110 アヴァロン伯爵家の生誕祭パーティー
おはよう。こんにちわ。こんばんは。
遂にクリスマスイブですね。恋人の居る人は、とても幸せな一日になるかと思います。
私は、本業でそれどころではないですね(笑)
今日は、下級貴族の最期のパーティーに出席後、午後からアンネローゼたちが孤児院で炊き出しをすると言うので手伝いに来た。
普通なら炊き出しより貴族のパーティーに出席しなければならないのだが、運が良い事に今日の午後に出席するパーティー自体がなかった。
「はーい。野菜たっぷりの温かいスープが出来たわよっ!!」
エルフィーの言葉に集まる貧しい人たち。炊き出し行事には、アンネローゼにリーゼロッテ、エルフィー、エッダ、アニータ、クルト、ユリアーヌ、ダーヴィトが参加している。
レオンハルトやシャルロットたちは最初こそ居たが、四日後に予定しているアヴァロン伯爵家主催のパーティーの準備の為、帰宅した。
大方の準備はすでに終わっているようだが、パーティーで出すメニューを考えている所だ。他の貴族のパーティーから帰って来るなり、ああでもない、こうでもないと厨房に籠ってしまった。レオンハルトとシャルロットの二人に任せていれば、大概の事はどうにかしてくれる。これはティアナやリリー、エルフィーも同様の意見を口にしていた。上級貴族のご令嬢の三人もあの二人の知識にはとても勝てないと言っていた。
幼少期より教育を受けてきた彼女たちでも勝てないのだから、私が知識で力になれる事は少ない。一応、三人が上級貴族のご令嬢と言う言い方をしたが、私も上級貴族のご令嬢にあたると言うのを割と最近知る事となった。
ご令嬢と言うより、エーデルシュタイン伯爵家の孫娘にあたる。次期当主は母親であるアンネローゼの実の兄である人物が継ぐそうなので、結局貴族の血を受け継いでいるが、貴族としての地位は受け継がないことになっている。
(そういう意味で言えば、皆の姉妹について聞いたことがなかったな。また、機会があったら話題の一つとして聞いてみようかな)
「パンは一人二つまでです。あっ!!そこっ!!とりすぎですッ!!」
「お姉ちゃんまだー?」
別の事を考えていたら、手が止まってしまうので、余計な事を考えるのを止め炊き出しに集中する。レカンテートの孤児たちよりも圧倒的に多い王都の孤児。更に大人も炊き出しの列に並んでいるが、彼らは皆スラム街に住む職が無く、日銭を稼ぐどころか今日その日の食べ物にすらありつけない様な大人たちだ。
働かない者が悪いと言う者もいるが、弱者を救う国の支援と言う手は余りにも小さく。その手から零れ落ちる者の方が圧倒的に多い。職を失うものは様々だが、その多くに共通して言えるのは、貴族社会の副産物だと以前レオンハルトが皆に言い聞かせていた。
人は欲に溺れやすく、自分自身を守るためなら平気で他人を傷つける。
王都は国王陛下や王族、それを支える上級貴族が居るので人口比率的にはスラム街で生活する人は少ないが、人口がそもそも他の街に比べて圧倒的に多いので、それなりの数の者がスラム街で生活しているのもまた事実。
これが、領民の事を考えない領主の場合、税の徴収が重く領民たちは常に貧しい生活を強いられることになる。領税を徴収するのは必要な事で、国を運営するだけでも莫大な費用が掛かる。領税や国税と言った税を微々たる量でも集め、人の数が増える程税の徴収額が莫大になる。そして、徴収した税を街の発展のために使い、住みやすい国が出来てくる。けど、これはあくまで理想論だ。先にも言ったが、人は欲に溺れやすい。
領主と言う立場、貴族と言う立場、逆らえない立場と言う事実を使い悪用する人物は必ず現れる。王国側はその事実を発見次第すぐに処罰しているが、一度重い税で苦しんだ領民は今まで通りの生活をすぐに取り戻せるわけではない。処罰した者の資産を没収し、還元するが運が良くて一割残っているかどうか。領税の殆どは領主の懐に入って私利私欲に使われている事が殆どだからである。
強いて言うなら、領税が重く生活が出来ずスラム街へと移る領民は、住みやすい街へ移動する者もいるが、結局スラム街にいた者は、別の街に行ってもスラム街で生活するようになる。負の連鎖でしかない。
今の炊き出しは、彼らにとっては今を生きるための施しに過ぎない。自分たちの行いも今を繋ぎ止めるための物、けど彼は何らかの手法を用いてスラムの人たちを一労働者にしようと考えているようだった。
だから、今を繋ぎ止めるだけでも良いのだ。繋ぎ止める事で、後でレオンハルトが必ず何らかの手をうってくれると信じ、炊き出しを皆でするのだった。
時を同じくして、アヴァロン伯爵家の厨房では今もレオンハルトとシャルロット、料理長や料理人たち、奴隷のソフィアが懸命にパーティーで出す料理を試作していた。
どこのパーティーも似たり寄ったりの品ばかりだった。上級貴族のパーティーはまだ参加していないが、多少豪華さや料理の種類も増えるだろうが、傾向的には似たり寄ったりになるだろう。
最も多かったのは、大魚の塩釜焼きだ。塩は貴重な調味料で、それをふんだんに使う料理は貴族としての経済の豊かさを見せつける風習に似たものがある。
それに貴重な食材や高級な食材が出てきているが、格別美味しいと言えるものがなかった。舌が合わないだけかと思ったが、見知った貴族にそれとなく聞いてみると、皆同じ考えらしい。確かに最初のパーティーの時は「まあ美味しいかな?」と思えたが、何度も続くとあっという間に飽きが来るのだ。
「ねぇ、アレなんて良いと思うんだけど?」
「アレ?ああ、確かに」
そのメニューに必要な食材をもってやって来るシャルロット。美味しくて、且つ変わり種のメニュー。他のパーティーの時の内容や一般的な飲食店でも見たことがないメニューを提供しようと現在は、作り方を料理長たちに伝授している最中だ。
そして、シャルロットが持ってきた食材は、ランドバードを丸々一羽に人参に似た黄色い野菜、海隣都市ナルキーソでガーリックパウダーを発見した時に料理をした食材と同じ物で、名前はカロッテと言うらしい。他にもジャガイモに似た甘い根菜カトーフェル。ブロッコリーに似た水色のブロッコリ。それと、ガーリックパウダーにブラックパウダーと言った調味料だ。
普通、これだけでは分からないのだが、前世で鶏を丸々一羽使いこの時期のメニューと言えばチキンの丸焼きである。野菜は丸焼きしたチキンの周りを飾り付ける様に蒸しておくと見た目がとても華やかになる。それに、野菜もそれぞれ味付けをしているのでチキンとの相性が良い。
それから、数多くのパーティー用メニューの仕込みを行った。
生誕祭前々日――――。
レオンハルトが主催する生誕祭のパーティー当日。今日は朝から使用人たちが大慌てでパーティーの最期の準備をしていた。因みに今日もクイナ商会のお店はお休みにしている。クイナ商会で働く者もお手伝いに来てもらっているからだ。
この時期は、ある意味書き入れ時だが、それよりも此方を優先させなければならないので、止む追えず臨時休業とした。
「うわーお姉ちゃん綺麗―」
「アニータは私よりも十分すぎる程、可愛いわよ」
アニータは、シャルロットのドレス姿に目を輝かせており、シャルロットもアニータの可愛らしいドレス姿に頬を緩ませる。二人は実の姉妹だが、シャルロットの中ではアニータの事を妹と言うよりも娘と言う感覚に近い物を感じているような雰囲気を出していた。
「うん。二人ともとっても素敵だよ」
レオンハルトも今回の為にと新調した、あまり派手過ぎず且つ上品な感じに仕上げられた服。他家のパーティーの時は、この世界に合わせた貴族がパーティーなどできる様な派手な服を着たが、それとは全くの逆の服。派手さを売りにする服の派手を取り除き、綺麗に染められた生地を活かすような装飾品とデザイン。派手さを好む者はあまり好きではないだろうが、そうでない者は魅入られてしまうそんな斬新なデザインの服。
レオンハルトは、これでもまだ派手だと思っており、冒険者として普段から愛用するブラックワイバーンレザーコートかこの世界ではまだ見た事が無いがスーツを着たかったと言うのが本音。
シャルロットの服もコルセットで締め上げてスカート部分を大きく見せるドレスではない。多少はスカートをふわっとさせているが、従来に比べて半分以上軽減されている。また、コルセットで無理に締め上げるのは、余り宜しくないのでドレスを着た後で腰の紐を少し締めると腰の部分が細く見える細工を施していた。此方も従来に比べて見た目はほとんど変わらず、コルセットを総出で締めるような大変な作業が無く、且つ着る側の負担も七割近く軽減で来ている。
男性は兎も角、女性はコルセットを締め過ぎて、食事を碌に食べれないだけでなく。苦しさのあまりに倒れてしまう様な事もなくなるのだ。
「レオンくんも凄くお似合いですよ」
照れながら言うシャルロットを見て、レオンハルトもつい釣られて顔が赤くなる。
「レオンにぃ・・・あ、レオン兄様もとってもかっこいいよ」
流石に普段通りの口調ではいけないと分かっているアニータは直ぐに台詞を言い直した。慌ただしい時間の中でのほんの一時の瞬間だった。
「おーい。遊んでいないで、最後の確認をするぞー」
クルトの呼び声に、相変わらず空気が読めない奴だと思ってしまう。三人はそのまま各々の準備にかかった。今回表立って動くのは円卓の騎士のメンバーとフリードリヒ達使用人だ。ローレたちは裏方仕事をお願いしている。
パーティー会場の設営準備良し。料理の準備も良し。帰りに渡すお土産の用意も準備良し。皆の着替え等も準備良し。一つ一つ確認をして、問題ないようなのでパーティーが始まるまで少しだけ猶予の時間があると思って寛ごうとすると、玄関口で待機していたエリーゼとラウラの二人が声を掛けてきた。
「ご主人様。お客様がお見えになられます」
パーティーの開始までまだ一刻以上ある。普通は、開始の半刻前にはやってくるが、一刻は流石に早すぎると言える。
誰が来たのか確認すると、馬車の側面に見知った家紋が記載されていた。
「これはエーデルシュタイン卿。ようこそお越しくださいました」
やって来たのは、アンネローゼの実の父であり、リーゼロッテにとっては祖父に当たる人物。王都アルデレートの四大貴族と称される大貴族の一角。テオ・トーマス・フォン・エーデルシュタイン伯爵とその奥方のヘルミーネ・アズリア・フォン・エーデルシュタイン。更に中から二人の子供と思われる中年の男性と同じぐらいの年齢の女の子が下りてきた。男性の方は何処か面影があるが、女の子の方は誰とも似ていない感じだった。
「これはアヴァロン卿。予定よりも早く来てしまってすまない。紹介が遅れたな、こっちは私の息子でエーデルシュタイン次期伯爵のエーリヒ・アヒム・フォン・エーデルシュタインとその娘のラーエル・ロジーネ・フォン・エーデルシュタインじゃ。リーゼロッテとは従姉妹同士になるの」
早く来た理由は、他でもない。アンネローゼとリーゼロッテに会いたいが為に早く来たのだそうだ。アンネローゼも今屋敷にいるので二人に誘導してもらい中で話をする事にした。
二人が屋敷の中に消えた頃、再び敷地内に入って来る馬車を二台見つける。
「次は誰だ?」
徐々に近づいて来る馬車を見るとそれぞれ違う家紋が記されていた。ラインフェルト侯爵家とシュヴァイガート伯爵家の家紋だった。
この二つの貴族も、エーデルシュタイン伯爵同様に四大貴族の一角を担う貴族たちだ。四大貴族の内、三大貴族も既に屋敷に訪れていたのだ。普通は後半にやってくるような人物たち。ラインフェルト侯爵は夫人と一緒に来ており、シュヴァイガート伯爵も同行者は夫人のみだった。二家が早く来た理由も愛娘の様子が見たくてとの事だが、実はもう一つ理由がある。それは娘たちの存在そのもの。
まだ、公に発表されていない為、未婚の男女を同じ場所に住まわせると言うのは貴族としてはあまり褒められた行為ではない。レオンハルト自身は、元々冒険者として活動していたからまあ百歩譲っても良いが、ティアナやリリーは元から貴族令嬢なのだ。
冒険者として共に活動しているなど言う理由は出来る限り隠しておきたいところなのだ。だからと言って他の貴族が、その事を知らないと言うわけではない。知っているが敢えて口にしないだけだ。この国・・・特に王都での四家の地位は他家を凌駕するほどの地位とでもいえる存在だ。出来るだけ敵に回らない様に皆注意を図っているのだ。
それは、ラインフェルト侯爵たちも知っているが、だからと言って何もしないと言うわけにも行かないから、早めに来て娘たちが居ても可笑しくない環境を作っている。
と言う事は、あと一家も来るのかと思っている所にフォルマー公爵家の家紋の入った馬車が敷地内に入ってきた。
「レオンハルト君。如何やら最後の一人が到着したようだね」
楽しそうに語るリーンハルト侯の横で苦笑いをするハイネス伯。リーンハルト候は何時も物事を楽しそうな方向に持って行こうとする一種の楽天家。けれど、真剣に考える時はエトヴィンに匹敵する頭の回転力を持ち合わせている。
「フォルマー卿、ようこそいらっしゃいました」
「なんだか、渡した時に比べてかなり良くなっていないかな?元々、こうだった訳ではないよね?」
外見は見える所は、わからないように手を加えていて、認識するだけなら以前よりかなり綺麗になっただけに見えるはずだ。まあ、それでもかなりすごい事に変わりはないのだが。外壁を直したり塗装し直したりすると全く違う建物に感じてしまうのと同じだ。
四大貴族の筆頭にして、宰相の地位についているだけあり、眼力は目を見張るものがあった。
「ご主人様、立ち話も何でしょうから、中に御通しされてはどうでしょうか?皆様のお嬢様方も居られますゆえ」
フリードリヒのフォローで、フォルマー公爵、ラインフェルト侯爵、シュヴァイガート伯爵とそれぞれの同行者である御夫人を屋敷内へ案内する。
想像以上の内装に六人が言葉を失った。先程、エーデルシュタイン伯爵一行をお連れした時も同じ反応をしていたと使用人がこっそり耳打ちして教えてくれた。
各々をパーティー会場ではなく、客室へ案内する。足りないかと思ったが使っていない部屋も多く問題なかった。少し家具を買い直す必要があったが、あくまでも客室で応接室ではないから。
それぞれの貴族には、ティアナたち各貴族の娘たちが対応し、専属の使用人を一名つけている。俺はそのまま、玄関先に戻った。
暫くすると、招待した貴族やギルド支部長などが集まってくる。今のところ、招待した貴族で代理人を立てる所はなく、欠席する者もいない。
「皆暇なのかな?」
ふとした疑問が言葉に出てしまう。ただ、周りには使用人たちしかいないので、来客たちに聞こえる事はない。
そんな何気ない言葉をフリードリヒは、聞き取り返答してきた。
「恐らく、他所からの招待状を断って此方に来られているのかと。今までのお付き合いが、今回行かない事で無くなる訳ではありません。ですが、新しく出来た貴族家との縁を結ぶのは難しく。今回のような繋がりができる場面には積極的に動いてきます」
そうなものなのか、と納得しながら来賓の対応に当たる。すると、パーティー会場で忙しなく動いていた使用人が、玄関口に来て報告をした。
内容は、招待状を送った者の八割近くが到着しているとの事。フリードリヒに確認するとそろそろ我々も会場内に入った方が良いと打診され、報告に来た使用人に来客の対応をお願いして会場内へ足を向ける。
その動きを見ていたローレたちもフォルマー公爵たちが入室している客室の戸をノックして、そろそろ時間だと言う事を伝えた。
予め決めていた事だったので、皆問題なく動き、今来ている来賓たちが全員各々の席に座ると、レオンハルトは中央前列のテーブルに近い位置から挨拶を始める。
挨拶の言葉を考えないといけないかなと思っていたが、この世界も決まった挨拶があるそうで、他の貴族のパーティーに参加した時に皆同じ挨拶だったので、フリードリヒに確認していた。
「皆様方、アヴァロン家のパーティーにご出席して頂き誠にありがとうございます。今日、生誕祭のパーティーを行えるのも・・・・・」
決まった台詞を噛む事無く言うと同時に、その間に使用人たちがパーティーの食事の準備を行った。
レオンハルトが今回、食事を提供するスタイルは、料理を置いてある場所に自分で好きなだけ取りに行くビュッフェスタイル。ただ、置いてあるのは、サイドメニューと呼ばれる分類のものとデザート類、飲み物だけで、メインの料理数品と最初の数種類のサイドメニューの料理、乾杯の飲み物は各テーブルに配って行く形だ。
なので、挨拶の間に各々のテーブルにお酒やジュースなどを配って回り、ローストハムと野菜のサラダ、ベーコンと野菜のキッシュ、赤色のカボチャみたいなクービスのポタージュスープだ。
キッシュはこの世界でも割とありふれた料理の様で、ポタージュスープも同じだ。何のポタージュにするかで、味が大きく変わるみたいだが。
「では皆様、お手元に乾杯用の飲み物が行き届いた様なので、挨拶もこの位にして乾杯をしましょうか」
レオンハルトの言葉と共に皆グラスを持って乾杯をする。
「「「「かんぱーい」」」」
乾杯と共にレオンハルト主催のパーティーが始まった。
いつも読んで頂きありがとうございます。
また、誤字脱字のご連絡誠にありがとうございます。
明日も文字数は少ないでしょうが、投稿できるように頑張ります。




