力な貴族と縁を築きたかったようだが、先日初孫が生まれたと言う事で、初顔合わせと言う事もあり苦虫を噛み潰す思いで選択したそうだ。
パーティーでは、レオンハルトがアメルハウザー侯爵の当主にあれやこれや昨日の事を聞かれてタジタジになっていた。今日の出席者の中には、昨日アヴァロン伯爵家のパーティーに出席した者も少なからずおり、そこから話が拡大していった。
相変わらず、料理は定番中の定番ばかりで、味気なかった事だけは記憶している。レオンハルトの所で毎日食事を食べているため完全に舌が、そっちの料理を欲しているのだ。
お開きの頃には、皆連日の疲れが出てきたのか、フリードリヒが馬車で迎えに来て、それに乗って屋敷に帰る途中で寝てしまった。
翌日、ふと目が覚めると自分のベッドの上に横になっていたので、給仕係に聞いた所、馬車の中で寝てしまった私とリリーを彼がベッドの所まで連れて行ってくれたそうだ。着替えは、給仕係たちが行ったそうだ。
朝食の時に彼にお礼を言うと、「ゆっくり休めたかい?」と気遣う言葉を掛けてくれたのだった。
「ようこそ、お越しくださいました。アヴァロン様に皆々様方」
生誕祭当日の今日、俺たちは王家からの招待状を手に皆で王城にやって来ていた。招待状を王城の入口にいる執事に見せると、すぐに他の使用人を呼び別室に案内される。
此方の使用人として同行させているのは、お馴染みとなっているエリーゼとラウラに加えて、厨房担当の奴隷ソフィアに執事としてパウロも同行している。パウロは使用人になりたいと言う人たちが押し寄せた時に面接して採用した人物の一人。ドイブラー男爵家の息子だが平民との間に出来た子供と言う事で、認知はしてもらえていないと言う。なので、貴族としての教育も受けていないにも関わらず、高い知識を所有していたのだ。
当時は何となくと言う気持ちで雇用していたが、今は彼に頼る事も多く居てもらって正解の人物だ。流石に奴隷だけの使用人ではまずいと言う事で、奴隷以外の使用人も同行させる事とした。
ソフィアが今回の様に同行する事は珍しく。アメルハウザー侯爵家のパーティーに参加中に王家や他の四大貴族からもフォルマー公爵家と同じ内容の手紙が届いたのだ。個々に当てた内容は異なるが、概ね硝子細工の事と料理の事だ。
昨日のエーデルシュタイン伯爵家とフォルマー公爵家の時にソフィアを同行させて一緒に行ったが、王家のパーティーで一時離席し、厨房作業が難しいと考え、王家で出す品はソフィア一人に任せる事にした。内容も一人で如何にかできる物ばかりなので、緊張さえしなければ大丈夫だし、いざと言う時の為のものも渡している。
ソフィアやパウロと言った人物ではなく、屋敷の料理長や料理人、フリードリヒが同行した方が良いのではと疑問視されるだろうが。
筆頭執事であるフリードリヒは屋敷の方を任せなければならず、俺やシャルロットたちが居ない時の屋敷の指揮を行える者が僅か数名しかいないのだ。その数名と言うのが、クリストハイトやパウロなのだが、クリストハイトには近々レカンテートを訪問する予定があり、その時までに使うであろう書類を準備してもらっている。それに彼は、クイナ商会の方も任されているのが、実質ディートヘルムとゲレオンの二人に任せ、何かあれば対処する必要があるので、非常に忙しい。
なので、必然的に筆頭執事のフリードリヒか執事のパウロの二人になる。そうなると指示系統が安定しているフリードリヒを残す事になったわけだ。クリストハイトがレカンテートの訪問の対応に当たらなければ、クリストハイトとパウロを残す選択肢もあったのだが・・・。何せ、アヴァロン伯爵家の使用人は増やしてきてはいるが、人手不足は今も変わらない。
それに他の奴隷や使用人たちもそれぞれの作業を行ってもらっている。
護衛にはイザベラと猫人族の兄妹奴隷の兄ラン、後輩奴隷の犬人族のアルヌルフと狼人族のルドミラがあたっている。最近では二回目に購入した護衛をする奴隷たちの戦闘技術などが上がってきているとイザベラから報告を受けているので、今回同行させた。
ソフィアは俺たちが案内された部屋に一緒に行き、パウロとエリーゼ、ラウラの三人は馬車を指定された場所に停めた後別の使用人に連れられて後から部屋にやって来た。
「ソフィア大丈夫?パウロも緊張しなくて良いから」
王城に来る時にいつも馬車の御者をしてくれているエリーゼとラウラの二人は、慣れからか緊張した表情や態度には出ていない。逆にソフィアとパウロは緊張して少し表情が硬くなっていた。
「は、はい」
緊張しっぱなしのソフィアが返答した姿を見て、一行は自分たちも最初の頃はこうだったのかなと思いふけっていると、扉の向こうからノックと共に数人の給仕係が中へやって来た。
待ち時間の間のお茶菓子の様だ。会場の方にも行く事が出来るそうだが、もう少ししたらソフィアを王城の調理場に連れて行って準備をしなければならない為、別室に案内されたのだそうだ。
そうして待っていると執事らしき人物と近衛騎士団の騎士がやって来た。
「お久しぶりです。アヴァロン卿」
「あっ。お久しぶりです騎士モニカ殿」
初めて王城を訪れる事になった時に王城まで同行してくれた近衛騎士団の一人。近衛騎士団の中でも複数の隊に分かれており、彼女はその一番隊に所属している騎士だ。そしてその一番隊と言うのは、近衛騎士団の全ての騎士を指揮するアレクシス・フォン・グロスマンの直属の部隊でもある。一番隊隊長と総隊長が同一人物と言うだけなのだが、一番隊は総隊長が自ら率いているだけあって、かなりの優秀な騎士が多く居る部隊だ。
何度かお会いした事もあるが、一目で出来る人間だと認識させられるし、実際に王都に魔族が襲撃してきた時も勇者コウジ・シノモリと共に最前線で戦闘を繰り広げた人物で、公には勇者を除けば現状国内最強と言われる人物でもある。
「殿付けは結構ですよ。それでは、厨房にご案内いたします」
モニカは、ソフィアの護衛として就いてくれる様だ。国王陛下の客人として招待されているレオンハルトの付き人。しかも無理を言って料理を提供してもらう為に来ているので、何かあってはと言う配慮からなのだとか。これはモニカからではなく執事の人から話を聞いた。
仲間たちは、時間になれば他の使用人が会場まで案内してくれるようで、俺はソフィアを厨房へ同行した後、会場で合流する手筈となっている。
度々訪れている王城だが、基本的に王城内の一部しか行った事が無いので、此処まで来るのは初めてだった。
「ッ!!へ、陛下ッ!!どうしてこの様な所へ?」
厨房に入ろうとした時、この国王であるアウグスト国王陛下がそこにいた。
「おお、来てくれたかレオンハルトよ。何、此方から呼んでおいて顔を見せないと言うのはどうかと思ってな。所で、今夜パーティーが終わった後に少々時間をくれんか?」
パーティー用の豪華な服が今いる場所とは全くあっておらず、異彩を放っていたがそんな事はお構いなしと話しかけてきた。
「ええ。大丈夫です。私一人でしょうか?」
流石に、自分も貴族の地位についているし、自国の国王からの頼まれ毎を断るわけにも行かない。なので、残る事は指して問題は無かったが、残る人物については自分だけなのかどうかの確認を行ったのだ。
「いや、皆を含めて残っておいてくれると助かる。其方の使用人たちには別室を用意させておく」
使用人たちは同席させれないが、貴族令嬢であるティアナたちは勿論、シャルロットやチームメンバーのユリアーヌたちも同席が出来るみたいだった。
使用人と言えば・・・。
そこで思い出したかのように同伴している人物の紹介を行うと嬉しそうな表情で陛下が「今日は何か美味しいものを期待しておるぞ」と言い、二言、三言話をして準備があると言う事で執事に連れられて厨房を去ってしまった。
ソフィアは、腰を抜かした様に地面に座り込みそうになったので、慌てて腕をつかんだ。これから料理をすると言うのに床に座り込むのは衣類が汚れてしまいかねない。とは言っても、この後調理時に身に付ける服に着替えるから問題ないと言えば問題ないが、それでも厨房の床は油や食材の残飯、ソースなどで汚れているので、汚れが目立ってしまう。
帰って魔法で綺麗にできるとしても・・・。
「ソフィア、必要な物はこの調理台に出しておくから、着替えてから最後の準備を頼むよ・・・そんなに緊張しなくても大丈夫」
「わ、わかりました。旦那様の名誉に傷をつけるわけにもいきませんっ!!し、しっかり頑張ります」
うん。かなり緊張しているのが分かり、モニカの許可を得て緊張を和らげることが出来る魔法をソフィアにかけて送り出した。
それから、戻って来るまでの間に用意されていた調理台に次々と魔法の袋からほぼ完成させてきた料理を出していく。
今回、料理として提供するメニューは三品。前菜としての白身魚のカルパッチョとシチューをパイで蓋をしたパイシチュー。流石にパーティー用のメニューとして提供できるよう。小さめの器に入れて作っているので、三口か四口で食べ終わるサイズにしている。最後は、デザートそしてプリンを用意してみた。ただ普通の提供ではこれも品が無いだろうと考え、プリンはプリンでも三種類のプリンを用意している。一つは表面にカラメルソースをかけて表面をパリパリに焼いた焼きプリン、別名クリームブリュレ。そのクリームブリュレの周辺に網目模様のカラメルソースを固めた飾りを数個添える。二つ目は、普通のプリンにカットした果物や生クリームを載せたプリンアラモード。三つ目は、プリンをムース上にして容器に乗せたムースプリン。スプーンで掬っても重さを殆ど感じさせず、口の中に入れれば一瞬で溶けてプリンの風味と甘みが口いっぱいに広がるものだ。満腹感は殆ど得られないが満足感は他の二種類に引けを取らない出来となっている。
ほぼ完成と言ったのは、カルパッチョ以外は完成した物が魔法の袋に入っている。何せその二つは容器も事前に必要だったからだ。カルパッチョも切り終えている材料を盛りつける作業とカルパッチョの代名詞と言えるカルパッチョソースを作るだけの作業が残っているのだ。
カルパッチョだけは、別に容器が無くても問題ないので王城で使う予定のお皿に盛り付ければ良いだけの事。
だから、余程の事が無い限り失敗はしない。
そう言えば、クリームブリュレの表面を焼く作業はソフィアが行うので、実質的には二品あると言えるだろう。まあ、それでも大した手間ではないはずだ。
表面を焼く方法だが、前世だとガスバーナーなどで表面を炙るが、此方の世界にはそう言った物はない。なのでなければ作れば良いと言う結論になり一刻ほどで作り上げた。ガスの代わりに火属性の魔法を入れた魔石からトリガーを引けば魔法が発動させれる様に作っただけの火魔石バーナーとでも呼ぶべき魔道具。
必要な物を出し終える頃には、ソフィアが料理人の服に着替えてやって来た。もう一度話をしてから、レオンハルトもそのまま執事の案内で会場の方に向かった。
流石に王城の中だとしか表現できない大きな部屋に案内される。この場所も訪れたのは初めてで、主な使用用途はパーティー会場や各種大臣や主要貴族を集めた大規模な会議、後は他国が攻めて来た時の指令本部みたいな役割の場所になるそうだ。
魔族が王都襲撃をした後、復興時の司令塔として使われたそうだ。まあ、殆どはパーティー会場として使うぐらいだろう。
申請があれば、上級貴族であれば貸出可能でもあるそうで、その場合はパーティー兼社交ダンスの場としても使われるのだとか・・・。
会場内には既に四百人近い人が集まっていた。此処にいる八割以上が貴族たちだと言うのが驚かされる。騎士爵位や準男爵位程度の下級貴族は参加しておらず、男爵位以上しかこの場には居ない。
八割と言う言い方をしたのは、ユリアーヌたちみたいな貴族ではない人物が多少参加していたり、王城の使用人たちに会場内を警備する近衛騎士団の騎士たちが至る所に立っていた。
これだけいると見つけるのが大変かなと思っていたら、直ぐに見つける事が出来た。何でも、案内してくれた執事やシャルロットたちを案内した使用人が事前に打ち合わせておいたようだ。
皆と合流して話をしていると、見知った顔の人が此方に歩いてきた。
「ヴァイデンライヒ卿。御無沙汰しております」
「アヴァロン卿。お久しぶりです。お元気そうで何よりです」
海隣都市ナルキーソの領主、ヴェロニカ・イーグレット・フォン・ヴァイデンライヒ子爵。冒険者登録をしてからずっとお世話になった街の領主で、彼女とも面識は何度もあっている。レオンハルトからしたら、気疲れをしない数少ない貴族当主の一人でもある。
ヴェロニカと話をしているとフォルマー公爵やラインフェルト侯爵たちも近くにやって来て軽く雑談をした。
会話に花が咲いている時、急に会場内の照明が弱くなる。魔石で動かす光源で、供給している魔力の消費を最低限にまで落としたのだ。
「皆さん。本日はようこそお集まりしてくださいました。国王陛下から一言挨拶をしておまいましょう」
司会をするのは、先程案内してくれた執事の様で、なめらかで聞き取りやすい速さで話していた。
いつも読んで頂きありがとうございます。
本当は昨日投稿するはずが一日遅れてしまいすみません。
誤字脱字の報告もありがとうございます。時間がある時に順に訂正をしてまいりますので、
よろしくお願いいたします。




